☆地の文だけの描写劇場 Part1★at BUN
☆地の文だけの描写劇場 Part1★ - 暇つぶし2ch83:名無し物書き@推敲中?
18/06/22 15:36:04.02 .net
人の良さそうなその医者はレントゲンの作る
陰影を凝視していた。
それから伺うようにちらりと視線を私に向けた。それが告知の始まりだった。
いや、告知というよりは現実感の崩壊といった方が正しいのかも知れない。
何にせよ事実は一つ。肺の末期癌。 告知の一週間後私は会社を辞めた。どこか遠くに行きたいと思い、仙台駅に向かう。
神戸で降りたのは気まぐれだった。それから数日、 私はポートタワーにほど近い
ホテルに泊まっていた。 ここはタクシーの運転手の紹介だ。大阪とは違う神戸ならではの
ディープさを 堪能したい旨を伝えると、彼はまず予算を訊いてきた。
私は金に糸目をつけないと答える。どうせ末期癌、遺産を遺す家族もいない。
豪遊をしてやろうと私は思っていた。 本気の度合いを確かめるように
運転手はバックミラーごしにちらりと見てくる。 告知時の医者の視線を思い出す。
現実感の喪失もぶり返す。 同時に男に対して拒否感を覚えた。
今もそれは変わっていない。 私はあの運転手とは親しくなるべきではない。
頭のどこかが痺れて、 現実感が失われたままそう思う。
一泊一万円もしないこんなホテルで、 何故こんなパーティーが催されているのか。
少し歩けばポートタワーだ。 こことあそこが地続きという事が信じられない。
目の前では老婆が胎児を逆さにつらして薄切りしている。
下に置いた皿に受けた血液は ソースにするらしい。 皿の金属のはしに
飛沫を作る赤に気が遠くなる。だが匂いは何故か柔らかい。
老婆とそれの横では、真っ裸の女が大股を開いて、息も絶え絶えだ。
つい先程老婆に胎児を摘出された彼女はまだ若い。十代だろうか。
係員に促されるままに彼女の中に、肉の空洞に
腕を差し入れる。
温かく、柔らかく、そしてどうしようもなく懐かしい感覚に腕が包まれる。
手首の先が亀頭になったような感覚に、私は滑稽を感じた。
笑いが気道をせりあがる。吐き気のように、こらえるのがきつい笑い。
それが一度口から漏れると、もう耐えきれない。 せきをきったように
私は 大笑いをした。笑い過ぎて涙が出る。
腕は女の中に突っ込んだままだったが、 私を侵している肺の末期癌に由来する絶望は
綺麗に胸から消えていた。 私はひたすら、狂ったように笑い続けた。


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