10/10/18 18:36:10 .net
んじゃ、投稿しますー。
ワイさんとこに投下したやつの改稿版です。よろしくお願いします。
「ゴミ捨て」
今日はゴミ捨ての日である。夜も更けたころ、私は悪臭を放つゴミ袋の口を縛り年季の入った玄関のドアを開けた。ゴミ捨て場はアパートのすぐ近くにあるので、この一連の作業は何事もなく終わるものと思われた。
十月の夜風が体を撫でる。どこからか聞こえる鈴虫の鳴き声は清らかで、夜空に昇っている月は冷たく輝いていた。半袖を着ていた私は少し身震いをした。
ひっそりと息づく美しい自然に私が良い気分でおんぼろアパートの階段を降りようとしていたところ、視界に一つの黒い影が現れた。それは消えかけた蛍光灯に照らされながら壁に張り付き黒々と存在を主張していた。
目をこらすまでもなく、私にとっての敵であった。
仕方がない、階段はこの一つしかない。
驚いたゴキブリがこちらに飛んでくるなどという過ちを犯さぬよう、私はきわめて慎重に階段を降りはじめた。一歩一歩、敵を見据えながらゆっくりと足を踏み出す。あともう少しで安全地帯に脱出できるというところで、敵が動きを見せた。
音もなく機敏に壁を這うその動きは私を脅かすのに充分であり、私は踏み出しはじめていた左足をそのままの状態で止めた。
敵の一挙一動を見逃さぬよう目を見開き、全神経を集中させる。あまりの恐怖と焦燥に、場合によっては殺すことも致し方ないと覚悟を決めた私の意思が伝わったのか、敵はピタリと動かなくなった。
しめた、と私はその間に安全地帯へと抜け出した。早くゴミ捨て場に袋を放り込んで奴が動きを止めている間に部屋へと帰らねばならない。私はゴミ捨て場に急いだ。
ブロックを積んだだけの簡易な収集場に着く。相変わらず鈴虫の声は澄み渡っていて、十月の冷たい夜気が体を包んでいた。
私は腹いせも兼ねてゴミ袋を既に積んであった上にぶん投げた。これで溜飲が下がるというものである。
だが投げ込まれたゴミ袋に驚いたのか、二つの黒い物体が嫌な羽音を立てながら飛来したとき、私は秋の夜空に絶叫をほとばしらせた。