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司馬の存命中から、批判的だった数少ない「保守」言論人が、福田恆存である。福田は評論家であり、文芸批評家であり、翻訳家であり、劇作家であり、舞台演出家だった。
司馬の重要な主張の一つは、日露戦争中の旅順攻略戦での乃木希典批判であるが、これに対し福田は「近頃、小説の形を借りた歴史読物が流行し、それが俗受けしてゐる様だが、それらはすべて今日の目から見た結果論であるばかりでなく、善悪黒白を一方的に断定してゐるものが多い。が、これほど危険な事は無い。歴史家が最も自戒せねばならぬ事は過去に対する現在の優位である」と一刀両断である(『中央公論 臨時増刊「歴史と人物」』、一九七〇年)。
もちろんこのことばかりが理由ではないが、福田は論壇から干され続けた。福田はイニシャルではあるが明らかにわかる表現で、司馬が雑誌『正論』に圧力をかけて、福田に執筆と講演をさせないように妨害している事実を記している(「問ひ質したき事ども」『中央公論』、一九八一年四月号。なお、このエッセイで福田は、自分が一年も執筆していない事実に気づかない読者にも慨嘆している)。
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