12/02/03 22:53:31.15 .net
時刻は午前0時を回っている。
百物語の会合は詰めに入ろうとしていた。
九十九人の怪談が終わり、部屋を赤々と照らしていたローソクは今や最後の一本を残すのみである。
「次はわしの番じゃな。ふぉっふぉっ」
禿頭の老人が気味の悪い含み笑いを引きずって、蝋燭台を持ちながら半歩前に出た。
「ではぼちぼち、いくかな」
今まさに老人の口から最後の怪談が紡がれようとしていた―その時である。
突然、部屋の襖が乱暴に倒され、数人の武装集団がなだれ込んできた。
「いたぞ!」リーダーらしき男が老人を指し示すと、残りの工作兵が老人を取り押さえた。
「おやすみの時間だ」工作兵はそう言うと、老人の口に手榴弾を詰め込んだ。
すぐにピンを抜き、もう一人が大型のフルフェイスを被せた。
ボン、とフルフェイスの中で爆発音がして、老人は頭を傾け、人形のように全身の力を失った。
「君たちは何だ?」我に返った発起人の沢田が怒声をかませた。
「正義の味方、ということにでもしておいてくれ」
「それじゃ説明になってない。清順さん、死んでるじゃないか!」
「こいつは『悪夢の語り部』というコードネームを持つ心理テロリストだよ。実はなかなか尻尾がつかめなくてね、
土壇場まで君たちに説明しなかったのは謝る。確実に確保したかったんだ」
「冗談じゃねえぞ。殺すのが確保かい!」
「今の我々ではそれが最善の選択だよ。しかしターゲットが怪談を話し始めたら全てが終わっていた。
君ら全員血みどろの肉片と化しているところだ。死んだのが一人で良かった」
武装集団は、淡々と老人の死体をビニールに封印すると、畳の血を拭き取って撤退した。
後に九十九人のメンバーが茫然と取り残された。
「おい、どうする」沢田が誰にともなく訊いた。
「蝋燭はまだ一本残っているわ。やりましょうよ百物語」
そう言ったのは、初回を話したゼロという銀髪の少女だった。
「まだ話が残っているのか?」
「ええ、こういうのはどうかな。悪夢の語り部はまだ死んでないのよ」
「というと?」
「武装した人たちは間違えたのよ。本当の悪夢の語り部は、わ、た、し―」
そのとき最後の蝋燭が、武者震いしたかのように大きく揺らぎはじめた。
次のお題は「学園災」