よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ4at BUN
よくわからんお題で次の人がSSを書くスレ4 - 暇つぶし2ch50:生活の柄
12/03/18 17:14:27.51 .net
 彼女は本質的にはきちんとした子だった。
だからといってそれを押し付けてくることは無く
例えばゴミの分別なら、僕が適当に分けたたものを
彼女がきちんと分けてくれていた。

 彼女に旅行計画を任せると
トイレの位置まで調べていて余程のことがあっても困らない。
僕が計画を立てると行き当たりばったりだが
それも笑顔で楽しめる子だった。

生涯を想い深く付き合っていたから
彼女の生活は僕の体にしっかりと残っていた。

 朝ごはんをきちんと食べること、紅茶、音楽
内容はさておき本を読むこと、
さぼり気味だけど散歩、そして空を見上げること。

 仕事で海外に行ったときも、同じ刻に空を見て電話で話した。
昼夜逆転のときも星座すら違うこともあった。
だけど一緒に空を見上げているだけで何かが繋がっていたと思う

無地だった僕の生活には彼女の模様が描かれていた。
今後もいろいろな模様が増え消えていくのだろう。

次は「晦渋な懐柔」でおねがいします

51:名無し物書き@推敲中?
12/03/19 20:32:27.40 .net
俺は怪獣だ。
退屈に満ちた地球人共を皆殺しにすべく
ペクレリのかみさかすきの・ツからイスルミニチをカングリショウして
地球でクヌグマギサとミミロゴロンを吐き
たゅのまりちか・げ  まをクルツマリチイバスガミニス!
「タタラカチぴばそにろ、ぐ、びらびんだ」
地球人もメメソコメソコメコ、ベギレロン、ツルマユヌ、イッゾバシ、揃えてズ・ゲイソン。
俺の体はメイロケン1、チマ2、3クミロシニアンバニキシ4ポエ、地球人の干渉はメ・無意味だ。
ミミロゴロンを浴びて地球人もヒゾヒロカ、顔面がボクニジウ(オレンジ色に溶けて)、ボクニリボ、ボクニリボ!
俺の特製のミミロゴロンは地球人と相性がよく、ボクニジウボクニリボの!ろ。に減少が見られない。
これは大発見だ!俺のミミロゴンは人間を使えば永久的にヒロスエリョウコ。うれべらみに。
ウダゲンガバッショ学会に発表してノーベル賞だ!

「うー、ミミロゴロンで……えっと、ボクニジロウベニクだー。ぐえー。げろげろー」
「がはは、メ・グミニアス!うばばば!俺は天才博士ノーベルだ!ヒペ・ソメニキア、ロペ、ローペ!」
「そうです、あなたはノーベル博士!ぜひ学会へ発表しましょう!東京大学はあちらです」
「うむ、ろろろろろろろ」

精神病院に患者が一人、収容された。


次のお題は「ピュア文学」で。

52:ピュア文学
12/03/19 23:59:10.29 .net
中学の卒業式のあと、僕は3年間のオトシマエをつけに行った。
折り合いの悪かったグループと会うのも最後だったからだ。
僕はいつも一人だった。誰ともつるまなかった。ワルだのツッパリだのに
興味はなかったし、喧嘩でも負けたことはなかった。が、三年間、
僕は何とも言えぬ敗北感と折り合いをつけてきたのだ。殴り合いなんて、
しょせん勝負の一部にすぎない。
コウキチの家へ行くと、タケシとカズヤもそこいいた。何も知らない叔母さんが、
僕を友達の一人と思って案内してくれた。3人は冷ややかに笑っていた。
僕は奴らを連れ出して、河川敷で殴った。鼻が曲がるまで殴った。
すっきりしなかった。空は雲に覆われて、春の空気が湿っていた。
草の朽ちた土の匂い、ひたひたと湿った石ころの匂い、僕は、いったい、
何をしていたんだろう?
僕は家路についた。家まであと三町というところで日が落ちた。雨が降ってきた。
玄関先で、僕は家中が穏やかでない気配を感じた。連中を殴ったことがばれたかな。
魚の匂いがしている。寿司でも取って待っていたのだろう。
僕は引き戸から手を離し、玄関フードを見上げる。むき出しの白熱球がむらっけに光って、
庇と壁のあわいに、きっと去年のうちに死んだに違いない蛾の、汚れた巣のあとがみえた。
僕はサーという雨音に立ち尽くす。と、塀の内側にがらくたの山を見つけた。
壊れたウクレレがあった。僕はそれに見覚えがあった。
それは5年前、帰郷して病に死んだ叔父のものだった。叔父は文学部を出て就職し、
都会の生活に失敗して、うちでぶらぶらしていた。叔父はブンガクセイネンなんだと、
みな陰口をたたいていた。
叔父は同居しながら、幼い僕にほとんど構うことがなかった。いつも2階の窓を
開け放して、このウクレレを爪弾いていた。そうだ、曲にもならぬメロディを。
僕は毀れたウクレレを手に取った。湿気に飾り板が反りかえって、弦は切れていた。
額にかかる雨をぬぐい、ウクレレを仔細の眺めると、裏に小さな字でなにか彫ってあった。
『P u r i f i c a t i o n』 ……そして、『卒業おめでとう』と。
僕はこの日、あの浮世離れした叔父が、けして文学の人でなかったことを知った。
そして、それでもなお、やはり文学を愛していたことも。

次『棺桶サンバ』

53:棺桶サンバ
12/03/22 17:56:06.14 .net
 俺のじいちゃんはとにかく派手で元気で人生を舐めきった人だった。
そんなじいちゃんも事故には勝てず、歩道で踊っていたときに車が飛び込み
文字通り踊りながら死んだ。

 葬式は生前にじいちゃんがコーディネイト済みで
その内容を一言で言うなら「ダンスパーティー」だった。
しかし、それを詳細に語ろうとすると、僕は適切な言葉を知らず
「カオス」と結局一言でしか言えなかった。

 じいちゃんの友人のお坊さんが、読経の発声で歌うポップス
バックバンドは三味線に尺八、木魚等など何でもあり。
そして、踊るじいちゃんの友達たち。

 正直、のりの良い親類を除いて身内はあっけにとられ取り残された感がある。
しばらくすると、子供の頃夢中になったアニメの歌が流れ始める

『ちょっとあれ見な、親父が通る、カブキ者ぞと町中騒ぐ・・・』
キャプ翼の替え歌で、チャンバの産婆がサンバを踊っている

 本当にわけがわからないよ……それが身内のいつわざる感想だった。

次は「青のさざめき」でおねがいします

54:青のさざめき①
12/04/04 21:36:21.38 .net
「葵……こっちに来なさい……さあ、パパの前で服を脱いでごらん」
 病床の画家、迅東一郎は十歳の娘を呼んで、命じた。
 何の抵抗も見せず、父親の前で全裸になる葵。無垢な少女の裸身は、迅の創作意欲を掻き立てずにはいられない。
「パパ、何をするの? 何だかいつもと違うわ」
 迅は葵の体に塗料を塗りはじめていた。太く柔らかな筆に乗せられた鮮烈な青が、少女の裸体を埋めていく。
「葵……私は、今まで何枚ものカンバスに君を描いてきたが、今度は君の体に絵を描く。これが私の最後の作品になるだろう」
 その青い塗料は、他の塗料とは違っていた。ぬめぬめとした光沢を放つ塗料は、異生物のように葵の肌を滴り、重なっていく。
「……パパ、わかったわ。私の体、パパにあげる。私をパパの作品に仕上げて」
 恍惚に囚われた葵は、口を閉ざして瞑目し、その肉体を父の芸術に捧げた。
 葵の全身が青一色に塗り込まれるのに小一時間もかからなかった。
 そこに模様や陰影は一切なく、どこまでも均一な青が広がっていた。葵という素材は一切の飾り付けを必要としなかったのである。
 この作品を描いた翌日、迅は他界した。そして葵が異変に気づいたのは七日後だった。
「だめだわ。シャワーでいくら落とそうとしても流れない。なぜなの?」
 青い塗料が落ちてくれない。それは、非常に細かい単位の部分で、皮膚と完全に結合しているかのようだった。
「仕方がないわね。これはパパの遺志。背くわけにはいかないわ……」
 葵はあきらめ、これからの人生を青色の女として生きる覚悟を決めた。
 ―それから五年がたち、迅の遺した画廊は娘の葵が受け継いでいた。
 時流の雨風になんとか持ちこたえてきた画廊だが、歴史的な不況には勝てなかった。弱小画廊の経営は悪化し、いつしかそこは悪徳な金貸しの餌場と化した。
「けっ、ここかい?全身を青く塗りまくった変態娘のいる画廊は」
 見るからに柄の悪そうな男達が、玄関のカンバスを蹴り倒して、踏み込んできた。
「やめて下さい。その絵は父の遺品なんです」
 葵は男達の前に進みでたが、逆に細い腕をねじ上げられてしまう。
「何だこの女? おっ、顔は青いが、よく見ると結構いい女じゃないか」
「服の下も青いんですかねえ?」(続)

55:青のさざめき②
12/04/04 21:42:05.08 .net
「調べる価値はあるな。あと金目の物があったら全部ぶんどれ。いいか全部だぞ」
 金貸しの男達は、少女を相手に卑劣な牙を剥いた。
「イヤ、やめて下さい」
 抵抗空しく、葵は、あっという間に裸にされた。男達は、彼女の裸身に、目を見張った。
「ほう、こいつはすげえ。本当に胸から尻まで真っ青だぜ」
「こういう奴って結構変態的な趣味があったりするかもね。ちょっと試してみましょうか」
「よっしゃ、俺たちもこいつの体に絵を描くとしよう。白い絵の具ならたっぷりある」
「離して。助けて、パパ!」
 男達が葵の全てをむしろうとした瞬間、〈それ〉は起きた。
「なんだよ、これ? おい!」
 葵に塗られた塗料がどろりと溶け出した。それは渦を巻いて、男達に襲いかかった。
「なんかやばいぞ! こっちに来るな。気持ち悪い」
 男達は絶叫した。青の塗料が、男達の口に入り、呼吸を遮ろうとする。
「た、助けてくれ。息が……できん」金貸しの三人はたまらずに画廊から逃げ出した。
 画廊には全裸の葵が残された。いや、もう一人いる。部屋中に飛び散った青い塗料が、じわじわと一塊になり、人の形になって立ち上がった。
(葵……今まで黙っていてすまない)
 それは懐かしい、迅東一郎その人に違いなかった。
「パパなのね。うれしい!」葵は驚愕しながらも、顔をほころばせた。
(知人に、変わり者の遺伝子生物学者がいてね。実はこれは、彼に作らせた人工生命体なんだ)
「液状の疑似生命体なのですか?」
(塗料生命体とでも言おうか。これに私の記憶をコピーするのに手間取ったが、お前の体から生体電流をわけてもらって、何とか人格まで再生することができた)
 ここで、葵の頬がピクリと引きつった。
「お父様、もしかしてそれは、ずっと私の体に張りついていたと言うことですか?」
(うむ、創作者として葵と別れることは死んでもできなかったのだ)
「私が寝ているときも?」
(もちろんだとも)
「トイレやお風呂にいるときも?」
(仕方あるまい。慣れないうちは簡単には剥がれん)
「お父様……」
(なんだい?葵)
「変態ですね」
 その日を境に、葵の肌は元の色に戻ったという。(了)

56:名無し物書き@推敲中?
12/04/04 21:43:30.03 .net
次のお題はこれだっ!

「おまえは誰だ!」

57:1/2
12/04/08 01:50:06.01 .net

 もうずっと前からそいつはこの家に住んでいる。いや、もともとこの家の住人だったのだろうか?とにかく僕が物心ついたころにはそいつはこの家の住人だったのだ。

 そいつは頭に紙袋を被り一年中スーツスタイルで一言も喋らない。

 そいつは家族だった。一緒に食事をし、風呂に入り、テレビを見て、たまには旅行にいく。本当に家族だったのだ。

 ただ「母」とか「父」とかそういう呼び方がないのでみんな「あれ」とか「おい」とか曖昧な呼び方でそいつのことを呼んでいた。

 違和感がまったく無かったわけではない。テレビに映る家族の風景にはそいつはいなかったし、友達の家に遊びに行ったときにもそいつと似たような(みんな同じ見た目とは限らない。個性はあるはずだ)やつはいなかった。

 でも片親の家族だっている。子どものいない夫婦やペットのいない家族。祖父母と離れて暮らす家族だってある。だから他の家にそいつらしきやつがいないとしても大したことではない。そう思っていた……あのときまでは。


58:2/2
12/04/08 01:57:02.85 .net

「おまえん家にいたあの紙袋のやつ誰なの?」
 家に遊びに来た友達が次の日学校で僕に言った言葉だ。
 僕は言葉につまった。僕自信があいつのことをちゃんと理解して認定していなかったので説明できなかったのだ。
「……家族だよ……」
 聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声だった。そのあと僕はずっと喋らなかった。
 学校が終わり急いで家に帰ると僕はリビングでテレビを見ていたそいつに大声で怒鳴り散らした。
「おまえ誰なんだよ!」
 紙袋は答えなかった。ただじっとテレビを見ていた。気まずそうにも、無視しているようにも見えた。
「答えろよ!誰なんだよ!」

 突然そいつが立ち上がった。紙袋の奥の妙な威圧感に押され、僕は動けなくなった。紙袋もじっと動かなくなり、十分か二十分、二人は向かい合ったまま停止した。

 先に紙袋が動きだし、僕の脇を通り抜け出ていった。
 直ぐに裸足で後を追いかけた。紙袋はまだ近くの通りをとぼとぼと歩いていた。
その後ろ姿は寂しそうにもお気楽なようにも見えた。多分どっちもだろうと思った僕は呼び止めることもできず、彼が角を曲がって見えなくなった後もしばらくぼんやりと突っ立っていた。



 父も母も紙袋の彼についてなにも答えなかった。というより答えられなかった。僕と同じだったのだ。

 彼はなにも残さなかった。まるで最初からいなかったかのように……いや、いなかったのかもしれない。それとも今もいるのか、どちらにしろひどく曖昧で取るに足りない存在なのだ。
雰囲気とか空気とかそんなものと同じで、いると思えばいるし、いないと思えばいない、あれはそんなものだったのかもしれない。


次題「コールガール・フリージア」


59:名無し物書き@推敲中?
12/04/12 14:21:03.64 .net
「コールガール・フリージア」

やった。殺した。
私は、あいつを殺した。
私の起こした小さな交通事故、それを口外されたくなかった、その弱みにつけ込み、
多額の借金を押しつけ、それをネタに散々もてあそび、それに飽きると、今度は
売春までさせられた。コールガールとして、何人もの男のおもちゃになった。

逃げることはできなかった。つまらない奴なのに、いつどこで繋ぎを作ったのか、
怪しい連中が私を見張って逃げることも、警察に行くこともできなかった。
このままじゃ、私は本当にぼろぼろだ。死ぬよりつらいことだ。

だから、私はあいつを殺した。久しぶりに私をもてあそぶ奇異なったあいつと、
ようやく2人きりになった。チャンスはこれしかなかった。
もちろん計画なんてない。逃げる道も用意してはいなかった。
着の身着のまま、裸足て私は裏口から外に出た。手にあるのはフリージアの切り花。
私が大好きだった花。それをあいつは私が男に売られるときの目印にした。

でも、今はそんな役目も終わりだ。この花は、私だけの大切な花。
季節は春とはいえまだ寒い。足下から次第に冷気が登ってくる。
凍り付いてしまいそう。このままだと、凍えて死ぬかも知れない。
でも、私はうれしかった。だって、今このとき、私は自由なのだ。
思わず口にした。
「凍る。がーっ、フリーじゃ!」

次、「猿の腰掛け・猿・残しかけ」

60:sage
12/04/14 04:29:16.61 .net
「猿の腰掛け・猿・残しかけ」
ある昼下がり。
親友に呼び出された俺はいつものようにマンションのエレベーターに乗り、その家の玄関を開ける。
「よう」
その先のリビングでなにやら細工をしていたらしい親友は、こちらを振り返る事無く挨拶を飛ばした。
挨拶を返した俺はさっそく、それを見てみる事にした。
「それがお前の言っていた、とても面白いものか?」
すると親友は突然小刻みに震え始め、笑い声を上げた。
突然の事に面食らう俺だったが、この面白い事を見つけては俺と笑いあうのを楽しみとしている男が何を

そんなにわらっているのか。
気になるのを抑えられなかった。
背を向けた親友に隠れて見えないそれを、少し逸る気持ちで回り込んではしげしげと見つめる。
「……………………………?」
それは一目に笑い声を上げるような物では代物では無かった。
「キノコ?」
少しばかりそれが何なのか理解できなかった俺だったが、それが何なのか分かった。
それは受け皿の上に乗った、小さな切り株だった。そしてその周りにはシイタケから傘だけを切り取った

ような物がビッシリと吸い付くように群生しており、それを見た俺は「気色悪い」と素直な感想を漏らし

た。
「フッ、フフ、フフフ………」
親友は肩を震わせて笑いを堪えるのに精一杯のようだった。
「こ、これは、これは、ブフッ!フ、ハハ、ハァ…サル、フフ、サルのッ、コシカケ、ブフッ!」
それだけを言ってまた笑いを堪えるのに神経を集中させる親友に、俺はしばし考え込む。
「うーん……?」
丁度きっかり30秒ほど頭を抱えたあと、俺は降参のポーズを取った。
「わからん。さっぱりわからん。何なんだ?」

61:sage
12/04/14 04:30:02.39 .net
ようやく発作的な笑いが収まってきたらしい親友はあまりの笑いっぷりに涙を浮かべながら、俺の肩をつ
かんだ。
「そ、それがさ。これが、サルノコシカケだろ?それで、これはウチのマンションのオーナーからパクっ
て来たんだ。ほら、あのサル顔の。プクク」
「あぁ、あのオーナー?で、サルノコシカケ……」
俺は露骨にガッカリした顔を親友に向けた。
「そんだけ?」
今回は全然駄目だな……。
そんな感想を思い浮かべ、そろそろ帰ろうかとまで思い始めた。
しかし、親友は俺の肩をさらにバシバシと強く叩く。
「いや、まだあるんだよ。ここからが最高傑作になるんだ!」
「ほー?」
面倒になってきた俺は、とりあえず聞くだけは聞いてみることにした。
「これがサルノコシカケだろ?で、サルからパクって来た。そんで、しかもこれは……」
「これは?」
親友から飛び出してきたその言葉は、まさに笑い話だった。

「なんとフォークとナイフが付いた皿の上に乗ってたんだよ!」
馬鹿な奴め。

その切り株は俺が昨日オーナーをからかおうと置いておいた物だ。


次「風呂上り」

62:名無し物書き@推敲中?
12/04/15 11:22:18.64 .net
「風呂上り」

 4/14(土) 俺は今日も風呂死した。いや、風呂死という表現では何のことか分からない
かもしれない。要約すると、俺は毎夜毎夜風呂で死ぬのだ。
 俺は精神を病んでいる。そして風呂が大嫌いである。風呂に入ると、死んだような気が
するからだ。別にどこかが痛むわけではない。熱すぎて死ぬというわけでもない。ただ湯
船に浸かると、もうだめなのだ。そこにあるのは死だ。今日という日の終わりだ。
 ここまで書いて、タイトルが風呂「上り」であることに気付く。「上がり」ではなく「上
(のぼ)り」だった。畜生。俺の半自伝的小説を書こうと思ったのに、これではお題を勘
違いしたただのアホではないか。俺は風呂に颯爽と舞い戻ると、フタをされたバスユニッ
トの上に昇り、高笑いした。ふははは。これぞ風呂上り! 今度こそお題を消化してやっ
たぞ。そう思うと同時に、フタが俺の体重に負けて折れ崩れた。俺は足をすべらせ風呂に
倒れた。頭をぶつけ、目の前が暗くなり、そして―
 俺は病院の集中治療室で目を覚ました。首から下の感覚が無い。俺は目をぐるりと回す。
と、医者が俺の覚醒に気付いたようで、声を掛けてきた。返事を返そうとするが、声が
出ない。右目でウインクをして、YESの意志を伝える。さらに質問が来る。左目でウイン
クしてNOの意志を伝える。何度か質問の応酬があったあと、医者は俺がなぜ風呂場で倒れ
たのかを理解したようだった。俺は俺で、自分のノートパソコンをこの場に持ってくるように
医師に伝える。
 備えあれば憂いなし。俺はあらかじめ「脳マウス」をノートパソコンにインストールし
ておいたので、首から下が動かなくても問題は無い。脳マウスを装着し、念じることでソ
フトウェア・キーボードを立ち上げ、途中まで書いてあった小説の続きを書き足し始める。
俺は満足感に満ち溢れている。なぜならお題を消化できたからだ。それ以外の事は全くの
些事でしかない。
 結論からいうと、風呂上りはやめたほうがいい。頭を打って死ぬかもしれないし、俺の
ように全身麻痺になるかもしれないから。

「風使いの日常」

63:風使いの日常
12/04/15 18:07:32.63 .net

 朝けたたましく鳴る目覚まし時計で目を覚ます。力を使って少し離れた机にに置かれた目覚ましを黙らせることもできたが、そうはせず、十秒ほどぼんやりとしてから起き上がり目覚ましを止めた。
 朝風呂をすませ、ドライヤーで髪を乾かす。力を使っても乾かすことはできるのだが、もう大分まえからドライヤーを使っている。

「おはよう」
「おはよう」
 朝食を作っていると息子が起きてきた。
「学校はどうした?」
「なにいってるの父さん今日日曜だよ」
 そうか日曜か、それじゃあ庭の掃除でもしよう。私は庭にたまっていた落ち葉のことを思い出した。
 竹箒を使って落ち葉を集める。かなりほったらかしていたので思いの外骨が折れる。力を使えばあっという間に終わらせることも出来るだろう。でももう力は使わない。二度と使わないと決めたのだ。

 強大な力は大きな影響を及ぼす。良くも悪くも……

 力のせいで、この子にも死んだ妻にも随分辛い思いをさせた。だから顔を変え、人里離れたこの場所に引っ越してきた。

「お父さん、風がなくてぜんぜんとばないよ」
 近くで凧上げをしていた息子が不満そうに口を尖らせてやって来た。
「どれ、かしてみろ、コイツはコツがいるんだ」
 息子から凧を受け取ると私は微かに吹く風に向かって走り出した。バランスをとりながら少しずつ糸を伸ばしていくと凧は徐々に上昇していき、やがてかなり高くまで舞い上がった。
「どうだ、凄いだろ」
「うん、凄い」
「ほら、持って」
「風が弱くても飛ぶんだね」
「ああ、そうだ、風がなくても走れば風は起こるんだ」

 凧は高く上がっている。灰色の空を高く、高く。

 私はそれを横目でみながら微笑む。そして再び竹箒を手に取り、落ち葉集めの続きに取りかかるのだった。

次題「A→B→C→B→A」

64:sage
12/04/16 00:11:05.71 .net
「A→B→C→B→A」

物語はいつものAから始まる。

「仕事だ」
女だてらにぶっきらぼうな所長から渡されたのは、依頼内容の書かれた一枚の紙。

そして物語は否応無く、Bへと進む。

「報酬はいい。ウチ以外なら、この三倍は払って頂けるだろうが」
薄汚い町でしがない探偵に与えられるのは、それに見合った骨折り損の、割りに合わない危険な仕事。

そして大抵は望みもしないのに、Cに至る。

「私に構うな。その子を連れて逃げろ!」
与えられるのは、依頼主にとって使い捨ての役割だけだ。

そして物語は否応無く、Bへと後戻りする。

「あの子は病に冒されている」
気の遠くなる逃走劇の末に、その少女は微笑みながら死んで行った。

そして物語はいつものAで、終わるだけだった。

「奴らから頂いてきた報酬は三倍ではすまない。それに、報いは受けさせた。そして、あの子は幸せに生きた。それでいいんだ」
女だてらにぶっきらぼうな所長は、この日初めて涙を見せた。


次「Good Luck」

65:名無し物書き@推敲中?
12/04/16 03:25:23.22 .net


「なあ俺たち死ぬのかな」

戦友であるSはそんな言葉を吐いた。ここはもう死地だ、敵軍に包囲されている。没落するのは日暮れを見ずしてのことだろう。Sの仄暗い言葉を否定できない。

「大丈夫さ! なんとかなる。それに―いざとなったらSは逃げろよ」

「友達をおいて逃亡なんてできるはずがない」

「気にするなS」

「……」

敵の足音がする。段階を踏んで増幅していて、俺は全身が震えている。自覚するほど、恐怖は俺をつらぬく。
Sは目を充血させて涙を流した。

「さあ俺いってくるよS。じゃあなグットラッグ! 」


66:名無し物書き@推敲中?
12/04/16 03:27:11.02 .net
 俺は背後など関係なしに前進した。両足は全速力で起動していて、身体を酷使している。しかしそんなの関係なくて
俺は今から家族を守るため、王を守るため、たいせつな親友を守るため―死ににいく。
 敵の身体を一体でも、十体でも百・千・万・億のかなたまでこっぱ微塵にしてやる。殴る・蹴る・噛み付く。見えるのはもがれた足・腕・頭。
―そして俺はついにつかまってしまった。
 

「殺せよ。―覚悟は出来ている」

「いわれなくとも……しんでもらうさ」

「けれど死ぬ前に見て欲しいものがあるんだ」

「お前の親友Sの死に様をな」

「なに!? 」

Sは敵に捕らえられて、既にことが切れていた。その死は壮絶だった。

67:名無し物書き@推敲中?
12/04/16 03:29:50.58 .net
俺は、国王のことを思った。痩せこけていて、古臭くて…… とても国王には見えないけれど―いい王だ。俺はこの国に生まれてよかった。死にに行くさ。Sも死んだしな。
 表情緩ませて俺はいった。
「最後に言わせてくれ」

「なんだね? 」
「俺の名前を覚えておけ」

「いいだろう」

俺は大声をはりあげる。世界中に響くように、家族に届くように、Sに届くように。そして国王にささげるように。

「俺の名前はA、そして国王血肉。国王を守るナイトだ」

「そなたの騎士道を心得た。ワシの名もいおう……といっても我々の種族では個別の名前はないんだ」






「――ワシの名はインフルエンザ。おぬしの国王に一戦するものなり」


「魔法使いの女」


68:名無し物書き@推敲中?
12/04/16 22:38:47.33 .net
「魔法使いの女」

「魔法使いって男限定なんだぜ」
「そうか? 女にも沢山いるんじゃないか? いやまあ、創作だけどさ」
「そうじゃないんだ。魔法使いは英語だと何て言う?」
「えっと、ああ、確か、ウィザードだっけ?」
「じゃあ、魔女は?」
「ええ? あ、ああ、なるほど、ウィッチって言うな」
「だろ? だから、魔法使いは男だけなんだ」
「そうか、確かに。しかし、なぜなんだ? どっちも魔法を使う人間に違いは
ないだろうに」
「思うに、歴史的な背景が違うんだろうな。ほれ、魔女狩りだって、魔法使い
狩りじゃないわけでな」
「はああ、そう言えば、魔女って邪悪なイメージあるかな」
「よくは知らんが、まあ、そんなことじゃないかな」
「ふーん、あ、じゃあ、なあ」
「何だよ?」
「魔法使いが性転換したらどうなる?」
「何だって?」
「いや、もちろん想像の上だが、現代に魔法使いがいたとしたら、中には性転換
したくなる奴がいたって不思議じゃないだろ? その場合は?」
「それはお前、女じゃなくておかまだろ? だったら、おか魔法使いか? わはは」
「いや、おか魔女じゃないか? ひひひひ」
「ワハハハは……ひゃあ!? ゲコゲコ」
「何なだお前……て、何で急にカエルに……ぎゃああ! ケロケロ」
(屋根の上で)「馬鹿笑いするんじゃないわよ。私は、れっきとした魔女なんだからね!」

次、「蛙日和」

69:蛙日和
12/04/24 02:11:56.82 .net
 雨上がりの下校、水溜まりを避けてぴょんぴょん跳ねる彼女。よく見ると仕方なく避けているのではなく、敢えて水溜まりを選んでいるようだ。子供みたいにはしゃぐ彼女に気恥ずかしさを感じつつも無邪気な笑顔につい見いってしまう。

 ばしゃん

 その笑顔のせいでうっかり水溜まりにはまってしまった。

「うわ、ダサ。水溜まり踏んだら負けだからね」
「負けたらなんかあんの?」
「別に、なにもないけど」
「何だよそれ」

 なおも彼女は楽しそうに跳ね続けている。まったく。なにがそんなに面白いのか……とあきれていると、再び僕の足下に水溜まりが迫ってきた。下らない……でも……。

 ひょい、とそれを飛び越える。続けて二個、三個とテンポよく飛び越え四つ目で彼女と並んだ。いひ、と彼女が笑う。つられて僕もふふふと笑ってしまった。

 そして彼女はまたぴょんぴょん進みだした。僕もそれを追ってぴょんぴょん跳ねる。少し前までの恥ずかしさはなくなっていた。ジャンプする度にふわりと舞う彼女のスカートや長い髪、そしてなによりあの笑顔が僕を夢中にさせていたのだ。僕らはその後別れ際まで跳ねていた。

 ただ、あとから思えば、道路を必要以上にぴょんぴょん跳ねている二人の姿は、端から見れば多少滑稽だったかもしれない。

次題「木乃伊取りは木乃伊になれない」

70:木乃伊取りは木乃伊になれない
12/04/24 21:40:57.51 .net
 空中に、キューブが回転している。その各面には、往年の俳優ロニー・コックスに似た男の顔があった。彼は受信者の《彼女》に言った。
『ルリクニ、ここでの君の使命を伝える。惑星マーシの三日月大陸にあるクリスタル学園。ここは美少女だけの全寮制の学園だ。
実はここで不適切な貿易の疑惑があってね。詳細を調べて貰いたい。なお君の変装は疑似記憶を含めて、バージョンアップ前のままなのでくれぐれも注意するように』
 ルリクニと呼ばれた銀髪の少女は一通りの説明を聞くと、ぷいとキューブを切った。そんな説明はどうでもいいわとでも言いたげに。
「いやー、学園生活。一度やって見たかったんだよねー」
 既に学園の制服にチェンジしているルリクニは両手を上げて背伸びをした。
 足下にはフォロワーの黒猫ジルがチョロチョロまとわりついている。彼は喋る猫だ。
(ルリクニ、くれぐれも任務を忘れちゃいけないよ)
「判ってるわよ。それよりもっと離れて歩いてよ。魔法少女だと思われちゃうわ」
(やれやれ……)ジルは渋々他人(猫)を装って、彼女から退いた。
「うっひょ、どこを見ても美少女だらけ。ここはガンダーラか!」
 ルリクニは謎の転校生としてこの学園に足を踏み入れた。
 彼女は抜群のプロポーションではあるが、尻の振り方が何となく大げさ、不自然である。
 警視員はそれを見逃さなかった。
「ちょっといいですか。そこの君」
「はい、何でしょう?」ルリクニはにっこり笑って応えた。
「あなたはここの生徒ではないですね」
「ぬほほほ、留学生よ。短期間ですけど」
「滞在期間はどれくらい?」
「二週間です」
「え?」
「二週間です、二週間、へっへっ、へくしょん!」くしゃみが出たのが運の尽きだ。
「き、君は何だ?」目を丸くする警視員。
 ルリクニの顔が崩れだした。
「へくしょん、へくしょん!」
 ルリクニの顔が完全に崩壊した。更に抜群だったスタイルが破裂し、衣服もびりびりに裂けて、本体が出てきた。
 ルリクニは、美少女とは似ても似つかぬ正体をさらしてしまった。四十過ぎの中年男。しかも全裸の。
「逃げろ。作戦は失敗だ。出直しだ! ジル、転送の用意を!」
 ルリクニは巨大な陰茎をさらしながら、美少女たちの間を全速で駆け抜けていった。

次「恍惚のプロメテウス」

71:名無し物書き@推敲中?
12/04/27 23:56:29.41 .net
~恍惚のプロメテウス~

「どいてよっ」
ふき飛ばされたボクには何がなんだか判らなかった
だがショックで我慢したものが一部出てしまって
恍惚感に一瞬怒るのを忘れた

しばらくするとドアが開いた
さっきとは違う穏やかな表情の女が出てきて
「ごめんなさい」と謝った
そうここは男子トイレだ

彼女はボクのズボンが濡れてしまっているのを見て
「ごめんなさい」と二度謝った
そして逃げるように去っていった

・・・逃げるように?

答えは個室トイレの中にあった
流れず詰まった便器の中
黒い塊の上に置かれたポケットティシュの広告が
「新装開店プロメテウス、一時間千円ポッキリ・・・・」
とかろうじて読めた

72:名無し物書き@推敲中?
12/04/27 23:57:42.47 .net
次 「なぜ金持ちが存在すると多くの貧乏が増えるか」


73:名無し物書き@推敲中?
12/04/28 21:49:33.33 .net
「なぜ金持ちが存在すると多くの貧乏が増えるか」
 俺は与えられた課題の題名をレポートの冒頭に書いて、それから考え始めた。
どんな風に答えればいいのだろう。どう考えても、変な文章じゃないか。
 その時、ドアをノックする音が聞こえ、そのままドアを開ける音がした。
「よっす、暇か? あ? お前、勉強してるのか?」
 やって来たのは隣の部屋の住人、同じ学部の同期、ついでに飲み仲間だ。頭は
いいが、変人で通っている。
「ああ、これだよ、これ。どう考える?」
「そのことだが、お前は何か気がついたか?」
「いや、分かるのは文章が変だ、と言う点だけだな」
「だろう? それで、考えてみたら、どうやらやっかいごとらしいんだ」
「え? お前、分かるのか?」
「当たり前だ。見て見ろ」
 彼はパソコン画面上の表題を指でなぞった。


74:名無し物書き@推敲中?
12/04/28 21:50:32.08 .net
(続き)
「まともな言葉じゃないのは、明らかだ。だとすれば、暗号のようなもの、何かを
隠したものであるのは間違いない」
「ああ、なるほど」
 納得したわけではない。だって、授業のレポートの表題に暗号を与えるなんて、
それこそ無意味だ。だが、とにかくこいつの意見を聞くことにする。
 彼の自慢顔は変わらない。
「で、言葉の選択が異様なことを見れば、そこに意味があると見るべきだ。この
ままで意味をなさないなら、漢字の読みを変えてみる。」
 そう言うと、キーオードに指を滑らせた。出てきたのはこんな文字列だ。
 なぜ きんじ ちが ありあり すると
 たくのひんとぼ が ぞうえるか
「なるほど、何やら意味ありげだな。だが、それで?」
「多分、最初の仮名がそのままなはずはないと思うので、一文字を後ろに回す。


75:名無し物書き@推敲中?
12/04/28 21:50:51.74 .net
(続き)
それから、意味をなす言葉を感じに置き換えるぞ」
 今度は次のような文字列が表示された。
 是 近似値 が 在り 蟻 すると 宅の ヒント
  母画像 得る 仮名
「確かに意味ありげだが、かといって意味をなすとも言えないぞ。だいたい、
母画像って何だよ」
「それなんだが、あの講師の母親が失踪しているって話を聞いたか? ほら、ここ
に記事がある」
 そう言って取りだしたのは、昨日の日付の地方紙だった。確かに、小さいながら、
初老の女性の写真が載っている。
「なるほど、母画像だな。それで?」
「多分、あの講師には人に迂闊に言えない秘密がある。それが母親の失踪に繋がって
いて、誰かにそれを知って欲しい、出来れば助けて欲しい、それを不特定多数に発信
した、そういうことじゃないかと思う。お前、俺を手伝ってくれないか?」
 その日からの数日、闇を手探りし、時には手に汗握るスリルを味わうことになった
のだが、残念ながら、ここでは語ることが出来ない。変な文章は放っておくに限る、
読者の諸兄には、これを教訓とするようにお伝えしたい。

次、「天使の羽衣もどき」

76:名無し物書き@推敲中?
12/05/01 11:19:59.46 .net
「天使みたいだよね。」
「私?」
「うん。」
「…私ってさ、色んな人に良い顔するじゃん?」
「良い顔っていうか、善人だよね。」
「ううん、違うんだ。私ね、偽善者なの。」
「そんな訳…」
「そんな訳あるんだよ。」
「…。」
「嫌われるのが怖くて怖くて、いっつもヘコヘコしてる。
本心からの善なんて、一度もしたことなんて無いよ。こんなの偽善としか言い様がないよね。
私そんな自分が嫌い。心からの善が出来ない自分が大嫌い!」
「…君の事、知ってるよ。どんなに嫌いで嫌な奴も見捨てられないこと。どんなに辛いことも我慢すること。
どんなに悲しいことでも泣かないこと。どんなときも優しい笑顔でいてくれること。
確かに君の善は偽善かもしれない。だけど心からの善なんてそうそう出来ることじゃないんだ。本物の天使くらいじゃないと難しいことだよ。
私は言ったよね、天使みたいだって。
天使みたい、だから天使じゃない。君は人間だから、天使にはなれないよ。だから、悩まなくていい。だって君は天使じゃないんだから!
偽善でもいいんだ。それでも君のことを好きでいてくれる人はたくさんいる。
君の偽善で人を笑顔に出来るんだから。」
「…でも、でも!」
「…それでも不安なら、少しだけ魔法をかけてあげる。
君がこれからも沢山の人間を幸せに出来るように、天使の羽衣もどきをあげよう。ごめんね、本物はあげられないんだ。そういう決まりでね。
…だけど君ならば、これでもきっと……」
そう言いながらあの子は消えていった。
あの子は誰だったんだろう?ずっと一緒だったはずなのに、もう思い出せない。
でも一つだけわかった。
あの子は天使だったんだ。

NEXT 「夢にあざけ笑われる」




77:名無し物書き@推敲中?
12/05/06 07:46:17.26 .net
 最近、砂漠の夢をよく見る。砂漠は僕の知っている町を覆っている。
僕は夢の中でその砂を掻き分けて何かを探そうとしている。
でもそれは夢がそうであるように、掻き分けても掻き分けても
手のひらを砂がすべるばかりで何も見つからない。
きっと精神科の医者なら適当な分析をするのだろう。
探しているものは自分自身の心だとか。多分僕も賛成すると思う。
僕は自転車に乗りながら、そんなことを考える。
「分析なんてね、意味はないんだよまったくね」
家の庭に自転車を止めながら夢がそう言うのが
聞こえるような気がする。いや聞こえたらいいなと思う。


お題 今すぐ窓を閉めよ

78:名無し物書き@推敲中?
12/05/06 17:52:31.87 .net
「今すぐ窓を閉めよ」

がしゃぁん!
 その、悲鳴のような叫びに即座に反応した一人がカーテンをなびかせ日差しを取り込んでいた窓を勢いよく閉めた。
「畜生、もう官憲の野郎が来やがったのか!?」
「ここも危ない、早く逃げよう!」

「な、何をするんだいったい」
 突然首を絞められたマドオは叫んだ。
「仕方が無かったんだ。だっていきなりおまえを絞めろって声が聞こえたんだから」
「んなあほな!」

「な、何だったのだいったい……?」
 午睡の最中であった魔導師メヨは上半身を起こし、辺りを見回した。

『ぴんぽんぱんぽ~ん』
 そして先ほどの声はまたしても響き渡った。
『スピーカーのテスト中、ただいま、スピーカーのテスト中でございます。先日、連絡がまわったとおりの言葉が聞き取れなかった場合、速やかに町内会本部までご連絡ください。繰り返します……』

お題「減点ごま油のルンバ」

79:名無し物書き@推敲中?
12/05/06 21:47:50.29 .net
よくわからんお題ってたぶん、椎名林檎の歌のタイトルあたりから
来てると思うんだけど、センスないやつがお題出すと止まっちゃうから
ある程度、意味として通じるのを出す気持ちもわかるでしょうよ?



80:減点ゴマ油のルンバ
12/05/07 00:01:35.33 .net
「知ってるか、お前はゴマ油でも動く」

百年に一度の天才と持て囃されている生みの親の返答は、彼の最高傑作と名高い筈の
私の思考パターンのどれにも当てはまっていなかった。

「太陽光、電気、ガソリン、ハイオク、石油、サラダ油、オリーブ油、ゴマ油、エトセトラ……
あらゆる状況下でも稼働出来るように、お前をつくったんだ」

あらゆる状況下、と言っても私は生まれてからこの市内から出たことがない。

「それに燃料の種類によって人工知能の思考パターン……性格も変わる」

博士はすごい嬉しそうに説明してくるが、それって必要なのだろうか?
この人の事だから理由は後付けできると踏んで、用量いっぱいこんな無駄機能を入れたのだろう。
まだ聞いていない機能の方が多そうで怖い。

「台所に油あっただろ。明日充電するからそれまでそれで代用してくれ」

主人の指令は絶対。
なのだが、正直そんな単純なことで自分が変わってしまうのが少し怖い訳で……

「あの、博士、」
「大丈夫。
……どんな姿でも、性格でも、お前は僕の大切な家族だよ」

「…博士……」



そして私はゴマ油が切れるまでルンバを踊った。

81:名無し物書き@推敲中?
12/05/07 00:02:31.53 .net
次のお題は「日まぐれな彼女」 でお願いします

82:日まぐれな彼女
12/05/07 00:34:32.00 .net
アンナは美人だが気まぐれな女さ。どんだけ美人か知りたけりゃ、
アトランタのLAフィットネスが配った3年前のカレンダーの4月をみるといい。
いいか3年前だぜ。それを鼻にかけて、いまだにあたしは
カレンダーガールなんてお高く止まってやがるんだ。
デートの約束は簡単だ。99%すっぽかされるけどね。
彼女を射止めたけりゃまず贈り物、サプライズのある仕掛け、
でもっていい車を用意して、電話したらすぐ迎えに行く、これがコツさ。
日をまたいじゃいけないよ。気分が持たないから。
そう、彼女は日マグレな女。確かにカレンダーガールかもしれないな。

ジョンの奴にそういわれて、俺はとびきりの指輪とピカピカの
キャデラックを用意した。トランクの中はバラで一杯。
アンナに電話して、即座に結婚を申し込んだ。そして5分で迎えに行ったのさ。
で、出てきた女は喜色満面、手には婚姻届を持っていた。
顔はカレンダーガールというよりナショナル・ジオグラフィックのびっくり生物だったけどね。
アンナ、エイプリルフールだからって、身の程をわきまえない嘘はつくもんじゃない。
3年たっても皆がネタにしてるし、そしてなにより迷惑qswでrftgyふじこlp;@:

次「サンマーメンは鯖缶のあとで」

83:名無し物書き@推敲中?
12/05/07 22:49:27.93 .net
私は猫。かわいい子猫。ご主人様に飼われてる。
あれはそう― 一ヶ月前の雨の日
「あっ! こんなところに子猫が捨ててあるぞ」
「にゃー。拾ってくださいにゃー」
「よし、じゃあ私について来なさい。人間の言葉は分かるようだから」

もちろん私は人間。でもご主人様の前では猫の
振りをしていなきゃならない。だってご主人様は大の人間嫌いだから。
「昔、俺は女に酷いことされたんだ。それから引きこもりになった。
そして一年後やっと仕事を見つけてアパートにうつることができた」
「にゃー」
ご主人様は笑顔で私を撫でて餌をくれる。実を言うと私はご主人様の
容疑を固めるために警視庁から来た警察官なのだ。
というのはもちろん嘘。私も孤独の女の子。
愛を知らない女の子。お主人様は台所で何か作っている。
きっとまたラーメンだろう。私はサバカンが食べたい。猫の振りをしているうち
大嫌いな魚が好きになってしまった。



お題 階段が激流

84:階段が激流
12/05/09 20:57:32.48 .net
 キムは生前に13人の少女を殺害し、死体を犯した後、それを食った。彼は三年間逃亡したが、最後に自宅でキムチを食っているところを機動隊に突入され、2014発の弾丸を浴びて即死した。それが彼の最期だった。
「ん……ここはどこだ?」
 キムは目をさました。
「まさか今までの人生が夢だったとか言うオチじゃないよな」
 キムは半身を起こして周囲を見回した。
 視界が、女の白い太股にぶち当たった。キムが見上げると、下着姿の異国の美女が微笑んでいる。
「誰だあんた。俺の事を知っていて笑っているのか」
「アンタのこと、よーく知ってるよ」女は、ずれたイントネーションで喋った。
「俺は殺人鬼のキム・ドリロリウムだ。怖くないのかね」
「怖くない。アンタ、私のこと殺せない。だって私エンジェルだもの。私の名、ピッチョよ」
「ビッチ?」
「ノウ! ピッチョよ。変なこと言わんどいて!」天使のピッチョはキムに往復ビンタを食らわせた。
「痛えな。一体何の用だよ。俺はどちらかと言えば、悪魔と肛門性交したいんだがな」
 ピッチョはくっくっと笑った。
「だめね。アンタ私と一緒に天国に行くよ。アンタ地獄のが好き。判ってる。でも行けない。天国に行くのがアンタの罰だからね」
「俺に抵抗する余地はあるのかな」
「あるわけないアル!」ピッチョは自分の頭のオーラリングをキムに投げつけた。光の輪は伸びて、キムの両腕と胴体を一括りにした。「もう逃げられないよ。あきらめなキム」
「やれやれ……」
 キムは前を歩くピッチョの尻を視姦しながら、遙かな天国への階段を上っていった。
 しかし、上の方から一人の男が転がり落ちてきた。
「大変だ!」
「どーしたある? アンタ天国いけへんの」
「たった今、天国は財政難で破綻した。もう誰も天国へは上れない」
「おいビッチ、上からなんかたくさん落ちてくるぞ」キムは目を剥いた。
 天国の階段から、閉め出された人間達が大勢転がり落ちてくる。
「こりゃ大変だわ。天国の階段が激流ねー!」

「おいキム、起きろ。この死に損ない」ジェルマン警部の声が満身創痍のキムを揺り起こす。
「なんだ、また夢か。俺は射殺されたんじゃないのか」
「今、世界中で死人の生き返り現象が起きている。お前もその一人だよ」
 ガチャリ。キムの両手に手錠がかけられた。

85:名無し物書き@推敲中?
12/05/09 20:58:32.87 .net
次はねー

「竜馬の休日」

86:竜馬の休日
12/05/11 22:49:13.79 .net
逆本竜馬は教員である。某日、彼は教育の現状に失望し、あてもなくローマに逃亡した。しかし彼はイタリア語を話せない。行き詰まった竜馬は、とある公園のベンチで座り込んだ。
「おや? 隣のベンチで少女が寝ている。きれいな方だ。こんな所で寝ていたら、悪戯をされるやもしれぬ。起こしてやろう」竜馬は少女をつついて、目を覚まさせた。
「何よ、ぐっすり寝てたのにぃ」少女は不機嫌そうに目を擦った。そして竜馬を見て「あっ、武田鉄矢!」
竜馬はかなり不愉快になった。「人違いだ。私は逆本竜馬。ゆえあってローマを漂泊中の身」
「ふーん、ちょうどいいわ。あんたローマを案内してよ。私は案々て言うの」
「案々か。いいだろう」竜馬はローマにそれほど詳しくはないが、相手が同じ日本語を話すので安心した。昔見た、ローマの映画の記憶を手繰り、案々を案内した。
竜馬は案々を連れて歩くうちに、彼女に言いようのない欲望を抱くようになった。しかし竜馬はそれを口に出す術を持ってはいなかった。
「案々どの、この像が何かおわかりかな」
「知ってる。太陽の塔」
「これは真実の口という。元はマンホールの蓋だったが、今では曰く付きのシンボルになっている。ここに手を入れると嘘つきは手が千切られるそうだ」
「そんなの嘘に決まってるじゃん。くだらね」案々は思わず鼻に指を入れて嘲った。
「では試してみよう」竜馬は、自分の右手を真実の口に突っ込んだ。すると「ぐわーっ! いたたたっ!」竜馬は絶叫した。
案々は馬鹿馬鹿しくて吹きそうになった。男ってみんな同じような芸を見せるのね、と言いそうになった。
一方、竜馬は渾身の力を込めて、右手を引き抜いた。すると―
「なんだこれは?」腕がない。代わりに、竜馬の右手が、肘の少し上から日本刀の刃になっていた。意味が通じなかった。
「うおおおっ!」竜馬は狂乱して、案々に斬りかかった。「きゃああ!」目にも止まらぬ速さだ。気がつくと、案々の衣服がハラハラと地に落ちた。少女は全裸にされてしまった。
さて、帰国した竜馬は生徒達の前で再び教壇に立った。
「今から授業を始める。私語、携帯、退出、一切厳禁とする。背いた者は」
竜馬は右手を引き抜き、骨からしっかりと繋がっている日本刀を構えた。
その日の竜馬はひと味違う……そうだ…

次「ブルマは少女の戦闘服」

87:ブルマは少女の戦闘服
12/05/13 17:21:27.93 .net
験担ぎは誰にでもあるだろう。
戦いを前にして、或る野球選手はベースラインを左脚で跨ぐとか、或る柔道家は桃色のゴム紐で髪をくくるとか。
そして少女にとってはブルマを履く、これがそうだった。
部活動の大会や校内学力テストなど、勝負のときは必ずブルマを履いた。ブルマを履けば決まって良い結果が出た。
とは言え、ブルマならなんでも良いわけではない。小学校高学年から使用している紺色のブルマでなければいけなかった。
少女はあとひと月で高校卒業を迎える。短大進学をブルマを履いて挑んだ推薦入試によって早々に決めていたため、残りの高校生活は思い出作り以外に何の張り合いもなかった。
ある日、いつものように帰宅しようと下駄箱を開けた。するとハラリと封筒が一通こぼれた。拾い上げるとそれは、少女に宛てたラブレターだった。送り主は5組の○○と書いてある。
実は○○が誰かはっきりとは覚えがないが、人生初の出来事に高揚を隠せない。頬を赤らめ足早にこの場を跡にした。
自宅のベッドに寝転がり当てのない思索を巡らせる少女。
「○○君で誰だっけ?あの人だったかな?彼だったらどうしよう?」
手紙には『明日、駅の広場で待っています』と書かれている。さて、誰かもはっきりしない中で行くべきかどうか。行かずにおいたら後悔するだろうか。全く興味が湧かない相手であったとしたら。その場で返事を伝えるべきか・・・
夜中になってようやく決断した。
「よし、行こう!」
しかし、新たな問題が浮上した。
「ブルマを履くべきかしら?」
これまで少女の勝負事に大いに力になったブルマ。ブルマを履くことで良い結果が生まれてきたのは間違いない。
但し、明日は誰がくるかも、そこで付き合うことになるのかも分からない。勝敗が定まらない中で験担ぎの効果は望めるだろうか。
確かにこれまでのケースと違いはあるが、少女がブルマを履くかどうか悩む根幹にはやはり彼氏が欲しいという強い願望があってのことだった。

88:ブルマは少女の戦闘服
12/05/13 17:22:06.94 .net
約束当日の駅前広場。そこに少女の姿があった。誰を待つ素振りもみせずに俯き加減で佇む少女。心臓ははち切れんばかりに鼓動を速めていった。
しかし、意外にもあっさりと時間は過ぎ、約束の時刻になっても誰も現れなかった。
「失礼しちゃうわ。何処かで私を観て笑ってるんじゃないかしら?だとしたら許せない!」
少女は泣きこそはしなかったが、心打ちひしがれてトボトボと家路に着く。駅の高架下を通ったとき、そこへトヨタ86が猛スピードで駆け抜けた。激しいつむじ風が巻き起こり少女のスカートをめくる。
オー!モーレツ!
そのとき少女の下半身から覘いたのものは紺色のブルマだった。勝敗はどうであれ、少女が全力で挑んだ証であった。
そしてサイズの小さいブルマよってピチピチにしまわれた尻と張り出した腿肉、そのキメの細かい肌質は高架下に差し込む日光にキラキラと反射した。
「もしもし、落としましたよ」
声を掛けられ少女は振り返る。そこには気の良さそうな青年が立っていた。先の風を受けて落ちた少女のブローチを手に微笑みかけてくる。
見つめ合う二人。青年は手紙の主ではない。しかしそんなことはどうでも良かった。少女と青年は運命的なものを感じとった。
「これってもしかして、やっぱりブルマのお陰かしら!?」
出合いは、恋は、戦いは突然に訪れる。日々これ戦いとするならば、少なからずブルマのお陰だといえるだろう。
自然と会話に花が咲く少女と青年。
「これからは毎日ブルマを履いても良いかもね!」
少女はブルマの尻部分のゴムに手を掛けパチリッと鳴らした

end

次のテーマは「後ろ手にブラ紐をほどくように」

89:名無し物書き@推敲中?
12/05/13 21:05:19.73 .net
『後ろ手にブラ紐をほどくように』

「うぉおおおおお、キタコレ!!」
「喜んでいただいて何よりです」
 私は画面の言葉に返信する。すると一分も経たないうちにまたしても複数からの賞賛の嵐。コミュニケートは成功と言ってもいいだろう。
 私の仕事はこのようにしてイラストレーションの一種をソーシャルネットワーク上にアップロードすることにより他者との交流を図ることである。
 この仕事に就いたのは三年前。なぜこの仕事なのかの説明は長くなるが、単純に言えばこういったコミュニケートで理解することも出来る人間の側面があるからなのだと、まあそういったわけなのだ。
 コミュニケートの善し悪しにも多々ある。たとえば現在使用しているハンドルネーム。
【キララ】
 性別として雌を想像させる名前である場合がより安易に相互理解が深めやすい傾向にある。ただしコミュニケートを求め接触してくる人間の多くが雄であることはおそらく安易な生殖への幻想を抱いているだろうことも付記しておこう。
 また、イラストレーションによってもコミュニケーションの質が変わってくる。
 傾向としては視覚的に現物を参考にした画像ではなく、現実ではあり得ない眼球の大きさ、等身、頭髪の色彩など。
 そういった傾倒したモノがより濃密なやりとりが可能となる。
 また、相手の要望に応えていくことは心理的に相手を優位に持って行くことが出来る。
「次は後ろ手にブラ紐をほどくようにプリーズ」
「ブラ紐とは何か?」
「……ちょ、ネカマかよwww」
 ネカマ。雄がネット上において雌生体であるように名を偽るまたはそれに類する行動を指す言葉だ。
 しかし私は雄ではない。雄ではないのだが……。いったいどのように説明すればよいのだろう。
 私の緑色をした三本しかない指は動きを止めるしかなかった。

次のお題『いかそうめんで腰を抜かす』

90:名無し物書き@推敲中?
12/05/14 16:31:19.66 .net
「いかそうめんで腰を抜かす」

「画期的な新商品! これこそが本物、まさにいかそうめんだ!」
 目の前のオヤジは、魚屋ではない。海洋学者だそうだが、はげた頭に手ぬぐいのはちまきは、
どうにも魚屋だ。ただし、一応学者らしく白衣ではあるが。
「いや、いかそうめんなんて、普通のメニューでしょ?」
 すごい特ダネとのうわさを聞いてやって来たのだが、ガセだったようだ。まあ、話だけは
聞いておくか。
「いやいや、そんなもんじゃない。大体、イカの身を細く切って素麺だなんて、ばかばかしいと
は思わねえか?」
「それはそうですが、それが普通じゃないですか?」
 すると、オヤジはにたりと笑った。
「そこだ。そこでこれだ。俺の新発見、本当のイカ素麺」
 そう言ってオヤジが冷蔵庫から取りだしてきたものは、一つの椀だった。
 目の前に置かれたそれをのぞき込む。そこにあるのは、半透明の素麺だった。とぐろを巻くようにして、
椀の底に鎮座している、何の変哲もない姿。
 困惑して顔を上げると、オヤジはにやりと笑い、箸を勧めてきた。食え、というのだろう。仕方なく椀を
取り上げ、箸で触れる。すると、それがかすかに動いた。
「え?」
「よく見てくれ。それ、イカなんだよ。名付けてソウメンイカ」
 改めて目をこらし、ようやく正体に気づいた。ひどく細長い触手で、胴体も細長い1匹のイカがぐるぐる
と丸まった姿だったのだ。小さいながら二つの目玉がこちらを見上げている。
 背筋を寒気が駆け上がる。俺は思わず椀を取り落としていた。
 が、その時ソウメンイカの触手はひどく素早く伸び、俺の襟元にへばりついたと思うと、イカは腕を縮め、
そのまま飛びつくように口元へ。ずるりと口に入ってきた。俺は膝に力が入らなくなり、床に尻餅をついた。
「面白いだろう? なぜだか自分で食べられようとするんだ。俺も喰ったんだが、とっても気持ちよくなって、
それに何故か周りの人間にも食べさせたくなってねえ。もう何人に……」
 上から降ってくるオヤジの声が聞き取れなくなり、俺は意識を失った。ただ、次に目が覚めたとき、俺は今
の俺ではないのだ、それだけは理解した。

次、「怒りのイカ飯」

91:名無し物書き@推敲中?
12/05/14 22:09:50.90 .net
コンクリートの堤防に、鉛色の波が押し寄せては崩れてゆく。
そんな音を聞きながら、僕は一軒の磯料理屋の前に立っている。
カモメの声。むせ返るような磯の香り。
ひび割れたアスファルトの上を、一台の軽トラックが騒音をたてながら過ぎ去ってゆく。
観光客もめったに来ないこの店は、けれども手の込んだ料理を出す事で有名な地元の名店らしい。
木造平屋の店先には半分錆びかけた看板が掛かっている。その下には色あせた暖簾。
とても営業しているとは思えない寂れた雰囲気の店構えだ。
不安に思った僕は、ガラス製の引き戸越しに店内を覗き込む。
客はいない。店内には不機嫌そうな初老の男性が包丁を持ったまま一人テレビを見ている。
おそらく板前なのだろう。
普通、包丁をもったままテレビみてるか? 僕は不安になりながらも、せっかくなので店に入る事にした。
「こんちわ。やってますか」
包丁の男はゆっくりとこちらを向いた。
「やってるよ」
ぶっきらぼうな男だ。けれども、こういう板前がいい仕事をするのだろう。僕は席を指差した。
「いいですか?」
「あいよ。いらっしゃい」
「この店で一番うまい料理を食べたいんだけど」
「うちはなんでも旨いよ」
僕の聞き方が悪かったらしい。板前はあらかさまに不機嫌な雰囲気で僕から目を逸らした。
「すみません。じゃぁ、お任せで」
「じゃぁ……今ならイカ飯だな」
「イカ飯かぁ、それお願いします」
「あいよ。ちょっと時間かかるよ」
愛想の無い板前は、面倒くさそうに調理場へ入ってゆく。
冷水機の脇にはカップ酒の空き瓶を再利用したコップが並べられている。木製のテーブルは縁が削れて丸くなっている。
こんな所まで雰囲気が出ているなと思うと、自然に口元が緩む。僕はこんな店が好きなのだ。
冷水機の横に積み重ねられた漫画の本を読みながら、僕は料理を待つ事にした。
つづく

92:名無し物書き@推敲中?
12/05/14 22:10:13.44 .net
コンクリートの堤防に、鉛色の波が押し寄せては崩れてゆく。
そんな音を聞きながら、僕は一軒の磯料理屋の前に立っている。
カモメの声。むせ返るような磯の香り。
ひび割れたアスファルトの上を、一台の軽トラックが騒音をたてながら過ぎ去ってゆく。
観光客もめったに来ないこの店は、けれども手の込んだ料理を出す事で有名な地元の名店らしい。
木造平屋の店先には半分錆びかけた看板が掛かっている。その下には色あせた暖簾。
とても営業しているとは思えない寂れた雰囲気の店構えだ。
不安に思った僕は、ガラス製の引き戸越しに店内を覗き込む。
客はいない。店内には不機嫌そうな初老の男性が包丁を持ったまま一人テレビを見ている。
おそらく板前なのだろう。
普通、包丁をもったままテレビみてるか? 僕は不安になりながらも、せっかくなので店に入る事にした。
「こんちわ。やってますか」
包丁の男はゆっくりとこちらを向いた。
「やってるよ」
ぶっきらぼうな男だ。けれども、こういう板前がいい仕事をするのだろう。僕は席を指差した。
「いいですか?」
「あいよ。いらっしゃい」
「この店で一番うまい料理を食べたいんだけど」
「うちはなんでも旨いよ」
僕の聞き方が悪かったらしい。板前はあらかさまに不機嫌な雰囲気で僕から目を逸らした。
「すみません。じゃぁ、お任せで」
「じゃぁ……今ならイカ飯だな」
「イカ飯かぁ、それお願いします」
「あいよ。ちょっと時間かかるよ」
愛想の無い板前は、面倒くさそうに調理場へ入ってゆく。
冷水機の脇にはカップ酒の空き瓶を再利用したコップが並べられている。木製のテーブルは縁が削れて丸くなっている。
こんな所まで雰囲気が出ているなと思うと、自然に口元が緩む。僕はこんな店が好きなのだ。
冷水機の横に積み重ねられた漫画の本を読みながら、僕は料理を待つ事にした。
つづく

93:名無し物書き@推敲中?
12/05/14 22:11:45.89 .net
僕の横には、漫画本が五冊も積み重ねられている。料理を頼んでもうすぐ一時間になる。
時間がかかるとは聞いていたが、ランチタイムももう終了の時間だ。
調理場からは何も音が聞こえてこない。僕は不安になった。
「すみません」
「今、やってるよ」
調理場から不機嫌な声が聞こえる。不機嫌になりたいのはこっちなのに。
「こっちも時間があるので、早くお願いします」
「うちのイカ飯は他のと違って時間がかかるんだ。さっき言ったろ?」
時間がかかるとは聞いていたが、これ程とは。だんだんと怒りが込み上げてきた。
「いいかげんにして下さい。注文してから一時間になるじゃないですか」
「そんなでかい声だすなよ。今持って行くよ」
それから数分後に板前はドンブリを持って出てきた。そして、不機嫌そうな表情でそのドンブリを僕の前に置いた。
「あいよ。おまたせ」
「おまたせって、これ何ですか?」
「イカ飯だよ」
僕の目の前のドンブリには白米が入っているだけに見えた。
「イカ飯って、こう、イカの中にご飯が詰まってるやつでしょ? これはどう見ても」
「食ってみろよ」
「え?」
「食えって」
僕は板前の迫力に負けて、ドンブリの中の物を箸ですくって口に運んだ。磯の香りと甘い舌触り、白米だと思ったそれは、噛み締める力を跳ね返す弾力を感じた。
「これって?」
「米の様に見えるのが小さいイカなんだ。うちのイカ飯は。一粒ひとつぶ処理してるんだぜ? 俺は」
「そうなんですか。さすが……」
感心する僕に刺すような視線を向ける板前。
「時間がかかって当たり前だろ。な?」
僕が急かしすぎたのだろうか、板前は怒りのこもった厳めしい顔つきをしていた。
怒りのこもったイカ飯い……お後がよろしいようで。

次は、「蛍イカの光のような」 


94:蛍イカの光のような
12/05/15 09:28:19.96 .net
ある朝亀が海岸近くを泳いでいると、パツキンでスクール水着の
女子高生が波間に漂っているのを見つけました。よくみると小魚が数匹、
その尻をつついています。
「こらやめないか、」亀はいいました。「趣味が特殊すぎる」
亀はその娘を助けると陸まで送り届けました。すると娘はいいました。
「助けていただいてありまとうございます。あのまま死んでいたら、
私は大事な任務に失敗して一族郎党皆殺しの目にあうところでした。
ぜひお礼をしたいので、デパート『子供の世界』の隣りにある、私の
学校まで来てください」
「いいよ、」亀はいいました。「でも私は重いよ?」
娘はトラックを手配して亀を発送しました。着いたところは
私立ルビヤンカ学園。娘は亀を校長に引き合わせました。
「校長、ついに捕らえました」娘が言うと、禿げ気味の校長が笑います。
「ご苦労。亀よ、私を覚えているか?浦島…もとい、いまはウラジーミル。
ロシアの大統領だ。竜宮の策略で肉体を犯された私は、機械の体を
手に入れて、この地位まで上り詰めた。今ではすべてが思いのままだ。
だが、やり残したことがある。お前らへの復習だ!」
ウラジーミルはそういうと、「300年殺し」と書かれたスプレー缶を
亀に向かって放射しました。蛍イカの光のような、魔法の煙が
亀を覆います。しかし、煙が晴れても、亀はぴんぴんしています。
「効かぬ……亀は万年、三百年程度どうということもないわ!」
と、突然亀の甲羅が上下に別れ、背のほうが飛び上がりました。いや、
飛び上がったのではなく、甲羅の中から現れた浅黒い肌の男が、
万歳の姿勢で伸びをしたのです。
「き、貴様は小浜!」ウラジーミルが叫びます。「やはり陰謀か!」
小浜はニヤリと笑います。「次のサミットで会おう」
意気揚々と引き揚げていく小浜の背と、怒りに震えるウラジーミルの顔を
見比べながら、なかば忘れられていた娘が言います。
「欧米情勢は複雑怪奇なり」

次は「与作は木を切るな!」で。

95:与作は木を切るな!
12/05/15 18:15:22.12 .net
「与作は木を切るな!」
 村の長老は険悪な顔つきで吠え立てた。
「なぜだ? 俺から木樵の生業をとったら何も残らない」与作は泣きそうな顔で百二十歳の老人に訊ねた。
「お前は悪くない。掟を破ったわけでもない。罪も犯していない。しかしな……」長老のザエモンはモニターのスイッチを入れる。
「これを見よ」
 50インチの3Dモニターに与作の妻が映った。
「おきぬじゃないか、何をしているんだ?」与作は思わず、妻の名を叫んだ。
 おきぬは一人で森を歩いていた。そして周囲を見回し、人気のいないのを確かめると、ふいに衣服を脱ぎ始めた。
「おきぬ、気でも狂ったか? ここは川ではない。山だぞ」
 与作の叫びをよそに、おきぬは全裸になった。モニターの前に座する委員会のメンバーは、彼女の美しさに響めきを隠せない。
 村に住む女にしては、田舎か臭さが微塵もない。八頭身以上でありながら、くびれは豊かなうねりを描いていた。髪が腰まであるおきぬは、さながら松本零士の美女キャラのようだ。
「ああ……」
 おきぬは艶めかしい吐息を漏らすと、一本の木を登り始めた。
「なんというふしだらな女じゃ。与作という夫がいながら神聖な巨木で戯れるなど言語道断」
「あい、すまぬ」全てを白日にさらされて、与作は俯いて涙を流した。
「妻の行いは夫である与作が背負わねばならない。お前は暫く木を切ることを禁ずる」
「では私はどうすればいい?」
「妻を愛すがよい。毎日三回、夫の務めを果たすがよい。子が授かった時点でお前の禁令は帳消しとする」
「それは……できない」
 与作の返答に一同は騒然となった。
「何を言うか。簡単なことであろう。おきぬを犯して犯しまくれ。夫だけの特権であり義務ではないか」
「できないんだ。これを見てくれ」与作は着物の帯を解いて丸裸になった。
 その有様に、一同は驚愕した。
「この間、酒に酔って、木を切ったつもりが、間違えて自らの肉茎を切り落としてしまったのだ。もう私はおきぬを満足させられない体になってしまった」
 一件のあまりの凄惨な結末に、委員会の面々はただただ悲痛に目を背けていた。
 そして次に思ったことは勿論―
 誰が与作の代わりをやるかという奸計以外の何事でもなかった。

次「たまに女の悲鳴が聞こえる隣の家」

96:名無し物書き@推敲中?
12/05/17 09:17:33.86 .net
「たまに女の悲鳴が聞こえる隣の家」

 かすかな足音が聞こえる。普通なら気づかれない程度の、だが、意識していれば確認できる程度。
これも、今の状態ならがんばった方だろう。
 足音はいよいよ近づいてくる。しかも、その間隔が狭まっている。どうやら、脱出の成功を確信し
つつあるようだ。そう、それでいい。その方が後の楽しみが大きい。
 いよいよ玄関まで出てきたらしい。さて、では行こうか。
「何をしてるのかな?」
 目の前には顔面蒼白の女。あまりのことに言葉を失っているらしい。手首の手錠には少し血が
滲んでいる。やはり、あの支柱を折ってきたか。それから上着のシャツだけを羽織ったと。予想
通りだ。
「逃げようとしたら、お仕置きだと言ったのは、覚えているよね?」
 彼女は一転して体ごとぶつかってきた。強行突破と言うことか。もちろん、それも予想のうち。
体ごと受け止めると、女の体をくるりと回し、後ろから羽交い締めにして、家に引きずり込む。
「どうやら、もう一度、この体に教え込んでやる必要があるらしいな」
「いやー、お願い、助けて、おうちに帰して! もういや、たすけて!」
「駄目だよ、お前は俺に飼われる運命なのさ。さて、今日はどれから味わいたいかな?」
 耳に心地いい悲鳴を楽しいながら、女をもう一度部屋に引き込んで、新たな柱に固定し直す。
女の目には、様々な責め具が見えているはずだ。
 その時だった。
「あんた、どういう了見なんだい、出てきな!」
 玄関からやかましい声が聞こえた。どうやらやっかいなことになりそうだ。素早く女に
猿ぐつわを咬ませて、もう一度玄関に向かう。そこにいたのは、隣の家のばあさんだ。
「一体あんた、何をやってるだい、悲鳴みたいなのが何度も聞こえるんだ!」
「いや、大したことじゃないんです。すみません」
「大したことじゃない? 何言ってるんだ! とんでもない声じゃないか!」
 仕方がないか。こうなったら、文句を黙って聞くしかない。
 何しろこのばあさん、文句が長い。他に楽しみがないのか、一時間近くも苦情を言い続ける。
 ただ、それだけ言うと納得するのか、通報とかはしないんだ。たまに悲鳴が聞こえても、これですむなら
上々というものだ。

次、「三択ロース」

97:三択ロース
12/05/21 00:02:51.57 .net
平成24年度のトナカイ就職状況は欧州通貨危機の影響をもろに受け、
スウェーデンのサンタ企業に就職できた者は全体の1割にも満たなかった。
トナカイA君は9割のほうである。北欧を出たA君は南欧へゆき、そこでも
勤め口が見当たらず英国へ、そして米国へと渡った。半年後には東京にいた。
ここで3流のサンタ企業、富士サンタαβγへの就職に成功したが、富士サンタは
毎年3頭のトナカイが入社するのに、全トナカイ保有数は常に5頭という、
不思議な会社だった。
入社してA君は気づいた。ここは普通の運送屋で、専門性は全然ない。
クリスマスシーズンだけ、社長がサンタの格好をして、サンタビジネスを
やっているだけだ。認証も持っていない、いわばもぐりのサンタだ。
そんな会社で事故が起こるのは必然といえる。2013年のクリスマスに
富士五湖上空を飛んでいた橇は、空力ユニットの脱落によって本栖湖に
落水した。幸いA君は馬具が外れ、岸辺まで泳ぎ着くことができたものの、
仲間も橇もそしてサンタも、すべて湖の底に沈んでしまった。
すると本栖湖の妖精が、水を吐いているサンタを掴んで水面上に現れた。
「もしもし、あなたが落としたのは金銭欲にまみれたこのサンタですか?」
「いいえ違います、」A君は否定した。
「おい待て俺だよ助けてんがぐぐ」懇願もむなしく、妖精はサンタを水の中に
いったん戻し、しばらくして再浮上した。手中のサンタはぐったりしている。
「あなたが落としたのは、この改悛しつつある瀕死のサンタですか?」
「いいえ違います、」A君はまた否定した。
妖精は再度深みへと戻り、今度は紫色の顔をしたサンタを掴んで浮上します。
「あなたが落としたのは、この死んだサンタですか?」
「その人です、間違いありません」A君はいった。妖精は困惑した。「この嘘つき!」
A君は笑った。「そうかな?君が最初に10分待って、生きているサンタを一度も
僕に見せなかったとしたら、きっと『死んだサンタを落とした』で正解だったろう。
たとえ落ちたとき生きていたとしてもね。君の問いは事実に関わるのに、
君のやりかたによって正解が変わる。最低だ」
妖精はA君を殺して焼肉にしてしまいました。

次「泣くな焼き蛤」で。

98:名無し物書き@推敲中?
12/05/22 16:37:44.14 .net
>>94-95
ワロタw

99:『泣くな焼き蛤』
12/05/24 22:59:00.74 .net
「なんだぁこりゃあ?」男はヤクザ口調で、出された原稿を突っ返した。
彼は怪田太郎。漫画雑誌「少年チャンポン」の編集長である。
「なんだと言っても、これが僕の新連載です」面長の青年は、真顔で怪田に対峙した。相手の迫力にビビっているのか、頬が引き攣っていた。
「お前、アホじゃねえのか?」怪田はズバッと言い放った。「こんな貧相な漫画売れるワケねぇだろう。全部書き直せ」
「嫌です。これでお願いします」青年は、冷や汗をかきながらも、自分の意志を曲げる気は無いようだった。猛獣に崖縁まで追いやられながらも、最後の最後で踏みとどまっている。昭和中期の漫画家の気迫と意気込みが、彼にもあった。
「ちっ!」怪田も大事な戦力を殴り飛ばすわけにはいかず、突っ込みの方針を変えるしかない。
「この『泣くな百円』て漫画だけどな。パンチ力に欠けると思うんだよなぁ俺は」
「パンチ力って何ですか」
「例えば暴ちゃんや紅塚みたいな無茶苦茶さとかさあ。今チャンポンはちょっと部数弱いだろ。もっととんでもない作品で読者の心を鷲掴みにしたいわけよ」
青年は他の漫画家の名前を出されてムッとした。
「僕はあんな酷い作品は描きませんよ」
「おいおい、そんなこと言っちゃっていいの? お前ら元は同じ毛塚の門弟だろ。あ、暴ちゃんは違うか」
「では、怪田さんはどんな漫画がいいと思うんですか。編集者のあなたならアイデアの一つくらい持っているでしょう」青年は逆に突っ込んできた。怪田は一瞬、うっと唸ったが、
「そうだなタイトルを『泣くな焼き蛤』に変えたらどうだ。どうだ、ワケわかんなくて面白いだろう」
「焼き蛤って一体何ですか。たまたま酒の肴に食べたいからってごまかさないで下さい」
「うるせえ! とにかく題名は『泣くな焼き蛤』だ。これで描け」
「お断りします。題名は『泣くな百円』です。ダメならサーズデーに持っていきますから」
「なんだと? 何がサーズデーだ。てめえ、いい加減にしろ!」怪田の怒りは沸点を超え、青年の胸ぐらに掴みかかっていた。
―後日『泣くな百円』はサーズデーに連載され、それに対抗するかのようにチャンポンでは『泣くな焼き蛤』の連載が始まった。
編集者自身の描いた下手くそな絵が逆に受け、勝負は怪田太郎の勝ちとなる。

次「娼婦新聞」

100:娼婦新聞1/2
12/05/27 19:43:29.30 .net
「おい!郷田君!」
 鼻息荒々しくまるで猪のように教室に入ってきたのは僕のクラスメイトの遠藤である。
「どうしたんだい遠藤君」
「いいからこれを見るんだ」
 そう言って遠藤が机に広げたのは校内新聞だった。
「この新聞が何か?」
「ここをよく見たまえ」
「ボクシング部県大会出場……」
「あーもうそうじゃなくて」
 遠藤はじれったそうに赤ペンで線を引いた。
「この線を引いた所を読んでみてくれたまえ」
「三、万、で、O、K、石、川?」
「そう、驚くなよ、これはいわば娼婦新聞だ。こんな風に誰々が幾らで性交渉OK というのを大胆に誘っているんだ。こいつは恐ろしい事だぜ」
「そんな、偶然だよ……」
「それはどうかな?」
 そう言うと遠藤は他にも新聞のあちこちに赤ペンを走らせ先程の文と似たような羅列をどうだと言わんばかりに抜き出しペン先でトントンと叩いた。
「四つも五つもこんな偶然があるかい?しかも決定的なのは金額こそ違えどここにある名字全てがこの新聞を作っている生徒会の女子メンバーの名字なんだぜ」
「でも……」
「おれは今日実際確かめてくる。そしてその相手は俺の、いや学年のアイドルの石川先輩だ」
「でも……」
「大丈夫。いわば僕は切り込み隊長だ。上手く行けば君にも紹介してやるよ」
 そう言い捨て遠藤は来たとき以上の慌ただしさで教室を出ていった。


101:娼婦新聞2/2
12/05/27 19:51:05.80 .net
「バカな奴だ……」
 彼の足音が聞こえなくなると同時に僕は溢れる笑いをこらえきれず皆の視線も気にせず涙を流すほど大笑いした。
「あんな新聞あるわけないだろう」
 そう、あの新聞は生徒会の友達に無理を言って僕が細工したものなのだ。
バカなくせに顔だけはカッコよく女子からモテる遠藤のことが僕は日頃から気にくわなかった。どうにかして女子の前で恥を欠かせてやりたい、そう思っていたのだ。そして最近奴が暗号にはまっている事を知った僕は、この作戦を思い付いたのだ。
 今ごろ奴は憧れの石川先輩に恥ずかしい交渉をしているにちがいない。そしてそんなことまったく知らない先輩は残りの二年間遠藤に軽蔑の眼差しを向け続けることだろう。加えて女子の情報伝達能力の高さ……僕はその日一日中悪魔のような笑いを押さえることができなかった。

 次の日ひどく浮かない顔をして登校してきた遠藤に僕は吹き出しそうになるのを必死で堪え、心から友を気遣う調子で声をかけた。
「どうしたんだい?」
「郷田君おれはどうしたらいい」
「そりゃ素直にあやま……」
「先輩と付き合うことになっちまった」
「なにぃ!?」
 信じられない事だが彼が言うには昨日先輩に例の交渉を始めようとしたとたん向こうから突然告白してきたそうだ。
詳しく話を聞くとどうやら先輩も前から遠藤のことが好きだったらしく告白のタイミングをずっと探していたらしい。僕は意識が遠く遠くの宇宙に旅立っていくのを感じた。
「おめでとう」
 ようやく宇宙から帰ってきた僕はなんとかその場にふさわしい言葉を吐き出すことができた。しかしその日一日中遠藤の恋の悩みを聞かされ続けた僕はついに魂を宇宙へと解き放つ方法を身に付けたのだった。

次のお題 「僕と彼女の裔、微意、恣意」

102:僕と彼女の裔、微意、恣意 上
12/05/30 04:12:19.43 .net
「会長、今回のお題が発表されたぞ」
「何よ?VIPのお題スレは書いている間に落ちちゃったじゃない」
「いやいや、それじゃないって・・・」
「ああ、そういえば・・・せっかく書いてたのにスレが落ちちゃって不完全燃焼だからとこのスレに来たのを思い出したわ」
 うん、相変わらずのメタ発言だ。
「そうと決まればお題を元にssトークするわよ!」
「なんだよssトークって・・・スレの人達も「とんでもない素人がお題を拾ってきたな」とドン引きだぞ」
「グズグズしてないでさっさとお題を発表しなさい!」
「はいはい・・・これが今回のお題だよ」
 
 僕と彼女の裔、微意、恣意

「・・・・・・何この漢字?」
「さぁ・・・?」
「僕と彼女のまではいいわ・・・問題はその後の単語と思われし三つよ」
「えーと・・・さ、さい?にい?すい?」
「貴方は何をトチ狂っているの・・・」
「いや、あまりにも読みが分からないから左からテキトーに言ってみた」
「きっと正しい読みを知っている人達は、今頃貴方の読み方を思い出して腹を抱えて笑っているわよ」
「やめて!僕の事をどうしようもないバカだとあざ笑わないで!?」
 いや、でも流石に裔、微意、恣意は意味不明過ぎだろ?お題出した奴の性格が知れるぜ・・・
「自分の知識の浅はかさを他人の所為にしない!」
「す、すみません・・・」
 しかし、一体これでどうやってお題を元に話をすればいいんだよ・・・
「仕方ないわね。とりあえず今日はこの漢字の意味を探るわよ」

103:僕と彼女の裔、微意、恣意 中
12/05/30 04:15:16.50 .net
「探ると言ってもどうやって探ればいいんだよ?」
「いくら貴方でも、漢字の成り立ちは分かるわね・・・」
「成り立ちって・・・象形文字のことか?」
「そうよ。ものの形をなぞって字にしたのが漢字の成り立ちといえるわ」
「なるほど!つまり、この漢字の組み合わせや成り立ちから意味を探ると言う事だな!」
「そうよ。悔しいけど、今の私達の実力では裔、微意、恣意これらの漢字の意味を答えることは難しいわ」
「しかし、俺と会長が力をあわせて謎を解けば・・・」
「真実はいつも一つよ!!」
「読みは二つかもしれないがな」
 うん、二人で協力してもダメかもしんない。
「裔はいくら考えても読み方を理解できる気がしないから、右の恣意から読み解いていくわ」
 いきなり、なさけねぇー・・・
「うーん、カンだが最後は「○○い」って読むんだろうな・・・」
「バカでもそこは分かるわね」
「はーい!バーカーでーす!!」

104:僕と彼女の裔、微意、恣意 中2
12/05/30 04:16:27.31 .net
「問題は前の読みよ次に心と書くわ・・・」
「見方を変えれば二つ欠けた心とも読めるな・・・」
  てんてんを二って見ただけだけどね・・・
「うーん、意外とそんなネガティブな意味の言葉かもしれないわね・・・」
「え!会長、マジで!?」
「うん、貴方がそう言った瞬間から私にはそんな感じに見えてきたわ」
「漢字だけに!」
「・・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
「ゴメンなさい・・・」

「つまり、貴方の意見を取り入れるとこの漢字は二つ書けた位の心の意という漢字になるわ」
「おお!そう言われたらなんかこの漢字の意味が段々見えてきたぞ!」
「いいわ、言って見なさい」
「つまり、心が欠けてるような思いの奴って意味だ!」
「そのままじゃない・・・と、言いたいところだけど時間もないしこの際それでいいでしょう」
「読みは?」
「面倒だからこの際「【なんとか】い」でいいわよ。意味は要約すると身勝手な男ね」
  何で、男限定?それにしても身勝手な奴と言う意味かぁ・・・じゃあ、タイトル的には「僕と彼女の身勝手な奴」になるのか?なんか日本語として可笑しいが、でも身勝手な奴というのは会長にピッタリだな!

105:僕と彼女の裔、微意、恣意 下
12/05/30 04:16:54.85 .net
「次はこれよ微意」
「実はこの漢字なら、俺カンが当たりそうな気がするんだよね」
「はっ・・・「にい」が?」
「すみません・・・」
「読み方だけなら、多分これは【びい】よ」
「え、分かるの!?」
「微妙の微に意味の意よ。普通に考えれば分かるでしょう・・・」
「それじゃあ!意味もかんたんじゃん!!」
「・・・まぁ、言ってみなさいよ」
「微妙な思いだろ?つまり、気の小さい臆病者っていみだよ!」
「流石にそれはネガティブすぎじゃない?でも、読みは【びい】で意味は要約すると謙虚的な思いってところね」
  つまり、タイトル的には僕と彼女の謙遜的な思い?うわぁ・・・ありえねぇえええ!!俺と会長の間にそんな謙虚さなんて皆無だよな。
「最後は裔ね」
「これは流石に分からなくてググッたな」
「読みは【えい】意味は「血筋の末。子孫」よ」
「つまり、タイトルの意味は 僕と彼女の子孫 って事だな」
「なぁ、会長・・・」
「何?」
「俺達の子孫はどんな子になると思う?」
「そうね・・・」


次のお題「パッパライヤピーィヤ」

106:「パッパライヤピーィヤ」
12/05/30 20:15:13.28 .net
 田中くんはいじめられていた。原因は田中くん自身にある。何故なら田中くんは何をされても「パッパライヤピーィヤ」としか答えないからだ。
 バーカ、と言われて「パッパライヤピーィヤ」、鳩尾を殴られて「パッパライヤピーィヤ」、お金をたかられて「パッパライヤピーィヤ」、裸にされて「パッパライヤピーィヤ」。
 「パッパライヤピーィヤ」では伝わらないのだ。痛いだろうな、辛いだろうな、そういう部分が、伝わらないのだ。だから。原因は田中くん自身にあると思う。
「ねえ田中くん、君はもっとちゃんと自分の感情を伝えるべきだよ」
 放課後、ゴミ箱に隠されたランドセルをあさる田中くんに僕は話しかけてみた。「それとも、それが君の唯一の防衛法なのかな? 「パッパライヤピーィヤ」に逃げているのかな?」
 田中くんはゆっくりと振り返り、僕を睨んだ。そして言った。「パッパライヤピーィヤ」
「何なんだよ、「パッパライヤピーィヤ」って……」
 更に田中くんは言い募る。「パッパライヤピーィヤ」。僕はなんだかイライラしてしまって、田中くんの股間を思い切り蹴り上げた。
 「パッパライヤピーィヤ」と田中くんが呻いたので、僕はもう一度殴った。

お題思いつかないんで継続で(U^ω^)

107:パッパライヤピーィヤ
12/05/30 20:54:20.29 .net
商品企画部の布藤ウリンは鼻息を荒くして社長室に飛び込んだ。
「社長、今ちょっといいですか!」
「布藤君か、なんだね騒々しい。わしは今、韓流ドラマを見るのに忙しいんだよ」
「そんなものを見ている時ではありません。例の商品が完成しました」
「例の、というと、パッパラパーとかいうあれか?」
「違います。パッパライヤピーィヤです。ごらんください!」
ウリンはふくよかな胸の谷間から、例の商品を取り出した。
「布藤君、なんでそんなところに隠しておくんだ?」社長は眉を顰めた。
「機密保持のためです。私の胸なら絶対安心です」
「胸よりもあそこのほうが確実ではないかな」
ウリンは赤面して俯いた。
「申し訳ございません。このパッパライヤピーィヤはまだそこまで安全性が確認されておりませんので、体内への隠匿には躊躇いがありました」
「まあいいだろう。とりあえず商品を見せてくれ」
「はい、どうぞ。手にとってよくご覧下さい」
「どれどれ、ふむ。これはなかなか緻密に作り込んであるね。日本の技術はまだまだ韓国には負けん気がしてきたよ」
「ここをこうすると、二十か所が独自に可動します。この技術は只今特許の出願中です」
「なるほどなるほど、そしてこれが覗き穴というわけだね。ほほう、これはきれいだ」
「社長、それは逆です。こちらから見るのです」
「ああ、そうか。道理で視野が狭いと思ったよ。おお、確かにこれは凄いな」
「三時間視聴しても目が疲れません。マウスで実験済みです。千時間連続して見ない限り視神経が焼き切れることはないでしょう」
「ところでこの突起は何かな?」
「あ、それは気をつけて下さい。非常用のバイブです。空気が振動して鼓膜が吹っ飛ぶ恐れがあります」
「なるほど、注意しておこう」
「山梨の工場では、既に量産の準備ができています。あとは社長のゴーサインを頂ければ世界中にこのパッパライヤピーィヤが広まります」
しかし社長は考え込んだ。
「社長、いかがしました? 何か問題でもございますか」
「うーむ、精巧な商品だが、一点だけ気になることがある」
「というと?」
「パッパライヤピーィヤという名前。これはわけがわからん。すまんが別の名前を考えてくれ」

次「俺の知らない美少女フィギュア」

108:俺の知らない美少女フィギュア
12/05/31 02:04:50.41 .net
その日、私は骨董屋を巡っていた。午前中から数件、行きつけの骨董品店をめぐり、何か好みのもの
はないかと物色するのが、たまの休日の過ごし方である。
その店ではカメラのレンズを見ていた。最新のレンズも良いのだが、古いレンズもまた良い。その店は
特にそういう品を得意としていた。
学生の頃から通っているが、だいたい同じ場所に爺さんが座っており、これがいつ来ても変わらない。
もう10年以上おなじ場所に座っているから、多分動かないのだろう。私は目当ての骨董レンズを手にとった。
ドイツではなくロシア製ライカという珍品で、作りはいい加減だがそれがまたいい。ライカのレプリカである。
と、そのとき。
店の奥に目新しい張り紙があるのを見つけた。
「美少女フィギュア」とある。
フィギュア…。なんとこの店に似合わない単語。私はコピーライカをそっちのけで、その怪しげないっかくに
歩を進めた。
「いいの入ってるよソレ。人気だよ」 突然後ろで声がする。
「わ!」
私は驚いて振り返ると、そこに爺さんが立っていた。この調度品は、実は動けたのか。
「流行ってる…んですか」
「人気なんだよ」
爺さんは言う。展示を見ると、女だてらに甲冑をまとった日本人形があり「神功皇后」と書いてあった。
「あの…」
雛人形である。
「いいだろ」
じじい。
売価は15万。爺さん曰く江戸期の掘り出し物だそうだ。そういう人形が何個も陳列されている。
「こっちが楠木正成」
もう美少女ですらない。ちなみに、若者の購入者はいないそうだ。
「若いのがたまに見に来るけどね。買ってかねぇよ。値段があわねぇのかな。かどの玩具屋じゃ売れてるって聞くが」
値段の問題ではない。私は持っていた雑誌を見せたまたま載っていた美少女フィギュアを見せ、これを説明した。
「たいして違わねぇじゃねえか…。こちとら漆と錦だぞ」
爺さんは小さくつぶやいた。
「プラッチックじゃねぇんだぞこの野郎」
爺さんは言う。
                                    次 「部屋に何十何百とある缶詰の秘密」

109:部屋に何十何百とある缶詰の秘密
12/06/03 00:10:02.91 .net
缶詰と糞尿の部屋で幼児が泣いている。缶詰は幼児を産んだ女が
置いていったもので、缶詰を置いていったことで自分には殺意はないと
今まさに学生時代に好きだった歌手の曲を歌いながら自己弁護していた。

しかし三歳の幼児が缶詰の開け方を知っているだろうか?
幼児を泣かせている原因は空腹ではなく熱さだった。今夜、東京地方は
連続する熱帯夜の観測記録を更新しようとしていた。
幼児は締め切られた部屋で熱中症にかかっていた。捨てられた雑巾の
塊のようにぐったりして微かに呼吸のリズムで背中が上下するだけだった。

母親が部屋を出て行ったときは冷房をつけていったはずだった。
しかし電力がストップした。計画停電ではなく、原発にテロリストが
進入し占拠した。電力会社は要求どおり一部地域で送電をストップさせた。

女のいるカラオケルームのスタッフが休憩室でそのニュースを見ている。
スタッフはリーダーにそのことを報告しようかと思う。
そして客に知らせるのがサービスだと思うから。
でもそのスタッフはリーダーのことが嫌いだった。

幼児が泣いている。肌に白い結晶は張り付いている。今まで彼の体内にあった
ミネラルだ。彼が呼んでいるのは女かそれとも別の何かか?


次 掲げよ、希望という名の音を。




110:掲げよ、希望という名の音を
12/06/03 11:52:47.58 .net
―こうして、革命は成功した。
流血は避けられなかったが、国民の未来には自由が広がっていた。
「よし、鐘を吊り上げよ!」
「あいあいさー」
指導者エビスチニコフのかけ声と共に、長らく横倒しにされていた巨大な鐘が引き上げられていった。
顎髭の指導者の傍らには、書記官であるイサーニャ女史が恋人のように寄り添っている。
鐘は朝日を浴びて、黄金色に輝いている。素晴らしい景観だった。
「いいぞいいぞ、鐘を鳴らすのだ! 我らの勝利の雄叫びとして!」
周囲に集う、人、人、人。彼らは、おーっと大歓声を上げた。
革命の功労者である若き闘士ゴメスポロンが鐘を付きはじめる。
その瞬間、巨大な鐘がエビスチニコフの頭上に、二人に蓋を被せるように落ちてきた。
「きゃあ、助けて」イサーニャは突如降ってきた闇に驚き、エビスチニコフに抱きついた。
「心配するな。ちょっとしたアクシデントだよ。あの忌まわしい蹂躙の日々に比べれば、この闇は瞬きのようなものだ」
エビスは、ゴメスポロンの実兄であり彼自身が怪力の持ち主でもある。
満身の力を込めて、釣り鐘の闇をこじ開けた。
「あっ……」
「これはいったい?」
開かれた視界は、しんと静まりかえっていた。先程まで沸き返っていた国民達がいない。革命さめやらぬ街もなくなっていた。
あたりにあるのは、遙かなる高原。そして空には、なんと巨大な翼が悠々と飛んでいる。
「エビス様、あれは翼竜ではございませんか?」
「うむ、向こうの草原でブロントザウルスらしきものが草を食んでおる。ここはもしや」
「タイムトラベル……したのでしょうか、太古に」
「らしい」
エビスはイサーニャを抱き寄せ、突如与えられた究極の自由に、戸惑いを隠せないでいた。

次「妹、大爆破!」

111:妹、大爆破
12/06/03 16:24:34.16 .net
「妹」が好きだ。まだあどけないバランスの、しかし確かに女とわかるそのフォルム……「妹」の見た目が好きなのだ。
 まさか性的な目で見ているのか、と問われれば、否、ただただ純粋にその見た目が好きだ。そういった好きのカテゴライズを超越した好きなのだ。
 それから僕は爆破も好きだ。バラバラになっていくさまを眺めると、何やら学術的な興奮さえ覚えるのだ。

 そしてもちろん、僕は「妹」を爆破した。
 三回も。
 最初の爆破で「妹」は真っ二つに千切れた。次の爆破で頭が取れた。最後のやつで「妹」は細切れになった。もう元が「妹」であったなんてわからないほどに。
 楽しかった。記録を残してあるので、皆さんにも楽しんで欲しい。
 妹
 女 未
 女 一 木
 く ノ 一 一 人 十


次「ぼくらの三分間戦争」で(U^ω^)

112:僕らの三分間戦争
12/06/03 22:36:12.53 .net
ブツン

 ヘッドマウントを外した少年は同じ机についている他の子供たちを観察した。みなヘッドマウントをしたまま鼻から血を流し、死んだように動かない、いや、「ように」ではない、実際死んでいるのだ。長い長い戦いの末に。

「終わったのか……」

 少年は右の壁に掛かった飾り気のないシンプルなデザインの時計に目をやった。一時三分。あれから三分しかたっていないのか。私たちは三百年余り戦ってきたというのに。

 少年は立ち上がり右から順番に動かない少年少女たちの肩にやさしく手を触れていった。そして最後に少年のすぐ左に座っていた少女の側で立ち止まった。
彼女のもともと白い肌は死んでいっそう白く透き通り、美しい。対称的に真っ赤な唇。少年は手を伸ばし指先でその唇にそっと触れた。そしてそれを自分の唇に当てた。

 開け放たれた窓からは夏の爽やかな風が吹き込んでいた。遠くに見える芝生の丘には犬を連れている老夫婦が何かを語り合っている。すぐ側にいる若い男女も夫婦だろうか、妻が抱き抱える赤子を夫があやしている。

 少年は目を細めてそれを見つめていた。私たちが守ったもの。すべてではないが、報われた。意味はあった。

「終わったのだな」

 蝉の鳴き声が響いている。日差しが陰から出ている肌を焼いている。緑の匂い、何処からかふわりと漂うお菓子の香り。

「終わったのだ」

 少年は確かめるように何度もそう呟いた。何度も、染み込ませるように、反芻するように、丁寧にゆっくりと現実を味わった。

 ……不意に訪れる眠気。何故だろう、瞼が重たい、感覚が鈍くなっていく。嫌だ、閉じたくない、まだこの景色を、今を、生を、感じていたい。まだ、まだ、まだ……

ブツン

次のお題 「白雪慕情」

113:白雪慕情
12/06/04 22:35:43.82 .net
白雪ことスノウホワイト29歳は魔女に頼んで薬リンゴを食べ
7人の小人を雇って純朴なる王子のキスをせしめるも婚約には至らなかった。
「白雪さんって一回りも上なんですね」
その言葉に白雪は死羅幽鬼となり王子に飛びかかる。王子裸足で遁走し
野を越え山を越え川を越えてある寺の釣鐘に隠れるも
白雪大蛇となりて鐘に巻きつき口から吹雪を吐いて王子を凍殺してしまった。
「やっちまった……これで私のシンデレラプロジェクトも終わりね」
白雪はガントチャートを破き一路函館に向かった。津軽海峡はカモメ見つめ
凍えそうでああああ~。朝市でイクラ丼を食べ、これは旨い!★3つだ。
しかし函館に職はなく雪の日高へ向かいヒグマと面接した。
「血のように赤い唇の雪女は要りませんか……」
しかしヒグマは冬は休業だ。鹿に面接しても断られた。キツネ、フクロウ、
山の仲間は冷たかった。北の野生は7人の小人よりも厳しい……。
流れ流れて旭川三六街のホステスとして腰を落ち着けた白雪は
はや35の冬を迎えようとしていた。そんな、ある夜……。
「スノホちゃん、あなたにお客様よ」
「え?誰かしら」
出て行くとソファに座るはあの王子。と高名な小野篁。王子は言う。
「僕は死にませ~ん!しかも少し年を取って君のよさがわかるようになった。
あのときのことは謝りたい。僕と一緒に来てくれないか?といいたかったが、
君も年をとるんだね。忘れていたよ。やっぱいい、都に帰る」
王子は後輩の新雪ちゃんを連れて立ち去った。白雪大蛇に変じてこれを追うが
スーパーホワイトアローはJR北海道の誇る特急で追いつけない。
そして不幸な女白雪は新千歳で機影を見送り憤死する。その断末魔に呟いた
恨みの言葉を聞いて小野篁がかの有名な一文を書いた。
すなわち、「子子子子子子、子子子子子子」である。
一般に知られているのとは違い、これは正しくは
「しねしねしね、しねしねしね」と読む。

次「野武士にプロポーズ」

114:「野武士にプロポーズ」
12/06/11 04:37:39.77 .net
明日の結婚式はやっぱり雨になるみたいだ。夕方のニュースでも
インターネットの天気予報でも東京は雨になっている。
―まあ、雨で悪いってわけじゃないけど出来れば晴れのほうが良かったな。
招待の人たちの都合もあるだろうし。

私は居間のテレビを両親と見ながらそんなことを考えていた。母は「まあ雨なの!」
って言うし父も「しょうがないなあ」とか言ってるから、なんだかそっちのほうが
へこんだ気持ちになってしまった。

野武士という渾名の彼にプロポーズした夜がなかったら、今ここにはいなかっただろうか?
それともやっぱり、運命という名の下にやっぱり結婚していただろうか?
あの初夏の夏、私たちは駅前で夕食を食べて彼のアパートに帰ろうとしていた。
住まいまでは歩いてかなり遠い距離だったけどバスも終わったあとだったし
タクシーに乗るにも私たちにはそんなお金はなかった。
「いやあ朝、自転車で来ようとしたけど雨すごかったからさあ」
彼はそういう。そういえばあの日も雨が降っていたんだ。確か傘がどうとか
会話したのを覚えてる。あの日じゃなかったかしら?
何はともあれ、私たちは夜の道を歩いていた。お腹いっぱいで好きな人と
歩いているのが幸せな気分だった。「結婚しよう?」と私が言った。
この先、何があっても後悔しないという気分だったら。
車のヘッドライト、静かな住宅街、夜の匂い。


感性の海。理性の海岸。

115:感性の海。理性の海岸。
12/06/12 09:34:54.28 .net
 この世界には、まず海があった。そして海だけでは溺れてしまうから、必然的にそこには足場が
あった。普通、それは海岸、と呼ばれるのだろう。
 寄せては返す波に、音は無い。まるでスピーカーが壊れてしまったかのように、海は無音で波を
揺らせていた。不意に、突風が襲う。潮風に吹かれて、ああ、やはりここは海辺なのだと実感する。

 海岸には、様々なものが打ち上げられている。無数のベクトル、アフィン変換や、フーリエ変換、
群と代数学、楕円曲線とモジュラー、フェルマーの最終定理。本来実体を持たないであろう
それら数学的概念は、色鮮やかなオブジェクトとなって、海岸に点在している。
 無論、実体的概念が無いというわけではない。黒に近い茶色のそろばん。定規とコンパス。
大学ノートと鉛筆。ホワイトボード。プレゼンテーション。パーソナルコンピュータ。そして無数の
革新的なアルゴリズム。彼は数学者であると同時に、優秀な物理学者でもあり、プログラマでもあった。
 
 この世界は、彼の世界だ。もっといえば、脳を視覚化したものだ。とはいえこれを夢と呼ぶのは、
あまりに見当違いというものだ。この世界は、彼が死ぬ数日前に取った、自分の脳のコピー。
私は個人的な計算リソースの一部を用いて、時々そこに散策に訪れ、死んでしまった彼のことを思う。
 
「見て。世界はこんなにも変わったのよ。もはや人間は不死になった。計算リソースの許す限り、
好きな世界をエミュレートできるようになった。それでもあなたは、この世界に絶望し続けるの?」
「便利になったことは認めるよ。でも僕が求めた世界は、ここにはない」
「なら、あなたは過去に行きたかったの? 何も無い世界で、ゼロから何かを作り出す喜びを
欲していたの?」
「いや違う。そうじゃない―何て言えばいいんだろうな。僕は結局、何かを欲しがるフリをする
だけで、何も欲していなかったのかもしれない―」

 彼はいつもそこで言いよどむ。私は何も言わない。波の音は聞こえない。心地よい静寂が、
あたりを包み込む。そう、無理に答えに辿り着かなくてもいい。
 私は今も、彼を愛している。

次「オールマイティ」

116:オールマイティ
12/06/12 23:22:38.39 .net
海はうねり、盛り上がり、やがて崩れる。黒い波頭に切り取られた
高い高い青空が、揺れる桶の水みたいに、慌しい破線を描いて
天と地を分かっている。俺は海水からオールを抜き、背筋を一捻りして、
逆の端を白い泡に切り込んだ。俺は冒険家、このカヤックとオール一本で、
伊豆からロサンゼルスまでを横断するつもりなんだ。
カヤックは常に波間の底にあって、滅多に水平線を拝めない。島も船も
見えなかった。眠るのもカヤックの上、頼れるものは、このオールだけ。
剛毅な俺だが、そんな男でも寝覚めには恐ろしい夢を見る。起きたら、
オールがなくなっていたらどうしよう。俺は指をきつく握る。樫のオールの
感触がある。大丈夫だ。さあ、今日の航海を始めよう……!
起きたら、カヤックがなくなっていた。
「畜生!」俺は悪態をついてオールをぶん回す。パラパラパラという
音とともにオールが回転し、俺の体は宙に浮く。そこを狙って大きなカジキが
飛び掛ってきた。オールを振り下ろし、それを袈裟懸けに真っ二つだ。
カジキの血に寄って来たホオジロザメをブレードで叩き、その背を飛んで
海を渡る。みよあれが因幡の国だ。因幡の国は太平洋だ。いま限定だ。
八艘飛びにサメの背を渡る俺の足に、平家蟹が腕を伸ばす。鋏の間に
オールを掴まれ、すわ!獲物を失うかと思いきや、俺は鋏を支点にオールと
一直線になって回転すると、オールはすっぽ抜けて、俺の体は高く高く
空へと舞い上がった。オールを胸の前に伸ばして水平飛行に移る。
やがて見えてきたのさ、あれがロサンゼルスの灯だ。俺はついに
オール一本で太平洋を横断した。ハロー、アメリカ。YMCA。
ユニバーサルスタジオに着陸すると、カヤックが先回りして出迎えてくれた。
こいつう。ハハハ。終わりよければ、オールライト!

次「ドリアンの木の下で」

117:ドリアンの木の下で
12/06/17 02:00:21.41 .net

 村一番の美人のシャリファーに愛の告白をした僕ムハンマドは彼女からドリアンの木の下で待つように言われて、現在こうして素直に待っている最中である。

 しかしなぜドリアンの木なのだろう?村にはもっと分かりやすい待ち合わせ場所がたくさんある。それにドリアンの木と言ってもどのドリアンの木なのか分からない、とりあえず村の近くで一番大きいドリアンの木を選んだ訳だが……。

 もしかしてドリアンに何か意味が込められているのかもしれない、ドリアンにはトゲがある。「私もドリアンのようにトゲがあるわよ」とでも言いたいのか?それなら大丈夫。少しくらい強気でじゃじゃ馬な娘の方がが僕は大好きだからだ。

 それとも……ドリアンのあの匂い、あの独特の匂いのように「あなたの存在も私にとって鼻を摘ままなければならないほど不快だわ」とでも言いたいのか?

 いや、それはない、そこまで彼女に嫌われる理由は僕にはないし、なにより彼女はドリアンが大好物なのだから。

 まてよ、ドリアンは果物の王様とも言われている。つまり、つまりは「あなたが私の王様、あなたこそが私というクイーンにふさわしいキングなのよ」という事じゃないか?

 そうだ、きっとそうに違いない、なんて奥ゆかしい素敵な人なんだろう、自分の想いをこんな形で示してくれるなんて。僕も彼女の気持ちにちゃんと応えるために、それなりのロマンチックな台詞を用意しとかなくちゃな……



 そんな事をムハンマドが考えている間にも、彼の頭上数メートル真上にある重さ十キロのドリアンは確実に彼の脳天をとらえて熟れた身を今か今かと揺らしていた。


次のお題「声を無くした街」

118:名無し物書き@推敲中?
12/06/17 10:28:00.59 ?2BP(0).net
「声を無くした街」

 歩けばそこには、幾つもの空中投影されたフォログラムパネルが並ぶ。その多くは大手カンパニーによる新作モノや売れ筋商品の広告だ。
 多分何度か登録した生体データを下にした、僕の趣向を読んだ商品ばかりなのだろう。
「どうにかならないかな」
 いつもは都合よく利用させて貰っているけれど、待ち合わせ場所に急ぐ今日に限っては目障り極まりない代物だった。大昔にはパネルの右端には自己消滅を促すボタンがつけてあったらしいのだが、さてはて一体どうしたものやら。
「ごめん、待ったかい?」
「ん、ぜーんぜん。私もいま来たところだよ」
 そう言って実に灰汁のない笑顔で手をぎゅっと握ってくるのは、先日大型コミュニティルームで出会った女の子だ。
 なんだか話の馬が合ってその上僕には不釣り合いなほどに美人ときたもんだ。コミュニティルームからの帰りに、今度会ってくれませんかと話しかけられたときには三度自分の頬をはたいた。それくらい。
「う~ん、どうしよっか。映画でも見に行くかな?」
 そう言ってポケットの中に入れていたチケットを握る手に、少し力を込める。
「まあ素敵!」
 ほっとした。どうやら出費は無駄にならずにすみそうだ。
『CAUTION! CAUTION!』
 けたたましい電子音とともに、目の前に大きな警告パネルが展開される。
「な、なんなんだ一体」
「まあ素敵! 楽しみだわ!」
「少しよろしいですか?」
 突然肩に手を掛けられる、振り向くと、スーツ姿にサングラスを掛けた、がたいの良い男が立っていた。
「な、何なんですか?」
「ちょっと失礼」
 そう言って男は、女の子の頭に手をかざす。
「停止命令を要求する」
「停止命令ヲ、受領シマシタ」
 そう言った途端に彼女は一切の動きをやめてしまった。
「危なかったですね。これは悪徳業者による販促AIなんですよ。いやぁ、本当に間に合って良かった」
 男の頭上に展開され得るコミュニケーションパネルがピコピコと動く。僕はただ、何が何だかわからないままに、立ち尽くすしかなかった。

次のお題「回って回って感染るんです」

119:回って回って感染るんです
12/06/18 20:17:13.12 .net
メトロポリタン・エクスプレスウェイをポルシェでローリングするのは
トップクラスにエキサイティングなエクスペリエンスだ。
シティのスカイドームをルックアップし、サンセットのホットな
ビームをボディにキャッチする。マイタイム・マイラブ……。
やがてストリートライトがビーナスみたいにリット・アップし、
アーリーサマーのナイトエアーがクールなフェイスと
セッションする。ああ、ブリージング……。
メトロポリスはネバー・スリープ。だが、ロードがエンプティに
なると、バッドなフェローたちがデビューする。
いや、ボーイズはデイタイムはジャスト・ユージュアル・シチズンだ。
ワインレッドのポルシェのスピード、ウィングレスな
フィールドのファルコンにサプライズし、ホットなハートを
シェイクされたフールたちが、ノー・マッチなバトルに
ウェイクアップするんだ。そう、まるでクレイジーなウィルスに
インフェクトされるみたいに……。
ローリング、ローリング。ミッドナイトをパスするころ、フェローの
ナンバーはアンカウンタブルになる。ウィンドはチリングなくらい
クールだが、ロードのテンションはアウトブレイクする。
エブリナイト・フィーバー。ローリング、ローリング、
ローリング・ティル・モーニング。ヘイ、カモン、ジョイン、ミー。
もしエグゾーストしたら、エクスプレスウェイからオフして
はなまるうどんでカレーでもコラボしようぜ。

次「あの日マニラの街角で」

120:あの日マニラの街角で
12/06/19 22:37:23.14 .net
深夜、女は突然ベッドから飛び起きた。
「私、やっぱり呼ばれているわ……」
女は囈言を繰り返した。
「呼ばれてるのね。行かなくちゃ、私は、行くんだ……マニラに!」
AV女優、小向萌奈子は夢のささやきに導かれるように、フィリピン行きの航空便に飛び乗った。

強風にスカートを捲られながらタラップを降りると、遠くから、陽気で雑然としたフィリピンの空気が吹いてきた。
「熱い……この気候、いつ来ても体が火照るわ」
小向萌奈子にとってマニラは第二の故郷であった。
小向萌奈子のフィリピン渡航歴は公式では2011年のみとあるが、実は誤りで2005年に一度訪れている。
その件は、事件の後に探偵の等々力鈴悟が裏付け調査を行っていた―
それはともかく、小向萌奈子はマニラの懐かしい場所に足を向けた。
数年前、彼女が住んでいた赤煉瓦の家屋。小向萌奈子が夢遊病のようにそのドアを開けようとすると、中からドアが開いた。
「中に入っちゃダメ」
小さな女の子が、小向萌奈子を通せんぼした。女の子はどことなく小向萌奈子に似ている。
「あなたは? まさか……ずいぶん大きくなったわね」
触ろうとする小向萌奈子を、女の子は後ずさりして拒んだ。
「おばちゃんは悪い人ね。いつもパパから聞かされてるよ」
「パパ? ニャマンタは元気なの? 顔が見たいわ」
「パパは今ママと愛し合ってるわ。だから入っちゃダメ!」
女の子はいつの間にか手に、小さなハサミを構えていた。近づいたら殺すつもりらしい。
日本から来たAV女優は激昂した。
「ママって誰なの? なんであなたは、血の通ってない女のほうの言うことを聞くのよ? ニャマンタに会わせなさい」
「ダメったらダメ! こっちに来ないで」
その日のマニラは特に暑かった。
アスファルトに揺れる陽炎を突っ切って、赤煉瓦の家にパトカーが駆けつけたのは、それから一時間足らずのことである。

次「ちび魔流子ちゃん」

121:ちび魔流子ちゃん
12/06/20 10:30:56.08 .net
彼女は背が低いことがコンピレックスだった。だから、鉄棒にぶら下がったり、縄跳びしたり、ヨガを行ったりもしたが一向に背は伸びなかった。
かくなる上はと黒魔術に手を出した。人を呪い殺すことができるのだから、身長を伸ばすくらい雑作ないはず。して、図書室で魔術の本を読み漁り、ようやくみつけた。悪魔召喚により願いを叶える術を。
しかし、悪魔との交渉には見返りが必要だ。寿命か、身体の一部か、運命か、何が妥当か分からない。それなら悪魔に尋ねようと、早速儀式を執り行った。
青空は次第に黒く厚い雲に覆われ、通りにたむろしていたカラスや犬猫が逃げ出していく。彼女の全身に電気が奔る。魔方陣に並べた蝋燭の火が消える。そして目前に稲光が落ち、煙りとともに悪魔が現れた。
やった、成功だ。喜びも半ばに本題に入る。身長を伸ばす見返りは何が良いかしら。彼女の問いかけに悪魔は困った顔で答える。処女は認められない、オトナになってから再召喚してほしいと。
ならば私の初体験を捧げます。彼女の意思は固かった。悪魔は久しぶりの人間の女に興奮して、直ぐさま彼女に覆いかぶさった。さすが悪魔である。人知を超えたテクニックで彼女を絶頂へと何度も誘う。
彼女はもう身長のことなどどうでも良くなった。このまま、このままこの絶頂が永遠になってほしい。
かくして、ちび魔流子ちゃんはびちマ○コちゃんになりましたとさ。チャンチャン。

次は「私は雨が似合うから」でおなにーしゃす

122:私は雨が似合うから
12/06/21 19:38:34.08 .net


 ドラマみたいだなと思った。

 部屋の入り口で立ち尽くす彼女、目の前にはベッドの上で上半身裸の僕と見知らぬ女。明らかな浮気現場だ。

 動揺も言い訳もしなかったのは、どう考えてもそれが無駄だという事がはっきりしていたというのもあるが、やはり一番の理由は僕の心が彼女から離れていたからだろう。
 ゴングが鳴った気がした。彼女は気が強いほうだし、浮気相手も負けず劣らずだ。メロドラマよろしく、これから壮絶な修羅場が展開されるだろう、そう思っていた。
 だが、予想に反して彼女は少し悲しそうに微笑んだだけだった。そしてくるりと振り返り部屋を出ていった。
 僕はそこでようやくあわてて彼女の後を追った。

「待って」

 彼女は玄関のすぐ外で立ち止まった。外は雨だった。悲哀を助長するような、静かに降る雨だった。雨に濡れた彼女の少しウェーブのかかった艶のある髪に、僕は、本当に勝手だけど、綺麗だなと思った。

「……濡れるよ」
「……私は雨が似合うから」

 そう言い残して彼女は去っていった。

 僕はなにもできなかった。というより彼女の為に何かを出来る権利を既にもって無かった。僕は見えなくなるまでずっと彼女の後ろ姿を見つめていた。


 後から彼女の知り合いに聞いた話だが、彼女はこれまで僕を含めて三人の男性と付き合ってきたらしい、そして別れた理由はすべて彼氏の浮気だったそうだ。

「私は雨が似合うから」

 今でもしとしとと降る涙のような雨の日には彼女のあの最後の言葉を思い出してしまう。


次題 「左の赤子、右の死体」

123:左の赤子、右の死体
12/06/21 21:52:19.67 .net
「ずぶり」
母の大きく膨れた腹に刃がくいこむ。
「びくり」
のたうつ母を無情の刃は切り裂いてゆく。
「どろり」
母の腹から子がこぼれ出る。
「べたり」
それを左へ。
「どさり」
切り裂かれた母は右へ。
「ぽちり」
コンベアが動き出す。
「ずぶり」
また新たな母に刃を突き立てる。
「びくり」
ここから先の光景を私は知らない。
「どろり」
知っているのはその更に先……












「「いただきまーす!」」
食卓に並ぶ母子の姿と、我が子たちの笑顔だけである。

124:名無し物書き@推敲中?
12/06/21 22:27:44.89 .net
お題忘れてた。
次は「自給自足の果てに」

125:sage
12/06/23 09:26:34.59 .net
「自給自足の果てに」

最初に、屋根にソーラーパネルを付けたんです。
エネルギーの自給自足っていうんですか?
地球温暖化とか原発の停止とか、最近話題じゃないですか。そこから始まったんです。
でも、エコロジーについてよく考えてみると、食料品の輸送にもエネルギーって使われているわけで。
で、家の脇に小さな畑を作ったんです。食料の自給自足です。
でも、CO2削減を考えるとそれだけじゃいけないと思って。
で、家の周りに木を植えたんです。酸素の自給自足って、表現おかしいですか? まぁ、CO2削減です。
そこまでしたんですけれど、庭は狭いので食料の自給自足も、酸素の自給自足も充分じゃない気がして。
で、都心にある家を売って、山奥に、そう、ここです。土地を買ったんです。
考えてみれば、電器を使わない生活をすればソーラー発電もいらないし、食べものも山の木の実や山菜をとれば
それでいいかなって。で、土地は買ったんですが家は作りませんでした。
ちょうどいい洞窟もありましたし、山林のままの方がCO2削減になりますしね。
初めて「空気がおいしい」という言葉の意味がわかりました。自分の山の、自給自足の酸素で。
住んでいるのが山奥なので、着るものも気を遣う必要もなく、自分の山林なので人に会う事も無いので
何も着なくてもいいかなって思いました。
で、裸のまま狩猟のためのナイフを持った、こんな格好だったんです。究極の自給自足のつもりだったんです。
自分は変態でも、変人でもありません。本当です、刑事さん。
ちなみに、ナイフからルミノール反応があったのは、狩りで獲物を仕留めたからです。でも、自分の土地でした狩りですよ。
先ほどからの質問の、最近この近辺で頻発している若い女性の失踪事件とは、自分は全く関係ありません。
だいたい、自分は肉の脂身が大嫌いなんです。
経験でわかります。この写真の女性の様なのは絶対に……。


次のお題は、「朝靄と雲のちょうど境の所に漂う」で。


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