この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十七ヶ条at BUN
この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十七ヶ条 - 暇つぶし2ch83:「ヘビ」「酒」「コタツ」
12/12/15 03:49:58.88 .net
亡骸を財布に入れると金運に恵まれるというので少しは重宝している。いや、抜け殻のことだ。
しかし脱皮の度にこうも長く、太く成長されては出ていく金の方が多くなる訳で、
結局福の神と言うよりは貧乏神と言う位置に収まっている。祟れるものなら祟ってみやがれ。
単身者には不釣り合いにも程がある長方形のコタツも、ただこの一匹の為に買ったもので、仲間内で飲み会を開く分には良いのだが、
こんな陰気なペットを飼っている部屋に上がろうと思うのは野郎ばかりだ。私には部屋を男ばかりで埋める趣味はない。
訂正。少しも重宝していない。
兎角、注文が多い。腰を伸ばしたいから長いコタツにしろだの、猫舌だから酒はぬるめにしろだの。そ
そもそもお前は変温動物だろうと、言えるものならば言ってやりたい。
「おい、サキイカまだか。早く炙れよ。焦がすなよ」
「はい、ただいま」
上の台詞は蛇足と察して忘れて欲しい。私だって、この手の生き物は本当は物凄く嫌なのだ。

※都合上、「ヘビ」を「蛇」と漢字表記致しましたこと御了承願います。

次は「野菜ジュース」「麺棒」「警察官」で

84:「野菜ジュース」「麺棒」「警察官」
12/12/16 11:10:07.52 .net
中華料理屋の店主と主婦が揉めている、という通報で駆けつけると、店主は麺棒を振り上げ
怒鳴っている。外に飾っていたクリスマスツリーが盗まれたというのだ。
主婦は近所でも手癖が悪いと評判で、この女がやったに違いないと店主は鼻息も荒く俺に
訴えかけてくる。一方の主婦は知らん顔で紙パックの野菜ジュースを飲んでいる。
面倒なことになった、と思っていると、まわりの人だかりを押しのけるようにして一人の
少年が割って入った。
「僕は高校生名探偵。解けない事件はない」
やれやれ、またややこしい奴が。そう思っていると、少年は思いもよらぬことを口にした。
「わかったぞ!犯人は警察官のあんただ!」
俺に向かって指を突きつける少年。どういう頭の構造をしていたらそんな結論に飛びつけるのか
頭を割って確かめたくなる衝動を俺はこらえた。
「その根拠は」
「クリスマスツリーはモミの木。警察のあんたが『モミ消した!』」
自信満々に言う少年。なぜか周囲も俺に疑いの目を向ける。おい待て。そんなはずないだろう。
やめろ俺をつかむんじゃない。痛い!うわあ助けてくれ

次「お経」「豚肉」「香水」

85:「お経」「豚肉」「香水」
12/12/19 23:03:14.45 .net
その部屋に入ると、爽やかで、なんとも優しい匂いがほのかに香った。
すでにその部屋にいた研究員2名も、見たこともない穏やかな表情をしている。
何かやわらかい空気に包まれているような心持がする。
「揃いましたね」と先にいた2人うちの一方が口を開いた。
もう一方が、テーブルに載せられた皿に目をやり、おもむろにナイフを取り上げた。
「従来の生産方法のベーコン、よく運動させた豚のベーコン、最後に・・・」
ここにいる3人は、みな、これからここで行う試食の目的は知っていた。
「お経を聞かせて飼育した豚のベーコン。それぞれ、どれかわからないように
A、B、Cとしておく」
3人それぞれが試食後に意見をまとめたところ、
A:運動した豚の肉。やわらかさと身の締まり方のバランスが良い
B:従来の生産方法による。特に個性はない
C:とろけるような甘み、豚肉とは到底思えない甘い香り、これこそ、お経をきいたもの
実際、それが正解だった。今後の畜産界では、クラシックよりお経が流行るやもしれぬ。
「この香り、香水にできるんじゃないですか。いっそ媚薬と偽れるレベルの」
僕のほんの軽口だったが、まじめ一方の他の2人も意外にも賛意を示した。
そう、3人とも、この部屋に入った瞬間から、この香りのとりこだったのだ。
お経を聞かされ、子豚たちは何を考えたろう。悟りの境地を見ただろうか。
いな、この甘美な香りを生み出すとは、人間への復讐ではないか―

次「写真たて」「コート」「ハイソックス」

86:「写真たて」「コート」「ハイソックス」
12/12/23 03:04:05.44 .net
夏休みが終わって、山田が大学に来なくなった。携帯に電話しようとしたが、
奴は携帯をもっていなかった。まあ子供でもあるまいし、それで退学しても
本人の勝手だ。が、友人のひとりとして様子を見に行くことにした。
トントン。これはノックの音である。山田のボロアパートに呼び鈴はなかった。
返事がない。ドアは開いていた。おそるおそる開けて中を覗くと、なにやら
人影が動いている。部屋のなかは異様に甘ったるい匂いが充満していた。
「おーい、山田ァ」声をかけると、奥でばたばたする物音がした。と、
「あたし帰るね。じゃ」
そういって飛び出してきた女の子を見て、ぎょっとした。まず若い。大学生じゃ
ないだろう。そしてその格好だ。裸の肩にコートを引っ掛け、両足に白いハイソックスを
履いている。それ以外は……素肌だ。
女の子はこちらには目もくれず、飛ぶように外へ出て行った。俺はびっくりして、
数秒逡巡したあと、部屋の中に声をかけた。
「お、おい、いいのかあれ、捕まるぞ」
「ああ、佐藤か……大丈夫、部屋から出ると消えるんだ」
山田の説明はこうだ。この男、夏休み中についに2D-3Dコンバータを発明した。
いっけん写真たてに見えるそれは、中に好みの絵を入れてスイッチを入れると、
絵の内容を立体化してしまうのだ。
「まだ試作品でね。絵は裸のみ、服は写真たてに着せて起動する必要があるんだ」
見ると、写真たてには人形用の小さなコートが掛けられており、木製の脚には
白いハイソックスを履かせてある。
「さっきのあれ、驚いたろう。でもあの格好は実験の都合さ。僕は変態じゃないよ」
「そうかねえ。そもそもなんで写真じゃなくて絵なんだ?」
「3次元を2次元化したものを3次元にしてもしようがないだろ。お前は夢がないな」
しかしヘンだ。2次元を3次元化したにしては、さっきの少女に違和感がなかった。
「それはお前、俺もお前も2次元だからさ。最近の小説は中が2次元だったりするんだよ」
これはひどいメタ発言だ。が、言わんとすることはなんとなくわかった。
しかし、作中作が2次元でも、作中は3次元という建前ではないのか?
これは、読者への宿題としておこう……。

次「クリスマス」「マッチ売り」「消防車」

87:「クリスマス」「マッチ売り」「消防車」
13/01/04 11:54:01.90 .net
白い湯気が早朝の町並みに広がって溶ける。
コンビニエンスストアーから出てきた啓太の息も、煌めく空に吸い込まれていく。
今日は良い天気になりそうだ。人通りがほとんどないが、どこか温みのある
新年4日の街並みに、啓太の心は少し弾んだ。
高速バスのチケットの予約を忘れていて、人より早い帰省と戻りになった。
学生向けのアパートの多い界隈はやはりしんとしている。
木造アパートの一階。玄関のドア、新聞受けに腕を突っ込む。
約束通り鍵が入っていた。
ドアを開けると少し籠もった、アルコールと飲食物の臭いが残っていた。
窓を開けて換気する。茶を淹れるのにヤカンを火にかける。
部屋は綺麗に片付いている。律儀な奴らだ、と啓太は友人達を思う。
携帯を出してメールを打ちかけたが止める。先に玉子サンドを食べることにした。
冷蔵庫にはジャックダニエルが少し、冷凍庫にはクリスマスケーキの残りが入っていた。
苺のケーキはホール半分近く、残っている。
マッチ売りの少女らしいマジパンを外して、微妙に電子レンジする。
強烈に甘い。味もデコレーションも凝っているのに不器用な……手作りケーキと思われた。
深夜バスでしっかり眠れていない。啓太は胸焼けに任せて、うとうと眠りこけた。
夢の中で、マジパンのマッチ売りの少女が特大サイズのマッチをバトンのように
振り回していた。
けたたましいサイレンの音で目が覚める。窓の外にピカピカで真っ赤な消防車。
台所が煙い。「あっ。ヤカン!」

次は「うっかり」「宿題」「シンデレラ」でお願いします。

88:「うっかり」「宿題」「シンデレラ」
13/01/09 23:35:31.03 .net
高校生にとって、夏休みの最後に夜通し遊ぶ、それはちょっと悪ぶった、
大人のフリをした、でも当人たちはいたって真剣なできごと。
カラオケで盛り上がる中、ユカは「帰らなきゃ」と席から立ち上がった。
どうとでも言い訳はできそうなものを、ついうっかり、
「宿題がまだ残ってて・・・・・・」とユカはバカ正直に答えてしまった。
そろそろ時刻は深夜12時というところ。
「シンデレラかっ!」と一人が、そして起こる爆笑に見送られ、ユカはカラオケ屋を出た。
翌朝のリビング。「宿題もせずにほっつきあるける身分なの」とややヒステリックな
怒り声は母のもの。
「宿題手伝ってあげるよ、一教科5千円で」と手を差し出す長姉。
「宿題終わらなかったら罰としてこれからトイレ掃除はユカの仕事ね」と次姉。
どうにかすべての宿題を終えて始業式。
一緒にカラオケに行った友人たちから「おはよう、シンデレラ」なんてからかわれて、
恥ずかしいやら情けないやらだが、どこか秘密めいて楽しくもある、ユカである。
「おはよう、シンデレラ」とまた声をかけてきたのは、カラオケで隣の席にいた斉藤くん。
「忘れ物。ガラスの靴じゃなくて残念だけど」と差し出されたハンカチ。
野球部のエース、斉藤くん。ユカは彼からハンカチを渡されて照れくさい。
ちょっとユカがおとぎ話のお姫様になった気分を味わった、夏の思い出。

次「サクマドロップ」「美術館」「ライター」

89:「サクマドロップ」「美術館」「ライター」
13/01/15 16:20:52.52 .net
僕がこの美術館に隠れ住む様になって、すでに4日経っていた。
営業時間に合わせた生活も、すっかり板に着いて来たもので、開館後に客に紛れて外出し、閉館間際に客のふりをして戻り、
以前、警備員のおじさんが落としたこの倉庫の鍵を使い、そこに隠れるのだ。
何故、僕がこんな生活を始めたかというと、家に帰りたくなかったからだ。
両親を事故で失くした僕は親戚夫婦に引き取られたのだが、そこで待っていたのは辛い虐待の日々だった。
頼れる人は誰も居なかった。また僕の味方をしてくれる人も誰もいなかった。僕は一人で生きて行くしかしょうがなかったのだ。
ここで雨露を凌ぐことは出来たが、次に困ったのは食事だった。
外出の際にごみ漁りをして食料を確保するのだが、子供が昼間から学校にも行かず、ごみ漁りをしていると補導される恐れがあった。
慎重に場所や時間を選び、手に入れた今日の収穫はサクマドロップ缶一個だった。
中にたっぷりと水をそそぎ、微かに残るドロップの甘さで空腹を紛らわした。そういえば、昔見た映画に似た様なシーンがあったな。
あの映画に出てきた兄妹に比べれば、僕はまだ恵まれているのかも知れない。
拾ったライターの灯りを眺めながら、僕がぼんやりと考えているその時だった。
「誰かいるのか!?」
夜間の巡回をしている警備員のおじさんの声だった。
しまった。倉庫の隙間から洩れたライターの明かりのせいで気づかれてしまったのだ。
「なんでこんな所に……。君、事情を聞かせてくれないか?」
僕は自分のうかつさを呪った。もう終わりだ。あの家に戻され、僕は前以上に虐待されるのだろう。
全てを観念し、僕は警備員のおじさんに今までの経緯を全て話した。おじさんは泣いていた。
「こんな子供がたった一人で……。辛かったろう。もう大丈夫だからね、世の中には君みたいな事情の子を助けてくれる所があるんだ―」
僕はこの先ずっと自分は一人なんだと思っていた。でも、おじさんはそんなことないんだよと教えてくれた。
僕はもう一人じゃない。そう思えた。

次は「水色」「病院」「弁当」

90:名無し物書き@推敲中?
13/01/16 21:40:58.81 .net
次のお題、書いたけど、長すぎた

91:水色、病院、弁当1/3
13/01/16 21:50:46.46 .net
 その日世間が水色に見えて、私は病院に入れられた。
 入院させられた病院も水色だった。壁が水色、床も水色、医者が水色、看護師が水色、
聴診器、体温計、レントゲン写真、注射器、錠剤、病室のベッド。全てがクレヨンで塗りつ
ぶしたような水色だった。
 水色の世界はまんざらでもなかった。全部が間の抜けた水色で、全部が阿呆に見える。
待合室で怒鳴るおじさんも、愚痴の多い看護師のおばさんも、バレリーナが着るレオター
ドみたいな水色だからちっとも怖くない。水色の世の中なら悩み事を抱えなくていいから、
私は極彩色の世間での暮らしに終止符を打つことにした。
 病院の水色をした医者連中は、私をまともに戻そうと躍起になったけど余計なお世話だ。
他の色を見ないで済むという意味で、私は水色を手放したくはないから。
 しばらくして、私の目と水色の脳細胞から病の原因を見つけられなかった医者たちは私
を妙な場所へと連れ出した。そこはごみ溜めみたいに汚くて、窓ガラスにはヒビが入って
いた。もちろん全部水色だけど。そこは精神病棟ということだった。馬鹿を言っちゃいけ
ない、前世紀じゃあないんだから。私はどうしようもない狂人だと思われたのだろう。
 ガタガタになったドアを開いて診察室に入ると、中には逆様に吊るされた男がいた。
「君、何しに来たの?失恋の相談かな?俺は正規の医者じゃないんだけどなあ」
 逆様のまま男が言った。白衣(水色)を着ている様子を見るとここの担当医らしい。
「違います。私は世間が水色に見える病にかかったので、この病院に居るだけです」
「なるほど、それでこんな所に来たんだねえ。そんなに凄い大失恋だったんだ」
「馬鹿言わないでください」
 男の顔がニヤニヤして気持ち悪かった。
「私はずっと病院に居たいんです。水色以外の色なんて見えなくて十分ですから」
「あっ、そう」

92:名無し物書き@推敲中?
13/01/16 21:55:02.84 .net
 気味の悪い医者は診察室ではどうでもいい話をした。学校の話とか、友達の話とか、医者は私に聞いたけれど、
私はひとつも答えなかった。それから痛い話をした。生爪が剥がれたり、傷口が膿んだり、濃硫酸を飲み込んだり、
蝋燭の火で炙られたりスタンガンを当てられたり。私はそんなこと怖くありませんと言った。
 そのうち本当に気味の悪い医者の腕が千切れた。
 身体から離れた腕がイモムシみたいに転がって液体がどんどん溢れてきた。さすがのイ
カレ頭も表情を歪めていたが口の端にはニヤニヤ笑いが残っていて気持ち悪い。
「これ、痛いと思うかい?」
 私は頭を振った。
 気味の悪い医者は残ったほうの手で、床に溢れた液体を指差した。
「これ、何色に見えるかな」
「……水色です」
 ほとんど嘔吐しそうになりながら私は答えた。
「本当に水色に見えるのかい」
 もうこんな所に居たくはなかった。
「それなら次で最後にしよう。また明日ここに来なさい、俺は待っているから」
 翌日私は何かに引っ張られるようにして診察室に入った。昨日片腕を無くしたはずの気味の悪い医者が五体満足で椅子に座っていた。
「おはよう。君はそろそろ退院してもいいと俺は思うよ」
「……私はまともになんかなりたくありません」
 私はやっとのことで返事ができた。昨日こいつの身体から水色の液体が吹き出すのを見てからずっと気分が悪かったのだ。
「俺だってまともじゃあないさ」
 それは、知ってた。でも私が知っている意味とは違うことを言われた気がした。
 それから、短い会話が始まった。昨日までのように短くて意味の少ない会話だったけど、昨日までと違って、この薄気味悪い男は椅子に腰かけていた。
「この積み木は何色をしている?」
「水色です」
「そうだね」
「疑わないんですか」
「この積み木は俺から見ても水色に見える。赤色の積み木と違ってね」
「本当ですか」
「さあね。とりあえずこっちの積み木は赤色だ。俺には水色に見えない」
「それも水色に見えます」
「だろうね」

93:水色、病院、弁当3/3
13/01/16 21:58:37.17 .net
「水は何色に見えるかい?」
「透明です」
「恋なんて?」
「したことないわ」
「ふうん」
 気味の悪い医者は笑わなかった。
 こんな質問は入院したその日に飽き飽きするほどされたのだった。今更、私が他の医者たちに見捨てられた後に蒸し返してほしくな。
いい加減やめにして欲しい。私は疲れているのだから。
「いい加減にしてくれませんか。これ以上何が訊きたいの」
「俺が君と同じ年齢だと言ったらどうする」
「馬鹿言わないで」
 今日初めて気味の悪い医者が笑ったが、ニヤニヤ笑いではなかった。
「お弁当を食べないかい。入院食は飽きてるでしょう」
 気味の悪い医者が手にしたのは、まるい弁当箱だった。
「可愛いでしょう?俺のお気に入りなの」
 私は何も言わなかった。水色の顔した変態が、水色の丸い箱を取り出しただけだから。
可愛いどころか滑稽だ。真剣味も現実味も無くて、相手にするのも馬鹿馬鹿しい。
「お弁当の中身、全部水色なんですね」
「そうさ、君の目には水色に見えるだろうね」
 私自身も水色になってしまいたかった。気味の悪い水色に。
「そう頑なになる必要は無いよ、君も食べてみたいんでしょう、俺のお弁当」
 気味の悪い医者は玉子焼きを掴んだ箸を私の顔に向けていた。正直言って勇気が必要だった。
毒々しい水色の玉子焼きを口にすると、甘い味がした。
「味には水色なんて無いからね」
「ねえ、あなたが私と同い年って、本当なの?」
「信じるのは君次第だね。それよりも玉子焼きは美味しいかい?なんでも水色にしてしまう君相手でも、
味は誤魔化しが利かないからね。俺は気合を入れて作ったんだよ」
「そうね、誤魔化しなんてできないわ」
 私は口にした物を飲み込んで言った。
「この玉子焼き、少し焦げてるよ」
 聞いたサイコ野郎は笑ったが、その顔は水色に見えなかった。
終わり。長々済みません。次は「ガム」「ねこじゃらし」「自動車」で

94:「ガム」「ねこじゃらし」「自動車」
13/01/18 19:50:39.71 .net
 ―『ガムを食べる猫を見つけた人はお金持ちになれるらしい』

 こんな馬鹿馬鹿しい都市伝説を真に受ける程、我が家は貧困にあえいでいた。
「ネコさん全然ガム食べに来ないね。お父さんあれボクが食べてもいい?」
 つっかえ棒をしたザルの下にエサとして置かれたガムに、涎を垂らしながら六歳になる息子がわたしに訊ねた。
わたしの事業の失敗と妻の父親の借金が重なり、来年小学生だというのにランドセルすら買い与えてやれそうにない。
「地面に落ちたものを食べるとお腹を壊しちゃうからね。やめておきなさい」
「え~、でもお母さんは昨日落ちてたドーナツ半分こしたときそんな事いわなかったよ?」
 このままでは我が家はどこまでも落ちてしまう……。早くガムを食べる猫を見つけなければ、焦燥感に駆られているその時だった。
「アナタ!居たわ!そっちの方に逃げたから捕まえて!!」
 別の場所で罠を張っていた妻の声だった。確かに前の道をお魚ならぬ、ガムを咥えた猫が猛スピードで駆けて行った。
「逃がすかー!待てガム猫!」
 急いで追いかけ、角を曲がったわたしに自動車が突っ込んできた。激痛と共にわたしの体は宙を舞った。
「アナタ!しっかりして!!」
 一緒に猫を追っていた妻が倒れたわたしに寄り添う。手に持っているねこじゃらしがくすぐったい。
 だんだんとわたしの意識が遠退いて行くのを感じた。そうか、わたしはもうすぐ死ぬんだ。
 最後の力で妻の泣き顔を焼き付けておこう。そう思い覗いた妻の口元には微かに笑顔があった。何故だ?
思い出した、わたしには保険金がかかっていたのだ。そして最初に猫を見つけたのは妻だった。
 少し複雑な気持ちもあったが、これで妻と息子が拾い食いをする生活から抜け出せるならそれでも良いと考えながら、
わたしはそっと目を閉じたのだった。

次「愛」「タバコ」「裁判」

95:「愛」「タバコ」「裁判」
13/01/22 05:11:45.69 .net
 『愛とは何か?』

 最近はこんなよくある哲学的なことを考えずには居られない。
 裁判の直後である今でさえ、いや今だからこそだろうか。
 事の発端はなんだっただろうか。最初は確かタバコだった気がする。

「子供も居るのにタバコなんてやめてちょうだい!」
 妻がこう言い出したのは結婚6年目で子供が生まれて2ヶ月くらいだったか、
子が生まれてからというもの妻は育児関連の書物を読み漁り、育児教室にも通っていた。
 私も勿論子は大事なのでそのときからはタバコを吸うときはベランダで窓を閉め切ってからにした。
そのときの事はそれで解決した。
 それから12年経ったある日のこと、またもやタバコのことで妻が意見してきた。
「あなたのタバコにいったいいくら掛かってると思ってるの!? 子供ももう中学に上がってお金もたくさん
必要になるんだからそろそろタバコ止めて頂戴!!」
 コレにはもう我慢ができなかった、私は私なりの気遣いをしているというのに。
 毎日毎日家庭のために使えない部下を使えるようにしたり、下げたくも無い頭を地面に擦り付けたりと
仕事に心血注いでいるというのに一つの嗜好品すら許されないというのか。
 それからはもう売り言葉に買い言葉だった。
 毎日毎日怒声がなり、ベランダでタバコを吸うのも止めた。それに関してまた喧嘩になった。
 仕舞には子供までも巻き込んでいた。
「私の前ではタバコはご遠慮いただきたい。
タバコの煙は、主流煙より副流煙の方が有害物質が多く含まれています。
発ガン性の高いジメチルニトロソアミンは、主流煙が5.3から43ngなのに対して、副流煙では680から823ng。
キノリンの副流煙にいたっては主流煙の11倍、およそ18000ng含まれている。
つまり、実際は吸う人間よりも周りの人間の方が害は大きいんです」
 まさか子供にこんな事を言われるとは思いもよらなかった。
 そしてとうとう妻が離婚を切り出してきた。
 何もそこまで、と私は思ったが口に出すには至らなかった。
 私もまた、疲れていたし妻は言い出せば聞かない女であった。

96:「愛」「タバコ」「裁判」
13/01/22 05:28:42.79 .net
 裁判所を背にしてとぼとぼと歩く、いくあては無いがとりあえずどこかで落ち着きたかった。
 しばらく歩いて公園に入る、確かここはまだ禁煙では無かったはずだ。
 それなりの値がするライターでタバコに火をつけ咥えて一息。
 ふと昔を思い出す。
 付き合い始めの、まだ妻と自分が初々しかった頃を。
「あなたのタバコを吸う姿ってとても魅力的よ」
 あの頃の妻の言葉に自分は執着していたのかもしれない。
 時が経てば人は変わる、環境も変わるのなら尚更だ。

 吸い始めてからまだ半分もしない内に火を消し携帯灰皿にすてる。
 ―愛とは何か

 タバコからはもう、苦味しか感じられなかった。



次 「間食」「信頼」「スズメバチ」

97:名無し物書き@推敲中?
13/02/02 21:54:34.56 .net
俺が九歳だった頃の夏の話だ。
田舎のじいさんと山に行った。里山でそんな大した山じゃない。
そこに大きなクスノキがあって、根元のウロにスズメバチが巣をこさえてた。
メロンくらいの大きさだ。
じいさんはまじまじと見つめながら、俺に「この巣のハチども殺すか?」と訊いた。
俺は何も答えなかったが、じいさんは「ほっとけば秋にはスイカよりでかくなりよる、
山歩く人、襲ったりするで。たまに死ぬ人もいる」と言った。
「じゃあ、殺そう」俺が言うと、じいさんは「おめえも手伝え」と鎌を渡した。
「草刈ってこい」といわれ、俺はそこらへんの尖った草を刈って、巣に戻った。
じいさんは巣の下に穴を掘っていて、俺の草はそのくぼみに押し込められた。
草はジッポライターの油をかけられて燃された。
煙が巣をいぶっている間、じいさんが持ってきたカリントウを間食がてらつまんだ。
「ハチが死んだら、どうするの?」俺は恐る恐る尋ねた。
「巣、砕いて、そこらへんに撒くわ。夜になったらタヌキやネズミが食いよるど」
「ふーん」
「それで獣は里におりてこんですむ。どっちにとってもいい話じゃ」
「でもハチはかわいそうだね」俺の言葉にじいさんは笑った。
「巣を作った場所が悪ぃな。簡単に人に見つかる所に作るけ、こうなる」
「ふーん」
九歳の俺は、その時、山の営みのようなものに触れていたんだと、今になって思う。
種を超えた信頼関係、といえば大げさだろうか。
いずれにしろ、現在の里山にそれがあるのかといえば、俺は自信が無い。

次は「賞味期限」「別離」「ガーネット」

98:「賞味期限」「別離」「ガーネット」
13/02/03 00:14:02.80 .net
 彼女は気だるそうに言う。
「ワインって賞味期限無いの?」
 どうやら、かなり酔っている口調だ。
「あるわけないじゃん。何十年と寝かして飲んだりするんだから」
「…そうか」
 ガーネット色の液体に満たされたグラスを照明に翳して、そのままじっと見つめている。
「恋愛にも、賞味期限が無いといいのにね」
 グラスを持ったままぽつりと呟く彼女は、かつて愛した男との別離を
思い返しているようだった。それは、聞かされた方までもが苦しくなるような
酷く残酷な別れだった。いや、始まってさえいなかった恋かも知れない。
 ただ、お互いに強く思い合っていながらも、決して結ばれることのない恋で、
それゆえに黙って身を引くことしか出来なかったのに、その別離は酷く双方を傷付けた。
「今日はありがとう。じゃ、帰るね」
 飲み終えたグラスをテーブルに置くと、彼女は静かに立ちあがった。その後ろ姿は
まるで幽霊のように寂しげで、今にも消えそうだった。


次は「医者」「短歌」「ヴァイオリン」

99:「医者」「短歌」「ヴァイオリン」
13/02/03 18:15:54.65 .net
ヴァイオリン この音違うと 言われても

医者違いだよ すまないねレディ


……コレ反則かな?


次は「陽動」「広告」「ノンカロリー」

100:「陽動」「広告」「ノンカロリー」
13/02/03 22:19:39.72 .net
 今年はS国との戦争が終結してから十周年を祝う記念すべき年だ。
 街にはS国との友好関係を強調する広告が溢れお祭ムード一色といったところか。
 「くっだらねぇ……。吐き気がするぜ」
 同じテロ組織に所属するYが友好記念祭の看板にツバを吐きつぶやいた。
 「何が友好国だ。何が平和だ。全部嘘っぱちじゃねぇか!みんな騙されてやがる」
 「それを世間に告発する為に俺たちが居るんだろ、Y」
 「へへ、違いねぇや。奴らの尻尾は掴んでる。後はこの事実を公表すればS国は終わりだ」
 Yの手には大手食品メーカーが販売するノンカロリー食品のパッケージが握られていた。
 『SⅢ』―S国で開発されたこの人工甘味料は肥満に悩む多くの人々を救い、その生活すら
一変させてしまった。脂肪の吸収を抑制し味を損なう事のない、この魔法の甘味料は清涼飲料、
菓子類に止まらず多くの食品に使用された。結果、この国の国民の肥満率は60%も減少したという。
しかし、同時に奇妙なことが起こった。国民の発ガン率が驚異的に増加したのだ。いまや国民の
二人に一人はガン患者という異常な事態に陥っていた。
 「『SⅢ』は人々を肥満から救う救世主なんかじゃねえ。ガンを発病させる猛毒だ。ところがこの事実
を伝える情報をS国はどうにかしてことごとくシャットアウトしてやがる」
 苦悶に満ちた表情でYは言った。
 「だが、今日でもう終わりだ。TV局、首相官邸、記念祭会場同時テロで告発しS国の連中の度肝を
抜いてやるぜ。戦争は終わってなんかいなかったんだ。奴らは友好国でもなんでもない―敵だ」
 「Y」
 「どうした?……テメェ!!」
 わたしはコートから取り出した銃をYに向け発砲し射殺した。
 「お前のいうとおりさ、Y。戦争は終わってなんかいない。むしろ逆だ、形を変え我々はこの国を侵略
し続けてきたのさ、長い年月をかけてな。同時テロも失敗だ、組織に居るスパイはわたしだけではない」
 食料品だけではなく芸能界、企業、政界全てにおいてS国の工作活動は進んでいた。友好十周年を
祝福する街の喧騒にほくそ笑み、わたしはその場を後にした。

次は「ストッキング」「電話」「ラブレター」
 
 
 

101:名無し物書き@推敲中?
13/02/03 22:24:34.72 .net
陽動を入れ忘れたorz
ゴメンね

102:名無し物書き@推敲中?
13/02/04 02:40:31.19 .net
Don Mein

103:「ストッキング」「電話」「ラブレター」
13/02/04 10:42:23.72 .net
 ―俺は今、選択を迫られている。


 時刻は深夜。
 自室のベッドの上に正座し、目の前にある‘‘選択肢’’と睨み合う。
 目の前にある三つのアイテム。
 ストッキング、電話、ラブレターの三つ。俺の今後の学園生活を左右する重大なアイテムだ。
「何故に―」そう、呟かずには居られなかった……。

 
 それは、今日の学園での出来事だった。
 俺、笹蒲 鉾矢は自分で言うのもなんだが、学力底辺、運動得意の健康優良児で朝はいつもギリギリで教室に滑り込み、
休み時間は友人とエロ談義に花を咲かせるというどこの学校にでもいそうなそれはそれは普通の男子学生である。
 その日の朝も遅刻ギリギリで教室に入り予定調和のお小言を頂き3時限目には弁当は空箱へクラスチェンジした。

 最初の異変起きたのは昼休みのことだ。
 第二の昼飯を買いに購買へ行こうと歩いていると前の方から異様な集団がやってきた、 学園名物『薩摩行列』だ。
 地元大地主の娘、薩摩 揚子と彼女に集められた選りすぐりの下僕達による行進である。その一糸乱れぬ動きから彼女の調教技術の高さが窺えるだろう。
 その行列はいつの間にやら俺を取り囲みその中から一人の女子、件の主こと薩摩 揚子が歩み出てきて「やれ」と声をかけると一人の下僕が出てきていきなり
俺を押さえつけ彼女の前に這い蹲らせた。
 地べたに這い蹲る俺を見下ろしながら薩摩 揚子は言った。
「ここ暫くの間貴方を観察して確信したわ、貴方は私の下僕となるにとても相応しい資質をもっている。是非私の下僕になりなさい、私の下僕になれば将来の安泰を約束しましょう」
 そういうと彼女は徐にストッキングを脱ぎだし俺の頭に載せた。
「それは契約の証となるものよ。私の下僕になるのなら明日、そのストッキングを咥えて私の元へきなさい」
 そう言い放つと薩摩 揚子と行列は彼女たちの王国へと帰っていった。
 いきなりのことに呆けながらも俺はとりあえずストッキングを一嗅ぎの後シャツの中へしまい、購買へと第二の昼飯を買いに急ぐことにした。

104:「ストッキング」「電話」「ラブレター」
13/02/04 11:16:13.84 .net
 二番目の異変は放課後、学園玄関でのことだ。
 運動大好きだが規律が苦手な俺は勿論帰宅部であり一日の授業全工程を終えれば羽が生えたように軽やかに速やかに帰宅する。
 教室を優雅に飛び出し小走りで廊下を渡り靴を履き替えるために玄関にある下駄箱を開けたそのとき!!
 なにやら一つの見慣れぬ物体があった。それは長方形で厚さ1~2㎜といったところだろうか、全体は白く中心部にはなにやらファンシーで
キュートな心臓を模した形のシールが貼られている。
(……これは、なにかな?)その非現実性あふれる物体に脳の活動フル回転で思考。あらゆる可能性が頭を駆け巡る。
(これは!! もしや、アレなんじゃあないのか!?)だんだんと目の前の物体と思考が一致していきその正体の見当がつくにつれてテンションが上がってくる。
「ラ、ラ、ラ、ララ~ラ、ラーラ、ラアー!!」
 その正体に確信を持った瞬間思わず声を上げてしまった、周囲の視線が刺さるが今は痛くも痒くも無い。
 恐る恐る、しかし急ぎながら中身を確認する。 自慢じゃないがラブレターなど今まで一度ももらったことが無いのだ。
 当然ながら中には手紙が入ってた宛名は勿論俺、笹蒲 鉾矢となっていた。
 うれし泣きしそうになりながら早速手紙を読んでみる。
「一目見て運命を感じてからずっと、あなたを見ていました。朝起きる前に二度目覚ましを止めるところから夜寝る前に一人プレイに励む所まで。
あなたは私と一つになる運命なのです。明日の昼休みに校舎裏で待っています。 竹輪 麩美」
(……これは、なにかな?)その非現実性あふれる物体に脳の活動フル回転で思考。あらゆる可能性が頭を駆け巡る。
(これは……もしや、アレなんじゃあないのか?)だんだんと目の前の物体と思考が一致していきその正体の見当がつくにつれてテンションが下がってくる。
 俺はずっと監視されていたのか!? まず始めにその恐怖に身を震わせる。この世には触れてはならないとても怖い者達がいると話には聞いていたが
まさか自分が関わることになろうとは誰が予想できただろうか? 恐怖のあまり破くことも出来ずとりあえず手紙を鞄につめ、震える体に活を入れ全力で家に帰った。

105:「ストッキング」「電話」「ラブレター」
13/02/04 12:03:42.98 .net
 最後の異変は家に帰り自室へ戻ったときのこと。
 今日あった二つのありえない出来事から逃避のために「ははは、面白いな~」と声に出しながら漫画を読み漁っていると
携帯電話のランプが光っているのに気付く。どうやらお隣に住む幼馴染の 捏串 つみれ から電話があったようだ。
 留守電が入っていたのでとりあえず再生してみる。
「ごめんね、こんな時間に。でも、どうしても伝えたいことがあったの。ちょっと緊張しちゃうな、留守電で良かったかも。
えと、ね。今までずっと言えなかったんだけど……あの、君の、鉾矢のことがずっと……好きだったんだ。だから、ね。
お付き合いして欲しいの、鉾矢の恋人にしてください!! いきなりでごめんね、でも明日一日電話でも良いので返事まってます」
―ツー、ツー。
 なんだろう? アイツは一体いきなり何を言い出すのだろうか? 俺のことが好き?
 今日は一体何だって言うんだ!? ありえない事が起きすぎじゃあないのか!?
 どうしよう? 返事、返事か。
 アイツ、幼馴染である 捏串 つみれ は幼稚園の時から一緒でその外見はとても可愛らしく人当たりの良い性格で異性だけではなく同性からの人気も高い
中学までは何をするにもいつも一緒で俺の後ろには必ずアイツが居た。
 周りの大人たちからも「二人はいつ結婚するの?」などとからかわれたものだ。
 だがしかし、ただ一点だけどうしようの無い問題がある。
 性格もよくとても可愛らしいアイツは―俺と同性なのである。
 同性、異性ではない、俺は男、アイツも男、女子ではない。
―ナンダコレ?
 いつの間にやらアイツは俺にそんな感情を抱いていたのか?
 どうしたものだろうか? どう返事するにしても、いや断る以外にありえないがこれはどう転んでも気まずくなるのは必至!!
 アイツは何故告白なんてしてきたのだろうか? 人の思いは抑えきれないということだろうか?
 どうしよう?とグルグルグルグル頭を回す体も回る。
 そうこうしてる内に前の二件まで思い出して逃れようの無い現実に絶望しのた打ち回り、ただ時間だけが無為に過ぎていった。

 そして時刻は深夜。
 自室のベッドの上に正座し、目の前にある‘‘選択肢’’と睨み合う。
 目の前にある三つのアイテム。

―ああ、明日が来なければ良いのに

106:名無し物書き@推敲中?
13/02/04 12:06:27.83 .net
長すぎる上に微妙…


次は「演技派」「隕石」「胃腸薬」

107:「演技派」「隕石」「胃腸薬」
13/02/04 12:41:09.02 .net
 行儀がいいとは言えないが、朝刊を読みながらパンをかじる。
 今日の社会面は、「演技派の名優逝く」で脇役俳優の逝去を報じている。
テレビドラマや映画で何度か見たことのある俳優だ。中でも、刑事物のドラマでの渋い演技は
当時子供だった自分でさえ今でも覚えている。
 その隣りには、「あわや大惨事!白昼の住宅街に巨大隕石落下」の記事。
ベッドダウンの住宅街に隕石が落下したものの、幸い落下地点の住宅は留守で
死傷者は出なかったという。ちょうど出掛けていたその家の住人の爺さんが、
「八十年生きてきてこんなに驚いたことは初めてです」とインタビューに答えている。
 亡くなった俳優は六十五歳で、助かった爺さんは八十歳。人生なんてわからないものだ。
この自分だって、今の会社の人員整理でどうなることか。この年で転職活動は出来ればしたくない。
 そんなことを考えていると、持病の胃痛が出る。救急箱から胃腸薬を取りだす。
 会社に行くのは苦痛だが、行かなければ食べていけない。「とかくこの世は住みにくい」
学生時代から愛読している漱石の一節を呟く。これから出勤だ。また満員電車か……。



次は「徒花」「影」「後悔」

108:「徒花」「影」「後悔」
13/02/04 16:14:34.48 .net
 千恵子は店内のストゥールに腰を下ろし朝からウォッカを呷っていた。
 若い頃、均整のとれていた肉体にはその後の不摂生を物語る脂肪がつき、白髪混じりの
頭は四十代とは思えず老婆の様な雰囲気を漂わせている。
 灯りを点けず、暗く影を落とした店内にTVだけが妖しく光を放っていた。
 「フラワーモーニング、本日のゲストは女優の樹山ユウコさんです。よろしくお願いします」
 「よろしくお願いします」
 「樹山さんはカンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞する等、日本映画界期待の若手女優
さんです。今日はその樹山さんのルーツにとことん迫ってまいります」
 TVに映る若く美しい女優の姿が、千恵子にある後悔を思い出させる。千恵子は若い頃、TVに
映る彼女と同じ世界に居た。歌手からスタートした彼女の芸能キャリアは、何度かの芸名変更
を経て女優咲花シズカという人間を作り上げた。出演映画がヒットし一時は名声を博した彼女だが
その栄光は長くは続かなかった。結婚を機に一時芸能界を引退した彼女は子供を流産してしまう。
この事が千恵子の精神を酷く不安定にさせた。夫との関係は冷えその後離婚。芸能界に復帰するも仕事
は以前の様には上手くいかず、再婚するも一年と持たずに離婚した。
 自分にとっての居場所を見失った千恵子は覚醒剤に手を出し逮捕される。服役中、千恵子は自らを
徒花だと感じた。女優として花開くも落ちぶれ、子を生せず、ただ枯れ行く花なのだと。
 出所後、彼女に残ったものは僅かな貯えから開いたこの小さなスナックだけだった。最初の頃こそ
元女優がママを務めるスナックという事で客も入ったが、十数年経った今は閑古鳥が鳴いていた。
 「わたしもこの子みたいに実を結びたかった……」
誰に伝えるでもなく、口をついたエモーショナルな叫びは、千恵子がかろうじて保っていた一線を越えさせ
るには充分であった。大量の睡眠薬を口に含み一気に胃へウォッカで流し込む。昏睡しストゥールから転げ
落ちた千恵子が目覚める事は二度となかった。
 「―樹山さんが女優を志されたキッカケは何だったんですか?」
 「小さい頃に咲花シズカさんという方の映画を見て私もこんな女優さんになりたいと思ったからです。咲花さん
の演技は本当に華やかであの人がいなかったら私は女優になってないと思います」

109:名無し物書き@推敲中?
13/02/04 16:15:05.54 .net
次は「悪口」「遊園地」「奇跡」

110:「悪口」「遊園地」「奇跡」
13/02/05 00:01:23.01 .net
「順序よく、3列にお並びくださーい」と、係員が言う。
でも、行列があんまり長くって、先頭がもう見えない。

これで遊園地と言えるのか?
と、悪口を言っても始まらない。
並ぶ他にする事は見当たらないのだから。

ようやっと入場の前には、さらにくじ引きが待っている。
ここで運がよければ、赤いレーンに並べる。
それはもう、小さな小さな、奇跡に近い確率だが。

「おおおっ!」と声が沸きあがる。
何百回と並んだ客が、赤いレーンを引き当てたのだ。
歓喜の涙をあふれさせる客に、セーフティバーがゆっくりと下がって・・・
彼はこの世に生まれてきた。

たった100年弱の期間。
だけど、それは気が遠くなる程の行列と奇跡の結晶かもしれない。
そりゃあ、あの世の単位では1時間足らずかもしれないけど、まあ。

次のお題は:「ヴァイオリン」「涙」「フォークリフト」でお願いします。






気が遠くなる程の待ち行列と奇跡で、この世に生を得た。

111:名無し物書き@推敲中?
13/02/06 12:58:09.15 .net
 夏の日の午後、男は普段通り倉庫内仕分けのアルバイトに勤しんでいた。彼は所持しているフォークリフト免許を生かして、生活の糧を稼いでいる。
 この職場には、一年程通っている為、男の作業は手慣れたものだった。
 彼が仕事に没頭していると、倉庫内にけたたましいブザーが鳴り響いた。腕時計を見ると、時刻は15時をしめしていた。
「休憩するか」,
 男は呟き、倉庫内の休憩所に向かった。
 いつものように、備え付けられている自販機のほうへ歩いていくと、先客の後ろ姿があった。それがこの倉庫の事務員である事は、彼にはすぐにわかった。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れさんです、新人さんですか?」
 振り返った事務員の女性に、挨拶された男は、返事と共に訊ねた。初めて見る顔だったからだ。
「はい、最近この会社に入りました。酒井です、よろしくお願いします」
「あ、自分は田島です、よろしくお願いします。まあ僕は、只のバイトですけど」
 酒井は、美人でスラリとした、印象の良い女性だった。歳も田島より若く見える。
「まだ分からない事ばかりなので、良かったら会社の事、色々教えてください」
「自分で良ければ、まあ、分かる範囲で教えますよ」
 田島はそう答えると、自販機で買ったジュースを手に取り、近くにあるベンチへ座った。
「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくお願いします」
 酒井は微笑みながら、田島の隣に座った。
 

112:名無し物書き@推敲中?
13/02/06 13:00:02.94 .net
 普段は一人で休憩時間を過ごしている彼にとって、これは意外な事だった。だが、彼女は人当たりが良く、とても話しやすかったので、田島は自分でも驚く程に、饒舌になっていった。
「酒井さんは、なんか趣味あるんですか?」
 仕事の事は一通り話終えたが、田島は、彼女との話をやめなかった。酒井に惹かれ始めている、自分に気付いたからだった。
「私は、クラシックが好きだから、休みの日には、ヴァイオリン教室に通ってます」
「へえ、ヴァイオリンですか。すごいですね。自分には縁のない趣味だな……」
 楽器などほとんど触った事もない田島は、彼女との接点が絶たれた気がして、少し落ちこんだ。
「やってみると楽しいですよ。良かったら田島さんも始めてみてはどうですか? 今度は私が教えますから」
 酒井はそう言うとニコリと笑った。その笑顔を見た田島の心は、みるみるうちに晴れていった。
「じゃあ、自分も、やってみようかな」
「是非、始めてください」
 会話を遮るかのように、再びブザーが鳴り響いた。
「休憩終わりか……じゃあ、自分、仕事戻りますんで」
「はい、お仕事頑張ってください。また、よろしくお願いします」
 涙を流す程ではないが、残念な気持ちを抑えつけて、田島は作業に戻っていった。
 彼はフォークリフトを運転しながら、思わぬ所で訪れた出逢いに、淡い期待を募らせずには、いられなかった。
 

113:名無し物書き@推敲中?
13/02/06 13:06:26.88 .net
次は「銃」「美女」「煙草」

114:銃と美女と煙草
13/02/10 12:37:54.83 .net
都心に現れたその怪獣は、昔のテレビに登場した着ぐるみの怪獣達とは似ても似つかぬものだった。
大きさはまあいい。円谷プロの怪獣サイズだ。しかしその外見は、何たる手抜きだろうか。ただの人間の赤ん坊なのだ。
誰か穿かせたのかもわからぬオムツを腰に纏った、性別不明の赤ん坊が、街を壊しまくっていた。
赤ん坊に善悪の判断はない。ただ好奇心の赴くままに彼(もしくは彼女)にとってのミニチュア玩具である建物や乗り物を叩き、投げ踏みつぶして歓喜していた。
「だめだ我々では手に負えん」
警官隊の銃など何の役にも立たなかった。
弾が当たった個所を、赤ん坊は痒そうにボリボリと掻くぐらいである。
「自衛隊を呼べ」
「その必要はないわ」
「誰だ君は、こんな所にいないで避難したまえ」
狼狽する警官隊を尻目に、白衣にミニスカートの美女が巨大赤ん坊に近づいていく。
「なにをする気だ?」警官たちは理解に苦しんだ。
すると白衣の美女は突然踊り始めるのだった。赤ん坊の目が美女の動きに囚われて左右に動く。
「なんかどこかでこういう映画を見たことがあるな」
「でかい猿の映画ですよね」警官達は美女の踊りに見とれて完全に見物モードになった。
赤ん坊の後方で大きな発射音がしたのはその時である。赤ん坊は驚いて目を丸くした。
後方にはいつの間にか、美女の仲間らしい二連結戦車がおり、弾を撃った直後だった。
弾はオムツ越しに赤ん坊の肛門に突き刺さっていた。
それはタダの弾ではない。
それは一本の巨大な煙草だった。赤ん坊に突き刺さった方は咥える側で、反対側には火がついていた。
美女は警官隊を振り返った。
「これは大型の麻酔弾です。大型のモンスターにはこれくらいしか役に立たないわ」
「ほう、どれくらいで効き目が出るのかな」
美女は腕時計を見て言った。
「あと一時間ほどで奴は眠りにつきます」
「一時間もかかるのか!」
一時間ほどして、巨大な赤ん坊は、廃墟と化した街の真ん中でぐうぐうといびきをかき始めたという。

次「脳腫瘍」「液晶テレビ」「マネキン」

115:「脳腫瘍」「液晶テレビ」「マネキン」
13/02/11 22:29:41.17 .net
馬鹿の一つ覚えで7オンス頼む。
ワゴンの上でバーナーに炙られ、牛肉の塊が回されていた。
シェフが青竜刀のようなナイフで、こんがりしたところをそぎ落とし、
皿に載せてくれる。

倍の大きさがありそうだ。
私は肉を旨そうに喰うのには自信がある。
◆◆◆

窓際の席でマネキンのように整った肢体と顔の女がステーキを食べていた。
静かで迅速なナイフとホークの扱い。それに正確な咀嚼。
出来過ぎな光景で、液晶テレビの画面を眺めているようだった。
向かいの席の男、顔色が心なし悪い。
◆◆◆

彼女、美味しそうに食べているつもりなんだろうな。
今日は脳腫瘍の手術があったんだよな。
よく食欲のでるもんだ。
俺はワゴンの上の塊が明滅的に脳に見えてぞっとした。


次は、「外科医」「二月」「体重」でお願いします。

116:「外科医」「二月」「体重」
13/02/13 19:11:45.56 .net
水商売の業界で「にはち」といえば、客の出入りが減る二月と八月を指す。
それでも常連客は、定期的に通い続けてくれる。
散々な、今月の売り上げを嘆き加代子は、携帯電話のアドレスを眺めた。
ふと、長いこと顔を見ていない高校時代の彼氏の名を目が探し当て、そして無意識に目を背ける。
未だに電話も出来ないくせにアドレスに残っている彼の名前に、我ながら未練深いと呆れる程、本当は大好きな彼だった。
私の家庭の事情で、高校を中退しそして水商売の道へ進み、彼には釣り合わなくなってしまった自分。
私は、彼にパラレルワールド《平行世界》の幸せを視る。
けれども、それは現実世界には、ありえない切なく苦しい妄想だった。
ふと、店のドアが開きカウベルが来店を告げる音を上げる。
それは、幸せに繋がる音だった。
「加代子、俺、外科医になって君を迎えに来たよ。」
そこには、体重こそ高校時代とは違うけれど、当時と同じ優しい笑顔の彼が立っていた。



次は、「運命」「バイク」「梅」でお願いします。

117:「運命」「バイク」「梅」
13/02/21 17:47:30.92 .net
「まかどは、運命って信じる?」
 ほらむが聞いてきた。最近、少し仲良くなった二人は、昼休み、中庭のベンチで一緒にご飯を食べていた。
「運命? このご飯の梅、うんめー、とか?」
「聞いた私が馬鹿だったわ」
 ほらむは弁当の蓋を閉じて立ち上がり、すたすたと校舎の方へと歩いて行く。
「待って、ほらむちゃん! 私の方が馬鹿なんだよ! こんなのってないよ!」
 気を取り直してベンチに戻ってきたほらむが言った。
「私は、運命なんて信じない。何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる!」
「ほらむちゃん?」
「約束するわ。絶対にあなたを救ってみせる」
 ベンチに座って、前を見据えたまま、ほらむの握りしめた拳が震えている。
「まかど、私、バイクに乗れるの。あなたを乗せて、どこまでも一緒に走って行くわ」
 そう言ったほらむの顔に笑顔が戻った。
「ほらむちゃん、バイクの免許持ってるの?」
「1回ぐらいは、魔法少女になってみるといいわ、まかど」


次は「未来」「信頼」「魚雷」

118:名無し物書き@推敲中?
13/02/25 17:50:33.47 .net
「光る眼」 「奇跡」 「名残」でよろしく~

119:名無し物書き@推敲中?
13/02/25 21:11:31.62 .net
 加藤元気は齢三十六にして素人童貞である。玄人しか知らない。人より見劣りするルックスに少々薄い頭を筆頭に低めの身長に重すぎる体重、沸き立つ体臭、むず痒い足、と加藤には様々な個人的特徴があった。
どの特徴も個性だね、素敵だねと言えばそれはそうだが、しかし加藤は個性などとはこれっぽっちも思っていなかった。呪いだと思っていた。そう、俺は呪われている身なんだ。
前世で魔女でも倒した騎士なのだ。その業が来世である自分に廻ってきたのだと思ってみたりもした。そしてそういう時、加藤はお気に入りのAVを見て一息つくのだ。
すると加藤は賢者になり、俺は何を前世などと思っているのだ、俺は前世系ではないぞ、来世もない、未来も信じないぞと萎びた息子に向かって情けない笑みをこぼしたりするのだ。
 加藤は間の悪いことが多かった。その日もそうだった。月に一回の楽しみ。格安の風俗店でお気に入りの姫を抱く。それだけの楽しみのために、ナクドマルドで高校生に顎で使われ、ひいひいと嘆き時給六五〇円で働いているのである。
しかして、その日は姫は飛んだ後だった。どこへ行ったとも知れず、他の店に行ったんじゃないですか、ゲヒヒと笑うボーイに加藤はお得意の俯き加減からの愛想笑いを返したりした。
そして、ボーイに勧められるまま紹介された醜悪な見た目の嬢に部屋に閉じ込められ、バイブで尻の穴を魚雷のように鋭く一突きされただけで加藤は果てた。人間の尊厳、男の矜持などあったものではなかった。
 帰り道、キャバ嬢を名乗る輩からメールが届いた。信頼しているダーリンにしか届けません、あなたと一緒に同伴したい、お店は歌舞伎町のここだからね、と書いてあったので、
馬鹿にするな文章から年齢がばれるぞババアと送り返すと、後日、アダルトサイト閲覧名目で三万円の支払いメールが届き、肝を冷やし、四畳半のアパートで震えた加藤であった。

次回は「光る眼」 「奇跡」 「名残」らしいです。よろしく。

120:「光る眼」 「奇跡」 「名残」
13/02/26 17:31:04.85 .net
私の目は夜に輝く。
この光る眼を気味悪がられてはいけないと、母は私に暗くなる前に帰ってくるようにきつく言いつけた。
ある日私は友達の誘いで山へ木の実を採りに行くことになった。

最初は山の麓近くで木の実を探していたけど、中々数が見つからなくて痺れを切らせた友達が、もっと深くに行こうと言い出した。
私はあともう少しすると日が落ち始めるので止めようよ、と止めては見たのだけれど。
結局押し切られて一緒に山の奥深くまで木の実を探しに行くことになった。
ある程度深く進んだところで沢山の木の実を見つけることが出来て、友達も私も大はしゃぎで木の実を集めた。
そうして満足がいくまで木の実を拾うと、もう日が落ち始めて辺りが暗くなり始めているのに気付く。
私はハッと自分の眼のことに思い至り、急いで帰ろうと友達に促す。
友達も暗くなってはたまらないと二人で帰りを急ぐ。
だけれど二人とも帰り道を忘れてしまって、迷っているうちにどんどんどんどん日が暮れていった。
私は光る眼のことを気付かれるのが怖くて友達の一歩先を常に歩いた。
友達は先に行かれるのが不安らしく私の横を歩こうとする。
私は見られてはいけない、と歩幅を大きくして足を速める。
友達もそれに追いつこうと負けじと足を速めた。
もうどこを走っているのかなんて考えてもいなかった。

そんなことをしていると、知らないうちに山頂まで来てしまっていた。
ずいぶんと開けた場所で真ん中にポツンと二人掛けの椅子があった。
走り回ってくたくたになっていた私達は、喜び勇んで椅子に腰掛ける。
ハアハア言いながら顔を上げてみると大きく光る月が見えた。
とても綺麗で感動して見入っていると友達がこちらをみて「あんたの眼光ってる!」と驚いた声を上げた。
私は恐怖した、次にどんなことを言われるのかとビクつきながら友達のほうへ顔を向けると、そこには同じく眼を光らせた友達の顔があった。
思わず私は「あんたの眼も光ってるわ!」と指差して言った。
私たちは何だか可笑しくって互いに指を指しあいひたすらに「光ってる」と笑いあった。
それは月が見せた奇跡だったのかそれともただの幻だったのだろうか。
笑いつかれて眠ってしまった私たちが、心配して探しに来た親たちに発見されたのはその数時間後だった。

121:「光る眼」 「奇跡」 「名残」
13/02/26 17:37:55.69 .net
眼が覚めてからすぐに私達は村中の大人にお叱りを受けた。
私も友達も叱られているのに昨日のことを思い出しては笑ってしまって、お叱りが終わるのは結構な時間がたったあとだった。

あれ以来、友達の目が夜に輝くことはなくなったが二人の体験は村中に広がっていて
夜に輝く目を見られた私は決まってこういうことにしている。

―「お月様の名残」



次は「消灯」「相貌」「サルガッソー」

122:「消灯」「相貌」「サルガッソー」
13/03/01 00:34:10.12 .net
瀬久原教授は病の床にあった。妻も子もなく、一生をかけて作り上げた
メイドロボットだけが教授の世話をしていた。50年後のおまいらである。
「教授、お薬を飲んだらもう寝る時間ですよ」
微笑むロボットの相貌には、昔彼が愛した架空のヒロインの面影がある。
教授は薬を受け取ると、コップの水で一気に飲み干した。
「じゃあ、電気消しますね。おやすみなさい」
消灯時刻だ。この厳格なスケジュールは、ロボメイドならではといっていい。
だが、教授は知っていた。ロボはロボでも、彼女は単なる機械ではないと。
いや、それは彼女にとってのことか、あるいは彼にとってのことか―。
「なあ、○×△」(注:適当な名前を補って下さい)
「はい?」立ち去りかけた軽い体が、暗闇の中で振り返る気配がした。
「かつて幾多の男たちを吸い込んだ、ワカメで有名な三角地帯を知っているかね」
「サルガッソーですよ、教授」
闇の中でほころんだ無邪気な笑みを、教授は確かに見たような気がした。
これが教授の幸福な日課だった。
そして―そして、闇の中でぺろりと出した小さな舌を、教授はまた知ることがなかった。
彼の人生最後の夜にも。

次「山の水」「川の滝」「野原の海」

123:「山の水」「川の滝」「野原の海」
13/03/05 14:12:25.12 .net
―夏休み、某日。
どこかの山の中、俺たちは唸っていた。

ことの始まりは夏休み最初の日、せっかくの夏休みなので皆でどこか普段行かないところへ遊びにいこうという話になった。
やはり夏だということで海と山の二つに分かれたのだが、人数もちょうど半分だったのでそれぞれで分かれていくことになった。
俺たち三人は山でキャンプという名の修行もどきをしようということになりそれなりの準備をして勇んで山へ入ったのだが…。
メンバー全員が水を忘れるという大暴挙、しかし皆そのときはどうかしていたのか「これも修行!!」とどこかにあるという水源を探すことにした。
音を頼りに、探してみると案外早く見つかるもので見つけたときはその滝みたいになってる川を見て
「これこの前写真で見たやつに似てるな、ラインの滝だっけ?」
「ちげーよ、精進川の滝だろ?」と余裕のやり取りをしていた。

水も確保できたので早速修行を開始する、漫画やアニメやゲームなどで得た知識を実際に試すのだ。
現実的なものからビーム系の非現実的なものまで様々な修行をし渇いた体に水分を補給するため川へ向かう。
そのとき俺たちはとても大事なことを忘れていたのだ…。
『山の水は生ではいけない』
煮沸してからではないと体に悪いのだ。
そんなことなど頭になかった俺たちは川を枯渇させてやるとばかりにゴクゴクとそれはもう腹が膨れるまで飲んだ。
しばらくして、案の定俺たちは三人とも腹を抑えて唸りだす。
草むらに行っては帰りの繰り返しでもはや修行など頭になかった。
そして俺たちは話し合い泣く泣く下山することとなった。

腹を抑え唸りながら俺たち三人は思った
(野原の海案に賛成しとけばよかった……)


次は「賽の目」「最高」「フラッシュサプレッサー」

124:名無し物書き@推敲中?
13/03/25 02:18:29.84 .net
「賽の目」「最高」「フラッシュサプレッサー」

125:「賽の目」「最高」「フラッシュサプレッサー」
13/04/30 21:09:38.65 .net
伯父が失踪して3年が経つ。
伯母だった人からマンションの鍵が送られてきた。

古ぼけた木の机の右側の引き出し。
何か突っ掛かって開かないのをバールを使って無理矢理こじ開けた。
ゴトリっー。破れ欠けた隙間から音が転がり落ちる。
無骨な紺の円柱。不釣り合いにハートマークの切り込みが並んでいる。
アクション映画とかで偶に見かける、たぶん、あれだ。

同じ色の拳銃を伯父は持っていたはずだ。
持ち出して、子供の頃に怒られた記憶がある。
銃口には鉛が詰まっていたか?

そのフラッシュサプレッサーを掌から机上に転がす。
賽の目を待つように停まるのを待つ。
マズルフラッシュ。最高だ!
臭いより音が音より光が早い。
視界の端で反応して一撃目を避ける。回転蹴りを入れると見せかけて
反対側の手で机上の筒を浚ってそのまま、銃口にねじ込む。
二撃目は暴発して、射手を苛んだ。


次のお題は(なんかむずくて話がさっぱりまとまらなかったので……)継続でお願いします。

126:二番手いきまふ 「賽の目」「最高」「フラッシュサプレッサー」
13/05/05 03:52:03.82 .net
直径70センチの円盤型本体が、回転しながらゆるゆる進む。
隠れたゴミをブラシが自動的に掃き出し、吸い込みます。
貴方は、軽くボタンを押すだけ。

「これだっ」総裁は唸った。「設計者を至急呼んでこい!」
そして数年後。

直径20メーターの円盤型鋼鉄ボディが、回転しながら侵攻。
隠れた住民を、フラッシュスプレッサーが自動的に焼却。
貴方は、軽くボタンを押すだけ。

大尉が微笑んで、ビールを一杯。
「罪悪感も大幅カット。こりゃあ最高のマシーンだね」

一方、洞窟の男は、キリキリと小さな金属音を聞いていた。
あの音だ、炎がくる!数分後にここは火の海かもしれない。

背後には、自分同様の僅かな生き残りたちが祈っている。
祈るしかないではないか。自分の命を賽の目に託すしか。
「人がゴミ同様に焼かれるとは・・・最悪のマシーンだ!」

※ なんかありきたりだけど・・・
次のお題は「人の目」「裁縫」「エプロン」でお願いしまふ。

127:「人の目」「裁縫」「エプロン」
13/05/12 07:01:08.97 .net
目が覚めると、裸エプロンの女の後ろ姿が見えた。
「何をしているんだ?」
裸エプロンの女は振り返って「お兄ちゃんの朝ご飯を作っているんだよ」
お兄ちゃん、だと? すると裸エプロンと俺は兄妹なのか。
わからない。そうであるような……いや、ないような。
ハッキリしていることは一つ。俺の頭はどうかしている。
「俺とお前はどういう関係なんだ。お前はなぜ裸なんだ? ひょっとして寝たのかな一緒に」
裸エプロンの妹は振り返って「やだ、そんなことできるわけないじゃん」
妹はサンドイッチをこちらに持ってきて「お兄ちゃんは昨夜遅く、バラバラになって戻されてきたの。それを私が徹夜で裁縫しながらくっつけたんだから」
「バラバラって何だよ? 何を言ってるんだ」
俺は恐る恐る自分の顔や体を触ってみた。皮膚に切れ目があって、それは無数のホッチキスでとめられているようだった。
妹は優しく笑った。
「もう大丈夫だよ。お兄ちゃんは頑張った。もうあそこには行かなくてもいいって」
「うわわわっ!」俺は絶叫した。
「どうしたの?」
「あ、あれは、なんだ?」
窓の外にサッカーボールくらいの人の目が浮かんでいた。
妹は動じなかった。彼女は俺に顔を近づけて、優しく囁いた。
「ああ、あれはね―」


次「ガラパゴス携帯」「腫瘍」「切腹」

128:「ガラパゴス携帯」「腫瘍」「切腹」
13/05/22 01:14:42.61 .net
自分を冒す悪性腫瘍はもう何度目の転移だろう。
枕元に置いた携帯は、最近ではガラパゴス携帯と呼ばれているらしい。しかし、買い替えに行く暇も、買い替える金の余裕もない。
切腹後の様になった腹の手術後は、固い肉芽のまま寝返りをうつ度に痛みを覚える。
嗚呼。だけれど。
痛みも、この傷も、生きていたいと言う願いの形だ。
古臭い携帯に今でも入る職場からのメールは、戻る場所があり待つ人のいる証だ。
死にたくはない。死は怖い。
どんなに辛い治療も、どんなに不自由な体も。
死から逃げられるならなんだってするさ。
生きていたいんだ。


次は「失恋」「ジビエ」「蛍光灯」

129:「失恋」「ジビエ」「蛍光灯」
13/06/08 12:46:38.99 .net
夜、天井の蛍光灯がパンと音を立てて割れた。
女はびっくりして悲鳴を上げそうになった。
「落ち着け。動かない方がいい。蛍光灯の破片を踏むかもしれないからな」としわがれた声が注意した。
「そんな事言ったって、じゃあどうすれば?」女は怖くて怖くて仕方がなかった。
「慌てるな、今蝋燭を探している。待つんだ」
闇の奥でごそごそと音がした。やがてボッと橙色の灯がともり、頼りないけれども山小屋の室内を照らし出した。
蝋燭に照らし出された老人の顔は、小屋に取り憑いた悪霊のようにも見えた。
女は行きずりの登山者であり、老人は小屋の番人であった。
「怯えることはない。朝は必ずくるものじゃ。あんたにも、わしにもな」老人は自分の猟銃を手入れしながら語った。
「なぜ蛍光灯が壊れたのかしら」
「さあな、霊はああいうものを嫌うからのう。もしくは奴らの合図なのかもしれぬ」
「霊?! 何を言っているんですか」
「ジビエという外国語を知っておるかね。食材として狩られた動物のことじゃよ」
老人は手入れしていた猟銃の銃口を女に差し向けた。
「何をするんですか」
「あんたはわしのジビエじゃ。だが食用ではない。わしの魂の器となってもらう。わしが乗り移らせてもらうんじゃよ。この老体ではもう長くないからの」
薄闇の山小屋に銃声が響いた。その後には、誰の悲鳴もうめき声さえ聞こえなくなった。
朝。
女の亡骸を前にして老人は、自嘲していた。
「だめじゃ。また憑依に失敗したわ。失恋した若者とはこんな気分なのだろうか。なぜじゃ、なぜ素直に器になってくれんのじゃ?」
地団駄を踏んでも仕方が無い。老人は耳をすました。
次の客人がやってくるようだ。
老人は猟銃を杖に立ち上がり、次のジビエを待った。

次「テレビのリモコン」「スクリーン」「雨宿り」

130:「テレビのリモコン」「スクリーン」「雨宿り」
13/06/11 09:09:19.54 .net
参った、予報では晴れだったじゃないか。男は足早に帰路を辿っていたが、次第に強くなる雨に負けて店へ駆け込んだ。
入口で体についた露を払い中を見渡す。店主は奥に引っ込んでいるのか誰の姿もなかった。
早く雨宿りしたい一心でなんの店か見る間もなかった男は、そこに並べてある商品に首をかしげた。ガラス棚にはテレビのリモコンらしきものがずらっと陳列してあったのだ。
肝心のテレビ自体は見当たらない。
もしかして此処はテレビのリモコン屋なのだろうか。男は思案を廻らせた。
はてリモコンを何処に置いたかと探し回るのは誰しも一度はあるだろう。
もし見つからなかったら、わざわざメーカーに問い合わせねばならない。それはかなり面倒だ。
そんなときに此処のようなリモコン屋を訪れて、リモコンだけを買えば面倒は少なくて済む。なるほど、最近は便利な店があるものだ。
いつか利用する日があるかもしれないな、帰ったら女房に教えてやろう。
雨は小降りになってきた。店主に見つからないうちに出ていこう。
ドアの開閉する音に気付いて、奥から店主が現れた。
あれ、お客が来たような気がしたけど。まあいいか、機材のチェックでもするかな。
店主は壁のスイッチを押し、スクリーンをおろす。
そして棚にあったリモコンを一個取って操作すると、天井埋め込み型のプロジェクターのひとつが投影を始めた。

「ごま」「茶碗」「風呂敷」

131:「ごま」「茶碗」「風呂敷」
13/06/30 00:46:59.57 .net
この世で一番美味しい食べ物は、ごま塩ごはんである。
茶碗に熱々のごはんを盛り、ごま塩をかけて、食す。
どれほどの贅を尽くそうとも、この単純かつ完璧なごま塩ごはんには敵わない。
「オラァ、居るのは分かってんだ、出てこいやコルァ!」
我が家のオンボロドアが強く打ち鳴らされ、野蛮な怒声が部屋を震わせる。
けれどそんなもの、このごま塩ごはんの前にはなんの意味も思想も無い。
私はかつて、ある中小企業の社長であった。会社はそれなりにうまくいき、妻は優しく、娘は愛らしい。私は幸せだった。
だがしかし、そんな幸せは突然終わりを迎えた。
私は経営が軌道に乗ったのを感じ、次々と新しい事業に手を出した。家族のためにもっと豊かになろうと思ったのだ。だが、それがいけなかった。
風呂敷を広げすぎて事業は失敗。私は多額の借金を背負い、妻と娘は出て行った。
「居留守かぁ? ナメた真似してんじゃねぇぞコルァ!」
ごま塩を入れすぎたのか、今日のごま塩ごはんは少しだけしょっぱかった。

「カーテン」「ヒヤシンス」「水筒」

132:「カーテン」「ヒヤシンス」「水筒」
13/07/05 NY:AN:NY.AN .net
喉が渇いて目が覚めた。
カーテンを開けると朝焼けの橙が広がりはじめている。
夜の紫紺が橙に溶けていく。出窓に飾った風信子鉱が光を受けて明るく輝く。

彼女は鉱物が好きで集めていた。
彼女は頑なにジルコンを風信子鉱と呼んでいた。
「知ってる?風信子ってヒヤシンスのことなんだよ?
鉱物に花の名前をつけるって美しいよね」
「ヒヤシンスってどんな花だっけ?水性栽培できた花としか覚えてないなあ」

そんな会話でも楽しく、彼女はふざけて水筒代わりのペットボトルに、鉱物と水を入れて飾った。
「増えるといいなー」なんて。
彼女は帰らない。

俺は喉が渇いていた。ジルコンは冷たく喉を通っていった。


マフィン 雨 自転車

133:「マフィン」「雨」「自転車」
13/07/17 NY:AN:NY.AN .net
なぜこんな似合わぬ事を始めようと思ったのか全く覚えていない。
しかし飽き性の私が二年も続けているのだから、案外ぴったりの趣味かもしれない。
「いらっしゃいませー」
とあるベッドタウンの駅前で、私は露店を開いている。
「ありがとうございましたー」
日も沈み、通りでは酔っ払いが喧嘩を始めた。そろそろ店じまいか。
折り畳みの机と、白いチョークでマフィンとだけ書いた小さな板を担ぎ、スーパーに向かう。
その日の売り上げが牛乳と卵になり、次のマフィンに替わる。
不器用な人間が道楽で商売をするにはなんといっても自転車操業が一番なのだ。

大量の小銭に嫌な顔をされながらもなんとか買い物を終え、家にたどり着く。
テレビをつけるとちょうど天気予報だった。
雨か。
自転車の傘さし運転は危ないので、明日は休業とする。
売れ残りを頬張り、私は満足な気分になった。
不恰好に焼けた奴ほどうまいということに、二年たっても誰も気づきゃしない。

「扇風機」「サッカー」「めがね」

134:「扇風機」「サッカー」「めがね」
13/07/19 NY:AN:NY.AN .net
おれは乱雑に靴を脱ぎ捨て、足早に部屋に駆け込んだ。
「ああああ~」
扇風機の前に座り、電源を入れた。
小さな子供がやる宇宙人ごっこみたいに声を上げる。
だるいからか、それとも他の何かなのか。
ぼーっと座って、馬鹿みたいに声を出していた。

体感では十分くらいのつもりが、気付いたら三十分くらい過ぎていた。
見たかったサッカーの試合の放送が始まっている時間。
おれはテレビのリモコンを取ろうと立ち上がった。
ずるり。
めがねが下がって、視界が奇妙に変化する。
耳の後ろと背中は汗をかいたままだった。

めがねの位置を直し、試合を見おわると、
おれは一生懸命友人たちのことを思い出そうと頑張った。
部屋にエアコンあるの、誰だったかな。
考えながら、汗を拭いてめがねをかけ直すが、夕飯の時間になっても思い出せなかった。
そもそも、部屋にいったことある奴が少ないっつうの。

「さいころ」「洗濯」「みかんの皮」

135:「さいころ」「洗濯」「みかんの皮」
13/07/21 NY:AN:NY.AN .net
菓子皿の中に懐かしいお菓子があった。
紙製のサイコロの箱。その中に2粒キャラメルが入っている。
1の裏は6
2の裏は5
3の裏は4
この法則を私に覚えさせるために母がしばらく買ってきていた。
展開図において、空白のサイコロの目の数を答えさせる問題。
どれほどやったっけな。

こたつでみかんの皮を展開させながら思いにふける。
球形が五片の花の形に変わる。うまく均等に花びらができたことに満足する。
皮の出来にうつつを抜かし、上の空でみかんを食べたら汁が跳んだ。
タートルネックの白いセーターが汁に汚染される。
洗濯していたらタートルネックはいびつな五片の花のかたちだ。
そんな発見をした冬の昼下がり。


氷 火 ダンサー

136:「火」「水」「ダンサー」
13/08/07 NY:AN:NY.AN .net
宴も酣となってきた。
たまには火遊びを楽しめ、と友人に言われ、乗り気でないまま参加したパーティ。屋上庭園には極彩色のライトとリズムだけの音楽が散らかっている。
氷ばかりの酒は熱気と相まって陶酔をもたらし、意識の境を曖昧にした。真夏の夜の夢という曲の意味がようやく理解出来る。
私は友人とはぐれ、ざわめく通路でグラスを傾けていた。
「お姉さん、一人?」
てっきりナンパかと思ったが、見てみれば女性だ。私と同い年か少し下か、何れにせよ私より綺麗な人。水着のような際どい衣装を身につけていることからダンサーだとわかる。
「そうだけど……」
「ならいい、来て」
その人は私の手を掴んで走りはじめた。不意をつかれて抵抗出来ず、私はそれについていく他ない。
「待って、何処に行くの?」
「いいから」
少し走ってたどり着いたのは庭園の隅だ。その人は小さな倉庫の陰に私を連れ込んだ。人気はなく、かがり火だけの照明が暗がりをもたらしている。
壁を背に立つと火が視界を奪って、その人は形しか見えなくなった。
「ここならいいね」
「あの、私に何か……」
「ごめん。お姉さん、好みだったから我慢出来なくなっちゃって」
好みって――状況を飲み込めない私をからかうように笑いながら、その人は体を寄せた。柔らかく甘い匂い。間違いなく同性の色香だ。
手からグラスが滑り落ちた。耳障りな音も邪魔にはならない。氷と硝子が一緒になって、足元にできた水溜まりを彩る。
水面に映る焔は何の暗喩になるだろう。
「一回くらい、いいよね」
それは彼女の声か私の心か。
かがり火がぱちぱちと花を上げ、空中で闇に溶けた。
こういう火遊びも悪くない。

ジャム 銀のスプーン おとなりさん

137:ジャム 銀のスプーン おとなりさん
13/09/07 16:37:07.38 .net
隣の空き家に人が越してくると、母から聞いた。隣はもう何年も空き家だったが、ようやく買い手がついたらしい。
老夫婦かな、赤ん坊のいる新婚家庭かもしれない。でもできればかわいい女の子が越してくればいいなと思った。
そして願いは叶った。
おとなりさんは三人家族で、典型的なサラリーンマン家庭だった。一人っ子の女の子はおそらく中学生だろう。
母がコトコトと何かを似ている。
「なに煮てるの母さん」
僕は窓から、その女の子が学校に向かうのを見ている。
「イチゴジャムよ」
そう言って母は、銀のスプーンでジャムをすくうと、窓の外を見る僕の口に運んだ。
 *
「隣は空き家だって聞いていたけれど、人が住んでるわよねぇ」
私がママに尋ねると、ママはそんなことない、と答えた。
「だって見たのよ。同い年くらいの男の子が窓の向こうから私を見てたの。学校には通ってないのかしら」
ママは眉間に皺を寄せた。
「悪い冗談よしてちょうだい。クラスの誰かに噂を聞いて、ママをからかっているんでしょう」
「噂?」
「隣は空き家よ。幽霊が出るからって、この家もなかなか買い手がつかなかったの」
 *
その晩少女は、ベッドに入ってから幽霊を見た。あの隣の家の窓からこちらを見ていた少年だ。
しかも口のまわりが赤黒かった。血かもしれない。少女は懸命に叫び声をあげた。
 *
「またいなくなっちゃったねお隣さん」
僕が母にそう言うと、母はため息をつきながら僕の口のまわりを拭いてくれた。
「坊や、口のまわりにジャムがついているよ」

次題:孤独 千年 パソコン

138:孤独 千年 パソコン
13/09/12 23:19:25.83 .net
ありとあらゆる出来事は確率によって保証されている。
起こらないことは「無い」し、
起こらないことは起こり得ないとも言える。
その辺を解消するのが驚異的な演算能力なんだけど、
突き詰めれば生涯かけても成し得ない、
膨大なデータを代謝するに相応しいアイテムといえば、
パソコンになるだろう。
進歩の過程に言及すれば、ダーウィニズムやラマルキズムの
いさかいになるから今は止めるよ(千年前に僕らが学んだことだ)。
ともあれこのデータに誰が目を通すことになるのか、
僕には分からないんだけれど、
僕の世界は今、結構ヤバい状況にある。
いつか全ての人々が享受する安寧、いわゆる贅沢品、
孤独という奴を人類総出で一斉に迎えつつある。
けれど、ようやくの段になってチャンスを掴んだ。
押し付けがましい話で申し訳ないんだけれど鍵は、
このデータが表示されている「君」のパソコンにある。
その鍵は残念ながら、探しても見つから「無い」し、
「得ない」とも言えるから、君は何もしなくていい。
おそらく何もできない…ただ、まあ、どうか僕らの、
確率による祝福を祈ってくれ。

偉大なる神性を顕すタウセティ語でこれらを記す。



次は、サーフボード 錬金術 少女

139:サーフボード_錬金術_少女
13/09/14 14:59:11.70 .net
 安岡は海岸沿いの道路の広い路肩に車を停めた。車を降りると海からの強い風が
吹きなぶった。暗色の海に無数の白い波濤が大小の皺を寄せているのが見えた。
 堤防の階段を降り、砂浜を遠い浜辺まで歩いた。風で体が時々かしいだ。
「おい、かりん!」安岡が声を投げた。
 はげしい風に声を持って行かれそうになって、大きな声になる。
 サーフボードを風よけに立てて、その風下に背を丸めてしゃがみこんだ中学生く
らいの少女が振り返って微笑した。
「おとうさん! おむかえごくろうさん!」風に負けじと声を張っている。
「少しは乗れたか?」
「三十分くらい!」
「それっぽっちか?」
「でも、危ないから!」それでもにこにこしているのは満足している証拠だ。
 安岡は朝早くかりんを海岸まで送り届け、三時間後の迎えを約束して仕事へ回っ
た。その頃は風も弱く、サーフィンをするには良い波をしていた。しかし雲行きは
すぐに変わり、かりんはずっとこうして海を眺めながら背中を丸めていたのかも知
れない。長い時間放っておいて可哀そうなことをしたと思った。
「帰ろう!」安岡は海に背を向けて歩き始めた。「寒くないか?」
 かりんはボードを砂から抜いて片手にかかえ安岡の後を追った。
「寒いよー! おとうさん、寒いよー!」暖を求めるように、空いた方の手で安岡
の背中から抱き着いた。
 父と娘になって三年。
 安岡は自分とかりんとの三年前の遠慮しがちな距離を思い出していた。
 名前だけの仮の親子から始めて、近づいたり 遠くなったりしながらぶきっちょ
な関係を積んできた。今もまだ間合いをはかりかね、気兼ねするときもある。
 それでもこの距離に近づいてくれたのが安岡にはうれしい。
 家族を名乗っても、人と人との関係に錬金術はない。鉛から金は生み出せない。
たとえ小さな小さな砂金の粒だとしても、大量の砂を掘り返して探し求められるも
のは本物の金だけだ。
 かりんの細い肩に安岡の掌がかけられた。寒い寒いと笑う娘の肩から安岡は暖か
さを受け取った。

 次は 抵抗 唇 前置き でお願いします。

140:抵抗 唇 前置き
13/09/14 23:02:35.75 .net
「前置き」すれば後悔は無いと言うが、前置きできるだけの
「予め」みたいな余裕が、僕らには全く足りていなかった。
別れる前提で恋愛したりしない。
永遠は信じていないが、信じている体で
半ば確信犯的に
互いの信頼を委ねあうし、唇だって重ねる。
その唇で嘘を吐き、真実を騙る。
不用意に言葉を放ち、話すべき大事な話を飲み込む。
やがて溝は深まり、互いが決定的に分かたれる契機を待つ。
それぐらいが丁度良い。その程度で良い。
出会いや別れは、契約ではないのだ。
許しがたい聖域ではない筈だったけれど。
大した抵抗もせず、刺されてから気付くのは、後悔のやり所だ。
物語が語られるだけの予定調和は、至る所に落ちているという、
以上が僕の前置き。後悔は無い。


次は、類推、都市、幻獣

141:類推_都市_幻獣
13/09/15 22:10:50.99 .net
幻獣はしばしば実在動物の混合体である。
例えば龍は、全体が蛇、頭が駱駝、角が鹿、爪が鷹、掌が虎だという。本来は
生息圏を異にする砂漠の駱駝と森林の虎が出会うためには人間による移動、す
なわち遠隔地交易に依ったに違いない。したがって、本来の生息地を異にする
動物を混合した龍のごとき幻獣の発生は、交易の拠点としての都市文明の成立
後であったと考えられる。
だが、そもそも自由無礙であってしかるべき架空動物の創出において、既知の
実在動物を混合しただけの龍のごとき幻獣が何故広く人口に膾炙したのか?
いくつかの仮説は立てられている。
(1)単に古代人の想像力が貧困であった。想像力貧困説。
(2)本来は実在動物と無関係であったが、言語に依存した伝達の際に「駱駝
のような」「鷲のような」「蛇のような」と表現せざるを得ず、それが定着し
た。言語表現限界説。
(3)想像動物の創作の中心は日々の炉辺の談笑閑話にあり、一夜を楽しませ
る架空物語の素材として大量に生み出され大量に消費されたものの中からいく
らかが生き残り伝承された。あたかも今日テレビやゲームで無数の怪人怪物が
創出・消費されているようなものである。したがって、ゼロからの創作のごと
き手数はかけず、既存物の誇張や混合による創作が主流であった。キャラクタ
ー大量生産説。
私の仮説はこうである。いささか類推のきらいがあるが聞いていただきたい。
人間は嘘で固めた話は信じないが、事実の基礎の上に建てられた嘘は信じやす
いという。古代人にとっても、まったく事実の基礎のないお話は信じがたく受
け入れがたいものだったと考えられる。龍の体が実在動物を基礎としたのは、
虚構を受け入れてもらうためには事実を基礎としなければならなかったからな
のである。今日でも、われわれはDNAやミトコンドリアや放射線などといっ
た事実を利用した説明をつけなければ、恐竜映画ひとつ受け入れはしないのだ
。それと同じである。

142:名無し物書き@推敲中?
13/09/15 22:13:28.44 .net
次は 県庁 のれん 土産物屋

143:県庁_のれん_土産物屋
13/09/20 05:35:36.40 .net
 部活から疲れ果てて帰宅した麻江は、食卓に一人分用意されていた晩ごはんを食
べ始めた。台所からは母親の今日子が洗い物をする音が普段になく騒がしく聞こえ
ている。
<何? 母さん荒れてる?>
 麻江はほお張ったおかずをしゃくしゃくと噛みしめながら少しだけ首を伸ばして
台所をうかがった。皿や茶碗がぶつかり合って割れてしまいそうな音がしている。
<父さんと喧嘩でもしたのかな>快活な母が珍しいこともあったものだ。
 ごはんを自分で三杯おかわりして麻江のお腹がそろそろいっぱいになった頃、今
日子は台所から現れて麻江と食卓で向い合いに腰をおろした。興奮しているのか目
がぎらぎらと輝いていつになくこわい感じだ。
「麻江・・・・・・」今日子の話は唐突だった。「うちの商売やめなきゃならないかも知
れないの」
「え、土産物屋を?」変な声の返事になったのは口中にごはんがつまっていたから
だろうか。麻江の箸が止まった。
「今度、県庁が移転して新しくなるでしょう。うちはお爺さんの時からのれんって
いうか権利をもらって店を開いているのだけど、新しい県庁では認められないって
いうの」
「そんな・・・・・・」急なことで麻江はまだうまくのみこめない。
「父さんが怒っちゃって、県の人たちをどなりつけて追い帰したので詳しい事は分
からないけれど、うちの店は現庁舎が閉鎖されるまでで終りらしいの」
 ひどい、と麻江は思った。何がどうひどいのか言葉にできなかったが少なくとも
麻江の将来が後に戻りようもなく大きくねじまげられるのだということはわかった
。学校を卒業したら店を手伝って工芸品やお菓子のおみやげをお客さんにすすめて
いるお店で働く自分、覚えていないほど幼い頃からずっと抱いてきた麻江の強固な
未来イメージが一瞬で消し去られたのだ。
「父さんは知り合いの議員さんや県庁の幹部にかけあって撤回してもらうって言う
のだけど。うまくいくかは分からない。だからね。麻江には就職なり進学なりって
ことも真剣に考えてもらいたいの」今日子の目がらんらんと光って麻江に迫った。


次は、しこり 威嚇 同室 で。 

144:しこり 威嚇 同室
13/09/23 02:07:36.03 .net
「寮で猫なんか飼えないよ!」同室の美帆が言う。消灯時間まであと十五分。枕を抱え込んだパジャマの美帆は、もう何度目か同じことを言っている。「ぜ
ったい猫は飼えないのに」
「でも、この子は捨てておけないでしょ?」すやすやと眠る子猫をそっと撫でなんて可愛いのだろうと幸せにひたる澄夏はもう何回も繰り返した言葉をつぶ
やく。「ほおり出せって言わないよね」
「言うわけないでしょ」美帆が子猫に手を伸ばすので、純夏は子猫を抱いた両手を静かに美帆の方に伸ばしてやる。美帆の右手が子猫の頭に触れ、眠りを覚
まさないよう慎重に愛撫する。「でも寮で猫は飼えないんだよ」説得するのは優しげな美帆だ。
「どうして? 猫飼っちゃいけないって規則はないでしょ?」小声で言って純夏が頬をふくらます。
「規則がなくても飼えないの。常識よ」美帆の声は落ち着いている。
「そんな常識やだ。身につけたくない」純夏の鼻息が少しだけ荒くなり、美帆から子猫を静かに手元に引き戻す。
「常識は身につけるもんじゃなくて、人をしばりつけるもんなの」子猫を取られて宙に浮いた右手をひっこめながら美帆が軽く溜め息をついた。
 その時、二人の寮室のドアを強くノックする音がした。美帆と純夏はハッと顔を見合わせる。この断固とした叩き方は梶田良子寮監に違いなかった。
「梶田です。入りますよ」
 寮監の言葉に二人は「はい」と返事せざるをえない。
 梶田寮監が勢いよく入って来た。純夏は一瞬前に子猫を自分の膝にかかった布団にもぐりこませ梶田のするどい目をぎりぎり逃れていた。梶田は二人を代
わる代わるに見る。入寮以来二三の事件を引き起こしてきた純夏と美帆は、梶田にとっては要注意人物だ。
 梶田は純夏の方で視線を止めた。
「純夏さん。あなたとは色々な問題があったから感情的なしこりが残っているかも知れないけれど、このさい単刀直入に言います。ある寮生から建物内に猫
がいると通報がありました。その猫は純夏さん、あなたのところにいるというのです。それは本当ですか」梶田の張りのある声は最初からまるで叱りつける
ようだ。
 純夏は沈黙して梶田から目をそらした。するとその時、布団の下から威嚇的で鋭い鳴き声が部屋中に響いた。
 ニャーゴッ!
 梶田の顔色がサッと変わった。

145:しこり 威嚇 同室
13/09/23 02:09:59.85 .net
知覚 貯蔵 のらくら

146:知覚 貯蔵 のらくら
13/09/24 17:20:19.81 .net
 宝くじに当選し高額の賞金を手に入れた島川は派遣社員の仕事を辞め、
もう二年ほどのらくらと暮らしていた。朝から酒を飲んでギャンブルをし
て過ごしてもまだ数年は遊んで暮らせるはずだった。
 その日は十時間ほどたっぷり寝て、とうに太陽が高くなった頃に目覚め
た。いつもの癖で目覚めの一杯を飲む。島川は上体だけ起こし寝床の周辺
に沢山ある酒のボトルの中から腕を伸ばして一本取り上げて栓を開け、確
かめもせずにビンから直接口に入れる。うまい。あらためてラベルを見る
と五年貯蔵の芋焼酎だ。もういちど口に流し込み、ゆっくりと口内をゆす
ぐ。最近知覚過敏がひどく物を噛むだけで痛い歯ぐきを消毒しているつも
りだ。

次は、忍び寄る、忙しい、濃やかさ、でお願いします。

147:忍び寄る 忙しい 濃やかさ
13/09/28 23:47:30.60 .net
 背後から眩しい光が忍び寄る。
 「ちょっと、早くどいてくれない? こう見えても忙しいんだから!」
 毎度の事ながら、私の背中にそう無言で威嚇するのはちょっと控えて
欲しい。
 今日は少し腹がたったので、明け渡さなければならない席からゆっく
りと立つ事にした。
 席の前に見える景色にも光が降り注ぎ始め、それを受けて朝露がきら
きらと輝き、その濃やかさに美しさを添えてる。
 「ほら、もう時間よ、何時までも居座るんじゃないの!」
 背中から注ぐ光はそう急かして、私を追いやろうとする。
 ……、仕方ない。
 「では、後はお願いしますよ」
 私はそう微笑みながら、席を背後の光に譲る。
 闇と星と月のカーテンを仕舞いながら振り返ると、優しい光のヴェー
ルが広がり始めていた。



 次は 「明日」「ウオッカ」「クラシック」 でお願いします。

148:名無し物書き@推敲中?
13/10/01 11:06:58.04 .net
出張で宿泊した田舎のビジネスホテル。
まわりは何もないし、俺は部屋でテレビを見ていた。
深夜でろくな番組もなく、CMは静止画に音声だ。
  明日の暮らしつくるスーパー魚塚!
あ、これ、この三語で書けのお題の「明日」「クラシック」「ウオッカ」が含まれてるじゃないか。
でも、さすがにこれじゃまずいよな。まあ、明日の仕事があるし、Youtubeのクラシック音楽でも聞きながら、ウオッカでも飲んで寝るか。
俺はそうした。


次は、「特別」「操作」「ポンプ」でお願いします。

149:「特別」「操作」「ポンプ」
13/10/01 12:27:54.86 .net
 特別な存在になりたい。
本当の俺はこんなんじゃない、こんなはずじゃあない。
こんなよくある凡人のような人生で終わるはずがない。
俺は、そうだ、もっと人を、流れを操作できるはずなんだ。
だってそうだろ!? 小学校の頃はもっと周りに人が沢山居て、
女子だって男子だって俺を囲ってチヤホヤしていたじゃないか!!

 なのになんで今はこんななんだ!?
ベッドタウンのコンビニでバイトとして働いて。
働き終わったらボロい安アパートの自宅で飯食って寝るだけの日々。
あの頃の友人はどこへ行った!?
羨望の眼差しは!? 靴箱や机の中のラブレターは!?

…どうして……っ…

 だからこれは必要なことなんだ。
これは俺が特別に戻るための、本当の俺に戻るために必要なことなんだ―


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次は「王様」「逃げ腰」「エプーリス」

150:「王様」「逃げ腰」「エプーリス」
13/10/01 19:26:56.37 .net
お后様と王様、毎朝パイを食べた。
テーブルの足元でお姫様の一人はそれをみていた。
骨は鼠にかじられた。

お姫様の一人は王様の口の中から
その夜お后様の口に宿って
お后様からまた生まれた。
土になって虫に塗れた。

生まれたくなかったお姫様はエプーリス。
王様の口の中で妹のパイを食べる。
最後はお父さんと一緒にミンチにされた。

国民はパイが食べたくて怒ったのに。
逃げ腰の王様は気にせずパイを食べた。
何もかもパイにして最後は自分をパイにした。

国中にパイがなくなってお姫様もお后様も王様も
みんな肉詰めパイになった。
残った国は隣の国からパイのように分けられて後は何にも残らなかった。
それからは鼠と虫が崩れた城に居て、パイの夢を見ている。

「菊」
「音楽」
「まるい」

151:「菊」「音楽」「まるい」
13/10/02 22:54:30.28 .net
―菊の花は舞い散った

 私は何もしていないのに、ここではまるで案山子のようで。
さえずる鳥達、なすがままの私、時折カラスが突いてくる。
いつしか添えられていた花は、私にそれを望んでいるのか。
まーるいまるい輪の中は、限りなく外であって。
皆が奏でる楽しそうな音楽も、私にだけは雑音で。

 それでも私は?を吐く、堪える。
いつかにはきっと終わると信じる、思い込む。
思いつくこと、できることはそれだけなのだと。

だからソレは、救世で、確かに私の世界を救った。

菊の花は舞い散った―


次は「憐憫」「ひらがな」「ゲペックカステン」

152:名無し物書き@推敲中?
13/10/03 05:07:59.47 .net
男は背に突き出た瘤をゲペックカステンと呼んでいた。
戦車の外側に取り付けられた工具箱を意味する言葉らしい。
とても寒い、氷が笑いながらゆっくりと消えてゆく場所からやってきたと自称するその男は、
ひらがなしか書けないし、口を閉じてものを食べることができず、
容貌は「はかほりメアニヌ」という名の絵本に出てくる薄ら笑いを浮かべた食屍鬼そっくり。
憐憫を向けてやるにはあまりにも気持ち悪すぎ、嫌悪を向けてやるにはあまりにも哀れすぎる、
そういった類のやつだった。
怖いもの見たさ、あるいはゲテモノ趣味のために彼に話しかけてやる人間も、
数分後にはそのことを後悔する。
「あんた、そのゲペックカステンてのでね、体を修理するなら今だよ。あんたこのままじゃどうしようもないよ。
ぼやぼやしてないで早く、あんたの工具を取り出せよ」と初老の酔客がある日言うと、
男はべろんと舌を出して笑って、「この瘤は俺を治すためのものじゃないんだよ。
まず治すための工具じゃない、いじくるための工具だし、いじくるのは俺じゃない、人類という種なんだ」
酔っぱらいは頭の横で指をくるくる回した。そして次の朝、妻と子の背中に、大きな瘤を見た。
男の笑い声が聞こえた。

153:名無し物書き@推敲中?
13/10/03 05:13:21.09 .net
次は
「うわごと」「証人喚問」「ランダム化」

154:「うわごと」「証人喚問」「ランダム化」
13/10/03 06:45:34.08 .net
エクセルにうわごとを表示させるプログラム
標準モジュールにコピーして貼り付けてください。

Sub uwagoto()
'エクセルVBA うわごとを三回繰り返す
For i = 1 To 3
'ランダム化 乱数の作成
Randomize
乱数 = Rnd
'うわごとの作成
If 乱数 < 0.2 Then uwa = "薬の治験データごまかした!" Else
If 乱数 >= 0.2 And 乱数 < 0.4 Then uwa = "政治問題になっちゃった!" Else
If 乱数 >= 0.4 And 乱数 < 0.6 Then uwa = "国会で問題になってる!" Else
If 乱数 >= 0.6 And 乱数 < 0.8 Then uwa = "証人喚問されちゃう!" Else
If 乱数 >= 0.8 Then uwa = "助けて!" Else
'うわごとの表示
MsgBox uwa
Next
End Sub

155:「うわごと」「証人喚問」「ランダム化」
13/10/03 06:51:55.36 .net
次は、「世界を」「おれの」「ポケットに」でお願いします。

156:名無し物書き@推敲中?
13/10/04 05:22:29.63 .net
福村幸のバカやロー 望遠鏡で隣の家の浴室や洗濯物を覗くな!!

URLリンク(ja-jp.facebook.com)

157:名無し物書き@推敲中?
13/10/07 21:08:57.21 .net
 新築の未入居アパートの二階の真暗な一室の窓の端から外を監視している西浦は、寝袋にくるまりながら白い吐息をついた。
 窓に結露が生じる恐れがあるため暖房を使えない部屋は冷え切っていた。監視対象が住む建物と道路をへだてた正面の部屋を大家から特別に借り受けることができたのは幸運であった。
 しかし、まだ誰も入居者のいない新築そのもののアパートでは、不自然になるため電灯をつけることもできなかった。
 電灯も暖房も、人間の生活から生じる様々な熱気がまったく存在しない空のアパートには、ただ張り込みをする二人の刑事、西浦と山木の体温だけしかなかった。この条件は、二月の札幌の夜では厳しすぎるものだった。
 西浦の肩が山木に軽くたたかれた。見張りの交代の時間である。西浦はそっと体をずらし、山木に位置を譲った。そのあいだ一瞬も監視対象から目をはなさなかった。
 窓から離れ、外からの視界を完全に逃れると、西浦は寝ころがって両腕を思い切りのばした。寝袋から這い出て両足も思い切りのばした。しかし数秒後には寝袋に再びもぐりこんだ。
 山木が配置につくこれから1時間は基本的に自由に使ってよい。西浦は上着のポケットから古い文庫本を取り出した。ハドリー・チェイスの「世界をおれのポケットに」だ。西浦は窓の外から入るかすかな明かりで読もうとした。しかし暗くて読めなかった。

158:名無し物書き@推敲中?
13/10/07 21:13:33.97 .net
次は 十年後 休息 谷底 でお願いします。

159:名無し物書き@推敲中?
13/10/22 22:49:42.34 .net
谷底に突き落とされた十年後、井原は目を覚ました。
大きく息を吸い込んで吐き出すと、錆び付いた肺から噴き出した塵にむせ返る。
その苦しさがいかにも「生きている」ものらしく、懐かしい。
随分長い休息になってしまったが、たまにはこういうのも悪くない。
新品同然になった自分の体を見下ろし、心の中でそう呟いたものの、ふとあることに気付いた。
服がない。
大半は転がり落ちた時に破れてしまったのだろう、残骸と思しきものが体のあちこちに張り付いていたが、大切な部分を隠すには到底足りない。
これではとてもではないが外の、もとい谷の上には出られない。
井原は少し思案したあと、ほとんど光の差さない谷の底を歩き出した。
自分と同じような目に遭った「人間」が他に居るかも知れない、探してみよう。


次は「誕生日」「インク」「展覧会」でお願いします。

160:誕生日 インク 展覧会
13/10/24 10:06:57.58 .net
大河原はもう一時間半もひたすらサインを続けている。
小さな机に座り、並んだファンから展覧会の図録を受け取り、少しの会話をしながらサインして返す。その繰り返しだった。
初めは会話にももう少し余裕があったけれど、だんだん疲れてもくる。
サインする場所を指定してもらい、相手の名をたずね、献辞とともにサインをする。
時間内に終わりそうにないほどの行列を早くさばきたかったので、気持ちがせいてきていた。
顔はだんだんファンの一人一人を見ていないようになり、ほとんど図録の方を向いているようになった。
使い続けたペンはインクが切れてすべりが悪くなってきた。
次の人は和服の女性らしく白い手をしていた。
「ここにサインをいただけますかしら」
すずやかな声で、あるページが開かれて差し出された。
香菜子像。大河原の代表作である。
大河原はサインペンのインクでそのページを汚すのがうとましくて、思わず顔を上げて相手の顔を見た。
驚いた。十年ぶりに驚いた。
そこで微笑んでいたのは、十年前に大河原の前から忽然と姿を消した香菜子だったからだ。
しばらく声も出なかった。ようやく声が出たときには、思いもかけないバカげたことを口走っていた。
「そういえば・・・・・・今日は君の誕生日だったかな」


次は 気さく 破壊 遊離 でお願いします

161:気さく/破壊/遊離
13/10/27 10:48:46.24 .net
世にも気さくな親父がいた。
しかし彼は一人娘を殺害されてから、性格が一変した。見るもの全ての人々を、こいつが犯人ではないかと睨みつけ、ちょっとでも目が合えば喧嘩をふっかけるようになった。
「お前が犯人だろ。俺の娘を犯して殺してバラバラにしてコンビニのゴミ箱の前に捨てたな。白状しろ」
「何言ってんだキチガイ。やめろ。あっ」
娘の殺されたコンビニで、親父は隠し持っていたプラスのドライバーで見知らぬ男の胸を数回突き刺していた。
男は「警察、救急車」と切れ切れに叫び、蹲って血を流したまま、動かなくなった。
「ざまあみろ」
嘲る親父の目に奇妙なものが見えた。
「なんだ?」死んだ男の体から、白く薄光りする玉が浮かび上がり、宙を舞い始めたのだ。
「死んで、魂が遊離したってわけか。こいつはいいや」
親父は血だらけのドライバーを握ったまま光の飛んでいく夜空に高笑いをした。
その大きく開けられた口に、飛んでいた魂がひょいと入り込んだ。
だが親父は、それが喉の奧に入り込む前にがぶりと噛んで噛み砕いた。
魂の中には、突然命をなくした男の無念と恨みの味が、これでもかという程つまっていた。
「うむ、いい味だ。だが、俺の恨みは貴様ごときの比ではないぞ。まだだ、まだ殺したりない」
親父は殺した相手の魂をも呑み込んで、恨みを重ね、夜の町を歩き出す。
「殺してやる。俺の人生、この世の中。全てを破壊して終わりにしてやる」
翌朝、親父の死体が川縁で発見された。付近の不良たちに単独で挑んで返り討ちに遭ったらしい。
それまでに付近で数件の通り魔事件が発生している。
犠牲者は五人。その魂が今はどこを泳いでいるのか、誰も知らない。

次「サイコ」「読書感想文」「火傷」

162:名無し物書き@推敲中?
13/10/29 20:04:31.52 .net
ほんとうに久しぶりに来たスレは過疎で、創作版でも最下位に位置している
あれほど好きで、はまって張り切って書きこんでいたのに、何でこんな処まで
此処は落ちているんだ。でお題は何だって?
サイコだろう、サイコと言えば羊たちの沈黙レスター博士が思い浮かぶ。小泉今日子が
ある番組でそのオマージュをやっていたような。どうでも俺には受け付けないと言いつつ
思わず見たくなってしまうよな? それでもそれでなくても
サイコという人の名前でも此処はいいんだ。喫茶店の名前に使用してもいいのがこのスレの
特徴だった。俺が遊んでいた時はそうだった。で、次は読書感想文ね。俺の作文なんて
読書感想文以下だよ。今変換で烏賊が出てきた。オモロイだろ、以下と烏賊の関係で
4百字詰め原稿用紙十枚以上埋めるのが作家志望の実力か? 俺は本を読まないからな。それでも
此処までやってりゃそれは自信あるぜ。最後火傷だろ。昨日サスペンスみたんだけど
その最後の犯人特定とかにこれは使用されるよな。俺ってこれだけサスペンス好きなのに
あんまり書いてないんだよな。何かコツとかあるのかな。荒唐無稽な話はお任せと言う位得意なんだけど
「文学界」「スバル新人賞」「暮らしの小説大賞」

163:名無し物書き@推敲中?
13/10/29 21:28:39.46 .net
固有名詞でしたのでお題を変えます
「山」「地獄」「カクテル」

164:名無し物書き@推敲中?
13/10/30 03:34:21.33 .net
バーテンダーから赤いカクテルを受け取ると、ふっと昔の記憶が蘇ってきた
あれは30年前のことだ。私が読売巨人軍の一員として腹監督の下で東北連合軍と戦ったあの最後の日のことだ。
私達は最終防衛線である奥多摩の山地の地下壕に篭り、来るべき決戦に備えてバットに釘を打ち、
残り少ないボールを磨いたりしていた。その次の日の明け方、私に水汲み番が回って来たので裏手の谷間にある
湧き水を汲みに一人出かけた。湧き水に反射された朝日は地下壕暮らしだった私の陰鬱な顔を変えていった。
その湧き水で喉を潤し、ボトルに湧き水を入れていたその時、ゴゴゴゴと地鳴りが山という山を揺らしたのだった。
「敵だ…」
私は急いで水の入ったボトルを片手で持ち山を駆け地下壕に戻ろうとしたが途中で友軍の杉内が暗い表情で立っていた。
ユニフォームはズタボロで泥と血にまみれていた。左腕がなかった。
「どうした?敵が地下壕をやったのか?」
「ああ、みんなやられたよ、一発だよ、ミサイル一発だ、壕の中は地獄だ」
杉内はそう言い、右手に持っていた釘バットを私に向け
「ああ痛い痛い痛いんだよ、腕千切れたんだぜ、投手生命終わったよ、これで俺はやってくれ、痛いんだよお……」
私は戸惑いながらも杉内から釘バットを受け取り
「我が巨人軍は永久に不滅だ、後楽園で会おう」と言い杉内の頭めがけてフルスイングした。
私は後を追おうとしたができなかった。血のついた釘バットで突撃すらできなかったのだ…
 
次「軽蔑」「革命」「妖怪」

165:名無し物書き@推敲中?
13/11/03 05:45:15.99 .net
あげ

166:名無し物書き@推敲中?
13/11/03 14:09:06.36 .net
>>149
ニュースに、特別捜査本部を入れてほしかったなw

167:軽蔑 革新 妖怪1 ◆4pgI1EkLlCjP
13/11/07 23:05:33.16 .net
こいつはどうもしばしお付き合い願います。
しかしまあ夜が長くなりまして、今夜のような細い月、
まことに夜らしい夜月らしい月でございますな。
昨今は電気、という野暮な技術が夜を明るくいたしまして
風情も情緒も押しやられておる次第ですが
いやしかし、この座敷にそなえた広い庭が風情も情緒も守っておるようで
月は月らしく見えております。うちに陰を備えるからこそ月は美しい
わたくしはそう思いますね。
そして夜はかそけき光を含むから美しい。
ええまことに今晩はよろしい心地で語ることができますようで
わたくしには何よりの興でございます。

168:軽蔑 革新 妖怪2タルギはゲーム
13/11/07 23:06:46.71 .net
さて、妖怪の話でございます。
妖怪は何の益にもならず、ただ人をぎょっとさせる、そういう存在でございます。
無益、いや害悪という人間もおりましょうな。
小さい肝っ玉を後生大事にしておる様はわたくしは心底軽蔑いたしておりますが、
多少の肝など潰しても、飄然とする妖怪にはわからない事情があるのですかねえ。
まあ人間も悲しい生き物でございますな。
飄然といえば妖怪は飄然とするのが本性、サガというものでして
ふらりふらりといるのやらいないのやら、世俗に関わるようで
その実、世俗に関わらないのが妖怪でございます。

169:軽蔑 革新 妖怪3タルギはゲーム
13/11/07 23:08:17.25 .net
ところが、でございます。
昨今の技術革新というやつですか、
妖怪にも革新の風が吹き付けておりましてつくも神なんかには
電化製品だったものにも生まれているそうでございます。
新参のはやぶさなんかは神がかりを世間に晒して妖怪仲間からは顰蹙を買っておるらしいですが
小豆洗いの全自動を持ち込んだあのじい様よりかは
馬鹿にはされておらぬようです。
じい様、小豆洗いの音がしないってんで弱ってましてね
隣住民の洗濯音と間違われる馬鹿なじい様ですよ。
まあ手洗いに戻したそうです。
さてオチも流れてこの話会もお開きといたしましょう。
どうもお付き合い頂きましてありがとうございました。

170:名無し物書き@推敲中?
13/11/08 02:25:00.58 .net
長過ぎ、out!

171:軽蔑 革新 妖怪
13/11/09 00:34:43.58 .net
さて、妖怪の話でございます。
妖怪は何の益にもならず、ただ人をぎょっとさせる、そういう存在でございます。
妖怪は害悪という人間もおりましょうな。
小さい肝っ玉を後生大事にしておる様はわたくしは心底軽蔑いたしておりますが、
多少の肝など潰しても、飄然とする妖怪にはわからない事情があるのですかねえ。
まあ人間も悲しい生き物でございます。
飄然といえば妖怪は飄然とするのがサガというものでして
ふらりふらりといるのやらいないのやら、世俗に関わらないのが妖怪でございます。
ところが、でございます。
昨今の技術革新というやつですか、
妖怪にも革新の風が吹いておりまして、つくも神が
電化製品だったものにも生まれているそうでございます。
新参のはやぶさなんかは神がかりを世間に晒して妖怪仲間からは顰蹙を買っておるらしいですが
小豆洗いの全自動を持ち込んだあのじい様よりかは
馬鹿にはされておらぬようです。
じい様、 隣住民の洗濯音と間違われて弱ってんですよ。
まあ手洗いに戻したそうです。
さてオチも水に流れてお開きといたしましょう。
どうも馬鹿馬鹿しい話にお付き合い頂きましてありがとうございました。 =====
字数制限あるのに気づかんかった

172:名無し物書き@推敲中?
13/11/10 09:57:10.13 .net
次のお題も出してないし、前の継続でええんか?

173:名無し物書き@推敲中?
13/11/10 10:45:02.63 .net
指定がない場合は前の継続っていうことになってる

174:軽蔑 革命 妖怪
13/11/11 02:04:55.81 .net
ぬらりひょんは顔を朱色に塗り、肛門に胡瓜を刺しこんで首を吊って死んだ。
かつて人間達の科学技術に真っ向から戦ってきたぬらりひょんは妖怪達の総大将として絶大な支持と人気を集め英雄と化していた。
しかし、妖怪研究家がぬらりひょんが一部の人間達と癒着し、妖怪達を欺き続けていたことを告発したのだ。
ぬらりひょんは元々、人間の家へ勝手に上がりこみ居座ることによって人間達に恐怖を与えていたが、
それが一部の反社会的な革命家やヤクザと手を結び、麻薬、覚せい剤や銃器の密売に手を染めるにまで到ったのだ。
この告発は妖怪界を震撼させた。かつて、ひだる神がやったことは嘘で、人間は食事を取らずに長時間歩けば低血糖状態に
なり倒れるという科学的根拠によって追い詰められ失脚し自殺したあの時以上に震撼させたのだ。
「あの偉大なる英雄ぬらりひょんが…嘘でしょ…」
「あの野郎、俺らを欺き人間達と手を組みやがって!」
「儲けた金でワシら妖怪の生活を良くする為なら話はわかるが、それさえも知らせずに自分の懐だけを肥やしていたとは…」
妖怪達はぬらりひょんを軽蔑し、さらには憎悪と怒りを募らせ、やがて爆発した。
妖怪達は高台にそびえ立つぬらりひょんの家に押し寄せ、
「人間と手を組むぬらりひょんを追い出せー!追い出せー!」とシュプレヒコールを上げ、ぬらりひょんを自殺に追い込んだのだった。
しかし妖怪界の中枢を支え持つぬらりひょんの死によって妖怪界は混乱と混沌の渦に巻き込まれ、
さらには人間達による徹底的な浄化作戦を許す形になり終焉を迎えたのだった。

次は「包丁」「警察」「嫉妬」

175:名無し物書き@推敲中?
13/11/18 05:31:35.07 .net
あげ

176:名無し物書き@推敲中?
13/11/18 05:35:55.18 .net
盛りあがってるワイ杯よりも敷居が低くて誰でも参入しやすいスレなのになあ、もったいないあげ

177:包丁 警察 嫉妬
13/11/22 11:45:49.18 .net
 ベンチで目を覚ますと額に違和感がある。湿ったものが貼り付いているようだ。

「動いちゃダメ!!」顔に手を伸ばそうとすると、妹の声に遮られる。
 少し離れて彼女の立ち姿。手には、包丁?……それに果物?
 説明によれば、俺の額にアボガドのスライスがあり、そこでスズメバチが休んでいる、とのこと。

「で、なぜ俺にフルーツを盛った?」もろもろの買い出しの途上、俺達は公園で休んでいた。
「熱があったから冷やそうかと……ていうか、喋らないで」急な引越しの疲れが今ごろ出たらしい。
「警察が飛んできて職質されるぞ……食い物と一緒に仕舞えよ」
 しかし、飛んできたのは警官ではなく白黒の猫。ベンチの背に乗り、こちらを伺っている。
「猫、頼む。蜂を追い払ってくれ……アボガドはくれてやる」俺の依頼に首を振る猫。そして交渉を始めた。

「……猫の奴、『私を飼えば追い払う』と条件を変えてきた」帰り道、その時の様子を妹に語る。
「猫に足元見られたんだ?しょうがないなあ……で、何て答えたの?」
「『妹が嫉妬するから無理』……それを聞くなり何処かへ行きやがった」

次「冬支度」「封筒」「カラ元気」

178:名無し物書き@推敲中?
13/11/24 17:10:16.70 .net
 森の動物たちが冬支度を始めた。
リスは木の穴にたっぷりとドングリを詰め込んでそこに潜った。冬眠するならそんなに食料はいらないはずなのだが。
「俺は冬眠はしない。冬期の深夜アニメを録画なんぞに任せて春先になってから見るなんて馬鹿げてるからな」
 リスはそう言うと、ドングリを両頬につめながら、穴の奥に隠されてあるソニーのBlu-rayディスクレコーダーの前に陣取った。

 野ウサギは人間の作った廃屋の下で冬を過ごすことにした。
 そこへヤマト運輸の配達員がやってきた。
「おや、こんな所にいたんですね。住所が変わったので探しましたよ」
 そう言うと、一通のメール便を野ウサギに差し出した。
「ああ、すまんすまん。こいつを注文したのを忘れていたよ」
 野ウサギが封筒を開封すると、中には『劇場版・魔法少女まどか☆マギカ』のBlu-rayディスクが入っていた。
「そうだ、リスの穴に尋ねて行って見せてもらおうか。奴も喜ぶだろうし」
 野ウサギは円盤をくわえて、レコーダーを所持しているリスの穴へ向かった。

「ちぇっバカどもが。野生動物が豚に成り下がってどうするよ?」
 その様子を遠くで見ていた熊が言った。
「人間界に毒されやがって。まったく森の動物たちの風上にもおけん奴らだ」
 仲間に入れない熊は持ち前のカラ元気で山々に咆哮すると、最後は寂しげにその場を去っていった。
 その熊はほどよい穴蔵の寝床を探して冬眠に入った。
 しかし、そんな熊の腕にも、実は遭難者から奪ったカシオのプロトレックが黒く輝いていた。
 こいつは動き続ける。春先に熊が起きても、あるいは起きなくても、いつまでも正確な時刻を刻み続けている人類の英智であった。

「マッサージ器」「最新型ゲーム機」「女帝」

179:「マッサージ器」「最新型ゲーム機」「女帝」
13/11/30 00:09:16.60 .net
冬の到来はすぐにきた。
秋めいたのはほんの瞬間で、もはや寒い。
「あ~寒い寒い」
身をちぢこませながら夕暮れの家路をぼやいて歩いていると、
古いゲームセンターの前に一台のトラックがとまっていた。
商店街にある小さなゲームセンターで俺のいきつけだ。
すると店の中から運送業者らしき人とそのゲームセンターの店主である
バアさんが出てきた。
運送業者の人はバアさんに挨拶をして、急ぐようにトラックで走り去って行った。
それをながめていた俺にバアさんは気づいて、ニコニコしながら近づいてきた。
「あらおかえりかい、ちょうど今ね最新型のゲーム機が入ったんだよ」
「最新型のゲーム機?」
俺は少しいぶかるように聞き返した。
とても最新型のゲーム機を入れられるほどの余裕があるようには
思えなかったからだ。
それよりマッサージ器を買ったほうが良いんじゃないかとも思った。
「そう、女帝っていうんだよ、あんた知ってるかい?どうだいやってみるかい?」
俺の女帝との出会いはこうして始まった。
これがやがて世界をかけた大いなる戦いへと続くとは、
その時の俺はみじんの予感もしていなかったのだ。

180:「マッサージ器」「最新型ゲーム機」「女帝」
13/11/30 00:13:20.83 .net
次のお題
『価値』『ブルー』『灼熱』

181:名無し物書き@推敲中?
13/11/30 00:36:08.87 .net
俺の価値はなんだろう。
灼熱の炎天下。こころなしか靴底が歩くたびに粘る気がする。
溶けてでもいるのだろうか。
ただ、歯車として社会によってすり減っていく日々。
会社に行きたくない。行きたくないい。
月曜日にはいつも脳内でわめき散らして電車に揺られている。
ブルー?そんな綺麗なもんじゃないんだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お局 猫なで声 救急車

182:「お局」「猫なで声」「救急車」
13/11/30 21:40:46.03 .net
 寿司ロボット『お局 Mk-III』には顔がない。其れを失くしてから稲荷寿司しか握らなくなったと云う。
「―私の顔を複製し、ツボネさんに嵌め込むのですか?」
「ツボネさん本人からの頼みでは仕方ない。―早速、此処に顔を浸して呉れ給え」
 洗面器の底に沈着した砂に目を凝らすと、横たわる平目の姿が判る。立体物の表面をサンプリングする能力を持つ魚、との説明を受ける。
「嫌です、何か臭います。―あと、失くした顔の代わりと云うのも気味が悪い。抑、失くした、とは如何なる経緯でしょう?」
「聞く話じゃ、モデルの女性の仕業らしい。複製した顔の出来が良過ぎた事に腹を立てたそうだ」
「疑わしい。完成前に壊されたなら未だしも……」
「その女性は複製作業中に救急車に運び込まれ、長期入院を余儀なくされた」
「平目など顔に貼るからですよ!」
『其の頃は品種改良が不十分だったニャア』
「猫なで声で巫山戯ないで!」
「おい、今のはツボネさんの声帯模写だぞ?」
 唐突に平目が跳ね、瞬く間に顔を覆われて仕舞う。意識が混濁する中、私は、寿司を握っていた。
 ―おや?ツボネさんが普通のネタを握るなんて久々だなァ
 談笑する男達に混ざり、澄ました私の姿が見える。居た堪れない。……もう稲荷寿司しか握るものか、固くそう誓った。

============
次のお題は「工事現場」「プレゼント」「笑う技術」


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