☆地の文だけの描写劇場 Part1★at BUN
☆地の文だけの描写劇場 Part1★ - 暇つぶし2ch72:名無し物書き@推敲中?
18/06/22 15:13:01.69 .net
神戸に着いて数日、私はポートタワーにほど近いホテルに泊まっていた。
ここはタクシーの運転手の紹介だ。大阪とは違う神戸ならではのディープさを
堪能したい旨を伝えると、彼はまず予算を訊いてきた。
私は糸目をつけないと答える。どうせ肺の末期癌、遺産を遺す家族もいない。
豪遊をしてやろうと私は思っていた。
本気の度合いを確かめるように運転手はバックミラーごしにちらりと見てくる。
こういう眼に私は覚えがあった。癌健診の結果を訊いて伝える医者。
年齢は50代の同年代だ。カラオケにでも一緒に行ったら、確実に
80年代ソングを歌う。お互いしたたかに酔いでもしたら肩でも組むかもしれない。
そう思えるような人の良さをあの医者には感じたが……この男には無理だと
思ったし、今もそれは変わっていない。
私は彼とは親しくなれない。なるべきではない。頭のどこかが痺れて、
現実感が失われたままそう思う。一泊一万エントリーもしないこんなホテルで、
何故こんなパーティーが催されているのか。
少し歩けばポートタワーだ。
こことポートタワーが地続きというのが信じる事がない。
目の前では老婆が胎児を逆さにつらして薄切りしている。下に置いた皿に受けた血液は
ソースにするらしい。
皿の金属のはしに飛沫を作る赤に気が遠くなる。だが匂いは何故か柔らかい。
老婆とそれの横では、真っ裸の女が大股を開いて、息も絶え絶えだ。
つい先程老婆に胎児を摘出された彼女はまだ若い。十代だろうか。
係員に促されるままに彼女の中に、肉の空洞に
腕を差し入れる。
温かく、柔らかく、そしてどうしようもなく懐かしい感覚に腕が包まれる。
手首の先が亀頭になったような感覚に、私は滑稽を感じた。
笑いが気道をせりあがる。吐き気のように、こらえるのがきつい笑い。
それが一度口から漏れると、もう耐えきれない。
せきをきったように私は 大笑いをした。笑い過ぎて涙が出る。
腕は女の中に突っ込んだままだったが、 私を侵している肺の末期癌に由来する絶望は
綺麗に胸から消えていた。
私はひたすら、狂ったように笑い続けた。


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