この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十七ヶ条at BUN
この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十七ヶ条 - 暇つぶし2ch200:「防空壕」「社長」「電動歯ブラシ」
14/01/26 10:46:28.70 .net
2月14日はバタンレインが降る。
残業ですっかり遅くなった俺は諸悪の根源のバカ社長と市の共同防空壕に逃げ込んだ。
市の共同防空壕は主要道路に3㌔間隔で設置されている。
0時数秒前のことだった。
重い鉛の扉を閉めると、すぐにバタンレインデーの嫌らしい音が聞こえだす。
防災休日のしかものんびりとした地方のオフィス街で防空壕に他に人は居なかった。
バカ社長がコートの懐から電動歯ブラシを取り出し歯を磨きだした。歯周病が気になるお年頃になったらしい。
超音波が五月蠅い。バタンレインの音は脳へ直接響く音なので不快音が二重になる。
しかもバカ社長「みゅかしは にゅがつ じゅよっか は……」ぶしゅぶしゅと何か話そうとするな! まったくブサイクな女だ。
俺はもの凄く疲れたとジェスチャーをしてみせ、簡易ベットの一つに横になると、さっさと眠りに落ちた。
夢の中でバタンレインのドクダミと梅干とドリアンを混ぜ合わせたような禍々しい匂いの
黒いスライムに圧し掛かられてもがいて―目が覚めると枕元に黒いリボンの掛かった小箱が置かれていた。
防空壕の中に社長の姿はない。あのバカ、バタンレインの中に出たのか!
命に深刻なダメージは無いらしいが、今とは違うベクトルでおバカになられると会社が危ない。
小箱をポケットに突っ込み、社長を探しに外へ出ようと重い扉を開け―ああ諸悪の根源の妄執は……
俺は暗雲渦巻く空を見上げて差し出されたチョコを囓った。バタンレインは止んだ。

次は「蚤」「心臓」「告白」でお願いします。

201:「蚤」「心臓」「告白」
14/02/08 23:36:35.26 .net
猫を拾ったはいいが全く懐く素振りがないまま1ヶ月が過ぎた。
「なつ」か「な」いからナツナなんて名前にしたから余計に拍車がかかったのだろうか。
ナツナが蚤持ちなのは分かって居るんだが触らせ無いのでどうしょうも無い。
お陰で6畳1間の俺の城は蚤パラダイスになってしまった。
「お前なんか拾うんじゃ無かったよ」などと告白して見ても猫に言葉なんか通じる訳でも無く、この先どうしたものかと頭を抱える日々が続いていた。

ある日帰るとナツナが見当たらない。心配にもなったが懐かなかったと言う事はここが居場所だとは思え無かったんだなと思い
「怪我も治ったんだ。達者でやってけよ」
と届く筈も無い言葉を呟やいて買っておいたバルサンを炊いた。
部屋の外で待機しようと扉を締めると中からにゃあと声が。
心臓がきゅっとなって慌てて扉を開けるとへ?なに?と言うような顔をしたナツナ。
神出鬼没過ぎんだろ!と毒づきつつもナツナを抱えて動物病院へ駆け出すのだった。
結果炊き出して直ぐだったから影響はナシ。ついでに蚤も見て貰えて返ってラッキー。
あれ?そう言えばいつの間に抱っこさせてくれる様になったんだ。

次は「積雪」「筋肉痛」「ダンボール」でお願いします。

202:「積雪」「筋肉痛」「ダンボール」
14/02/09 09:59:57.71 .net
師走に都内に引っ越した。4年ぶりの東京だ。
部屋はかなり狭くなって、満足に荷解きする余裕もない。おまけに全室フローリングだ。
ベッドを買えば余計狭くなる。一計を案じ、空いたダンボールを畳んで
毎夜フローリングに敷くことにした。大きさが足りないから上半身と下半身でセパレート、
各3箱で6重のクッションになる。ここに敷布団を敷くと具合がいい。片付けも楽だ。
正月を越すと引越しの熱も冷め、なんだか面倒なことはやりたくもなくなる。
結果ふた月たってもダンボールベッドのままだ。が、一朝目覚めてふと首の後ろが騒いだ。
雪が、積もっている。
小生北国の育ちで朝の空気で雪が降ったか降らないかわかる。というと少々誇りすぎで、
外の物音をきくと雪が積もっているかどうかわかる。雪のない土地の人でも、
雨の降った降らないはなんとなくわかるだろう。あれである。
ダンボールベッドは床に近く、フローリングは音をよく響かせる。
内地へ来て20年になるが、けさ目が覚めた瞬間に床全体が自分の耳となって、
雪の日の物音を聞き分けたのだ。育ちは争えない。
期待してカーテンを引くと案の定の銀世界だ。積雪はささやかだが東京では珍しい。
人には見せられぬダンボールの寝床も、案外いいものじゃないかと思い直した。
少々筋肉痛が残るのが玉に瑕だが。

次「梅の季節」「納屋」「うさぎ」でお願いします。

203:名無し物書き@推敲中?
14/02/11 10:47:16.54 .net
梅の季節の納屋にうさぎがいたので捕まえて食った。
梅の季節の納屋にうさぎがいたので捕まえて食った。
梅の季節の納屋にうさぎがいたので捕まえて食った。
梅の季節の納屋にうさぎがいたので捕まえて食った。
梅の季節の納屋にうさぎがいたので捕まえて食った。
一話なのに五羽。

次「立春」「改悛」「急峻」でお願いします

204:「立春」「改悛」「急峻」
14/02/17 01:33:14.25 .net
ふと、人を殺した時の事を思い出した。
こうして唐突に浮かんで来るなんて改悛の念なのだろうか。ただ単に人生の節目だからなのだろうか。
相手は父親。どうしょうも無い奴だった。仕事もせずに昼間から知人を集めては酒を飲みながらの麻雀。
母が身をすり減らしながら稼いだお金はそこに消えて行く。私が小学校を卒業する頃に母は私を置いて出て行った。
それから父は私を売り物にした。
初めて売られた日、私に土下座して「父ちゃんはバカで稼げないんだ。お前に頼るしかない。勘弁してくれ」の様な事を涙ながらに言われた。私が支えないと、と強く思ったのを覚えている。
いつも通り学校から帰って直ぐに父が連れて来たお客の相手をしていると、隣の部屋から麻雀の音と共に
「折角あいつが置いてってくれたんだから有効に使わにゃ。バカでも股開く位はできますわ」
と笑いながら話す声。
あぁやはりこの人はバカなんだな、そう言う話は本人に聞かれたらダメでしょう?
安普請なアパートの急峻な階段。アル中の父。後ろからとん、と押すだけで済んだ。打ち所が良くて即死だった。止めまで考えて居たのは無駄になった。
その後、自首して施設に入り、そして独り立ちしてなお、心療内科の世話になりながら今日まで過ごして来た。
あれから10度目の立春を迎えた今日、私は結婚します。相手は私の過去を知った上で受け入れてくれる、私と同じように少しネジの緩んだ人です。
お父さん、お母さん。産んでくれてありがとう。少なくとも貴方達よりは幸せになります。

205:名無し物書き@推敲中?
14/02/17 01:36:41.13 .net
次は「南国」「ビーチ」「浮かれ気分」でお願いします。
寒いからお題位は暖かくw

206: ◆rOkt/ARo8M
14/02/22 14:22:28.01 .net
てすと

207:名無し物書き@推敲中?
14/02/23 17:26:31.28 .net
南国 ビーチ 浮かれ気分

確かに寒いよりはいい。
だが、日本の「南国」を売りにした観光地は一体何を考えているのだろう。
努力で越えられない壁がある。これがわからない世代が観光地産業を担っているとは思わないのにどうして浮かれてしまうのか。
南国の記号化されたイメージ。それは、輝く太陽、青い海、白い砂。肉感的な女。
こういう爽やかなビーチであって、「お泊まりはこちら」「南国マンゴー饅頭」「お食事処 漁り」だのの、地元感溢れる地域産業の入る隙間は本来ないのである。
異国情緒、せめて非日常を求めているのに、日本語で商売っ気を押し出されては、浮かれ気分は台無しだ。
だから、ひとつ提案しようじゃないか。
異界を作れ。
代替品はやめろ。
日常を離れた場所のユートピアは、もう現代には架空にしかないことは、ディズニーランドでわかってるじゃないか。
夢をつくれ。
ドイツのノイシュヴァンシュタイン城は、ファンタジーに傾倒した馬鹿王の産物だ。
それが今はロマン街道で観光名所だ。
だから。
テンプレの、ギルドがあり飯を食うのに架空の通貨を使い、猫耳メイドがいる総コスプレ、やってみて。お願い。

次は
白い皿 温かい 湿度

208:「白い皿」「温かい」「湿度」
14/02/26 18:10:57.55 .net
雲一つない青空いっぱいに、巨大な白い皿が何百枚も浮かんでいる。
皿の周りは赤い光で縁取られ、ピカピカと明滅している。
俺はこのシュールな光景にあんぐりと口を開けた。
「いったいこの国はどうなっちまうんだ……」
そんなことは誰にも分からない。
湿度が高く空気がむしむしする。
夏休み直前、学校帰りに空を見上げていたら、
こんな事態に出くわしてしまった。
20××年……! 未知の飛行物体が日本に襲来……!
俺は地球外生命体が地球にやってくるという歴史的瞬間に立ち会っていた。
でっかい白い皿の群れは所在なくフワフワと浮かんでいたが、
突然、円の下の中心に穴のようなものが出現する。
「何をするつもりだ……!」
俺の胸に興奮と恐怖が同時に去来する。
皿の真ん中に空いた丸型の黒い穴から、金色の温かい光が降り注ぎ、
それを浴びた俺の身体がフワッと浮き上がる。
俺の体は上空数十メートルまで重力を無視して浮き上がる。
ああ……俺は宇宙人に誘拐されてしまうんだ……。
そして手術をされてホルマリン漬けにされて、
宇宙の博物館におもしろおかしく展示されてしまう運命なんだ……。
悲嘆に暮れながら、眼前を埋め尽くす白い皿の中に俺は吸い込まれる。
この事件から数日後、俺とタコ型宇宙生物の奇妙な共同生活が始まるが、
それはまた別のお話――。
次のお題は「赤」「推理」「猫」でお願いします。

209:赤 推理 猫
14/02/26 21:43:34.29 .net
「赤か黒か、どちらかのカードをお選びください」
 西洋風の古びた洋館の一室に、アンティークな木製のテーブルが置かれている。紫色のローブを纏った占い師風の女と向かい合わせに座っているスーツの男は、机の上に置かれた二枚のカードを真剣な顔で見つめている。
 二人の周囲には屈強そうな大男が数名、拳銃を持って立っていた。部屋の片隅には銀髪の小さな猫が一匹いて、じっとしたまま切れ長の目を光らせている。
 スーツの男は額から滲む汗を手の甲で拭いながら、必死の形相でなにやら思考を繰り返していた。
 おそらくカードの選択次第で、この男の命運が決まるようだ。男は震える手を右側の赤いカードへと伸ばす。だが触れる寸前でその手を戻した。
 男は頭を抱え、その後顎に手をやり、落ち着かない様子で貧乏揺すりをしながらしばらく迷っていた。その姿はさながら推理小説に出て来る探偵のようだった。
「そろそろ決めて頂けますか。こちらも暇ではないので」
 待ちくたびれたように女が言うと、大男二人も追従するように威圧的な態度を見せる。焦った男はわかったと何度も頷きながら、震える手を黒いカードへ伸ばす。
 まさに手が触れる寸前で、男の耳に甲高い猫なで声が響いた。直後に銀髪の猫を見つめた男は、意を決した様子で口を開く。
「あの猫が選んだほうにする」
 そう言って立ち上がると、彼は猫に近づき抱き上げた。ふらつく足取りで席に戻り、カードの前に猫を近づける。
「さあ、選んでくれ―」

 古ぼけたアパートの一室に、しわがれたスーツの男が立っていた。その傍らで銀髪の猫ががつがつとキャットフードを食べている。
「お前のおかげで命拾いしたよ。借金も帳消しだ。ありがとうな」
 銀髪の猫は、男の声に応えるように愛らしい鳴き声をあげた。

次のお題は「旅館」「温泉」「怪獣」

210:名無し物書き@推敲中?
14/02/26 22:22:17.55 .net
温泉怪獣あらわる!
湯治客をまとめて三十年のおやっさんこと、立花は温泉から生まれた怪獣をみて呟く。
ラジウムが、そんなにも活性化しているというのか?
温泉旅館街はパニックだ。
この不景気に、大雪に消費税に、さらには怪獣なんてあり得ないわ、と。
そこで、ある男が、立ち上がった。
産湯から温泉に浸かり続けた男。
温泉効果で追従を許さない餅肌と、水泳で鍛えた体。
水鉄砲の命中率は世界一、いや宇宙一。
地元企業協賛のもと、リョカンダーに改造された甲斐充(かい・じゅう)
行け?!リョカンダー。戦え、リョカンダー!

待て、次回。しかして希望せよ。

次回題:次回 放送 未定


いけ、リョカンダー。倒せ!リョカンダー!

211:次回、放送、未定
14/02/27 13:33:34.49 .net
ひとりのテレビプロデューサーがある企画を実現させた。
過激な番組作りで局内でもカルト的な人気がある男だ。
議論に議論を重ね、ついに待望の新番組の放送が決まった。

タイトルは『男だらけの水泳大会! ポロリもあるよ!』。
肉体美に自信のある益荒男たちが水泳競技を通じて、
友情を育み、熱く闘い、互いに鎬を削るという番組内容だ。
新聞広告欄に登場するまでは、順調であった。

―が、一度衆目を集めてしまえば視聴者がそんな内容の番組を許すはずがない。
当然のごとく放送局はクレームの嵐で大騒ぎになった。
「気持ち悪い」「お下劣すぎる」「そんな番組見たくない」「株を売る」
連日のように電話越しに罵詈雑言が叫ばれ、脅迫まがいの内容の手紙がTV局に山ほど届いた。
悪い意味で話題性抜群のこの番組は急きょ放送中止になった。

番組はニュースに取り上げられ、新聞やゴシップ誌に嘲笑され、
ついにはお蔵入りになり、番組を企画したプロデューサーは降格させられた……。
新しくプロデューサーになった男は汚名返上のために新たな企画を立ち上げる。
待望の次回作、番組のタイトルは『老人だらけのゲートボール大会! ポロリもあるよ!』。

―放送は未定である―
次のお題は『迷宮』『銀の剣』『ランタン』でお願いします。

212:名無し物書き@推敲中?
14/03/07 20:39:46.46 .net
村の郊外に「大迷宮」と呼ばれる洞窟がある。
その洞窟は山脈へと続いており、村よりもその全貌は大規模らしい。
洞窟の奥底にあるという「銀の剣」は大変高価なものである。
それは村を都市に変えてしまうほどの財産なのだ。
そのため、年に1回、選ばれた村人の屈強な男を探索に行かせる「スペランカー」という行事があったりする。
だが、そこに行って帰ってきた者は誰独りいないのだ・・・。

そして、ぼくは「大迷宮」の奥底にいた。
装備は、もうぼろぼろの服にランタンとショットガン。
幸い、拳銃を使うような機会はなかった。
目の前には「銀の剣」がある。
ぼくは、それを引っこ抜こうとした。
無事、抜くことができた。
全く錆びたところがない、見事な剣だ。
「ん?」
揺れている、地面がうなるように。
「まさか・・・盗人に天罰が下るとか・・・」
剣が刺さっていた穴だ。そこから水流が・・・。
大きい肉体は吹っ飛び、ぼくはどこかに流されてしまった・・・。

意識が覚醒して、半ば瞳を開ける。
「ここは・・・」
温泉だった、とても気持ちがよい。
まるで、羊水に浸かっているような、母性を感じられた。
「ママン・・・」
大勢の男たちがそれを呟く。
ふと、ぼくは握っている剣を見た。
フツーに錆びていた。ただの剣だったのだ。
こうして、ぼくもマザコン、帰らぬ人になってしまった・・・。

長過ぎですかね?
次のお題は「ホモ」「森」「環境問題」でお願いします。

213:ホモ、森、環境問題
14/03/09 09:48:14.34 .net
「あの連中とは一緒にしないでくれたまえ。私は何も環境問題に興味があるわけではないんだよ」
白髪の老人はしわがれた声で眼鏡の女性に言った。
「じゃあなぜ島の開発に反対するんですか」
フォーマルな身のこなしから、彼女はジャーナリストのように見える。
「君にはわかるまい。わかってたまるものか」
「はあ……?」
「あの島は、男のロマンが詰まっておるのだ。だから誰にも渡せない。国にも、外国にもだ」
「どういうことですか。私にはサッパリだわ」
「すまない。これでは説明になってないね。ではこれを見たまえ。その方が話が早い」
室内の一面に大きなスクリーンが広がる。老人は机上のボタンを押した。
「ぽちっとな」
冷静だった女の表情が、さすがに変わった。
「ああっ、なんですかあれは?」
女の口が、リアルなダッチワイフのように開かれたままになった。
スクリーンには、問題の島が移っている。青い海と緑に覆われた美しい孤島だ。その中央部の森が、老人のボタン操作によって真っ二つに割れはじめたのだ。
「ふふふ、これを作るのに二十年かかったよ。二十年と言えば赤子が成人になるまでの年月だ。今君が見ているあれはね、私の夢の子供、ドリームチャイルドなんだよ!」
老人はまるで少年のように興奮していた。
映画のワンシーンのように割れた森から、漆黒の機竜の勇姿がせり上がってきた。
「巨大ロボット? しかもゴジラ型だなんて!」
「女の君でも興奮するんだね。うれしいよ、私の趣味をわかってもらえて」
「いえ、呆れました。島にあんた私物を建造するなんてばかげてる。世界指折りの資産家のやることが特撮ごっこだなんて。私、帰ります。どうやら時間の無駄だったようだわ」
女は、取るものも取らずに早々とその場を立ち去った。
あとには老人の出したホモ牛乳が一口も飲まれずに残されている。その液面は、女の荒々しい動作のために微かに揺れていた。
「残念だ。ショーはこれから始まるというのに」
一人残された老人は別のボタンを押す。スクリーンの映像は、詳細な情報を表示した平和な日本地図へと切り替えられていた。

次「タブレット」「燭台」「戦闘機」

214:タブレット 燭台 戦闘機
14/03/14 23:58:37.48 .net
そう遠くない場所から戦闘機の爆撃音が聞こえる。
日が暮れそうだからと灯したこの蝋燭も、もうすぐ消さねばなるまい。
いや、家から明かりが漏れていようといまいと、彼らはその弾の威力で、
ここいら一面をすべて瓦礫の世界へと変えてしまう気だろう。
蝋燭の明かりに照らされた燭台は、先祖代々受け継がれてきたものだ。
それももうすぐ、打ち砕かれるのだろう。
私達がなぜこれほどまでに彼らに憎まれるのか、私にはわからない。
もちろん、国には地下資源があり、立地的にも貿易に有利な場所なのだが…。
我々はその恩恵に心から感謝し、他国に敵愾心を持つことなど、一度もなかった。
今私の目の前に、発展から少し取り残されたこの国には珍しい、今風のタブレットがある。
どういう仕組みなのかはわからないが、指で画面をチョコンと押すだけで、あの仕掛けが発動する仕組みになっているらしい。
彼らに一矢報いるために、今は亡き同士が考えてくれた方法。
十分に引き付けてからでなければ、意味がない。
と。近くでダダダと、一斉掃射の音がした。
いまだ!
私の指が画面に触れたのに数秒遅れて、ひゅるひゅると不気味にタマの上がる音がした。
そして閃光と体を震わせる強烈な音。
窓から、この世のものとは思えない光の芸術が降ってくる。
一瞬掃射の音が止んだ。が、それもわずかな間だった。
弾の直撃で、蝋燭が、燭台が、跳ね飛ぶ。
しかし…私の心は満たされている。
心にあるのは恐怖ではない。
今見た光の美しさへの純粋な感動、それだけだ。


次のお題「桜」「コンクリート」「わら草履」

215:桜、コンクリート、わら草履
14/03/16 10:24:27.61 .net
男はわら草履を履いていた。この感触がいい。足裏が刺激されて、いい話が思い浮かぶ。
男は作家だった。
「もう四月か」
すでに第二の古里となっているこの地を踏みしめて、男は呟く。視界には一本の桜の巨木が見える。
「あなた、作家の信藤基さんですよね」
桜の木に見とれていると、いつの間にか隣に女が来ていた。
見るからに都会の女だ。とても観光に来ているようには見えない服装には、静かな緊張が張り詰めていた。
「あなたは? なんとお呼びすればいいのかな」
「刑事さんで結構です」女は黒い身分証明書を示して言った。
「ほほう、これは」
「ずいぶん探しました。まさか事件の容疑者にミステリー作家が浮かぶとは思わなかったわ」
「ようやくたどり着いた……というわけですね。しかし私は何も話しませんよ。法律ならあなたより詳しいつもりだ」
「あいにく、私は大藪春彦しか読まないんですよ。手っ取り早く事を進めませんか」刑事の懐から取り出されたのは、短銃だった。
「これは、本物ですか」作家は物珍しげに自分に向けられた銃口を見た。
「死体のある場所に案内しなさい」
作家はスコップで桜の木の下を掘り始めた。
「刑事のお嬢さん、あなたが想像しているものなんてありはしませんよ。青いビニールに包まれた大きな長い塊、白骨化して蚯蚓が絡まった死体、そんな類いの物はないんです」
「作業中の長台詞はリアルじゃないわ。黙って働くのよ」
やがてスコップが、ひどくわざとらしく何かに当たって音がした。
「何よそれ? コンクリート詰めにしたの。壊すのに一苦労しそうね。爆薬でも持ってこればよかったかしら」
「その必要はありません」男は言うと、何かを短く詠唱した。
それを合図として大きなコンクリートの塊が揺れ、二つに割れた。
「ああっ!?」
粉塵の奥から二つの目が光る。
「女刑事さん、はたして大藪春彦だけでこいつに立ち向かえますかな。私はこれを封印するつもりだったんですがね。あんたは運が悪い」
男の言葉は遠くに聞こえた。
「それからもう一つ、私はもうミステリーなど書いておらんのです」
モーターの駆動音と冷却ファンの音が近づく。しなやかな影からそれが女性型だというのはわかった。

次「領空侵犯」「蘭虫」「パチスロ」

216:名無し物書き@推敲中?
14/03/16 10:49:54.50 .net
「バリア、バリアー」
「空中はセーフ?」
「領空侵犯だからダメー」

近所の子どもだろう声が外でしている。
領空侵犯、などと言う言葉が遊びで出てくる時代だ。
玄関でボロいサンダルを踏みつけながら蹴りいれるようにはく。
その物音でか、妻と、世間ではいうらしい同居女の金切り声も飛んできた。
「どこへいくの?仕事探してんのか?てめえはよ!」
はは、随分汚い女になったじゃないか。
「パチスロ」
一言、聞こえるかわからないが優しく答えてやる。
恐らく聞こえないだろう。
しかし、聞きたいなら近くにきて話すはずだ。
聞きたくないなら、聞かなくてすむようにしてやるから。
ガチャッと扉をあけて外を出た端から、玄関の鍵がかかる。
ホウシャノウという言葉は、領空侵犯もなにもなく
この町を侵して久しいのだろう。
なにもかも不確定だ。
答えを出せないのか、出したくないのか。
ひとつ、確定なのは俺たち夫婦間には、死んだ子どもがいた、ということだ。
それは、蘭虫のような頭部をもっていた。

217:名無し物書き@推敲中?
14/03/16 10:55:03.49 .net
次は、
姉様人形、いかものぐい、夕煙で

218:名無し物書き@推敲中?
14/03/17 10:53:31.72 .net
少女は砂浜でピラミッド型の何かを作って遊んでいた。
動物の毛皮を袈裟懸けにしているため、片方から未熟な乳房を覗かせている。
ずっと独りで遊んでいるようだ。
同年代の子供がいないのだろうか。
その時、波が砂浜に押し寄せ、少女の作品は消え去った。
「あーあ」と少女は溜め息をついた。
しばらくして、遠くから夕煙が立ち上った。
「あ、もう行かないと」
チャンスだ、見張っていた甲斐があった。
僕は友人と共に少女に近づき、喋りかけた。
「ねえ、これ知ってる?」
見せたのは姉様人形。
「なにそれ?キレイな人・・・」
完璧に変装をしているためか、少女に警戒心はなかった。
「僕の作品なんだ、もっと見せたあげるよ」
少女は森までのこのこと付いてきた。
僕は本性を晒し、少女を性欲のままに蹂躙した。
「お前も如何物食いだなあ」
友人が呆れたように言う。
「この女の子も他人とは異なる素晴らしい美的感覚だよ」
縄文時代でも僕の作品が認められるなんて、とても光栄だ。

219:名無し物書き@推敲中?
14/03/17 10:55:32.11 .net
次は「SMクラブ」「妖怪」「殺人事件」でお願いします

220:名無し物書き@推敲中?
14/03/18 22:21:06.41 .net
「SMクラブ」「妖怪」「殺人事件」

その村さついにカソッチンが現れただよ。
過疎地に出現するっちゅう、あの妖怪カソッチンさ。
天真爛漫なカソッチンは幼子のように振る舞って年寄りをみんな元気にしちまう。
みなカソッチン囲んで手を叩いて大声で笑ってさ、もう家にじっとなんかしてられない。
ただただ愉快でどんどんどんどん元気になって、そのうち村の再興なんか企てたりし始めてな。
外から人を呼び込むのにSMクラブなんかこさえたらどうだべ、って村長さんが言ったもんさ。
誰一人その道に精通する者はなかったけど、「やる気になればなんでもできる」に異論を唱える者もなし。
世界中からその手の人間が押し寄せたって、迎え入れるどころか迎え撃つ気概すら持っていた。
決して殺人事件なんて起こらなかった長閑な村だったけども、様相は変わってくるだろうなぁ。
なんたって目をギラギラさせてSMクラブ運営に取り組む老人が待ちかまえている村だよ。
平穏でいられるわけがない。愛憎だってこんがらがってさ、命を落とす者もあるだろうよ。
それもこれも踏まえてなんだろうなぁ、村長さんがミカン箱に乗っかって声張り上げたもんさ。
「餃子の町だの、ゲゲゲの町どころじゃねぇ。わしらの村はSMの村だで! 横文字だで!」
もう起死回生。みんな灰になるどころかハイになっちゃってハイタッチなんかしたりしてな。
で、カソッチンが姿を消していることに、だぁれも気づかないんだなぁ、これが……。


「365日」「ポイント」「小型犬」でお願いします。

221:名無し物書き@推敲中?
14/03/21 19:22:16.32 .net
子犬を1匹、36500円で買った。かわいらしい小型犬だ。
その帰り道、スーパーマーケットで「100円で1ポイント」の張り紙を見た。
私は毎日このスーパーマーケットで最低100円は買い物をしている。
私は手もとのキャリアの中の子犬を覗き込んだ。
それから財布の中のポイントカードを見た。ちょうど365ポイント貯まっていた。
私はポイントカードを子犬の目の前で破り捨てた。子犬は首をかしげただけだった。
私は言った。
「君は運が良かったね」


次は「充電器」「蟹」「テレビ番組」でお願いします。

222:名無し物書き@推敲中?
14/03/23 10:20:21.64 .net
「充電器」「蟹」「テレビ番組」

俺はひとりで蟹を食べている。
通販で取り寄せた産地直送の美味いタラバだ。
妻は充電器ポットで眠っている。
俺の妻は電気人間なので当然蟹など食べない。
だから俺は好物の蟹をいつも決まって妻の寝ている間に食べる。
好きなテレビ番組も録画して妻が寝ている間に見る。
掃除も洗濯も、たいてい妻が寝ている間に俺がする。
なぜなら妻は23時間充電で1時間しか稼働しないからだ。
そして俺たちは毎日濃密な1時間を過ごす。
毎日1時間しか会えない俺たちは、さしずめサイクルの短い織姫と彦星だ。
30分後に目覚める妻を思うとドキドキが止まらない。
蟹の残骸を片づけ、風呂に入って身を清め、そして24本の剣をテーブルに並べるんだ。
妻の喜ぶ顔を早く見たい。
彼女はどんなふうに目を輝かせ、どんな声を上げるんだろう。
俺たちは今日、黒ひげ危機一髪で大いに盛り上がるのだ。ワォ!


「スズメバチ」「お好み焼き」「軍隊」でお願いします。

223:「スズメバチ」「お好み焼き」「軍隊」
14/03/24 17:44:50.83 .net
ザッ ザッ ザッ ザッ
まだ微かに人の気配がする廃墟に響き渡る軍靴の音
壊れたスピーカーから流れるるは今はもう忘れ去られた軍歌

一つの国があった
一つの国が滅びた

灼熱の業火の前に
千万からなる軍隊は8日ともたず
破れ、敗れ、倒れ伏した者たちは皆
今もまだ戦渦に囚われ此方を彷徨う
人の在り方を忘れても
誇りと想いは忘れずに

軍靴は通り過ぎ去った廃墟に
一件のお好み焼き屋があった
店の主人は軒先の鉢に水をやる

水やりを終えると空を眺めて呟いた
「八日八夜の涼め鉢、業火に灼かれた命を静め…か」

どこで響く軍靴の音はやがて
ガチッ ガチッ ブーン ブーン と音を変え
曇り空には蜂が舞う

次に次にと空に消ゆ
一千万のスズメバチ

224:名無し物書き@推敲中?
14/03/24 17:47:06.33 .net
次は「カード」「燐光」「副次効果」でお願い

225:名無し物書き@推敲中?
14/03/25 18:42:19.31 .net
「カード」「燐光」「副次効果」

腕にしがみつき震える女に向かって、男が愉快そうに言った。
「どうしたんだい、君が来たいって言ったんじゃないか。
 それにしても、よくできたお化け屋敷だなぁ、ここ。
 あ、あの揺らめく人魂の正体は燐光、夜光る文字盤に使われる物質だよ。
 あの切り離された首を抱えている人だって、蓋を開ければなんてことないからくりさ。
 この世に科学で証明できないことは何もないんだからね。
 ただね、この手の脅かしって、人を謙虚にさせる一面もあると思うんだ。
 死んだご先祖様からのメッセージって、むしろみんな触れたがるだろ。
 怖いもの見たさの楽しみのほかに、驕った己を顧みるって副次効果もあると思うんだ。
 僕はお化け屋敷の面白さはよくわからないけど、怖がりたがりの君をかわいらしいと思うよ。
 今日は本当に誘ってくれてありがとうね、まさか君が僕なんかを―」
と、その時、墓石から飛び出した無数の手が男を墓の中に引きずり込んだ。
女は無表情のままポケットからカードを取り出し、いつの間にか隣に立っていた首なし男に手渡した。
首なし男はポンとハンコを押すと愛想の良い声で、
「ずいぶん貯まったねぇ。あと3人獲物を連れてきたら、死んだ恋人に会わせてあげるからね」


「地図」「ハッピー」「バイオリン」でお願いします。

226:「カード」「燐光」「副次効果」
14/03/25 19:16:03.47 .net
被ってしまったけどせっかく書いたので投稿。

満月の夜、村はずれの墓地に三人の子供たちが集っている。
眼前には彼らの膝ほどの高さしかない小さな小さな墓標があり、これを正面に手と手をつなぎあい声をそろえる。
「大魔王サタンの名の下、永遠の庇護を」
文句を終えると、足もとの土が動き、「わっ」とゼルが退いた。地表突き破ってきたそれは青い光をまとっている。
「平気さ、ただの燐光だよ。蘇生式の副次効果にすぎない」とシキセが解説する。
出てきたのは一匹の子犬。だがその首は垂れて伸び下がり、右目は飛び出で、左足は奇妙な方向に折れている。
「さすが君のおじいさま、大魔道士との呼び名高いルディスのカードだ。僕らのような力の弱い者でもあつかえた」
シキセは実に感心した様子で、墓上に置いてある死者蘇生の魔法カードを手に取り、ツゥに返す。
「カードもどす時ヘマして見つかるなよ……。ていうかツゥ、早く防腐剤かけてやれよ」ゼルが急かす。
「ふふ、おそろいね」生気のない片目で見上げてくる子犬の土を払い、ツゥは持参してきた薬剤をふってやる。
子犬は「ボフッ」と、空気の洩れたような鳴き声を発し、それでもうれしそうに尻尾を動かした。
「愛情だよ! 互いの愛情の強さがこの魔法のキーなんだ。それが証明できて僕はとても満足だ」片腕しかない手を
大げさに揮い、シキセは演説するように言う。ゼルは「フン」と鼻を鳴らし、縫い目の生々しい首筋をさすった。
子犬と同じく右目だけのツゥは、土気色の顔でやさしく微笑み、子犬を愛おしげになでる。
生気のない六つの目が、夜の墓地に鈍く光っていた。

「地図」「ハッピー」「バイオリン」でお願いします。

227:「地図」「ハッピー」「バイオリン」
14/03/25 19:25:31.52 .net
その地図には幸せが詰まっているという。

生まれてこのかた幸せなどと言う言葉とは無縁に生きた私だ。
ハッピーエンドな映画が大嫌いで良く見に行く私だ。
そんなものの存在を聞けば「ありえない」と口では言うものの、
心の底では欲しくてたまらないに決まっている。

だからだ、だから。
涙ぐましい努力の末に、
一括現金前払いで手に入れたそれがこんなものでは堪ったものではない。

なんだこれは?
違う、分かっている。
演奏の経験こそ無いものの、一時は良くその音色を耳にしていたのだ。

これはバイオリンだ―地図ではない。

結局のところ私はまた騙された、そういうことなのだ。
世の中ホントに見事なものだよ。

―だが、まあ。

口実くらいにはなるだろう。
「高い金払ったんだからそれくらいには使われてくれよ?」
そう語りかけ私は『地図』をポンと叩いた。

力の抜けた私は、久しぶりに。
ほんの少しだけ、笑えた気がした―。


次は「小旅行」「賞用」「金満」でお願い。

228:名無し物書き@推敲中?
14/03/25 22:05:18.24 .net
「小旅行」「賞用」「金満」

姪っ子を一日預かることになった。小学3年の女児である。
もう食い物を食い散らかす年でもなかろうと、賞用のヴィンテージカーに乗せてやった。
小旅行に繰り出そうぜぃ、とハイタッチを求めると、「しょーりょこーってなに?」と気のない返事。
近場へのお出かけだよ、と答えると、「じゃ最初からそう言って」とこうだ。
頭をひっぱたいてやりたい衝動をぐっと堪え、
おじちゃん今にわか金満だから肉でも寿司でも何でもご馳走すんぞー、とひきつる笑顔でそう言うと、
「きんまん? なにそれ? なにきんまんって? どういう字?」と興奮気味に訊ねる。
金曜日の金と満月の満だよと教えた途端「ぎゃーーーおじちゃんやらしい! ママに言いつけちゃお!」
俺はたまらず車を止めた。
俺に非はない。俺に非はないのだが……。
だが俺はこの世の中でこの姪の母、つまり自分の姉ちゃんが一番怖い。
非はない。非はないのだけれども……、姉を恐れるあまり姪に謝ってしまった。
どうか秘密にしておいて下さいと頭を下げ、お札による口止め料まで支払ってしまった。
姪は別れ際「またしょーりょこー行こうねー」と満面の笑顔で手を振ったが、
俺はもう成人するまで会ってやんないつもりでいる。


「ヨガ」「欠席」「爆笑」でお願いします。

229:「ヨガ」「欠席」「爆笑」
14/03/27 09:54:34.49 .net
 一週間前、風邪で学校を休んだ日。母はパートの後すぐ帰ってくると言ったのだけど、平気だからと答え、毎月
のヨガ教室にもいくよううながした。月謝がもったいない、というのは口実で、ようは厄介ばらいをしたわけ。
 夜までの自由を手にした私は、リビングで毛布をひっかぶり、バラエティなど見ては爆笑して過ごしたんだけど、
昼くらいに玄関のチャイムが鳴った。面倒なのでテレビの音量を下げシカトしていると、しばらくしてガチャっ
とドアの開いたような音がした。「え?」と思い、おそるおそる廊下を覗いたがだれもいない。みても玄関の鍵は
かかっている。気のせいかと思うことにしたんだけど、それからは人の気配があるように思えてしょうがない。
 向こうをふいに人影が横切る、後ろの床がきしむ、触れていないドアが少し開いている……そんな気がする。
もうなんだか落ち着かなくって、こわくなって、結局家族が帰ってくるまで自室で布団をかぶってじっとしていた。
 次の日登校すると、私は忘れ物をしたことになっていた。図画に使う道具セットだけど、そんなの聞いてないし
メールももらってないというと、私の後ろの席のMさんが昨日プリントを届けるついでに連絡したはずといわれる。
で、そのMさんは私と入れ替わるように欠席。というかその日からMさんは行方不明になった。私はMさんと特に
仲がよかったわけじゃないけど、席は近かったし、それに時々腕とかにアザがあったりしたから、心配になって
声をかけたり話したりしていた。彼女は帰宅部で友達もいないような子で、おとなしく目立たない存在だった。
 プリントは後でなぜか通学鞄から見つかった。そして家ではいまだに人の気配がする。時々父がうろうろと確認
しにいくけど、結局無言で戻る。無駄だと私はなんとなく思う。彼女ほんとに目立たない子だったから。

次は「病院」「コーヒー」「オーケストラ」でお願いします。

230:名無し物書き@推敲中?
14/03/28 18:50:32.80 .net
「病院」「コーヒー」「オーケストラ」

悪夢を見た。
一生に一度見るか見ないかの、ひどい悪夢だった。
俺は大ホールで「森のくまさん」を独唱させられることになっているのだ。
振り返れば整然とオーケストラが居並び、しかつめらしい顔の指揮者がタクトを振るっている。
観客席に視線を戻すと、着飾った紳士淑女で埋め尽くされているではないか。
指揮者がぬっと俺に近づき、こそっと耳打ちしてきた。
「微笑んで。由紀さおりとその姉のように、微笑みをたたえて」
俺は呼吸困難に陥り、ある日森の中でクマさんがいったいどうしたのか、歌詞がすっとんでしまった。
前奏の終わりとともに自分の悲鳴で目覚めた俺は、病院のベッドに寝かされていた。
付き添っていてくれたのか、コーヒーをすすっていた友が、覚醒した俺の顔を嬉しそうに覗き見る。
そして、酔って噴水に飛び込み溺れて死にかけたのだ、と事の顛末を教えてくれた。
俺は友の口髭にうっすら乗ったカプチーノの泡を眺めながら、
「ああ、夢で良かったよ」と思わず呟いた。
友は顔を曇らせ、指を提示し何本に見えるか、などとあたふたしていたが、
俺はこの至って平和な現実に心底胸を撫でおろし、本当に夢で良かったよ、ともう一度呟いた。


「科学捜査」「羽毛」「コショウ」でお願いします。

231:名無し物書き@推敲中?
14/03/31 19:38:05.29 .net
「科学捜査」「羽毛」「コショウ」

祖父母宅は友樹の家より大分離れているので、めったに来れない。一緒に夕食を食べるのも今日が初めてだ。
「鶏肉かぁ、めずらしいなお袋」とからあげを見て父がいうので、「そうなの?」と友樹が聞く。
「友樹がからあげ大好きじゃいうからな、特別じゃ。普段うちじゃ食わん」
首を傾げる友樹に祖母が続ける。「ウン……まあ、ある学校の話でな、娘さんが飼育当番やっとったんじゃ。
んで、ある朝、同じ学年の男子らが血相変えてきて、おまえの世話しとった鶏がおらん、逃げてしもうた、
いうてな、急いで見にいくと、たしかに小屋におらん。戸の金網に穴が開いとって、こりゃ猫じゃ、猫に
やられたんじゃ、と騒ぎよる。娘さん、そうかぁ、いうて懐からルーペだして科学捜査じゃ。小屋んなか
みて、羽毛つまんでな、たしかに猫の仕業じゃ、でも気の毒な猫じゃなあ、この羽毛の色からして、あの鶏
は病にかかっとる、たちの悪い伝染病じゃ、あんなもん食うたら、はよう水んなか入って体冷さんと、一日
もたず死んでまうで―いうてなぁ」
「……それで、猫死んじゃったの?」
「いんや。猫は無事じゃ。そげな病ウソじゃからな。そンかわり猫の仕業じゃいうてきた不良どもが、その
あと貯水池にとびこんでちょっとした騒ぎになったくらいじゃ。前の晩に鶏あぶって食うとったらしい。
で、その悪ガキどもの主犯格は、以来鶏肉が苦手になったっちゅうてな……―のう、爺さん」
そう祖母が声をかけると、祖父はくしゃみを一つし、「コショウ効きすぎじゃ……」ボソッとつぶやいた。

「旅行」「鬼」「太陽」でお願いします。

232:名無し物書き@推敲中?
14/03/31 22:03:39.46 .net
「旅行」「鬼」「太陽」

子供の頃、我が家では「サバイバル鬼ごっこ」という遊びがあったんです。
父と母が鬼になり、私と弟が捕まらないよう逃げるわけですが、
本格的というかなんというか、食料をリュックに詰めさせたりするんですね。
0700時、と1200時と、1800時にそれぞれ1時間ずつ食事の時間に当てられて、
その時間だけは、音を立てても、明かりをつけても、火を使っても大丈夫。
何故か太陽に当たったら焼け死ぬ、というドラキュラ設定だったため、昼間外に出られない。
一年に一度のペースで行われるこの鬼ごっこ、なんと3、4日続いたりする。
私と弟はこのスリリングな鬼ごっこが大好きだったんです。
お彼岸に実家に帰ったおりに、その話になりまして。
私と弟が思い出話に花を咲かせている横で、母は一切覚えてないと言う。
ボケるにはまだ早いだろうと、ああだったでしょうこうだったでしょうとヒントを与えておりますと、
突然母がポンと膝を叩きまして、そして口にしたのが「ああ、旅行行ってたわ」と。
「あんたたちおりこうさんだったから、お父さんと二人でお出かけしてたわ」と。
私と弟は絶句いたしましたが、悪びれもしない母と、やはり朗らかな笑顔の遺影の父を見ましたら、
とても怒る気にはなれませんでした。


「エイプリルフール」「財布」「メモ帳」でお願いします。

233:エイプリルフール 財布 メモ帳
14/04/01 00:14:17.08 .net
さっき携帯を寝る前に充電しようかと
入れっぱなしだった鞄を覗いたらですよ、
「探さないで下さい 財布」とメモを残して
財布が家出をしたようなのです。

え、嘘でしょうと、再度確認してもやはり
メモが残り、財布はないのです。
あ、メモに使ったメモ帳は見つかりました。
そうか、エイプリルフールか、もう0時を過ぎたのだ
と思い当たりまして、家人に
「きみのところにいるのだろう」
と聞いたのですが、知らないというのです。
一体どうしたことでしょう?
もし、見かけましたら金が財布から逃げたのは
お前のせいではない、といってやって下さい。
また金が逃げてもそれは消費税が悪いのだといってやって下さい。


次のお題

桜 歯科医院 定期

234:「桜」「歯科医院」「定期」
14/04/01 03:31:04.29 .net
「はい。これで治療は全ておしまいですよ」

 私はその声を聞いて、閉じていた目を開ける。舌で探ってみると、少し前まで穴の空いていた奥歯は、すっかりと平らになっていた。
 私は舌を戻し、変な味のする口を濯ぐ。すると待っていましたとばかりに、いつものお小言がはじまった。

 『詰め物が取れてしまうので、一時間は物を食べないようにしてください。』はい。
 『これからは奥歯も丁寧に磨くように気を付けて。』はい。
 『くれぐれも甘い物も食べ過ぎては駄目ですよ。』はい。
 『ちゃんと定期検診も忘れずに。』はい。

 あと、と先生が切った。椅子から降り、最後にもう一度口を濯いでいた私が、はい?と疑問符を付けてそちらを見ると、手袋を外した先生の掌が、私の頭を軽く叩いた。

「明日から高校生なんだってね。卒業おめでとう。もうここには来ないで済むといいですね」

 先生はそう言って、にこりと笑った。私ははじめての笑顔だと思いつつも、その言葉にもはいと頷いて、ついでに今までのお礼を言ってから頭を下げた。
 受付で会計を済ませて医院を出ると、庭に植えられたら梅の花が散りかけていた。そうなると、今頃桜は満開なことだろう。
 辛かった週一の苦行も終わり、明日からはこの島を出て高校生だ。多分もう地元に帰らない私は、二度と口うるさい先生にお小言を言われずとも済むのである。なんと素晴らしきかな。

 さあ日も落ちるし、そろそろ家に帰ろうとした時、ふと、卒業おめでとう、と言った先生の笑顔が頭を過ぎった。だけど私は、あんまりおめでたくないかなあ、と、ぼんやりと呟いた。


次のお題
「マグカップ」「青春」「かなしい」

235:「マグカップ」「青春」「かなしい」
14/04/01 22:28:31.89 .net
珍しく彼女の部屋に呼ばれた。
「料理作った。食べて!食べて!」
大学生になるというのに、どこか子供じみた言葉遣いをする彼女。
そして、思考もそれに負けないくらいどこか幼さを残している。
まぁ、そういうとこが俺には可愛くうつるんだけどね。
「で、何を食べさせてくれんの?」
皿を見ると、三色の丸まったクレープ状のモノがのっかっている。
赤いのはたぶん紅しょうが。緑のはほうれん草でも練りこんだのかな。
黄色は素直に卵焼きだ。
彼女にしては、一応外見が料理になっている。問題は中身だが…。
「こ、これ、何て料理?」
間髪入れずに
「赤春巻き・青春巻き・黄春巻き!」
俺たちは同じ演劇部で、昨日ベタな早口言葉の発声練習をしたところだった。
あの時彼女は最後をつっかえて、顔を真っ赤にして自分に憤っていたが、
今回の発声は見事だった。ま、『黄春巻き』って、言いにくくないけどね。
けど、これ“春巻き”かなぁ…。
箸でつまんで中身をのぞきこんでいると、彼女がマグカップを差し出してきた。
「タレ!」
…底が深すぎて、つけにくいよ。それでも頑張って押し込んでつけた。
食べてみて…まぁ、人間の食べる味ではないかもとは経験上わかってたんだが。
目のふちに涙をためた俺を見て、
「かなしい…?」
彼女がのぞき込んでくる。
彼女の顔をまじまじと見つめ、彼女との前途多難な将来を思い、それでも胸に湧いた感情は。
「うれし涙だよ。良い彼女をもって幸せだなって」
そのあと彼女が顔をくしゃくしゃにして泣いたのは、かなしかったからではないはず。


「春風」「豆腐」「地下鉄」

236:名無し物書き@推敲中?
14/04/04 19:48:56.29 .net
「春風」「豆腐」「地下鉄」

年のせいだろうか、最近ますますキレやすくなった。
今日も電車内で隣に座った男が瓶詰の柿の種を抱えて食べ始めたことにキレてしまった。
すぐさま他の乗客に羽交い絞めにされ、ことなきを得たが、キレると私は我を忘れてしまう。
地下鉄を降り、地上に上がった途端、春風が頬を撫でていった。
見上げると桜の花びらがハラハラ舞っている。
私は思わず立ち止った。
そう怒りなさんな、と、自然にさとされた気がした。
イライラしたってなんの得にもならないし、体にだって良くないのだよ、と。
金輪際怒るのは止めよう。禁酒禁煙のように真剣に禁怒だ。私はそう決心した。
とその時、背中をどんと押され、「邪魔だババア」と男が私を追いこしていった。
私はその若造を追いかけ、襟首をつかむと、ビルの隙間に引きずりこんだ。
ほぼ半殺しにしてしまってから、
「お前なんぞ豆腐の角に頭ぶつけてしんじまえ! ゴートゥーヘル!」
言い捨て、すぐさま後悔した。舌の根も乾かぬうちになんてざまだ。
だが自分を変えるのはなかなか難しい。だってかれこれ80年もこうして生きてきたのだから……。


「手相」「ヌンチャク」「バラ色」でお願いします。

237:名無し物書き@推敲中?
14/04/06 00:18:10.32 .net
「手相」「ヌンチャク」「バラ色」

「お、ますかけ線だね。」
友人は私の手を握り、ジロジロと見つめながら言った。
私はいままで数々の占いの練習相手にされた。
タロットから始まり、風水、星座占い、そして今度は
手相にまでどっぷり浸かってしまったらしい。
「それ、どうなの?」
「別名、天下取りの相!人生バラ色だよ!」
どうやら彼によると天職にめぐり合えば成功するらしい。
PCに向かう私にはもっとアグレッシブな道があるのだろうか。
中途半端に自分について見透かされたようで気が沈んだ。
「みずがめ座の皆さん。残念ワースト1位です。
 ラッキーアイテムはヌンチャクです」
電子に日々追われる人生なら、
ヌンチャクというバラ色の天下を追うのも悪くない。
「あ、んじゃ次は四柱推命で、、、」
彼もまた、ますかけ線の持ち主らしい。

「木枯らし」「神社」「ドイツ」

238:名無し物書き@推敲中?
14/04/06 10:39:13.41 .net
「木枯らし」「神社」「ドイツ」

あれは木枯らしの吹く頃……
飲み会でしたたか飲んで、機嫌よく千鳥足での帰宅途中、
自宅近くの神社から「カーン、カーン」と乾いた音が響いてきたのです。
やだ、丑の刻参り? などと身震いしながら、でも怖いもの見たさで境内に入ると、
図体のでかい白人が、拍子木を鳴らしながら独り言を言っています。
耳を澄ませて聞いてみると、
「エー ドイツカラ キマシター エミールサンデース ッテ ドコノ ドイツジャー」
媚びる笑いを振りまく様から、どうやらお笑いの練習をしているらしい。
私が姿を現し、おっかなびっくり話しかけてみると、彼は大道芸人だと名乗り、
ドイツに帰る旅費を稼ぐため、今シャベリに磨きを掛けているとこなのさ、
……みたいなことを、ジェスチャーを交えて言いました。
なんでこんな場所で、と尋ねると、怒られないし追い出されないから、とそんなようなことを。
神様が怒って鎌持った死神を遣わすから、と酔いにまかせて私が全身全霊で脅しますと、
「ゴミを捨てないで下さい」という立て看板に、彼は延々命乞いをしておりました。
そんなエミールですが、今では優しい2児のパパ、私のよき伴侶であります。


「目覚まし」「日記」「カシューナッツ」でお願いします。

239:「目覚まし」「日記」「カシューナッツ」
14/04/06 11:41:21.98 .net
「目覚まし」「日記」「カシューナッツ」

引っ越し先の部屋を片付けていた時、空色の本が出てきた。
前の住民の物だろうか、長年お供したであろうクシャクシャの表紙には
日記と図々しく書かれている。どこかで見たような主張の激しい字だ。
そういえば何処か懐かしい香りがする。ノスタルジックな間取りだ。 
前の住民には悪いが、他人の記憶の最後の一頁をめくった。
『4月21日(日) あいつがいきなり家にきた。カシューナッツしかねぇよ。
          なのに大好物だって。ごめんな、裕夏。明日は一緒に
          うまいもん食いに行こうな。』
それ以降の頁がない、しかし私はこの続きを知っている。
次の日もここへ来たっけか。ずいぶん張り切ってたみたいだったね。
やっと目覚めた私の歯車は、残酷にも前に動き出した。
全部思い出した。なぜここに越してきたのか、なぜ懐かしく感じるのか、
鉛色の空の下、彼の血生臭い紅い華がフラッシュバックする。
空色に似つかわしい、どこか遠くの誰かの記憶。
おなか一杯にカシューナッツが食べたい。

「楽譜」「魔術」「リセット」でお願いします。

240:名無し物書き@推敲中?
14/04/11 04:34:20.94 .net
「楽譜」「魔術」「リセット」

こんなの将来なんの役に立つんだろ、って思いながら授業受けてる。
楽譜のオタマジャクシをモンスターに変えて、床に放って埃を吸わせる、って魔法なんだけど。
これって、掃除機にやらせればいいだけの話じゃない?
しかも、埃は吸うけど、糸くずなんかは消化不良起こすから吸えないって、全然使えなくない?
「便利便利」ってクラスのみんながなんの疑問も持ってなさそうなのが不思議でしょうがない。
魔法学校なんかやめちゃって、武術専門学校に入り直したい気持ちで揺れてるんだけど、
でも一番の理由が、あそこのラクロス部のユニがかわいいからって、そんなの親に言えるわけない。
オタマ掃除機以上に、その願望ってくだらない気がする。
とりあえず回復魔法の「ゲンキニナール」修得しとこうと白魔術にポイント積んできたけど、
最近三角関係経験したら、黒魔術の「コイガタキケチラース」が気になってしょうがない。
はっきり言って、男の方はもうどうでもいいんだけど、あの女に負けるのがいや。
どうでもいい男のために黒数値上げるとか、人生無駄にしてるってわかっているんだけど。
今の私って全然ちゃんと生きてなくて、退学届出す勇気なんてのも初めからなくて、
とりあえず神殿行って魔術の数値リセットするぐらいが最大の冒険なんだ。
でもそれだってきっと実行しないから、存在自体がオタマ掃除機以下なんだよ。


「必殺技」「アルファベット」「くもり」でお願いします。

241:「必殺技」「アルファベット」「くもり」
14/04/11 23:22:36.09 .net
「必殺技」「アルファベット」「くもり」

「まだ俺はAからGまでの力しか解放していないッ!応えろ、26の聖霊よッ!」
そういって、ある物体を徐に火に入れるとたちまち橙赤色に燃え上がった。
これは彼の必殺技の開拓のための修行らしいが、おそらくこれはただの炎色反応だろう。
虚しく響く高らかな声、燃え上がる淡いオレンジの色が夕日のように明るかった。
彼曰く、これはBの能力「Barn-獄炎-」の初期段階であるという。
まぁ、5時過ぎの化学室でのみの能力使用だというので、多くの人は既に察していたのだろう。
「裕樹ぃ!お前も能力者だろぉ!」
今日は曇天。淀んだ暗さが一層彼を痛く、哀れに見せた。
彼にとってはこのくもりの空気感こそ、待ち望んでいたものだったのだろう。
日頃能力者ごっこに付き合わされている裕樹の静かな怒りも、暗がりの中浸食し続けた。
一刻過ぎるごとに、やがてどしゃ降りになって行った。
まるで裕樹の抱く憎悪と比例するように、確実に、蝕む。
「俺は能力者なんかじゃないッ!!」
次の瞬間、劈くような轟音がけたたましく唸りをあげた落雷に、彼は汗を吹き出しながら言った。
「ぜ、Zeus-審判-、、。只者じゃないぜ、、。」

「修道院」「街灯」「ロンドン」でお願いします。

242:名無し物書き@推敲中?
14/04/12 15:42:04.36 .net
「修道院」「街灯」「ロンドン」

曇りなき眼を持つその少年たちは、なにより親切だった。
なので道で困っている人に声をかけずにいられなかった。
フレンドリーな笑顔で近づくと、そのガタイのいい東洋人は、ほっと安堵の色をみせた。
彼の足元には、首輪でつながれ、何やら荷物を背負わされた真っ白い犬が一匹。
「おいどんは、キチノスケ・サイゴーでごわす」
東洋人は、体格に似合わない柔和な笑顔を見せた。
三人は気が合ったのだろう、あっと言う間に打ち解けてしまった。
「そうでごわすかぁ、あんたがたはハリーどんとロンどんでごわすかぁ。
 おっと用事を忘れるところでごわした。ここいらに修道院などありもわはんか?」
修道院は、森と山と林と横町を二つ三つ越えた先にあった。
少年らは門限破りを承知の上で、キチノスケを目的地まで連れていくことにした。
すっかり日も暮れ人影もなく、街灯にぼうっと照らし出されたキチノスケの顔から笑みは消えていた。
少年たちが油断し、お菓子の話などしていると、キチノスケと犬の目が妖しく光り始めた。
と、その時―辺りに少女の甲高い声が響き渡った。
「ハリー、ロン、気をつけて! そいつはニセ薩摩人と、ニセお父さん犬よ!」


「革命」「とうもろこし」「バレリーナ」でお願いします。

243:夜想曲 月 市街区
14/04/15 22:59:01.79 .net
立ち上がって壁の穴から見える景色は無惨だ。
 住民から取り残された建物がその傷ついた体を晒す。月明かりの下でその鉄の骨は黒々と浮かびあがる。
 市街戦となった市街区は、昼間の騒がしさが嘘のように静かになってしまった。
瓦礫も肉片もなにもかも、闇のなかで眠ろうとしている。
羽毛のように柔らかくその微睡みを包もうとしている永遠。
 壁に大穴が開いた礼拝堂の中から死にかけた街を眺めると、ここは留守宅なのだと思う。
 神の不在は明らかだ。

 人の心は神を求めてこの丘に礼拝堂を建て、美しいステンドグラスを捧げた。
そして頼って逃げこんだ。
 返品された神への捧げ物は壊れてさえ美しい。
月の光を僅かに取り込んで、硝子は青や緑の影を落とす。
 周りの闇に沈んだ黒い血溜まりや肉片だろう物とは違う。
……ああ駄目だ。白いのは見ては駄目だ。私の息子かもしれない。妻かもしれない。
 残ったステンドグラスを見上げても、夜には神の姿はみえない。そう、夜だ。神のいない夜だ。
 そのステンドグラス下のかつての私の居場所であったパイプオルガンは神殿のように残っている。
 しかし、もう何もかも眠ろうとする夜だ。神殿など馬鹿げている。
 パイプオルガンの鍵盤を残った右手で叩きつける。
悲鳴のような音が鳴る、と思われたが鳴らなかった。
 鼓膜が破れたのか。痛みはもう感じられないらしい。
 あの爆音で、左手できつく抱きしめた私の息子の頭は私の左側とともに弾けた、のだろう。妻も息子を抱きしめていたから、恐らく一緒に。
 本当の夜を知り、曲を奏でる。夜想曲は神に捧げるものではないのだ。

次は「煙管」「艶」「緋色」

244:名無し物書き@推敲中?
14/04/17 19:20:48.02 .net
「煙管」「艶」「緋色」

バカみたいな金持ちの伯父がいる。
眼下に太平洋の望める崖の上に雅な城をこしらえ、そこで一人暮らしする変り者である。
死ぬと遺産が少し回ってきそうなので、たまに酒など持ってご機嫌伺いすることにしている。
会う度不健康そうなのに、この伯父がなかなか死なない。
今日も自慢の煙管をぷかぷかふかし、咳ばかりしていた。
そのまま激しく咳き込んで、ぽっくり逝ってくれればいいのに、と思うが、俺の願いはいつも叶わない。
毎度のことながら、何の脈絡もなく、俺の色恋に話が及ぶ。
そしてこちらに充分語らせることなく、伯父の艶っぽい思い出話が始まる。
1%も真実の混ざらないファンタジーである。
半魚人みたいな顔して絶世の男前設定という、伯父は金だけじゃなく凄まじい妄想力の持ち主でもある。
話の途中で時計に目をやった伯父は、その場で服を脱ぎテラスに向かった。
沈む夕日を眺めながら、世界を制した気分を味わうのが、伯父の日課なのである。
腕組みをして茜に染まる大海原を見下ろしながら、緋色のふんどしをはためかせる枯れた半魚人。
そのまま海に落っこっちゃえ、落ちてしまえ、と強く念じてみるが、俺の願いなのでどうせ叶わない。
それに伯父は崖から落ちたぐらいじゃ死なないし、多分殺されたって死んだりしないのだ。


「おやつ」「ストレス」「一石二鳥」でお願いします。

245:名無し物書き@推敲中?
14/04/25 20:22:48.44 .net
「おやつ」「ストレス」「一石二鳥」

おやつの時間が苦痛でならない。
口の中でぱさつくビスケットを温めた牛乳で流しこめときやがる。
牛乳なんてずばり牛の乳じゃないか。
いかさきやサラミを要求したが聞き届けてはもらえなかった。
牛乳嫌いで有名なタモ○氏にはこんな逸話があるという。
お遊戯がいやで幼稚園には行かなかった、と。
激しく同意だ。できるなら俺だってそうしたかった。
だが今は園児が昼日中一人でそこらを徘徊することを許さない社会なのである。
俺は生まれる時代を間違えたのか。
ビスケットに牛乳、お遊戯にお昼寝、元気を振りまくウザい先生方……。
ストレス過多なこんな世の中で、これからしばらく生きていかなければならないなんて。
最近俺は、女児リーダー格Aにビスケットの類を、男児リーダー格Bに牛の乳を譲る契約をした。
見返りとして、女児グループからの口撃の免除と、お砂場優先使用権を獲得した。
まさに一石二鳥ではあるのだが、俺は一人占めした砂場を持て余している。
ガキどもを寄せ付けずシャベルで砂を掘り起こしながら、長すぎる人生にただウンザリしているのだった。


お題継続で。

246:名無し物書き@推敲中?
14/04/27 18:57:45.59 .net
「おやつ」「ストレス」「一石二鳥」

母はいつもよく分からないものをおやつに持ってきた、
ある時はイワシの煮付けであり、ある時はたくわんである。
友達の家に行った時に出てきた輝かしいまでのおやつに感動したあの日を忘れない。
それからというもの、母のおやつを食べる日々は少々のストレスであった。
しかし高校から帰ってきたある日、母が倒れていた、
病気である、病院のベットで横になる母に、私は泣きながら何を考えただろう。
そんな日々の先に、今の私がいる、
かつて母がそうしたように、子供にイワシの煮付けやたくわんなどを出す気持ちが、今の私には分かる。
残りものを片付けられて、おやつ代もかからない、一石二鳥なのだ。
母は実家で今頃父とお茶でも飲んでいるだろう。

「ロボット」「時計」「空」

247:247
14/04/27 19:04:16.50 .net
でお願いします。

248:ロボット 時計 空
14/04/29 11:09:21.37 .net
新緑が眩しく光っていて、夏が来る予感にワクワクする。
毎朝歩いて学校に向かうのに第一公園を通る頃、同じクラスのミチルが来て合流するのがいつの間にか定着していた。
ミチルは可愛い。すごく良い子で人気者だ。ミチルが泣きそうな顔をして立っていたら誰だって駆け寄るんじゃないかな、と思うくらい魅力的な子だ。だから私も駆けつける。ミチルは
「サキぃ、このコ……」
と腕の中の猫を差し出した。
猫はぐったりしていて、明らかに具合が悪そうだ。体が揺らされても反応がない。
「どうしよう?」
どうって、直してあげるべきでしょ!
ええと、朝だから……と東の空を見ると、08:10の表示が青空に黒く浮かんでいる。
「学校、サボろ!それで直してもらおう!」
とミチルにいうと、なぜかミチルは煮え切らない様子でうつむいている。
「え、このコより学校が大事なわけ」
思った以上に冷たい声が出たけど気にしない。
「このコがこうなるってさ、人のせいしか考えられないんだよ、じゃあ人が直すべきでしょう」
この猫は自動制御生物、いわゆるロボットで、賢い。怪我をするようなことはしない。壊れるとしたら人が傷つけたときだけ。
悲しいことだけど、たまにそういう人間がいる。なつくようになっててすごく可愛いのにそれが気持ち悪いなんて、そんな人間こそ人として気持ち悪い。なのに。

「私、人じゃないし」とぽつりとミチルが呟いてしまった。
「私も壊れちゃってるんだよ、このコ間違えて壊しちゃった。 私も直されたらどうなるんだろう」
ミチルは泣いている。悲しませたくないのに好きなのに、泣き顔ももっと見たくなるくらい可愛い。
私は人としてどうしたらいいんだろう?
人工的な青空の下で今、人間は私一人だけ。


次は
金 プラスチック 肌触り

249:名無し物書き@推敲中?
14/05/01 19:59:22.89 .net
「金」「プラスチック」「肌触り」

畜生!
あの社長また無茶ぶりしてきやがった!
肌触りがタオルそのもののプラスチックを作れだ!
何が
「この企画は世界を変えるのに必要だ」
だ!
しかし俺は部下だからやってやる!
本物のタオルより肌触りの良いプラスチックを作り出してやる!!
すべては金金金のため、金だけはよく払うあいつのために、俺は仕事をしてやる!
そしていつかあいつの地位になり金をがっぽがっぽ稼ぎまくってやる!
俺ほどの才能があればやってできないことはないのだ!
そして半年後、できた!
肌触りが高級タオルのようなプラスチックが!
さあ社長!どうですこの肌触り!すばらしいでしょう!
「うん、でもやっぱりコストかかりすぎるし、タオルは普通のが一番だね、何かすごい思いつきだと思ったんだけどな」
ちくしょおおお!!

次は
「桜」「小判」「宅急便」

250:名無し物書き@推敲中?
14/05/03 11:19:22.17 .net
「桜」「小判」「宅急便」

饅頭屋の屋根裏に魔女が住みついた。
宅急便を生業にし、落ち込んだりもしたけれど、まずまず元気にやっていた。
箒にまたがり空を駆け、仕事も軌道に乗ってきた頃、心に迷いが生じてうまく飛べなくなった。
ある日、風にあおられ木の葉のように舞うと、そのまま満開の桜の木に引っ掛かってしまった。
腹を立てたのは、花見を台無しにされた町の衆だ。
彼らは怒りをつのらせ、ついに彼女に石を投げ始めたが、群集を煽ったのは飛脚軍団だった。
空飛ぶ魔女と比べられ、自慢の健脚とプライドを傷つけられた彼らは、反撃の時をうかがっていたのである。
魔女絶対絶命……! とその時、止めに入った若い侍がいた。
彼こそは、城を抜け出すことで有名な将軍だった。
懇意にしている火消しに頼んで魔女救出に臨んだはいいが、魔女の懐から黒猫が飛び出し、また一騒動。
町民らが凶暴な黒猫にてこずっている中、飛脚はこれ幸いと魔女にとどめをさしにかかる。
自分の手には負えないと悟った将軍は、口笛を吹いて鷹を呼び、メモを託して空に放った。
およそ36秒後に現れたのは、カンガルーとペリカンの二体のゆるキャラもどきである。
優秀なお庭番である彼らは、過剰な愛想と小判をばらまきながら民衆の気を逸らしつつ、
華麗な軽業で飛脚軍団を蹴散らし、魔女と黒猫を無事救出したのだった。めでたしめでたし。


「針」「剣」「ハリケーン」でお願いします。

251:名無し物書き@推敲中?
14/05/03 13:37:27.18 .net
「針」「剣」「ハリケーン」

老人は入っている小説倶楽部から課せられた今月の小説のお題について考えていた。
針、剣、ハリケーン。
また奇異なお題を、老人は細く笑む。
目線を上げると、古い、装飾の施された剣が誇らしく暖炉の上に飾られているのが目に入る。
彼の長年の相棒である、老人はぜひともこの相棒を小説の中に持って行きたかった。
剣の飾られた暖炉の側では、老女がほそぼそと針仕事をしている。
そう、主人公は剣士、戦いに暮れる宿命を持った剣士は、ある使命を託された、
姫を助けるために、針の集合体のような外見を持つモンスターに戦いを挑むのだ。
そして不意にやってきたハリケーンにモンスターごと山の彼方に飛ばされ……。
いやまて、飛ばされてどうする。
老人は更に思考の奥底へと意識を飛ばす。
そう、主人公は鍛冶屋、世界一の剣を作り出すために命をかける鍛冶屋は疲れを癒やすためにある針師の元へ行く、
そして不意にやってきたハリケーンに針師ごと飛ばされ……。
いやまて、飛ばされてどうする。
深く深く想像力の彼方へと意識を飛ばしてる老人の側では、すばらしい剣が、静かにその様子を見守っている。
想像の彼方へと旅立つ彼の世界には、誰一人足を踏み入れることなどできはしない。
彼と、彼の剣意外。
針仕事をしていた老女は、いつの間にか、暖炉の側から消えていた。
窓の外では、木をなぎ倒しながら、何かが近づいていた。

次のお題は
「スタートライン」「紙」「ヤギ」
でお願いします。

252:名無し物書き@推敲中?
14/05/03 13:52:10.62 .net
「針」「剣」「ハリケーン」

正座をした俺を剣呑とした雰囲気を漂わせたクラスメイトの女子一同がぐるりと取り囲んでいる。
そして1台のビデオカメラが目の前に鎮座ましましている。体育前の着替え中に発見された隠しカメラだ。
今年共学化したばかりの学校でこのクラスには男子が俺しかいない。つまり犯人は俺だろうと言う言いがかりだ。
確かに昔の俺ならそうまでしてでも見たいと思ったかもしれない。しかし女の本性を知ってしまった今となっては全く見たいとも思えない。つか普段から俺が居ても構わずに着替えてる癖に。今だって半分くらいが下着姿のままじゃないか。
などど思った所でこの針の筵の居心地が良くなる訳でなし、ハリケーンの様な責めを凌ぎつつしどろもどろに言い訳するしか無いのであった。
結局「こいつは別にコソコソ隠し撮りしなくても普段から見れるし、今も真っ赤になって目逸らしてるし犯人では無さそう」と言う結論に落ち着いて容疑は逃れる事が出来た。
が、それ以来下着姿でおちょくられたり胸を触らせられて反応を笑われたりと言う「天国の様な地獄」をたっぷり味わう事になってしまった。
ちなみに隠しカメラの犯人は女子の1人で、隠し撮り映像を業者に売っていたらしい。
その犯人への吊るし上げ方は俺がもう一生女には逆らわない、と心に決めるには十分なモノで有ったのを付け加えて話を閉じたいと思う。



次は
「ダム穴」「廃墟探索」「深爪」

253:名無し物書き@推敲中?
14/05/03 13:52:49.60 .net
おっと、お題は>>251

254:名無し物書き@推敲中?
14/05/04 09:47:28.75 .net
「スタートライン」「紙」「ヤギ」

その日、行われるはずだったマラソン大会が中止になったんです。
スタートラインでウサギとカメが座り込みを始めたからでした。
ウサギは観衆に訴えかけるように叫びました。
「私はレース中に昼寝なんてしません!」
続いてカメも叫びました。
「僕をのろまと呼ばないで!」
胸を打たれた他の動物たちも、続々参加し始めました。
カラスが目に涙をいっぱいためながら叫びます。
「オイラを悪者と決めつけるのはやめてくれ!」
続いてキツネが絞り出すような声で言いました。
「わいは無実や……!」
白いヤギと黒いヤギも続きました。
「私たちは食べない! 紙など! ましてや郵便物など!」
動物たちは胸の内にあった物を吐きだし、清々しい気持ちになりました。
これが『あにま~る心の叫びフェス』の誕生秘話です。


「ダム穴」「廃墟探索」「深爪」でお願いします。

255:名無し物書き@推敲中?
14/05/09 00:17:25.79 .net
「ダム穴」「 廃墟探索 」「深爪」

普段は気に止める事も無い己れのインナーワールドに踏み込んでしまった。と、言っても果てしなく広大な精神世界の極一部なんだろう。

日常の渇いた暮らしに小さな痛みを感じ始めたのが切っ掛けだ。痛みなどと言っても肉体を痺れさせる様な激しい痛みでは無いのだが、深爪をしてしまった時の嫌な何かに触ると染み入る様な痛みなんである。

その世界は薄暗い林であった…

林は朽ち果てた楼閣と干上がった池を中心に見窄ぼらしい建家が点在する。どこか懐かしくも有る不思議な場所だ。

それらを一々廃墟探索する勇気もなく干上がった池の真ん中にポッカリ開いたダム穴だけを茫然と見詰めるのであった。

この穴こそが林の精気を抜き取り、日常を渇かせ、肉体から潤いを奪い去る元凶なのだと確信しながら。




次は「朝焼け」「愛」「横顔」でお願いします。

256:名無し物書き@推敲中?
14/05/10 16:00:03.99 .net
「朝焼け」「愛」「横顔」

濡れた地面の上で目が覚めた。
いつからそこにそうしていたのか、記憶を辿ろうとするとこめかみの辺りがズキンと痛む。
僕と彼女は―
そうだ、僕と彼女は通り雨に喜んで道路に飛び出したのだった。
愛を語らいながら踊り明かすつもりで、彼女を雨の舞台へ連れ出したのだ。
近づくヘッドライトも余裕でかわし、僕らは愉快にステップを踏んでいた。
その時、猛スピードの自動車がハンドル切って方向を変えた。
僕は気づいて咄嗟に逃げたが彼女は―
彼女はどこだ。
僕は大声で彼女の名を呼びながら、目を凝らし耳を澄まし、彼女の返事を待った。
そして僕はそれを目にする。
アスファルトにきれいにのされた彼女の姿を。
最も幸せな瞬間に召されたのだと、その横顔が物語っていた。
朝焼けに染められた東の空がぼんやり滲む。
彼女にそっと口づけすると、涙を拭い、水田にぽちゃんと飛び込んだ。


「正直」「天気予報」「五月病」でお願いします。

257:「正直」「天気予報」「五月病」
14/05/12 20:43:46.18 .net
――ざあざあざあ、と雨が降る

4月1日、全力で嘘を吐いた。3月中に上手い嘘の吐き方を猛勉強、研究研鑽して吐いた自信作だった。
4月2日、彼女ができた。まさか誰も嘘だと気付いてくれないなんて思いもよらなかった。
最初のうちは良かったんだ、その内バレるだろうと気安い付き合いをしていた。
勿論仲良くなれたこと自体は正直とても嬉しかったので終始デレデレしっぱなし。

2週間くらいしたとき、気付いた―
本気で…惚れてる

それからはもう酷いもので、彼女に嘘を吐いたことへの罪悪感に悩みながら、嘘を続ける毎日。
ゴールデンウィーク、彼女と友人数人とで小旅行に出かけた。
楽しかった、楽しめなかった。
嬉しい、苦しい。

『最近元気無いね、何かあった?』

辛い…つらい…ツライ…

「ううん、大丈夫。ちょっとダルいだけ、五月病…かな?」

明るく声に出して笑う。
それから幾つか言葉を交わした後、電話を切った。
ははっ、と、哀しくて嗤った。

私はどうしたら良いのだろう、わからない。
明かりの無い部屋、ふと窓を見る。
天気予報はあてにならない。

――ざあざあざあ、と雨が降る

次は「年少」「偏屈」「大本」でお願い。

258:名無し物書き@推敲中?
14/05/16 19:45:17.75 .net
「年少」「偏屈」「大本」

遠く南の島からポリポリ族の一団がはるばる我が家にやってきた。
滞在初日、そろそろ食事にしましょうか、という段になって一騒動。
ポリポリの男たち総勢5人が庭に飛び出し、繋がれていた犬を取り囲んだのだ。
桃太郎、赤柴オス3才、危うく屠られるところだった。
犬は家族なのだということをなんとか理解してもらい、寿司とスキヤキで我慢してもらったが、
彼らは食事中、窓の外の桃太郎に視線を送り続け、それをおかずに飯を食べているようだった。
犬から意識が離れないので、散歩という習慣について説明すると、目の色を変えて皆が行きたがる。
私たちがただ困惑していると、長老らしき偏屈そうなじいさんがムスッとした顔で、
「ひょっとして、わしらが食っちまうとでも?」
らしきことを言ってから、破顔一笑、いたずらそうにケケケと笑った。
それを合図にその場は笑いに包まれ、年少の若者など座敷で宙返りしながら大はしゃぎ。
「まさか!」「またまたぁ!」と、お互いの体を突っつき合いながら腹がよじれるほど笑い合ったのだった。
肌を埋め尽くす刺青などから、果てしない距離を感じていたが、笑いは全世界共通なのである。
人間同士、大本のところは変わらないのだなぁ、と親近感を覚えた瞬間だった。
私たちは楽しい一週間を過ごし元の生活に戻ったが、かわいそうに桃太郎はしばらくの間うなされていた。


「大魔王」「パラシュート」「ふわふわ」でお願いします。

259:名無し物書き@推敲中?
14/05/23 01:27:47.97 .net
「大魔王」「パラシュート」「ふわふわ」

「え?」
「だ、か、ら!
 まず着地点を見定めておいて、お前がパラシュートを落とす。
 おもりに火種をつけておいて、
 俺が先日完成させた、ふわふわシュークリームの蝋燭の上へ、見事点火」
「なんで誕生日にシュークリームなんですか」
「あいつの好物なんだから仕方ないだろ!で、そのシュークリームの中から…」
「婚約指輪が出てくる」
「そう!」
「『このふわふわ製法で特許を取るから、君を決して貧乏にはさせない…』の言葉で号泣」
「そう!そう!」
「でもなぁ…」
「なんだよ」
「あの人って婚約指輪より…」
「あ、来た!」

「えっ!?」
「なに?美味しかったけど」
「……だよなぁ。この人、食欲大魔王だもん。
 多少硬めの中身のことなんか気にもとめないで丸のみですよ」
「30万円のシュークリームがぁ……」
「バカね、そんな高いお菓子あるわけないでしょ」
「ぐぬぬ……な、なぁ、でもこのシュークリームの皮って、とんでもなくふわふわしてただろ!?」
「え、普通でしょ?」

「…うん、別れようか」

次は
「六法全書」「石鹸」「やまんば」

260:名無し物書き@推敲中?
14/05/27 21:23:52.15 i+qT7v8UC
「昔の漫画で、六法全書をアナルに挿れるってのがあったわね…」
病室のベッドで酸素マスクの下から、森田剛が苦しげに呟く。
「ああ、確かふんどし刑事ケンちゃんチャコちゃんだったかな。お前、あれ好きだったもんな」
俺は病でやつれ、やまんばのような姿になった剛の耳元でそっと囁く。俺は原輝夫。
刑務所で知り合い、ゲイの森田に優しくされてついおホモだちになった俺たちは、出所後も付き合っていたが、森田はゲイ特有のあの病で余命幾ばくもなかった。
「死ぬ前に、あなたの肛門に六法全書全書を入れてみたかった…」
森田がとんでもないうわ言を言うが、俺は気にしなかった。どんな願いでも叶えてやりたかった。
「おう、いいぜ、やってやらあ。今、石鹸持って来るからな」
流石に滑りをよくしないと、俺のブラックホールも耐えられません。
「しかし六法全書がないな…本屋に行くか」
「いえ、六法全書はもういいの。代わりに違うものを挿れて欲しいの…」
森田が俺を引き止める。
「 ? 」
「ねえ、私、今酸素マスクしてるでしょ。この状態なら試せると思うの。あの究極のプレイを…」
「ま、まさか…」
俺の全身が緊張で震える。呼吸器を使わねば出来ない伝説のプレイとは…
「そう、スカルファックよ」
俺は覚悟を決めた。

次は
「おっぱいマウスパッド」「自衛隊」「専業主婦」で

261:名無し物書き@推敲中?
14/06/01 12:24:42.36 .net
>>259
新2chへの書き込みはこっちに反映されないんだ 必要なら再投稿を
スレが落ちた時に削除されたっぽいのはコピペしとく

262:名無し物書き@推敲中?
14/06/01 12:26:02.36 .net
「大魔王」「パラシュート」「ふわふわ」

「え?」
「だ、か、ら!
 まず着地点を見定めておいて、お前がパラシュートを落とす。
 おもりに火種をつけておいて、
 俺が先日完成させた、ふわふわシュークリームの蝋燭の上へ、見事点火」
「なんで誕生日にシュークリームなんですか」
「あいつの好物なんだから仕方ないだろ!で、そのシュークリームの中から…」
「婚約指輪が出てくる」
「そう!」
「『このふわふわ製法で特許を取るから、君を決して貧乏にはさせない…』の言葉で号泣」
「そう!そう!」
「でもなぁ…」
「なんだよ」
「あの人って婚約指輪より…」
「あ、来た!」

「えっ!?」
「なに?美味しかったけど」
「……だよなぁ。この人、食欲大魔王だもん。
 多少硬めの中身のことなんか気にもとめないで丸のみですよ」
「30万円のシュークリームがぁ……」
「バカね、そんな高いお菓子あるわけないでしょ」
「ぐぬぬ……な、なぁ、でもこのシュークリームの皮って、とんでもなくふわふわしてただろ!?」
「え、普通でしょ?」

「…うん、別れようか」

次は
「六法全書」「石鹸」「やまんば」

263:名無し物書き@推敲中?
14/06/02 21:19:52.30 .net
現在18時22分。日が伸び出して来たとは言え、鬱蒼とした木々に囲まれ辺りは既に薄暗くなっている。
落ち葉が敷き詰められた斜面をガサガサと転がる様に降りて行く男が1人。
ちょっとしたハイキングのつもりが道を間違えた、と気づいたのは完全に自分の居場所をも見失った後であった。
薄暗い山の中で1人まよっt

264:名無し物書き@推敲中?
14/06/02 21:20:27.84 .net
うぉ途中で書き込んでしまったorz

265:名無し物書き@推敲中?
14/06/02 22:17:50.04 .net
現在18時22分。日が伸びてきたとは言え、鬱蒼とした木々に囲まれ辺りは既に薄暗くなっている。
落ち葉が敷き詰められた斜面をガザガザと転がる様に降りて行く男が一人。
ちょっとしたハイキングのつもりが道を間違えた、と気づいたのは完全に自分が何処に居るのかも見失った後であった。
薄暗い山の中で一人迷うと言うのは思った以上に不安なもので男の気分は六法全書よりも重く沈んでいた。
何処に向かって居るのかも分からないまま進んでいると悪い想像ばかり膨らむ。思わず足がすくんでしまった。
男はじっとりとした脂汗を拭いながら考えた。
このままここに留まって、明日の朝明るくなってから行動した方が良いのではないだろうか?
しかしこの深い木々の中で一夜を過ごすのは恐怖以外の何者でも無い。
そう思うと一度すくんだ足を無理に前へと出す。
既に足元もよく見えない程暗くなっている。ここは慎重に進まなければならないのは分かっているが恐怖心がそれを許さない。
もういっその事、やまんばでもいい。とにかく灯りが見たい。そう思うと更に山を下る速度は増していく。
暗い山の斜面を殆ど走る様なスピードで下ればどうなるかは言うまでも無い。
「ああ、家に帰ったら思いっきり石鹸を泡立ててシャワーを浴びよう」
それが男の最後の思惑だった。

次は「途中」「書き込み」「赤っ恥」

266:「途中」「書き込み」「赤っ恥」
14/06/06 20:48:17.57 .net
彼女を信じて、とんだ赤っ恥っだ。研究所に行くのがいやになって衝動的に向かいに来た列車に飛び乗った。
自由席の3人掛けを一人で座った。扉近くの席にはサーフボードを持った大学生風の男が陣取っている。
若者の大きめのヘッドフォンからは懐かしいサマーソングが派手に漏れていた。
コカコーラのような開放的で気怠い清涼感がある。確か一夏の刹那的な恋を歌った歌詞。
梅雨明けまでにはだいぶありそうで、どうにも季節外れに感じる。
それ以上に学生時代に引き戻され気分なのがアンマッチでシュールで脱力だった。俺には。
書類鞄を前の列車に置いてきてしまった。
背広の上着を網棚に上げYシャツの胸ポケットから手帳を取り出す。
スケジュールには「AM10:00 東京ラボ 緊急会議」とあり、下の欄に「陽性確認・・・orz」と書き込みしてある。
さあどうしたものか、とりとめもない逡巡が脳裏をめぐる。考えたくない、都合の悪いことばかりだ。
研究所を休む言い訳をどうしたものか―車掌がきたら特急券をどうしよう。前の列車は途中下車したことになるのだろうか―
鞄の中に入っていたものは―一時凌ぎで肝心な事には思考が向かない。
いや、考えたってどうにもならない。今必要なのは行動すること。いやいや、その前にまず物語のビジョンを決めなければならない。
なんパターンの責任逃れを用意しておけばいいのか。
とにかく、これは事実とは関係の無い物語だ。それは言い訳しなければなるまいか。

次のお題は「嘘」「梅雨」「長靴」でお願いします。

267:「嘘」「梅雨」「長靴」
14/06/08 07:15:35.05 .net
何が今日は一日晴れるらしいよ、だ。あのアバズレめ!
脳裏に浮かべた女の顔に、ユウはあらん限りの罵詈雑言をぶつけていた。
「すまし顔で大嘘こきやがって!」
仕事用具の入った鞄を胸に抱いて守りながら、夕暮れ時の田舎道を全力で走る。
視線の先には、塗装のはげかけたバスシェルターがあった。
日頃の運動不足が祟ったのか、たいした距離も走っていないのに息が上がり始める。
屋根の下に飛び込むんだときには、もう肩で息をしているような状態だった。
「ちくしょう!」
かすれた声で悪態をつき、膝に手をついて息を整えるユウの視界に、黒い長靴のつま先が見えた。
はっとして顔を上げると、女がひとりベンチに座っていた。ユウと視線が合うと、にたり、と笑ってみせる。
「もう梅雨入りしたんだよ? 折りたたみ傘の一つも持ち歩かなきゃ」
うるせえ、今日は晴れの予定だったろうが! と叫びたいのは山々だったが、乱れきった呼吸がそれを許さなかった。
不機嫌そうに眉根を寄せるユウに向かって、女はすっと右手を差し出す。
「ところで、こんなところに傘が一本あるんだけど、ユウちゃん、可愛い幼馴染と相合傘して帰りたくない?」
半日前、ユウに向かって今日は晴れるといった女は、しっかり傘を準備していたらしかった。

 次は「砂糖」「夜」「愛情」で

268:名無し物書き@推敲中?
14/06/11 20:31:17.82 .net
この愚人どもが!人の揚げ足ばっかり取りやがって。
俺見たいな上等な人間にレス貰ったら普通ひれ伏すだろが!
それをうpも出来ないチキン?お前の考えは砂糖よりも甘い?てめぇ等愚鈍共と一緒にするんじゃねぇ!
ただでさえ今日はまみタソのイベに落選して気が立ってると言うのに!
俺ほどまみタソに愛情注いでる奴はいないのに、その俺が落選?コレは絶対に事務所が俺とまみタソの仲を裂こうとしてるに違いない!
ムカつくムカつくムカつくぁああぁぁもぉおおおッ
「ねぇ卓郎ちゃん。もうね、夜も遅いから静かにして欲しいの。お隣さんもね、ウルサ…」
「ざっけんな!呼んだ時以外は入ってくんじゃねぇっていっつも言ってんだろうが!」
お、BBAが珍しく睨んでやがるw久々にぶん殴ってやるかっっw

全部私が悪いんです。
早くに父を失ってしまったから、せめて不自由はさせない様にって。甘やかし過ぎたんですよね。
私ね、あの日お医者さんに行ったら「もって3ヶ月です」って。
私が居なくなったらと思うと…せめて一緒に連れて行くのが親の務めかと。
後悔はして居ます。でも何に後悔してるか分からないんです。あんな風に育ててしまった事になのか、刺してしまった事になのか。
おかしいですね。自分でやった事なのにあの子が居ないのが悲しくて仕方なくって。

269:名無し物書き@推敲中?
14/06/11 20:33:57.15 .net
次は「スマホ」「タブ」「パット」で

270:名無し物書き@推敲中?
14/06/11 23:02:12.04 .net
職場へ警察から電話があって、仕事帰りに妻の父を回収して帰った。
生憎と妻は外出している。
「お義父、そのままでは風邪を引いてしまいますから。お風呂に入って暖まりましょう。」
雨に濡れた義父を脱衣所に誘導して、勢いよく蛇口を捻ってバスタブに湯を入れる。
家に帰ってきて、落ち着いたのか、義父は恥ずかしそうに恐縮している。
その昔はワンマン社長で猛烈だったのが、引退してからは、演歌が趣味で、随分と穏やかな気質の人となった。
迷子で保護されたのは初めてだが、もう年なので驚きはさしてない。
居間の電話機に警察とデイケアセンターからのメッセージが入っていた。
義父の入浴中に、心配を掛けたであろうデイケアセンターの所へ留守電を入れ返した。
電話機の横にスマホの広告チラシが置いてある。

そう言えば、もうじき義父の誕生日だ。GPS機能が付いていて、プレゼントに丁度よいかもしれない。
高齢者のインターネット利用はボケ防止にいいと聞いたことがある。タブレット端末のほうが大きくて操作し易いだろうか。

―義理の息子が考えはじめた頃、風呂場では義父が某スマホゲームのCM曲をハミングしていた。

次は「まめまめしい」「かいがいしい」「カタツムリ」でお願いします。

271:名無し物書き@推敲中?
14/06/11 23:18:12.83 .net
>270
訂正)パットが抜けてましたm(_ _)m
×GPS機能が付いていて、プレゼントに丁度よいかもしれない。
○妻は粘着パットの低周波治療器はどうかと言っていたが、GPS機能が付いているスマホの方がよいかもしれない。

272:270,271
14/06/12 18:48:26.03 .net
度々すみません。>271の「粘着パット」が「粘着パッド」の間違いでした。

お題消化のため、270の271での訂正を
×GPS機能が付いていて、プレゼントに丁度よいかもしれない。
○妻は室内用のゴルフパット練習機はどうかと言っていたが、GPS機能が付いているスマホの方がよいかもしれない。
とさせてください。ややこしくしてしまい、ひらに<(_ _)>

次のお題は「まめまめしい」「かいがいしい」「カタツムリ」です。

273:名無し物書き@推敲中?
14/06/12 20:48:44.92 .net
 偽りがきっかけで、失恋をしたカタツムリがいた。ある日、彼は紫陽花の葉の上でこう呟いた。
 「人間の世界でも、このような不幸な事があるのだろうか」それを耳にした家猫がふと首をあげた。
 雨降りの日に彼を窓辺で見かけた。カタツムリは特に彼に語りかけたわけでもないが、偶然独り言を拾ってしまったのだ。
 「そこの君、人間なんてなるもんじゃないよ」
 「やあ、猫さん」
 「人間になったら毎日働かねばなりませんよ」
 「働くとは何でさうか?」
 「働くとは人の為に何かを作り出すということです」
 「出産とか、さういうことですか?」
 「いいえ。まめまめしい人、かいがいしい人、それが人間という生き物です」
 「よくわかりませんね」
 「私は人間のおかげで、こうして毎日を、鳥の声や虫の声に耳を傾けているだけで生きていけるのです」
 「僕も毎日葉っぱの上でじっとしていても生きていけますよ」
 「人間は葉っぱを食べるだけでは事が足りません」
 「それじゃあ、葉っぱで事足りる人間になればいい」
 「それではもう人間ではありません」
 「さうですか。猫さん。では僕は、身分を偽っただけで、相手方の親から結婚を破談にされてしまいました。僕が人間だったら、どうでそう?」
 「この家の主人は、その昔、身分を偽って刑務所に入れられたことがございますよ」
 「刑務所とは、どのようなものでそう?」
 「刑務所とは雨も降らず、風も吹かないところです」
 「それはよろしくないですね」
 「さうです」


 次、「予感」「断片」「イタリア」

274:名無し物書き@推敲中?
14/06/16 22:17:20.52 .net
「予感」「断片」「イタリア」

W杯が始まって、昨日、日本はコートジボワールに負けた。
点を入れられそうな嫌な予感が的中して、あっという間に2失点しての逆転負けだ。
コートジボワールというより、ドログバに負けた気がする。彼の存在感たら凄かった。
いくら凄いと聞かされていても、同じ人間なのだからと高をくくっていたが、実際想像を越えていた。
結果的にゴールしたのは別の選手だったけれど、私はただドログバだけが怖かった。
彼の名が、ドログバなんて恐ろしげな名でなかったらどうだったろうかとぼんやり考える。
例えば、トロクパだったら。チュウトロだったら。ピカチュウだったら。
彼の名がピカチュウだったら、彼をそれほど恐れただろうか。
W杯でしかサッカーを見ない私は、筋金入りのサッカーファンの夫に滅多なことを言えない。
下手に感想を述べたりすると「にわかが!」と睨まれてどやされる。
断片しか見てないけれど、日本戦の前にやっていたイタリア対イングランドの試合はなんだか素敵だった。
イタリア人とイギリス人と、ドログバのいるコートジボワール人が羨ましいと思ってしまった。
でも日本代表を愛する夫の前では、口が裂けてもそんなこと言えない。
日本が負けて夫はふらっと出て行ったきり連絡が無い。今日仕事行ったのかどうかもわからない。
なんか疲れた。正直W杯なんか無ければいいと思う。


「扇風機」「アルバム」「もやもや」でお願いします。

275:「扇風機」「アルバム」「もやもや」
14/06/17 17:13:55.55 .net
 「夏は扇風機に限る」

 エアコンの冷房設定18度の部屋、毛布に包まりながらアイスを齧る友人がそう呟いた。

 「はっ?」

 アルバムを捲る手を止めて私は思わず声に出した、心からの言葉だ。正確に言えば、「自分の部屋が暑いからと言って態々アイス持参で私の部屋にやってきて何を言ってんだこいつ?」である。

 「いやね、クーラー…エアコン? まあどっちでもいいや。とにかくアレだよ、空気だけが冷たくなる感覚って少し気味悪いよねってさ」

 (なら自分の部屋へ帰れ)

 そう口に出してツッコミそうになった。温度設定まで弄くっておいて何たる物言い、相変わらず呆れるほどに勝手な奴だ。
 こいつは昔からそうだった、手にするアルバムに写っている姿も何かしら他人にちょっかいを出して自分だけ満足げなものが多数ある。被害者は大概私だ。

 そう意識しだしてから、アルバムのページを捲るたびにもやもやとした何かが蓄積されていく様な気がする。なんでこいつの友達やってんだ、私は?
 自問自答は一瞬だ。答えは簡単、単純なのだ。

 ―救われたから

 こいつが勝手な奴でなければ今この瞬間、冷房がガンガンに効いて冷え切った部屋に私は居なかっただろう。
 だから、 友人の阿呆な顔を見て私は答えた。

 「んー、そうな」

 と、生返事だけ。


次は「牛脂」「無臭」「ムラムラ」でお願い。

276:「牛脂」「無臭」「ムラムラ」
14/06/20 00:20:14.37 .net
 あの日を境に、私の世界は”無臭”になった。

 「ムラムラしてやった。ぶつかる直前でよけるつもりだった。」

 この無法者にバイクで正面衝突され、私は自転車から放り出された。自転車は大破し、私は嗅覚を失った。脳細胞が壊死し、
500万個の嗅細胞が一瞬にして無用の長物となったのだ。

 私は慣れた手つきで新鮮な野菜を刻んだ。牛肉にはミルをひいて塩とこしょうをふりかけた。ああ。
 なべに牛脂を入れ、火をつける。冷たい牛脂をへらでつつくと、なべの底にかすかに白い軌跡を描く。

 半年前まで、私は妻とともに小さな料理店を経営していた。都内のホテルでの下積みを経てついに自分の店を持ってから
もうすぐ20年になるはずだった。しかし、味は、舌だけで感じるものではない。嗅覚を失った私には到底料理人を続ける
ことはできなかった。
 店をたたんでから、妻は外にパートにいくようになった。私は毎日、妻と私だけのために料理を作る。妻は、味に関して
何も言わない。それなりのものは作れていると思うが、おいしいはずがないのだ。

 牛脂はじわりと溶け出し、加速度的にドロドロと崩れていく。

 私はあの男の名前を知っている。住む家を知っている。
 安普請のアパートで、そのベランダには植木鉢が三個ならび、物干しざおには男物、女物、そして色とりどりの小さな服
が……。

 私はふと調理台を見た。小さく刻まれた色とりどりの野菜。じゃがいも、にんじん、なす、玉ねぎ、トマト、レタス、そして、
輝く包丁。
 それを手に取り、握りしめる。私は目を閉じた。堅く、堅く。

 どうしようもなく、ムラムラしていた。



次は「海底」「赤い」「カンカン」でお願いします。

277:sou
14/06/24 04:35:06.37 .net
 三輪バイクに乗った少年が、潮風香る街並みを疾走する。
 車体を包む半透明のフードには、宅配ピザチェーンの赤いロゴが描かれていた。
 漁村の狭い路地を抜けたところで、少年はバイクを止めて地図に目を落とす。
「あれ、おかしいな。この先のはずなんだけど」
 眼前に広がるのは水平線まで何もない穏やかな海原だけ。
 ふと携帯が着信音を響かせる。お客さんから催促の電話だ。
「おうおう、配達まだかいな。ワシもう腹へって死にそうなんやけど」
「申し訳ありません、道を間違えて海岸に出てしまいまして」
「なんや。うちはその先の海底やで。はよ持ってこんかい」
 少年は耳を疑って何度も聞き返す。痺れを切らしたお客は、受け取りに行くから待ってろと怒り気味に言い残して通話を切った。
 すると静かに波打っていた水面がにわかに荒れて、巨大な渦巻きが生じた。
 町役場の方向からカンカンカンとけたたましい警鐘の音色が届き、どこからか地球防衛軍のテーマが流れ始め、上空にはスクランブル発進した戦闘機が殺到してくる。
 やがて海を割って現れたのは、雲を突くような体躯の怪獣だった。
「まったく出前とるのも一苦労やな。ほれ、釣りはとっとき」
 怪獣は代金とピザを交換すると、口から吐いた火炎で戦闘機を次々と撃墜しつつ、のしのしと水底の我が家へ戻っていった。
「ま、まいどあり……」
 ピザの代金、二四八〇円。少年へのお駄賃、五二〇円。日本国の被害、プライスレス。


次は「紙袋」「煙草」「一刀両断」で

278:名無し物書き@推敲中?
14/06/29 13:48:36.23 .net
高架橋の下で今日も背広の男は立ち尽くす
ガンガンとやかましい電車の通過音も男の乾いた心には響かない
時計をチラッと見て男は吸っていたタバコを落とし、踵で踏みにじった。
「今日も渡せなかったな……」男は紙袋を握りしめ歩き出す
街路灯の光りに照らされて、男の頬ににじむ涙の跡が見えた

そんな男の様子を線路脇のマンションから女は見ていた。
「キモい」そう呟いた。

279:名無し物書き@推敲中?
14/06/30 00:27:30.22 .net
次のお題はなんだよw「紙袋」「煙草」「一刀両断」で。

薬物取締法の指定薬物にニコチンが登録されたのは、つい先日のことだった。
いまはもう、煙草は明るいコンビニ店員がにっこりと渡す洒落たパックではなく、
歯の欠けたスキンヘッドが無愛想に突き出す紙袋へと変わった。
スキンヘッドもこの社会も糞食らえだーー。
俺はストレスを煙に撒くため、隠れて紙袋から一本取り出す。
火をつける前に鼻に白い棒状の包みを鼻に押し付ける。
乾燥した草の良い香りだ。
火をつけ一吸い。ストレスが体から解け落ちる。たまらない。
しかし解けるような感覚のあと、すざましい奇声が上がった。
「きぇぇぇぇぇ」
ぎょっとして振り向くと、ヒステリックなババアが、
サバイバルナイフを振りかざして迫ってきた。
避ける間もなく振り下ろされ、俺がくわえていた煙草は、
一刀両断のもとに切り捨てられていた。
「あんた! 私を肺がんにする気! 警察呼んだわよ!」
まるで「いい気味だ」と言わんばかりで、ナイフをちらつかせて
俺を脅している。しかし。なんだな。このくそったれの社会は。
この糞ババアが。サバイバルナイフも違法だかんなーー。
そう言いかけたが、俺は紙袋に手を突っ込んで、ババアに煙草を勧めた。
もちろん一刀両断されたが。

次は「こする」「こん棒」「ちくわ」

280:sou
14/06/30 17:09:10.78 .net
「勇者様! 言いつけどおり自分の武器を買って参りました!」
 宿屋の一室で愛用のこん棒を磨く見習い勇者のもとに、幼なじみであり従者でもある女僧侶が飛び込んできた。
 呆気にとられる勇者。彼女が手にしていたのは槍のように長い一本のチクワだったから。
 事情を聞けば、かつて伝説的な魔導師が使っていた超レア物……という触れ込みらしい。
 誰が見ても明白な詐欺と思えたし、鵜呑みにする方もどうかしている。勇者は頭を抱えたが、
「えへへ。高価でしたけど、いざという時は非常食にもなるんですよ」
 屈託なく微笑む少女を叱る気にはなれなかった。
 やがて時は流れーー 
 長い長い冒険の果て、成長した勇者は最強の装備を身にまとい、最後の決戦に挑んでいた。
 しかし敵である魔王の力は凄まじく、傷ひとつ負わせることも叶わない。
 奮闘空しく今まさに勇者の力が尽き、終の一撃が加えられようとした時、
「させません! とりゃああああ!」
 加勢に現れた僧侶が勢いよく伝説のチクワを降り下ろした。
 びたーん! 魔王の眉間にヒット、九九九九ダメージ! 不死身とも思われた屈強な魔王が膝をつく。
 次いで僧侶はチクワをこする。きいんと甲高い音が鳴り、先端の穴に膨大な魔力が集中していく。
 凝集した魔力は喝声と共に極太の光束となって魔王に放たれ、悲鳴をあげる暇も与えず、その体を灰塵と化した。
 こうして世界に平和が訪れ、懐かしい故郷に戻った二人はささやかな祝杯をあげた。
 ツマミである輪切りにした伝説のチクワをつまんだ勇者は、対の手で照れ臭そうに僧侶の左手を引き寄せる。
 そして彼女の白く細い薬指をチクワの穴に挿し入れ、言った。
「今度は俺が一生かけて君を守る。ずっと一緒にいてくれないか?」


次は「指輪」「祝福」「忘れ物」で

281:名無し物書き@推敲中?
14/07/02 01:13:26.11 .net
「指輪」「祝福」「忘れ物」

聖母マリアは言った。
「あなたを祝福します」
ヤコブの末裔。クサンネは言った。
「あなたの祝福を生まれ来るものにも与えたい」
「私自身ではなく、この指輪を祝福ください」
聖母マリアは言った。
「あなたの指輪を祝福します」
永き時が過ぎクサンネは族の始祖となり、二チャネラが族長になった。
しかしその手に指輪はなく、ニチャネラは言う。
「どうでもいい(ワラ)忘れ物係にでも届いてんじゃね?」

次は「パンプス」「パンプキン」「パンチ」で

282:sou
14/07/02 09:57:47.36 .net
「パン。ラテン語のパニスを語源とする、パン。ああ、何と軽やかで胸踊る響きだろう」
 夜食のパンケーキが乗った皿を、まるで聖遺物であるかのように恭しく掲げる男。
 言語学の世界では、それなりに名の通った研究者だ。
「ええまあ。それじゃ私はそろそろ……」
 また面倒な長話が始まったと思い、助手の女は適当にあしらって帰り支度を始めた。
 男は逃がすまいと早足で部屋の出口に回り込み、手振りをまじえて熱弁をふるう。
「見たまえ。ここにカボチャがある。カボチャーー鮮度さえも奪いそうな野暮ったい語感だな。
ならば英語名のパンプキンではどうか。歯切れよく美しい語感だ、瑞々しささえ覚えたろう?
僕はかねてから、パンで始まる言葉は特別な力を宿していると考えていてね。
世界はパンゲアから始まり、パンを焼くため農耕を始めたことが文明の発展に繋がり、
パンドラが放った災厄は今なお人々を苦しめ、パンテオンは二千年の時を生きている。
君の平凡な革靴も、パンプスと呼ぶことで多少なりとも女子力アップに寄与するはず」
「何を仰りたいんですか?」
「単刀直入に言おう。僕はパンで始まる名を持つ物品を収集していてね。君に協力を求めたい」
「パンプスは駄目です。履いて帰る靴がなくなりますので」
 そうじゃない、と返した男は女の両肩を掴み、この上なく真剣な眼差しを向ける。
「僕が欲しいのは、君のパンティーだ!」
 数瞬後。捻りのきいたパンチが男の顔面にめり込んだ。


次は「心理学」「破壊」「自己実現」で

283:名無し物書き@推敲中?
14/07/04 00:59:12.08 .net
「心理学」「破壊」「自己実現」


 一限目が始まる八時五十分から今まで、僕はずっとうわの空だった。教授たちの話は全く理解できず、いつの間にか窓の外を
見つめ、水音に耳を澄ませていた。
 天気予報では午後から晴れると言っていた。今は五時過ぎ、五限目もあと半時間ほどで終わる。だからもうそろそろ雨は
止むはずだ。祈るような気持ちで僕はまた黒板へ意識を戻し、ノートの続きを取った。

 今年の四月に、僕は晴れて大学生になった。一番はじめに声をかけられたから、という理由で入部した”星見同好会”
に、彼女がいた。彼女は心理学専攻の三回生で、長くてまっすぐな髪を少しだけ茶色に染め、いつもキラキラした髪飾りで
ポニーテールにしていたが、毎週金曜日の夜、星空観測会のときにだけ彼女は髪をほどいた。
 髪飾りがきらめき、さらさらの髪が天の川のように僕の目の前を流れていく。僕は、彼女のことが好きだった。

 僕は今夜、彼女に気持ちを伝えようと思っている。今日は七夕の直前の金曜日、夏休み前最後の観測会だ。この告白は、
僕の大学生活における最初の自己実現である。でも、このままこの授業が終わるまでに雨が上がらなかったら……。
 その時、無情にもチャイムが鳴った。同時に僕の携帯に着信があり、メールの件名に傘マーク一つ。本文は見るまでも
ない。すべてが破壊されたのだ。



次は「空」「かわせみ」「小石」で。

284:名無し物書き@推敲中?
14/07/07 22:51:56.90 .net
「空」「かわせみ」「小石」

 杜若色の空が垂れ込む真夏の夜に、星屑のほうとした灯りで遠くが露草色に見える。
しかしながら、あまりにも満天の海は深かった。心酔しきった私の中身は、あまりに膨大な宇宙の深層まで
もぐり、すっかり藍色にとけてしまうと想像するとたまらなく恐ろしかった。

 浸りきって浮かびそうな私を重力に逆らわないよう繋ぎ止めていたのは、小河のせせらぎと翡翠の鳴き声だけだった。
花火ではしゃいだ後には、よい耳の保養だった。ヒイヨヒイヨとなくあの切なげな声が、大学二年の若僧なりに生きている
ことという哲学思考まで追いやったのだ。川の流れにころころと転がる小石でさえ、なにか神の見えざる手に感じてしまうほど
私は深く追求した。そしていつしかごうごうと広がる夜空にすっととけるように、私は瞼をつむっていた。

 「おい、起きろって。出たぞ、天の川。」
青臭い若草がハラハラと音を立てるなかに入りまじる声。サークルの先輩に起こされ瞼を開けた私の心臓はドクンとうなった。
目の前には、壮大な青のグラデーションにかかる真白の道が横たわっていた。さっきの灯りとはまるで違う。
それはもう、顔をぼうと照らし月明かりのように青白く優しい光だった。深い夜空の海はグリーンが混じり、幻想的だった。
山奥のキャンプ場からみえたあの空は、まさにあの翡翠のような生命の色だった。


次は「苔色」「ワイングラス」「水彩画」で。

285:「苔色」「ワイングラス」「水彩画」
14/07/26 13:05:33.50 .net
僕は一年生のとき、夏休みの最初に絵日記をまとめてかいたら、ウソはいけませんと先生にしかられた。
朝顔のハチがなぜかちがくて、ミュータントヘチマが実ったので、近所のウワサになって、あしがついたのだ!
イクメンが「今年は水彩画でかきなさい」と言った。水彩は乾くのに時間がかかるから、ふべん・・・

枯れたと思ったミュータントヘチマが元気にダンシンしていた。
絵をかいた。動きがはげしいのでむずかし~。
ひっせんを学校に忘れてきてしまった。ママのお気に入りのワイングラスをかわりにした。
水も絵も苔色になってしまった。あかん、湖いったらマリモが見たいな~。

次は「日記」「脚色」「海獣」でお願いします。

286:名無し物書き@推敲中?
14/07/29 18:35:01.18 .net
「日記」「脚色」「海獣」

10年ぶりに私は鹿児島県指宿市に来た。
以前池田湖には有名な海獣『イッシー』が出ると話題になり
子供の頃、父と一緒に来たことがある。
その時はモーターボートに乗って、夏の日差しに反射する眩しいカルデラ湖に、
海獣の影は見えないかと、夢中になって探したものだ。

「おとうさーん、イッシーはどこらへんに居るの?」
「今日は暑いから出てこないかもね」

好奇心で一杯だった私の幼心を、紛らわさないように父はそう答えてくれた。
夏休みの作文で、私は日記の絵に見てもいない『イッシー』を描いた。
子供ながら日記に脚色をしてしまったが、私は今でもあの時の思い出を忘れない。


次は「女の子」「スカイサイクル」「iphone」

287:名無し物書き@推敲中?
14/07/29 19:17:04.35 .net
あ、固有名詞駄目だったので訂正。
「女の子」「スカイサイクル」「スマートフォン」でお願いします(´・ω・`)

288:名無し物書き@推敲中?
14/08/03 13:50:41.71 .net
「女の子」「スカイサイクル」「スマートフォン」

先日、孫に連れられ遊園地に行きましたの。
「ばーちゃん自転車でも乗ろうよ」と孫が言いますので、
私てっきり、緑の中をサイクリングするものとばかり思っておりましたら、
スカイサイクルといって、小高い山に設置されたレールの上を漕いで進むんですのね。
それが、高いやら、風が吹きすさぶやらで、まぁ恐ろしいこと恐ろしいこと!
脳にアリナミン? オロナミン? なんでしたっけ、とにかくわーっと分泌してしまいまして。
私が私でないような、いけないハーブでどうにかなってしまった人のようになりましたわ。
ここは気をしっかり持って、生きて戻らねばならないと、私必死でペダルを漕ぎましたのよ。
そうしたら、隣に乗っている孫が「やばいやばいばーちゃんやばい」って。
「やばい早すぎる。それに顔がやばい」ってもう何でもかんでもやばいで済ませようとするんですの。
早すぎて危険だ、というのは合点いたしましたけれど、顔がやばい、の意味がわかりません。
若い女の子みたいにはしゃいでしまって、年相応でないということかしら、などと解釈しておりましたら、
あとでスマートフォンで撮影した写真を見せられて、私びっくり仰天。
肩をいからせ髪を振り乱し口を大きく開けた凄まじい形相の化け物が写っておりましたの。
あぁ、なるほどこれはやばい顔だな、と私、妙に納得してしまいましたわ。ほほ。


「日曜日」「かき氷」「転倒」でお願いします。

289:日曜日、かき氷、転倒
14/08/04 21:20:23.26 .net
真夏の晴れた日曜日、ぼくはお母さんから貰ったお金を握りしめて話題のかき氷店へ向かった。その店は家の近所にあるけどいつもすごい行列で、氷の値段も高いから行ったことがなかった。
でも昨夜その店がテレビに出てきて、マンゴーたっぷりのかき氷を美味しそうに頬張る芸能人を見たぼくは母さんにおねだりをした。
「どうしてもあれが食べたい」
ぼくが何度も必死で頼むと、母さんは財布から渋々800円をくれた。しょうがないわねと笑った母さんの顔が浮かんでくる。
大事なお金を落とさないよう気を付けながら店に辿り着くと、まだ午前中なのに行列が出来ていた。
ぼくは一番後ろに並んでお金を数えた。800円あるのを確認したあと、後ろに綺麗なお姉さんが並んだ。
「すごい行列だね。ぼく一人で来たの?」
「うん、ここ高いみたいだし、お母さんはこれないの」
声を掛けられ返事をすると、お姉さんはじゃあ一緒に食べよと言った。ぼくが頷くとお姉さんは何食べるの?とか色々話しかけてくれた。そうしているうちに時間が経ち、順番が回ってきた。
店員に大きな声でスペシャルマンゴーくださいと言い、大事な800円を支払うと、大きな器に入った山盛りのかき氷を受け取った。
黄色いソースがたっぷりかけられた氷は小さなぼくにはずっしり重くて、ちょっと離れた席まで運ぶのも大変だった。
慎重に歩いて席まであと少しの所まできたとき、前に座っていたおじさんが急に立ち上がった。ぼくはびっくりして、そばにあったテーブルの足につまづき転倒した。
すぐに店員がきてぼくの事を心配してくれたが、ぼくはそんなことより床にぶちまけた氷を器に戻そうと必死だった。マンゴーソースにまみれた冷たい氷を触るたびに涙が出てきて、ぼくはその場で泣きじゃくった。
母さんがせっかくくれた小遣いで買った物なのに、もう食べられない。床に座りこんで泣いていると、声をかけられた。振り返るとさっきの綺麗なお姉さんが、両手で抱えたマンゴースペシャルをぼくに見せながら、「泣かないで、一緒に食べよ」と言った。
涙を拭って近くの席に座ったぼくは、お姉さんに分けてもらった氷を頬張った。ふわふわで冷たくて、口いっぱいにマンゴーの味と香りが広がった。
美味しいねと笑うお姉さんに御礼を言い、ぼくはかき氷を堪能した。次は母さんと一緒に食べたいな。

次「黒」「ビキニ」「日焼け」

290:黒、ビキニ、日焼け
14/08/13 23:11:50.46 .net
日焼けをしたのは一人ではなかった。
青い海で肌を焦がした男は23名いた。
しかしそれは公表された限られた数にすぎない。
実際には、周辺で操業中の大勢の人々が黒い雨を浴びたらしい。
ビキニ環礁、1954年。
今よりもずっと熱い太陽がそこにある。

次「脹ら脛」「ボノボ」「カード」

291:名無し物書き@推敲中?
14/08/19 21:42:51.98 .net
「脹ら脛」「ボノボ」「カード」

「ボノボバーグがいい」
 ボノボバーグとはここGunmerでしか食べれない珍味だ。
 新鮮なボノボの脹ら脛をスライスし、色んなスパイスをふんだんに使って焼いた料理である。
 Gunmerの山岳地域ではいつしかボノボが住むようになった。
 食材でもあるボノボをハントするには絶好の場所だ。
「よし、次は誰が罠を見に行くか、カードで決めようぜ」
 少し肌寒くなる季節、森林のテントの中で彼等はババ抜きで誰が罠を見に行くかを決めていた。
 集団で動くと警戒心の強いボノボに逃げられる為、単独で確認しに行く必要がある。
 今日の狩りのメンバーは4人だった。ババを抜いた1人がいつものように森の中に入って行く。
 罠は重りで網が作動し捕まえるという極単純な仕掛けだ。
 その場所に辿り着くとボノボが2匹罠にかかっていた。
「2匹もかかるとは、運がいい」
 彼は満足そうに答えた、複数が同時にかかることは滅多に無いからである。
 罠にかかった網に近づくと、10メートルほど離れた場所でガサガサと物音がする。
 その音の数は8つはあった。
 茂みからボノボ達は現れると、罠を確認した者をジーッと見つめる。
「こいつら……俺を待っていたのかよ」
「まるで俺が罠にかかったみたいだ」
 ボノボ達は男をしばらく傍観した後去っていった。
 それはまるでボノボが以前よりも高い知能を持ち始めたかのように見えた。
 
次「貴婦人」「城」「ライオン」

292:名無し物書き@推敲中?
14/08/24 16:59:02.53 MEhmjbCmm
ああ、あそこの話ですか?まあいいですよ。
森の中の湖畔に佇むそのお城は、三つの高い塔を持ち、朝日を受けて白く輝くその姿はまるで貴婦人の指のようだとうたわれたこともあったそうです。
でも今はもう誰も住んでいませんよ。
最後にこの城に人が住んでいたのはもう百年も前のことだそうです。この大きなお城の持ち主は今は外国にいるのだとか。
誰も訪れることのないお城でライオンの彫像だけが番をしているそうですよ。地元の人間もそうそうあんな森の奥まで行きませんからね。
もし、あなたがあのお城に行くことがあればライオンの首元を撫でてやってください。よく頑張っているね、と。

少年時代 白樺 どんぐり

293:名無し物書き@推敲中?
14/08/30 07:09:21.61 .net
「貴婦人」「城」「ライオン」

大自然は女を変える。
ソフィアはいつもサファリ旅行で別人になった。
ジープの後部座席で強い酒をラッパ飲み。
野生動物を見つけるや、ライフルをぶっ放す。
どんな獲物も一発で仕留めたが、ライオンだけは別だった。
ジープを降り、ナイフを逆手に挑むのだ。
不敵に笑い、舌舐めずりしながら相手を挑発。
「お前が百獣の王かい。あたしゃこの宇宙の女王だよ」
故郷では使ったことのない下卑た言葉も連発する。
そして一騎打ちの末―必ず勝つ。
雄ライオンの心臓をその場でえぐり出し、空高く掲げて、雄叫びを上げる。
血まみれのソフィアは、ガイドと運転手を抹殺することも忘れない。
もう一人の自分の痕跡を一切残さないのか彼女の流儀だ。
故郷に戻ればお城みたいな屋敷で貴婦人然と振る舞い、
五人の子供たちに囲まれ、小さな口でケーキを食べたりするソフィアなのだった。


「デング熱」「Tシャツ」「炎」でお願いします。

294:名無し物書き@推敲中?
14/09/16 14:12:55.67 .net
長文を読まされるのは苦手だ。さらに英語とか、熱が出そうだ。
茹だるような暑さの教室はデング熱の隔離病棟のように
グッタリとした生徒たちが朦朧とする意識と戦う戦場だった。
Tシャツ一枚の教師に気合いとか、心頭滅却だの言われても、
それすら耳に入って来なかった。窓辺に陽炎が揺れている。
あー、ヤバイ。
誰かの声が聞こえた。と、同時にドスンと鈍い音がした。
「みんな、脱水症状に気をつけろよ。」
よろよろと立ち上がると、今日の授業はこれまでと言って
教師は出て行った。

お次は「僻地」「お土産」「交換」で。

295:名無し物書き@推敲中?
14/09/21 17:39:42.62 .net
「僻地」「お土産」「交換」

木造の古校舎を出ると、そこには夏休みが広がっていた。
漠とした僻地は夏ミカンの甘酸っぱい香りと肌をこんがり焼く太陽の匂い。
過去に取り残してきた「俺」の夏休みを、まさかもう一度味わうことになるとは。
とはいえ、中高教師交換行事に巻き込まれた教師としての立場だが。

「俺」の夏休みは、ここと絵に描いたようにそっくりだ。
父もミカン農家で、出荷であふれた果実を一つ二つお土産としてもらったものだった。
昼間にもらったミカンをこっそりと学校に持っていっては、初恋の娘と一緒に食べた。
白のワンピースに麦藁帽子のあの娘も、この村にはいないものだろうか。

「先生、どうしたん。ボーッとして。」
麦藁帽子のつばに隠れてよく分からなかったが服装も声も、瓜二つだった。
俺のクラスの子が心配そうに顔を覗き込む。
まるで、タイムスリップしたかのようだ。何もかわっちゃいないんだ昔から。

夏空に透いこまれていくアブラゼミの声。
古びた校舎の放課後を伝えるチャイムのように、今をせわしく叫んでいる。
13度目の夏休みがはじまる。

次は「階段」「挿絵」「応接室」


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