18/09/26 13:16:22.73 .net
夕闇はとうに黒く塗りつぶされ夜空には星一つ瞬いてはいなかったが、その中に白々しい満月のみが嘘くさく咲き誇っていた。
すでに秋草の生命は燃えつき、F県F市の夜鳴き峠はとてもじゃないが薄着ではいられないほど冷え冷えとしていた。
薄氷がアスファルトに凛と無慈悲な月影を映し、鼻腔を新幹線のように突きぬける冷気が狛江犬矢に花咲く想いを起させる。
犬矢に友人はいない。遊ぶ仲間も、知人さえも人生のページをめくってみても存在しない。
パッとしない容姿に無口。赤面するほど恥ずかしがり屋で会話も不可能である。
そうした人生を消費するたびに彼は自分には友達ができないと諦観したのだった。
―現在大学生。友達なし、彼女のカの字もなきにも関わらずあるていど満足していた。
幽霊というのは実にすばらしい。狛江はニタニタと心霊地図なる書物をしみじみ思った。
彼は幽霊とか都市伝説だとか心霊現象が唯一の趣味であった。