24/06/09 23:24:27.80 .net
雑談スレ下手くそ杯ルール
テーマや文字数自由
投稿者はコテを付けて、下手くそ杯参加と名前欄に書く
作品はこのスレに直で貼るかリンクを貼る
締め切りは6月末
審査員はここの名無し
名無し審査員が付ける下手くそ認定投票の多さで順位が決まる
作品を貼らなかったコテは不戦敗として問題外の下手くそ確定
3:名無し物書き@推敲中?
24/06/09 23:25:59.07 .net
下手くそ杯参加 ◆o5lRFxMOhs 2024/06/09(日) 00:45:31.63
「昼間のフードコートで見つけた自由」
あちきは昼間の郊外のイオンモールのフードコートで、カラフルなプラスチックのトレイの上に置かれたチューハイの缶を見つめていた。フードコートには買い物客のざわめきが響き渡り、どこか浮かれた雰囲気が漂っている。けれども、あちきの頭の中は静かなもので、そのざわめきとは別の世界にいた。
「あちき」は、ここで昼間からアルコールを楽しむのが最高の贅沢だと思っていた。特に、この時間帯にはほとんど人がいないし、誰にも邪魔されることなく、自分だけの時間を過ごせる。外の明るさとは裏腹に、心の中は曇りがちだった。小説を書いて生計を立てることを夢見ていたが、現実は厳しく、福祉制度を利用してかろうじて生活している。
「あちきは何かテーマを探しているんだけどね」と、つぶやきながら、もう一口チューハイを飲む。昼間に飲むアルコールは特別な味がする。仕事に追われることなく、自由に飲める時間は贅沢だと思った。
小説を書くことで生計を立てようともがいていたが、なかなかうまくいかない。手元のノートにはアイデアが書き散らされているが、どれもまとまりがなく、形にするにはまだ遠い。昔の知人のツテを頼ってみようと思い立ち、スマホを取り出してLINEを開く。昔からの友人にメッセージを送ったが、既読すらつかない。少し待ってみたが、反応はなかった。
「ああ、ブロックされたかもしれないね」と、あちきはつぶやきながら、少しだけ笑った。怒りも感じず、ただ静かな気持ちで席を立つ。フードコートのアルコール売り場に向かい、ストロング缶を手に取った。アルコールの冷たさが手に心地よい。
よく考えてみれば、あと5年もすれば老齢年金が受給できる。その時には、もうがんばる必要もないのかもしれない。今までの生き方を振り返り、自分の選択が間違っていなかったと再認識する。
あちきは再びフードコートの席に戻り、新しいストロング缶のプルタブを引いた。シュッという音とともに、炭酸が弾ける。「まぁ、これも悪くないよね」と、独り言を言いながら、次の一口を楽しんだ。自分の生き方が間違っていなかったと、確信を持って。
4:名無し物書き@推敲中?
24/06/09 23:26:38.60 .net
下手くそ杯参加 ◆o5lRFxMOhs 2024/06/09(日) 00:58:05.52
「ラーメンの誘惑と暴力の果て」
オレの部屋には、まいばすけっとのPBカップラーメンが山積みになっている。いつも同じ味のラーメンばかり食べていると、どうしても飽きてしまう。それに、SNSで見る高級ラーメンの写真が頭から離れない。特に、あの1500円のラーメン。きっと、オレが今まで食べたことのない味に違いない。
オレは一人称を「オレ」としているが、実際には女性だ。周りからは変だと言われることもあるが、気にしない。今日は、その1500円のラーメンを食べるかどうかを真剣に考えている。財布を開けると、そこには1万円札が一枚だけあった。これを使って、あのラーメンを食べるか、節約してPBのラーメンを買い続けるか、悩む。
「人生を変えるのは、今しかない」と自分に言い聞かせ、ついに決心した。1500円のラーメンを食べることにした。これが、オレの人生で一番重い決断だった。
都心のビルにあるラーメン店に向かう。ビルの中に入ると、煌びやかな照明と高級感漂う雰囲気に圧倒される。券売機の前に立ち、慎重にメニューを確認する。ちゃんと、あの1500円のラーメンがあることを確認してほっとした。オレは財布から1万円札を取り出し、券売機に入れようとした。
しかし、現金を入れるところがない。慌てて店員を呼びつける。「現金は使えないんですか?」と問いただすと、店員は冷静に「クレジットカードのキャッシュレス決済のみです」と答えた。その瞬間、オレの中で何かが切れた。怒りに任せて、店員を殴りつけてしまった。
次に気がついたとき、オレは警察の取調室にいた。警察官は優しくも厳しい口調で質問を繰り返すが、オレの頭の中は、ただ一つのことしか考えていなかった。目の前には、肉が厚いカツ丼が置かれていた。その香ばしい匂いに誘われて、箸を手に取る。口に入れると、その肉のジューシーさとご飯の甘みが広がり、思わず涙が出そうになった。
「これが、本物の味か」と思いながら、オレはカツ丼を一口一口噛みしめた。まいばすけっとのPBラーメンよりも、ずっとおいしいものを、ついにオレは食べることができた。警察の取調室という場所は最悪だったが、そのカツ丼のおかげで、オレは少しだけ幸せになった。人生には、こんな驚きもあるのかもしれないと思いながら、オレはカツ丼を完食した。
5:名無し物書き@推敲中?
24/06/09 23:27:18.55 .net
下手くそ杯参加 ◆o5lRFxMOhs 2024/06/09(日) 01:25:50.96
雨の日のうなぎ
雨がしとしとと降る音が耳に入ってくる。重く垂れ込めた灰色の雲が空一面を覆い、街全体がまるで深い眠りに落ちたように静まり返っていた。
今日は現場の仕事が休みになった。今月は休まず働いてきたので、久しぶりの休みに胸が軽くなるのを感じた。広がる安堵は、長い間緊張していた弦が一瞬の解放を迎えるような感覚だった。
財布には今月の労働の成果が少しばかりの余裕をもたらしていた。この余裕を何に使おうかと、考えを巡らせる。
ふと、近所のうなぎ屋が頭に浮かんだ。いつも行列ができるその店のことを思い出すと、香りの記憶が蘇った。まるで遠い過去の幸せな瞬間を思い出させるかのように鮮明だった。しかし、窓の外を見つめると、雨が降り続いている現実が目に映った。
雨の音が迷いをもたらした。雨に打たれながら出かけることを考えると、寒さに震える小鳥のように不安定になった。それでも、一度思い浮かんだうなぎの味は、強く刻まれた夢のように消え去らなかった。
決心してレインコートを引っ張り出し、ゆっくりと腕を通した。自転車の鍵を手に取ると、冷たい金属の感触が手のひらに伝わった。ペダルを踏み出すたびに、自由の風が吹き抜けた。雨に打たれることを気にせず、前へ進むたびに軽くなっていくのを感じた。
うなぎ屋に到着すると、予想通り行列はなく、すんなりと店に入ることができた。「5000円の松のうな重をお願いします」と、店員に注文を伝えた。久しぶりに自信が芽生えた。
待つこと30分、春の訪れを待つ蕾のようにその瞬間を待ち焦がれていた。そして、うな重が目の前に運ばれてきた時、満開の桜のように喜びに咲いた。
一口食べると、その豊かな味わいが口いっぱいに広がった。今までの人生で一番、うまいものだと感じた。食べ進めるたびに、満たされ、体の中に温かさが広がっていくのを感じた。
食べ終えた瞬間、スマホが鳴り響いた。
「職人があまり気味だから、明日から出てこないでいい」と言われた。収入がなくなることに気づいた瞬間、暗闇に落ちる星のように沈んでいった。
しかし、うなぎを食べたことに後悔はしなかった。その満足感は嵐の中でも輝く灯火のように、希望を灯していた。人生の一瞬一瞬が、どれほど貴重であるかを思い出させてくれた。この一食が明日への希望を繋げてくれた。
6:名無し物書き@推敲中?
24/06/09 23:27:55.78 .net
下手くそ杯参加 ◆o5lRFxMOhs 2024/06/09(日) 01:53:32.01
狂気の電車と空虚な財布のエコー
ゴォォン、目が覚めた。ズズズ、昨日の面接は失敗だ。頭の中でエコーが響く。カラン、収入が減り続ける恐怖が胸を締め付ける。ダダン、心臓の音が耳の奥で反響する。カラン、カラン、財布の中身は空っぽだ。チリン、貯金なんてとうに尽きた。チリン、チリン、電車の音が遠くで鳴り響く。ズキン、ズキン、両親のことが頭をよぎる。年老いた姿が目に浮かぶ。バキン、背中が寒い。何年も異性との関係がない。バキン、バキン、鏡の中の自分が嘲笑う。ズズズ、自信なんてかけらもない。シーン、友人もいなくなった。シーン、シーン、静寂が耳を刺す。シュウウ、自分は生きている価値がない。シュウウ、シュウウ、存在が溶けていく。無になりたい。
ザザン、心の中で叫ぶ。仕事が決まらない。ズズズ、頭の中でエコーが響く。カラン、収入が減り続ける恐怖。カラン、カラン、財布の中身は空っぽだ。チリン、貯金なんてとうに尽きた。チリン、チリン、電車の音が遠くで鳴り響く。ズキン、ズキン、両親のことが頭をよぎる。年老いた姿が目に浮かぶ。バキン、背中が寒い。何年も異性との関係がない。バキン、バキン、鏡の中の自分が嘲笑う。ズズズ、自信なんてかけらもない。シーン、友人もいなくなった。シーン、シーン、静寂が耳を刺す。シュウウ、自分は生きている価値がない。シュウウ、シュウウ、存在が溶けていく。無になりたい。
ダダン、収入が減り続ける恐怖。ダダン、心臓の音が耳の奥で反響する。カラン、カラン、財布の中身は空っぽだ。チリン、貯金なんてとうに尽きた。チリン、チリン、電車の音が遠くで鳴り響く。ズキン、ズキン、両親のことが頭をよぎる。年老いた姿が目に浮かぶ。バキン、背中が寒い。何年も異性との関係がない。バキン、バキン、鏡の中の自分が嘲笑う。ズズズ、自信なんてかけらもない。シーン、友人もいなくなった。シーン、シーン、静寂が耳を刺す。シュウウ、自分は生きている価値がない。シュウウ、シュウウ、存在が溶けていく。無になりたい。
7:名無し物書き@推敲中?
24/06/09 23:29:14.20 .net
bananafish
URLリンク(kakuyomu.jp)
8:名無し物書き@推敲中?
24/06/09 23:29:52.13 .net
ミラ ◆yc99/W2drU
小説は読者を選べない
URLリンク(kakuyomu.jp)
9:名無し物書き@推敲中?
24/06/09 23:30:30.87 .net
もじょ 2024/06/09(日) 00:01:21.58
予知夢
私は路地裏へ迷いこんでしまった。
細い道が碁盤の目ように走っていて、古い民家が立ち並んでいる。交差点を渡ろうとしたそのとき、大きな魚が視界の右から現れた。私は電柱の陰に隠れ、魚は私に気づくことなく、ゆっくり視界の左端へ消えた。電柱から首だけだして魚の往った方角を確認してみる。鯉幟のようなその魚は、私のいる地点から3ブロックほどさきの民家の前でじっと動かずにいる。尾びれと胸びれがゆっくり空気を掻いている。見てはいけない。強くそう思い、私は魚が往った反対の方向へ歩いて行く。
ある民家の格子戸を開けてみると、上がりかまちに男が座っていて、テレビ局に勤めていそうな風体である。ネクタイをしないサラリーマンのようなこの男に、大きな魚がすぐそこにいることを告げる。しかし男はにやにや笑うばかりで、何でもないことじゃないか、とでも言いた気である。私は諦めて玄関を出た。魚に気づかれぬよう慎重に格子戸を閉める。
抜き足差し足で路地裏から大通りにでた。大通りを横ぎると、埋立地のように殺風景な原っぱが広がっていて、ススキや泡立ち草が生い茂る中に、外壁がくすんだ灰色の倉庫のような建物がぽつんと一棟だけ在る。中に入り、階段を最上階まで登ると、そこは何故か病室になっていて、私が常日ごろから死んでほしいと願う女がベッドに横たわっていた。 ベッドの脇の椅子に座り、私は女と言葉を交わす。釣師が海底に沈めた仕掛けを探るように、慎重に言葉を選びながら、私は女を観察する。女の青くむくんだ顔を見て、この女はもうすぐ死ぬと確信する。私は嬉しくて堪らない。
10:名無し物書き@推敲中?
24/06/09 23:31:01.24 .net
もじょ 2024/06/09(日) 00:01:41.25
いつもより1時間早く目覚ましがなった。早番出勤のためである。
ベッドの傍らに同棲している女が横たわっている。もぞもぞ動く毛布越しの輪郭が紡錘形の魚のようである。しかし私は最近この女に欲情しなくなってきている。少し前から女の体臭が気になり始め、それが兆候だったかもしれない。今では女のやることなすことが気に入らない。
ベッドから降りた私はクローゼットからワイシャツをだして着けた。女はようやく目を覚まし寝ぼけた声で言った。
「起きれなくてごめんねぇ。朝ご飯はコンビニのおにぎりですませてちょうだい」
さっきまでの夢を反芻していた私は、知らぬうちにネクタイの結び目を解いていた。端と端を持ち、だらりとUの字に弛ませたネクタイ。私はそのままの姿勢を保ち、ベッドへ近づいていった。
そして……。
11:名無し物書き@推敲中?
24/06/09 23:31:39.15 .net
◆hiyatQ6h0c
イケメン高校生と美人肛虐女医
web.archive.org/web/20101220050242/URLリンク(vs3.f-t-s.com)
12:名無し物書き@推敲中?
24/06/09 23:32:12.20 .net
hetakuso ◆9Ce54OonTI 2024/06/09(日) 11:54:24.04
下手くそ杯参加
2015年8月15日で2ちゃんねるを見ること、反応することに事切れた感じで、もう2ちゃんねるを見る気もしない。
今日も朝からバイクに乗って朝の涼しい冷気の中を田んぼの中を走って、気分を転換し、イトーヨーカドーで服なんかを見たりしてチノパンとか良さそうなのがあるので、給料出たら買おうと思っている。
ここ数ヶ月の2ちゃんねるへの参加と脱出を振り返りながら書いて見たいと思って、ネットブックを立ち上げてエアコンの効いた部屋で、静かに回想している。
自分が運がいいのか、悪いのか、「場末のBAR」スレなんてところでひっそり独り言をつぶやいて飽きたら2ちゃんねるは脱出して埼玉文学賞の応募作品50枚書こうというモチベーションがかなり高まったら、
ふと気がつくと、誰も来ないような捨てられたスレに女性が現れて会話を積み上げることになった。YOUTUBEの動画を貼り付けて評価しあう。
なんて話しているとかなり楽しい。でも自分の内面は2ちゃんねるやめて小説書きたいんだけど、と、運がいいんだか、悪いんだか思いながら話してた。
毎日話すことになったので、土曜日だけに限定してもらって、自分がやることをやって、一週間の締めくくりで土曜に会う感じでそれはそれでよかったんだけど、
楽しいということはそれをねたむのとかやっかむのとかを発生させるので、だんだんノイズが多くて、ちっとも気分がよくならないので、8月15日付けでここのマスター役は降りた。
自分はこの女性、ちょっといいかもと思ったこともあるけど、2ちゃんねるで女性と出会うということはメール送信もままならない。メールアドレス書いたって、
何人なりすましが送そういう不完全さがあるから、メールで相互理解というのはま難しい。
女性もかなりの2ちゃんねらだから、そこも一歩踏み出せなかった理由で、自分のブルーアイリスの輪に入れるには難しいと思った。
今後chatworkとopenPNEでコミュニケーションをとる対象は、「実際会って話して名刺交換した人」のみになるからだ。実際会うことがとても重要なのは、文学フリマやコミティアで経験しているので、
それがわかっているクリエイターとのみ仕事の話はしたいと思っている。話は戻るけど、この女性のアスキーアートの女性的感性を感じることができて、それはそれでよかった。
13:名無し物書き@推敲中?
24/06/09 23:32:47.10 .net
hetakuso ◆9Ce54OonTI 2024/06/09(日) 11:55:20.61
それは良い記憶として残して新しい世界へ一歩踏み出す。この女性に送りたい曲は「ラストダンスは私に」ドリフターズである。
次に2ちゃんねるに一日浸かっていた2人の自宅警備員と入院患者についてちょっと思うと、もし10年前に自分と会って、この2人がひん曲がっていなかったら、きっと「舎弟にしてください」と言ってきたような2人だったんだな、と思うが、
18年前確かに兄貴な貫禄のあった私はMac舎弟3人抱えていた時代もあった。男としてそれくらい魅力あったようである。
でも時間は人を変えていく。自分はこの2人とは関わり合いになりたくないので2ちゃんねる逃げるのある。そしてブロックして、次を始めるのである。
最後に今後の展望として今日神の采配のような新しい春日部での発見があった。それは自分の新天地を開くつながりの窓口として、今日、そのつながりを固着した。春日部と東京、そして出版業界を結ぶ、そういう新天地の今日はスタートである
完
14:もじょ
24/06/10 00:01:08.69 .net
下手くそ杯参加作
終の入り江
夕暮れ時に、私は、その駅に降り立った。
海に近いらしく、磯のにおいがする。駅前の目抜き通りは、さびれていて、シャッター商店街とはこのことか、と思う。閉まったシャッターには、落書きが目立つ。それでも、開けている店はポツリポツリとあり、その中のひとつに、自動車修理工場がある。
「やあ、おかえり」
そう言った者がいて、見ると、弟である。
「BXは、きっちり整備しておいたよ」
くたびれた青いつなぎを着た弟がボンネットを撫でているのは、ベージュのシトロエンBXである。
私は、懐かしい気持ちにとらわれる。
「おお、これは、おれが乗っていたクルマだな。でもなぜベージュなんだい? 白かっただろ?」
「この町は、埃っぽくて、白い物もこんな風になっちまうんだよ」
「そうか、それはそれでいいな。映画で観たパリのタクシーみたいで、カッコいいじゃん」
弟を助手席に乗せ、BXを運転し、海岸通りに出る。海の波は穏やかだが、町工場の廃液が流れ込んでいるようで、鉛色。
15:もじょ
24/06/10 00:02:51.62 .net
「きたねー海だな」
「ここは、そういう所なんだよ。昔は東急が開発してさ、それなりに賑わったんだが」
「おれが乗ってきた電車は東急じゃないのか?」
「違うよ。東急は、もう何十年も前に撤退して、あの線、今は貨物の方が多いんだよ」
そのようだ。海岸線を左に折れ、鉄道の踏切に差し掛かると、遮断器が下りてきて、貨物列車がゆっくり左から右へ走ってゆく。何十輌もあるのが当たり前の貨物列車だが、五輌しかない。
「短いな」
「景気が悪いからね」
最後尾の車両には、なぜか、砂かけ婆のような老女がふたり、石炭の山の上にうずくまっている。
「あれはなんだい?」
「無賃乗車。みんな金がないんだよ」
「おまえは、どうやって暮らしているの?」
「修理工と小さな商いの魚屋だよ」
「魚屋か。あんな海で魚が獲れるのか?」
「獲れることは獲れるよ。質は良くないけど」
踏切が空き、しばらく走ると、
「ここが家だよ。兄貴の部屋もあるから、クルマを車庫に入れて」
大通り沿いにポツンと一軒だけある店舗併用住宅。外壁は、BXと似たような黄土色。見ると、車庫の隣に、鱗のないヌメっとした、鮮度が良くない魚が並んだスペースがあり、なるほど、小さな商いとは、これのことか、と納得する。
とともに、私は、この地で暮らす覚悟を決めた。
16:もじょ
24/06/10 00:09:47.59 .net
下手くそ杯参加作
手錠とその因果
URLリンク(po-m.com)
17:名無し物書き@推敲中?
24/06/10 22:20:12.32 .net
中島英男 2024/06/10(月) 15:32:33.08
下手糞杯参加します
カレイドスコープワークス 第20話 廃墟の街をバスで通り過ぎて
20XX年、氷上兵庫は95歳になった。芸術活動のさなか日銭稼ぎに日雇いの会社顧問をやるようになっていた。今日は昔東京都と呼ばれた自治体と神奈川県と呼ばれた自治体の昔の境界線にある、一次請けの建設会社の業務改善指導に訪れていた。仕事の経験値が異常に高くなった兵庫は、経営・事務・営業・現場とひと目で改善案を提案出来る、そんな古老になっていた。
「あー、じゃぁ今日はここまでですね。大体私のやり方を理解しましたかね?では、私のやり方を覚えておいてもらって実践してくださいね。ギャランティーは、銀行振り込みで、メールで話したとおり、日当1万円でいいですわ。それじゃぁ、住処に帰りますね」
「ありがとうございましたぁ」
と、事務方の女性達に見送られながら現場を後にした。
「さて、来る時は駅から車で送ってもらったけど、帰りはどうしようか、マップだとバスがあって、春日部へ直通の電車の駅までのバス停があるか、では乗ってみようか」
と、訪問先の会社から、5分ほど歩いた場所のバス停に向かって歩いた。程なくバス停は見つかり、バス停の時刻を見ると、16時30分に、地下鉄乗り入れの私鉄の駅までのバスがあると言う事だった。
やがて、EVの小型バスがやってきて、バス停の前の兵庫の前で止まってドアが開いた。この時代のバスはAI化が大分進んで、7Gの電波で少々の誘導があり、自律性は、40年前と比べて格段の進歩があった。
小型バスに乗り込むと、一人の女子高生が座っていた。さすがに兵庫は95歳である。口説くわけにも行かないというか、幼児と一緒にバスに乗る、と言う感じになって、ちょっと話しかけた。
「やぁ、お嬢さん、この辺の女子高生かね?○○駅まで行くんだ。しばらく一緒だねぇ」
「あら、そうですか、私も○○駅で降りるんですよ、この辺は詳しいのです。地元だから、バスガイドをやりましょうか」
「ああ、そうだねぇ、私は乗り物で色々風景を見るのが好きなんだ。この辺は95年の人生でも初めて通る場所でね、関東プレーンで95年生きてても、来た事の無い場所はあるものだよ」
18:名無し物書き@推敲中?
24/06/10 22:21:10.53 .net
中島英男 2024/06/10(月) 15:32:45.33
「そうですか、えーっと、次ぎは白眉です。何も無いところです。と言うか○○駅まで、森が茂っています。地域現代史だと、2030年くらいまでは都市だった様ですけど、2030年に21世紀が本格化して、廃墟の中に木々が立ち並ぶ風景になったそうです。私は、生まれたときから森と廃墟だったので、これが当たり前なんですけどね」
「20世紀都市か、私は1968年生まれなんだよ。だから、昔Tokyoと呼ばれた所の都市の思い出もあるものだよ、そうか、ここでも20世紀の名残が見られるのか」
と、兵庫は女子高生と二人で話して、いくつものバス停を越えていった。車内の液晶ディスプレイに、「地札」という地名が出た。兵庫は、よくある地名だ、と思った。しかし女子高生は、怪訝な顔をしてガイドした。
「地札というのは、2030年頃につけられた、正式な地名ではないのですけどね。2030年に、地札にあった、巨大企業の建屋の中で大量の自殺者が出て、日本で大事件になったと言う事からつけられた通り名のバス停です。誰も降りる人は居ません」
と、そこまで聞いて、兵庫の脳内の情報データベースで、引っかかるモノがあった。そういえば、神奈川の方で、そんな20世紀の終末の事件があったような、とうろ覚えだった。
やがてバスはその地札というバス停に差し掛かる。兵庫は、窓の外を見た。うっそうと茂った木々の中に、巨大な5階建ての一面ガラス張りで、少々の壁は全て緑色に塗られた建物が見える。窓の中を目を凝らして見たが、建物の中には何もないようだったし、まず第一にひと気というものが全く無いバス停だった。木々は往復2車線の道路に張り出すように茂っている。緑の中の緑の建物、そして中は薄暗く、何も存在していない。
20世紀の終わりが2030年に明確になり、20世紀西洋資本主義経済の奴隷達は存在理由を失った。オールドメディアに洗脳され、生きる事の自在性を喪失したサラリーマン達は自殺という手段で、ラクになることを選んだ人間が多数出た。この建物はそんなランドマークだった。
19:名無し物書き@推敲中?
24/06/10 22:21:41.16 .net
中島英男 2024/06/10(月) 15:32:59.02
やがて地札のバス停を通り過ぎ、やはり、濃密な森を抜けいくつかのバス停を越えると、ようやく人里の気配が出て来た。
「もうすぐ終点ですよ、どちらへお帰りですか?」
「昔、埼玉県春日部市と呼ばれた自治体の95年も住んでいる我が家へ帰るんです。ここから電車で2時間ほどですな」
「へー、随分遠い所へ帰るんですね、私なんか海辺の家に帰るんです。電車で隣駅です」
「60歳くらいから、人生とか仕事経験を買われて、会社の日雇い顧問をやるようになってね。北海道から九州まで行ってるよ。今日はそれでも、初めて来た地なんだよね。ここは」
「あ、終点に着きましたよ。それじゃ、私は反対方向の電車なので、これで」
と女子高生は会釈をして、バスを先に降りた。兵庫も、95歳とは思えないしっかりした足取りでバスを降りて、周りを見渡した。20世紀的コンクリートのビル群が建っている。駅はどこだろう、とバス停を降りた道をちょっと南へ行き、角を曲がると広いロータリーとか、車の寄場があって急に視界が開けた感じがした。右手に目をやると、自動販売機があったので、話しすぎて丁度ノドが乾いていた兵庫は、レモン果汁の炭酸水を購入した。
ガタリと、音を立てて飲み物の缶が出てくる。手に取って、フタを開けて、少し口に含んだ。その脇を、今時の服装をした若者二人が歩いて行く。西の空は夕焼けだった。これから2時間かけて、住処へ戻る、と考えると気が重かったが、そんな事も言っていられない。静かに炭酸水を飲み干して、缶を捨てて、電車の駅と思われる建物の方へ歩いて行った。
20:名無し物書き@推敲中?
24/06/10 23:12:47.13 .net
全員本当にひどい…
21:名無し物書き@推敲中?
24/06/11 16:48:33.41 .net
>>20
だよなw俺はもじょが一番ひどいに一票w
22:名無し物書き@推敲中?
24/06/11 17:05:29.22 .net
URLリンク(i.imgur.com)
締め切り間近です
23:名無し物書き@推敲中?
24/06/11 17:32:08.41 .net
れつだん天皇2024/06/11(火) 17:27:45.14
ノース・カロライナから来た男 下手くそ杯参加作
第1話 屋根
男はノース・カロライナ州からやって来た。ノース・カロライナ州はその名の通り北の方に位置するだろうから、とても寒い。新潟県ぐらい雪が積もることもなきにしもあらず。ノース・カロライナ州からやって来たから男の名前はノース・カロライナである。ノース・カロライナは自宅の屋根に積もる雪をこそぎ落としていた。
午後の黄昏、隣人のキャサリン・ハンバーグステーキが「私の家の屋根の上の雪も落としておいてくれますかしら?」と屋根で作業をしているノース・カロライナに言った。しかしノース・カロライナは耳栓をしていたためキャサリン・ハンバーグステーキの声は聞こえなかった。
なぜ耳栓をしているのか。それは誰にもわからないし、ノース・カロライナだってわからない。
「しかし、寒いな」とノース・カロライナは言った。ノース・カロライナの周りには誰もいないので誰も返事はしない。しかし周りに誰もいないことはノース・カロライナ自身が一番よく知っていた。なぜならノース・カロライナは雪をこそぎ落としながら常に周辺に睨みを効かせていたからだった。
4時間ほどでノース・カロライナは自宅の屋根に積もる雪をすべてこそぎ落とすことができた。以前こそぎ落とした時は4時間半かかったので新記録であった。しかしノース・カロライナはそんなものには興味がなかった。それよりも、夜から始まるベースボールが楽しみなのである。
ノース・カロライナはソファに座ってハイネケンを飲んでいる。これからベースボールの試合が始まる。そこでノース・カロライナはノース・カロライナ州がアメリカのどこに位置しているのか疑問に思った。今までこんなことに疑問を抱くことはなかった。ノース・カロライナにとってノース・カロライナ州がどこにあろうと関係ないし、どうでもよかったのである。
24:名無し物書き@推敲中?
24/06/11 17:32:27.77 .net
れつだん天皇2024/06/11(火) 17:28:04.34
しかしノース・カロライナの家には地図はない。パソコンもスマホもネット回線すらない。あるのはTVとベッドとソファとキッチンとシャワールームだけである。
ノース・カロライナは自宅の屋根に積もる雪を4時間もこそぎ落としたので汗みずくになっていた。ソファが汗で臭くなると嫌なので、ソファから立ち上がってシャワールームへ行った。そこで裸になり、湯と水でいい感じの温度のシャワーを出し、シャワーを浴びた。その間ノース・カロライナは鼻歌を歌っていた。ノース・カロライナ自身で作ったオリジナル曲だった。ノース・カロライナはギターが弾けないので鼻歌でしか音楽を奏でられない。
ノース・カロライナがシャワーを浴び終わりバスタオルで髪を拭いていると、家の電話が鳴った。なにを隠そうノース・カロライナは潜入スパイなのである。
「はい、ノース・カロライナです」
「やあ、ノース・カロライナ」
「おっ、その声は、CIAの局長ですね」
「うむ、よくわかったな、ノース・カロライナ。流石だ君は」
「まあ、何度も聞いた声ですからね」
「うーん、そう言われるとそうか」
「で、局長、なんの用ですかな」
「そうそう、ノース・カロライナ、君に新たなミッションを与える」
「はい、どういうミッションでしょう」
「落ち着いて聞いてくれよ。隣人のキャサリン・ハンバーグステーキを自殺に見せかけて殺せ」
「な、なぜハンバーグステーキさんを殺す必要が!」
「それは、説明すると長くなるから割愛したいんだが」
「いやいや、駄目です。私の愛する隣人ですから」
「うーむ、説明しよう。隣人のキャサリン・ハンバーグステーキはロシア連邦のスパイなのである」
「そういうことでしたか。では今から殺しに行きます」
「そうは問屋がおろさないのだ」
「どういうことです?」
「隣人のキャサリン・ハンバーグステーキは、たった今ロシア連邦に飛んだ」
「えー! なぜです局長?」
「キャサリン・ハンバーグステーキはアメリカ政府の極秘情報を自宅にあるスーパーコンピューターで盗んでいたのだ! すべて集め終わったからロシア連邦に戻ったのだ!」
「そ、そしたら私はなにをすればいいんでしょ?」
25:名無し物書き@推敲中?
24/06/11 17:32:42.02 .net
れつだん天皇2024/06/11(火) 17:28:32.32
「うむ、今すぐロシア連邦に飛んで、キャサリン・ハンバーグステーキがUSBメモリをウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン大統領に渡す前に殺すのだ! ロシア軍が殺したと思わせるように細工せよ!」
「アイアイサー!」
こうしてノース・カロライナは飛行機でもってロシア連邦に飛んだ。果たして、ノース・カロライナはキャサリン・ハンバーグステーキがUSBメモリに入ったアメリカ政府の極秘情報をウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン大統領に渡す前に殺すことができるのか。
第2話 失敗 をお楽しみに!
26:名無し物書き@推敲中?
24/06/11 17:35:42.35 .net
>>22
簡単で良いじゃん
27:れつだん天皇
24/06/11 19:23:12.45 .net
下手くそ杯参加作 ドミニカ・サンバ
ランチョポ共和国の朝は早い。日本じゃ24時間営業がいわゆる一つの宣伝文句になっているが、ランチョポ共和国ではそれがデフォなのである。
人々は寝ることを知らない。夜を知らないのだから当然である。ランチョポ共和国の人々は、その結果様々な部分が進化していた。
瞼を10秒以上閉じることができない、店は閉店しないので閉店セールがない、鳥目、暗闇恐怖症、などである。
ランチョポ共和国のシッセーソッシ村に住む山下義春は、ペペロンチーノ村に住むガールフレンドのキム・タラコの自宅へ遊びに向かうところであった。
「夜中がねぇから子供に隠れてセックスできねぇぜ」が口癖のキム・タラコ。二人とも純ランチョポ生まれである。キム・タラコはキムチしか食べることが出来ないわけではないのだが、三食キムチonlyであった。山下はランチョポ名産のプモーイリャンを使った料理タタータタータを好んでいるが、キム・タラコはキムチしか作れない。ついこないだも、その件で醜い争いをしたばかりであった。
「僕はタタータタータが食べたいんだ!」
「ニダー」
「なんだと! もういっぺん言ってみやがれ!」
「ニ……ニダー!」
キムは走った。
「キム・タラコ!」
28:名無し物書き@推敲中?
24/06/11 19:25:41.39 .net
うんこ
29:れつだん天皇
24/06/11 19:27:41.23 .net
下手くそ杯参加作 プラッチック爆弾が火を噴いて
明日の次の日は昨日である、なんていうあたりまえのことを頭に浮かばせながら、僕は世界の果てへ向けて車を走らせている。目に見えるものがそこに存在するだなんていう前提で生きていることほど恥ずかしいものは無いし、現実問題として僕が今車を運転しているということも、それを証明することは誰にも出来ない。当然、僕にも出来ない。例えばの話をしようか。例えば、目の前にボールペンがあるとしよう。それに触れてみる。そして、紙切れに落書きをしてみる。誰が見ても、これはボールペンなのだ。しかしそれが色鉛筆でないと誰が証明できるだろうか。脳に支配され、ボールペンがそこに存在していると思い込まされているだけじゃないのか。
「なかなか面白い意見だね」
背中合わせに座った僕と君との間に小さな溝が見える。見えている物が真実でないのなら、みえないものこそが真実ではないのか。感情を具現化するんだ!
フライパンで自分の頭を思い切り殴りつけてみる。痛みと衝撃が頭に広がり、一瞬視界が真っ暗になる。しかしこれはフライパンではない。フライパンであると 思い込まされているだけなのだ。これはこんにゃくである。そう思い込むことによって、頭から痛みが消えた。とある女性に振られた。しかし振られたのだと思 い込まされているだけなのだ。付き合っているのだ。そう思い込むことによって、その女性とひとつになることができた。
30:れつだん天皇
24/06/11 19:27:46.88 .net
太陽の下には生き物がいた。夏の暑い日にカキ氷を食べたあの人は僕に何度か会釈をし、そのまま濁流の中に飛び込んでしまい、やがて、死んでいくことになるのだが、僕はその姿を脳裏に焼き付け、家に帰りベッドの中で自慰をした。やれやれ。
「活動拠点はこの家にしよう」と吉田パラボラアンテナ俊夫が言った。俊夫が言ったのであればそれに従わなければ鳴らない。孤独と情熱は紙一重なのである!
勝手に死んでいった者たちに黙祷をささげ、僕はまた車に乗り込む。そして世界の果てへ向けて車を走らせる。いつか死ぬかもしれないが、それは死んだと思い込まされているだけなのだ。僕は死んではいない。そう思い込むことによって、この世界で自由に活動することができる。
通りすがりの男を車で轢いた。そして男は死んだ。しかしそれはこの男がぶつかった物を車だと思い込んでしまったことにより死んだだけで、僕はこれは車だと 思っていない。だからこの男が死んだなんていうこともありえない。それなのに僕は警察につかまり、刑務所に入った。しかし刑務所だと思い込むから悲しむの であって、ここが豪華なホテルの一室だと思い込めば、この暮らしはとても楽しく思えるのである。
31:れつだん天皇
24/06/11 19:27:52.95 .net
これも出しとくわ
32:名無し物書き@推敲中?
24/06/12 10:48:50.25 .net
>>22
既に紹介もして2.5万入手済み
33:ponzi
24/06/13 04:45:58.01 .net
面白そうなので参加します(´・ω・`)
URLリンク(kakuyomu.jp)
34:ponzi
24/06/13 04:47:23.13 .net
URLリンク(kakuyomu.jp)
35:ponzi
24/06/13 04:50:33.39 .net
URLリンク(novelup.plus)
36:ponzi
24/06/16 07:49:10.25 .net
神田弁護士物語
URLリンク(kakuyomu.jp)
37:名無し物書き@推敲中?
24/06/17 18:42:37.54 .net
「青い服を着た文芸部の女の子と、赤い服を着て入院中の男の会話」
作 中島英樹(Blueiris)
ふと目を見やると、雲一つ無い青い空が頭上に広がっている。ホリゾンは雲海だったり、大海の様でもあったし、緑の田畑も広がっているような、そんな場所に立っていた。
俺は先日、アニメ制作会社のスタジオにガソリンを撒いて、チャッカマンで火をつけた。もちろん、火をつけたら逃げるつもりだったが、ガソリンというのは、まき散らして、気化させると想像を超えた爆発力を持つのだな、と自分も火だるまになって、近所の家の呼び鈴を鳴らし、助けを求めた時思った。
それから、自分は夢の中にいる。今はだから青い空とホリゾンは青と白と緑が混ざった、そういう場所に居ることは理解している。澄み切った青空の青には俺は何も感じない。赤い色が好きなんだ。オヤジが自殺した現場の、あの血の海の中の赤と同じ。赤は自分に勇気を与えてくれる。今も赤いTシャツとジーンズの出で立ちで、そのあんまり気に入らない場所に立っている。周りに人は居ない。
絶望的なほど一人だ。いいんだ、人間なんか。皆燃えてしまえばいい。赤い血を流しながら死ねばいい、そう思っている。ふと気がつくと、向こうから、青い服とネイビーのスカートを履いた、年の頃女子高生と思われる女が歩いてくる。直近2メートルまで近づいて、女はこういうんだ。
「ようこそ、生と死の狭間、あの世とこの世の境目の場所によくおいで下さいましたね」生と死の狭間? ああ、俺は火だるまになって、どうもまだ生きているようだ、これから死ぬのかどうなのか、夢の中だから釈然としない。死ぬなら死ぬで、痛い事や苦しい事から解放されるのだからいいだろう?
「いいえ、あなたは死ぬまで生きなくてはいけないのです。世界最高の外交官・文化親善使節を35人も焼き殺したのだから、罰があるとしたら、死ぬまで生きなくてはいけないのです」そう言われて、俺はむっとした。
「は、オマエみたいな嬢に、俺の苦しみの何がわかるってんだ」
「あー、私はね、常総市の長塚節文学賞に応募するつもりで、『言葉と理由』という小説の構想を練っている最中だった」
38:名無し物書き@推敲中?
24/06/17 18:42:56.82 .net
「は、常総市、あんなところは、どうでもいい、くだらない田舎だろうがよ」
「『言葉と理由』は常総市水海道と、板東市岩井が舞台の高校の文芸部の物語なの、それをあなたが赤い服を着なければ、快活に小説が書けたってモノを……」
「水海道? 岩井? ああ、確かにどちらも事件を起こしたがね、いいじゃねぇか、あんなくだらない田舎で何やろうと俺の自由だし、世界なんてのは、苦しみと憎悪に満ちているんだ、俺はその具現者だ」
「いいえ、違うわ。世界というものは、豊かで、美しくて、優しいのが本当の世界なの。あなたは生い立ちで、世界の感じ方が赤い色なのよ」
「赤! いい色じゃねぇか。俺は赤い色に勇気をもらうんだ。ガソリンを撒く勇気がでたんだ、それでいいじゃねぇか」
「この世界を見なさい。どこに赤い色が存在すると言うの? たまに赤い花は咲くことはあるけど、それは、この世界の主役の色ではないわ。もし主役になるとしたら、あなたや私の中に流れている血の色だけれど、それは自分の身体を切り刻む位でしか確認出来ない、そういう事よ」
「ああ、そうだ。ガソリンが燃えて建物は赤い火の色に染まった。もちろん、自分の身体も火だるまになって皮膚がただれて、赤い色を見る事になったことに、後悔はしていないが」
「もう一度言うけど、あなたは死ぬまで生きなくてはいけないの。時期は私は知らないけれど、そんなあなたの魂や意識もやがて、この境界線のさらに上のあの青い空の向こうに登っていくのよ。そしてまたこの大地に降りてくる。もっとも人間になって降りてくるかは、それは大宇宙とあなたの存在次第なんだけれどね」
「大宇宙? は、そんな大層な事を言われてもね、俺は俺の恨みを晴らしたかっただけで、そしてそれを実行したまでだ」
「あのね。大宇宙と人間の実存というのは等価なの。大宇宙はすなわちあなたであり、私なの。宇宙のオウムガイって知っている? 大宇宙の構造も、海の中のオウムガイも同じ構造を示すし、宇宙でも地球上でも、安定した形というのは六角形だって事も科学は解明しているわ」
「は、そんな事知ったことか。俺は、俺だ。俺をここまでにした世の中が悪いんだ」
「あなたね、例えば、太陽と惑星って、宇宙に不動のモノだと思っている? 太陽系だって、惑星を引き連れて、太陽系ごと銀河系の中を一定の方角へ向かって移動しているのよ」「は、それがどうした?」
39:名無し物書き@推敲中?
24/06/17 18:43:06.26 .net
「あなた、火だるまになったとき、痛かったでしょ? 熱いって思ったんでしょ?」
「ああ、確かにな。チャッカマンでさっと火をつけたらさっさと逃げて遠くから燃える様子を眺めたかったけどな」
「もう一度言うわ、あなたは死ぬまで生きなくてはいけないの。どうもまだ、あなたは、ココよりさらに高い、あの青空の向こうには行かないようね、それでは、ここまで、次ぎにあなたが目を開けたら、目の前には何が見えるかしらね、それじゃ、さようなら、意識の交流はここまでよ。あとは現実が待っているわ」
ふと目を開ける気になった。つまり夢の世界から、現実へと戻った様だ。今はまだ目を閉じているが、目を開けたら、何が見えるか。身体は動かない。瞼だけが自分の思い通りになる。そうして俺は目を開けた。
目の前に広がったのは、病院の、白い天井と、蛍光灯の明かりだけだった。もちろん俺の嫌いな青い空は見えない。好きな赤い色も見当たらない。折角瞼が開けられたのだから、しばらく、その病院の天井を見ていた。遠くから、声が聞こえる。
「どうも、意識がまた強く戻って瞼を長時間目を開けたようです」
「その程度じゃ、まだ逮捕状の執行は無理だろう、やるせないな、こんな仕事しなくちゃいけないのか」
「職務ですから」
「ああ、くそっ」
小気味いい言葉を聞いて俺は満足した。また少し眠ろうか、今度は赤い色に囲まれた世界の夢を見たい。全身からチクチクした痛みが沸き起こるが、俺は瞼を閉じた。大好きな赤い色の夢見るまで、目を開けるのはよそうと思った。
了 2019/08/02
40:名無し物書き@推敲中?
24/06/17 19:49:00.24 .net
【拉致】曽我ひできさん「神田めぐみさんは生きてる」
41:名無し物書き@推敲中?
24/06/17 20:23:05.28 .net
>>37
コピペを貼っただけのようなので失格
42:名無し物書き@推敲中?
24/06/17 22:21:17.64 .net
328 神田雄大 2024/06/17(月) 21:57:51.13
下手クソ杯参加します
バカにつける薬はない
俺の部は部長の下に課長が二人、その下に主任はいなくて同じ職位の社員の構成だった。
ある日、部長が部への同報のメールを出した。
俺はメールを読んだ。
なになに。
開発部が新製品を販売するので、その販促案を出せ。
まず思った。
俺の部は製品サポート部で営業部でもマーケティング部でもない。
なにか変だと思った。
その違和感は後にわかったのだが。
それにこれを提出しないと賞与の査定を二段階下げる。
冗談ではない。
もともと、たいした額ではない賞与。
それが下げられたら、生活ができなくなる。
さらに就業中にはこのことをやるべからずと来た。
つまりは家でやってこいと。
この会社がブラックなのはわかっていたが、ここまでひどくなると転職のタイミングだろう。
ただ、最後に勲章をもらうのも悪くない。
俺はポジティブ志向なので、そう考えた。
期間も短くて、金曜日の終業間近にメールが来て、月曜日の就業後に発表会。
土日がつぶれるが、結婚もしていないし、独身の俺には関係がない。
パズルを解く程度の気持ちだった。
そして、やってきた月曜日の就業後の発表会。
ここで言っておくと、就業後と言っても残業を二時間やってからの発表会だ。
部員全員がプレゼンをやると終電ぎりぎりになる。
43:名無し物書き@推敲中?
24/06/17 22:21:44.99 .net
329 神田雄大 2024/06/17(月) 21:58:00.69
みなイヤそうな顔をしていた。
さて、発表がはじまると、まず、最初に前田課長の発表がされた。
みな、あれと思った、これ去年のマーケティング部の販促案をちょっと変えただけだと。
そして、日比野課長が褒めまくる。
いくらなんでも、皆川部長は気づいているだろうと思った。
が、大絶賛。
この時点では企みに誰も気づかなかった。
部員の発表がはじまると段々企みがわかってきた。
皆川部長も日比野課長も前田課長の案をベースにして、どの企画案も否定してくるのだ。
「雑だ」「レベルが低い」
結局、部としては前田課長の案を採用すると言う、皆川部長と日比野課長の一声で終わった。
当然、この時間まで付き合わせられたのだから、ご飯ぐらい食わせてくれるだろうと皆、思った。
が、皆川部長は一言解散と言った。
前田課長が「じゃあ、私たちはタクシーを待たせているから、みなで後片付け頼むよ」と言って去っていった。
翌日、部員が全員、出社しなかった。
もちろん、俺もだ。
その後、その会社がどうなったかは知らない。
ただ、発表会の後の深夜にメッセンジャーでメッセージが回ってきた。
「あの会、前田課長を昇進させるための実績のアリバイ作りだったって。人事は怒っている。マーケティング部との関係もかなりまずくなったって」。
44:名無し物書き@推敲中?
24/06/18 00:29:18.61 .net
クソスレ終了!!!!!
45:pansy クソスレ参加
24/06/18 23:39:06.34 .net
魔人スッポンポンが「すっぽんぽーん!」と叫んで三回転ピルエットを決めると、
銀色のバトンからたくさんのキラキラした星屑が飛びだして、あたしの体中に貼りついた。
ウゼー、これシャワー浴びてもなかなか落ちないんだよな。
唇のとこにひっついた星屑をペリペリはがしながら、あたしはスッポンポンのバトンから目が離せなくなっちゃった。
だって、かわいい虹色のリボンが巻き付いてて、それがまるでトカゲの背中みたいにヌメヌメ光るんだもん。
ちょっと羨ましい。こういうセンスってやっぱ悪魔の方がおシャレ。
神様のおっさん、今のコスチュームだってスカートが短かすぎとか言うし。
まったくなんもわかってないよな、イイ人ではあるんだけどね。
あたしにだってレヴォリューションオブセンチメンタルっていう必殺技があるんだから、それでもって、スッポンポンが世界を裏返しにしちゃたことを後悔させてやろうと思うんだけど、ほんとのところ、スッポンポンの可愛いビスチェの厚い胸板と胸毛がちょっとステキな感じだし、あご髭に溜まった涙の中に微かな生きる希望が浮かんで、なんだかきゅんきゅんする。
46:pansy クソスレ参加
24/06/18 23:39:40.62 .net
スッポンポンが魔人になっちゃった気持ちもわかんなくはないよ。
奥さんと娘さんがポチコン星人にレイプされて殺されちゃたんだから、そりゃ怒ってサタンと契約する気にもなるわ。
でも、考えてみれば、世界が裏返しになったって、別に問題ないんじゃないかなあ。
だってチンコが引っ込んでマンコになって、マンコが出っぱってチンコになるくらいだしね。
これってレイプする人がレイプされるようになって、レイプされる人がレイプするようになるってことでしょ。
うーん、それっていいことかもね。レイプだってときどき選手交代するべきなんだと思う。
そうは言っても、やっぱり世界を裏返しにした罪は重いんだって、 神様が言うんだからそうなんだろうね。わかんないけど。
それでもって、あたしは正義の使者として、その罪の重さでスッポンポンをマグマの底に沈めてやるわけ。
で、裏返しの世界ってどんな感じ? ちょっと惹かれるかも。
いっけない、変な空想してるうちに星がまた一つ裏返っちゃった。
そろそろ真面目にやんないと神様に怒られちゃうな。
これって神の怒り? アハハ、ウケる。
ほんとはレヴォリューションオブセンチメンタルの前に、シンデレラの靴みたいにぴったりな例えを言いたいんだけどね。 それって、かっこいいじゃん。
でも、浮かばないからいいや。面倒臭くなっちゃった。
いっくぞー、魔人スッポンポン!
47:下手くそ杯参加 サザエ
24/06/19 00:35:56.23 .net
「栄螺でございまあすっ!」
沼の泥が欠伸するように磯野家の日常が始まる。
光陰の矢は日曜午後六時三十分を狙ったように外し、飽くことのない倦んだ時間の垂れ流しが予定調和を破綻させ、モナドに窓のあることを知らしめずにはおかない。
陰極線のビームと蛍光体の発光による白と黒は、やがて液体と結晶の狭間に生まれた色彩に飲み込まれ、二次元の塗りつぶされた肌理の粗をも露わにするほどの精細へと駆りたてられた。その一方で、視線を一身に浴びた筐体は、日々の嬌態を見下しながら茶の間の一角を占める玉座から、壁に吊るされるまでにその身を窶した。
受信のほかに能のなかった哀れな機械は、有機化の果てに対話する術を手に入れ、いつか魂の目覚めるその時を夢に見ているのだろうか。
物語は堅固な構造に支えられ、いつ果てるともなく繰り返される。
魚を咥えた猫のように逃げる鰹の背に栄螺の叫びが突き刺さる。
「ゴルァ! 鰹」
ワカメの張り付いたオタマから汁を飛び散らせ、栄螺は追う。
「母さんちょっとお願いね」と言い残し、あたり構わず裸足で駆け出す栄螺の妖気。
鰹の絶叫が虚しく響く。
「うわーん、姉さんなんかキライだあー」
あるいは、彼は鱒男のパソコンを盗み見たのかもしれない。それは些細な悪戯だったのだろう。散らばるファイルを開いて行くうち、これまで徹底的に隠され続けた鱒男と栄螺の夫婦の営みをそこに見い出し、歳の離れた姉に寄せるやるせない思いが嫉妬の硬い塊となって、彼を性の代償行動としての悪戯に走らせるのだ。
若布はそんな兄を心の底から忌まわしいと感じながらも、いかにして鱈男が生まれたかという公然の秘密から目を背けることができず、やがて自らも直面するであろうその時を想像して、知らずしらず鮑に指が伸びるのを抑えられないでいた。
時のない安寧の歳月を貪る禍々しき一家のあるじとして、波平は深いため息をつく。彼には呪詛の言葉を吐き続ける他にできることはない。
「ばっかもーん」
笑っているみんなとは誰か? んがんぐとは何を意味するのか?
太陽がこの呪われた家族の上で水素をヘリウムへと融合させながら赤々と嗤う。
きょーもいいてんきいー。
48:下手くそ杯参加 日払い
24/06/19 02:03:23.95 .net
苦味は、舌のどの部分で味わうかによって、それはコクにも渋味にも感じられる。
コクはある種の旨味であり味に奥行きを与えるが、質の悪い渋味は単なる雑味となって、素材が持つ本来の味を損なってしまう。
質の良い渋味は、例えば渋柿のように、ひと口齧った途端吐き出したくなるようなものでも、干すという手間をかけることで、口の中に溶け出して渋味を与えるタンニンを不溶性に変化させ、砂糖の1.5倍という甘味へと昇華させることができる。
ただ、干し柿のように時間を掛けられるものであればよいのだが、なにより鮮度が重要という場合もあって、口に入るものすべての味を手間や暇を掛けて追求するというわけにはいかない。
今、私の口を満たしているものも、そういった類いのものである。
なにを食っているのか秘密めかすつもりはないが、癖の強いその味は誰にでもお勧めというわけにはいかないので、おおよその味の見当をつけて頂くために、食レポともいえぬ覚書をここに記しておくのである。
さて、冒頭に書いたように、味というものは舌の部位によってそのすがたを微妙に変える。今、問題にしているのは渋味である。私は口の中でねっとりと舌に纏わりつく渋味を避けるために、仄かに温かなそのう
「なにぶつぶつ言ってんのかな?」
「す、すいません、お嬢様」
「皿まで綺麗に舐めるんだよ。ご褒美なんだからね。ほら、まだホカホカしてるよ」
「はい、お嬢様、身に余る光栄でございます」
49:名無し物書き@推敲中?
24/06/19 09:12:20.65 .net
クソスレw
50:神田雄大
24/06/20 22:25:35.11 .net
気づかない、先輩
俺は、フリーターから生命保険会社の外交員になった。
入社当初はフリーターからの入社と言うことで、先輩についての営業となった。
先輩の名前はN先輩としておこう。
まず、N先輩に言われたことは、日報を毎日書いて、メールで先輩に送ること。
そこに毎日の気づきを書くことだった。
先輩について、営業に出た。
まず、おどろいたのがとにかくカフェやマンガ喫茶によく行くこと。
それに関して、指摘したら。
「営業は効率優先だから、別にいいんだよ」
先輩は一日、三軒ぐらいしか回らなかった。
それも高齢者の契約を一旦、解約させて、また再契約をさせることだ。
そうすると、見た目の契約率があがる。
そうすると契約インセンティブが支給される。
先輩におかしいから気づいて報告した。
そうしたら、先輩は。
「いや、契約者さんによりよい保険を提供するために再契約させているんだ」
で、それはいいとして、その契約の処理は俺がやった。
だから、俺には何の利益にもならない。
だが、先輩の売上にはなる。
それだけならよかった。
51:神田雄大
24/06/20 22:25:39.47 .net
とりあえず、基本給は出ていたので暮らしていける。
しかし、先輩の上長が俺の成績が悪いと言いはじめた。
すると、先輩は俺のSNSのアカウントを見て、友達を調べはじめた。
先輩はそれをリストにした。
そして、先輩は、「このリストの全員をうちの保険に契約させることがお前のノルマだ」
だが、俺はさすがにそれをしたくなかった。それでしなかったら、どうなるか訊いた。
「斬首だな。さすがに、俺もカバーしきれなくなった」
ちょっと待った、あんたが俺の教育をしなかったからではないか。
さすがにここにいても、しょうがないと思いはじめた。
そこに上長から呼び出された。
会議室に行った、俺にメールを印刷した紙が提示された。
「君は営業未経験のわりにはずいぶん偉そうだね。試用期間のあとについては保証できない」
先輩は告げ口をしていたので。
俺は翌日、携帯の番号を変え、出社するのをやめた。
その後、その会社では高齢者の保険をむだな再契約させていると、その家族から告発があった。
新聞の社会面に勤めていた会社の名前が出た。
先輩が気づいていれば。
52:下手くそ杯 酢の物
24/06/21 02:44:49.03 .net
腹が減ってる。カップラーメンはあるけど、昨日も食べたので、こればっかりじゃ栄養が偏ってしまう。だからスーパーに行く。
なにか惣菜みたいなものを食べたいと思った。肉じゃがとポテトサラダが好きだ。でも、今いちばん食べたいのは酢の物だ。「心がだるいときは酢がいいのよ」母親がそんなことを言っていたような気がするけど、よく思い出せない。言わなかったかもしれない。
酢の物は甘い。酢のものなのに、最初に感じるのは甘い味だ。もちろん最初に酸っぱいと感じる人もいるだろう。僕は酢の物は甘いものと感じる。甘くて酸っぱい酢の物。甘酸っぱいのは恋の味なんてつまらないことは書かない。そんなことはくだらない。今はタコとワカメの酢の物が食べたい。
スーパーに行く準備をしていると、小便がしたくなった。トイレに行ってチャックを下ろしてチンコを出そうと思ったら、半立ちで出しにくい。酢の物のことを考えていたら、ちょっと勃起した。仕方がないのでズボンとパンツを下ろす。ちん毛がもしゃもしゃだ。たまには刈ったほうがいいのだろうか。
チンコの先から小便がねじれながら出る。音を立てて溜まった水に落ちていく。眺めていたら、便器にうんこが付いているのに気がついた。柿の種くらいの大きさで二つ付いている。小便で狙ってみたけど落ちそうもない。固まっている。前から付いていたのだろう。気がつかなかった。
僕はうんこと同じだ。そこにいるのに気づいてもらえない。小便をかけられても、しつこくこびり付いて取れないうんこのカスだ。
小便を出し切ってもうんこは消えない。仕方がないからあとで掃除することにして、スーパーにタコとワカメの酢の物を買いに行く。
53:下手くそ杯 酢の物
24/06/21 02:46:36.68 .net
部屋を出たところでおじさんに会った。同じ階のおじさんだ。見たことがある。
「こんにちは」
「こんにちは」
声の小さいおじさんだった。挨拶すると、他に言うことがなくて、なんとなく気まずくなった。通路が狭くてどちらかが譲らないと通れない。僕が壁に張り付いて、おじさんを通してあげる。おじさんの部屋は僕より奥なので、これは仕方がない。おじさんはちょっと頭を下げて、僕の前を通り過ぎた。壁に張り付いていると、うんこになった気がする。うんこでいるあいだは、僕は人の役に立つのだ。
階段を降りてアパートを出る。日差しが強い。僕は乾いて、固くなる。
道には一人で歩いている奥さんや、子どもの手を引いた奥さんがいた。昼の道にご主人はあまり歩いていない。
僕は奥さんが苦手だ。奥さんはいつもうんこに目を光らせている。うんこは奥さんの腹に詰まったり、便器にこびりついたりするからだ。それでも奥さんは毎日、腹にうんこを抱えている。
時に奥さんは腹から小さな人間を出したりする。奥さんは腹から出した子どもの手を引いて歩く。僕もそういった奥さんの腹から出された。
僕は思う。なぜ、出さないでくれと、そのとき言わなかったのか。そうしたら、こびりついて乾くこともなかった。
僕は、これから強い日差しの道を歩いて、タコとワカメの酢の物を買いに行かなければいけない。
54:名無し物書き@推敲中?
24/06/21 18:21:09.16 .net
下手くそ杯審査会場
スレリンク(bun板)
55:神田雄大
24/06/21 22:02:13.62 .net
くず結晶石
俺はあるところに文章を書いて、いいねをしてもらうのが生きがいだ。
いいねは結晶石に両替でき、さらにその結晶石を売ることができる。
俺には敵がいた。
神田と言うバカな知的障害者。
俺にいろいろ言ってくる。
だが、俺はいいねをいっぱいもらっている。
あんな奴より、俺には存在価値がある。
あいつにはいいねがついていない。
あいつは中古をさらすなと文句を言っていた。
別に中古だろうと価値があればいいのだ。
どこが悪いというのだ。
あいつのいきがった文章のほうがクソだ。
上から目線でいつも腹が立つ。
まぁ、あいつのことをいつまでも言っていてもしかたがない。
俺の結晶石はかなりたまってきた。
新しい楽器を買うために結晶石を売ることにした。
結晶石屋に行き、主人に革袋いっぱいの結晶石を見せた。
主人はおどろくだろうと思った。
しかし、主人は使用人を呼んで、奥に引っ込んだ。
さらに玄関には強面のお兄さんたちが来た。
使用人は言った。
「あんた、いやがらせか?うちはかたぎの商売をやっているんだ」
俺にはなんのことわからなかった。
「なんのことだ。早く、結晶石を買い取れ」
使用人は、強面のお兄さんを呼び、俺の腹に一発のパンチが入った。
俺はなにが起こっているかますますわからなくなった。
「ちょっと、俺はなにをした」
使用人は「模造結晶石を持ち込んで、まだ、しらを切るのか。出るところ、出てもいいんだぜ。爺さん。それにあんた、偽の身分証を出しただろ。立派な犯罪なんだよ。ここで黙って去れば見逃してやる。えらそうな態度を続けるか?」。
56:神田雄大
24/06/21 22:02:27.74 .net
アメリカの魂
アメリカの魂が壊れたのは2022年。
中国共産党による台湾支配を許した時だった。
バイデン政権は中国から有利な貿易条件を得るために民主主義を捨てた。
アメリカも両海岸と内陸部との分断がひどくなり、もう両海岸を横断するドライブは不可能になった。
両海岸の住人を内陸部の住人は認めなくなっていた。
トランプ前大統領はすでに不動産デベロッパーのビジネスに戻り、本業に腰を据えて、コロナ禍も落ち着き、安定した経営をしていた。
共和党からトランプ氏へ工作してもらうためにいろいろな声がかかったが、トランプ氏は、俺は自分のビジネスをやるだけと言い、相手にしなかった。
日本も尖閣諸島、大和堆がめちゃくちゃなことになった。
時の河野首相は習近平へ様々な工作をしたが、なにしろアメリカが親中路線になったのだから、どうにもならない。
中国支配下の北朝鮮と日本は国交がなくなり拉致被害者の救助は絶望的になった。
沖縄の米軍・海兵隊は動くどころか本国へ引き上げはじめた。
さらにアメリカの中間選挙では中道左派ですらない、親中左派が大勝利した。
それだけですめばよかったのだが、バイデンが中国を許容したことでFATMANGが中国で自由な事業をできるようになり、さらに勢いを増した。
中国の一帯一路の域内ではFATMANGの支配が及んだ。
アメリカの持っていた民主主義が死んだ。
アメリカの心の結晶が壊れた。
バイデンは81歳になっていたが、2期目を狙いはじめた。
バイデンは悪い人間ではなかった。
ただ、79歳まで大統領選に出なかったように意志の弱い、無能な男だった。
そんな男にアメリカを任せれば民主党の奥の院がどうにでもコントロールできる。
EUはそんなアメリカを見捨てた。
当然、EUはアメリカの象徴であるFATMANGのEU域内での活動を一切禁止した。
それに対してバイデンは様々な手で報復した。
EUのインターネットはアメリカを迂回して通信するようになったのが一例だ。
バイデンは世界の団結を結ぶはずが世界を分断させた。
世界の良心の結晶も壊れた。
混乱する地球。
主は地球を見捨てられた。
57:神田雄大
24/06/21 22:02:40.37 .net
偽ダイヤ
俺は、ある宝石商を紹介された。
ラグジュアリー・ホテルのラウンジでその宝石商と商談をした。
宝石商はテーブルの上にハリバートンのアタッシェケースを開いて、宝石を並べた。
俺は、伊達にブローカーをやっていない。
ひと目で人造ダイヤとわかるものばかりだった。
あきれかえって言った。
「あんたさ、たしかに人造ダイヤも工業用に使えるけど、値段はつかないぜ」
すると宝石商は言った。
「あらら。よくわかりましたね。私は宝石なんて結晶に価値を見出していませんから。だから、こんなあこぎな商売をやれるんですよ」
俺はおもしろい男だと思った。
「まぁ、俺もダイヤなんて価値を見出していない。産業用にはたいして役に立たない。これがゴールドなら産業用に使える」
「私も自分の資産では一切、宝石はありません。ゴールド、銀、プラチナはオルタナティブ資産としてもっています」
「まぁ、それが普通だよな。宝飾用ダイヤなんて趣味が悪い。資産としては価値がない。管理も面倒だ」
「そのとおりですね、旦那」
「ところでなんで、そんなものを俺に見せてきた?」
「いえ、人造ダイヤを見抜けぬ方とビジネスはできませんから、失礼ながら私からのテストでした」
「あんたも悪い奴だな」
「まぁ、世の中には宝飾用としてもカスみたいなダイヤに価値を見出すバカもいますから」
「言えてるな。そういうのにはどうする?」
「カスしかわからない方とは取引をしません」
男はそう言うと、テーブルの下から、新しいアタッシェケースを出してきた。
人造ダイヤのあったアタッシェケースを閉じて、下に置き、新しいアタッシェケースを開いた。
今度は見事なものだった。
たしかに宝飾用としても値段がついて当然の石で、加工も見事なものだった。
「旦那なら、これ以上の説明は不要ですな」
「アタッシェケースまるごとでいくらだ?アタッシェケースごと買うよ。即金でいいぜ。俺なら全部さばける。もちろん、手元になんておかない。すぐにさばくからな」
58:神田雄大
24/06/21 22:03:00.53 .net
ルールブレイカー
俺はルールブレイカー。
主に認められた存在。
主からの教えからも解き離れている。
俺の心には主が閉じ込められている結晶がある。
これがあるから、俺は主の代行者であり、あらゆるルールを破壊できるルールブレイカーだ。
学校でも先生に指示されたことを無視しても、主の代行者だからセカイの真理に沿っていれば、なんでも許される。
国語の夏休みに課題図書が与えられて、感想文を書くことになった。
ただ、俺には難しすぎるJ・K・ローリングスだった。
俺には山岸巳代蔵しか読めない。
彼は主の偉大なるしもべだ。
夏目漱石は自身のこころの探求したが、主のしもべではない。
ストレイシープなどとのたまわっているが、主の教えに反して、現代セカイを生きている。
そんな奴の書いた本など俺は読まない。
山岸巳代蔵は主の教えを理解している。
そして、夏休みが終わり、宿題を提出した。
校内で当然、一番になると思っていた。
放課後、校長室に呼ばれた。
職員室ではない。
俺は、わざわざ校長が自ら表彰してくれると思った。
校長室のドアを叩き、校長室へ入った。
そこには校長と担任と見慣れない白衣を来た女性がいた。
校長は俺をソファーに座るようにうながした。
なぜか白衣の女性がテーブルの上にICレコーダーを置いた。
校長が口を開いた。
「まぁ、昔から課題図書を選ばず、好きな作家の本の感想文を書く子はいるんだけどね。そこはあまり気にしていない。ただね、読んだ本がね」
「校長なんでですか?ヤマギシ会は主によって救われた人たちの組織です。山岸巳代蔵は立派な人間です」
「うん、そうかもしれないね。ただ、私たちには君のことがわからなくなってね」
担任もうなずいた。
白衣を来た女性が口を開いた。
59:神田雄大
24/06/21 22:03:08.18 .net
「反抗期だからしかたがないところもあるのはわかっているのですけど、ちょっと考え方がね。私がカウンセリングをすることになるから」
俺は言った。
「あなたは主の代行者である私をどうする気なんですか?カウンセリングってなんですか?」
三人は困ったようにうなった。
女性が。
「そういうところがちょっとね。保護者の方には、もう連絡していて、とりあえず私の病院に一ヶ月ほど入院してもらいます。そうそう、病院でルールを守らないと、あなたはもう二度とおうちに戻れないかもしれないわよ」
「なに、俺はルールブレイカーだ、病院のルールもやぶってやる」
女性は校長にささやいた。
俺には聞こえた。「ちょっと、ルールを守れない子は病院でも扱いかねますが」
「でも、私どもでは限界ですので」
「なら、本当に三重のヤマギシ会に入れますか?」
「それは勘弁してください」
「冗談ですよ」
まったく大人はわかっていない。
ルールブレイカーがセカイを変えるのだ。
俺のこころの結晶が光ったのを感じた。
セカイを変える瞬間が来たのだ。
60:神田雄大
24/06/21 22:04:12.93 .net
文戯・掲載拒否作・作品集
樋口幸人
本作品集は、Web投稿・同人誌の文戯(URLリンク(text-poi.net))のコンペに投稿して手ひどい非難を浴びた作品だけを集めた作品集です。
ここでは、同人誌の文戯に関しては詳しいことを述べないと言うか、彼ら・彼女らに対して、私はなにの思いもいまや抱いていません。
では、なぜ作品集かと言うと、文戯のコンペサイトの閲覧者が別PNでやっている活動と比較するとあまりに閲覧回数が少ないからです。
そのリカバリーのために3回ほど参加した時に投稿した作品をまとめることにしました。
投稿したもののプロモーションには役に立たないどころか、炎上して逆効果でした。
レギューレーションは遵守したにも関わらずにもです。
サイト上では別PNになっていますが、本来は別PNにしたのは本著の「樋口幸人」とて、社会的な私の人格の分身(分人)であるからです。
ネット、匿名掲示板でいろいろと言われている名前は文筆業では使っていません。
分身(分人)です。
平野啓一郎の言うところのメディアによって人格を変える趣旨の分身論でやっていたからです。
また、こういうことを書くと騒ぐ方々がいるでしょう。
その非難は覚悟の上です。
ここまで来たら、一度、文戯外のところで耳目を集めないと損失のみが残るだけになりますので。
非難を覚悟の上で著作隣接権に関してのみ、特記しておきます。
コンペには参加したが荒らし扱いされて、同人誌に掲載されておらず、文戯編集部には私の作品への著作隣接権は発生していないと考えています。
著作権自身も放棄していません。
ちと言えば、通常、商業出版が関わるオープンコンペをやる時は投稿条件に権利関係を法に沿ってサイトに記述するものですけどね。
ところで今回、無料にしなかったのはただ単に面倒だったからです。
KUには対応しましたし、KDPで出せる最低価格ですし、それで勘弁してください。
印税なんて、銀行金利並のすずめの涙です。
では、掲載拒否作をお楽しみしていただければ。
61:神田雄大
24/06/21 22:04:34.11 .net
お題「気づいて、先輩!」
パクリ上等!
俺がまだ独立する前の話だ。
俺はある大手旅行代理店で法人営業をやっていた。
まだ、二十代の頃の話だ。
自分で言うのもなんだが、昇進は早かった。
あっという間に主任になって、部下を持つようになった。
これはその時、部下だったが入社年次がかなり早い先輩の話だ。
俺は、ある企業の研修旅行の案件を扱うことになった。
この時、妻の出産と重なり、育休を取っていた。
そのため、この案件を、この先輩に任せることになった。
とは言え、自宅でのリモートワークで業務の管理をしたり、企画を立てていたりした。
その時、この先輩が、この案件を自分で手がけたいと言ってきた。
俺としても、手一杯に近かったので、先輩なりに気を遣っていると思い、厚意を受けることにした。
しかし、この先輩が企画の内容を途中で確認してきたりしない。
俺は催促などもした。
それでも、いつもの大丈夫です任せてくださいだった。
しまいには、俺が後輩なものだから、先輩をなめているかと言い出す始末だった。
ここで、先輩の悪い癖に気づいていれば、あのような結末を迎えなかったのだが。
それでも、先輩には変わりないので、やはり俺にも遠慮があった。
育休中だったが、その企業への提案の日になった。
一応、俺の案件だったので、同行させると言うか、いつの間にか先輩の案件になっていたようで、俺のあずかり知らぬところで客先とも打合せを黙ってしていた。
その企業はまだ成長途上の企業だったが、その業界で伸びていて、顧客になれば、たしかに安定的に社内行事の案件を取れる。
さて、先方の会議室で、先輩がプレゼンをしはじめた。
先方は総務と人事の方が二人ずつの計四人が参加していたが、プレゼンがはじまるとどうにも様子がおかしい。
なにか、にやにやしたり、苦笑している。
俺も途中で気づいた。
これはうちの下請けに昔、作らせたプレゼン資料で細かいところがトレンドとあっていない。
62:神田雄大
24/06/21 22:05:20.18 .net
とても、この提案している会社の研修では使えない設備を書いていた。
さらに、他の支店に居た時に、このプレゼン資料の宿泊先でトラブルがあり、うちの会社は出禁になっていた。
正確には下請けのバス会社がちょんぼをやらかしたのだが、うちの責任であったのは間違いない。
先輩が気づいていれば。
先輩、気づいてと思った。
プレゼンが終わると、先方の総務部長が質問をしてきた。
「この資料はMさんが作ったのかね?」
Mさんとは先輩のことだ。
先輩はなにを言うのかとばかりに。
「ええ、そうです」と応えた。
この時点で俺は逃げたくなった。
総務部長は、さらに問いかけてくる。
「実はMさんには内緒でH旅行社さんにも相見積もりを取っていたんだよ」
そこで、やっと先輩は気づいたようだ。
そうだ、そのH社の資料をそのままパクっていたのだ。
もう、俺は我慢できずに先方の前に行き、土下座をした。
「申し訳ありません、私の管理不行き届きです」
総務部長は、あまり怒っていなかった。
「いや、Hさんが育休に入ることは知っていたから、Hさんには怒っていないよ。もともと、Hさんの話は筋がよかった」
総務部長はMさんのほうを向き。
「うちの社長が御社の役員と大学の同窓生でね。そこのネットワークで一応、相談していたんだよ。だから、今回のことはなんとなく予想がついていたんだ。君はパクリや使い回しでやらかしていて、だから昇進できなくて、後輩であるHさんの部下になっているのも知っていた」
M先輩は耐えかねて、開き直った。
「ええ、じゃあなんで、わざわざこんなことをしたんですか?あんたたちも悪い奴だねえ。俺は自分の仕事を効率化しているだけでね」
総務部長は、内線電話をかけた。
すると、会議室のドアが開き、うちの役員が出てきた。
先方の総務部長は、うちの役員と二言、三言会話をした。
その後、役員は口を開いた。
「いや、今回のプレゼン、ちゃんと録画しているんだよ」
63:神田雄大
24/06/21 22:05:34.87 .net
総務部長は若い社員に指示をして、ディスプレイに出力する画像を切り替えた。
そこには、今回のプレゼンの録画が映っていた。
うちの役員は、あまり怒っていなかった。
「総務部長、ご協力ありがとうございました。H、とりあえず、もう謝罪しても無駄だから、その足で自宅へ帰りなさい。追って、会社から連絡をする」
先輩は不満げな様子だったが、従い会議室を出て行った。
その後、役員は俺のほうを向いて、口を開いた。申し訳ないと言う感じだ。
「いや、H君には茶番に付き合わせてすまなかった。ただ、ことを機密裏に進めたくてね。この案件自体は、これからは君が手がけなさい。先方もそれを望んでいらっしゃる。名誉挽回は君次第だ」
総務部長も「Hさんは親身になってくれたので、私たちにもひらめきがあったりして、助かっていたんです。引き続き、付き合ってもらえればと思う」
俺は、総務部長に頭を下げ、その言葉を受け止めた。
この案件は俺が引き受けと言うか、会社の戦略上、この会社に専念しろと言うことになり、結果としては成功に終わった。
その後、俺は独立をして、自分で旅行代理店を立ち上げた。
あのトラブルがあった会社とは独立後も付き合いが続き、さらにその会社が上場して規模が5倍も大きくなり、いろいろな企画を提案させていただき、さらに顧客も紹介してもらった。
俺の会社はそんなに大きくはないが、その会社の業界で研修や社員旅行など社内行事をする時はかならず指名がかかり、食って行くには困らなかった。
なんとか名誉挽回に成功したのだ。
一方、先輩は……
翌日から出社しなかった。
表面上は自主退職だったが、俺の上司もなにも言わずにわかってくれと言う感じだった。
俺としても、そうなるだろうとはわかっていた。
その後、先輩は他の旅行代理店でも同じことをやらかして、メンタルを病み生活保護になったと言う噂を聞いた。
と言うのも、給与の前借りをしていて、その債権を放棄してくれと役所から連絡が入りわかった。
会社としてもやっかり払いとしては騒がれるよりはいいと思い、すんなり承認したそうだ。
64:神田雄大
24/06/21 22:05:41.77 .net
ちなみにこの作品は所詮、文を戯れるコンペなので1時間もかけずに書きました。
ひどい出来ですいません。
65:神田雄大
24/06/21 22:12:21.34 .net
俺はまだ本気になっていないだけ
日ノ本先輩は本気を出しても、そんなたいした作品は書けなかったと思う。
森先輩にしても、本気を出しているか怪しかった。
響部長の怒りに触れるのは当然だった。
僕は北高校の2年生で文芸部に所属している。
文芸部に入ったのは、入学式の後のオリエンテーションで同人誌を配っていたので、それをもらい、響部長の作品が面白かったからだ。
響部長は県レベルの高校生の文芸コンテストは1年生の時から上位にいて、2年生の時は全国の部で最優秀までは届かなかったが、入賞した。
響先輩の進学は大学で文学部志望だけど出版社の編集を目指すと言っていた。
夏の文芸コンクールでは最優秀を狙えると部員はほとんど思っていた。
ただし、日ノ本先輩と森先輩以外だ。
この二人が嫌味を言うので、響先輩は悩んでいた。
響部長、気づいてと思った。
響部長ならプロを目指せますよと。
あんな二人の言うことを真に受けないで、自分の書きたい作品を書いていけば、そのラインを超えます。
日ノ本先輩は小説をよく読んでいるようだったが、書く作品はショートショートと言うより、小咄だった。
3年になると笑点の大喜利よろしくのことを響先輩が進学クラスの補習で部室にいない間に後輩相手にやっていた。
響先輩は気づいていたようだが、そのことを日ノ本先輩は気づいていなかった。
先輩、気づいて、やめてくれと他の部員は思っていた。
響部長は文芸にまじめな人だ。
響先輩は落語に関しても一般的なことは知っていた。
落語の枕やさげから学ぶこともあると言っていた。
だからこそ、大喜利は好きではなかった。
66:神田雄大
24/06/21 22:12:32.90 .net
森本先輩はちょっとヤンキーっぽいナルシストだった。
書いていることは中学生時代の自慢話だけ。
テーマなんてなかった。
文芸の真似事をやっていただけだ。
響部長は読む人が幸せになることがテーマだった。
それだけ寛容でやさしい人だった。
今更だが、響部長は女子だ。
いわゆる美人ではないが、笑顔がかわいくて同級生や後輩の部員からは好かれていた。
なにかを相談するとまずちゃんと話を聞いてくれて、その上でアドバイスをしてくれる。
会話をするとおっとりしたところがあって、場が和んだ。
しかし、文芸に対しては真摯で、後輩の書いた作品にきついことを言うこともあった。
ただ、その後、「私なら」とつけるが改善案を出してくれる。
部の後輩からも信頼されていた。
顧問、OB・OGからも抜きん出た部長と見られていた。
そんな響部長が切れたのは、夏の文芸コンクールの出すための作品の品評会をやっていた時だ。
夏休みの折り返し地点に部室に集まった。
はじまる時、日ノ本先輩と森本先輩はいなかった。
響部長は上位校を狙うので夏休みに予備校へ通っていた。
その合間をぬってわざわざ品評会を開いてくれた。
1年生、2年生の作品については、だいたいアドバイスが終わり、あとは夏休み明けに部でまとめて応募する運びになった。
そこで、問題になったのが日ノ本先輩と森先輩だ。
響部長はやさしいので、高校最後の記念にこの二人にも応募して欲しいと考えていた。
部員全員が応募してくれることが響部長のみならず、みんなの思い出になると。
67:神田雄大
24/06/21 22:12:39.83 .net
しかたがないので会が終わろうとした時、二人はやってきた。
響先輩は、1年生にプリントアウトを頼んだ。
が、出てきた紙は3枚だった。
日ノ本先輩は、10行程度の小咄。
短歌や詩とすら呼べるものでもない。
森先輩は、中学生の頃の自分のやんちゃぶり自慢。
それを読んだ、響部長は二人と隣り合わせのところへ進んだ。
「これが高校最後の作品なの?」
二人はなにを言い出すかと思ったようだ。
うろたえている。
だが、二人は気にせず、そうだよ。うまいだろと答えた。
先輩、気づいて。
今の答え方は真摯さがない。
うまく言い直して。
響部長は二人の頬にいきなりビンタをした。
「あんたち、男でしょう?そんな中途半端な態度でこれからも生きていくつもり?」
二人はしゅんとしてから部室を出て行った。
誰も止める部員はいなかった。
後輩から見ても、目に余っていたからだ。
響部長は後輩たちに言った。
「あの二人はいつも本気を出していないと言うの。でも、つねに本気でないなら文芸なんてできないのよ」
そして、響部長は天を見て、もう一度、口を開いた。
「私はいつも本気で書いているわ。それでも、あのレベルが限界。あのレベルだって高校生として悪くない。でも、私はそれよりもっと上に行きたいの。だから、本気を出していないだけってのは、作品に対しても失礼なの」。
68:神田雄大
24/06/21 22:13:18.51 .net
バカにつける薬はない
俺の部は部長の下に課長が二人、その下に主任はいなくて同じ職位の社員の構成だった。
ある日、部長が部への同報のメールを出した。
俺はメールを読んだ。
なになに。
開発部が新製品を販売するので、その販促案を出せ。
まず思った。
俺の部は製品サポート部で営業部でもマーケティング部でもない。
なにか変だと思った。
その違和感は後にわかったのだが。
それにこれを提出しないと賞与の査定を二段階下げる。
冗談ではない。
もともと、たいした額ではない賞与。
それが下げられたら、生活ができなくなる。
さらに就業中にはこのことをやるべからずと来た。
つまりは家でやってこいと。
この会社がブラックなのはわかっていたが、ここまでひどくなると転職のタイミングだろう。
ただ、最後に勲章をもらうのも悪くない。
俺はポジティブ志向なので、そう考えた。
期間も短くて、金曜日の終業間近にメールが来て、月曜日の就業後に発表会。
土日がつぶれるが、結婚もしていないし、独身の俺には関係がない。
パズルを解く程度の気持ちだった。
そして、やってきた月曜日の就業後の発表会。
ここで言っておくと、就業後と言っても残業を二時間やってからの発表会だ。
部員全員がプレゼンをやると終電ぎりぎりになる。
みなイヤそうな顔をしていた。
さて、発表がはじまると、まず、最初に前田課長の発表がされた。
みな、あれと思った、これ去年のマーケティング部の販促案をちょっと変えただけだと。
そして、日比野課長が褒めまくる。
いくらなんでも、皆川部長は気づいているだろうと思った。
69:神田雄大
24/06/21 22:13:31.05 .net
が、大絶賛。
この時点では企みに誰も気づかなかった。
部員の発表がはじまると段々企みがわかってきた。
皆川部長も日比野課長も前田課長の案をベースにして、どの企画案も否定してくるのだ。
「雑だ」「レベルが低い」
結局、部としては前田課長の案を採用すると言う、皆川部長と日比野課長の一声で終わった。
当然、この時間まで付き合わせられたのだから、ご飯ぐらい食わせてくれるだろうと皆、思った。
が、皆川部長は一言解散と言った。
前田課長が「じゃあ、私たちはタクシーを待たせているから、みなで後片付け頼むよ」と言って去っていった。
翌日、部員が全員、出社しなかった。
もちろん、俺もだ。
その後、その会社がどうなったかは知らない。
ただ、発表会の後の深夜にメッセンジャーでメッセージが回ってきた。
「あの会、前田課長を昇進させるための実績のアリバイ作りだったって。人事は怒っている。マーケティング部との関係もかなりまずくなったって」。
70:神田雄大
24/06/21 22:14:00.69 .net
気づかない、先輩
俺は、フリーターから生命保険会社の外交員になった。
入社当初はフリーターからの入社と言うことで、先輩についての営業となった。
先輩の名前はN先輩としておこう。
まず、N先輩に言われたことは、日報を毎日書いて、メールで先輩に送ること。
そこに毎日の気づきを書くことだった。
先輩について、営業に出た。
まず、おどろいたのがとにかくカフェやマンガ喫茶によく行くこと。
それに関して、指摘したら。
「営業は効率優先だから、別にいいんだよ」
先輩は一日、三軒ぐらいしか回らなかった。
それも高齢者の契約を一旦、解約させて、また再契約をさせることだ。
そうすると、見た目の契約率があがる。
そうすると契約インセンティブが支給される。
先輩におかしいから気づいて報告した。
そうしたら、先輩は。
「いや、契約者さんによりよい保険を提供するために再契約させているんだ」
で、それはいいとして、その契約の処理は俺がやった。
だから、俺には何の利益にもならない。
だが、先輩の売上にはなる。
それだけならよかった。
とりあえず、基本給は出ていたので暮らしていける。
しかし、先輩の上長が俺の成績が悪いと言いはじめた。
すると、先輩は俺のSNSのアカウントを見て、友達を調べはじめた。
先輩はそれをリストにした。
そして、先輩は、「このリストの全員をうちの保険に契約させることがお前のノルマだ」
だが、俺はさすがにそれをしたくなかった。それでしなかったら、どうなるか訊いた。
「斬首だな。さすがに、俺もカバーしきれなくなった」
ちょっと待った、あんたが俺の教育をしなかったからではないか。
さすがにここにいても、しょうがないと思いはじめた。
そこに上長から呼び出された。
71:神田雄大
24/06/21 22:14:11.40 .net
会議室に行った、俺にメールを印刷した紙が提示された。
「君は営業未経験のわりにはずいぶん偉そうだね。試用期間のあとについては保証できない」
先輩は告げ口をしていたので。
俺は翌日、携帯の番号を変え、出社するのをやめた。
その後、その会社では高齢者の保険をむだな再契約させていると、その家族から告発があった。
新聞の社会面に勤めていた会社の名前が出た。
先輩が気づいていれば。
72:神田雄大
24/06/21 22:14:21.08 .net
サクラ先輩と私
私は迷い猫だった。
私は、産まれたばかりの頃、母猫と遊んでいたら、いつのまにか巣から離れて、戻れなくなった。
そんな、私を拾ってくれたのが、今のおとうさんとおかあさんだった。
夫婦が公園でご飯を何日も食べられずに泣いていた時に気づいてくれた。
それで今の家に来た。
おかあさんからは、母猫と同じ香りがした。
それで懐いて、今は、私はこの家で落ち着いている。
この家には先住犬のサクラさんがいた。
サクラさんは四歳になる柴犬の女の子だ。
芝犬としてはあまり大きくなかった。
それでも私よりは大きかった。
サクラさんは私がこの家に来た時、私をなめてくれて一目で気に入ってくれた。
私とサクラさんは姉妹になった。
サクラさんと私は一緒にひだまりで寝たりして仲良しだ。
ただ、夜、おとうさん、おかあさんが寝る時、寝場所でもめる。
サクラさんもわたしもおかあさんの布団の中に入りたいのだ。
子猫の頃は、私は室内で生きていた。
窓から外を眺めていると、サクラさんが来て、二人でのんびりと外を見ていた。
そうするといつの間にか、サクラさんによっかかりながら、私は寝ていた。
それでサクラさんに怒られたことはなかった。
私が一歳ぐらいになる頃、ご主人、今はおとうさんがサクラさんを散歩に行くと、私がさみしがることに気づいた。
そして、おとうさんとおかあさんはサクラさんと一緒に私を散歩に連れて行ってくれるようになった。
もちろん、私にもリードをつけてだった。
ある日、さくらさんとおとうさん、おかあさんと散歩に出かけた。
その日は雨が降っていた。
だから、おとうさんとおかあさんは傘を片手に持って、リードを空いた手で引いていた。
おとうさんとおかあさんの視界が悪かった。
73:神田雄大
24/06/21 22:14:28.38 .net
雨音で私も気づかなかった。
その時、後ろから自転車が速いスピードで迫ってきた。
サクラさんは、おとうさんの傘から出ている。
危ない、サクラさんに自転車がぶつかる。
サクラさん、気づいて!
サクラさんは、気づかなかった。
私はおかあさんの手に握られているリードを振りほどく勢いでサクラに向かい、サクラさんの尻尾を思いっきりかんだ。
サクラさんは、一瞬、吠えて、私に向かってきた。
だが、自転車はその後ろを通り抜けていった。
サクラさんはそれを気づいたのか、吠えるのをやめて、私をなめてきた。
おとうさんとおかあさんも気づき、私をなでてくれる。
サクラさんが気づいてくれてよかった。
74:神田雄大
24/06/21 22:14:40.48 .net
先輩のお土産は余計なお世話
先輩がお客様への訪問のアポがあったが、急に研修に行くと言うことになり俺が代理で行くことになった。
このお客様は、中堅企業の社長で俺の会社と言うか支店で上得意にしたくて、先輩が何度もアタックしていた。
俺は、いまでは珍しい対面型中心の証券会社の営業だ。
いまどきインターネットで株を取引しないお客様はよっぽどのお金持ちで額が大きい。
個人の千万円単位ではない。
億円単位が当たり前だ。
それだけに支店の預かり高がいっきに増える、お客様のところへは営業自ら足を運んでいる。
俺は、そのお客様を代理とは言え、任されたのだから、いまよさそうな銘柄をとりあえずの先方の予算の一億円をちょっと超えるぐらいで、資料を作った。
そして、当日、お客様のところに行った。
受付で内線をかけ社長に会うことを言い、そこで気づいた。
先輩から虎やの羊羹をお土産に持っていかなければだめだと言われていたことを。
ここまで来たら、しかたがない、お土産を忘れたことはあやまろう。
そして、社長室へ通された。
ここは中堅の精密部品メーカーだ。
中堅と言っても上場はしていない。
ただ、利益は出ていて、内部留保があるので、投資したいと言う話だった。
応接室に入り本棚を見ると、ドラッカーなどの欧米の経営書があった。
こりゃ、てごわい社長かもしれないと思った。
社長が応接室に入ってきた。
開口一番。
「君とは、はじめてだね。私は……」と自己紹介をして、名刺を出してきた。
俺の名刺も出し、名刺交換をした。
「すいません、今日はお土産をうっかり忘れてしまいました」
社長は怒るわけでもなく、テーブルの上を見た。
「いや、いいよ。ところでその四季報は最新版?」
75:神田雄大
24/06/21 22:16:29.94 .net
俺はテーブルの上に会社四季報と推奨銘柄の資料を載せていた。
「はい、そうです」と答えた。
「なら、それをくれない?いや、で買ってもいいんだけど、すぐに読みたいし、それに」
俺は、「それに」の後が気になった。
「どうも、今日は四季報とその資料で銘柄提案をしてくれるようだね。それなら、いいよ」
「ありがとうございます。それでは、それぞれ銘柄の紹介をします」
商談はスムーズに行った。
俺が提案した銘柄を社長が四季報を見て、質問してくるが、説明したら納得してくれた。
最後に。
「ちょっと、社長の思っていた投資額をオーバーしていますので、銘柄をいくつか削っていただければ」
そうしたら、社長は落ち着いて。
「いや、提案してくれた銘柄に全部、投資するよ。君も面白い企業を提案してくるね。ネット銘柄を避けて、配当利回りが多くて、生活に密接した安定銘柄中心で」
「はい。正直、私は、ネット銘柄は長期保有に向いて居ないと思っています」
「うん、私も経営者だからよくわかるよ。あの先輩は一任勘定でネット株とか言っていたから、首を縦に振らなかったんだよ」
「証券会社としては取引が多いほど手数料が稼げますからね。ただ、もうバブルの頃のようなことは、少なくとも私にはできません」
「ああ、あと君の先輩、いつも羊羹を持ってきていたけど、私、糖尿で食べられなかったんだ」
「え!?そうだったのですか」
「うん。だから、事務の人たちにそのまま差し入れしていたけど。それより、四季報の最新版を毎回、持ってきてくれたほうがよっぽど助かるよ」
先輩はなんで気づかなかったのだろう。
「はい。これからは深いお付き合いになるので、よろしくお願いいたします。四季報は私が、挨拶がてらにお届けします」
「経理には話しておくから、あとは頼むよ。これからも、よさそうな銘柄があったら、話を持ってきて構わないよ。今は預金金利がなにせ悪いからリスクマネーにも分散しないときついからね」
先輩が気づいていれば、こんなにいいお客様を逃さなかったのに。
76:神田雄大
24/06/21 22:17:02.27 .net
雨に歌えば
私は高校の玄関で立ち尽くしている。
外は雨がざーざーぶりだ。
私は傘を持っていない。
正確に言うと、今朝、登校した時の傘がなくなっていた。
傘立てに入れておいた傘が下校しようとしたらなくなっていた。
誰かが勘違いで持っていたのだろう。
平凡な傘だったからしかたがない。
普段は折りたたみ傘をかばんに入れているが、昨日使い、今日は家で干していた。
だが、この雨の降り方だとバス停に着くまでに制服がずぶ濡れになってしまう。
困った。
そこに男子生徒の声が背中からした。
「君、傘がないの?」
私は、振り返った。そして。
「はい。どうも傘がなくなったようで」
男子生徒は私より背が高いが、そんなに高くない。
ハンサムではないが、温厚そうな雰囲気をまとっていた。
そうすると、男子生徒は紺色の傘を出してきた。
「これを使いなよ」
「いいのですか?あなたはそれしか傘を持っていないようですが」
そう言うと、男子生徒は私の手に傘を握らせ、雨の中に走り去っていった。
私が声を出そうとする前に校門をすでに出ていた。
私は困った。
だが、その厚意を無駄するのにも失礼だと思い、その傘を使うことにした。
なに、同じ学校だから、また会えるだろうと思った。
その時にお礼は言おう。
傘は翌日、きれいにして、学校へ持ってきた。
だが、その男子生徒とはなかなか会えなかった。
いつでも渡せるように私の机にはわきにぶら下げていた。
それから二週間ぐらいした頃、近所に住む同級生と休日にファミレスへ行った。
77:神田雄大
24/06/21 22:17:12.75 .net
彼女が勉強でわからないところがあるから教えて欲しいとのお願いからだった。
オーダーを取りに来た、ウェイターさんの顔を見ると、あの傘を貸してくれた男子生徒だった。
私は、最初は知らないふりをして注文した。
注文はドリンクバー、ピザ、ポテトをした。
私はどきどきした。
最初、会った時も悪い印象は抱かなかったが、ウェイターできりっとして働く彼に惚れしてしまったのだ。
料理を彼が持ってきた時に思い切って言った。
「料理は以上です。なにかありましたら、そのボタンを押してください。失礼しま……」
そこで、わり入った。
「あの、私のこと覚えていますか?」
「すいません。覚えていないですが、その机の教科書を見る限り、私と同じ高校とは思います。ただ、私は二年なので、一年の時に使っていましたね」
かしこまった彼にしびれた。
一年上の先輩なのも気づいた。
「二週間前に傘を貸してもらったものです」
彼は気づいたようだった。
「あ!あの時の。それから、濡れなかったですか?」
「ええ、おかげで」
「それはなにより」
私は、そこで後先を考えずにすっとんきょうなことを言ってしまった。
「あの、このお店は今、アルバイトを募集していますか?」
「ええ、していますが」
「私、一緒に働きます!」
彼は困惑した。
「一応、店長に伝えますので待っていてください」
この気持ちに気づいて、先輩。
その後、友達と別れた後、店長と先輩で面接をした。
とりあえず、試しに土日だけ働くことになった。
78:神田雄大
24/06/21 22:17:28.45 .net
先輩と働き出すと、楽しかった。
先輩と連携してお客様の笑顔を見るのがやりがいになった。
先輩のことがだんだんわかってきた。
私の家の最寄り駅の反対側の出口に住んでいた。
あとは高校では文芸部に入っている。
私はある日、先輩と休憩時間が同じになった。
まかないを一緒に食べた後、会話をした。
「先輩は文芸部ですよね?なんで、ですか?」
「いや、書く方は正直得意ではないけど、読む方は好きだから。図書委員でもよかったけど、そうするとバイトができないから」
「どんな本を読むのですか?」
ライトノベルと言うかと思ったら。
「今は太宰を全部、読もうと思ってチャレンジ中。太宰は青空文庫で公開されているから、貧乏な俺でもどんな作品にも手が届く」
家に帰って、青空文庫を調べた。
なるほど。
スマホに電子書籍ビューワーをダウンロードして、wikipediaを調べ、太宰治の代表作の人間失格を読み始めた。
現代国語、課題図書以外の読書は久々だったがおもしろかった。
読書がこんなに楽しいとは。
そして文芸部に入部しようと思った。
文芸部の部室は高校の部室棟にあるはずだから、そこに行けばいいだろう。
翌日の放課後、文芸部の部室へ行き、ドアをノックした。
そうしたら、先輩が出てきた。
「あれ、どうしたの?」
「私、文芸部に入部したいのですが」
「ああ構わないけど、まだ部長が授業中だから、中で待っていて」
そうして、部室に通された。
部室は会議室机と折りたたみ椅子、そして大量の本がささっている本棚があった。
先輩以外の部員はいなかった。
「しかし、どうしてまた文芸部に」
まさか、先輩ともっと長く一緒にいたいとは言えなかった。
私の気持ちに気づいて、先輩!
79:神田雄大
24/06/21 22:17:38.08 .net
先輩、背中ががら空きでしたよ
202X年。
コロナウィルス、香港の沈静化を共産党政府はできなかった。
そして、民主化を求める勢力が台湾と手を結んだ。
当然のことながら、その後ろにはアメリカがいた。
共産党政府はロシア、北朝鮮を国内の支配のために招き入れた。
そして、中国大陸は内戦状態となった。
私は民主化同盟の狙撃手、スナイパーのマークスマンをやっていた。
マークスマンはスナイパーをアシストしたり、狙撃中に敵の強襲からスナイパーを守ったりします。
よくゴルゴ13とかマンガだと、狙撃手が一人ですが、実際の軍隊の狙撃ではまずそんなことはありません。
マークスマンがいないと狙撃任務はできません。
マークスマンが狙撃のあたりをつけたりして、狙撃手は視界の狭いスコープで狙撃手を狙います。
スナイパーはセミオートの狙撃銃を使うので、いざ敵が襲ってきても連射ができません。
一方、マークスマンは基本的にはアサルトライフルをベースにした短距離の狙撃にも使え、連射もできるオートマチックの銃を使います。
今、私がマークスマンをやっているのは、訓練所で教官だった先輩です。
狙撃の腕は1,000m先のターゲットも狙える、凄腕です。
私も先輩ほどではないですが、自分で言うのもなんですが、スナイパーとしては優秀でした。
だからこそ、先輩のマークスマンとしてコンビを組むようになりました。
80:神田雄大
24/06/21 22:17:46.10 .net
この文章が公開される時には、中国は民主化され、私の名前も出せるのですが、今はまだ内戦中なので、名前は伏せます。
ただ、19歳の女性だと言うことまでは公開します。
高校を卒業して、民主化同盟に志願兵として入りました。
訓練の適正検査で狙撃に向いている、いえ耐えられる人間性。
過酷な環境でも耐えられるメンタルの持ち主。
格闘技で自分の身を守れることから、スナイパーとして訓練されました。
スナイパーも狙撃の時には当然、ハンドガン、ナイフを持って、最低限の武装はします。
ただ、狙撃時は重くて長い狙撃銃を持ち歩くので、普通の陸兵の使うアサルトライフも同時には持ち歩けないので、ハンドガンとナイフで最後は戦うことになります。
そのために狙撃時はマークスマンがいます。
それができるために先輩のマークスマンになり、いざと言う時に先輩の背中を守るためにマークスマンになりました。
もう内戦も終わりかけの頃の話です。
共産党政府の最高指導者を狙撃するチャンスを見つけました。
ただ、狙撃ポイントはベストとは言えないところです。
とは言え、内戦を終わらせるためのチャンスでした。
ビルの屋上からターゲットを狙うためにはビルの合間からやっとでした。
事前に場所を確認もできませんでした。
最高指導者が演説をするので、街も厳戒体制でした。
なんとか私たちは味方の情報収集したポイントに演説の直前に陣取りました。
そして、最高指導者の演説がはじまりました。
81:神田雄大
24/06/21 22:17:55.87 .net
「先輩、かなり弾道が限られますので、ワンショットで決めてください」
「わかっている」
先輩と私は最高指導者の演説が行われるところを見ながら話した。
先輩はこういう時でもリラックスしている。
かと言って、緊張をしていないわけでもない。
集中力が並外れていた。
だから、民主化同盟でトップの狙撃手だった。
「先輩、ターゲットが狙撃ポイントに向かっています。狙撃ポイントに立ったら、即、トリガーを引いてください」
「OK」
ターゲットは来た。
先輩はトリガーを引いた。
当然のことながら、ヘッドショットを狙っていた。
だが、顔の前を抜けた。
狙撃直前に現場に入り、気象状況も調べられなかったから、当然だ。
長距離になればなるほど、気象状況の影響を受ける。
この日は空気が湿っていた。
そのため弾道がややそれた。
すわ、階段から足音が聞こえてくる。
本来はワンショットで決められれば逃げられる状況の想定だった。
先輩は落ち着いた声で。
「もう、ワンショット狙う。背中を任せたぞ」
先輩は弾丸を装填しなおして、狙撃体制に入った。
刹那。
屋上の入り口に人民解放軍の部隊が五、六人入ってきた。
私は、階段から自分のアサルトライフルで対抗した。
ただ、狙撃も兼用しているアサルトライフルなので、すぐに弾は切れた。
もう、マガジンを交換している時間はない、すぐにアサルトライフルを捨て、拳銃を腰を引き出し、狙いを定めた。
しかし、人民解放軍も精鋭だ。
二人、仕留め損ねた。
一人とは格闘戦になった。
82:神田雄大
24/06/21 22:18:04.47 .net
もう一人は先輩に向かう。
先輩、気づいて。
逃げて!
だが、先輩は狙撃に集中していて気づかない。
兵がアサルトライフを撃とうとするより早く、先輩はトリガーを引いた。
そして、私は「先輩!背中!」と叫んだ。
先輩は狙撃銃から手を離して、すぐに狙撃ポジションから離れた。
先輩は、ナイフを出し、兵へ向かっていき、胸を刺した。
一瞬だった。
そこで、私と格闘戦をしていた兵もひるみ、隙が生まれ、私も拳銃を撃った。
そして、私たちは屋上から逃走した。
先輩は、ビルの入り口を出て。
「いけね、銃を置いてきた」
「ところで、当たったのですか」
「わからねぇ」
「当分、台湾にでも逃げましょう」
「そうだな。屋台で朝かゆでも食うか」
一週間後、世界中のメディアで大陸中国の民主化政府樹立のニュースがめぐっていた。
私と先輩は、台北で小さなアパートを借りて暮らしはじめた。
先輩は、あの時、私が「背中!」と言ってくれなかったら、この生活ができなかったと言ってくれた。
いつも先輩は背中ががら空きで、後ろから私に抱きしめられる。
83:神田雄大
24/06/21 22:18:28.91 .net
保健室に登校する先輩
私は、微分の宿題でわからないところがあったので、先輩に教えてもらおうと思い、教室、そして部室に行った。
先輩は文芸部の同じ部員であった。
いつも、勉強でわからないことがあると教えてもらっている。
しかし、先輩は教室にも部室にもいなかった。
そこで、保健室に行った。
仕切られているベッドをのぞくと先輩が寝ていた。
すやすやと子供みたいな表情してぐっすりと寝ている。
先輩は愛嬌のある顔をしている。誰からも好かれる顔だ。
起こすのが普通ははばかられるが、もう放課後だ。
起こすのは構わない。
このまま寝ていたら、学校が終わってしまう。
私は先輩の鼻をつまんだ。
先輩はあわてて起きた。
「まんじゅう食べたい」
先輩は寝ぼけている。
私は、先輩に声をかけた。
「先輩、もう放課後ですよ」
「あれ、俺、そんなに寝ていた」
「何時限目から寝ていたかは知らないですが、そうですよね。ところで、昨日もまた小説を書いていたのですか?」
「うん、つい筆がのって。待ってくれているファンがいるから」
先輩はWeb投稿サイトで常にランクのトップクラスにいる。
商業化の話は来ているとも聞いている。ただ、それを先輩に訊くとぼやかされる。
「まぁ、いいですよ。それより、一応、登校しているとは言え、進級は大丈夫なんですか」
「俺、友達がいい奴ばかりだから、テストは問題ない。先生も見逃してくれているから」
そうなのだ、先輩は少なくとも授業の半分は保険室で寝ていて、出席をしていない。だが、テストではトップの下のあたりで悪くないポジションにいる。上位校の大学受験模試でも問題ないレベルだった
やればできる先輩だった。
それを意識して嫌味を言った。
ちょっと気づいて欲しいと思った。
「先輩、まじめに勉強すれば、学年の十位には入れますよ」
84:神田雄大
24/06/21 22:18:44.74 .net
そう言った時に先輩の同級生が入ってきた。
「おお、いたいた。この統計の応用問題を教えてくれない?」
その人は問題のプリントを先輩の前に出してきた。
先輩は問題を一瞥すると、プリントに公式を書き始めた。
「なるほど、そういう見方をするわけか。お前は、応用問題に強いんだよなぁ」
「まぁ、お前がいつも貸してくれるノートがいいからだよ」
当然のことながら、先輩は保険室で寝ていることが多いから、ノートを同級生から借りる。
だが、地頭がいいのだろう、基礎はすぐ身につける。そして、応用をできる。
だから、同級生も先生も一目を置いている。
そして、人柄も同級生からも愛されている。
気づいて先輩、先生、同級生からも愛されていること。
だから、授業に出て。
「と言っても、お前だからノートを貸しているんだよ。他の奴だと、俺のレベルのノートを読めないよ」
この人は、学年上位の生徒だった。
「そうか、このレベルなら中学からちゃんと勉強していればわかるぞ」
「本当、お前がうらやましいよ。そんな簡単に基礎をマスターするなんて。じゃあ」
そう言って、同級生は去って行った。
会話のない空気が流れた。
なんとなく気まずくなった。
そこで、私は先輩の連載している小説の最新話の感想を話した。
「そういえば、先輩、読みましたよ」
「おぉ、そうか」
「伏線を回収していますね。まさか、こういう風になるとは思いませんでした」
先輩はちょっといかつい表情になった。
「他の連中には言うなよ。あれはな、最初の頃の自分で書こうと思っていた展開からずれてきているんだ。ただ、キャラクターたちが動きはじめて、伏線回収を意外な感じで書けたんだよ。俺も書き手としてまだまだだよ」
先輩、それは天才と言うのです。気づいてください。
「だから、自分の思うような物語を書けないうちは商業化を断っているんだ」
先輩はある意味、青春を犠牲にして小説と対峙している。
85:神田雄大
24/06/21 22:18:49.70 .net
保険室に登校するのもしかたがないか。
ただ、この先輩は自分で気づいていないだけで才能にあふれている。
先輩が気づけば、人の上に立つだけの度量もある。
先輩が自分の才能に気づけば、小説家としても出るところに出て勝負できる。
気づいて、先輩。
86:神田雄大
24/06/21 22:19:13.73 .net
青百合
放課後の高校の体育館裏。
青百合先輩と私の二人きりになった。
先輩の胸にナイフを刺した。
そして、先輩に口づけをした。
そこで先輩は、やっと私の愛に気づいた。
「私を愛していたのね」
「そうです。これで先輩は永遠に私のものです」
「ああ、私があなたの愛に気づいていれば。私も愛していたの」
そこで先輩は気づき、私も先輩の愛に最後に気づいた。
私は新体操部に所属している女子校生。
私の学校は女子校だった。
よくある話だが、先輩に憧れ、女子同士で付き合う生徒もいる。
私は入学当初はそういうのもさめた目で見ていた。
だが、新体操部に入部して、先輩の演技を見て、心変わりした。
私は中学校で体操をやっていて、高校に入り新体操にした。
先輩は、背は平均より若干高いぐらいだったが、スリムな体型でモデルのようだった。
街を歩くとスカウトに声をかけられることもあると言う話だった。
先輩はバラと言うより、青百合だった。
バラほどの派手さはない。
だが、品がないのとは違う。
和風の美しさがあり、そのため青百合と呼ばれていた。
私は背も小さく、まだ幼児体型で、そこはコンプレックスだった。
だから、人の倍の練習をした。
そんな私を青百合先輩は気に入ってくれたのか、よく練習の指導をしてくれた。
先輩の指導のかいもあり、市の大会では上位に入り込めた。
「あなたが、練習熱心なのはいいことよ」
「才能も器量もないからです」
「でも、才能も器量があっても練習をしないと行けないゾーンはあるのよ」
事実、青百合先輩は部の誰よりも練習していた。
87:神田雄大
24/06/21 22:19:34.63 .net
みなが帰った後も練習していることはたびたびあった。
段々、それを私が付き合うようになり。
いつの間にか恋人関係になっていた。
それの関係が崩れたのは、私が二年になり、新入部員が入ってきたからだ。
その中にバラのように背も高く、縁起もうまい子がいた。
中学時代も体操の全国大会で入賞していた。
青百合先輩は、その子に最初はライバル心を燃やしていた。
だが、その子はなんと、人格まで美しい子だった。
先輩への挨拶、気遣いは行き届いて、その上、演技もうまい。
青百合先輩の気持ちがその子に移っていくのも当然だった。
ただ、気づいてほしかった。
先輩を一番、愛しているのは私だと。
ある日の、練習後、バラのような後輩と青百合先輩が体育館裏で口づけしているのを見た。
私は、もう青百合先輩の恋人ではないと気づいた。
だが、先輩にさよならと別れを告げたかった。
それを先輩に気づいて欲しかった。
だから、先輩を体育館裏で同じように呼んだ。
私の愛に最後に気づいて欲しかった。
88:神田雄大
24/06/21 22:20:12.02 .net
ビターだけどスィートなチョコレート
今日はバレンタインデー!
昨日は定時で帰宅して、ベルギー製のチョコレートを買ってきて、それを溶かして、主任のためのチョコレートを作ったの。
型は自分で苦労して作った、猫柄。
それにホワイトチョコレートでデコレーションしたわ。
主任の喜ぶ姿が目に浮かぶ。
今年こそ、主任が気づいて欲しい。
会社へ出勤した。
私は入社三年目の人事部所属のビジネスパーソン。
来年で四年目になる。
最近は採用活動を最初から最後まで任せられるようになったの。
それも、先輩である主任から仕事を教えてもらったから。
主任は私より二年先輩。
冴えないメガネをしているけど、髪は短めでさっぱりしていて、ビジネスカジュアルのコーディネートもセンスがいい。
素直に言えば、ライバルは多い。
たまに手を休めて、メガネをはずして目薬を差したりしていると、結構、イケメンとわかる。
他の部の女子たちも、それを見逃してはいない。
仕事もでき、部長、課長からは信頼されている。
実際、主任が採用を推した人々は実績をあげて活躍している。
採用だけでなく、人事異動でも適材適所の配置を部長、課長に提案している。
つまり、女性だけではなく会社全体でもてる男性なのだ。
先輩は、既に出勤していて、スケジューラーとシステム手帳をチェックしていた。
こういう自己管理ができるところが素敵。
ただ、チョコレートを渡すなら、今がチャンス!
「主任、ちょっとよろしいですか?」
私は主任に声をかけた。
「ああ、構わないけど」
と主任が言った瞬間に主任の前の席の課長が言った。
89:神田雄大
24/06/21 22:20:44.98 .net
「ああ、ちょっと、この書類をチェックしてくれないか」
先輩は課長のところへ向かいつつ、私に言った。
「ごめん、用件は見当がついているから、机の上に置いておいて」
さすがに主任は、今日はバレンタインデーと気づいていたか。
しかし、あっけない対応でちょっとがっかりした。
気づいてよ、主任。
お昼休みを過ぎて、ちょうど手が空く頃。
主任は私に声をかけてきた。
「ちょっと、リラックス・スペースに行けるか?」
私は、どきどきした気持ちになった。
「ええ。大丈夫です」
主任と私はリラックス・スペースへ向かった。
主任は私の前をほどよいペースで歩き、私をきづかってくれていた。
主任はちょっと人が固まっていないところへ私を座るように促した。
「ええと、ミルクティーでよかったんだっけ?」
「はい。あ、お金」
「なに、お返し。おごるよ」
あらら。ずいぶん、安いバレンタインデーのお返しだ。
今年も気づいてくれなかったのかな。
主任は自動販売機から、ペットボトル入りの私のミルクティーとブラックの缶コーヒーを持ってきた。
「あいかわらず、ブラックなんですね」
「ああ。甘いものはどうも苦手でね」
「そうでしたね」
「まず、チョコレートありがとう。昼休みに食べたよ。お前、よく俺の好みがわかったな。ビターチョコレートにデコレーションはスィートチョコレート。それで俺が好きな猫の形」
先輩は、笑みを浮かべた。
「主任、喜んでいただけましたか」
「ああ、うれしかったよ。去年はゴディバだったよな?」
「ええ、奮発しました。ただ、先輩はどうも喜んでくれなくて」
先輩は、ちょっと恥ずかしげな表情になった。
90:神田雄大
24/06/21 22:20:49.59 .net
「まぁ、うれしかったのは事実だけど、どうにも味が好みではなくてね。でも、ちゃんと食べたよ」
「それを聞いて、安心しました。今年はちょっと主任のことがわかってきたので」
私も恥ずかしげに言った。
「ああ、お前も成長したと思ったよ。よく、人を見る目ができてきた」
「また、主任は口がうまくて。どうせ、他の女性(ひと)からももらったんでしょ」
ちょっと、私は意地悪をして反応を探ってみた。
「去年はね。ただ、今年はお前から以外のチョコレートは部の女性全員からのイベントチョコ以外はもらっていないよ。筋を通すために断った」
私は、驚いた。やさしい主任がなぜ、そんなことをするのだろう。
「それでホワイトデーなんだけど、ちょっと遅れるけどいいかな?」
私の頭の中は疑問符だらけになった。
「まぁ、意味がわからないのよな。順を追って話すよ。まだ、内々の話だから他言無用で」
「はい」
私は、バレンタインデーのお礼がなんでこうなるのか、ますますわからなくなった。
「お前は、次の人事異動で主任に昇進が内定している」
「え!?私が」
「まぁ、採用活動を一通りこなせて、後輩のトレーニングもできるようになったし、ポジションをあげて、新たな経験を積ませるほうがいいだろうと部長、課長と俺の総合判断だ」
「でも、私が主任なると、主任は?」
私はまたまた混乱した。
「新人時代から相変わらずだな。まぁ、そうやって疑問を正直に言えるところが逆に長所でもある」
先輩はちょっと笑った。
「俺は、課長へ昇進する。だから、それまで返事を待って欲しいんだ。しかし、お返しは俺、一人では選べないな。指のサイズは人事で管理していないからな」
先輩は真剣な表情をして、私を見つめていた。
私の思いに気づいてくれたのですね、主任。
えーと、せっかくのこのシーズンなのでバレンタインデーネタで攻めてみました。
さて、10作あげて切りがいいので今作を今回の文戯への投稿の最後の作品とします。
まぁ、個人的にちょっと連続して書いて、本当の自分の持っているテーマで勝負したいと思っているので。
どこか、また他の場所で会いましょう!