【創作好きの女集まれ!】女性専用創作雑談スレat BUN【創作好きの女集まれ!】女性専用創作雑談スレ - 暇つぶし2ch■コピペモード□スレを通常表示□オプションモード□このスレッドのURL■項目テキスト556:明石 22/03/20 12:50:15.71 .net 昼から夕方まで、濡れ縁に胡座をかいていた。 金木犀の季節であった。 私は生まれついての短気で、興が醒めればすぐ立ち上がってしまう。 その後に手を付けることもなければ、狭い家の中を彼方此方と歩き回る癖すらある。 先日などは、とうとう台所に立ち入って、家内に小言を言われた。 庭の松の木をいつまでも眺めていられるような、老爺気質はとんと持ち合わせてはいない。 それでも私は、川に縫い針を垂れる太公望の如く、濡れ縁に居た。 無論、文王を釣る腹積もりのあるはずもない。 竹垣の向こうに、足音が増えてきた。 私の家の垣は低く、行き交う人々の首がひょこひょこと見える。 運動を終えた学生どもやら、仕事仕舞いをした職人やら、夕の買い物を終えたご婦人やら。 人が歩けば風が吹く。 風が吹けば向こう隣の金木犀が香る。 秋であるのに、風の無い日だったのだ。 私はやっと得心して、部屋に戻った。 金木犀は確かに私の鼻孔を通った。 それで今日の仕事は終わったつもりになっている。 私の一日は、あの金木犀であった。 何故に金木犀に固執していたのか、私自身にもとんと分からぬ。 けれども季節の花が、花弁を開いておきながら香らぬというのは、なんとももどかしいことである。 私は竹垣の向こうに金木犀の梢を見ながら、その香りの運ばれてくるのを待っていたのだ。 老爺のような秋雲の心境ではなく、黄色いちらちらした花に、香りのないのを焦れながら、である。 焦れながらといっても、不思議と不快ではなかった。 オオギュスト・シャルティヱの言うに、ねじれ錐で石壁に穴を穿つ、気の遠くなるような仕事を、鼻唄をうたいながらやる左官屋は幸福だそうである。 私はこの濡れ縁で、目には写らぬ、ねじれ錐を回していたのやも知れぬ。 思いのほか身体が冷えていて、女中に綿入れを出してもらった。 綿入れからは、樟脳の匂いがした。 確かにこれも金木犀の如く、季節に香るものに違いない。 樟脳の匂いにくるまれて、鼻の奥にはまだ金木犀が残っている。 これは夢に出てくるなと思った。 次ページ最新レス表示レスジャンプ類似スレ一覧スレッドの検索話題のニュースおまかせリストオプションしおりを挟むスレッドに書込スレッドの一覧暇つぶし2ch