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背筋を吹きぬける冷気を感じて、俺は反射的に地を蹴っていた。
前に跳躍しつつ身を反転させる。
銀光が振り向いた俺の髪先を掠め、幾本かが中を舞った。
無意識に舌打ち一つ、俺はすぐさま腰の獲物を抜き放った。
月明かりを反射して一瞬刀身が煌く。
そいつは、向き直って構える俺の顔を見て、薄く唇をゆがめた。
その笑みは、面白いものを見つけたという純粋な期待の笑み。
純粋ゆえに、俺は全身の肌が粟立つのを感じた。
第六感が、しきりに警戒音を発する。
こいつに反撃の暇を与えてはいけない。
そう確信した俺は、弾けたように駆け出し、奴に肉迫する。
奴は、動かない。
「あああっ!」
構わずに俺は、気合とともに右腕を振るった。
刃が風を切って鳴る。
逆袈裟の斬り上げが何のためらいもなく奴の体を両断する瞬間、奴は一歩だけその身を後ろに引いた。
一歩だけだった。それだけで、最低限の動きでもって、その一撃は空だけを斬った。
奴の笑みが深くなった。
大きく踏み込まれる奴の足、そして隙だらけの俺の体を正確に捕らえた刺突が放たれる。