24/10/26 21:11:56.11 +muTgUYs0.net
>>76
続き
■侵入
普通の人ではない─。ほんの十数秒考えを巡らせているうちに、白い靄のような半透明の人が視界の脇から湧いて出るように現れた。それらは次から次へとトイレへと入っていく。視界の端の人影もまた、次から次へと現れる。
まずい。トイレには彼女が入っている。助けねばと思って車のドアを開こうとして横を見た時、車のドアガラス1枚を隔てて冬服の兵隊が立っていることに気付いて彼は絶句した。助手席側を見るとそちらにも立っている。後ろにも。そして前も立ち塞がれそうになっていた。こうしている間にも列をなした兵隊が男性用女性用に関わらずトイレに入ってゆく。
一瞬で、無理だと悟った。
彼はアイドリングしながら停まっていた車のパーキングブレーキを解除し、アクセルを思いっきり踏みながら荒くクラッチを繋いで走り出した。
無理だ─。あの数が侵入しているトイレに自分が入っても、きっと彼女を助けることはできない。あのまま自分が車にいても車の中が安全とは思えないし何もできない。ならば、一か八か助けを呼びに行くしかない。今できることはそれしかない。
頼む、間に合ってくれ。待ってろ、すぐに戻って来るからな─。