よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ4at BUN
よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ4 - 暇つぶし2ch250:嘘吐きと腹の中
13/03/05 05:22:04.56 .net
「ねえ、君はどうしてここにきたの?」
暗くジメジメとした、どこからともなく刺激臭のたちこめるそれほど広くない空間に、かんだかい声が一つ。
「そうだね、釣りの最中だったかな。浅い釣り場だったし、海は荒れてなかった。だから、むしろどうやって来れてしまったのか。いや、来る羽目になってしまったのか。それはこっちが聞きたいぐらいだよ」
問いに答えたのは、低くくぐもったような不機嫌な声。その低い声は酸味を含ませて続けた。
「今となっては、きっと虫の居所が悪かったんだろうと、無理矢理にでも納得しているよ。それで、そっちの方はどうなんだい?」
「僕は、もうずいぶん前さ。何故だったかも思い出せないけど、何かを探していたような気がするんだ。その何かが、こんなところにあるとは到底思えなかったけど、それでもここで、やっと何かを見つけて、何かに気付いたんだ。」
甲高い声は、遠い過去のことを懐かしむように、途切れ途切れに答える。
「こんなところまで来て、見つけて気付いた何かってのは、君にとって大切なものだったんだろう?何故思い出せないんだい?」
低い声は不躾に、無遠慮に聞いた。
数秒の間が空き、甲高い声は、少し震えながら答えた。
「思い出せないことっていうのは、だいたい、どうでもいいことさ。あの時、僕がここで見つけたものは、僕にとって、きっととても大切なものだったんだろう。
でも、今の僕には大切でもない。大切でもないから思い出そうともしない。思い出そうともしないってことは、やっぱりどうでもいいものだったってことなんだよ」
まるで罪の独白のように、甲高い震え声は絞り出した。
しばらくの沈黙の後、低い声が、甲高い声と同じように震えながら言った。
「何かを思い出せない理由ってのは、もう一つあるんだよ。」
甲高い声は聞く。
「それって?」
低い声は答える。
「もうわかってるだろ。」
高い声は言う。
「わからないよ」
低い声は言う。
「わからなくないよ。」
それほど高くもない声。
「わからない。」
あまり低くない声。
「わかってる。」
声。
「分かりたくない。」
声。
「分かってしまった。」
今日も鯨は海を泳ぐ。その腹の中に、一人の嘘吐きをしまいこんで。

251:嘘吐きと腹の中
13/03/05 05:23:25.80 .net
次「メトロノームの右側」

252:メトロノームの右側
13/03/11 19:52:36.17 .net
今日はあの人が来る、愛しい人が。
一緒に居られる時間は、とても短く感じるけどそれは仕方のないこと。
今はただあの人の声が、温かさが感じられればそれでいいと、そう思う。
ピンポンと音が鳴る、あの人が来た。
ドアを開け、迎え入れるとすぐさま抱きつく。匂いを、体温を感じる。
私の、唯一の幸せが始まるのだ。
できることならばずっとこのままで、ずっとこの温もりを感じたままでいたい。
けれどもそれは望めなくて、望むことも許されなくて。
私の身勝手な思いを無理に受け止めてくれているだけなのを知ってしまっているから。
そう、感じ取れてしまうから。
それでも「来なくていい」の一言も言えずに、優しさに甘える。
甘えずには居られない、求めずには居られない。
きっと哀れみなのだろう、きっと情けなのだろうそれを。
夜が来るまでの少しの間、ただそれだけの少しの時間。
その間だけの幸せが私の、全ての拠り所。
ああ、もうすぐ夜が来てしまう。
ずっとこのまま留めていたい。
だけどそれは望めない、言えもしない。


私はきっと―右側だから。



次は「三角図の中心点」

253:三角図の中心点
13/03/15 02:20:52.76 .net
『東部戦線、異状なーし』
『南部戦線、異状なしですー』
『西部戦線、異状ありませーん』
伝送管から、間延びした声で三ケ所の見張り台の状況報告が聞こえてくる。
戦闘開始から743と4日。三つの軍勢力に囲まれた資源採掘場の朝は、
今日も変わり映えのしない業務連絡と共に始まった。
「注意、

254:三角図の中心点
13/03/16 00:10:25.86 .net
『東部戦線、異状なーし』
『南部戦線、異状なしですー』
『西部戦線、異状ありませーん』
伝送管から、間延びした声で三ケ所の見張り台の状況報告が聞こえてくる。
戦闘開始から743と4日。三つの軍勢力に囲まれた資源採掘場の朝は、
今日も変わり映えのしない業務連絡と共に始まった。
「中尉、珈琲が入りました」
ノックの音と共に、総司令室にカーキ色の制服を着た下士官の女性が入室してくる。
「ああ、ありがとう」
部屋の中央に座る男は礼を言って、湯気の立つ黒い液体を下士官から受け取った。
「今日の戦況はどうなっていますか?」
「いつもと変わらないさ。『異常なし』だよ」
音を立てて珈琲を啜りながら、退屈そうに男は言う。
刺激の少ない戦場に辟易し、どちらにでもいいから動いてくれという心の内が透けて見えるようだった。
「そうですか………。今日は、補充の兵が何師団か着任する予定です。着任式は午後からの予定ですので、スピーチの
準備を宜しくお願いします」
「わかってるよ」
ため息を吐いて、中尉と呼ばれた男は眠たげな目で頭を掻いた。

『――以上で、着任式を終わります』
色素の薄い肌と男殺しの胸元で一躍新任兵達のアイドルとなった女官が締めくくり、兵達の間にも緩んだ空気が広がる。
腹減ったな、ここのメシ美味いんだっけ。今夜在任兵の奴らが歓迎会でポルノパーティー開いてくれるらしいぜ。
あの曹長マジで良い女だよな、誰か口説いてこいよ。
雑多な会話や軽口が聞こえ始める中、壇上にまだ立っていた基地の総司令官の男が、顔に申し訳なさそうな色を浮かべて
マイクを掴んだ。
『あ――悪いが、まだ休憩には入れない。着任早々だが、この基地じゃ日常茶飯事だ。今のうちから慣れておけ』
気まずそうな顔で言葉を濁す男が、最後に告げた言葉。
それを聞いた新任兵達は、皆一斉に息を飲んだ。

255:三角図の中心点
13/03/16 00:12:22.59 .net
「うっ…オェッ………」
土気色の顔をした若い兵士が、地面を向いて口元を押さえていた。
周りにいた仲間が何人か寄ってくるが、全員顔色は似たような物だ。
「吐くなよ…?これ以上酷い匂いになんかなってみろ、もう誰も耐えらんねぇぞ」
吐き捨てるように言った同階級の男は、辺りに広がる物から目を背けながら言う。
「…気持ちはわかるさ。聞いてはいたが……こりゃ予想以上だ」
男がちらりと、一瞬だけそこに落ちている物を見て、すぐに顔をしかめる。
銃弾の雨に食い散らかされた死体は内臓や骨が飛び出て、何匹か既に蛆も湧いていた。
戦場でしか嗅ぐ機会の無い正気を失いそうな悪臭は、他基地では熟練と呼ばれた兵士達からも
生気や精神の均衡と言ったものを一つ残らず奪い取っていく。
並の戦場では有り得ないほどの数の死体の山が、見渡す限りの原野に点々と散らばっていた。
「58………59……60。ドッグタグは…無しか」
軍用のトラックに死体袋を積み込んでいた壮年の男は、やがて諦めたように上を見上げ、トラックに背を預ける。
「どうせ全員死ぬんだ…誰が誰かもわからない戦場なら、その方が便利って事なんだろ」
光の無い瞳で血の付いた地面を掘り返していた黒髪の男が言う。
壮年の兵もそうだな、と頷き、胸ポケットから煙草を取り出そうとして、やめる。
「ここは三つの敵対勢力が睨み合い、数少ない貴重な資源採掘場を取り合う為に毎日数千人の命が使い潰される………
三角図の中心点、戦場の火葬場だからな」

256:三角図の中心点
13/03/16 00:13:11.71 .net
「…さて、今日も時間だ」
飲み終わった珈琲を机に置き、士官の男は席を立つ。
「………今日は、何人死ぬんでしょうか?」
女官が、悲しんでいるのか、何も想っていないのかわからない無表情で言う。
「さぁな。だが、ここを守る為に未来ある国士達を消費し続けるのが、俺達の仕事だ」
「………そうですね」
お気を付けて。と呟く女官を背にして、総司令官は作戦本部へと赴く。


数万の弾丸が飛び交い、数千の命を犠牲にして、防衛線は数メートルの誤差を生んだ。
国のため、国民のために兵士はそこで死に続ける。そして、その日、記録係は報告書の最後をこう締めくくった。


The center of triangle is no abnormality.
  三 角 図 戦 線 、 異 常 な し。

次、「目詰まりを起こした感情論」

257:目詰まりを起こした感情論
13/03/16 04:36:07.50 .net
「目詰まりを起こした感情論」

1.
 電車は今日も、駅のホームにやってくる。ごった返す雑踏、けたたましく鳴る警笛、発射の合図。
感情論的に、歩を進めながら思う。押し込まれる様にその電車の中に入る。席には座れそうも無い。
幸い本当に押し込まれるほどの混雑、それは無いにしても。流石に、退屈だ。ふと思う。何の為に?

 営業と言う仕事。自社では製品を創ってない。外部の製品をかき集め、客のオーダーに合わせ、
提案し、売る。販売目標がある、それでも年商50億円の会社だ。自分は先日の給料日には、
約20万円の振り込みを得た。入社してまだ日は浅く、最近ようやく月に20セットほどの販売を達成。

 一つの純益は、数%に過ぎない。20セット売っても、10万に届かない。電車が次の駅に付く。
ドアが開き、人々がさらに入ってくる。都心まではまだ少し遠い。これから、この混雑に耐える時間。

 感情論的に、お金の為、だ。働かなければ。秋葉原にBDやゲームソフトも買いに行けない。
電車はカーブに差し掛かる。荷重が人々を揺すり、思索を邪魔する。それは、どうでも良い事だ。
ともかくお金が無ければ。

 ・・・お金を、稼いでいるのだろうか。

 商品は膨大で、可能で有れば。全ての商品の個性や特徴を踏まえて最善のセットを提案する、
それが出来れば良い。勉強する必要はあり、今はWEBなどに仕様が細かく載っているから調査、
それは容易い。それでも期待通りには行かず、不具合も多く。先輩が言う。商品は膨大になったが、
”雑さ”が出てきた、粗製濫造。利益と機能性の板挟み、サポートや不具合の調査に時間を取られる。

 月に10万の利益と、手取りの20万円と。感情論的に。自分は、良い会社に居るのだ。

258:目詰まりを起こした感情論
13/03/16 05:04:23.59 .net
2.
 電車はやがて、次のホームへとやってくる。都心に近付いてきて、降りる人々が増える。少し空間。
ただ、運が悪いのかどうか。目の前に座って雑誌を読む中年は、まだ立とうとはしてない。最悪、
後10分程度はこのつり革だけが自分の支えだ。再びドアが閉まり、電車が発車する。この中に、
自分と同じような境遇は何人いるのだろう。自分は上か下か。自分の様な人ばかりだったら大変だ。
国家が破たんしてしまう。

 毎日、これは、何事もなく続く。問題は起こっていないのだ。人々は自分の様にお金の為に働き、
何だか疲れつつ家に帰って、得たお金を使い何かを買っている。社会はそうやって回っていると誰か。

・・・何かどこかおかしい、気はする。

 自分の成績は、しばらくはそれほど伸びはしないだろう。年商50億円の会社だ、それだけの売り上げ、
それがあって、自分がこうしてつまらない話を考えていられると言う事は。問題は起こっていないのだ。
単純に、自分の営業成績がそれほど芳しくないだけの事だ。しかし、どうやれば20万円の利益を、
得る事が出来るのか。社長や先輩方には違う世界が有るのだろう、多分そうだ。

 ふと電車の中を見回す。一様に、或いは。自分と同じような顔に見えた。漠然とした不安の様な、
違う様な。そう言えば、何年か前だ。電車が線路を脱線してビルに突っ込んだ事故が有った。ここは、
その線路ではない。ただ、自分が乗った電車は。果たしてどこへ向かっているのか?

 窓の外を、昨日と殆ど変らない景色が流れていた。そこに、自分の顔が映っていた。

259:目詰まりを起こした感情論
13/03/16 05:05:16.80 .net
3.
 電車は、やがて、目的の駅に付いた。多くの人々がそこで降りる。自分も流れに流される様に、
電車から押し出される。混雑する駅の改札に並びつつ、定期を取り出して。雑踏は同じ向きに、
進んでいる。やがて駅ビルを出ると、人々はやがてちりじりに、街の中へと消えていく。

 横断歩道の前で、信号を待つ。行き交う車、立ち並ぶビル。問題は起こっていない。単純に、
自分の営業成績は振るわず、会社は年商50億円で、月の手取りが20万円なだけだ。僕は。

 信号が、青に変わる。スイッチが入った様に、僕は歩き始めた。

 スイッチが入った様に、歩いている。スイッチだ、それで、僕は動いている。目詰まりを起こした、
何かのロジックは今は。特に何も言わなかった。だから僕は、ただ前に歩き続けた・・・なんだ、これ?


次、「USBメモリはサイコロの数値」

260:USBメモリはサイコロの数値
13/03/16 15:08:17.37 .net
ある冬の晴れた暖かい午後、老夫婦が縁側でお茶を飲んでいた。
「今年もそろそろ終わるな」
「そうですね」
庭には可愛らしい雀たちが羽を振るわせじゃれあっている。何処か近くで遊んでいるのだろうか、子供たちのきゃっきゃという声が聞こえてくる。
「来年はどうなるだろうな」
「そうですね、増えるといいですね」
「減るかもしれない」
「そうですね」
雲がいい塩梅に日差しを柔らかくしている。猫がてくてく表れて雀たちが飛びたった。
「どうしてこうなんだろうな、まるで失うために得るみたいだ」
「でも、ずっと減らない人もいるみたいですよ」
「そんなのはごく稀だ」
猫は庭の真ん中でちょこんと座り、毛づくろいをはじめた。
「最近こう思うようになったんです。例えば……」
老婆はちょうど通りを横切った子供たちを見て言った。
「あの子達は私たちの孫かもしれない」
「そうじゃないかもしれない」
「そうですね、でも私たちが何かをすれば私たちに残らなくてもそこには確かに何かが残る。そうやって紡がれると思うんです」
「うん」
「それに……」
老婆はそっと手を伸ばし、老爺の手に触れた。
「あなたの事を忘れなければそれでいい」
「……俺もだ」
日差しは暖かったが、お茶は既にだいぶ冷たくなっていた。老爺は入れ直してくれと言いかけたがやめ、そのまま冷たいお茶を飲み干した。


次題 「月がいっぱい」

261:月がいっぱい
13/03/16 22:10:26.32 .net
 その扉の向こうには、月の世界が広がっている。

 月の世界、そこは地球とは異なる環境だ。地球の月は重力が1/6だが、”月”
への扉は幾つかあって。ともかく解っている事は。そこは地球とは違う環境だと
言う事だ。独自のルールがあって、独自の生態系とかがあって。美的感覚も微妙
に違う。とある月には猫しか居なかった。誰かがそこに犬を持ち込んでみたが。
やっぱり、犬も居心地が悪くなって吠えてばかりいて、連れ戻してもらったらし
い。

 月は、いっぱいある。月への扉が見つかったのは最近の事だ。訳知り顔で「ず
っと昔からあるよ」そんな事を言う奴もいるが。月への扉は最近見つかったモノ
だ。それまで夢だった事が、現実だと解った。知らずに迷い込み、地球から消え
た人々が見つかったりもした。喜んで帰ってきた者もいれば、そのままその月の
世界で暮らしている人も居る。

 月の世界は、現実と大差ない。ただ今でも、”そこ”がどこなのか、解ってい
ない。調査が続いているが、芳しい成果は出ていないらしい。地球の月の表面は、
相変わらず殺風景なクレーターが広がり大気も無いが。地球の月の世界は、綺麗
なウサギ達が暮らしていて、おとぎ話の何かの様に、緑広がる奇妙に牧歌的な世
界だ。

 猫の居る月に送られた犬は、それ以来すっかり、猫が嫌いになった、らしい。

次、「抽象論と謎かけは水割りの値段と等しい」

262:名無し物書き@推敲中?
13/03/25 20:04:00.57 .net
なあ妹よ。
ここに一杯の強い蒸留酒があるとする。
このまま飲むのも当然ありなわけだが
これを水で割ると、飲みやすくなり量も増えるわけだ。
人生も同じことがいえないか。
強い奴はいい。辛い現実もそのまま飲み込めるだろう。
俺は弱い。だからこうして時間をかけて少しずつ受け入れる。
そして全て受け入れて初めて人間は次へ進めるんだ。
それでいいと思わないか。ん?
だったら俺のは割りすぎだって?
これじゃあただの水だって?
わかってないな。
ワインに汚水を一滴入れるだけで全部汚水になるんだぜ。
酒が一滴でも入っていればそれはもう立派な・・・
何だどうした妹よおいこら待てって。


次は「着地点は猫の額」で

263:着地点は猫の額
13/03/27 17:32:54.10 .net
「着地点は猫の額」

 今はもう、いつ戦争が始まって、俺がこんな状態になっちまったかさえ覚えてない。
解ってる事は。自分は今は核兵器を抱えてた爆撃機に乗って発進し今は抱えたそれは、
載ってない事だけだ。何度目の、こいつに”載って”の爆撃かもう忘れた。それでも、
数十回でしかない筈だ。今の自分はもう。1、2、たくさんとか?計算してたらしい、
そんな原始人と大差ない。体がスティックを操る度に、それでも聞こえる駆動音が、
なんだか眠気を覚ましてくれる。乗っているんじゃない、俺は、”載っている”のだ。

 戦争が始まって直ぐ、世界は核兵器の打ち合いになった。良くも悪くもだ。幾つか、
双方だ、敵に命中して壊滅的な被害を出したが。殆どは途中で撃ち落とされた。原爆、
その重さや精度へそれまでに十二分な防衛網が構築されていた両国はやがて全面的な、
物理的衝突へと発展。自分も最初は歩兵だった。気づいた時には被弾し四散していた。

 自分は運が良かったのかどうなのか。体の半分以上を吹き飛ばされても生きていて。
国はそんな俺へ、わざわざ機械の体を与えて蘇生させた。蘇生に対して条件は出てた。
戦闘機へのパイロットに転職しろと言われた、二つ返事だ。だから俺は、今日も空を、
この”体”と共に飛んでいる。良くも悪くもだ、放射能に汚染された水を飲む必要は、
今はない・・・もっとも、”補給”されるそれが汚染されてないとは。思ってないが。

264:着地点は猫の額
13/03/27 17:34:10.48 .net
 既に、地表の生命の8割近くは滅んでしまったらしい。高濃度の放射能汚染だ。
死の雨なんか日常茶飯事で、多分、人間と言える存在ももう居ない。殆どが俺の様な、
半分機械で出来た体で暮らしている・・・自分は特にひどい有様だ。人型の体は、
この戦争が終わってからで無ければ貰えないと来た。放射能にまみれた世界の空を、
今日も任務をこなし帰っていく。雨あられと飛んでくるミサイルや敵機をかわすのは、
まだ楽しい。猫の額ほどのターゲットにブチ込んでやった時は。スカッとする。

 今、眼下に見えるのは空母だ。それでも、幾つか被弾した機体で正確に降りるには。
流石に不具合が出てる。着艦にこんな緊張するのは久しぶりだ。ゲームの難易度がずい分、
上がっている。空母の滑走路が見える、博打をするには狭すぎる。危険だ。

ふと思った。目の前に麻雀の牌。安牌は無い。降りたくても今はもう自殺も出来ない。

 猫の額と、空疎な期待と。結果が同じなら…どっちがマシだろう?


次、「桜は猫を見ている」

265:桜は猫を見ている
13/03/28 08:45:32.74 .net
公園の隅からか細い声が聴こえてきます。
ミャアミャアと鳴くその声は幼い仔猫のものでした。
まだ肌寒い清明の夜にかような仔猫の居よう筈もなく、
大きさからして時期をずらした人工繁殖の仔猫だと思われます。
ならばこの子は捨て猫でしょう。

日本の猫は全てイエネコという種であるそうで、野生になど完全には対応できよう筈が無いそうで、
ましてやまだ自力では生きられそうにない幼い仔猫が、この寒空の下生き延びるのにはどれ程の奇跡が必要なのでしょう。

桜は泣きました。ホトホトと花びらを散らし。
ああ。なぜ今なのかと。
せめて仔猫の来るのがあと数日早かったらと、
私達の散り行くのが後数日遅かったらと。
薄く色付くピンクはもうすでにあらかた地面へと撒かれていて、
さながら白い絨毯のように仔猫の足下を埋め尽くしていました。

鳴き疲れたのか冷えてきたのかうずくまってしまった仔猫へと、桜は優しく残り少ない花びらをかけてやります。
この淡い赤が少しでも熱を伴って、仔猫を暖めてくれれば良いのにと願いながら。


次は「薫風と菫の動物園」

266:薫風と菫の動物園
13/04/04 10:02:54.93 .net
薫風と菫の動物園

薫風は、今日も、動物園に出向いた。
そこは普通のそれとはちょっと違う。みんな、少女の姿をしている。
薫風には、良く行く檻がある。そこには”菫”と言う名のキリンがいて。
薫風は金を持って居るので。その檻の中に入る事が出来る。楽しいひと時だ。
その夜も、薫風は菫と楽しく遊んで、そして二人で、眠りについた。

次の朝、薫風が首筋の痛みで目を覚ますと。隣で寝ていたはずの菫は姿を消していた。
気付くと、首に奇妙な”首輪”がされていた。ワイヤーが少し食い込んでいて、
首の後ろには箱状のモノがあり、激痛はそこから発せられていた・・・刺さっている。

動物園は、もぬけの空・・・だ。そして薫風は檻の中に居た。檻には鍵が掛かっている?
ともかく、檻を破る事が出来ない。そのまま狼狽えつつ、気づく。ワイヤーが少しずつ締まってくる。
様々な事が頭をよぎる。後ろの”それ”が、爆弾だったら?自分だったらどうするだろう?
切ったとたんに爆発する様にする。もちろん止められない様に、万全の対策はするはずだ。

これは、気まずい状況だ。薫風は悩んだ、とにかく首輪を、直ぐに、外さねば、ならない。
何故、こんな事になったのか。とにかく、首輪を外す方法はある筈だ。


次、「カーテンの向こうに戦闘機」

267:カーテンの向こうに戦闘機
13/04/13 01:19:46.61 .net
某所、窓のない部屋で。
彼は一点を見つめている。



僕にカーテンをめくる度胸はない。
かと言ってそのまま引き下がれる程日常が満たされている訳でも無かった。
幾度も布に手をつけては首を振って距離を置く。

たった数ミリの境ではないか。
勢いよくはぎ取ってしまえればいいのだが、そうもいかない。
いっそこの場所から離れられたらいいのにと思う。
それかひと思いに舌を噛みきって自害でもしようか。

気にするから気になるのだ。
気にしなければいい。

そう思い、カーテンに背を向けた。



カーテンの向こうは戦闘機だった。
バカげた話だが本当のことだ。
数ミリ先を覗く事すら出来なかった彼の負けとなり、醜いまでの銃口は彼の頭を覗いている。

某所、窓のない部屋で。
とある実刑だった。
カーテンの向こうには戦闘機が置かれている。

●●●●
次は「青いボレロとジンジャーエール」。

268:青いボレロとジンジャーエール
13/04/14 00:23:13.90 .net
「パパ、あの人の肩のとこについてるマークは何?」
小学生の娘が尋ねた。私はちょっとびっくりしたが、すぐに納得する。
ああ、いまの子供はあれを知らないんだなあ。
「あれはね、北海道。昔はああいう形の島だったんだ」
「ふーん。リクチかぁ」娘はそれ以上は訊かない。興味がないのだ。
夏の甲子園は大入り満員だ。アルプススタンドには人がひしめき、
板張りのフィールドで繰り広げられる熱戦を楽しんでいる。
ピッチャーの裸足が高く上がる。と、セーラー服の上に羽織った青いボレロがはためき、
白球がバッターボックスに投げ込まれた。空振り。ツースリー。
あと1球しのげば延長戦だ。ピッチャーがふたたび振りかぶって、渾身の球を
キャッチャーミットへと投げ込もうとする。そして、快音―。
わあっ。客席がざわめき、眼下の選手たちが訓練された動きで位置を変える。
ボレロの肩に鶴の刺繍をした群馬丸のバッターが、白線に沿ってダッシュした。
どーん。外野に落ちたボールがバウンドすると、マホガニーの床が太鼓のような音をたてた。
「3塁ー!」誰かが叫ぶ。が、ボールを掴んだライトが送球動作に入ったとき、スタジアムの底で
兵庫丸の竜骨がうねりに乗り上げた。甲板が揺れ、球がすっぽ抜けた。
ランナーが回る。裸足の指で板を掴んで、ハーフサイズのダイヤモンドを回ってゆく。
サードが悪送球を拾う頃には、バッターは本塁に向かって滑り込んでいた。
サイレンの音。涙を流す北海道丸のナインと、笑顔の群馬丸ナインが列を作り、
ありがとうございましたと叫び声をあげた。
「北海道、負けちゃったね」娘が言う。「うん。残念」そう答えてみた。だが、実のところ、
あまり感慨はなかった。私は北海道出身だが、あくまでリクチの出身であって、日本沈没後に
編成された47艦隊に属する『北海道丸』の乗組員ではないからだ。
「次の試合、岐阜と秋田だって。どっちも小船ね」パンフレットを読む娘に相槌を打ち、
私は売り子に手を振った。「お姉さん、ジンジャエール、2本!」
―2033年夏の甲子園大会。世界は滅びたみたいだが、スタジアムが切り取る深い深い青空は、
子供の頃見たそれとなんら変わることがない。
ああ空よ、そのままでいてくれ! せめて、この子が大人になるまでは……!

次「黙れ大仏!」

269:名無し物書き@推敲中?
13/04/19 18:17:01.78 .net
「黙れ大仏!」

昨夜のそれは、夢だ。
昨日の夜、窓の外では怪物と、”大仏が”戦っていた。
怪物は”自分が描いたモノ”で、それを大仏が、街中で派手にねじ伏せていた。
朝起きた時、外は何事も無かったが、アメリカの方では、爆発事故があったらしい。
外を見る。窓から良く見えるところに、巨大な大仏がある、ここからは小さく見える。

自分はアメリカ人だ。日本よりはアメリカの方が好きだ。何故か日本に暮らしてる。
自分の描く物はネットでは相応の評価を受ける、ツイッターやFacebookの評価も良い。
しかし何故か、日本のメディアでは、今の所はウケた売れた採用された事は…無い。

大概、いつもの様に、だ。笑みが浮かぶような傑作が出来た夜は、あんな夢を見る。
日本の街を蹂躙する巨大な怪物、それは、自分の描いた物だと解る。
それはパワフルに光線やら火炎やらを吐きつつ街を蹂躙するのだが。
そんな事をしているうちに、大仏が現れて、倒してしまう。
夢を見た後、大概はアメリカの方で何か事件がある。そして作品は、売れない。

遠目に見えるあの大仏は、コンクリート製の、なんというか安っぽい奴、だ。
しかしそれに、自分の作品はことごとく破壊されてしまう訳だ。仏像光線!とか、
聞こえた時は。うっかり起きてから、目覚まし時計を投げ壊してしまった。

結局あの仏像に勝てない限り。自分の作品が日本で受け入れられる事は無いのだろう。
負ける度に、本国の方では被害が出る。関連性とか、夢での立場とか、自分の罪とか、
いろいろ考えはするが。自分はアメリカが好きだ、日本はそれほどでもない。だから。

何となく、TVを付ける。あの仏像が映っていた。桜祭りの会場から見えるらしく、
それには集客効果もあるらしい?にぎわう人々の向こうで、それがTVを通して、
自分を見下ろしている。相変わらず何か言いたそうだ。ただ、黙れとは、言いたい。


次「線と千弘のニャルラトホピー」

270:線と千弘のニャルラトホピー
13/04/20 10:20:34.17 .net
千弘(せん ひろし)は木材輸入会社の課長であった。空を夢見る少年だった弘は
パイロットになりたいという夢を諦め、南洋航路の商船にパーサーとして乗り組み、
海上の一線を往復すること10年。結婚し陸に上がり、気づけば定年間際の59歳。
人生も終盤に差し掛かっていた。
娘2人に気の優しい妻、横須賀に戸建ての一軒家を持ち、悪い人生ではなかったと
思いたい。思いたい、が……。
ある日曜の朝、2階のバルコニーから横須賀の港とよく見知った青い海、波の上を
飛ぶ鴎たちを見て、寂寥の風が心の奥を吹きぬけるのを感じたのだ。
と、視界の端、浦賀水道の上空を、一片の白い影が舞っているのに気がついた。
鳥か。いや大きい。飛行機か。いや小さい。部屋に戻って双眼鏡を取ってくると、
弘は日差しにきらめく一対の翼をレンズにとらえた。それは動力のないグライダーだった。
A r t h o b b y。胴体の脇には、メーカーのものだろうか、洒落たセリフ体の文字が描かれている。
弘の心の目に、その姿は強くくっきりと焼き付けられた。
その日の午後、横浜の書店でアートホビーというポーランドのグライダーメーカーを知り、
またそれが自分に手の出ないものであることも知った弘は、家へ帰り、会社から持ち帰った
端材を使って、小さな模型を作ることを思い立った。
きっとあのグライダーも木でできているのだろう。弘の人生と翼の共通点は、そこにしかなかった。
ポーランドには多分南洋桜はない。赤く柔らかい材は木彫りには適しているが、
飛行機を作るにはあまり向かないだろう。しかし完成してみると、柔らかい木目が
ちょうど板の合わせ目にみえて、なかなかのできばえに思えた。
弘はその模型を会社のキャビネットの上に飾った。
「課長、いいですねそれ。ニヤトーですか」部下によく訊かれる。ニヤトーとは南洋桜の英名だ。
弘はよく夢想する。会社の壁に掛けられた太平洋の海図の、横須賀とニューギニアを結ぶ
赤い線の上を、この小さなニヤトーのアートホビーが飛んでゆくさまを。
その線は彼の人生のすべてだった。
- a small story of Nyatoh Arthobby, The History of Nanyo Wooden Trading co. (1987)より。

次『昼は狼、夜は羊』

271:昼は狼、夜は羊
13/05/02 23:19:16.01 .net
「食べていくためには仕方が無い」
これが、これだけが俺達のルールであり信条であり身上でありなによりの心情だった。

ボロボロのフェンスを境に貧富分かれた街の貧の方、所謂「貧民街」と言われる所。俺達のテリトリーだ。
俺達は貧民街の中でも特に貧しい身の上だ、何せ皆親無し家無しの捨て子だからだ。勿論金も無い。
そして御他聞漏れずロクな仕事も無いもんだから、フェンスを越えてはスリにかっぱらいと人様に迷惑かける鼻摘み者。悪いのは分かってるさ。
そんなんだから手を差し伸べてくれる大人なんか居ないし、助けが無いのだから生きるために悪いことをする。悪循環、っはは。
フェンスの向こうからは全面的に嫌われるし、こっちでも関わると一緒くたにされて睨まれかねないから関わる奴は少ない。
全部理解してるしそれに不満たれることも無い、生きるのに精一杯必死なんだ。収穫の愚痴は言うけどね。
俺達は夜明けとともに狩りに出る、朝に開店準備中で慌しくしてる店から気付かれないように幾つかの品を。
昼になって人が多くなったらグループで逃走経路を確保しながらスリを。財布は返してやるけどね。
夕方には皆で収穫を集めてそれから飯を喰らう。
俺達はいつでも飢えているんだ。

夜になれば廃墟で皆一塊に集まって眠る。
この廃墟は屋根つきで壁もそんなに崩れていない良い所だ。
何せ元々住んでた同じ浮浪者のおっさんを追い出して奪ってやったもんだからな。
最初はお願いしたんだぜ? だけどおっさんは俺達の仲間の女の子を要求してきやがったから殴った、そしたらすぐに逃げた。殺すつもりだったんだがな。
体も成長してないし何よりろくに食ってないからガリガリなんだ、その女の子は。
そういうのはもうちょっと成長して本人が了承してからじゃないと駄目だ。
生きるのに必死なんだ、無闇に死なせたくはない。

皆で固まって眠っていると月に一度は誰かのすすり泣く声が聞こえてくる。
不安で、不安で、不安。お腹も空いてる。
行き先なんて見えなくて、生き先なんて見えなくて。
行く当てもないし、生く当てもない。
誰かが救ってくれるのを夢見る。きっと救いの無い明日が待ってる。

鳴いて震えて、それでも明日は吠えるんだ。


次は「コンドロイチンと夢見錠」

272:コンドロイチンと夢見錠
13/05/08 00:11:03.50 .net
瓶に残ったコンドロイチンを全部飲む。
徐々に身体が温かくなり、シャボン玉が弾けるような綺麗な光の破裂が視界の色んなところで始まる。全てのものから棘がなくなり、全ての他人が愛の手を差し伸べる。
僕はドアをカーテンのように開き外に出る。外は晴れだった。
階段の手すりを滑り降り、スキップよりも軽やかなステップで表にでた。
電柱のアーチ、空き缶の拍手。野良犬や野良猫、隣人の愛。誰とでもダンスを踊れる。愛している。愛されている。
幸福だ、全てのものが僕を幸せにする粒子を発するものになったのか僕の全身が感度の良すぎる受容体になったのか、あるいはその両方か?
このまま永遠との節目が無くなっていくのかと思ったその矢先、突然大雨が降り出した。だが問題ない、むしろ好都合だ。雨は人との距離を縮めるから。
近くの軒先に駆け込むとやはり同じタイミングで女性が駆け込んできた。僕は空をうかがいながら声をかけた。
「酷い雨ですね」
「ええ……」
「散歩の途中だったかな?」
「……ええ」
彼女の反応はこの世界にそぐわない歯切れの悪さだった。僕の頭の隅で何かがカサカサ蠢いたが無視して僕は続けた。
「しばらくしたら止むで……」
「コンドロイチンを飲みましたか?」
「え?」
「コンドロイチンを飲んだのかと聞いているんです」
女からは温もりがなかった。口からレシートのように淡々と言葉を吐き出す。磨りガラスが迫ってくるような感覚。
「君は一体何を言って……」
「コンボロイチンを飲んだのではないですか?」
「え?」
「あなたが飲んだのはコンボロイチンの方ではないですか?」
「そんな、まさか……」
コンボロイチンはコンドロイチンに非常によく似ているが劇薬だ。「夢見錠」とも言われている。しかし、そんなまさか。
「いや、僕は」
「間違えないで下さい、今度は間違えないで……」


目を開くとそこは僕の部屋だった。外は雨でとても暗かった。右手に握った瓶を見るとそれはただの睡眠薬だった。そして僕は左手に握った彼女の細くなった手を胸に抱きしめた。

次のお題「イパネマのドラ息子」

273:イパネマのドラ息子
13/05/08 13:51:28.44 .net
自分は今は、イパネマの海岸でサーファーショップを経営?してる。

親は近くにデカいホテルを持ってる、リオデジャネイロでデカい銀行の頭取でもあり、
やり手だ。とは言うが一応、店の資金は自前で出した。そのくらいは。金を持ってた。

イパネマの波は今も穏やかで、ウチも、サーフショップと言うより殆ど貸ボート屋だ。
にもかかわらず経営は順調。唯一の懸念としてはサーフボードが売れない事くらいで。
毎日起きて、定時まで店に座り、客の要求に応じてボートを出し、軽いモノを売る。
店を閉めたら趣味の時間だ。店の裏に置いてある自分のボードで、海へと漕ぎ出す。
大波は、無い。天気の悪い日じゃ無ければ小波も無い。夕暮れに成れば陽も赤く、
居るのはまあ。夕日に何かのロマンを求める若いカップル位だ。そういう連中には。
自分のボードなど、自分も含めて見えていないだろう。ジョーズでも来ない限り、
ここには何の問題も無い。水をかいて沖の方へ向かう。波が自分を揺らし始める。

ふと波に揺られつつボードの上で仰向けになる。夕日は照らし、空は夕焼けに染まる。
ここには、何の問題もないのだ。この空の果てから何かが襲来するとしても、
その何かは見えない。突き抜ける夕闇に、やがては星空もきらめいてくる。
今はただ、浮かんでいるだけだ。ただ、それだけの時間。それが過ぎて行く。

サーフボードと共に引き上げつつ、ふと海の方へと視線を向ける。
”ここ”は楽園だ。ただ多分、若い奴が居る場所じゃない。
自分は何故ここに居るのか?それは今は、考えたくない事だ。

いろいろ、あった。自分は今は、楽園に居る。

次「空に浮かぶ空」

274:空に浮かぶ空
13/05/14 14:47:57.94 .net
「おいおい、何だアリャ?」
兄貴が呆れたような声をあげた。
白いおんぼろセスナが悲鳴にも似たエンジン音を上げ、私の横をかすめて行く。
「えらい急角度だな」
青い空にゴール地点でもあるかのように急上昇してゆくセスナの垂直尾翼を見上
げながら私は言った。
「度胸試しってやつか?人間ってのは寿命を縮めるのが好きな輩もいるからな」
そう言うと兄貴は笑いながら体を錐もみ上に回転させ、豆粒のような島々が見える
眼下へ矢の様に落下していった。
私は白いセスナに目を戻した。
いくらなんでも急上昇しすぎだった。
私は体を前かがみに収縮させ、いっきに伸ばし、浮上した。
セスナの真上にあっという間に並ぶ。
コックピットに顔を近づけると顔を紅潮させた初老の男が操縦していた。
後ろの席には、死相をうかべた少年がぼんやりと座っている。
セスナが上昇を止め、今度は打って変わり、急降下を始めた。
ラダーや翼がたわみ、軋んでゆく。
ぴったりと機体に張り付き、窓からキャビンを私は覗き込んだ。
ガラスを挟んで数十センチの位置にいる少年に私の姿が見えるなら今頃
悲鳴を上げていることだろう。

少年の体がふわりとキャビンに浮かび上がった。
うつろな表情が力ない笑顔に変わり、弱々しく両手をまわす少年。

これか。

初老の男の意図がわかった私はセスナから離れた。
翼には大きく「空」というマークが描かれていたが何かの意味なのだろう。
セスナは再び上昇することなく海に落ちるのが見えた。
私は再び空のかなたへと飛んだ。

次「イカした車は東へと向かう」

275:イカした車は東へと向かう
13/05/15 20:24:39.16 .net
「イカした車は東へと向かう」

街で買い物をして。その紙袋を抱える私の隣に、一台の奇妙な車?が止まった。
”そいつ”は、私に車を見せつつ言う。やたら車体からごちゃごちゃと突起が出て、やかましい。
 「ヘイ彼女、面白いレースが有るんだが一緒にイカないかい?このイカした車と一緒にさ?」
レース場までイカす音楽を聴きながらのドライブはサイコーにイカしてるぜ?とまで、言う。
レースの事は知っていた、正直、イカれた連中のイカれたレースだ。排気量に上限なし、
4輪で有ればジェットエンジンだろうが亜空間ドライブだろうが。何を積もうとかまわない。
バカバカしいくらいにチューンした車で、生死不問で走る。荒っぽいじゃすまないレース?だ。
もちろん相応金は出る。それで生活するプロも居ると言う話だ。目の前のこいつは違うだろうが。
毎年、そこで何人も死人が出ると言う。目の前のこいつはそれを知っているのかどうか。
 「貴方、勝てる自信があるの?」
 「もちろんだよ?見ればわかんだろ?この車に勝てる奴は、居ないね」
私はため息をついた。そういう事なら。答えは一つだ。
 「遠慮しとくわ、まだ命が惜しいから」
 「・・・そりゃ、残念だ」
それで、一瞬顔を歪ませた後、そいつは苦笑しながら。
バカみたいな排気音を立てながら、走り去って行った。
また、溜息をついた。苦笑も混じる。そういう奴も居ないと、盛り上がらない。
進路は東、私は今は、巨大な橋を渡っている。この橋を渡る奴は、その目的は一つだ。
そこに有るのはイカれたレース。現実と空想の狭間を隔てる先に、見えるモノ。
ゲートをくぐればもう、世界は変わる。その時から始まるサバイバルなスリル。
さっきの男と、ゴールで会えるかどうか。それは、賭けてはみようか。

次「恐竜の住む鳥かご」

276:恐竜の住む鳥かご
13/05/29 16:55:18.03 .net
「ばりばりむしゃむしゃごっくんにならないようにな」
両手を咀嚼する口のように動かし、頬を紅潮させエミリオは笑った。
絶えず激しい振動を繰り返す機内は、吐く息が白い寒さだった。
対面して座る隊員は総勢18名、プテラノドンやらスピノサウルスやらを倒した
猛者連中だ。
「間もなく着陸地点に到着、各自備えよ」
隊長の振り下ろすナタのような声に隊員達は背筋を伸ばし、膝の上に両手を組んだ。

アメリカ中西部に突如現れた白亜紀の世界。
そう、それは失われた世界。
当初一キロほどだったその世界を、巨大な壁や鉄格子で囲った。通称“恐竜の住む鳥かご”である。
しかしそれは徐々に拡大していった。
そして今や北アメリカ大陸一帯が失われた世界に塗りつぶされた。

「次元の狭間」と研究者は分析し、根源となったアメリカ中西部の洞窟の地下深くにそれはあると
特定された。
我々はこれからそこに赴き、専用に開発された携帯型原子爆弾を打ち込むに行くのだ。
人間をちょこまか動く肉片にしか見えてない恐竜どもを数十匹は粉々にできる武器は持っている。
後は任務を遂行するだけだ。

ああ、しかし外から響いてくる遠雷のような唸り声の数々。
着陸地点に近づくにつれ聞こえてくる獰猛な雄叫び。
どんなに騒いでも無慈悲に生きたまま食い殺される餌にはなりたくないという恐怖がこみ上げてくる。

神よ、どうかご加護を…


次「荒廃した世界のベースボール」

277:荒廃した世界のベースボール
13/05/31 18:07:40.80 .net
「荒廃した世界のベースボール」

今から数百年も前の話だと言う。その穴から、巨大な怪物らが現れて、人々の生活圏を脅かした。
人類は当初、彼らを恐竜の様な存在だとしか、思っていなかった。重火器やヘリ、戦闘機、ミサイル、
数多存在する兵器を駆使して殲滅出来る存在だと、そう考えていたが。「大崩壊」と今は呼ぶ、
大規模な掃討作戦の結果。恐竜達は違うモノへと変化していた、口から炎?を吐き、空を飛び、
異様な触手を伸ばし、人間を狙い、食い始める。防壁は恐竜達の火力に全く意味を成さず、
核兵器は奇妙なバリアー?に防がれ、逆にそれを糧にでもしているのか・・・、より、増殖を始めた。

近代兵器が意味を失って、なのに、それでも人類は何故か・・・滅びはしなかった。
ふと目の前を、バットとグローブを持った少年らが、走っていった。

今は、「ハンター」と言う人々が、人類の生活圏を守る”仕事”をしている。最早「怪獣」だ、元は、
子供らのあこがれでも有った恐竜が”変質”したそれは。何故か人類が手にする刀剣などの武器、
そういうモノなら倒す事が、出来た。怪獣共は、人類の文明を食い尽くそうとしていて、それは今も、
彼らの主な行動原理ではある様で。だから”ここ”は、その近代文明を捨てた村は、それでも奇妙に、
牧歌的な日常が続いている。

村の外に出れば、そこは怪獣共の暮らす荒れ果てた荒野だ。村から村へ移動するにも命がけ、
そんな世界で今日も、子供達は広場でベースボールを続けている。この新しい時代に生まれた、
彼らはこの世界を狂っているとは思わない、らしい。子供らは、真剣に、球を追い掛け、投げる。

それは奇妙な真剣さ、だ。この村は平和だ。怪獣共が襲ってくる事が何故か、無い。
ただ自分の目からすると、子供らの野球への真剣さは、少し度が過ぎている気は…する。
彼らには、自分には見えない何かが見えていて、”解っていて”、或いは戦っているのか?
何故かふと、そんな事を思った。

次「山の上に卵」

278:山の上に卵 1
13/06/01 06:29:12.86 .net
右も左もわからぬような暗闇の中、私の意識は覚醒した。
ただただ狭苦しく硬い壁に囲まれて私はぷかぷかと浮いていた。
記憶という記憶は持ち合わせていなかったが、どうにも窮屈さを感じどうにかここから出たいという衝動が芽生えた。
内側から割って出ようとはしてみるものの、叩こうが蹴ったくろうが強固な壁はビクともしない。声を出そうにも
水の中で漂う私の喉は上手いこと動いてくれない。
どうしようもないので途方に暮れることにしたが、途方もない時間にもはや暮らす方もなくなり、
なんとかならぬものかと激しく動き喚いてみた。
ゴトリ。
初めて聞いた壁の外の音に、私の胸はビクンと跳ねた。
何かが倒れたようなその音と同時に世界が傾くのを感じ、この壁が球形なのだと確信した。
きっと、この外殻が転げ回らないよう支えていたつっかえのようなものが倒れたのだろう。ならばしめたものとばかりに、
私は更に激しく動き自らを転がそうとする。
だんだんと速さを増し回転する外側の勢いを感じ、この調子と動きまわっていると、一瞬上に押し付けられるような圧迫感を受けた。
回転は止まってはいないが、先ほどまでと明らかに違う感覚。
浮遊感のある液体の中で更にふわふわとした違和感を感じる。
一体これは何なのだろうか、この外殻はどうなっているのだろうか。
びりびりと焦っていたその時。
バリン。
大きな音と衝撃、それと共に、暴力的な光が目を焼いた。
全身の痛みと肺を満たしている液体によって呼吸ができない苦しみに身をよじらせる。
強烈な寒さの中、どうにか現状を把握したくて、げえげえと嘔吐するのも構わず顔を上げた。
視界は朧だが、棒状に高く伸びた鉄製の建築物を見つけ、どうやら先ほどまで自分がそこにいたであろうことが推測できる。
周りを見渡すと同じような建築物があり、そのてっぺんに卵型の物体がある。
これはどういうことなのだと狼狽えていると、私を覆っていた、今は割れてしまっている殻にモニターがあるのを発見した。
モニターの下にボタンが付いており、一瞬躊躇ったが、それを押してみた。
するとアルファベットのロゴと胡散臭い男が映し出され、男は顔を笑みで歪ませながら喋り出した。

279:山の上に卵 2
13/06/01 06:35:13.42 .net
「わが社の冷凍保存サービスを御利用いただきありがとうございます!
少々手荒い方法での御起床となられたと思いますが、これも我が社のハイテクノロジーさ故であり、
計算しつくされた落下高度による衝撃によりあなたの脳は完全に覚醒されたかと思われます!
さて、この度の冷凍保存サービス、延命技術の発展を待つことができないという欲張りなあなた様の為でしたが、
そちらの時代ではお望みになられていた不老不死は実現しておりますでしょうか?
我が社の社員一同、お客様の御要望が叶われておりますことを心よりお祈りしております!
それでは、5万年後の世界で素晴らしい生活をお送り下さいませ!」

映像は義務的に途切れ、モニターにはそれ以降なにも映し出されなかった。
今しがた見ていたものを頭の中で繰り返し、やっと思い出した。
科学の力に背中を押された人間の驕りは、不老不死の完成と5万年もの繁栄という幻想を
実現可能な未来の話として自分自身に信じ込ませていたのだ。
私もそんな愚か者どもの一人であり、夢と妄想に固執して冷凍保存などという手段を取ってまで自身の欲求を叶えようとした。
その結果は、まだ光を受け入れられない私の眼でも容易に判断できる。
小高い山の上から見たものは、うるさく突き刺すような眩しさと対照的な、何もかも何一つ失われていた世界だった。
絶望や失望に滑稽さが混じり合い腐れた気分で満たされた頭を上へと向ける。
規則的に並んだ建築物の上で、いくつかの卵が蠢いている。
そのままでいた方がよっぽど幸せだろうに、あの卵どもは今にも孵化しようとしているのだ。
きっと止めた方が良いのだろう。強制睡眠の機能を使い安楽死させてやったほうがよっぽどに幸せだろう。
だが、最早私はそんなことをしようとも思わない。
既に生まれてしまった私には道連れが必要なのだ。
私は、己自身を落とし割ろうとしている卵を見つめ、遥か昔に読んだ動揺を思い出しながら呟いた。

「誰にも戻せない5万年後へ、ようこそ雛たちよ」


次「スマホスタンドにもたれかかる鉛筆」

280:スマホスタンドにもたれかかる鉛筆
13/06/01 09:45:04.83 .net
「スマホスタンドにもたれかかる鉛筆」

目の前には、コピー用紙がある。
もちろん。・・・いやそれじゃ困るが、白紙だ。
締切の時間はまだ結構、ある。だから、焦る必要はそれほど無いのだが。
いつもの事だ。時代錯誤、だ。シャーペンでさえない。鉛筆と、コピー用紙。

「デザイナー」と言う仕事は、なかなか仕事と言う認識に成らない。肩身の狭さが切ない。
サブカルチャーの業界なら尚更か、コピー用紙に描いたラフスケッチで数億?とか、言うのだ。
実際、実は仕事?の大半は、健康維持に費やされる。ロボット玩具が何故大概人型をしているか、
それは自分の中では一つの答えは出ている。作中で敵と戦い逃げ回るそれは、”誰か”だ。
現場の扱いはひどいモノだ、カタログスペックを猛進しすぎる気はする、そもそもロボットであって、
消耗品でしかない。昔の歩兵の気持ちが解る。”上”の連中は、勝手な事しか言わない。
昔は、パイロットが頑張ってくれたが。今はスマホ片手に乗るような感じ。現場の苦労は絶えない。

もっとも、最近は。そういう感じでもなくなったか。昔みたいに一人が全部創るような事が無いからだ。
システムが整備され、かなり軽く?は成っている。昔はウルトラマンだが、今は本当にロボットの様だ。
とは言うが。そのロボットに載って戦っているのは自分だ・・・、そこは変わってない気は、する。
今回も。流石にスペースコロニーを一機で運ぶのは・・・、骨だ。何機いても同じ事かもしれないが。

今の所スマートフォンは、この局面では当てにならない。検索してる時間にやられそうだ。
結局、白紙のコピー用紙に鉛筆を走らせるのが一番、正解に近い。パワーも出る。
今回の作品では、主人公機は強力な槍一本で戦う。万能の槍を手に、世界を救うそうだ。

スマホを脇に置いたまま。ついでに買った、スマホスタンドに鉛筆を立て掛ける。
鉛筆は偉大だ。何度世界を救ったか解らない最強の兵器。まだ、ここに有る。

次「充電中はご注意ください」

281:充電中はご注意下さい
13/06/22 18:02:31.50 .net
『充電中はご注意下さい』

豊かな黒髪。少し腫れぼったい瞼。セーラー服の乙女は熟睡しているようだ。その額、その腕、その肩、全身に白いコードが繋がっており、何かを彼女に注ぎ込んでいる。
ドアを勢いよく開いて男性が飛び込んできた。
「ママア、ママ~、起きてよママァ~」

60代過ぎ位に見える男性はスーツの上着を投げるように脱ぎ捨て、乙女に覆い被さった。

「ママァ、まああいつだよ~、あいつがまた俺を苛めたんだよ。俺より23も若いくせに、俺を無能扱いして、俺だって頑張ってるのに~ママァ~」
「何が報連相だよ、知らねーよママァ」

乙女の顔が苦しげに歪む。

282:充電中はご注意下さい
13/06/22 18:23:00.16 .net
『充電中はご注意下さい』続き
男性の脚がコードを踏んづけている。

「ママァ、俺がExcelの操作を失敗したら、あいつ鼻で笑いやがった、くやしいよママァ」

乙女は身をよじる。
男性は意にも介さず更にのしかかる。

「ママァ、あの女、ブスの癖に生意気なんだよお」

もう乙女は痙攣を始めた。
コードから注ぎ込まれる電気こそ乙女の命。充電切れはすなわち即死。
乙女は目をカッと見開くと男性の頭を力いっぱい殴り付けた。

乙女型アンドロイドは母にはなれない。母には二十四時間息子の面倒を見て欲しい、のならば充電切れがめったになくてどこまでも優しい昭和30年生まれカーチャン型アンドロイドか、戦前生まれ慈母型アンドロイドにしておけばよいものを。
セーラー服だの女子高生だの外部スペックにこだわりすぎたのが男性の間違いだった。

頭部に深刻な打撃を受けてひっくりかえる男性をよそに、乙女は再び眠りについた。



おわり。

283:充電中はご注意下さい
13/06/22 18:26:01.62 .net
次のお題は「ブラックコーヒー」でお願いします。

284:名無し物書き@推敲中?
13/06/24 17:56:45.49 .net
 『ブラックコーヒー』

 ねっとりした感触と、ざらざらした苦味が舌にまとわりつく。
 苦いものは苦手。だけど、大人の真似。こうやって、夜、公園のベンチで缶コーヒー。大人の真似。
 「大人」って大きな力の押し付けには、もう飽き飽きだ。言うことをすぐに変えるし。私をどこかバカにしてるし。私を見下してるし。
 ブラックコーヒーのように、脳に響く苦味、寒気。中2病?そうかもね。でもそれでいい。ちょっとカッコつけたこのスタンス。
 「はぁ…」
汗ばんだ右手から、爪ののびた左手に缶を持ち変えた。
 風が生ぬるく気持ちが悪い。
 私は立ち上がる。明日はテストだ。
缶を置き砂の付いた制服スカートを払ったとき、見上げた木が大きかった。
 私は、小さかった。

 次は「りんごの風」でお願いします!

285:りんごの風
13/06/30 22:22:37.57 .net
「青リンゴサワーください!」
僕の向かいの席で、彼女が注文する。それも、店に響き渡るような大きな声で。
「普通の女の子は、居酒屋なんて嫌がるのに君といったら。で、いつも青りんごサワーなんだね」
僕は苦笑する。
「なんでよ。青リンゴサワーおいしいじゃない。甘酸っぱい初恋の味だし」
「初恋が甘酸っぱいかは別として、僕のおごりの時はもう少しいい店でもいいんじゃない?」
「リンゴは私の故郷の味なの。いいじゃない」
頬を膨らませながら彼女は反論する。そんな彼女を僕はかわいいと思う。決して口にはしないけれど。

「青リンゴサワーお願いします」
僕は注文をする。目の前には僕の妻。
「あなた、居酒屋に来ると必ず青リンゴサワーなのね。子供っぽい」
妻はそんな僕をなじる。
「いいじゃない。好きなんだから」
『甘酸っぱい初恋の味がするし』とは妻には絶対に言えない。妻はやきもちやきなのだ。
僕の、すでに思い出になってしまった過去の恋人であっても、妻は許しはしないだろう。
学生時代の、初めての恋愛を密かに思い出しながら、僕はグラスに口をつける。
グラスの中で氷が転がる音がする。
傾けたグラスから風に乗って、微かに甘酸っぱいりんごの香りがした。
僕は少しだけ、過去のときめきを思い出す。

次のお題は、「梅雨空の雲の上には」でよろしく!

286:梅雨空の雲の上には
13/07/04 NY:AN:NY.AN .net
バスは曇天の中を走る。
一番前の座席は空がよく見える。
今日は一日雨が降ったり止んだりを繰り返していた。
隣のアミは口を開けて寝ている。
車内は静かだ。
濡れた路面を走るタイヤの、ホワイトノイズに満ちている。

昨年の12月に花束を渡されプロポーズされたが
1月には話がこじれて破談になった。
仕事は結婚すればやめようと思っていた。
その気持ちが滲み出たのか職場でのお局からの当たりがきつくなり
今もまだきついままだ。
彼氏もなく職場にも居場所がないまま半年間さ迷っている。

伊勢神宮に行こうと友達のアミを誘ったのは
伊勢神宮にいくより「みちひらき」の猿田彦神社に
行く道を導いてもらいたかったからだ。
しがない事務員から転職するのか。資格をとるのか。
30女が結婚できるのか。

目を覚まさせたメールは母から。大雨警報が出たと心配する内容だった。
天照らす神の神社へ参った日が大雨警報とは幸先は良くないのかもしれない。
私は目を閉じた。

目を覚ますとバスは関を越え西へ向かっているところだった。
目の前には明るい夕日が雲の合間から見える。
なんて温かい橙色だろう。
一日中窓からグレーの空を見た人間には、暮れかける夕日ですら眩しい。
…雲の後ろにはきちんと天照らす太陽が上り、きちんと沈もうとしていた。
そうだ、梅雨空の雲の上には太陽がある。
今は太陽に向かってバスは走っている。

287:名無し物書き@推敲中?
13/07/04 NY:AN:NY.AN .net
次は 七夕 で

288:名無し物書き@推敲中?
13/07/04 NY:AN:NY.AN .net
>>287
だけどすみません
よく分からないお題だったので

七夕飾りに交じる靴下



289:名無し物書き@推敲中?
13/07/06 NY:AN:NY.AN .net
「やめようよ、ゆうちゃん。先生に怒られるよぉ」
私が止めるのも聞かないでゆうちゃんは七夕飾りが散りばめられた
笹の葉に必死に真っ赤な靴下をくくりつけようとしている。
「いいんだよ、これでいいんだ。大体、ワケわかんないよ。日本ではベガやアルタイルが願い事をかなえてくれるのかい?」
ゆうちゃんの言う事は私には解らない。
私がよっぽど可笑しな顔をしてたのだろう。ゆうちゃんがぽつりぽつりと訳を話し始めた。
「……ママが言ってたんだ。日本のサンタさんは暑がりだって。だから、今頃きっとオーズィに居るのよ、って」
前にゆうちゃんが言っていた。オーズィっていうのはゆうちゃんのふるさと。オーストラリアの事だって。
「サンタさんは世界中から選ばれたとびきり優秀な神様のエージェントなんだって。
だから、世界中どこに居ても赤い靴下にお願い事を書いて入れておけば必ず叶えてくれるんだって」
「でも、今七月だよぉ?」
「ぼくもママに聞いたんだ。『なんでサンタさんは夏にしか来てくれないの?』ってさ」
やっとの事で笹の葉に括り付けた靴下を満足そうに見上げてゆうちゃんは話を続けた。
「サンタさんも本当は一年中働きたいけど、寒がりで冬はお仕事できないんだって。……でもさ」
靴下に手紙を詰め込む。がむしゃらに詰め込んだから、ぐしゃぐしゃになった手紙が靴下からはみ出している。
「日本のサンタさんなら冬でも大丈夫だよな。きっと今頃オーズィで休暇中だけどさ。赤い靴下に気が付いてすぐに飛んで来てくれるよ、っと」
台からおりたゆうちゃんは、パンパンと手を叩いて何かをほろった。
「きっとこの手紙をオーズィに居るおばあちゃんに届けてくれるんだ」
「でも、おーじーは冬でも日本は夏だよ? それにサンタさんは手紙を届けるんじゃなくてプレゼントを配るんだよ?」
「きっと、休暇中のオーズィのサンタさんからジェットスキーを借りて飛んでくるんだ。それに、サンタさん赤いだろう?
ポストオフィスの車も真っ赤だ。だから手紙もきっと届けてくれるんだ」
ゆうちゃんのいう事はちっともわからない。だけども私は手紙が届けばいいと思ったから、短冊にこう書いた。
『ゆうちゃんの手紙が届きますように』
ゆうちゃんの手紙には何が書いてあるのだろう?

拙すぎて申し訳ない、頑張った! だれかバトンを頼む!

290:名無し物書き@推敲中?
13/07/06 NY:AN:NY.AN .net
主旨を間違ったorz

次のお題は『レモンドロップ』
でいかがなものか!

291:レモンドロップ
13/07/06 NY:AN:NY.AN .net
透明ですこし酸っぱいレモンドロップ。

他の子はピンクや赤のかわいい色の甘いドロップを好んでいたけれど
私は地味なあのレモンドロップのたたずいが好きだった。

涙の形をしていてすこし小さい。舐めていると先が尖ってくる。
先をかじっちゃおうか。チクチクするのを避けながら味わうのに疲れて、飴を転がしながら考える。
ふと気を逸らすと無意識にがりがりかじってしまってすこし残念な気持ちになる。
ちゃんと考えようとしてたのに、と。

私の日々もレモンドロップだ、とふと思う。
地味で酸っぱい。
涙の形をしている。チクチクする。
吐き出すほど痛くなくとりあえず維持する。
気がつけば飲み込んでいる。

ちゃんと今考えると、私がレモンドロップが好きだったのはイチゴドロップよりは誠実な味がしたから。
人工香料と着色料がレモンドロップは少なかった。
甘いくせに嘘くさい味は嫌いだったから。
だから。
だから私の毎日もこれでいいかも。
酸っぱいけど誠実に生きてる。ちゃんと考えて生きてる、ね。



次のお題「ゾウリムシ柄」

292:ゾウリムシ柄
13/07/14 NY:AN:NY.AN .net
 これはいいものだ。俺は素直にそう思った。
 俺の趣味であるフリーマーケットでの掘り出し物探し。その最中に、俺はそれに出会った。
 素人の目には、ただのTシャツに見えるかもしれないそれ。しかし、俺にはわかる。
 ペンキを適当にぶちまけたかのような乱雑な柄は、むしろそうなるように計算し尽くされたものに違いない。
 そう、例えるならば『ゾウリムシ柄』。俺にはわかる。これをデザインした奴は天才だ。
 だが、残念ながら目の前のおばさんはわかってないらしい。何故なら、この前衛的かつ芸術的なTシャツを百円で売ってるんだからな。
「おばさん、これ買うよ」
 財布を取り出して俺は言う。こういうのは、物の価値がわかる人間が買うべきだ。そう、例えば俺のような。
「いいのかい? これは息子が絵の具で汚しちまったやつだよ? 最初は綺麗な白いシャツだったんだけどねぇ……」
 これは駄目なものだ。俺は素直にそう思った。

次は「焼きそばパンに恋をする」で

293:焼きそばパンに恋をする
13/07/15 NY:AN:NY.AN .net
「焼きそばパンに恋をする」

 麺とは小麦粉に水を加えて練って、索状にしたものである。その麺にソースを絡めて、肉とキャベツを加えて鉄板の上で焼いたものが焼きそばである。一方でパンとは小麦粉にイースト菌の酵母を加えて発酵させたのちにオーブンで焼いたものである。
 前者はお祭りの際に屋台で見られるのが典型的で、後者は一般的な西洋料理の際の主食として用いられる。
 「パンの中に焼きそばを入れるのは、文化的に見て全くナンセンスなのよ!」
 腹を空かせた彼女のために、わざわざコンビニまで行って僕が焼きそばパンを買ってきたのに、彼女はブツブツと文句を言った。
 今日は幼馴染の女の子と一緒に釣りに来ている。彼女が怒っているのは、魚が全く釣れないからである。そう簡単に釣れるものじゃないよ、と繰り返し念押しはしておいたのだが、実際に一匹も釣れないとなると彼女がご機嫌斜めなのも無理はないと思う。
「ごめんね。今日は風が強いせいか、魚が掛かったときの振動がかき消されちゃってあんまり釣れないみたいだね」
魚が一匹も釣れないことを坊主というが、僕は坊主には慣れている。正直言えば、魚が釣れるかどうかはどうでも良いのだ。
ずっしりとした防波堤と同化し、ただひたすらにゆったりと上下する波を眺めて、無心になる。何も考えずただ潮風に身を任せる。僕は自然と一体となって一人の人間という枠組みから解放される。これが釣りの魅力だ。
ただ彼女にはその魅力を理解するには幼すぎたのかもしれない。むしろ僕が精神的に老けているのか。
ギラギラとした日光に照らされて僕の両腕は日焼けして、焼きそばの色になった。それと対照的に、日焼け止めをたっぷりと塗り込んだ彼女の肌は真っ白で、まるで白パンのようである。
「別にケンジが悪いって言ってるんじゃないのよ、せっかく私たちが餌をあげてるのに一匹も魚が釣れないのがなんか悔しいの」
 彼女は少しがっかりしたような表情をしてそう言った。しばらく彼女は退屈そうに釣竿を持って座り込んでいたが、しだいにのんびりとすることに順応したのか、どこか楽しそうに微笑みながら焼きそばパンを頬張った。

次のお題は「儲からない銀行」

294: 忍法帖【Lv=2,xxxP】(4+0:5)
13/07/16 NY:AN:NY.AN .net
 『儲からない銀行』
 信じる者が儲かる、そういいたいのか。
 金良行(きん・よしゆき)はため息を吐いた。肺の奥を洗うような、そんなため息。
 簡単なギャンブルなのに。全然勝てやしない。
 「金さん、どうします?」
良行の前に座る…確かタナカと言ったな、ハゲがにやついた。はげたでこのまえに、ハートのキングを掲げて。
 このゲームは、言うなればただのインデアンポーカー。めくったトランプを自分で見ずに、相手にだけ見せる。自分は相手のカードを見て、のるかどうか決める。数字が大きかった方が勝ちだ。1ゲームに二万かけて、おりれば金は相手のもの。負ければさらに二万、相手に払う。

295:『儲からない銀行』
13/07/16 NY:AN:NY.AN .net
ごめんなさい挫折しました…。
次は、「アイドルヲタクは夢破れ」でお願いします。

296:アイドルヲタクは夢破れ
13/07/20 NY:AN:NY.AN .net
星空を映した様な小さな光が点々と灯る東京の夜景。
そんな景色を窓越しに眺めながら、俺はスーツから部屋着に着替える。
ここは、マンション高層階のペントハウス。
キッチンから、妻が作る夕飯の匂いが漂っている。
音がないのも寂しいと思い、俺はテレビをつけた。
少女達の歌声が聞こえてくる。流行の音楽をランキング形式で紹介する歌番組が流れて来た。
一人ひとりの顔をアップで写していたその番組のカメラは、ふいに客席を映す。
同じハチマキを締め、揃いの格好をした男たち数人が、歌に合わせて踊っていた。
「そんな時期もありましたっけ」
俺は過去を思い出しながら呟く。
「しかし、そんな事をしていてもアイドルは振り向かないぞ。彼女らと結婚するのはたいがい青年実業家だ」
俺も数年前までは彼らと同じ、アイドルヲタクだった。
俺も彼らと同じように、応援さえしていれば彼女達から振り向いてもらえると勘違いをしていた。
けれども、俺が応援していたアイドルグループの一人が突然引退宣言をし、その後に青年実業家と結婚したと報道された時に俺の中で何かが変わった。
『お気に入りのアイドルを手に入れる為にはこんな事をしていてもダメだ。青年実業家になるしかない』
そうして俺は、それだけの為に努力して今の地位まで這い上がって来たのだ。

キッチンから妻のハミングが聞こえてくる。さすがは元アイドル、ハミングさえも可愛らしい。
「あなた、夕飯できたから、着替えたら来てね」
ダイニングから妻の声が聞こえてくる。着替えを終えた俺は、ダイニングへと向かう。
ドアを開けると、振り向き様に妻はにっこりと、俺に向かって微笑んだ。

彼女を一目見た俺は、ドアの側に立ったまま目蓋を閉じると、アイドル時代の彼女を思い浮かべた。
俺がどんな努力をしても手に入れたかった、瞳の大きな、純真そうな笑顔。

ノーメイクの彼女を見た今なら、はっきりと分かる。
彼女の美しさ、かわいらしさの8割は、カラーコンタクトとメイクで作られていたようだ。


次のお題は、「夏の扉の向こう側 俺とビッチの大冒険」でおねがいします!

297:夏の扉の向こう側 俺とビッチの大冒険
13/07/20 NY:AN:NY.AN .net
夏だ!大冒険だ!
子供の頃から夏はわくわくするものだ。
飛び散る汗。照り付ける太陽。行き場のないエネルギー。
17歳になったとしてもそのエネルギーを享受する。
いや、成長した成果は自らのあふれだすエネルギーは制御不能。
この衝動は青い!
火の温度が高くなるにつれ青くなる、つまりそういうことなんだよ!!

何言ってんのかわかんないし超ウケるー、
と隣に座る俺の高校一のビッチ、ビッチオブビッチのサチがやる気なさげに答える。
いや、こうみえてサチは優しい。
すべての男を受け入れる度量がある。
たとえそれが無関心と表裏であったとしても、救われる男がいるのだ。
俺とか。そう俺とか。

お願いします!と、大冒険、もう少年の大冒険じゃないんだ大人の大冒険をしたいんだ、
僕らの冒険はこれからだ!的展開はやめて下さい!打ち切りはなしで!
訴えてみたらさすがはビッチオブビッチ、ビッチオブクイーンは
やりたいんだ?と正確に理解してくれた。
お父さんお母さん、僕は今シーツの海のサチに飛び込みます!
夏の扉の向こう側へダイブしまっす!


次は「 ドキッ 水着だらけの…」でお願いします

298:少女とウランと賽銭箱
13/07/25 NY:AN:NY.AN .net
「どうすんだよこれ」スーツを着た俺は倉庫の中で愚痴を吐いた。
「いやだってしょうがないじゃないですか。0円で売ってたんですから普通買いますって」
 安田は俺に反論する。だが俺は安田に回し蹴りを入れて言い放つ。
「『安物買いの銭失い』って諺は知ってるか? お前が知るわけないか。知ってたら女性用
水着10000着なんて買わないよな。やっぱ無知って怖いよな。バカってのは迷惑だよな。
なあ安田、聞いてるのかお前のことだぞ。いま俺はちょっと怒っている。お前の低能さに
ついてじゃないぞ。お前をビジネスパートナーに選んだ自分に対しての怒りだ。なあ安田
聞いてるのかオイ」

 二十回ほど蹴っただろうか。俺は動かなくなった安田を蹴るのをやめると、この巨大な
倉庫に置かれた女性用水着10000着の処分方法について考えていた。おそらく倒産した
のであろう前所有者に引き取ってもらうことは無理だろう。すると単純に倉庫代だけで
月十万はかかる。移動させるにはフォークリフトが数台必要だろう。人件費もかかる。
俺ははっきりいってこれが損失を生み出す負の遺産にしか見えなかった。しかも今は秋。
これから冬に突入するというタイミングである。いかな俺とて、売りさばける自信は無い。

「あ、俺いい方法思いつきましたよ。ヤフオクで売ればいいんですよ」
 安田が起き上がり提案を始める。つまり安田は自分のようなバカに押し付ければいいと
思っているのだろう。だが、そんなバカが本当にいるものだろうか? 俺は適当に返す。
「じゃあ『ドキッ 水着だらけの…』とかいう名前で出品してみろ。もちろん現地引渡しで、価格は百万だ」

 三日後、水着は百万で落札された。オーストラリアの会社らしい。あっちは今から夏に向かう。それで売るための水着が足りないという話だった。

「結局、儲かりましたね」安田は得意げに言う。
「運が良かっただけだ。今度からはもう少しものを考えて仕入れろよ」俺は安田に釘を刺す。
「えーと、実はまた0円で出品されてるものを見つけまして……」
 俺は回し蹴りを繰り出し、安田は回転しながら十メートルほど先に吹き飛んだ。

次は「壊れた温湿度計」

299:ドキッ 水着だらけの…
13/07/25 NY:AN:NY.AN .net
>>298 のタイトルは「ドキッ 水着だらけの…」の間違いです。

300:壊れた湿度計
13/07/27 NY:AN:NY.AN .net
俺を見ろ、俺を忘れるな。

昼飯に向かういつもの道で何かが違うと気になった。目をやると朽ちかける店舗兼住宅がある。
しばらく眺め腑に落ちた。
ガラス戸―正確にはプラスチック―が大きく破れて、内の暗さがもれていたのだ。
空き家は不気味だ。
満たされない家として人目にさらされ続ける怨嗟を感じるのか。
ちょっと中を覗きたくなった。何が切り捨てられたんだろう。
破れ戸から覗き込む。
予想以上に物が溢れ生活感が生々しく残っている。
食器の類いがあり、商品棚だったのか棚があり、小さなゴム草履(キャラクターがついている)があり。
床に散乱するプラスチックの破片が乾ききったように黄ばんでいる。
笑顔の女性が虚空を見つめて商品を示すポスターでいつ頃廃屋になったかがわかった。
入ってみたいが大人が入るには穴は小さく、肩までしか入らない。
手が届く物といえば床にある計器だ。引き寄せてみればそれは湿度計だった。
見る人がいない間も計測し続け、やがて力つきたか、70を示しあとはぐずぐずに分解している。
壁から落ちたのかもしれないが。
好奇心は満たされた。
湿度計のなれのはてを奥へ投げ込めばカツンと音がして消えた。
とたんにギャーっと声が聞こえて黒い固まりが飛び出しぶつかってきて、私は尻餅をついた。
家が、湿度計が、いや捨て置かれたものすべてが
怒りをあらわにして中から黒い気が吹き出したような。

道路に投げ出した足元には投げた湿度計があった。
壊れた湿度計がまた70と数値を差し出している。見ろ、と。

301:名無し物書き@推敲中?
13/07/27 NY:AN:NY.AN .net
書き忘れー
次は猫に擬態でお願いします

302:猫に擬態
13/08/17 NY:AN:NY.AN .net
「猫に擬態」

 目の前で寝ている猫は、賢い。

 どのくらい賢いか?と言うと、今が危機的状況である事を理解しているくらいだ。
 猫の向こうでは、花瓶が割れている。花が活けてあって、インテリアとして飾ってあったモノだ。
 花が散乱し、水は散らばって辺りを濡らしている。猫を飼う前は気にもしていなかった事を、
今は気にせねばならないと。解っていても、今まで通りと言うのは甘美な響きだったかもしれない。
 うっかりはしていたのだ、ともかく目の前の猫は、寝ている。

 本人は、そのつもりはないだろう。自分がちょっとドジを踏んだ事を理解しているくらいだ。
 ここは、ノラだったこの猫を飼い始めた酔狂な奴の部屋の中で、部屋のインテリアはそいつの私物であり、
それが壊れたとしたら、それは猫にしても、自分が捕ったネズミを横取りされた位には許し難い事だ、
そのくらいの理解はしているのかもしれない。
じゃなければ。目の前の光景を説明はし難い。

 何だか、腹を出して。ぐったりしている様にも見える。口を半開きにして、薄目を開けて、じっとしている。
もしかしたら、これで助かった事が有ったのかもしれない。ともかく近づいて、少し揺すってやる。
最初は強情だったが、やがて眼を開いて起き上がり、一度自分の顔を見てから、餌場の方へ歩いて行った。

 相手が人間なら、何か事件でもあったのかと疑って良いシーンだ。花瓶が壊れ、散乱し、
その前で寝ている奴は、動かない。殺人事件か何かが発生したのか、そう考えても良いシーンだが、
寝ている犠牲者?それは猫だった。あの猫が何を考えてぐったりと寝ていたのか、想像するに怖くなるが滑稽でもある。
ともかくあの猫は。賢いかもしれないが少しドジで、うっかり部屋主の花瓶を倒して壊してしまった。
その気まずさを何とか、回避しようとしたのだ。

 ともかく、不思議な猫かもしれない。”擬態”の技を持ってる。
 あまり意味も無さそうだが、飼っておいて、損も無いだろう。


次「PCの中に住んでいる」

303:PCの中に住んでいる
13/11/10 09:45:52.03 .net
まあタイトルの通りだ。

俺は
パソコンの中に住んでいる。
この中に入るのは苦労した。
だが痛みは最初だけ。
この画面に入るときに皮膚が剥がされたような痛みが走る。
その痛みを乗り越えられたのは、パソコンの中からエロい、キラキラした美少女が俺を誘っていたからだ。
それからというもの俺の人生は一変した。
毎日毎晩キラキラ美少女とやりたい放題。
働かなくても食い物が出てくる。
美少女の他にも女の子がいて、たまにはその子と遊ぶこともできる。

で、そちらの世界はどうなの?
戦争が起きた? 本当か。相手はやはり。うん、俺がそっちにいたときから怪しかったもんな。
で。なんだって。非戦闘員の家の電気は止まるのか?
そうか。それは仕方ないか。
待ってくれ。頼みがある。
あと二時間、いや一時間でいい。
俺の部屋に美少女たちを集めて楽しみたいんだ。
いいだろうそれくらい。
そしたらいいよ。
このパソコンの電源を切ってくれても。

次「その眼鏡には名前があった」

304:その眼鏡には名前があった
13/11/23 18:18:03.83 .net
 古い記憶に、祖父の老眼鏡に関する一場面がある。ある冬の夕方、
洗面所に入ったおれは、隣の浴室で湯に浸かっている祖父の眼鏡が洗
面台の上のタオルに乗っているのを見た。まだ幼かったおれは、眼鏡
というものの名称も用途をも知らず、ただ寝るときと風呂に入るとき
を除いて常に祖父の顔面にくっついているものと思いなしていた。目
の前にあるのは、黒く厳つい枠に透明なガラスがはめられた、まるで
小さな”お面”―そのとき、おれはかすかな好奇心に唆され、祖父
を真似てその老眼鏡を自分の顔にかけてみた。
「うわぁ」というおれの声に反応したのか、浴室の戸を開けて顔を覗
かせた祖父が、「こら、不動丸に触るな」と一喝した。そのときから
しばらくの間、おれが眼鏡一般を「不動丸」と呼ぶようになったのだ
と、だいぶ後に祖父がにやにやしながら語ったことがある。不動丸と
は、祖父がその眼鏡に与えた名であった。目黒不動近くの眼鏡屋であ
つらえたとして。

305:その眼鏡には名前があった
13/11/23 18:19:03.07 .net
 高校一年生になっておれは駅前のコンビニでバイトを始めた。バイ
トに向かおうと仕度をしていると、自室からおれを呼ぶ祖父の声がし
た。行ってみると、「隆、ノブトモが壊れた。駅前に眼鏡屋があるだ
ろう。あそこへ修理に持って行ってくれ。」と言われた。差し出され
た祖父の手には、右の鼻あてが根元から折れた老眼鏡が座っていた。
「ノブトモ?」と尋ねると、祖父はよくぞ聞いてくれたと言わんばか
りの笑みをして、「もう数えで十五だからな。めでたく元服したんだ。」
と言った。
 ノブは信と書くのだろう。おれの父も祖父も、知る限り遡って曽祖
父の代から名前に信の字を継いでいる。なぜだかおれは隆になってし
まったが。あいにくノブトモの字までは尋ねなかったので、トモは何
と書くか今となっては分からない。それでも、何となくその意味する
ところの察しはつくけれど。

306:その眼鏡には名前があった
13/11/23 18:20:19.90 .net
 三年前、祖父は他界した。車に跳ねられ、頭部を強打したという。
祖父の老眼鏡もガラスが砕け、縁はひしゃげ、耳あては片方失われて
いた。警察から引き取ったノブトモは、葬儀の際祖父の棺に納められ、
己を愛用した主とともに葬られた。祖父は、初めてあつらえた老眼鏡
を大いに気に入り、一度も買い替えなかったのだと父から聞いた。
 今や空室となった祖父の部屋には遺影がある。さっぱりと笑う故人
の顔に、清景院伴生正澄居士と、おれが勝手に戒名をおくった故ノブ
トモがかかっている。ずいぶん安直な名かもしれないが、きっと祖父
も喜んでくれるだろう。この単純さは祖父譲りだ。 

次のお題は「さみしく見えてさみしくない」 

307:さみしく見えてさみしくない
13/11/27 17:58:40.11 .net
 待ち合わせ場所に現れるなり、コートからポケットティッシュを出し、突きつけられる。
 ピンサロの広告だった―これが求人広告なら彼女もヘソを曲げなかったろうに……。

「多少混み合っててもさあ、ちゃんと顔見てくれりゃ判るハズだよ?」
「俺、チラシのバイトなら経験ある。……ピアスでも付けてみりゃどうだ?」

 ―そんなもん男でもする……なのに俺、なぜピアスって言葉が出たんだ?

「……ピアス?」
「一瞬で判断しなきゃいけないんだ。アクセサリーが女性的なら女性と見做してた」

 女らしい髪型、服装。そんなものを彼女は避けている。理由は『似合わないから』
 男になりたいワケじゃない。だから、たまに間違われると機嫌を損ねてしまう。

 ショーウィンドウに目をやり、しばし自分らの姿を眺める。
 学校は違えど一緒に上京し、何時の間にやらこんな季節―変わり映えしないな。
 でもないか?彼女は……髪を更に切り、スカートの呪縛から開放されたと今でも満喫中。
 俺は……人付き合いが苦手な分、少々彼女に依存気味―欠点が増長しただけ?

 ―ふらりと傍から彼女が離れ、吸われるように証明写真のボックスへ……。
 後を追い、カーテンを引く―備え付けの鏡を睨んでるが……機嫌が直ってる?

「突然『ピアスしろ』って言うから―そういうの、嫌いなのかと思ってたけどな」
「え?いや、別に、積極的に薦めてないぞ?」
「初めてだよ、さみしく見えたの……何も付けてない耳が」

 ―だったら少しは寂しそうな顔してみろよ?


次のお題は「逆立ちして手を叩こう」

308:逆立ちして手を叩こう
13/11/30 01:02:01.20 .net
 出産予定日より三週間早く、土曜日の午後妻が自宅で破水した。妻に付き添って救急車に乗り込んだとき、ストレッチャーに横たわる友達を救急車の中で見守った遠い記憶が呼び起こされた。
 「お前、逆立ちして手を叩けるか?」と義男が唐突に口にした。
 義雄は、当時近所に住んでいた同級生で、おれとは幼稚園のから友達であった。小学校に上がり、容顔が優れていたのを鼻にかけるようになった義雄は、三四年生になるその頃には随分とおれに優越心を示すようになっていた。
 気に障ったが、「カバ」とあだ名された自分の風貌と見比べると気後れして、何かと付き従う日々だった。
 ある土曜日の午後、義男と二人きり公園で遊んでいたとき、義男の侮るようなさきの言葉にむっとして「できるさ。」と答えた。
「そんならやるか?」
 義雄は公園のコンクリート塀に駆け寄り、手を突いて蹴り上がり、逆立ちして塀に足をもたせた。おれも義男の左で逆立ちになった。
 義雄は「こうだ。」と言って両肘を深く曲げたかと思うと、一気に飛び上がり、宙で両手をぱんと一つ合わせた。そして、すぐさま両手を地に着いて、少し息を荒げながら傍らのおれを見やった。逆さに見た義男のあの憎々しい表情。
 一方のおれは、ただ逆立ちしているだけで苦しくてならなかった。飛び上がるために腕を畳むことすらできない。額の汗が髪の毛の根元を伝って垂れる。
「お前、できるって言ったよな。」
義男の言葉に責められて顔が膨らんでいくように思えた。義雄は逆立ちのままもう一度手を叩いてみせる。方や、おれの腕は動かない。
 義男が「カバが逆立ちしてるから馬鹿だな。」と言ってケラケラ笑い出した瞬間、おれは、地面についた義男の手を払うように叩いた。
次のお題は「うっかり食べる」

309:うっかり食べるべる
13/12/01 19:09:01.36 .net
 偉い雨脚だ。牛丼屋の軒下で足止めを食う。さすがにもう一杯というワケにいかないし、そうしたところで時間稼ぎには知れている。ハンバーガーにするべきだった。「あの、宜しければ―」恐縮がちな声に振り向くと女性店員。片手にはビニル傘。

「―この傘を駅向こうのハンバーガーショップまで届けて頂けますか?」

 前もって駅の売店で傘を買い、預った傘を整えてから目的の店に入る。要件を店員に話すと奥へ通された。

「これはお礼です。ただし、うっかり食べないで下さいね」

 片手で紙袋を受け取り、駅へ向かう。―うっかり食べないで下さい?それなら、いつ食べりゃいい?ゴミ箱への投棄も考えたが、投入口が塞がっていた。
特別警戒って、こんな駅に要人やテロもないだろうに。コレも別に危険物ってワケじゃあ、……紙袋を開いて覗く。マフィンが3つ?朝の残りにしては温かい。……更に包装紙も解くと、姿を現したのは今川焼?我に返ると俺の手は、ソレを口へと運ぶ途中―

「「うっかり食べないでください!!」」

 南口には牛丼屋、北口からはバーガー屋、共鳴する店員らの叫びに被さるサイレン音。今川焼を放り投げ、一目散に改札へ。

 ―雲が切れ、電車の窓に陽射が映る。運良く扉が閉まる直前だった。何やら階段の下から歓声が沸き立つが、……関わりたくない。発車と同時にアナウンス。―特別警戒態勢の解除を告げるのを聞き、紙袋を握る手を緩めた。中には2つ残っているが、
……うっかり食べてはいけない、うっかり食べてはいけない、うっかり食べてはいけない、うっかり食べてはいけない……


次のお題、「社会の窓には意味がある」

310:社会の窓には意味がある
13/12/13 12:21:24.19 .net
「僕がこの言葉を知ったのは小学生のときなんだ。ずっと『世間と自分の狭間』という意味だと勘違いしてたけど、実際は、昭和のラジオ番組のタイトルが語源。社会の内情を暴くような内容だったそうだ」
「わたし、別に知識ひけらせなんて言ってないわよ?」
「その番組名が、大事な箇所を隠すジッパーを指すよう転用されたらしい」
「あなたの言うことはいつも回りくどいの!大声で聞き返して恥かいたわ」
「知らないとは思わなかったんだよ。どう指摘すれば分かりやすかったんだ?」
「えっと……『たかじんの窓』かな?」

次のお題は「野球に興味はありません」

311:野球に興味はありません
13/12/26 11:28:42.91 .net
 グラウンドを駆け回る学び舎の同胞たち、それを視界の下半分に。やや赤みがかった空に浮かぶ白い綿雲、それを視界の上半分に。
 何をするでもなくただただボーっと、焦点は二つの景色を絶え間なく往来する白球。

「何してるんだ?」

 と、声をかけ背後に立つのは我が恩師。

「特に、何も―」

 端的に、あるがままの事実を述べる。

「混ざらないのか? 内は緩いから部員でなくとも大丈夫だぞ?」

 何を察したのか心を砕きくださる我が恩師、有難く思うもやや困る。そうではないのだ。

「いえ、構いません」

 対してコチラは気の利く物言い等できず。

「ただ…綺麗だな、と―」

 やはり在りのままを述べる言葉しか見つからなかった。



次の題は「最終確認は3回までで」

312:「最終確認は3回までで」
14/02/10 22:02:02.78 .net
俺はヒーロー。たぶんそうだ。そんな気がする。
俺はどう見ても悪の組織のものとしか思えないおどろおどろしいコンピュータ室にいた。
ここのプログラマはよほど無能なのだろう、壁に大きく「デバッグは慎重に!」という
張り紙が貼られている。やれやれ、そんな標語でどうにかなるもんでもないだろうに。
俺の目の前の、液晶輝くコンソールがこういっていた。
「あなたの記憶を消去します。よろしいですか?変更は元に戻せません。(Y/N)」
当然Nだ。俺はNを押す。

俺はヒーロー。たぶんそうだ。そんな気がする。
(中略)
「あなたの記憶を消去します。よろしいですか?変更は元に戻せません。(Y/N)」
当然Nだ。俺はNを押す。

俺はヒーロー。たぶんそうだ。そんな気がする。
(中略)
「あなたの記憶を消去します。よろしいですか?変更は元に戻せません。(Y/N)」
当然Nだ。俺はNを押す。

俺はヒーロー。たぶんそうだ。そんな気がする。
ここのプログラマはよほど無能なのだろう、壁に大きく「デバッグは慎重に!」という
張り紙が貼られている。やれやれ、そんな標語でどうにかなるもんでもないだろうに。
俺の目の前の、液晶輝くコンソールがこういっていた。

「健康のため、記憶消去は1日3回までです」
なんのこっちゃ。悪徳プログラマのやることは本当にわけがわからない。
俺は何かを思い出そうとするが、うまく行かない。と、背後から声がかかった。
「そろそろ年貢の納め時だな、怪人PGフジソフトン」
なんのこっちゃ…・・・・。肩をすくめて振り返ろうとした俺の背中を、強烈なキックが襲った。
遠のく意識の中で、なぜか錦糸町のネオンが踊った。

次「ふくらみかけのフルーツは」

313:名無し物書き@推敲中?
14/03/12 21:03:29.39 .net
大分から愛知への飛行機が謎の無人島の浜辺に墜落した。
ただ一人の生存者であるヨシオはなぜかそこが無人島であることをすでに知っていた。
迷わず森に分け入り食料を探しに出かけた。
ヨシオは毒キノコっぽいキノコを片っ端から食らい尽くすと、トランス状態になり、
ふくらみかけのフルーツを地面に突き刺して、一通り射精して死んでしまった。
ヨシオは14年前小学校の卒業文集に「俺の夢は地球とセックスすることなんだ」と記していた。

314:名無し物書き@推敲中?
14/03/12 21:13:58.39 .net
次は?

315:名無し物書き@推敲中?
14/03/12 21:15:44.47 .net
継続

316:名無し物書き@推敲中?
14/03/16 03:10:44.15 .net
ふくらみかけのフルーツは、ぶらぶらしなから考えていた。
俺はなんになるんだろう?
枝先の視界は良好だ。眼下には民家の窓があり、住人が見える。
いまはテレビを見ていて、尻をかきながら寝そべっている。
俺の寄宿する木の根本は、その民家の庭に埋まっている。

地上は、しかし俺には遠い。いつか地に落ちるとしても
まだ先の話のはずだ。
俺の横には、電線が走っている。こちらの方が、俺には近い。
よく、カラスが止まっている。この民家のある通りの
せいぜい6軒分の小さな縄張りを持つ。
まだ、俺は食べられやしないさ。
まだ。まだ。まだ。
俺はなんになるんだろう?と、またふくらみかけたフルーツは
ぶらぶらと思索にふけるのだった。

次は
バカラオ

317:バカラオ
14/04/04 02:01:18.37 .net
バカラオバカラオーOH

次のお題は「桜霞の夢より覚めりし」

318:名無し物書き@推敲中?
14/04/04 19:30:02.84 .net
弁天池の浮島には、まるで羽衣でも身に付けた様な美しい姿の唯さんが、歌を謳っていた。
それは伸びやかで透明感のある声だったのだけれど、そこ儚げで哀しさをもはらむ様に感じさせた。
僕はその畔に咲く満開の桜の下で、口を大きく開けたまま眺めていた。まるで阿呆のように。
満開の桜から花びらがひとひらふたひら舞落ちたかと思うと、やがて一陣の風と伴に一斉に散り始めた。
それはまるで春霞、いや桜霞とでも表現するのが正しいのかも知れない。
僕はそんな桜霞の中で謳う唯さんをいつも以上にいとおしく感じてじっと見つめていた。

どれくらいの時間が経ったのだろう?酷い寒さに気づくと、僕は薄暗い池の前で1人立ち尽くしていた。
そして僕は、去年の春にこの弁天池の桜を見に来たのを最後に唯さんは手の届かない遠くへ行ってしまっていたことを思い出した。
夢でもうつつでも良いから逢いたいと、毎日願っていたのだ。ふと、顔を上げると空にはぼんやりとした弓張月が浮かんでいた。
まるで僕にそろそろ現実に戻りなさいと、優しく声を掛けてくれているようだった。唯さんのように。


次は「勾玉と古びた鑑」で

319:勾玉と古びた鑑
14/04/12 22:35:12.30 .net
机の引き出しに、勾玉が入っていた。
翡翠でできているのであろうか、淡い緑色をした、ところどころ欠けたところのある
手のひらにすっぽりと収まるおおきさの古びた勾玉だ。
自分で入れた覚えはない。
鍵を掛けていたので他人が入れる事はできない。
夕方の、オレンジ色の日差しが窓から差し込む自分の部屋で、俺はなぜこんな物が
机に入っているのか考えている。

考えているところに玄関のチャイムが鳴った。
「お届け物です」
宅配便の業者は、小さな白い包みを俺に手渡し、帰って行った。
貼ってあった送り札には差出人の名前はない。
包みをあけると、古びた鑑が入っていた。
鑑といっても、ガラスのそれではなく、金属の表面を磨いて顔が映るやつ。
ちょうど俺の顔くらいの大きさで、裏になにやら彫刻が施されている。
リビングに移動しながら考える。これは、誰かのイタズラなのではないだろうか?
リビングの掃き出し窓から庭をみると、石製の棺が見えた。
イタズラにしてもこんなに重さそうな物を運び込むとは。
クレーンかなにかでないと動かせないだろうに。

キッチンから音がした。
侵入者か? 俺はおそるおそるキッチンに向かう。
干涸びた人間の形をしたなにかが、エプロンをして包丁を握っていた。
俺は、逃げた方がいいのだろうか?

次のお題は「春風と制服の短いスカート」でよろしく

320:名無し物書き@推敲中?
14/06/01 17:06:40.48 .net
相模原メディカルサイト歯科日吉サンテラス歯科藤沢なのはな内科スマイル歯科アイ整形外科亀有 リリオ歯科アクロスみなみの歯科足立ハート歯科新宿くろさか歯科熊本ファミリー歯科伊勢原桜台歯科森林公園滑川モール歯科横浜いちょう歯科小田原めぐみ歯科ホワイトスタイル

321:腹黒人形は踊りが苦手
14/06/30 16:35:03.54 .net
生意気そうな若い顔立ちだ。俺の膝頭に届かない背丈で、小さく痩せた体つき。
素晴らしいシルクの背広を着て、俺の足元で、じっと俺を見上げている。にやにや笑っている。
俺はこの生き物に、ぞっとするものを感じて、不快な気分に苛立ちながら、口をモゴモゴと動かし、乾いた唇をぺろっと舐めた。
そして、俺は、彼に抱く動揺を悟られないようにふいと目を彼から反らし、目の前のステージを指さした。足元の人形と同じくらいの背丈の人形が美しい衣装をみにつけて、ステージの上でくるくると回り、踊っている。
「早く君もあそこに登って踊りなさい。みんなが踊る様に君を踊るんだよ」
 髭の下から強めの口調で、そういうと、その人形は、あいかわらずにやにや下品に笑って、ちっとも動く気配がない。
「逆らうつもりなら、昨日の人形の様にお前も燃やすぞ」
 俺は目をぎらりと見開き、そう脅してやると、人形は激しく笑いながらステージに駆け上がって言った。
 俺は人形の動きを黙って目で追っていた。
 人形はステージの上によじ登ると、すぐにくるくると回り出した。それはいったい踊りと呼べるものだったか。わかりはしない。
その踊りと言ったらめちゃくちゃで、俺は太股の横で握った自分の拳が震えているのを感じ、腹の底からむしむしとする怒りが込み上げてきた。頭に血が上る。見ていられない。馬鹿げている。
俺はキチガイみたいに笑いだした。そして、懐から拳銃を取り出し、ステージの人形を全て撃ち殺した。だけど、奴だけ俺の弾から逃れていたのだ。後で死んだ人形の数を数えていて気がついた事だった。

 次のお題「足の裏の穴」

322:名無し物書き@推敲中?
14/06/30 20:50:55.52 .net
私の足の裏に穴があいていた。
いつからだろう。
違和感がなくて、全然気づかなかった。
お風呂からあがって、足のむくみをとるマッサージをしていて見つけた。
胡座をかくと1円玉ぐらいの真っ黒い穴がこちらを向くのに、足の甲には何もない。

気味が悪くなって、手の親指で揉もうとしたらすっぽりハマった。
足の裏にめり込んでしまった手の親指。
その瞬間、背筋をゾクゾクゾクっと撫でられたような感覚に襲われた。
驚いて抜こうとしたら、また襲ってきた。
走り抜ける得体の知れない感覚。それは、うっとりするような快感だった。

私はゆっくり引き抜き、ゆっくり押し入れる。たまらない。
何度も、何度も、引き抜き、押し入れる。
いつの間にか下着が湿って、絨毯も汚してしまった。
あいつ、喜ぶかなぁ。
私の彼は変態で、私があいつの股間を踏むとすごく喜ぶ。これなら、私も気持ちいいかも。

次は「青色のない信号機」で

323:名無し物書き@推敲中?
14/07/01 09:51:05.70 .net
イラストレーターで収入が少ないからと30代後半で漫画家になろうとする、ひきこもりのバカ発見。
足立区に住んでいるそうだ
URLリンク(inumenken.blog.jp)

324:名無し物書き@推敲中?
14/07/02 21:15:06.05 5mmvKVsVC
>>323
関係ないけど絵ウメェ
俺なんてPCのキーボード叩くだけなんだから
横着だよな

325:青色のない信号機
14/07/06 19:45:00.61 .net
とある田舎の村のはずれから高速道路へと向かう山道に、赤信号と黄色信号は点灯するのに、青信号だけが点灯しない信号機があった。
日本の高度経済成長期に、成長戦略の一環として設置はされたものの、赤字を垂れ流し続ける地方鉄道の様に、その信号機もまた
誰にも利用されず、誰に見られる事もないままに放置されていた。
勿論何度か整備を試みられたが、ライトを交換しても不調が収まらなかったし、年に数百回程度しか車両が往復しない辺鄙な場所でもあった訳で、ないのは青色だけなのだから。
そんな形で、信号を調整する人々にも青色のない信号機の噂が伝わっていった。

いつの頃からか、その場所で不可解な出来事が起きたのだった。いや、厳密にいえば単なる事故だった。
しかし分かる者には分かってしまう。
年間数百しか通らないその山道での事故が、その年その県で、堂々の二位を飾ったのだ。
まるで目立つのを拒みつつ、しかし数は稼ぐ、そんな狡猾さが滲んでいた。
青色のない信号機沿いのガードレールで、トラックを大破させたものの、山道に身を投げて一命を取り留めたトラック運転手はこう語った。
「あの時には確かに青信号を確認したはずだった」…………と。
そんな新聞の三面記事に興味を持った僕は、その信号機のある場所を調べて早速向かってみた。

ついてみたら、なんてことない。僕の様な馬鹿な若造の考えを見越していて、ガードレールは既に修復された後があった。
信号機もこうして、ちゃんと青が点灯しているじゃないか、僕は少々の落胆を土産にして、停めていた車にキーをかけて、帰りの支度を始めると、アクセルを踏んでその信号を通りすぎようとした。

「ブレーキを押しているはずなのに……」
アクセルメーターは0kmので動かない。それが確かな証拠だった。
しかし、一度アクセルを踏んで信号機に向かうと、それから車が止まる事はなかった。
いや……。それは違った。しかし、まさか。
僕がようやく気が付いた頃には、もう僕の車はガードレールを透過して、空を舞って飛び立っていた。

次は「夢見る少女と悪夢」で

これ、お題もセンスが問われますね。

326:夢見る少女と悪夢
14/07/07 01:38:54.98 .net
最悪の宵闇が今夜もおとずれる。
人々をまとめて締め上げるような狂気の奈落が口を開け、正気の者すらむしばむ太古の悪夢が、敵意と悪意の澱が溜まる小さな街へにじみ出す。
それはまるで異界の魔物たちが囁くがごとく不吉で、惑わすように逆なでるように、静かにゆき渡っては人々を震えあがらせ、一睡も許すことはない。
かつて、この街にいた夢見がちな少女が、太古の悪魔にその身を捧げ、肉も魂も捕らえられたのだ。
敵意と悪意に満ちた小さな街にあって、唯一穢れのない心を持っていた少女は、異質な存在として忌み嫌われ、それがもとで迫害を受けた。
蔑まれ嘲られ、石を投げられ、蹴り倒され、それでも少女は自分と街の者たちが救われると信じ、毎夜毎夜、神に祈り続け、聖なる人がいつか舞い降りることを願い続けた。
しかし街の者たちの醜悪な害意も、底なしの深淵のごとく深く暗く激しく燃えさかり、嘲るかわりにかどわかし、石を投げるかわりに花で誘い、蹴り倒すかわりに己の欲望を少女の体内へねじ込んだ。
囃し立てる声は高く低く、野卑で下劣で、男どころか女も、子供や老人までも、少女を取り囲み黄ばんだ唾と罵声を浴びせ、中には絞り出した膿を少女の体に塗りつけ、投げつけられる糞尿にまみれ、街の男のほぼ全てはその欲望を少女の体に刻んだ。
邪悪な宵闇は、その夜から街を多い尽くし、人々を苛むのだ。
少女は立つこともできず、うめいては咽び泣き、折られた手足のまま地を這い、苦痛の叫びと呪いの言葉を吐き続けながら、手と足と腹と胸の皮膚が破れきっても、太古に閉ざされた深い深い炭鉱に降り、そして帰ってこなかった。
邪悪で醜怪な人々は、今も狂気を孕む夜気の中でうずくまる。
明かりを灯すための蝋燭や油などとうの昔に底をつき、ただ闇夜が過ぎ去るのをじっと耐え続け、睡魔に撫でられては絶叫し、あちこちの家々から響く呪われた叫び声に震え上がりながら一夜を過ごす。
それでも街の者たちは誰も少女を思い出さない、思い出せない、気づく者もいなければ、懺悔など存在すらも知らず、ただただ絶叫と呪いがこだまする街の中に身を沈めてゆく。

次は「踊り狂う歯ブラシ」で

327:踊り狂う歯ブラシ
14/07/12 17:45:53.06 .net
「電動歯ブラシには幾つかのジレンマがある」
 博士は助手である僕に向かって蘊蓄を垂れている。いつものことだし、ある意味そのために
しか僕は存在しないので、相づちを打つだけだ。
「はあ」
「つまりな、コードレスが当然だ。だと電池がいるな。他方で、動きの複雑さはあった方がいい。
それにはモータ以外の要素を介入させるべきだ。ここに対立が生じる訳だ」
「はあ」
「そこで、これが解決策だ」
 要するに、電池を無くしたのだそうだ。電力は電磁誘導で無線送信できる。だから
そのスペースにモーター複数を組み込み、極めて複雑な運動を可能にしたのだそうだ。
「速度、振り幅の調節はもちろん、プログラムすれば連続的に様々な運動が可能にな
るんだ。これは凄いぞ!」
「はあ」
 この辺りで、僕は不安を抱え始める。だが、博士は自信満々だ。
「でだ、これから最大限複雑な動きをするようにして、実働実験をするんだ」
「博士、最初はごく簡単な動きだけにした方が……」
「何を言う! それでは実験にならんだろう。行くぞ」
 そして博士は気絶した。電動歯ブラシは博士の手の中で跳ねると、まず彼の顎に命中
したからだ。僕は慌てて博士を引きずって部屋から逃げ出した。ドアを閉めると、ぱちん
ぱちんと音がする。
 窓から覗くと、歯ブラシは一人勝手に床の上をはね回り、時には天井に当たり、あるい
は壁に反射し、勝手に踊り狂っていた。
「あーあ。この部屋も『開かずの間』だな」
 この研究所には、こんな部屋が既に五つもあるのだ。次の成功まで、あと幾つこんな
部屋が出来ることか。

次、『世界で初めての失敗』

328:世界で初めての失敗
14/07/18 10:14:10.64 snOyBn00M
一人の男がその猿を振り向かせようとして大声で言った。
「おーい、ピテクス!」
その声で、バスの中のみんなが笑った。
猿はバスと平行に歩いていたが、視線の端ではこちらを意識していた。
やはり、知能は高いのだろう。彼の表情には困惑の色さえ伺えた。
さっきの男が振り向かせようとやっきになって、バスのガラス窓を強く叩き出した。
すると猿は、ちょっとだけ足早になった。
猿の緊張が高まっていくのが見ていて分かった。見られている。そんな風に思っているかのようだ。
私は2足歩行のスケッチをとっていたが、ペンを持つ手を止めた。
今までスムーズだった体のバランスが崩れ、動きがぎくしゃくしてきている。
そのうち彼は左右の手足を交互ではなく同時に出して歩き出した。
私は世界で初めての失敗を目の当たりにしたような気になって、「彼は正しく人間である」とスケッチブックに書き留めた。

「ダスキン・ホフマン」で

329:名無し物書き@推敲中?
14/07/31 05:31:39.41 .net
タンニは固まっていた。額から汗がしたたり落ちそうになって、素早くのけ反った。タンニは恐る恐る紙に視線をやった。そして叫んだ。
「やってしまったー!」
そしてそのまま気を失って床に倒れこんだ。

「どうするのかね、メラン君」
場はみな厳粛を極めた顔をしている。その中でも立派な髭を蓄えた老人が鋭い視線を一人の男に投げかけた。
メランは答えた。
「この度は私の息子がとんだ粗相をいたしました。崇高なる創造を紙とインクなどという不完全なものでやろうとした。到底許される行為ではございません、タンニを抹消しましょう」
老人はしばし目を閉じていたが、地面に杖を打ち付け、思い切ったように高々と声を発した。
「抹消、そうするしかなかろう」
この世界で抹消とは死を意味する。しかし血も流れなければ亡骸も残らない。抹消は抹消であり、きれいさっぱり跡形もなく消えるのだ。
査問委員会はもう2000年も開かれていなかった。
それが、タンニが父親にそのことを報告して、たった20分の間にすべての神々が集められたのだからよほどの事件だったと言える。

タンニは立ち上がって言った。
「お、お待ちください」
私の犯した過ちは取り返しのつくものではございません。しかしこちらをご覧ください。そういってタンニは壁に一つの映像を映し出した。
「チャームポイントはホクロです」
女性は笑いながら、頬にあるその黒い点を指さした。


今日ではホクロなど珍しいものではない。だが本来は誰の顔にもホクロなどなかった。人間はみな完璧であった。こ

330:続き
14/07/31 05:34:01.64 .net
のタンニの失敗以来急きょホクロが書き足された。その時に紙とインクが見直され、神々の創造に愛用されるようになった。当然ミスが増え、不完全な人間が量産された。

次「教頭先生は辞める日に笑ったよ」です。

331:名無し物書き@推敲中?
14/11/17 00:17:59.68 .net
教頭先生が辞める日、6年生のみんなで花束を渡したよ。
「先生、ながいあいだありがとうございました。ぼくらはみんな、先生によくしていただきました」
そしたら先生、すこし涙ぐみながらちょっとお話をしてくれたんだ。
「Aくん、君は1年生のとき、6組だったね。でもクラスメイトの中で、ちょっと輝いていたよ。
あの時私は、よし、この子が6年生になるまでずっと気にかけていよう、そう思ったんだ」
「ありがとうございます、教頭先生」
「さいきんの子供は、態度がわるい。君みたいな子ばかりだったらどんなにいいか」
「ありがとうございます、教頭先生」
「でも君は2年生のとき5組だったね。正直、あぶなかったよ」
「申し訳ありませんでした、教頭先生」
「3年のとき4組、4年のとき3組、5年のとき2組だった」
「ご迷惑をおかけしました、教頭先生」
「いいんだ、ここまで来てくれたからにはみんなと一緒だ。まったく、最近の子供は、
いって聞かせても道理のわからない子ばかりだからね。そういう子は必要ないね」
「はい、ぼくたちもそう思います」
「そうだろうとも。君たち6年1組はいい子ばかりだね」
教頭先生がにっこり笑うと、波止場からおまわりさんが来て、教頭先生をつれて行ったんだ。
そのあと島にはテレビの人とかが来て、しばらくたいへんなことになったよ。

次「100日あくとモノを忘れる」で。

332:名無し物書き@推敲中?
15/06/01 13:46:25.39 .net
モノヒデオ

333:モノヒデオ
15/06/10 22:11:24.74 .net
「ピッチャー 江草に代わりまして モノ」
投手交代を告げるアナウンスに球場はざわついた。
「モノだって そんな投手いたか?」「シラネ」
はたしてモノ投手が登場してマウンドに立った。
しかしモノ投手は動かない。
動くはずがないのだ。だって彼はモノ。物体。
オブジェクトなのだから。
モノ投手は動かない。

そして永遠ともいえる時間が流れた。
モノ投手は動かない。
打者も 走者も 審判も動かない。
お客さんも動くのをやめたまま。
そうしてそれがきっかけになって
世界全体すら止まってしまうのですが
かれらは止まっているので
とまっていることを自覚することは
永遠にないのでした……

「わかったわかった
俺がいつまでたっても動かないからって
そんなイヤミな話を聞かせることないだろ。
わかったよ やるよ
今からやろうと思ってたのに ぶつぶつ」

END

334:名無し物書き@推敲中?
15/06/10 22:13:05.64 .net
失礼しました

次のお題は「人違い」で

335:人違い
15/11/01 19:40:29.08 .net
『電磁コンシールメント破損。パーティカル型光学迷彩濃度ダウン。
遠隔視点誘導デバイス全滅。インプリクションバースト残量ゼロ』
骨伝導で戦術統合AIの忌々しい状況確認を聞きながら、俺はクソッタレな戦場をひた走っていた。
戦場と言っても、俺が持ち込んだ武器らしい武器は、工具を兼ねたちっぽけなレーザーカッターだけ。
完全隠密型の潜入工作だったために、装備は全て「隠れる」事に特化した物になっていた。
それが仇になった。
内通者の手引きで職員に変装し、悠々とターゲットのコアシステムに
遅効性のエゲツない電脳ウイルスを注入し、後は誰に咎められる事もなく帰還。
などというスマートで理想的なプランは、内通者が敵の手に落ちていた事で何もかもおじゃん。
何とか敵の初撃を察知し、トップエージェントとしての意地を見せるべく
敵から奪った銃火器で混戦を潜り抜けたはいいものの、その代償として
最先端工学の産物である隠密型装備はどれも使い物にならなくなっていた。
「クソッ、何とかサイバー系の検問ラインは越えたが、
どうやったって一つは警備員のいる詰所を通るしかねぇ。
この装備じゃ、殺されに行くようなもんだぞ」
だが、他にルートは無かった。
装備には頼れない、救援を待っている余裕も無い。
……やるしかないか。
俺は、腹の中で覚悟を決めた。

「あ、検問でーす。IDカードと所属部署の提示をお願いしまーす」
「…………これで」
「ありやーす。……あれ?なんか顔写真とちょっと違くありません?
 ていうかあなた、どっかで見たような」
「人違いです」
「あれ、多分緊急警報連絡とかそんな感じのアレで」
「人違いです」
「……あー、人違いっすね。失礼しました」

何事も無かったかのように組織が手配していた車に乗り込み、
俺は寿命五年分ほどの溜め息を吐き出した。
やはりどんな時代になっても、隠密工作からこの最終奥義が消える事はなさそうだった。

336:名無し物書き@推敲中?
15/11/01 19:41:24.81 .net
次のお題は「都会の夜」でどうぞ

337:名無し物書き@推敲中?
15/11/01 19:41:50.22 .net
一応age

338:都会の夜
15/11/02 23:33:17.95 LaIkc/YwN
「ナイトフィーバーだか?」
「んだ、ナイトフィーバーだ」
こんなやりとりが一週間前にあった。
彼はポーカーフェースを気取っていたが、内心ではかなり興奮していた。
地元のファンシーショップ谷本で買ったスパッツが破けるくらいに勃起していたがなんとかバレずにすんだ。
そして今、いたたまれなくなった彼は、一人で都会の夜に足を踏み入れた。
地図であらかじめ歓楽街を調べていたので、比較的スムーズに都会の心臓、歌舞伎町へとたどり着いた。
「こ、これが都会というものだか、もう23時だで、なしてこげに明るい、なしてこげに人が歩いとるんじゃ」
彼は社会人になったばかりで遠出をするのはこれが初めてだった。初任給の全てを財布に詰めてバスを乗り継ぎ、野宿も交え、2日がかりでここまできた。
彼は街ゆく人の洗練されたファッションを見て、自分が浮いているのを感じた。
中綿が完全にくたびれ、ぺたんこになった灰色のダウンと地元ファンシーショップ谷本のスパッツという姿が裸を晒しているように恥ずかしく感じた。
しかしそんな考えも目の前にあったピンク色の看板を見たとたんに吹き飛んだ。
「専属ナース…」
そこに書かれた文字を口内に読み上げた瞬間、彼のモノは勃起した。地元のファンシーショップ谷本のスパッツが激しく盛り上がり、その薄い
生地から中のブリーフが透けていた。
「お兄さんこっちよ」
「いい子がいますよー」
彼には店を選ぶ余裕などなかった。男の誘うママに路地から続く地下の店内へと入っていった。
「専属ナース…」
期待にスパッツをふくらましながら店内に入ると、とたん野太い男の声が響いた。
「そこまで!全員動くな!逮捕状が出ている!」
彼は逮捕された。どうやらその店では、プレイ後にナースが違法なお薬を出していたらしい。
もちろん彼は薬物などしてなかったが、ジャケットにスパッツという姿でラリっていると判断され検査もそこそこ、うやむやのうちに刑務所に収容された。

次「少林寺のボンボン」

339:都会の夜
15/11/02 23:46:14.25 .net
「ナイトフィーバーだか?」
「んだ、ナイトフィーバーだ」
こんなやりとりが一週間前にあった。
彼はポーカーフェースを気取っていたが、内心ではかなり興奮していた。
地元のファンシーショップ谷本で買ったスパッツが破けるくらいに勃起していたがなんとかバレずにすんだ。
そして今、いたたまれなくなった彼は、一人で都会の夜に足を踏み入れた。
地図であらかじめ歓楽街を調べていたので、比較的スムーズに都会の心臓、歌舞伎町へとたどり着いた。
「こ、これが都会というものだか、もう23時だで、なしてこげに明るい、なしてこげに人が歩いとるんじゃ」
彼は社会人になったばかりで遠出をするのはこれが初めてだった。初任給の全てを財布に詰めてバスを乗り継ぎ、野宿も交え、2日がかりでここまできた。
彼は街ゆく人の洗練されたファッションを見て、自分が浮いているのを感じた。
中綿が完全にくたびれ、ぺたんこになった灰色のダウンと地元ファンシーショップ谷本のスパッツという姿が裸を晒しているように恥ずかしく感じた。
しかしそんな考えも目の前にあったピンク色の看板を見たとたんに吹き飛んだ。
「専属ナース…」
そこに書かれた文字を口内に読み上げた瞬間、彼のモノは勃起した。地元のファンシーショップ谷本のスパッツが激しく盛り上がり、その薄い
生地から中のブリーフが透けていた。
「お兄さんこっちよ」
「いい子がいますよー」
彼には店を選ぶ余裕などなかった。男の誘うママに路地から続く地下の店内へと入っていった。
「専属ナース…」
期待にスパッツをふくらましながら店内に入ると、とたん野太い男の声が響いた。
「そこまで!全員動くな!逮捕状が出ている!」
彼は逮捕された。どうやらその店では、プレイ後にナースが違法なお薬を出していたらしい。
もちろん彼は薬物などしてなかったが、ジャケットにスパッツという姿でラリっていると判断され検査もそこそこ、うやむやのうちに刑務所に収容された。

次「少林寺のボンボン」

340:名無し物書き@推敲中?
15/11/15 08:31:51.27 .net

sssp://o.8ch.net/wjo.png

341:少林寺のボンボン
16/07/13 23:26:20.99 .net
「ご主人様、お紅茶などいかがですか」
「いいわね。シーラ、ではあれも一緒に」
「はい」
シーラと呼ばれたアラサーのメイド長は、屋敷で唯一自分から女主人に話しかけることを許された
ベテランだ。なんでも、女主人が上海にいた大昔からのご奉仕らしい。
「メイド長、お茶菓子は新しいビスケットの封を切りましょうか」
台所で部下の小娘が手にしたアメリカ製の缶を一瞥すると、シーラはにこりとして首を振った。
「今日は、懐かしい飴をお出しするわ。……東洋で手に入れた、すごく元気の出るものなの」
シーラはそういうと、抽斗の奥から古いガラス瓶を取り出した。中は透明な液体で満たされている。
「アチョーッ!」
シーラは突然叫ぶと、瓶の蓋を一瞬で回転させた。
「アチョチョーッ!」
気合を入れながらスプーンで中身をかき混ぜる。液体は粘度の高い水飴で、しかし古いものとは
思えないほどの滑らかさをもっている。
「ハーッ!」
メイド長がスプーンを回転させると、気合の塊が水飴にくるみこまれて、あっという間に球系の飴玉になった。
「これはね、フランスの技術と中国の武術をかけあわせた、魔法のお菓子なのよ」
シーラはそういうと、入れたばかりの紅茶とボンボン・ア・ラ・少林寺をトレイに乗せて、女主人にサーブした。
一時間後、小娘メイドは女主人とメイド長の死体を発見した。二人とも紅茶のカップを頭に乗せ、
鶴の構えで直立したままこと切れていた。そして、ボンボンはなくなっていた。
「くっ、なんてことだ!」
若いジャッキーはメイド服を脱ぎ捨てると、巨悪と戦うために山へと消えていったのだった。-劇終-

次「無自覚な太陽」


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