10/10/04 19:10:28 .net
─ほんのひと時、懐かしい夢を見ていた。
われに返り、長椅子の背もたれから身を起こそうとしたけれど、身体は真綿に厚く包まれたように、熱をもち重く、言うことをきかなかった。
やっとのことで頭だけをもち上げ、ぼんやりと前を見る。小さな庭園にそぐぐ日ざしは先刻よりすこしだけ緋色を増して、草木と花々とにやさしい陰影を与えていた。
「お目覚めですか」と、やわらかな声で囁かれた。わずかに首を動かして見ると、長椅子の隣にはかるくこちらに身をあずけている君。
「ああ、……ごめん、少しうとうととしてしまったようだよ」ややかすれたけれど、まだどうにか、普段どおりの声を出せたことにほっとした。
「きっとお疲れなのでしょう。もうお休みになってはいかが?」彼女は穏やかに笑んで、僕の肩にそっと手を乗せた。
─不意に、その言葉に胸を揺らされてしまって、涙があふれそうになる。
僕はそれをどうにかこらえて、彼女の手に自分の手をかさね、
「……いいや、こうして君と居るのは久しぶりだからね。眠ってしまってはもったいないよ」と笑いかえしてみせた。
ほんとうに久しぶりだ。ここに移り住んでから、こんな時間を持てたことは数えるほどもない。
いま夢に見た、あのころ。あの懐かしい、小さな楽園では当たりまえにあった、ふたりだけのひと時。
それを、その先もずっと続けてゆくために僕は、できもしない色々なことを必死にやろうとしていたはずなのに。