この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十七ヶ条at BUN
この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十七ヶ条 - 暇つぶし2ch250:名無し物書き@推敲中?
14/05/03 11:19:22.17 .net
「桜」「小判」「宅急便」

饅頭屋の屋根裏に魔女が住みついた。
宅急便を生業にし、落ち込んだりもしたけれど、まずまず元気にやっていた。
箒にまたがり空を駆け、仕事も軌道に乗ってきた頃、心に迷いが生じてうまく飛べなくなった。
ある日、風にあおられ木の葉のように舞うと、そのまま満開の桜の木に引っ掛かってしまった。
腹を立てたのは、花見を台無しにされた町の衆だ。
彼らは怒りをつのらせ、ついに彼女に石を投げ始めたが、群集を煽ったのは飛脚軍団だった。
空飛ぶ魔女と比べられ、自慢の健脚とプライドを傷つけられた彼らは、反撃の時をうかがっていたのである。
魔女絶対絶命……! とその時、止めに入った若い侍がいた。
彼こそは、城を抜け出すことで有名な将軍だった。
懇意にしている火消しに頼んで魔女救出に臨んだはいいが、魔女の懐から黒猫が飛び出し、また一騒動。
町民らが凶暴な黒猫にてこずっている中、飛脚はこれ幸いと魔女にとどめをさしにかかる。
自分の手には負えないと悟った将軍は、口笛を吹いて鷹を呼び、メモを託して空に放った。
およそ36秒後に現れたのは、カンガルーとペリカンの二体のゆるキャラもどきである。
優秀なお庭番である彼らは、過剰な愛想と小判をばらまきながら民衆の気を逸らしつつ、
華麗な軽業で飛脚軍団を蹴散らし、魔女と黒猫を無事救出したのだった。めでたしめでたし。


「針」「剣」「ハリケーン」でお願いします。

251:名無し物書き@推敲中?
14/05/03 13:37:27.18 .net
「針」「剣」「ハリケーン」

老人は入っている小説倶楽部から課せられた今月の小説のお題について考えていた。
針、剣、ハリケーン。
また奇異なお題を、老人は細く笑む。
目線を上げると、古い、装飾の施された剣が誇らしく暖炉の上に飾られているのが目に入る。
彼の長年の相棒である、老人はぜひともこの相棒を小説の中に持って行きたかった。
剣の飾られた暖炉の側では、老女がほそぼそと針仕事をしている。
そう、主人公は剣士、戦いに暮れる宿命を持った剣士は、ある使命を託された、
姫を助けるために、針の集合体のような外見を持つモンスターに戦いを挑むのだ。
そして不意にやってきたハリケーンにモンスターごと山の彼方に飛ばされ……。
いやまて、飛ばされてどうする。
老人は更に思考の奥底へと意識を飛ばす。
そう、主人公は鍛冶屋、世界一の剣を作り出すために命をかける鍛冶屋は疲れを癒やすためにある針師の元へ行く、
そして不意にやってきたハリケーンに針師ごと飛ばされ……。
いやまて、飛ばされてどうする。
深く深く想像力の彼方へと意識を飛ばしてる老人の側では、すばらしい剣が、静かにその様子を見守っている。
想像の彼方へと旅立つ彼の世界には、誰一人足を踏み入れることなどできはしない。
彼と、彼の剣意外。
針仕事をしていた老女は、いつの間にか、暖炉の側から消えていた。
窓の外では、木をなぎ倒しながら、何かが近づいていた。

次のお題は
「スタートライン」「紙」「ヤギ」
でお願いします。

252:名無し物書き@推敲中?
14/05/03 13:52:10.62 .net
「針」「剣」「ハリケーン」

正座をした俺を剣呑とした雰囲気を漂わせたクラスメイトの女子一同がぐるりと取り囲んでいる。
そして1台のビデオカメラが目の前に鎮座ましましている。体育前の着替え中に発見された隠しカメラだ。
今年共学化したばかりの学校でこのクラスには男子が俺しかいない。つまり犯人は俺だろうと言う言いがかりだ。
確かに昔の俺ならそうまでしてでも見たいと思ったかもしれない。しかし女の本性を知ってしまった今となっては全く見たいとも思えない。つか普段から俺が居ても構わずに着替えてる癖に。今だって半分くらいが下着姿のままじゃないか。
などど思った所でこの針の筵の居心地が良くなる訳でなし、ハリケーンの様な責めを凌ぎつつしどろもどろに言い訳するしか無いのであった。
結局「こいつは別にコソコソ隠し撮りしなくても普段から見れるし、今も真っ赤になって目逸らしてるし犯人では無さそう」と言う結論に落ち着いて容疑は逃れる事が出来た。
が、それ以来下着姿でおちょくられたり胸を触らせられて反応を笑われたりと言う「天国の様な地獄」をたっぷり味わう事になってしまった。
ちなみに隠しカメラの犯人は女子の1人で、隠し撮り映像を業者に売っていたらしい。
その犯人への吊るし上げ方は俺がもう一生女には逆らわない、と心に決めるには十分なモノで有ったのを付け加えて話を閉じたいと思う。



次は
「ダム穴」「廃墟探索」「深爪」

253:名無し物書き@推敲中?
14/05/03 13:52:49.60 .net
おっと、お題は>>251

254:名無し物書き@推敲中?
14/05/04 09:47:28.75 .net
「スタートライン」「紙」「ヤギ」

その日、行われるはずだったマラソン大会が中止になったんです。
スタートラインでウサギとカメが座り込みを始めたからでした。
ウサギは観衆に訴えかけるように叫びました。
「私はレース中に昼寝なんてしません!」
続いてカメも叫びました。
「僕をのろまと呼ばないで!」
胸を打たれた他の動物たちも、続々参加し始めました。
カラスが目に涙をいっぱいためながら叫びます。
「オイラを悪者と決めつけるのはやめてくれ!」
続いてキツネが絞り出すような声で言いました。
「わいは無実や……!」
白いヤギと黒いヤギも続きました。
「私たちは食べない! 紙など! ましてや郵便物など!」
動物たちは胸の内にあった物を吐きだし、清々しい気持ちになりました。
これが『あにま~る心の叫びフェス』の誕生秘話です。


「ダム穴」「廃墟探索」「深爪」でお願いします。

255:名無し物書き@推敲中?
14/05/09 00:17:25.79 .net
「ダム穴」「 廃墟探索 」「深爪」

普段は気に止める事も無い己れのインナーワールドに踏み込んでしまった。と、言っても果てしなく広大な精神世界の極一部なんだろう。

日常の渇いた暮らしに小さな痛みを感じ始めたのが切っ掛けだ。痛みなどと言っても肉体を痺れさせる様な激しい痛みでは無いのだが、深爪をしてしまった時の嫌な何かに触ると染み入る様な痛みなんである。

その世界は薄暗い林であった…

林は朽ち果てた楼閣と干上がった池を中心に見窄ぼらしい建家が点在する。どこか懐かしくも有る不思議な場所だ。

それらを一々廃墟探索する勇気もなく干上がった池の真ん中にポッカリ開いたダム穴だけを茫然と見詰めるのであった。

この穴こそが林の精気を抜き取り、日常を渇かせ、肉体から潤いを奪い去る元凶なのだと確信しながら。




次は「朝焼け」「愛」「横顔」でお願いします。

256:名無し物書き@推敲中?
14/05/10 16:00:03.99 .net
「朝焼け」「愛」「横顔」

濡れた地面の上で目が覚めた。
いつからそこにそうしていたのか、記憶を辿ろうとするとこめかみの辺りがズキンと痛む。
僕と彼女は―
そうだ、僕と彼女は通り雨に喜んで道路に飛び出したのだった。
愛を語らいながら踊り明かすつもりで、彼女を雨の舞台へ連れ出したのだ。
近づくヘッドライトも余裕でかわし、僕らは愉快にステップを踏んでいた。
その時、猛スピードの自動車がハンドル切って方向を変えた。
僕は気づいて咄嗟に逃げたが彼女は―
彼女はどこだ。
僕は大声で彼女の名を呼びながら、目を凝らし耳を澄まし、彼女の返事を待った。
そして僕はそれを目にする。
アスファルトにきれいにのされた彼女の姿を。
最も幸せな瞬間に召されたのだと、その横顔が物語っていた。
朝焼けに染められた東の空がぼんやり滲む。
彼女にそっと口づけすると、涙を拭い、水田にぽちゃんと飛び込んだ。


「正直」「天気予報」「五月病」でお願いします。

257:「正直」「天気予報」「五月病」
14/05/12 20:43:46.18 .net
――ざあざあざあ、と雨が降る

4月1日、全力で嘘を吐いた。3月中に上手い嘘の吐き方を猛勉強、研究研鑽して吐いた自信作だった。
4月2日、彼女ができた。まさか誰も嘘だと気付いてくれないなんて思いもよらなかった。
最初のうちは良かったんだ、その内バレるだろうと気安い付き合いをしていた。
勿論仲良くなれたこと自体は正直とても嬉しかったので終始デレデレしっぱなし。

2週間くらいしたとき、気付いた―
本気で…惚れてる

それからはもう酷いもので、彼女に嘘を吐いたことへの罪悪感に悩みながら、嘘を続ける毎日。
ゴールデンウィーク、彼女と友人数人とで小旅行に出かけた。
楽しかった、楽しめなかった。
嬉しい、苦しい。

『最近元気無いね、何かあった?』

辛い…つらい…ツライ…

「ううん、大丈夫。ちょっとダルいだけ、五月病…かな?」

明るく声に出して笑う。
それから幾つか言葉を交わした後、電話を切った。
ははっ、と、哀しくて嗤った。

私はどうしたら良いのだろう、わからない。
明かりの無い部屋、ふと窓を見る。
天気予報はあてにならない。

――ざあざあざあ、と雨が降る

次は「年少」「偏屈」「大本」でお願い。

258:名無し物書き@推敲中?
14/05/16 19:45:17.75 .net
「年少」「偏屈」「大本」

遠く南の島からポリポリ族の一団がはるばる我が家にやってきた。
滞在初日、そろそろ食事にしましょうか、という段になって一騒動。
ポリポリの男たち総勢5人が庭に飛び出し、繋がれていた犬を取り囲んだのだ。
桃太郎、赤柴オス3才、危うく屠られるところだった。
犬は家族なのだということをなんとか理解してもらい、寿司とスキヤキで我慢してもらったが、
彼らは食事中、窓の外の桃太郎に視線を送り続け、それをおかずに飯を食べているようだった。
犬から意識が離れないので、散歩という習慣について説明すると、目の色を変えて皆が行きたがる。
私たちがただ困惑していると、長老らしき偏屈そうなじいさんがムスッとした顔で、
「ひょっとして、わしらが食っちまうとでも?」
らしきことを言ってから、破顔一笑、いたずらそうにケケケと笑った。
それを合図にその場は笑いに包まれ、年少の若者など座敷で宙返りしながら大はしゃぎ。
「まさか!」「またまたぁ!」と、お互いの体を突っつき合いながら腹がよじれるほど笑い合ったのだった。
肌を埋め尽くす刺青などから、果てしない距離を感じていたが、笑いは全世界共通なのである。
人間同士、大本のところは変わらないのだなぁ、と親近感を覚えた瞬間だった。
私たちは楽しい一週間を過ごし元の生活に戻ったが、かわいそうに桃太郎はしばらくの間うなされていた。


「大魔王」「パラシュート」「ふわふわ」でお願いします。

259:名無し物書き@推敲中?
14/05/23 01:27:47.97 .net
「大魔王」「パラシュート」「ふわふわ」

「え?」
「だ、か、ら!
 まず着地点を見定めておいて、お前がパラシュートを落とす。
 おもりに火種をつけておいて、
 俺が先日完成させた、ふわふわシュークリームの蝋燭の上へ、見事点火」
「なんで誕生日にシュークリームなんですか」
「あいつの好物なんだから仕方ないだろ!で、そのシュークリームの中から…」
「婚約指輪が出てくる」
「そう!」
「『このふわふわ製法で特許を取るから、君を決して貧乏にはさせない…』の言葉で号泣」
「そう!そう!」
「でもなぁ…」
「なんだよ」
「あの人って婚約指輪より…」
「あ、来た!」

「えっ!?」
「なに?美味しかったけど」
「……だよなぁ。この人、食欲大魔王だもん。
 多少硬めの中身のことなんか気にもとめないで丸のみですよ」
「30万円のシュークリームがぁ……」
「バカね、そんな高いお菓子あるわけないでしょ」
「ぐぬぬ……な、なぁ、でもこのシュークリームの皮って、とんでもなくふわふわしてただろ!?」
「え、普通でしょ?」

「…うん、別れようか」

次は
「六法全書」「石鹸」「やまんば」

260:名無し物書き@推敲中?
14/05/27 21:23:52.15 i+qT7v8UC
「昔の漫画で、六法全書をアナルに挿れるってのがあったわね…」
病室のベッドで酸素マスクの下から、森田剛が苦しげに呟く。
「ああ、確かふんどし刑事ケンちゃんチャコちゃんだったかな。お前、あれ好きだったもんな」
俺は病でやつれ、やまんばのような姿になった剛の耳元でそっと囁く。俺は原輝夫。
刑務所で知り合い、ゲイの森田に優しくされてついおホモだちになった俺たちは、出所後も付き合っていたが、森田はゲイ特有のあの病で余命幾ばくもなかった。
「死ぬ前に、あなたの肛門に六法全書全書を入れてみたかった…」
森田がとんでもないうわ言を言うが、俺は気にしなかった。どんな願いでも叶えてやりたかった。
「おう、いいぜ、やってやらあ。今、石鹸持って来るからな」
流石に滑りをよくしないと、俺のブラックホールも耐えられません。
「しかし六法全書がないな…本屋に行くか」
「いえ、六法全書はもういいの。代わりに違うものを挿れて欲しいの…」
森田が俺を引き止める。
「 ? 」
「ねえ、私、今酸素マスクしてるでしょ。この状態なら試せると思うの。あの究極のプレイを…」
「ま、まさか…」
俺の全身が緊張で震える。呼吸器を使わねば出来ない伝説のプレイとは…
「そう、スカルファックよ」
俺は覚悟を決めた。

次は
「おっぱいマウスパッド」「自衛隊」「専業主婦」で

261:名無し物書き@推敲中?
14/06/01 12:24:42.36 .net
>>259
新2chへの書き込みはこっちに反映されないんだ 必要なら再投稿を
スレが落ちた時に削除されたっぽいのはコピペしとく

262:名無し物書き@推敲中?
14/06/01 12:26:02.36 .net
「大魔王」「パラシュート」「ふわふわ」

「え?」
「だ、か、ら!
 まず着地点を見定めておいて、お前がパラシュートを落とす。
 おもりに火種をつけておいて、
 俺が先日完成させた、ふわふわシュークリームの蝋燭の上へ、見事点火」
「なんで誕生日にシュークリームなんですか」
「あいつの好物なんだから仕方ないだろ!で、そのシュークリームの中から…」
「婚約指輪が出てくる」
「そう!」
「『このふわふわ製法で特許を取るから、君を決して貧乏にはさせない…』の言葉で号泣」
「そう!そう!」
「でもなぁ…」
「なんだよ」
「あの人って婚約指輪より…」
「あ、来た!」

「えっ!?」
「なに?美味しかったけど」
「……だよなぁ。この人、食欲大魔王だもん。
 多少硬めの中身のことなんか気にもとめないで丸のみですよ」
「30万円のシュークリームがぁ……」
「バカね、そんな高いお菓子あるわけないでしょ」
「ぐぬぬ……な、なぁ、でもこのシュークリームの皮って、とんでもなくふわふわしてただろ!?」
「え、普通でしょ?」

「…うん、別れようか」

次は
「六法全書」「石鹸」「やまんば」

263:名無し物書き@推敲中?
14/06/02 21:19:52.30 .net
現在18時22分。日が伸び出して来たとは言え、鬱蒼とした木々に囲まれ辺りは既に薄暗くなっている。
落ち葉が敷き詰められた斜面をガサガサと転がる様に降りて行く男が1人。
ちょっとしたハイキングのつもりが道を間違えた、と気づいたのは完全に自分の居場所をも見失った後であった。
薄暗い山の中で1人まよっt

264:名無し物書き@推敲中?
14/06/02 21:20:27.84 .net
うぉ途中で書き込んでしまったorz

265:名無し物書き@推敲中?
14/06/02 22:17:50.04 .net
現在18時22分。日が伸びてきたとは言え、鬱蒼とした木々に囲まれ辺りは既に薄暗くなっている。
落ち葉が敷き詰められた斜面をガザガザと転がる様に降りて行く男が一人。
ちょっとしたハイキングのつもりが道を間違えた、と気づいたのは完全に自分が何処に居るのかも見失った後であった。
薄暗い山の中で一人迷うと言うのは思った以上に不安なもので男の気分は六法全書よりも重く沈んでいた。
何処に向かって居るのかも分からないまま進んでいると悪い想像ばかり膨らむ。思わず足がすくんでしまった。
男はじっとりとした脂汗を拭いながら考えた。
このままここに留まって、明日の朝明るくなってから行動した方が良いのではないだろうか?
しかしこの深い木々の中で一夜を過ごすのは恐怖以外の何者でも無い。
そう思うと一度すくんだ足を無理に前へと出す。
既に足元もよく見えない程暗くなっている。ここは慎重に進まなければならないのは分かっているが恐怖心がそれを許さない。
もういっその事、やまんばでもいい。とにかく灯りが見たい。そう思うと更に山を下る速度は増していく。
暗い山の斜面を殆ど走る様なスピードで下ればどうなるかは言うまでも無い。
「ああ、家に帰ったら思いっきり石鹸を泡立ててシャワーを浴びよう」
それが男の最後の思惑だった。

次は「途中」「書き込み」「赤っ恥」

266:「途中」「書き込み」「赤っ恥」
14/06/06 20:48:17.57 .net
彼女を信じて、とんだ赤っ恥っだ。研究所に行くのがいやになって衝動的に向かいに来た列車に飛び乗った。
自由席の3人掛けを一人で座った。扉近くの席にはサーフボードを持った大学生風の男が陣取っている。
若者の大きめのヘッドフォンからは懐かしいサマーソングが派手に漏れていた。
コカコーラのような開放的で気怠い清涼感がある。確か一夏の刹那的な恋を歌った歌詞。
梅雨明けまでにはだいぶありそうで、どうにも季節外れに感じる。
それ以上に学生時代に引き戻され気分なのがアンマッチでシュールで脱力だった。俺には。
書類鞄を前の列車に置いてきてしまった。
背広の上着を網棚に上げYシャツの胸ポケットから手帳を取り出す。
スケジュールには「AM10:00 東京ラボ 緊急会議」とあり、下の欄に「陽性確認・・・orz」と書き込みしてある。
さあどうしたものか、とりとめもない逡巡が脳裏をめぐる。考えたくない、都合の悪いことばかりだ。
研究所を休む言い訳をどうしたものか―車掌がきたら特急券をどうしよう。前の列車は途中下車したことになるのだろうか―
鞄の中に入っていたものは―一時凌ぎで肝心な事には思考が向かない。
いや、考えたってどうにもならない。今必要なのは行動すること。いやいや、その前にまず物語のビジョンを決めなければならない。
なんパターンの責任逃れを用意しておけばいいのか。
とにかく、これは事実とは関係の無い物語だ。それは言い訳しなければなるまいか。

次のお題は「嘘」「梅雨」「長靴」でお願いします。

267:「嘘」「梅雨」「長靴」
14/06/08 07:15:35.05 .net
何が今日は一日晴れるらしいよ、だ。あのアバズレめ!
脳裏に浮かべた女の顔に、ユウはあらん限りの罵詈雑言をぶつけていた。
「すまし顔で大嘘こきやがって!」
仕事用具の入った鞄を胸に抱いて守りながら、夕暮れ時の田舎道を全力で走る。
視線の先には、塗装のはげかけたバスシェルターがあった。
日頃の運動不足が祟ったのか、たいした距離も走っていないのに息が上がり始める。
屋根の下に飛び込むんだときには、もう肩で息をしているような状態だった。
「ちくしょう!」
かすれた声で悪態をつき、膝に手をついて息を整えるユウの視界に、黒い長靴のつま先が見えた。
はっとして顔を上げると、女がひとりベンチに座っていた。ユウと視線が合うと、にたり、と笑ってみせる。
「もう梅雨入りしたんだよ? 折りたたみ傘の一つも持ち歩かなきゃ」
うるせえ、今日は晴れの予定だったろうが! と叫びたいのは山々だったが、乱れきった呼吸がそれを許さなかった。
不機嫌そうに眉根を寄せるユウに向かって、女はすっと右手を差し出す。
「ところで、こんなところに傘が一本あるんだけど、ユウちゃん、可愛い幼馴染と相合傘して帰りたくない?」
半日前、ユウに向かって今日は晴れるといった女は、しっかり傘を準備していたらしかった。

 次は「砂糖」「夜」「愛情」で

268:名無し物書き@推敲中?
14/06/11 20:31:17.82 .net
この愚人どもが!人の揚げ足ばっかり取りやがって。
俺見たいな上等な人間にレス貰ったら普通ひれ伏すだろが!
それをうpも出来ないチキン?お前の考えは砂糖よりも甘い?てめぇ等愚鈍共と一緒にするんじゃねぇ!
ただでさえ今日はまみタソのイベに落選して気が立ってると言うのに!
俺ほどまみタソに愛情注いでる奴はいないのに、その俺が落選?コレは絶対に事務所が俺とまみタソの仲を裂こうとしてるに違いない!
ムカつくムカつくムカつくぁああぁぁもぉおおおッ
「ねぇ卓郎ちゃん。もうね、夜も遅いから静かにして欲しいの。お隣さんもね、ウルサ…」
「ざっけんな!呼んだ時以外は入ってくんじゃねぇっていっつも言ってんだろうが!」
お、BBAが珍しく睨んでやがるw久々にぶん殴ってやるかっっw

全部私が悪いんです。
早くに父を失ってしまったから、せめて不自由はさせない様にって。甘やかし過ぎたんですよね。
私ね、あの日お医者さんに行ったら「もって3ヶ月です」って。
私が居なくなったらと思うと…せめて一緒に連れて行くのが親の務めかと。
後悔はして居ます。でも何に後悔してるか分からないんです。あんな風に育ててしまった事になのか、刺してしまった事になのか。
おかしいですね。自分でやった事なのにあの子が居ないのが悲しくて仕方なくって。

269:名無し物書き@推敲中?
14/06/11 20:33:57.15 .net
次は「スマホ」「タブ」「パット」で

270:名無し物書き@推敲中?
14/06/11 23:02:12.04 .net
職場へ警察から電話があって、仕事帰りに妻の父を回収して帰った。
生憎と妻は外出している。
「お義父、そのままでは風邪を引いてしまいますから。お風呂に入って暖まりましょう。」
雨に濡れた義父を脱衣所に誘導して、勢いよく蛇口を捻ってバスタブに湯を入れる。
家に帰ってきて、落ち着いたのか、義父は恥ずかしそうに恐縮している。
その昔はワンマン社長で猛烈だったのが、引退してからは、演歌が趣味で、随分と穏やかな気質の人となった。
迷子で保護されたのは初めてだが、もう年なので驚きはさしてない。
居間の電話機に警察とデイケアセンターからのメッセージが入っていた。
義父の入浴中に、心配を掛けたであろうデイケアセンターの所へ留守電を入れ返した。
電話機の横にスマホの広告チラシが置いてある。

そう言えば、もうじき義父の誕生日だ。GPS機能が付いていて、プレゼントに丁度よいかもしれない。
高齢者のインターネット利用はボケ防止にいいと聞いたことがある。タブレット端末のほうが大きくて操作し易いだろうか。

―義理の息子が考えはじめた頃、風呂場では義父が某スマホゲームのCM曲をハミングしていた。

次は「まめまめしい」「かいがいしい」「カタツムリ」でお願いします。

271:名無し物書き@推敲中?
14/06/11 23:18:12.83 .net
>270
訂正)パットが抜けてましたm(_ _)m
×GPS機能が付いていて、プレゼントに丁度よいかもしれない。
○妻は粘着パットの低周波治療器はどうかと言っていたが、GPS機能が付いているスマホの方がよいかもしれない。

272:270,271
14/06/12 18:48:26.03 .net
度々すみません。>271の「粘着パット」が「粘着パッド」の間違いでした。

お題消化のため、270の271での訂正を
×GPS機能が付いていて、プレゼントに丁度よいかもしれない。
○妻は室内用のゴルフパット練習機はどうかと言っていたが、GPS機能が付いているスマホの方がよいかもしれない。
とさせてください。ややこしくしてしまい、ひらに<(_ _)>

次のお題は「まめまめしい」「かいがいしい」「カタツムリ」です。

273:名無し物書き@推敲中?
14/06/12 20:48:44.92 .net
 偽りがきっかけで、失恋をしたカタツムリがいた。ある日、彼は紫陽花の葉の上でこう呟いた。
 「人間の世界でも、このような不幸な事があるのだろうか」それを耳にした家猫がふと首をあげた。
 雨降りの日に彼を窓辺で見かけた。カタツムリは特に彼に語りかけたわけでもないが、偶然独り言を拾ってしまったのだ。
 「そこの君、人間なんてなるもんじゃないよ」
 「やあ、猫さん」
 「人間になったら毎日働かねばなりませんよ」
 「働くとは何でさうか?」
 「働くとは人の為に何かを作り出すということです」
 「出産とか、さういうことですか?」
 「いいえ。まめまめしい人、かいがいしい人、それが人間という生き物です」
 「よくわかりませんね」
 「私は人間のおかげで、こうして毎日を、鳥の声や虫の声に耳を傾けているだけで生きていけるのです」
 「僕も毎日葉っぱの上でじっとしていても生きていけますよ」
 「人間は葉っぱを食べるだけでは事が足りません」
 「それじゃあ、葉っぱで事足りる人間になればいい」
 「それではもう人間ではありません」
 「さうですか。猫さん。では僕は、身分を偽っただけで、相手方の親から結婚を破談にされてしまいました。僕が人間だったら、どうでそう?」
 「この家の主人は、その昔、身分を偽って刑務所に入れられたことがございますよ」
 「刑務所とは、どのようなものでそう?」
 「刑務所とは雨も降らず、風も吹かないところです」
 「それはよろしくないですね」
 「さうです」


 次、「予感」「断片」「イタリア」

274:名無し物書き@推敲中?
14/06/16 22:17:20.52 .net
「予感」「断片」「イタリア」

W杯が始まって、昨日、日本はコートジボワールに負けた。
点を入れられそうな嫌な予感が的中して、あっという間に2失点しての逆転負けだ。
コートジボワールというより、ドログバに負けた気がする。彼の存在感たら凄かった。
いくら凄いと聞かされていても、同じ人間なのだからと高をくくっていたが、実際想像を越えていた。
結果的にゴールしたのは別の選手だったけれど、私はただドログバだけが怖かった。
彼の名が、ドログバなんて恐ろしげな名でなかったらどうだったろうかとぼんやり考える。
例えば、トロクパだったら。チュウトロだったら。ピカチュウだったら。
彼の名がピカチュウだったら、彼をそれほど恐れただろうか。
W杯でしかサッカーを見ない私は、筋金入りのサッカーファンの夫に滅多なことを言えない。
下手に感想を述べたりすると「にわかが!」と睨まれてどやされる。
断片しか見てないけれど、日本戦の前にやっていたイタリア対イングランドの試合はなんだか素敵だった。
イタリア人とイギリス人と、ドログバのいるコートジボワール人が羨ましいと思ってしまった。
でも日本代表を愛する夫の前では、口が裂けてもそんなこと言えない。
日本が負けて夫はふらっと出て行ったきり連絡が無い。今日仕事行ったのかどうかもわからない。
なんか疲れた。正直W杯なんか無ければいいと思う。


「扇風機」「アルバム」「もやもや」でお願いします。

275:「扇風機」「アルバム」「もやもや」
14/06/17 17:13:55.55 .net
 「夏は扇風機に限る」

 エアコンの冷房設定18度の部屋、毛布に包まりながらアイスを齧る友人がそう呟いた。

 「はっ?」

 アルバムを捲る手を止めて私は思わず声に出した、心からの言葉だ。正確に言えば、「自分の部屋が暑いからと言って態々アイス持参で私の部屋にやってきて何を言ってんだこいつ?」である。

 「いやね、クーラー…エアコン? まあどっちでもいいや。とにかくアレだよ、空気だけが冷たくなる感覚って少し気味悪いよねってさ」

 (なら自分の部屋へ帰れ)

 そう口に出してツッコミそうになった。温度設定まで弄くっておいて何たる物言い、相変わらず呆れるほどに勝手な奴だ。
 こいつは昔からそうだった、手にするアルバムに写っている姿も何かしら他人にちょっかいを出して自分だけ満足げなものが多数ある。被害者は大概私だ。

 そう意識しだしてから、アルバムのページを捲るたびにもやもやとした何かが蓄積されていく様な気がする。なんでこいつの友達やってんだ、私は?
 自問自答は一瞬だ。答えは簡単、単純なのだ。

 ―救われたから

 こいつが勝手な奴でなければ今この瞬間、冷房がガンガンに効いて冷え切った部屋に私は居なかっただろう。
 だから、 友人の阿呆な顔を見て私は答えた。

 「んー、そうな」

 と、生返事だけ。


次は「牛脂」「無臭」「ムラムラ」でお願い。

276:「牛脂」「無臭」「ムラムラ」
14/06/20 00:20:14.37 .net
 あの日を境に、私の世界は”無臭”になった。

 「ムラムラしてやった。ぶつかる直前でよけるつもりだった。」

 この無法者にバイクで正面衝突され、私は自転車から放り出された。自転車は大破し、私は嗅覚を失った。脳細胞が壊死し、
500万個の嗅細胞が一瞬にして無用の長物となったのだ。

 私は慣れた手つきで新鮮な野菜を刻んだ。牛肉にはミルをひいて塩とこしょうをふりかけた。ああ。
 なべに牛脂を入れ、火をつける。冷たい牛脂をへらでつつくと、なべの底にかすかに白い軌跡を描く。

 半年前まで、私は妻とともに小さな料理店を経営していた。都内のホテルでの下積みを経てついに自分の店を持ってから
もうすぐ20年になるはずだった。しかし、味は、舌だけで感じるものではない。嗅覚を失った私には到底料理人を続ける
ことはできなかった。
 店をたたんでから、妻は外にパートにいくようになった。私は毎日、妻と私だけのために料理を作る。妻は、味に関して
何も言わない。それなりのものは作れていると思うが、おいしいはずがないのだ。

 牛脂はじわりと溶け出し、加速度的にドロドロと崩れていく。

 私はあの男の名前を知っている。住む家を知っている。
 安普請のアパートで、そのベランダには植木鉢が三個ならび、物干しざおには男物、女物、そして色とりどりの小さな服
が……。

 私はふと調理台を見た。小さく刻まれた色とりどりの野菜。じゃがいも、にんじん、なす、玉ねぎ、トマト、レタス、そして、
輝く包丁。
 それを手に取り、握りしめる。私は目を閉じた。堅く、堅く。

 どうしようもなく、ムラムラしていた。



次は「海底」「赤い」「カンカン」でお願いします。

277:sou
14/06/24 04:35:06.37 .net
 三輪バイクに乗った少年が、潮風香る街並みを疾走する。
 車体を包む半透明のフードには、宅配ピザチェーンの赤いロゴが描かれていた。
 漁村の狭い路地を抜けたところで、少年はバイクを止めて地図に目を落とす。
「あれ、おかしいな。この先のはずなんだけど」
 眼前に広がるのは水平線まで何もない穏やかな海原だけ。
 ふと携帯が着信音を響かせる。お客さんから催促の電話だ。
「おうおう、配達まだかいな。ワシもう腹へって死にそうなんやけど」
「申し訳ありません、道を間違えて海岸に出てしまいまして」
「なんや。うちはその先の海底やで。はよ持ってこんかい」
 少年は耳を疑って何度も聞き返す。痺れを切らしたお客は、受け取りに行くから待ってろと怒り気味に言い残して通話を切った。
 すると静かに波打っていた水面がにわかに荒れて、巨大な渦巻きが生じた。
 町役場の方向からカンカンカンとけたたましい警鐘の音色が届き、どこからか地球防衛軍のテーマが流れ始め、上空にはスクランブル発進した戦闘機が殺到してくる。
 やがて海を割って現れたのは、雲を突くような体躯の怪獣だった。
「まったく出前とるのも一苦労やな。ほれ、釣りはとっとき」
 怪獣は代金とピザを交換すると、口から吐いた火炎で戦闘機を次々と撃墜しつつ、のしのしと水底の我が家へ戻っていった。
「ま、まいどあり……」
 ピザの代金、二四八〇円。少年へのお駄賃、五二〇円。日本国の被害、プライスレス。


次は「紙袋」「煙草」「一刀両断」で

278:名無し物書き@推敲中?
14/06/29 13:48:36.23 .net
高架橋の下で今日も背広の男は立ち尽くす
ガンガンとやかましい電車の通過音も男の乾いた心には響かない
時計をチラッと見て男は吸っていたタバコを落とし、踵で踏みにじった。
「今日も渡せなかったな……」男は紙袋を握りしめ歩き出す
街路灯の光りに照らされて、男の頬ににじむ涙の跡が見えた

そんな男の様子を線路脇のマンションから女は見ていた。
「キモい」そう呟いた。

279:名無し物書き@推敲中?
14/06/30 00:27:30.22 .net
次のお題はなんだよw「紙袋」「煙草」「一刀両断」で。

薬物取締法の指定薬物にニコチンが登録されたのは、つい先日のことだった。
いまはもう、煙草は明るいコンビニ店員がにっこりと渡す洒落たパックではなく、
歯の欠けたスキンヘッドが無愛想に突き出す紙袋へと変わった。
スキンヘッドもこの社会も糞食らえだーー。
俺はストレスを煙に撒くため、隠れて紙袋から一本取り出す。
火をつける前に鼻に白い棒状の包みを鼻に押し付ける。
乾燥した草の良い香りだ。
火をつけ一吸い。ストレスが体から解け落ちる。たまらない。
しかし解けるような感覚のあと、すざましい奇声が上がった。
「きぇぇぇぇぇ」
ぎょっとして振り向くと、ヒステリックなババアが、
サバイバルナイフを振りかざして迫ってきた。
避ける間もなく振り下ろされ、俺がくわえていた煙草は、
一刀両断のもとに切り捨てられていた。
「あんた! 私を肺がんにする気! 警察呼んだわよ!」
まるで「いい気味だ」と言わんばかりで、ナイフをちらつかせて
俺を脅している。しかし。なんだな。このくそったれの社会は。
この糞ババアが。サバイバルナイフも違法だかんなーー。
そう言いかけたが、俺は紙袋に手を突っ込んで、ババアに煙草を勧めた。
もちろん一刀両断されたが。

次は「こする」「こん棒」「ちくわ」

280:sou
14/06/30 17:09:10.78 .net
「勇者様! 言いつけどおり自分の武器を買って参りました!」
 宿屋の一室で愛用のこん棒を磨く見習い勇者のもとに、幼なじみであり従者でもある女僧侶が飛び込んできた。
 呆気にとられる勇者。彼女が手にしていたのは槍のように長い一本のチクワだったから。
 事情を聞けば、かつて伝説的な魔導師が使っていた超レア物……という触れ込みらしい。
 誰が見ても明白な詐欺と思えたし、鵜呑みにする方もどうかしている。勇者は頭を抱えたが、
「えへへ。高価でしたけど、いざという時は非常食にもなるんですよ」
 屈託なく微笑む少女を叱る気にはなれなかった。
 やがて時は流れーー 
 長い長い冒険の果て、成長した勇者は最強の装備を身にまとい、最後の決戦に挑んでいた。
 しかし敵である魔王の力は凄まじく、傷ひとつ負わせることも叶わない。
 奮闘空しく今まさに勇者の力が尽き、終の一撃が加えられようとした時、
「させません! とりゃああああ!」
 加勢に現れた僧侶が勢いよく伝説のチクワを降り下ろした。
 びたーん! 魔王の眉間にヒット、九九九九ダメージ! 不死身とも思われた屈強な魔王が膝をつく。
 次いで僧侶はチクワをこする。きいんと甲高い音が鳴り、先端の穴に膨大な魔力が集中していく。
 凝集した魔力は喝声と共に極太の光束となって魔王に放たれ、悲鳴をあげる暇も与えず、その体を灰塵と化した。
 こうして世界に平和が訪れ、懐かしい故郷に戻った二人はささやかな祝杯をあげた。
 ツマミである輪切りにした伝説のチクワをつまんだ勇者は、対の手で照れ臭そうに僧侶の左手を引き寄せる。
 そして彼女の白く細い薬指をチクワの穴に挿し入れ、言った。
「今度は俺が一生かけて君を守る。ずっと一緒にいてくれないか?」


次は「指輪」「祝福」「忘れ物」で

281:名無し物書き@推敲中?
14/07/02 01:13:26.11 .net
「指輪」「祝福」「忘れ物」

聖母マリアは言った。
「あなたを祝福します」
ヤコブの末裔。クサンネは言った。
「あなたの祝福を生まれ来るものにも与えたい」
「私自身ではなく、この指輪を祝福ください」
聖母マリアは言った。
「あなたの指輪を祝福します」
永き時が過ぎクサンネは族の始祖となり、二チャネラが族長になった。
しかしその手に指輪はなく、ニチャネラは言う。
「どうでもいい(ワラ)忘れ物係にでも届いてんじゃね?」

次は「パンプス」「パンプキン」「パンチ」で

282:sou
14/07/02 09:57:47.36 .net
「パン。ラテン語のパニスを語源とする、パン。ああ、何と軽やかで胸踊る響きだろう」
 夜食のパンケーキが乗った皿を、まるで聖遺物であるかのように恭しく掲げる男。
 言語学の世界では、それなりに名の通った研究者だ。
「ええまあ。それじゃ私はそろそろ……」
 また面倒な長話が始まったと思い、助手の女は適当にあしらって帰り支度を始めた。
 男は逃がすまいと早足で部屋の出口に回り込み、手振りをまじえて熱弁をふるう。
「見たまえ。ここにカボチャがある。カボチャーー鮮度さえも奪いそうな野暮ったい語感だな。
ならば英語名のパンプキンではどうか。歯切れよく美しい語感だ、瑞々しささえ覚えたろう?
僕はかねてから、パンで始まる言葉は特別な力を宿していると考えていてね。
世界はパンゲアから始まり、パンを焼くため農耕を始めたことが文明の発展に繋がり、
パンドラが放った災厄は今なお人々を苦しめ、パンテオンは二千年の時を生きている。
君の平凡な革靴も、パンプスと呼ぶことで多少なりとも女子力アップに寄与するはず」
「何を仰りたいんですか?」
「単刀直入に言おう。僕はパンで始まる名を持つ物品を収集していてね。君に協力を求めたい」
「パンプスは駄目です。履いて帰る靴がなくなりますので」
 そうじゃない、と返した男は女の両肩を掴み、この上なく真剣な眼差しを向ける。
「僕が欲しいのは、君のパンティーだ!」
 数瞬後。捻りのきいたパンチが男の顔面にめり込んだ。


次は「心理学」「破壊」「自己実現」で

283:名無し物書き@推敲中?
14/07/04 00:59:12.08 .net
「心理学」「破壊」「自己実現」


 一限目が始まる八時五十分から今まで、僕はずっとうわの空だった。教授たちの話は全く理解できず、いつの間にか窓の外を
見つめ、水音に耳を澄ませていた。
 天気予報では午後から晴れると言っていた。今は五時過ぎ、五限目もあと半時間ほどで終わる。だからもうそろそろ雨は
止むはずだ。祈るような気持ちで僕はまた黒板へ意識を戻し、ノートの続きを取った。

 今年の四月に、僕は晴れて大学生になった。一番はじめに声をかけられたから、という理由で入部した”星見同好会”
に、彼女がいた。彼女は心理学専攻の三回生で、長くてまっすぐな髪を少しだけ茶色に染め、いつもキラキラした髪飾りで
ポニーテールにしていたが、毎週金曜日の夜、星空観測会のときにだけ彼女は髪をほどいた。
 髪飾りがきらめき、さらさらの髪が天の川のように僕の目の前を流れていく。僕は、彼女のことが好きだった。

 僕は今夜、彼女に気持ちを伝えようと思っている。今日は七夕の直前の金曜日、夏休み前最後の観測会だ。この告白は、
僕の大学生活における最初の自己実現である。でも、このままこの授業が終わるまでに雨が上がらなかったら……。
 その時、無情にもチャイムが鳴った。同時に僕の携帯に着信があり、メールの件名に傘マーク一つ。本文は見るまでも
ない。すべてが破壊されたのだ。



次は「空」「かわせみ」「小石」で。

284:名無し物書き@推敲中?
14/07/07 22:51:56.90 .net
「空」「かわせみ」「小石」

 杜若色の空が垂れ込む真夏の夜に、星屑のほうとした灯りで遠くが露草色に見える。
しかしながら、あまりにも満天の海は深かった。心酔しきった私の中身は、あまりに膨大な宇宙の深層まで
もぐり、すっかり藍色にとけてしまうと想像するとたまらなく恐ろしかった。

 浸りきって浮かびそうな私を重力に逆らわないよう繋ぎ止めていたのは、小河のせせらぎと翡翠の鳴き声だけだった。
花火ではしゃいだ後には、よい耳の保養だった。ヒイヨヒイヨとなくあの切なげな声が、大学二年の若僧なりに生きている
ことという哲学思考まで追いやったのだ。川の流れにころころと転がる小石でさえ、なにか神の見えざる手に感じてしまうほど
私は深く追求した。そしていつしかごうごうと広がる夜空にすっととけるように、私は瞼をつむっていた。

 「おい、起きろって。出たぞ、天の川。」
青臭い若草がハラハラと音を立てるなかに入りまじる声。サークルの先輩に起こされ瞼を開けた私の心臓はドクンとうなった。
目の前には、壮大な青のグラデーションにかかる真白の道が横たわっていた。さっきの灯りとはまるで違う。
それはもう、顔をぼうと照らし月明かりのように青白く優しい光だった。深い夜空の海はグリーンが混じり、幻想的だった。
山奥のキャンプ場からみえたあの空は、まさにあの翡翠のような生命の色だった。


次は「苔色」「ワイングラス」「水彩画」で。

285:「苔色」「ワイングラス」「水彩画」
14/07/26 13:05:33.50 .net
僕は一年生のとき、夏休みの最初に絵日記をまとめてかいたら、ウソはいけませんと先生にしかられた。
朝顔のハチがなぜかちがくて、ミュータントヘチマが実ったので、近所のウワサになって、あしがついたのだ!
イクメンが「今年は水彩画でかきなさい」と言った。水彩は乾くのに時間がかかるから、ふべん・・・

枯れたと思ったミュータントヘチマが元気にダンシンしていた。
絵をかいた。動きがはげしいのでむずかし~。
ひっせんを学校に忘れてきてしまった。ママのお気に入りのワイングラスをかわりにした。
水も絵も苔色になってしまった。あかん、湖いったらマリモが見たいな~。

次は「日記」「脚色」「海獣」でお願いします。

286:名無し物書き@推敲中?
14/07/29 18:35:01.18 .net
「日記」「脚色」「海獣」

10年ぶりに私は鹿児島県指宿市に来た。
以前池田湖には有名な海獣『イッシー』が出ると話題になり
子供の頃、父と一緒に来たことがある。
その時はモーターボートに乗って、夏の日差しに反射する眩しいカルデラ湖に、
海獣の影は見えないかと、夢中になって探したものだ。

「おとうさーん、イッシーはどこらへんに居るの?」
「今日は暑いから出てこないかもね」

好奇心で一杯だった私の幼心を、紛らわさないように父はそう答えてくれた。
夏休みの作文で、私は日記の絵に見てもいない『イッシー』を描いた。
子供ながら日記に脚色をしてしまったが、私は今でもあの時の思い出を忘れない。


次は「女の子」「スカイサイクル」「iphone」

287:名無し物書き@推敲中?
14/07/29 19:17:04.35 .net
あ、固有名詞駄目だったので訂正。
「女の子」「スカイサイクル」「スマートフォン」でお願いします(´・ω・`)

288:名無し物書き@推敲中?
14/08/03 13:50:41.71 .net
「女の子」「スカイサイクル」「スマートフォン」

先日、孫に連れられ遊園地に行きましたの。
「ばーちゃん自転車でも乗ろうよ」と孫が言いますので、
私てっきり、緑の中をサイクリングするものとばかり思っておりましたら、
スカイサイクルといって、小高い山に設置されたレールの上を漕いで進むんですのね。
それが、高いやら、風が吹きすさぶやらで、まぁ恐ろしいこと恐ろしいこと!
脳にアリナミン? オロナミン? なんでしたっけ、とにかくわーっと分泌してしまいまして。
私が私でないような、いけないハーブでどうにかなってしまった人のようになりましたわ。
ここは気をしっかり持って、生きて戻らねばならないと、私必死でペダルを漕ぎましたのよ。
そうしたら、隣に乗っている孫が「やばいやばいばーちゃんやばい」って。
「やばい早すぎる。それに顔がやばい」ってもう何でもかんでもやばいで済ませようとするんですの。
早すぎて危険だ、というのは合点いたしましたけれど、顔がやばい、の意味がわかりません。
若い女の子みたいにはしゃいでしまって、年相応でないということかしら、などと解釈しておりましたら、
あとでスマートフォンで撮影した写真を見せられて、私びっくり仰天。
肩をいからせ髪を振り乱し口を大きく開けた凄まじい形相の化け物が写っておりましたの。
あぁ、なるほどこれはやばい顔だな、と私、妙に納得してしまいましたわ。ほほ。


「日曜日」「かき氷」「転倒」でお願いします。

289:日曜日、かき氷、転倒
14/08/04 21:20:23.26 .net
真夏の晴れた日曜日、ぼくはお母さんから貰ったお金を握りしめて話題のかき氷店へ向かった。その店は家の近所にあるけどいつもすごい行列で、氷の値段も高いから行ったことがなかった。
でも昨夜その店がテレビに出てきて、マンゴーたっぷりのかき氷を美味しそうに頬張る芸能人を見たぼくは母さんにおねだりをした。
「どうしてもあれが食べたい」
ぼくが何度も必死で頼むと、母さんは財布から渋々800円をくれた。しょうがないわねと笑った母さんの顔が浮かんでくる。
大事なお金を落とさないよう気を付けながら店に辿り着くと、まだ午前中なのに行列が出来ていた。
ぼくは一番後ろに並んでお金を数えた。800円あるのを確認したあと、後ろに綺麗なお姉さんが並んだ。
「すごい行列だね。ぼく一人で来たの?」
「うん、ここ高いみたいだし、お母さんはこれないの」
声を掛けられ返事をすると、お姉さんはじゃあ一緒に食べよと言った。ぼくが頷くとお姉さんは何食べるの?とか色々話しかけてくれた。そうしているうちに時間が経ち、順番が回ってきた。
店員に大きな声でスペシャルマンゴーくださいと言い、大事な800円を支払うと、大きな器に入った山盛りのかき氷を受け取った。
黄色いソースがたっぷりかけられた氷は小さなぼくにはずっしり重くて、ちょっと離れた席まで運ぶのも大変だった。
慎重に歩いて席まであと少しの所まできたとき、前に座っていたおじさんが急に立ち上がった。ぼくはびっくりして、そばにあったテーブルの足につまづき転倒した。
すぐに店員がきてぼくの事を心配してくれたが、ぼくはそんなことより床にぶちまけた氷を器に戻そうと必死だった。マンゴーソースにまみれた冷たい氷を触るたびに涙が出てきて、ぼくはその場で泣きじゃくった。
母さんがせっかくくれた小遣いで買った物なのに、もう食べられない。床に座りこんで泣いていると、声をかけられた。振り返るとさっきの綺麗なお姉さんが、両手で抱えたマンゴースペシャルをぼくに見せながら、「泣かないで、一緒に食べよ」と言った。
涙を拭って近くの席に座ったぼくは、お姉さんに分けてもらった氷を頬張った。ふわふわで冷たくて、口いっぱいにマンゴーの味と香りが広がった。
美味しいねと笑うお姉さんに御礼を言い、ぼくはかき氷を堪能した。次は母さんと一緒に食べたいな。

次「黒」「ビキニ」「日焼け」

290:黒、ビキニ、日焼け
14/08/13 23:11:50.46 .net
日焼けをしたのは一人ではなかった。
青い海で肌を焦がした男は23名いた。
しかしそれは公表された限られた数にすぎない。
実際には、周辺で操業中の大勢の人々が黒い雨を浴びたらしい。
ビキニ環礁、1954年。
今よりもずっと熱い太陽がそこにある。

次「脹ら脛」「ボノボ」「カード」

291:名無し物書き@推敲中?
14/08/19 21:42:51.98 .net
「脹ら脛」「ボノボ」「カード」

「ボノボバーグがいい」
 ボノボバーグとはここGunmerでしか食べれない珍味だ。
 新鮮なボノボの脹ら脛をスライスし、色んなスパイスをふんだんに使って焼いた料理である。
 Gunmerの山岳地域ではいつしかボノボが住むようになった。
 食材でもあるボノボをハントするには絶好の場所だ。
「よし、次は誰が罠を見に行くか、カードで決めようぜ」
 少し肌寒くなる季節、森林のテントの中で彼等はババ抜きで誰が罠を見に行くかを決めていた。
 集団で動くと警戒心の強いボノボに逃げられる為、単独で確認しに行く必要がある。
 今日の狩りのメンバーは4人だった。ババを抜いた1人がいつものように森の中に入って行く。
 罠は重りで網が作動し捕まえるという極単純な仕掛けだ。
 その場所に辿り着くとボノボが2匹罠にかかっていた。
「2匹もかかるとは、運がいい」
 彼は満足そうに答えた、複数が同時にかかることは滅多に無いからである。
 罠にかかった網に近づくと、10メートルほど離れた場所でガサガサと物音がする。
 その音の数は8つはあった。
 茂みからボノボ達は現れると、罠を確認した者をジーッと見つめる。
「こいつら……俺を待っていたのかよ」
「まるで俺が罠にかかったみたいだ」
 ボノボ達は男をしばらく傍観した後去っていった。
 それはまるでボノボが以前よりも高い知能を持ち始めたかのように見えた。
 
次「貴婦人」「城」「ライオン」

292:名無し物書き@推敲中?
14/08/24 16:59:02.53 MEhmjbCmm
ああ、あそこの話ですか?まあいいですよ。
森の中の湖畔に佇むそのお城は、三つの高い塔を持ち、朝日を受けて白く輝くその姿はまるで貴婦人の指のようだとうたわれたこともあったそうです。
でも今はもう誰も住んでいませんよ。
最後にこの城に人が住んでいたのはもう百年も前のことだそうです。この大きなお城の持ち主は今は外国にいるのだとか。
誰も訪れることのないお城でライオンの彫像だけが番をしているそうですよ。地元の人間もそうそうあんな森の奥まで行きませんからね。
もし、あなたがあのお城に行くことがあればライオンの首元を撫でてやってください。よく頑張っているね、と。

少年時代 白樺 どんぐり

293:名無し物書き@推敲中?
14/08/30 07:09:21.61 .net
「貴婦人」「城」「ライオン」

大自然は女を変える。
ソフィアはいつもサファリ旅行で別人になった。
ジープの後部座席で強い酒をラッパ飲み。
野生動物を見つけるや、ライフルをぶっ放す。
どんな獲物も一発で仕留めたが、ライオンだけは別だった。
ジープを降り、ナイフを逆手に挑むのだ。
不敵に笑い、舌舐めずりしながら相手を挑発。
「お前が百獣の王かい。あたしゃこの宇宙の女王だよ」
故郷では使ったことのない下卑た言葉も連発する。
そして一騎打ちの末―必ず勝つ。
雄ライオンの心臓をその場でえぐり出し、空高く掲げて、雄叫びを上げる。
血まみれのソフィアは、ガイドと運転手を抹殺することも忘れない。
もう一人の自分の痕跡を一切残さないのか彼女の流儀だ。
故郷に戻ればお城みたいな屋敷で貴婦人然と振る舞い、
五人の子供たちに囲まれ、小さな口でケーキを食べたりするソフィアなのだった。


「デング熱」「Tシャツ」「炎」でお願いします。

294:名無し物書き@推敲中?
14/09/16 14:12:55.67 .net
長文を読まされるのは苦手だ。さらに英語とか、熱が出そうだ。
茹だるような暑さの教室はデング熱の隔離病棟のように
グッタリとした生徒たちが朦朧とする意識と戦う戦場だった。
Tシャツ一枚の教師に気合いとか、心頭滅却だの言われても、
それすら耳に入って来なかった。窓辺に陽炎が揺れている。
あー、ヤバイ。
誰かの声が聞こえた。と、同時にドスンと鈍い音がした。
「みんな、脱水症状に気をつけろよ。」
よろよろと立ち上がると、今日の授業はこれまでと言って
教師は出て行った。

お次は「僻地」「お土産」「交換」で。

295:名無し物書き@推敲中?
14/09/21 17:39:42.62 .net
「僻地」「お土産」「交換」

木造の古校舎を出ると、そこには夏休みが広がっていた。
漠とした僻地は夏ミカンの甘酸っぱい香りと肌をこんがり焼く太陽の匂い。
過去に取り残してきた「俺」の夏休みを、まさかもう一度味わうことになるとは。
とはいえ、中高教師交換行事に巻き込まれた教師としての立場だが。

「俺」の夏休みは、ここと絵に描いたようにそっくりだ。
父もミカン農家で、出荷であふれた果実を一つ二つお土産としてもらったものだった。
昼間にもらったミカンをこっそりと学校に持っていっては、初恋の娘と一緒に食べた。
白のワンピースに麦藁帽子のあの娘も、この村にはいないものだろうか。

「先生、どうしたん。ボーッとして。」
麦藁帽子のつばに隠れてよく分からなかったが服装も声も、瓜二つだった。
俺のクラスの子が心配そうに顔を覗き込む。
まるで、タイムスリップしたかのようだ。何もかわっちゃいないんだ昔から。

夏空に透いこまれていくアブラゼミの声。
古びた校舎の放課後を伝えるチャイムのように、今をせわしく叫んでいる。
13度目の夏休みがはじまる。

次は「階段」「挿絵」「応接室」

296:名無し物書き@推敲中?
14/09/22 20:07:45.98 .net
数日前にできたらしい、新品つやつやの階段を登ってゆく。

面接の書類に入っている写真は、あの人が撮ったもの。

丸みのかかった応接室のドアノブを触ると、手の震えが更に伝わってくる。

ドアを開ける前に、ひとつ深呼吸。



「貴方が、当社への入社を希望された一番の理由はどの様なものですか。」

即答。

「探しているものがあるんです。」

私の歴史書にまたひとつ、挿絵が入る。

297:名無し物書き@推敲中?
14/09/24 00:43:08.60 .net
お題が無いので継続で「階段」「挿絵」「応接室」

「長い間ご苦労様でした。」
形式的な言葉とともに退職金の入った封筒を社長から受け取り、
やはり形式的に深々と頭を下げながら思い出す。

美大を出たものの就職できず、バイトで入った出版会社で先代の
社長に拾ってもらい、プロへの階段を登らせてもらった。
あれから10年、専属のイラストレーターとしてやってきたが
昨年、アメリカ帰りの三代目に社長が代わったとき、彼は宣言した。
出版不況に打ち勝つためにこれからは米国流の合理的な経営を行う、と。
そのときは何のことか分からなかったがある日、社長から呼び出された。
いつの間にか金のかかった絨毯に張り替えられた応接室の奥に立ち、
社長はつまらなそうに言った。
「文学に挿絵は必要ない、と私は思う。」

俺はリストラされたのか、この沈み行く船から開放されたのか、
靴底が半分沈んだふかふかの絨毯を見つめながら考えていた。

つぎは「台風」「テレビ」「千円札」でお願いします。

298:テレビ 千円札 台風
14/09/24 12:04:17.85 .net
12時35分。寝床からのっそり起き出した僕は、雑に作ったインスタントのコーヒーを片手にテレビをつけた。
『次のコーナはお待ちかね、ラスベガスチャレーンジ!!』
僕はこれの前にやっていた長寿番組のほうが好きだったのだが、先月から始ったこの新しい番組は冒険的で斬新な企画が多く、なかなか人気らしい。
ドンドンドン
突然玄関のドアを叩く音。誰だと一瞬考えたが、僕の少ない友人のなかでこんな荒々しい訪ね方をするのは一人しかいない。ドアを開ける。やっぱり彼女だ。
「千円貸して」
開口一番彼女らしい突拍子もない言葉。
「どうして?」
「いいから」
僕は渋々財布から千円札を出すと彼女はそれをひったくるように掴み走り去っていった。
「まるで台風だな、いや強盗か」
彼女の奇行は何時もの事とはいえ寝起きにはこたえる。僕はもう一度優雅なお昼を過ごすためにテレビの前に座る。
『さあ、今日のチャレンジャーはもう終わりかな』
『いますいます!』
僕はコーヒーを吹きそうになった。チャレンジャーを名乗り出たのはさっき僕から千円札を奪った彼女だったのだ。そして……
『おめでとうございます!!見事チャレンジ成功ですので賞金の百万円をどうぞ』
『どうも』
インタビューもそこそこに彼女は現場から走り去っていった。レポーターの唖然とした顔はさっきの僕のそれだったに違いない。
ドンドンドン
再び乱暴な呼び出し。ドアを開くと息を切らせた彼女。
「……はい」
差し出されたのはさっきの百万だった。
「多いよ」
「いいから」
「あの、今度お茶でも……」
「じゃあ」
そしてまた嵐のように去っていった。
受け流されてよかったのかもしれない。彼女がゆっくりお茶を飲みながら話す姿なんて想像できない、というかそんなの彼女じゃない。
僕はまたテレビの前にもどり彼女の次の行動に思いを馳せるのだった。

「朱華」「瓶覗」「支子」

299:名無し物書き@推敲中?
14/09/25 01:11:40.54 .net
「朱華」「瓶覗」「支子」

せっかくなんだから本格台湾料理の店に行こう。
教授に誘われるままボートに乗せられ一時間ほどでどこかの港に着く。
だが、なにかおかしい。商人らしき男たちが大声で話しているのに
何を言ってるのかまるでわからない。おまけに看板が漢字だらけだ。
「教授、此処って・・・」
「台湾だ。」
「台湾ってパスポート要らないんでしたっけ?」
「まあ、硬い事言うな。飯を食うだけだ。」
教授は慣れた様子で路地を曲がり、一軒の食堂に入っていった。
おいていかれてはたまらない。慌てて後を追うとさっさと席に
着いた教授はすでに何かを注文したらしくお茶を飲みながら一段落している。
「この店は蟹がうまい。君の分も注文しておいたぞ。」
教授はあくまでマイペースを崩さない。
瓶覗色のシャツに支子の刺繍をしたシャツを着た娘が料理を運んでくる。
朱華の簪がとても似合っていた。
「もしかして、教授?」
「なんだ」
「教授のお目当てって、蟹じゃなくて・・・」
「野暮を言うな、さあ喰うぞ。」

つぎは「缶詰」「雨戸」「魔法瓶」でお願いします。

300:名無し物書き@推敲中?
14/09/29 22:51:09.46 .net
「缶詰」「雨戸」「魔法瓶」

缶詰状態でネタを書いている。
ホテルの一室などではない。
人里離れた山奥の一軒家で足首を鎖で繋がれながらの、いわば監禁である。
魔法瓶のコーヒーをすすりながら、もう何日経ったろうか考える。
雨戸は閉め切ったままなので今日がまだ今日なのか昨日なのかもう明日なのか定かでない。
「オチだよ! オチのある話を書くんだよ!」
少しでも気を抜くと女王様の檄が飛んでくる。
私はほとほと嫌気がさしたので言ってやった。
「そうそうすとんとはオチやしませんよ」
すると間髪いれずムチが飛んでくる。
そっちの女王様である。
ムチが当たってクチが切れた。
「どうかショチを……」
「誰が韻を踏んでいいといった! 書き直すんだよ、このすっとこどっこい!」
神様はいないと思う。


「大袈裟」「川」「ヨーグルト」でお願いします。

301:名無し物書き@推敲中?
14/10/02 00:08:13.51 .net
「大袈裟」「川」「ヨーグルト」

自動機販売機でコーヒーを押したらヨーグルトが出てくるくらいの不幸。
死に至る大袈裟な物ではない。しかし、それが毎日続いたらどうだろう。
一滴の雨が川になり海になるように気がつけばそれに飲み込まれている。
ゴトン、と鈍い音とともに運命の歯車が回る。藁にもすがる気持ちで
右手がつかんだものはプラスチックカップに入ったヨーグルト。
「お値段以上ってのは、うそじゃないけどなぁ・・・」
100円の自販機に今日も敗北した俺は渇いた喉に半固形物を流し込む。

次「まんじゅう」「葉巻」「札束」でお願いします。

302:名無し物書き@推敲中?
14/10/06 07:48:10.31 .net
「まんじゅう」「葉巻」「札束」

アジトは血の海と化していた。
火薬のにおいが充満し、煙の中を紙片が舞う。
即死した仲間と、まだ息がある自分とは、どちらが運がいいのか考える。
苦しまずに逝ったやつらと、今からじわじわ死にゆく自分と。
弱々しい笑いが男の口から漏れた。
差し入れの箱が爆発したことを不意に思い出す。
地元の少女が持ち込んだまんじゅうの箱だった。
まだ子どもじゃないか……。
足元に転がる札束を蹴散らし、携帯電話を握りしめた。
待ち受け画面には幼き日の娘の笑顔があった。
生きていれば美しい娘に成長したであろう俺の天使。
男は壁にもたれジャケットの内ポケットから葉巻を一本取り出した。
「効きゃしねぇじゃねぇかバカ野郎」
お守りだったものに毒づいてから男はそれに火をつけた。
煙を吐き出しながら、俺はやっぱり運がよかった、と男は最期にそう思った。


「国旗」「三匹」「カボチャ」でお願いします。

303:sou
14/10/06 20:43:41.38 .net
自宅の窓を僅かに開ける。まずい。既に周囲は異形の集団に囲まれているようだ。
初動を誤り先手を取られたいま、早く応戦しなければ手遅れになってしまう。
だが私は動けなかった。トイレで凄まじい腹痛と格闘中だからだ。
がっでむ。生焼けのチキンにここまでの破壊力があるとは誤算だった。
プロの傭兵で屈強な肉体を誇る私も、胃腸の粘膜に弱さを抱えていたということか。
むっ。敵が三匹、玄関に向かうのを確認。ややあって呼び鈴が鳴った。
もう猶予はない。今こそ戦場で培った強靭な精神力を発揮する時だ。
肛門括約マッスルを渾身の力で引き締め、決壊を止めようと試みる。
よし、いける! 私は自らをトイレと言う名の牢獄から解き放った。
リビングから拳銃とタマを詰めた紙袋を持ち出し、玄関扉を蹴り開ける。
そして間髪いれず照準をあわせて引き金を引く。躊躇などしない。
ぱあん! 反撃の狼煙をあげる撃発音が一帯に響き渡り、
銃口からは紙吹雪と紐に括りつけられた色とりどりの国旗が飛び出した。
面妖なカボチャのマスクを装備した襲撃者達は驚いてひっくり返り、
「ト、トリック・オア・トリート……」
そう力なく口にするのが精一杯だった。HAHAHA、私の勝ちだな。
退却を始める敵部隊に大量のアメ玉を施した私は、真の敵である腹痛と決着をつけるべく、
屋内に撤収した。プライドを懸けた戦いだ、けして敗北は許されない。
おや、パトカーのサイレンだな。ハロウインだと言うのに物騒なことだ。
平和な国と言えど、現実と妄想の区別がつかないイカレた奴は多い。私も気を付けねば。


次は「幻想」「現実」「卒業」で

304:名無し物書き@推敲中?
14/10/08 13:54:36.56 .net
「幻想」「現実」「卒業」

帰宅した私を三つ指ついて妻が迎えた。
「あなた、お風呂にします? それともごはんにします?」
上着を脱がせながらそう訊ねるのもいつものこと。
「先にひと風呂浴びようか」
私は湯に浸かり目を閉じると、虎と格闘する戦士である自分を想像し始める。
危機一髪のところで形勢逆転、虎の喉に剣を―
「お湯加減はどうかしら?」
佳境を台無しにされムッときたが、おくびにも出さず私は答える。
「いい塩梅だよ」
風呂からあがるとスキヤキの準備が整っている。
松坂牛を堪能し、玉露をすすっていると、やがて妻がお喋りを始めた。
「今日お洗濯物を干していたら電線のスズメたちが私に歌をね―」
私は一通り聞いたのち、諭すようにいった。
「そんな幻想に囚われるのはよして現実を見なさい。夢見る少女はもう卒業」
ちょろっと舌を出しおどけた妻を、たしなめることも忘れなかった。


「連続」「ブルドーザー」「反撃」でお願いします。

305:「連続」「ブルドーザー」「反撃」
14/10/08 23:46:06.25 .net
 日曜の朝は少年にとって家庭内闘争の座り込みで始まる。
 今日も体勢側の母ちゃんという名のブルドーザーに追い立てられながらも布団に噛り付き、休日の睡眠時間延長を訴えていた。
 カーテンの開け放たれた窓から部屋へと強く差し込む朝日が冬の夜気を霧散させていく。布団に残る温もりと併せれば、それは気持ちよく眠れるだろうにと。
 こうなればもう武力闘争に移行せざるを得ない。少年の寝ぼけた頭が何かで読んだか聞いたのか物騒な言葉を弾きだす。
 圧政に対しては武力による反撃のやぶさかではなく、こうなればやぶれかぶれ―と、立ち上がろうとして頬が弾けた。左の頬が熱く、少年を急速に覚醒させる。
 母親を睨んで沸騰した感情を声に乗せようとしたら、今度は右と左を連続で打たれた。
 そして再度要求を突きつけられる。せっかくの天気だから布団を干せば今日の安眠が確約される。だからどけ。すぐさま顔を洗い片付かないから朝食をとるように。
 屈した少年は促されるままに部屋を後にした。
 そして、その次の朝の目覚めは格別だった。
 こうして大衆は飼いならされていくのだろう。やはり寝ぼけた頭がそんな一文を選択するが、少年は気を払うことなく朝の準備を始めた。

次は「焚火」「給湯室」「屋根」で

306:名無し物書き@推敲中?
14/10/09 20:13:43.67 .net
「焚火」「給湯室」「屋根」

給湯室でタバコを吸っていたスズキさんに声をかけた。
「パワハラってか、セクハラってか、あいつ最低ですよね」
彼女が課長から理不尽に叱責される一部始終を私は目撃していたのだ。
タバコを勧められたが、私は吸わないので断った。
スズキさんはふうと煙を吐き出すと、遠くを見る目をしていった。
「キャンプしたいなぁ。マシュマロ焚火であぶって食べたりさぁ」
そんな経験ないです、という私の言葉に、スズキさんが目を丸くする。
「じゃ、屋根の上に寝転がって星を眺めたりとかは?
 あと、パチンコでリス仕留めて皮剥いだり……」
固まっている私を見て、都会の人はこれだからなぁ、とスズキさんは笑った。
「今度一通り教えてあげますよ。一緒にキャンプ、いやサバイバルしましょう」
私の肩をぽんと叩くとスズキさんは出ていった。
バカ上司にへこまされない精神はキャンプやサバイバルで培えるのか……。
「でもリスの皮剥ぎは無理だなぁ」
私は隠し持っていたウイスキーをキュッとやると、給湯室をあとにした。


「マスク」「呪い」「からくり」でお願いします。

307:sou
14/10/15 04:44:38.14 .net
私は笑顔がはりついたマスクをはずす。
善良な自分を心の奥底にしまいこむ。
よき子羊には常に試練が降りかかり、
あしき狼は労せず欲を満たしていく。
運命は不条理なからくりで組みあげたもの。
世界は不道徳な意思こそが勝ちのこるもの。
人生は不思議にふと終わらせたくなるもの。
私は笑顔がはりついたマスクをはずす。
自分にかけた呪いは解いた。
でも呪われてなければ生きていけない。
私は生まれついての子羊だから。
私は鋭くとがったナイフをかざす。
私は首にナイフをつきたてる。


次は「旋律」「声音」「透明な」で

308:名無し物書き@推敲中?
14/10/15 19:08:06.33 .net
「旋律」「声音」「透明な」

「ダンソン! ピーザキー! トゥーザティーサザコッサ」
君の繰り返す旋律が耳にこびりついて離れないよ。
「ダンソン! ピーザキー! トゥーザティーサザコッサ」
君がバ○ビーノが大好きだというのはわかったよ。わかった、わかったから。
「ダンソン! ピーザキー! トゥーザティーサザコッサ」
その声音から表情は読み取れないけど、きっと僕を元気づけてくれているんだろうね。
「ダンソン! ピーザキー! トゥーザティーサザコッサ」
いつもありがとう、僕の唯一の透明な友達。
「ダンソン! ピーザキー! トゥーザティーサザコッサ」
感謝してる、感謝しているよ、でもね……。
「ダンソン! ピーザキー! トゥーザティーサザコッサ」
そろそろ成仏してくれないかな……。
「ダンソン! ピーザキー! トゥーザティーサザコッサ」
してくれないかな、成仏……。
「ダンソン! ピーザキー! トゥーザティーサザコッサ」


「可憐」「星座」「炭酸水」でお願いします。

309:名無し物書き@推敲中?
14/10/15 22:30:34.83 .net
このスレの連中のなにがキモくて救い難いかって、
誰にも評価されない駄文を延々と書き連ねていることだよ
お互いになんの感想すらわかない駄作を投下しても意味ないから
だから一向に上達しないんだよお前らは
あ、一人二人の日記帳だったかなあ ごめんよお

310:名無し物書き@推敲中?
14/10/16 00:09:50.44 .net
雑談は感想スレで

311:新参者G ◆MWGd4Eggtk
14/11/13 16:54:49.85 .net
「可憐」「星座」「炭酸水」

幼い頃、その炭酸水を飲むと星になれると教わった。
僕は、まだ生きていたくて星にはなりたくなかった。
ただ、その気持ちは、三十歳になるまでだった。
三十歳になる頃、僕は、おぼろげに、おおよその僕のこの先の人生が見えてしまった。
『可憐』という今は営業をしていないスナックに、日曜の昼間に同志は集まった。
年齢はバラバラであったが、自ら自分の人生の先が見えてきたと感じる人達で作られた倶楽部だった。
いつの時期か覚えていないけど、僕は主催者という立場に置かれてしまった。
僕を含む8人の倶楽部のメンバーの前に、炭酸水がある。
何か気の利いた言葉でも言いたかったが。
「一つ一つの星になるのではなく、僕たちは集まって星座になろう」としか言えなかった。
みんな、慰めが欲しくて可憐に来ているわけじゃないから、それで十分だったのかもしれない。
僕たちは、星になり、星座になれたのだろうか。誰か、教えて欲しい。

「銃」、「クロワッサン」、「黒炭」でお願いします。

312:「銃」、「クロワッサン」、「黒炭」
14/11/13 20:48:14.60 .net
いじわるじいさんは驚いた。火鉢にくべようと竹炭を割ったところ、中から黒焦げの
蛙の死骸が出てきたのだ。いや、蛙ではなかった。それは、もしや……。
と、奥の壁が赤い光で点滅した。窓から入る赤色灯の光だ。老夫婦は慣れた所作で
窓際の壁に背を当てる。おもむろにそっと外を覗いた。ポリスが来ている。
「いま包囲しました! 月からの通報で、ここの家人が月世界の姫を
黒炭の檻に閉じ込めてるって話で! 外交問題です! ムシャムシャ」
刑事の顔には見覚えがある。緊張するとクロワッサンを貪りだす、フランスかぶれの九州男児だ。
「しまったな、バアさん、銃をとってくれ」
爺の言葉に返事がない。ふりかえると、老婆の喉に投げナイフが刺さり、紫の唇から血の泡を吹いている。
「バアさん……!」
慌てて老婆にすがりつく爺さん。光の消えゆく濁った瞳に、二人の人生への
惜別のうんたらかんたらがアレしていた。
「出て来い、いじわるじいさん! お題は消化した! もう家ごと焼き払ってもOKなんだぞ!」
割れ気味のメガホンががなりたてる。このデイビー・クロワッサンめ! 爺の怒りはコマンドーした。
爺さんは火縄銃を取ると、さきっちょに黒焦げの香具夜を差し、戸を蹴破って
路地に飛び出した。銃声。銃声。銃声。銃声。
頬に感じる土の感触に、爺は百姓としての因果を感じた。と、頭を蹴られて空を見上げる。
「どうだ、悪党の末路ってのは」パン食う刑事がにやついている。
(てめえの爺はいい奴だったが、孫ともなりゃ関係ねえな……)声が出ない。
「あばよ、いじわるじいさん。昔話はもう終わりだ」
ガキの銃口に旋条が見えた。終わりだ! と、爺の懐で香具夜がティンクルした。ああっ!
次の瞬間、香具夜が爆発していろんなものをなかったことにした。
めでたし、めでたし。

次「桃」「キジ」「摩天楼」で。

313:「桃」「キジ」「摩天楼」
14/12/23 18:20:37.66 .net
猿は右手、キジは頭上を警戒中。さあゆくぞ!
という、その時だ。耳障りなスマホが胸で騒ぎ出したのは。

「あー、はいはい」
「私だ。武器とキビダンゴは、ちゃんと届いたかな?」
(あいつだ)
鎧の中で、苦い表情をしている自分が、ハッキリ判った。
宝物の価値が判った矢先、なぜか急に現れた、あいつからの電話だ。

「ご支援有難うございます、ただ今突入します」
「頑張ってくれ給え。桃産まれのせいか、私は虚弱体質で・・・」

桃から産まれた?本当か?まあ、どうでもいいか。
どうせ摩天楼のスイートルームからの電話さ、わかる訳ないよな。
とは思いつつも
「心配要りません、お任せ下さい!」
と、おべっかまで使ってしまうのは習性なのか。

彼はもはや「従業員」。犬でしかない存在に堕ちていた。

※ 次のお題は:「穴」「雪」「姫君」でお願いします

314:名無し物書き@推敲中?
14/12/30 17:12:17.83 .net
ウサギ追いし彼の山、小鮒釣りし彼の川……
ハスキーな声が隣の小学校の窓から聞こえてくる。
雨靄に紫陽花の煙る6月の午後、換気にあけた窓を閉めると、
ヨックモックのシガールで紅茶タイムをはじめよう。
姫よ花よと箱入りで育った細指に、労働なんてバカげてできやしない。
君もどうかな、優雅で気楽な家事手伝いライフ。

次「皺」「師走」「手話」で。

315:「皺」「師走」「手話」
15/01/08 20:08:24.23 .net
皺だらけの手で、イネ婆さんが草鞋をあんでいる。
ホタテ爺さんは師走に傘と箕のを売りに出かけたまま戻ってこない。
「吹雪で街で足止めを食らっているのだろう」
餅を持って新年の挨拶に来た花房さんが手話でそう伝えた。
イネ婆さんは、花房さんが手のひらを揺らしながら上下するのを見て
「そうじゃね。十年ぶりの豪雪じゃ。止んでもすぐには戻ってこれんかもしれんね。暖かい雑煮を用意しておいてやらんとね」
と返した。囲炉裏で薪のはぜる音が響いた。

さて、七日後、やっとホタテ爺さんが戻ってきた。
「なんや、イネ婆さん、家の外に米俵のあるの気づかんかったか。どえらく気っ風のいい地蔵さまたちがいてな、わしゃ小判もろうて街でちょっくら遊んでおった」
イネ婆さんは、ホタテ爺さんの着物の襟にお約束の紅の痕を見つけると
「……」
囲炉裏で薪のはぜるような音が響いた。「パキッィ」


次は「地蔵」「雪女」「毛布」でお願いします。

316:「地蔵」「雪女」「毛布」
15/01/26 22:24:51.37 .net
知っているか。伊吹山から見える一番東の果ての峠に、雪女の地蔵があることを。
知っているか。夏の間、地蔵に被せおいた鵺の毛の布を取り払うと、あずまなる峠に雪の降ることを。
知っているか。地蔵峠の風は伊吹山の鬼を起こし、伊吹山の怪は比叡の天狗を急いて、
京の高楼に暗夜はばたくことを。
雪の甍に細く爪掻くは烏にあらず。そは天狗なり。月まどかなる冬の夜に耳を澄ませ、
そぞろなる静かに怯える幼子らよ、忘れるな、お前の屋根に天狗がいるぞ。

次「梅」「池」「ソ連」

317:名無し物書き@推敲中?
15/02/08 09:33:53.26 .net
「梅」「池」「ソ連」
公園のベンチで昼寝をした。
目覚めると、目の前で知らないガキが池の鯉をじっと眺めている。
なにか悪さをしたら叱ってやらなきゃ、と注意深く見ていると、
ガキが急にこちらを振り返って言った。
「眠くなりますよねぇ。良い陽気ですものねぇ」
その年寄りめいた口ぶりに言葉を失っていると、ガキは不意に視線をあげ、目を細める。
そしてため息を漏らしながら言うのだ。
「梅に鶯、はぁ、なんとも風流ですなぁ」
なんだこいつ、究極のじいちゃん子か!
度肝を抜かれている俺に、ガキが畳みかけた。
「ちょっと度忘れしちゃったんですがね、
 あれ誰でしたっけあの、今のソ連の大統領、名前がどうしても出て来なくて」
俺は確信した。こいつ絶対中身ジジイだ。
なんかの事情で見た目が子供になってしまったじーさんに違いない。
俺は「プーチン」と言い捨て、その場から走って逃げた。
       
「腕時計」「大丈夫」「無人島」

318:「腕時計」「大丈夫」「無人島」
15/02/15 15:24:49.59 .net
「大丈夫ですか?」
公園のベンチで鳩の雌雄を眺めていたら、ふいに男子に声を掛けられた。
人の良さそうな、高校生ぐらいの男の子だ。
ここ別に自殺の名所とかではないよね?
いけない、通行人に心配されるほど具合の悪そうな顔をしていたようだ。
「あ、いや。ちょっと考えごとしていただけで。転勤みたいのがきまったもので……大丈夫ですので!」
年上なのに、恥ずかしいと思いながら、しどろもどろに返事をする。
「どちらに転勤するんですか」
会話を切ったものか続けたものか判断がつかない。腕時計をみるとまだ昼休みは十分にあった。
スカートの裾を直しながら答える。
「知らないと思うけど、南太平洋のサムサム島」
「それサムサム猿の住んでいる無人島ですよね。まじですか? おねいさん、おれのことからかっています? 」
怒ったのかちょっと眉間に皺がよっている。おばさんと言わないのは褒めてつかわすが、なんかナンパっぽくて笑えるなぁ。
「あら、知っているの? わたしは先週、はじめて聞いたのに。うちの会社、ちょっと変わった製薬会社なんだけど、
サムサム猿の調査で一年、常駐するのよ。企業秘密なんで詳しいことは言えないけど」
「へ~。それは大変そうだけど、うらやましいな。俺、動物が好きで、獣医を目指しているんです。
この春から○○大の獣医学部に通うんですよ」
ああ、高校の同級生で、実家が獣医でそこに進学した友達がいたなぁ。
しばらく、その子とベンチに並んで座って世間話をして、名前とアドレスを交換して別れた。
そのうち、証拠にサムサム猿の写真を撮ったら送ってあげよう。
忙しくて、きっと一年なんてあっという間だ。……そういえば、今日はホワイトデーだったか。
口の中で貰ったのど飴がちょっとこそばゆいや。

次は「昼休み」「南の島」「ホワイトデー」でお願いします。

319:「昼休み」「南の島」「ホワイトデー」
15/02/17 13:40:27.17 .net
ホワイトデー連続殺人事件。
バレンタインチョコをもらった男子が巨大な飴に練り込まれ、死んでいるという事件が頻発していた。
大の甘党で菓子作りが趣味の刑事、安浦はこの飴に使われている砂糖に注目。
それが某南の島固有のヤシ砂糖であることを調べ上げた。
普段は菓子作りなんて乙女趣味だと馬鹿にされてきた安浦の面目躍如。
彼はさらなる意気込みでヤシ砂糖の国内輸入を調査した。
ところが、どう調べても輸入量は事件で使われた量にははるかに足りない。
大規模な密輸? なぜ? 疑問は深まるばかり。
そんな中、あるパティシエが安浦に言う。あのヤシ砂糖は、現地では恋愛成就の薬と言われている、と。
すべての謎が解けたのは、昼休み、署の仮眠室で。身体がだるくて休んでいた安浦は違和感に気づく。
身体が動かない。そして鼻の奥に突き刺さる甘い香り。それは自分の毛穴から溢れ出る飴の香り……
そう、あのヤシ砂糖。安浦も調査中に何度となく味見をしてきたあの物質は、砂糖などではなかったのだ。
何かの生き物か、あるいは未知の物質……食べた人間の体内で増殖し、
約一ヶ月後に爆発的に溢れ出して、宿主を殺す……寄生虫のような甘い罠。
ああ、これが砂糖に紛れ込んだら、有史以来『甘み』に取り憑かれている人類は生き残れるだろうか……
安浦は全身の内側から甘みを感じながら、とろけるように息絶えた。

次は「嘘」「親指」「三年」でお願いします。

320:「嘘」「親指」「三年」
15/03/01 14:41:50.23 .net
「君、バンカラ部に入らないか」
高校に入学早々、校門でいきなり肩を鷲づかみにされた佳代子は、
地面から飛び上がらんばかりに驚いた。
「バンカラ部はバンカラを目的とする文化部である。この軟弱な時代に、
俺たちと本当のバンカラを極めてみたいと思わないか」
振り返ると、下駄履きに褌一丁の筋肉質な男たちが、歯の欠けた笑顔で
佳代子を見つめている。褌の前垂れに『三年』『二年』などと書かれているからには、
上級生なのだろう。
「いえ、私はその、そういうのは……」
「安心したまえ。我々は健全な活動を旨としている。女子生徒は褌の下に
スクール水着を着てもよいことにしている。なあに、夏までには慣れる」
男は笑顔で親指を立てた。
ビシッ
佳代子の目潰しが先頭の部員の眼に炸裂した。同時に自らのネクタイを解くと、
片手に薙ぐ赤い布が男の顔に絡みつく。「ぐおーっ!」半裸の肉体が回転し、
褌の前垂れがフィギュア選手のスカートのように浮き上がった。
佳代子は驚く部員たちの前でセーラー服の上着を脱ぎ捨てると、
青空高く放り投げる。真っ白なサラシを巻いた胸が少女の形に引き締まっていた。
「おうおう!サムアップでバンカラたぁ、軟弱ここに極まれりじゃ!今日からアタイが
この学校を締めるけぇ、覚悟しいや!」
倒れた部員の頭に靴を乗せ、啖呵を切る佳代子。「へへーっ!」ひれ伏す部員たち。
が、そこに割って入ったのは同中出身の美沙だ。
「嘘……。そういうのは卒業して、あたしと薔薇色の高校生活送ろうって決めたじゃない……」
「悪ィな、血がよ、騒いじまうのさ……」
佳代子が美沙を抱き寄せると、落ちてきた上着が二人の頭上に被さった。
二人の肩が触れあ
田中、数学が分からなくても答案で遊ぶな。この解答用紙は掲示する。
次は「春」「蕎麦」「百回目」で。

321:名無し物書き@推敲中?
15/03/06 23:37:40.44 .net
「春」「蕎麦」「百回目」
春だ。
花粉の季節だ。
家の中でできる何か面白いことはないか。
考えついたのが蕎麦打ちだった。
妻に聞く。
「美味い蕎麦を食いたくないか」
妻は答える。
「いりませんよ!」と。
怒ることはないじゃないか、と抗議すると、妻はキッと睨み返して、
「何回言ったらわかるんですか! 私は蕎麦アレルギーだって言ったじゃないですか!」
ああそうだった、と私は引き下がったが、妻は怒りはおさまらない。
「なんですか! あなた私を殺したいんですか!」
うっかりしていたと頭を下げても、妻はもう止まらない。
「何度同じこと言わせるんですか! もう百回目―」
私はゴーグルとマスクを装着し、花粉の舞う外に飛び出した。

「忍者」「ぽっくり」「和尚」

322:「忍者」「ぽっくり」「和尚」
15/03/08 20:54:06.78 .net
男がそろそろかと見に行くと井戸の前で念仏を唱えていた。
「おい、なんでアンタが生きている?」
男がそういうと途中で唱言をやめて振り返って答えた。
「あれはアンタの仕業かい? あの忍者なら寺の瓦で足を滑らせて井戸の底に真っ逆さまだよ」
「そんなバカな!?」
「この高さだ、今頃ぽっくりいっちまっただろう」
半信半疑で男が井戸を覗いたのを見計らってそのまま背中を一押し。
男が井戸に落ちたのを確認すると変装をといて、後ろからひょっこり現れた本物の和尚に数珠を返した。
「あの男はやはり馬鹿だ。本物は瓦で足を滑らせないし、本物は念仏を途中で止めたりしない」
迷惑な男がいなくなったその寺は阿呆寺としてたいそう有名になったそうな。


「妖怪」「かわや」「大工」でお願いします

323:「妖怪」「かわや」「大工」
15/04/03 22:45:29.69 .net
「あっ、おまえは妖怪かわや大工!」
太郎君は叫びました。草木も眠る丑三つ時、屋敷の厠をせっせと直す、
妖怪かわや大工を見つけたのです。
妖怪かわや大工は厠の不具合を勝手に直してくれるいい妖怪なのですが、
修理中は厠が使えなくなるという弱点があるのでした。
「おーい、もれちゃうよぅ、厠を使わせてよぅ」
太郎君が懇願します。しかしかわや大工はそれを無視し、
せっせと厠を直すのでした。
「仕方ない、庭でやろう」
太郎君は植込みの陰で用を足しました。
そしてスッキリした太郎君は、オチをつけることも忘れて寝床に戻ったのです。
次「審判」「ノーパン」「クリームパン」で。

324:名無し物書き@推敲中?
15/04/12 14:34:21.32 .net
小学三年生の競技はクリームパン食い競争だった。一郎ならびに三年生が四人、
スタートラインに並んだ。五月の突き抜けるような青空と父兄や生徒の歓声が、
一郎の頭に強い印象を残した。ふいに、審判の女教師が、「いちについて!」と叫んだ。
一郎は前を向き汗のにじむ手を握りしめた。そしてピストルを打たれる一瞬前、風が吹き抜けた。
思わず一郎は女教師へ振り返った。
女教師の細やかな手が制止するのを待たずして、風をはらんだスカートが地面と平行になった。
女教師はノーパンだった。小学三年生の眼前に、二十代半ばの女の股間がさらけ出された。
ほっそりとした両脚の上、黒々とした毛の茂りに一郎の足は完全に止まった。
ピストルの音が鳴り、走り始める同級生をよそに一郎は女教師を見たまま立ちすくんでいた。
青空の下、一郎の遠くでクリームパンが、糸に吊られ揺れていた。

次「上司」「情事」「定規」

325:名無し物書き@推敲中?
15/05/02 00:52:59.77 .net
上司の情事を目撃ショウジは狂気に駆られて裁きを行使。
鋭利な定規で上司を殺し、残った情婦と淫靡な行為。
薔薇の馨りと吐息と熱気、二匹の獣の原始の叫び。
甘美と耽美に夢中な番い、近づく焦眉に気付かず謳歌。
輪廻の使いが扉を開き、無縫のループが矢庭に開始。
上司の情事を目撃コウジは狂気に駆られて……

次題 「碁石」「馬蹄」「ホロスコープ」

326:「碁石」「馬蹄」「ホロスコープ」
15/05/10 21:00:35.60 .net
さあ、新春恒例の桜花賞に16頭の優駿馬が出そろった。
全ての馬がゲートインして、今スタートを切った、まず先頭を切るのはセントルイス、
続いて追い上げるのがツヅイテイオウ。その後ろ、ソノウシローズがいいポジションに付けている。
セントルイス速いがツヅイテイオウを交わしたソノウシローズが徐々に追い上げてきた。
後方からはコーホーキャップが狙っている、レースは団子状態でまだ分からない。おっと、どうやら一頭出遅れた馬がいるようだ。
騎手はムチを振るっているが、沿道の芝生を食べながらホロホロしている一頭の馬、全く走る気配がない。
なんとこの馬はホロスコープのようだ。去年V3を達成したホロスコープが全く走らない、どうしたというのか。
そうこうしているうちにレースは大詰め、最終コーナーを回って直線勝負に入った。
速い速いぞこの馬、他を寄せ付けずぐんぐん伸びていく、ぶっちぎりだー、ぶっちぎりで1っ着はセントルイス続いてツヅイテイオウ、3着にソノウシローズが入ったーーー。
ピンポンパンポン、桜花賞払い戻しを発表します。1着馬番⑦セントルイス一二〇円、2着馬番④ツヅイテイオウ、フタヒャク・・・尚このレースで馬番⑨のサマタゲータは反則により失格となったため、馬蹄が外れ、全く走らなかったホロスコープは15位になりました。
「なんだよー、馬蹄が外れたのかよ!まあ、馬蹄が外れたんなら15位でしかたないな。15位しかたない。ジュウ碁石カタナイ。」


「挽きたて」「風船」「カーラー」

327:「挽きたて」「風船」「カーラー」
15/06/07 03:40:18.24 .net
帰宅中、ふと道路脇の植木の根元を見ると、しぼんだ風船から伸びた紐の先に、透明な袋に包まれた手紙がついていた。
何処かの学校の生徒が飛ばしたものだろうか。
よく見ると袋が破れて手紙は泥だらけになっていたが、拾って中身を読んで見ることにした。

『…きたての…ー…ーでお待ちしております。喫茶 栄螺』

「なんだ、喫茶店のチラシか」
滲んでしまって『…きたての…ー…ー』の部分は読めなかったが、挽きたてか淹れたてのコーヒーだろう。
しかし、『栄螺』はなんと読むんだったか。
スマホですぐに調べて、チラシのもう一つの可能性に気づいた。

巻きたてのカーラーで待っててくれるのかよ、サザエさん。


「雪」「便利屋」「脚本家」

328:「雪」「便利屋」「脚本家」
15/07/19 08:14:46.06 .net
スマホの天気予報では最高気温36度、文句なく猛暑日だというのに出演者たちはコートやジャンパーを着て
真冬の山荘で起きた殺人事件の謎に迫っている。
元々は秋の温泉旅館を舞台にしたサスペンスだったのだがPが念願の韓流アイドルの出演取り付けに成功して
何もかもぶち壊しにしてしまった。「スノーホワイトにはやっぱり冬が一番よ」鶴の一声である。それにしても
色白だが男なのにスノーホワイト(白雪姫)とは名付けた奴には最低限の教養もないらしい。

制作会社などPの意向の前では単なる便利屋にすぎず俳優女優の不平不満にひたすら頭を下げる日々が
続いている。脚本家も突然冬の話に変えろと言われて泣く泣く書き直したようだがまだ「これが休暇だったら
もみじ狩りを楽しむのに」という台詞が台本に残っていて修正してもらわなければならないだろう。

経験上今回のドラマは今から駄作になることが目に見えるようだがPには視聴率がすべてでドラマの内容など
お構いなしだ。スノーホワイト君が作中で殺されたりしたら文句を言うだろうが。普段ろくに顔も出さない
くせに今回はお気に入りがゲスト出演しているためかこのくそ婆はほぼ日参状態。今からでもこの婆を絞め殺す
脚本になってくれればいいのにと思う。


次「火事」「マニュアル」「情」あついあついあつい

329:「火事」「マニュアル」「情」
15/07/20 21:31:20.47 .net
私が小学生のころ、重点科学教育対象校とかいうお題目で、学校に最新型のロボットが導入された。
「ウィーン、ウィーン、ミナサン、超高度情報機器ノジョーデス。ウィーン」
上半身は配線を巻きつけたパイプ椅子みたいな出来で、よく外れるキャタピラで走り、
言葉よりもモーター音のほうが気になる彼を、友達はみんな馬鹿ロボットと呼んだ。
そんなある日、学校で火事が起こった。
「ウィーン、ミナサンニゲテクダサイ。ウィーン、ワタシガクイトメマス」
ジョーはマジックハンドで消火器を掴もうとしたが、申し訳程度の握力しかないために
持ち上げることはできない。
「ウィーンウィーン。ミナサンニゲテクダサイ、ニゲテクダサイ」
普段ジョーを馬鹿にしていた私たちは、この健気なロボットを救いたいと思った。
しかし教師が引っ張ってもジョーはびくともせず、持ち上げることもできない。
「ウィーン、ウィーン」
仕方なく私たちはジョーを見殺しにした。逆巻く火焔の向こうに、ジョーのモーター音だけが
しばらく聞こえていた。そして一瞬、黒煙の向こうから、はっきりと聞こえたのだ。
「サヨナラ……」
私はこのとき、死を、あえていおう、生き物の死を、初めて知ったのかもしれない。
そしてまた、自分たちの無力をも。
翌年、新しいロボットが来た。
「キュイーン、キュイーン、ミナサン、超高度情報機器ノジャックデス。キュィーン」
私たちはまずマニュアルを開き、ロボットの電源を落として、体育倉庫にしまっておくことにした。

次「警官」「景観」「鶏冠」

330:名無し物書き@推敲中?
15/08/22 22:03:49.14 .net
茅野駅を降り、ヤスシには感嘆の声も無かった。
その鶏冠のさまに息を呑み、絶句するしか無かったのだ。
日本に有りながらアルプスを臨む。本場アルプスでは無い事は分かっていても、その感慨は測り知れない物だった。
あぁ、この山頂からの景観を臨めるのであれば命すら惜しくない、とすら思える。
駅前でタクシーを拾い「美濃戸口まで」と告げる。
そう、ヤスシは知らなかったのだ。
この後、美濃戸口の山荘で警官が殺される事件に巻き込まれる等とは。
次「焼き鳥」「私生児」「メニュー表」

331:「焼き鳥」「私生児」「メニュー表」
15/09/08 15:41:33.07 .net
それは人肉だという噂があった。
とある焼き鳥屋の、メニュー表には載っていない「はだいろ」という裏メニュー。
豚肉に似た串焼き。独特の香りと質感。和わさびを乗せて食べるらしい。
私は目の前の「はだいろ」を手に取り、恐る恐る口に運んだ。
咀嚼し、咀嚼し、咀嚼し、舌の奥へ強く押し込むようにして、飲み込む。
……食べ慣れた、普通の肉の味がした。僕は、思わずほっとした。

僕がこの店に来たのには理由があった。
隣家に住む母子家庭の、十一才の娘が行方不明になったのだ。
同じ私生児であるという共通点からか、彼女は二十才も年上の僕によく懐いてくれていた。
最後の目撃証言はこの焼き鳥屋のそば。徹底した捜索が行われたが見つからない。
でも……「はだいろ」の噂を知っていた僕はある不安に駆られて、この店で、このメニューを頼んでみずにはいられなかったのだ。

僕は怪しげな目つきを送ってくる店主と目を合わせないようにしながら会計を済ませ、店を出た。
よかった……どうやら、彼女がここのメニューになっているかも、なんて僕の心配は杞憂に終わったらしい。
「はだいろ」の、あの味。食通なんかじゃなくてもわかる。
あれは明らかに、生後十一年の味ではなかったもの。

次は「駅前」「豚」「社長」でお願いします。

332:「駅前」「豚」「社長」
15/11/12 23:14:38.11 .net
おおよそ200日振りの休み。うっかりブラック企業に入ってしまい、完全に社畜と化している私にとっては既に何をしたらいいのか分からなくなっている時間。
まともな感情や人格を保ちながら社畜を続ける事など出来る筈はなく、既に私の人格は存在して居らず歯車である。
歯車には動いていない間の価値などはないので、休みなどと言うものは存在の否定でしかない。
たった1日の休み。それすらも私にとっては焦燥感で耐えられない物となっている。
このまま部屋に居たら狂ってしまう。とにかく、と逃げるように部屋を飛び出した。
駅前まで来ると少し気持ちが落ち着き、周りを見る余裕が出て来た。どうやら今日は祭をしているらしい。
色々な屋台が出ている。焼きそば、イカ焼き、豚トロ串、りんご飴、綿あめ…
こんな時も飲食の呪縛は私を離さない。自然と目が追っている事に気付き絶望する。
あんなに気楽に調理できればどれだけ私の心は救われるのだろう。なぜ私は救わないのだろう。
あぁなるほど。明日起きたら社長を殺しに行こう。
そうすればきっと私の魂は救われる筈。

次『こたつ』『落丁』『雄鶏』でお願いします

333:名無し物書き@推敲中?
15/11/12 23:22:21.00 .net
あっちの>>331
短いながらもしっかりと伏線があってぞくっと来た
ネタバレ前に気づける要素もあっていいね

334:名無し物書き@推敲中?
15/11/12 23:23:20.44 .net
おうふ
感想スレに書こうと思ったのにorz

335:「こたつ」「落丁」「雄鳥」
15/11/17 13:41:06.81 .net
落丁混じりの雑学本に、首を切断されても死ななかったマイクという雄鳥の話が載っていた。
首無しマイクはグラム50セントの鶏肉ではなく、ドル箱スターとして大切にされたという。
つまり、マイクは死を乗り越えることで新しい人生をつかみ取ったのだ。
それは例えば、僕と彼女との関係のように。

当時、僕らの上には激しい雷雨が降っていた。連日連夜の口喧嘩、上がる絶叫、うなるDV。
ついに彼女は包丁を持ち出し、僕は必死に抵抗する。気がつくと彼女は倒れ、血が流れていた。
「殺ってしまった」……と思った。取り返しがつかない、もう彼女は帰ってこない……
そう思った瞬間、僕は急激にすべてを後悔し、倒れた彼女にすがりついて泣いて謝った。
すまない、すまない、すまない、すまない、すまない、すまない…………その、直後。
倒れていた彼女が、無言でそっと、泣き叫ぶ僕を抱きしめてくれた。
そう、彼女は生きていたのだ。僕は泣いて彼女に許しを乞い、彼女もまた僕を責めなかった。

まさに奇跡だった。その出来事は、僕らのすべてを一変させた。
彼女はかつてのような不平を漏らさなくなり、僕も二度と彼女から離れなかった。
僕らは二度と争わず、我が家には平静な空気が流れていた。
最初は戸惑っていた僕も、この新しい人生を受け入れ、前向きに生きていくことにした。

ただ二つの問題は……彼女が二十四時間、休まず僕を抱きしめ続けようとするから
外出もままならず、会社を辞めなければならなかったこと。それと、
処分に困ってこたつの上に置いたままになっている彼女の頭部―包丁を持って
もみ合った際に切断されてそのまま動かない彼女の頭部を、どうするべきかということ。

相変わらず僕に抱きついたままの首のない彼女は、相談に応じてはくれそうになかった。


次は「リモコン」「緑茶」「山」でお願いします。

336:「リモコン」「緑茶」「山」
15/11/29 19:18:07.56 .net
 「緑茶ダイエット、もちろんノンカロリー!」
 「カテキンが殺菌に効く!」
 「1ヶ月で4キロ減!お値段はたったの598円」

 山の様なキャンペーン文句は見事に的中した。
 スーパーの緑茶の棚は、番組終了後、見事に空となったのだ。

 「まあっ!」と一応驚いて見せた大臣に、男は売り込む。
 「貝柱、納豆、古くは紅茶キノコと実験は大成功です。
 ダイエット・健康・激安の条件を満たせば、リモコンは簡単ですよー」

 計画は実行された。
 毎日の様に、テレビにランニングの光景が写される。
 おなじみの「3ヶ月後」さんの体型も、申し分なかった。
 しかも、これが全て無料で・・・「実はお金もくれるんです!」

 これがウケないわけがない。
 「軍隊ダイエット」キャンペーン大成功。予定人員は無事確保されたが・・・
 大臣は、さすがに複雑な表情を隠せない。

※そういえばブートキャンプなんとかもw
 次のお題は:「紅茶」「怨恨」「川」でお願いします。

337:名無し物書き@推敲中?
15/12/09 23:22:17.16 .net
「ポイントはね、隠し味に紅茶を入れる事なの」
あまりにも美味しかったので作り方を訪ねると妻はこう答えた。
その時の事を思い出しつつ、自分で再現してみようと四苦八苦してみたもののどうにも上手くいかない。
何しろ『紅茶を入れる』という事以外は暗中模索、五里霧中。食材から調味料まで何が入っていたかは分かっても、どの位入っていたかは分からない。入れるタイミングも。
何も怨恨で離れた訳ではなしに今からでも作り方を聞けばいいのかな?なんて思ったがそんな事ができる訳はない。
そんな考えがよぎってしまった自分に少し失笑した。
今も君はあの川の向こうで両親と楽しく笑って過ごせて居るのかな?
あの時、君に押し戻されたけどやっぱり君が居ないと張り合いがないよ。
君と一緒に進みたかったよ。




ポエムか

次『痛い』『ポエム』『陶酔』

338:名無し物書き@推敲中?
15/12/13 00:58:26.83 .net
「ェイアーッ!」 ガシャーン!!「出た! 陶酔拳!!」
アナウンサーが叫んだ。若く筋肉質の武道家がマットに沈む。リングの上では足元もおぼつかない
初老の酔っ払いが、もげた甕の取っ手を握って鶴の構えに移行するところだ。
ぶちまけた安物の酒の匂いが、リングサイドまでもわりと漂った。
「酔拳と陶器による凶器攻撃、これは痛い!」解説のミスターポエムこと死神(しじん)三十郎ががなり立てる。
ここまででお題を消化してしまったが物語はまだ続く。甕の取っ手を握るアラフィフは、
悲しい過去を背負った香港だか海南島だかのアンチヒーローだったのだ。
その、過去とは……!?

次「さくらんぼ」「必殺」「普通の娘」

339:名無し物書き@推敲中?
15/12/20 15:59:34.63 .net
「遅刻遅刻~!」
私、田中咲欄慕!
キラキラネームだけがコンプレックスの普通の女の子!
朝食の食パンを咥えたまま曲がり角を曲がると何かを跳ね飛ばしたような衝撃があったけど気にしない!
急がなきゃ電車に乗り遅れちゃうもん!
ギリギリで電車に乗り込むと、大変!痴漢に胸を揉まれてる女の子がいるじゃない!
私は、近づくと痴漢の肩に手を置いて言った。
「貴様、それでも男か!必殺太陽神竜拳!」
私の必殺技をくらい痴漢は電車の窓からぶっとんで行く。
「ありがとうございます、あの、お名前を……」
痴漢に胸を揉まれてた女の子は、顔を赤らめながら私に聞いていた。
「私の名前はさくらんぼ、普通の娘だ」
それだけ言うと、私は壊した窓から飛び降りた。
逃げろさくらんぼ!鉄道会社から窓の弁償代を請求される前に!

次は
「酒」「女」「煙草」

340:「酒」「女」「煙草」
16/01/09 15:04:42.30 .net
「私は女性というものを尊敬している」
 伯爵は手にしたグラスをかかげてそう言った。
「なぜなら女性は、その全身すべてに深い深い意義があるからだ。例えば……」
 言葉を区切り、グラスに突き立つ細長い女性の指に吸い付き飲み物を吸い上げる。
「……ふぅ。例えばそう、切断した中指から骨を抜き加工すれば、理想のストローとなる」
 食卓に招かれた客人たちが微笑んでうなづく。和やかな注目の中、伯爵が続けた。
「それに、女性の体毛の皮巻き煙草。実にいい香りだ。……これはね、三十年物だよ」
 おお、と一同から驚嘆の声があがる。三十年物とは、女性が絶命するギリギリの投薬を
三十年も続けた逸品ということだ。大抵の女性は十日の投薬で廃人と化すというのに。
「体液酒もいいね。一口に体液と言っても、なにをどう使うかで無限の広がりを見せる。
合成酒ではたどり着けない神秘的なフェロモンが私たちを狂わせる。最近は羊水酒だね。
はじめは十代の羊水で満足していたけれど、いまは一桁だ。八歳で妊娠させ、
九歳で羊水を絞る。これに、生きたまま腐らせた女性の膿をひと垂らしすると通好みだ」
 鷹揚に語る伯爵の通人ぶりに一同が尊敬のまなざしを送る。
 そこに、従者が現れ耳打ちしてきた。
「申し上げます。人工子宮より新しい子供が生まれました。うち、女性は八六七人」
「それはめでたい。一人として無駄にしないように、しっかりと面倒を見るのですよ」
「は。それで、残り九二一人の男性のほうは」
「男……? そんなゴミ、いつものようにミキサー処分を。はぁ……遺伝子操作もせず、
仕上がりまで未開封が人間蔵の鉄則とはいえ……男などが生まれるのは癪に障る」
 伯爵は機械の指を揺らし、機械の脳から無線で指示を飛ばした。
 週末世界を支配する性別なき機械生命たちは、即座に彼の命令を実行するだろう。


次は「ヨーグルト」「郵便」「寒中」でお願いします。

341:「ヨーグルト」「郵便」「寒中」
16/01/13 09:41:39.32 .net
 決定通知がそろそろくる筈だ。
 老人は、ワクワクしながら待っていた。
 くすんだ水色の病院の前で、寒中ずっと佇んでた。

 郵便配達が来るや否や、自分のをさっと抜き去る。
 マイナンバーみたいな、白い地味な封筒だが確かにこれだ。

 なんせ今回は頑張った。
 巨額の寄付もしたし、慈善事業だって・・・
 入試結果を見る時の、あのドキドキで封筒を開く。

 <来世決定通知 : 貴方の来世は 結核菌 と決定致しました>

 「ええっ」と落胆!
 後を読むが、堅苦しい文句が並ぶだけだった。

 <本決定は、貴方の殺生実績を基に厳粛な審査の上・・・>

 「来世は空中を漂うだけとは・・・トホホ」
 ションボリしながらヨーグルトを飲む。
 老眼なもんで、「乳酸菌 10億個以上」は読めなかった。

次のお題は:「築城」「焼却」「納豆」でお願い致します。

342:無名草子さん
16/01/26 06:37:29.53 .net
URLリンク(youtu.be)

343:「築城」「焼却」「納豆」
16/04/06 05:35:34.24 .net
 焼却炉の中で音がした。のぞき込むと、同級生の通称・納豆マキ子がいた。

 それはまだ中学校に焼却炉のある時代。くすんだ空に昭和の残滓が漂っていた世紀末。
 彼女は半畳程度の焼却炉の一角に、紙くずや空き袋、わた埃などでゴミの城塞を築城し
膝を抱えて立てこもりながら、小さく震えて、僕を見ていた。

 なにをしているのか聞くと、「死にたくて」と答えた。
 理由を聞くと、「私の体は納豆みたいに、つぶつぶが糸を引いて、臭いから」と泣いた。

 そう、彼女は納豆マキ子。誰でも知っている。
 1年前に恐ろしい呪術をかけられた彼女はいまや、皮膚という皮膚、パンツの中から
頭皮の先まで、小指の先ほどのつぶつぶに覆われている。そのつぶつぶは、ぽろぽろ取れた。
ねばつく糸を引きながら。膿をぴゅっぴゅと吹きながら。腐った肉のにおいを漂わせて。
 彼女の周囲は常に異臭と粘液に包まれた。その醜さは、大の大人でも三日は夢に見た。
 死ぬのは当然だ。むしろいままで生きていたことのほうが不思議なくらいだった。

 どうせ死ぬなら……と、僕は彼女に頼むことにした。その前に、君の納豆を食べさせて欲しい。
 彼女は驚いた後、答えた。「……いいよ。あなたは、あなただけは、私がこの原因不明の病気で
納豆になる前も、後も、同じ目で見つめててくれたから。いまも、私を探しに来てくれて……」
 今度は僕が驚く番だった。まさか……気づかれていたとは。恥ずかしいが、正直に答える。
「そう……実は、僕は君が納豆になる前から、なった後もずっと―君を食べたいと思ってた」
 彼女の頬が赤く染まり、その拍子に二、三粒の腫瘍が、ねちょねちょと取れ落ちた。

 彼女は僕につぶつぶを食べさせてくれた。それは腐った人肉の、まろやかな味がした。
 ああやっぱり。僕は確信した。やっぱり彼女に呪いをかけたのは、正解だったのだと。


次は「ランダム」「気温」「春」でお願いします。

344:「ランダム」「気温」「春」
16/04/25 01:38:09.71 .net
  山頂には着いたけれどこの天気だ。いい景色なんて拝めないとわかりきって登った。だがため息は出る。
  うつむいて帰ろうとしたとき一陣、風が吹いた。めりめりと眼下の山肌に張り付いた雲を剥がしていく。今の今まで雲に覆われていた丹沢の尾根筋が足元から刻々と浮かび上がってくる。その尾根筋を境に雲の毛布が左右に引き剥がされていく。
  うねる雲がさらに巻き上がり、隠されていた青い山々がどこまでも続いていく。山々に引っかかって残る雲が、灰色と白と微かな日の光で千の沢を絡めたような海になる。
  僕はその時間と空間を独り占めしていた。土砂降りの丹沢最高峰蛭ヶ岳山頂。そこから雨雲が消えていく様は、例えるなら地獄の幕開けのようだった。そしてそれは晴天の富士山に負けるとも劣らない美しさだった。
  さっきまでの雨が体温を奪っている。でも、しばらく立ち尽くした。
  雪こそ融けたものの地上1800メートルはまだ春になりきれていない。気温は一桁だろう。だけど脳みそがまだこの景色を記憶として焼け付かせていなかった。魂が戻ってくるのに少し時間がかかっていた。
  丹沢なんて所詮は神奈川で景観は甲信越の山々には適わないだろうと思っていたけれど、どっこい、こんなに山深くて壮観なのかと思い知らされた瞬間だった。その山が持つ良さというものは登ってみなければわからないのだ。
  曇りはしているものの雨の気配は去っていた。青根のバス停からここまでは雨中行軍訓練のようなものだったから視界が拓けただけで気分はかなり晴れた。
  水を飲みタバコを吸って丹沢山荘方面に歩き出した。しばらく青と白の地獄は続き、塔ノ岳に着いた頃には人里が見えるようになった。
  午後の光が人工物にランダムに反射するのを見て、少しもったいなく思う。下界を忘れてもっと山の中にいたい、が、同時に人も恋しくなってくる。
  丹沢の山は整備が行き届いているのでこっちから頑張ってふっかけてやらないと遭難なんてできないが、それでも無事に下山できるとほっとする。
  さて、温泉に入って一杯やって家に帰ろう。そして友人連中に言ってやろう。丹沢はいいところだったと。今度は一緒に行こうと。

次は「カステラ」「電球」「背後」でお願いします。


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