20/12/05 06:46:02.90 I74CK/7Y.net
大人も子どもも板チョコを小さくしたみたいな、折りたたみ式の電話を持っているとか。
電話は電話線がなくてもつながっていて、計算もできるとか。
計算だけじゃなくて、[いんだねっ]もできるとか。
あたしはソウゾウすることができない。ポケットベルなら、去年、白須江涼子ちゃんのCMを見た。
でもあれは文字を送ることしかできない。
そういえばケイタイ式の電話も、CMでたまに見たかも。
でもあれは本のしおりみたいな大きさで、厚さはブンコ本くらいだったはずだ。
折りたたみなんてできるはずがない。
もしかしたら、スピリちゃんは並行世界から来たのかもしれない。
あたしたちの地球と似ていて、科学が進歩している世界。
そこにはポケベルがなくて、折りたたみ式の電話をみんな持っている。
そうして、[いんだねっ]をするんだろうな。
勇一くんからよだかの星について話してもらってからしばらくたった日。
あたしは[いんだねっ]について、スピリちゃんに教えてもらった。けど、よく分からなかった。
世界中の人と文通ができる場所が[いんだねっ]らしく、分からないことは[いんだねっ]でしらべればいいらしい。
うん。分からない、と言いかけた時、スピリちゃんがれいのジェスチャーをした。
Aラインの白のワンピースから出た、うすい肩をななめにかたむける。
白くて細いうでが、口の前でバッテンを作る。
ここまではお決まりだけど……。
くちびるから、ほおから色が引いていた。スピリちゃんだけさむいのかな、とかんちがいするくらい、かみの毛も肩もふるえている。
とてもこわい何かがくると、つられてあたしも思う。
そうして、8才の時に見たテレビを思い出す。北海道の小さな島をおそったつなみ。
夜中にたくさんの人や物をのみこんだ。あたしはつなみは見たことがないから、分からなかった。
けれど、生きのこった人がインタビューにこたえていた。ニュースのアナウンサーさんみたいな、すらすらとした話方ではなかった。
かかえきれないデキゴトが、むねにうまっている。
うまりすぎて、出てこない。けれど、ひっしに話す。そんな感じが、肩のふるえから伝わってきた。
スピリちゃんも同じふるえ方をする。
939:この名無しがすごい!
20/12/05 06:47:54.57 I74CK/7Y.net
そしてドアがひらく。あたしは1回ふるえて、それから安心する。
図書委員会のコモンの先生だ。他の先生よりもせが低い。タマゴみたいな体の形をしている。
声があったかくて、やさしいけど怒るときびしい。
すいません、と言っても、何が悪かったのか、セツメイできるまでゆるしてもらえない。
スピリちゃんはこの先生がニガテだ。でも先生だけがニガテなんじゃなくて、大人の男の人がニガテだそうだ。理由はスピリちゃんも分からない。
そもそも、この子は自分の名前すら分かっていない。だから、自分のことをスピリと言う。
先生はカウンターに本を5冊おいた。キフを受けたらしい。
全部が動物ズカンだった。
ラベルを貼ったりする作業は明日でいいから、と言って、ショクインシツにもどって行った。
カウンターうしろのせんようワゴンにうつそうとすると、スピリちゃんが、
「あああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」
とさけんだ。
あたしはびっくりして、スピリちゃんを見た。
スピリちゃんは、自分の頭のかみに指を全部立てて、かきむしっていた。
大きな目がもっと大きくなっている。目の中心の黒い部分が、ものすごく大きくなって、茶色をほとんどなくしている。
いつもは可愛らしい口が大きくひらいて、きれいな歯の列がてらてらと光っている。
あたしは何がおきたのか分からない。何がスピリちゃんをこんなふうにしたのか。
それは分かる。先生がおいていった本だ。
カウンターの板の上に、5冊つみ上げられた本の一番上の1冊。
サクランするスピリちゃんのシセンは本の表紙から動かない。というより、動けないのだろう。
でも、あたしは理由が分からない。
本の表紙には、川でシャケを狩るクマが一匹、うつっているだけだ。
スピリちゃんはさけび続ける。
あたしはそのイヨウに圧倒されて、しばらく何もできなかった。
けれど……。この子の茶色いかみの毛が、はしっこから赤に変わった時。
その赤の内側が白くかがやき始めて、そこからけむりみたいなものが立ちのぼりかけた時。
あたしの体はやっと動いた。
クマの本を両手でつかみ、かかえこむ。
そのまま床にうずくまる。
落ちついて、スピリちゃん……!!!!
と、心の中でいのる。
そう。あたしはいのることしかできなかった。こわかったからだ。
スピリちゃんが燃え始めたことがこわかったんじゃない。
この子をカイキ現象をモクゲキするみたいに、見てしまうことがこわかった。
だって、もしあたしがスピリちゃんなら……。
そんな目で見られたら、ぜったいにきずつく。ゆうれいとかお化け、おんりょう、アクリョウ、ジバクレイと呼ばれるよりも、もっと世界ははめつしてしまう。
940:この名無しがすごい!
20/12/05 06:49:31.02 I74CK/7Y.net
だから、あたしは床にうずくまったまま、じっとしていた。
じっとしながら、図書室の時計の音がずっと耳にひびいていた。
シンゾウのどくどくんというミャクの方がパワフルで、そっちの方が大きな音を立てている気がした。
「あい あぷりしゃえいちゅー」
「え?」
クマの本をかかえてうずくまったまま、あたしは顔だけをあげた。
スピリちゃんがあたしの横にしゃがみこんで、とても悲しそうな顔をしていた。
かみの毛は茶色にもどって、スピリちゃんのまぶたやワンピースのひざ部分にゆるく落ちている。
「ごめんね。わたしはお化けみたい。のー。のっと らいく ばっ じゃすと おんり あ ごうす」
「スピリちゃんは……」
言いながら立ち上がり、スピリちゃんを燃やしかけたクマの本をワゴンのおくにかくす。
そうしてふり返る。
スピリちゃんはあたしを、しゃがんだまま見上げている。ヒョウリュウしてしまった女の子みたいだ。
気がつけばだれもいない島に流れついて、トホウにくれる。そんな女の子。
もしかしたら、この子はこんな顔で、毎晩すい星を見上げているのかもしれない。たった1人で。
「スピリちゃんはスピリちゃんだよっ。だって、スピリちゃんだもんっ!!!」
自分でも何を言っているのか、よく分からないかった。
けど、これがあたしの気持ち。ウソもイツワリもない。
本当の本当を、あたしは声にこめた。大きな声を出してしまった。
ろうかをだれかが歩いていたら、きこえたかも。
でも、いいや。あたしは変な図書委員になるだけだ。世界はちょっとだけはめつするけれど、スピリちゃんが燃えちゃうよりもまし。
「必要以上に大きな声だわ」
「うん。大きな声で言いたかったの」
「そう。ありがとう。でもね。わたしはスピリじゃないの」
「え?」
あたしの目は丸くなったと思う。とてもびっくりしたから。
スピリちゃんは立ち上がって、あらためて、あたしをじっと見てきた。
この子はあたしよりもほんの少し小さい。だからあたしを見上げる形になる。
もしスピリちゃんが同じクラスだったら、あたしが列で2番目になれるのに。残念。
「まい ねーむ いず あんじゅ きのした。日本語なら、木下アンジュ」
「……思い出したの? 名前を」
あたしはききながら、とてもドキドキしていた。トキョウソウの前みたいな、ドキドキ。
何かが始まる、そんなヨカン。
「うん。名前は思い出した。他はあなたがいない時の でいたいむ みたいにぼんやりして完全じゃないけど。
でも思い出したわ。まむ とか、おとうさん、とか、おばあちゃんとか……。それだけじゃなくて、思い出しちゃったの。わたしの、ね」
そこで口をとじて、スピリちゃん、もとい、アンジュちゃんはワゴンにシセンをうつした。
並ぶ本たちのおくに、クマの本が息をひそめてかくれている。
「人間だった時の最後の めもるぃ。わたしがころされた時のことをね。思い出しちゃった、の」
まゆをいたそうによせるアンジュちゃん。
本当に死んじゃった人みたいに、血の気のない顔。
この子が[めもるぃ]と声に出した時の、英語ドクトクのくぐもった発音がとても重くひびいて……。
アンジュちゃんは友だちだよ!!! 生きてるとか死んでるとかカンケイないよ!!!
と大きな声でまくしたてたくなった。けど、あたしはできなかった。
アンジュちゃんには、聞く人が必要だったから。
あたしだって、冬休みが始まるちょっと前からの付き合いなんだから。それくらいは分かった。
分かる、ということにあたしはほっとした。でも、ほっとするのと同じくらい、分かることしかできないあたし自身に、がっかりした。
941:この名無しがすごい!
20/12/05 06:50:51.43 I74CK/7Y.net
……ちゃんと物にさわれる体で生きていた時、アンジュちゃんは、お父さんの方のおじいさんとおばあさんの家にいた。
その家は雨戸がざらざらしていて、たたみは線香のにおいがしたそうだ。
庭から海が見えて、朝方は太陽がのぼって水平線を白くわったらしい。
アンジュちゃんは毎朝、朝日を見ていた。太陽のずっとむこうにアメリカがあると思っていた。
アメリカにはアンジュちゃんのお母さんがいる。服のデザインをして生活をしている。
お母さんはずっと前にリコンをしていて、毎月手紙をくれる。
アンジュちゃんの体にあった服も送ってくれる。
でも、おじいさんとおばあさんは、お母さんのことがとてもきらいらしい。
きらいというよりも、うらんでいるように、アンジュちゃんには見えたそうだ。
理由は、アンジュちゃんのお父さんのこと。
アンジュちゃんのお父さんはずっと前からブツダンの中でほほえむ人になっていたらしい。
そんなお父さんの人生をめちゃくちゃにしたのがお母さんらしい。
おじいさんとおばあさんはそう思っていた。
アンジュちゃんの前ではあんまり言わなかった。
けど、アンジュちゃんが目のとどく所にいない時は、2人でお母さんのことをのろっていた。
でも、アンジュちゃんはよく分からない。やさしい人たちに悪口を言わせるお母さんが。
お父さんがそこまでの完璧なヒガイシャだったのかも。
手がかりが少なかったから。
アンジュちゃんは、おじいさんとおばあさんの家にくる前、まだ生きていたお父さんとくらしていた。
アメリカで2人ぐらしだった。名前は思い出せても、このころのことを、今のアンジュちゃんは思い出せない。
インショウがうすいみたい。手をつないでお父さんとクウコウ行きのバスにのりこんだことは思い出せたみたい。
だけどひこうきのマドのけしきはあたまから消えてる。
死んでしまった今、思い出せる一番古いキオクは、光がさらさらする湖。
湖の向こうには、こんもりとした緑の山。
富士山みたいにのっぽじゃないけれど、雪をかぶっていて、王様みたいにどーんとした山だったらしい。
その山と湖を、お母さんのつばの広いぼうしとかみの毛がかくしていたらしい。かみの毛は茶色。
つばの広いぼうしは麦わらの色。
目も茶色。お父さんの黒くて小さくてやさしい目よりも、もっとはっきりとしていた強い色。
やさしいお父さんも、強い色の目のお母さんも、アンジュちゃんからしたら、とてもくつろいでいるように見えたそうだ。
でもそのキオクと、おじいさんとおばあさんのお話は、ぜんぜんつながっていない。
だからアンジュちゃんはとてもこまったみたい。
お父さんは天国だし、お母さんはアメリカ。
しかもお母さんは『あいしてる』としかメッセージカードに書いてくれないし。
でもカードといっしょに送ってくれる服は、手ざわりがふつうの服とぜんぜんちがう。
デザインも細かいところはほかのとそんなに変わらないはずなのに、インショウが別格。
おもいがこもった服だと、アンジュちゃんはかんじていた。
多分、おじいさんとおばあさんも、同じようにかんじていた。だって、服をすてなかったから。
すてるどころか、タンスもちゃんと大きくてりっぱなものを買ってくれたそう。
そういうタンスはおじいさんとおばあさんの家のまわりにはなかった。
だから、JRの大きなえきがあるマチにまで出ないといけなかった。
アンジュちゃんが殺された日も、おじいさんとおばあさんはこの子をつれて、マチに出ていた。
3人はちゃんとカイサツを出た。
おじいさんとおばあさんは、タイルの道を、2人に手を引かれながら、アンジュちゃんは正月が終わってすこしたったマチを歩いた。
見上げると空がビルと人で小さく細くなっていて、昼のタイヨウの横にすい星が見えた。
942:この名無しがすごい!
20/12/05 06:53:00.36 I74CK/7Y.net
この子が覚えているのはここまで。気がつくと、知らない場所で、知らない男の人に首をしめられていた。マフラーがしめヒモ代わりだった。
男の人は、べったりしたキノコみたいなカミガタの、お月さまみたいな丸がおで、手がとても大きかった。
指がぜんぶ丸くて太かった。しかも毛深かった。
たまごが古くなったにおいがして、アンジュちゃんがかおをしかめた時。
男の人は、人間じゃないみたいな、カイブツのような暗い目で、アンジュちゃんをみすえたまま……。
マフラーにこめた力を強くした。
アンジュちゃんは気が遠くなった。
気がつくと夜になっていた。ゆれが伝わってくるいす。四角いマド。車だと分かった。
うしろのザセキ。前のウンテンセキをのぞくと、アンジュちゃんの首をしめたカイブツの横顔が見えた。
アンジュちゃんはさけびたくなった。けどタマゴがくさったニオイがきつくて、むせかえりそうになった。
だからちょっとレイセイになって、横顔をカンサツした。
何の色もない目が本当にこわいと、アンジュちゃんは思った。からっぽ。本当にからっぽ。
でも、にくしみみたいな何かがうずまいている感じ。
ハンドルをにぎる手が上下にぶれるたびに、ザセキはぶわんぶわんとうごく。
アンジュちゃんはそのたびにザセキの下に落ちそうになる。
カイブツは前を見ない。ハンドルをにぎるのと別の手を見続ける。
そのクマみたいな手の中には、折りたたみ式の電話が白く四角く光っていた。
アンジュちゃんはカイブツにユウカイされたのだと、この時、分かった。
そのあとのキオクは、はっきりとしないみたい。
多分、こわすぎて思い出せないんだろうな。
で、この次がアンジュちゃんが生きていたころの、さいごのキオク。
暗い天井をふさぐみたいに、アンジュちゃんにおおいかぶさってくるカイブツ。
バタバタと手や足をうごかして、テイコウするアンジュちゃん。
つめがカイブツの目をひっかく。
カイブツの口から、変な声とひどいニオイのイキがもれる。けど、男の人はアンジュちゃんにかぶさったまま。
かおも近づけたまま、手だけがふりあげられる。
その手はアンジュちゃんのほおや耳やこめかみをまとめて打つ。
男の人の手がとても大きいからだ。
アンジュちゃんのお母さんとはぜんぜんちがう。とてもキョウボウな、強い手。
そのショウゲキに、アンジュちゃんはタマシイが、はじきとばされてしまった。
そして見てしまった。
ベージュのダッフルコートにつつまれた小さな体を。
体にのしかかるカイブツを。クマみたい丸くアンジュちゃんをヒョウテキにして曲がるセを。
アンジュちゃんの目の前で、カイブツはアンジュちゃんの死体のガンメンに鼻をすりつける。
暗い床に広がるかみの毛のニオイをかぐ。肩は手をふり上げる。死体はまたぶたれて……。
もう、いやだ、とアンジュちゃんはさけぶみたいに思った。
それがさいごのキオク。
クマの本の表紙の写真は、クマがシャケに取っていたポーズは、ボウコウするカイブツにそっくりだった。
クマがふり上げてはじいた水面には何もない。でも、アンジュちゃんは自分のすがたを重ねた。
チュウをとぶシャケには、アンジュちゃんのタマシイを。
943:この名無しがすごい!
20/12/05 06:54:35.97 I74CK/7Y.net
※※※※※
「どうしかしたんですか?」
「え?」
「ええと……おつりを、ですね」
こまった声でそう言って、摩周さんは目を水色の皿に落とした。
この町ではあまり見ない感じのメガネがおしゃれで、あたしはすてきだと思った。
ふちの色がミルクをとかしたチョコレートみたいなマーブルで、トカイの人っぽい。
じっさいこのお兄さんはトカイから来た人だ。
千円札の夏目ソウセキが若くなって、ひげをそって、かみの毛をおろしておしゃれなメガネをかけたら、摩周さんになると思う。
あたしが相談するべきは、先生でもママでもパパでもなくて、やっぱりこの人ではなかったのかと、思う。
ずっと前に話してくれたケンキュウのために、日本全国を回っているこのお兄さんなら、あたしの話だって、マジメにきいてくれたかもしれない。
けっきょく、あたしはオクビョウだった。だから、こんなケッカになってしまった。
ひどいコウカイをしながら、あたしは袋に入れられた野球の本を、むねの前でぎゅっとだきしめる。
新しい本のにおいがする。
水色の皿の上では、おつりの百円玉とか十円玉が、それぞれの色で光っている。
今さっき、あたしが買った本のおつりだ。指をのばすべきだけど、あたしは本をだきしめることしかできない。多分、いや、ぜったい泣いてしまう。
だって、もう鼻がいたくなってるんだもん。
カウンターをはさんで、摩周さんがとてもこまっている。
あたしは小皿の上のコゼニをわしづかみにする。
そうして本屋さんの入り口にかけ出す。
摩周さんの声が後ろからする。
何かがポケットから落ちた気がする。
けどあたしは止まらずに、ショウテンガイを走り続ける。
手とほおに、冷たいものが当たった。
あたしは立ち止まって、空を見上げる。雨が細い。
944:この名無しがすごい!
20/12/05 06:56:01.75 I74CK/7Y.net
……アンジュちゃんからクマのことをきいたあたしは、とてもこわくなった。
そして、アンジュちゃんのために何かをしなければと、思いつめた。
でもそれは、あたしの心の動きは、本当にアンジュちゃんを思っていたのかな。
自信がない。
ただ、とてもこわいボウリョクの話をきいて、コンランしただけかもしれない。
世の中に、アンジュちゃんをユウカイする人がいる。
車にのせて、そしてだれもいないタテモノにつれていって、死んじゃうくらいにひどいことをする。
そんなカイブツがいる。
あたしはとてもこわくなった。
大きな体の男の人がとてもこわくなった。
まず、あたしのキョウフに気づいてくれたのは、図書室タントウの先生だった。
先生のタイカクはクマじゃなかったから、正直に話すことができた。
世界のハメツ? カンケイない。だって、アンジュちゃんの世界はもう、クマのカイブツにハメツさせられているんだもん。
それに先生なら、あたしの知らないことを知っていて、カイケツ方法を見つけられるかもしれない。
あたしはバカみたいにキタイしていた。
ううん。みたい、じゃない。本物のバカだ。
先生はあたしの話すことを信じてはくれなかった。
でも、でたらめを話すなと、怒ることもしなかった。
ただ、あたしの目をじっと見て、何かを探すような目で、
「アンジュちゃんは君のとなりにいるんだね」
ときいてきた。
あたしは、はい、とうなづいてから、アンジュちゃんを見ながらつけたした。
「アンジュちゃんはねています。すごい眠いって、いつも言ってます。前はそんなことはなかったのに……」
「前って、いつのことかな」
「クマの話をあたしに話す前、です」
「分かった。話してくれて、ありがとう」
先生は小さく笑顔を作ってくれた。
あたしはこの時、まちがったことが分かった。
先生の目が笑ってなかったからだ。お化けとか、オンリョウとか、エタイの知れないものを見る目つきになるのを、ヒッシにこらえている。
そんな目だった。
945:この名無しがすごい!
20/12/05 06:57:40.07 I74CK/7Y.net
うちにれんらくが来たのは次の週。
ママが学校に呼ばれて、その日から、ママの切り絵作業は中止になった。
それから、JRの大きなエキのある病院につれて行かれた。
この時には、土日でもないのに、パパも仕事を休んで、ついてきた。
あたしは、とても大きなことになっている、と思った。
病院ではおじいさんの先生とお話しをした。サンタクロースがダイエットに成功をしたみたいな、やさしい感じの先生だった。
あたしは初めはとてもキンチョウしていたのだけれど、おじいさん先生がとてもやさしくきいてくれたので、すらすらと話すことができた。
先生はさいごまであたしの話を、じゃましないできいてくれて、
「大変だね。君も。アンジュちゃんも」
と言ってくれた。エタイの知れないものを見る目つきではなかった。
だから、あたしは泣いてしまった。分かってもらえた気がしたから。
そんなあたしに、ほほえんでくれてから、先生はパソコンのキーボードをカタカタと打ち始めた。
あたしが泣いているあいだ、ずっと打っていた。
パパもママも、テレビとか映画の人みたいに、じっとしていた。
サイバンのハンケツを待つ人。大事件が起きて、家族の無事の知らせを待つ人。
とにかくそんな風に、すがるように待っている人たちと、同じ顔。
あたしは泣きやんで、そんなパパとママ、先生をコウゴにちらちらとながめた。
「うーん」
「はい?」
「いや。おかしいなあ。パソコンの調子が悪い。キーボードがうまく打てない。いや、ちがうか。僕が速く打ちすぎるんだな。指の調子がよい」
先生は画面にムチュウだ。たしかに指が速い。ザンゾウみたいな影も見えるくらい。
あたしはちょっと見とれた。
そんなあたしに目をもどして、先生は口を横に、にっと広げてわらった。
「僕も本が好きなんだよ。とくに、未来の話は心がおどる。いんだねっ、はインターネットだね。大学でケンキュウがされているんだ。
ユウレイが見える男の子の映画も、ハリウッドでサツエイチュウだ。新聞にもこの前トクシュウがくまれていた。
ケイタイ電話もパソコンも、キバンを使っているのは同じだからね。大学のコウハイがケンキュウをしているんだ。
つとめ先もセンモンもちがうけれど、色んな話をきくよ」
おじいさん先生の声はやさしかった。
でも、だから、あたしは分からなくなった。図書室タントウの先生の方が、エタイの知れないものを見るような目をしてくれた分、まだわかりやすかったと思う。
あたしは何も言えなくなった。
そんなあたしを、先生はじっと、何かとてもこわれやすいものでも見るように、見てから、こう付けくわえた。
「君は何も、まちがったことは言ってないんだよ」
946:この名無しがすごい!
20/12/05 06:59:08.99 I74CK/7Y.net
※※※※※※
そのあと、いくつかのケンサを受けた。
ママだけが呼ばれて、おじいさん先生から結果をきかされた。
その日から、ママの口ぐせは、
『特別じゃなくても、いいのよ』
になった。1番じゃなくても、いい。特別じゃなくても、いい。
この口ぐせは、あたしの周りの全員に感染した。本当に、病気みたい。
パパも、ママも、学校の先生も、クラスのみんなも、勇一くんだって、あたしに言ってくる。
みんな無理に明るく。またはやさしく。たまにとても心配そうに。
……このヘンカから、あたしはおじいさん先生がママにどんなセツメイをしたのか、分かってしまった。
あたしは特別になりたい子ども。
でも、なれないから、ゲンジツとちがうことをジジツだと思いこませている。
それで、つりあいを取っている。
パパは有名なバレーボールのコーチ。
ママは切り絵のコテンを開くゲイジュツカ。
クラスのみんなは、バスとかお父さんお母さんの送りむかえでちょっと大きなマチのジュクに通うくらい、頭が良い。
テストのヘイキンテン。うちの学年はイジョウに高い。
あたしが60点しか取れなくても、みんなヨユウで90点とか取ってる。
勇一くんも、
「おれ、ここ来て頭よくなったみたいだ」
と、フシギそうにヘンキャクされたカイトウヨウシを見たりする。点数は100点マンテン。
おくれているのはあたしだけ。
みんな英語のベンキョウをはじめているけれど、あたしはアルファベットもおぼえられない。
だから、あたしはアンジュちゃんを生み出した、とおじいさん先生はブンセキしたらしい。
英語にコンプレックスがあるから、英語を話す友だちを作った。
新聞とかテレビとか、色んなジョウホウをシンソウシンリがつなぎ合わせて、アンジュちゃんに語らせる。
アンジュちゃんのお父さんとお母さんがリコンしたのは、あたしの、自分の家族についての不安のあらわれ。
つまり、全部あたしのモウソウ。
……ふざけている、と思う。
アンジュちゃんは本当にいるのに。自分をユウレイだとみとめてしまってから、いつもうつらうつらとするようになったけれど。
ちゃんと、
「アンジュちゃん、おきて」
と声をかけたらおきてくれるのに。つっぷしていた図書室のカウンターから、ちゃんときれいな顔をあげてくれるのに。
947:この名無しがすごい!
20/12/05 07:03:07.01 I74CK/7Y.net
でも、だれもみとめてくれないし、アンジュちゃんはカイブツころされたままだ。
だから、あたしはあせる。たまにさけびたくなる。
そして本当にさけんでしまう。
学校のトイレとか。かえり道とか。図書室以外のどこかで、あたしはカイブツがこわくなる。
だから、さけぶ。
そんな時はホケン委員の子が、あたしをホケン室に連行する。
ホケン室には女の先生がいて、ベッドにねかせてくれる。
あたしは、1人だけ、みんなと切りはなされた時間にうかんだような、ぽっかりとした気分になって、メモチョウをポケットからとり出す。
これは、おじいさん先生があたしにくれたプレゼントだ。
みんなに話せないことは全部このメモチョウに書くといいよ、とおじいさん先生は言ってくれた。
ため込むのはよくないからね、とも。
だからあたしは、アンジュちゃんと話したことを、全部書く。
あの子が見たけしきとか、あの子の世界でおきたこととか、とにかく全部だ。
でも、どこかで落としてだれかに読まれたらはずかしいので、キーワードだけを書きつらねる。
たとえば、パパの好きなダイエーホークスは、ソフトバンクになっている、とか。
ダイエーホークス=ソフトバンク
みたいに。
948:この名無しがすごい!
20/12/05 07:04:49.38 I74CK/7Y.net
ちなみに、あたしがカイブツがこわくなくなる場所が2つある。
パパがいてくれる日の家と、摩周さんが店番をつとめる本屋さんが、この2つだ。
本屋さんは、みんなが通うジュクと同じマチにある。
学習キョウザイがたくさんおいてある。
図書委員のあたしは、この本屋さんでコウニュウ図書のケンキュウをしたりする。
もちろんコウニュウをハンダンするのは先生だ。けれど、先生はどんな本が読みたいか、よく聞いてくれるから、こちらもガンバラネバと思う。
これは、アンジュちゃんに会う前からの、図書委員としての使命だ。
そして、摩周さんはあたしが図書委員になった春に、この町に引っこしてきた。
あたしたちが話すようになったのは……。
たしか、あたしがコウニュウ図書のことを考えながら、ムズカシイかおをして、絵本コーナーにつったっていた時。
摩周さんが声をかけてくれた。若いおしゃれメガネの夏目ソウセキに話しかけられた!!! とあたしはびっくりした。
あの時の思い出は、何故かむねがくすぐったくなる。クマのカイブツのことも、忘れる。
そんな摩周さんの前では、あたしはフツウでいられる。
色んなことも話せる。でも、アンジュちゃんのことは話せない。カワイソウな子だと思われたくない。
だから、あたしはそれイガイのことを、ヒッシでソウダンする。
たとえば、勇一くんのこと。
勇一くんは、花丸スタンプ10回目をタッセイした。
セイセキもクラスで一番。100点の常連になって、雪合戦でも負け知らずだ。
雪がふる前、トキョウソウでもトップでゴールをかけ抜けていた。
そんな勇一くんを、勇一くんのお父さんもお母さんもとてもよろこんだ。
そして、はれて勇一くんは読書マスターとしてみとめられた。
次はスポーツマンを目指すらしい。
でも、どんなスポーツをすればいいのか、勇一くんは分からないらしい。
サッカー、野球、卓球、陸上、バレーボール。
どのスポーツをやっている人も、勇一くんにはかがやいて見える。
949:この名無しがすごい!
20/12/05 07:06:55.65 I74CK/7Y.net
「何がニアウと思う? おれ」
「うーん。考えてみる」
「おう。たのんだ。分かったらおしえてくれ」
「うん」
こういう会話の時、あたしはセイジョウだ。勇一くんも、すごく明るいかおでわらってくれる。
うれしい。
だから、あたしはシンケンに考える。やっぱりバレーボールがいいかな。
パパ、バレーボールのコーチだし。いや、でもこれはあたしの気持ちだから、押し付けたらダメかも……。でも、うーん。
と、もんもんとしていた気持ちを摩周さんにぶつけた時。
摩周さんは、うーん、と言って、うでを組んだ。目を閉じて、うつむく。
うでを組んだまま、ひとさし指でマユの間をおさえる。
「野球がいいんじゃないかな。クラスメイトの彼におすすめするのは」
目をつむったまま言う摩周さん。
首をかたむけて見上げるあたし。
「何で、ですか?」
「目に浮かぶ気がするんだよね」
「え?」
「メガホンを持つ君がね。けっこうキレイに成長した君が。首とかほおを赤くしてね。あせを細いあごからたらしながら、必死にさけんでるんだ。
ケイジバンが大きくて、それから……。フラッシュをたいてる人たちもいる。大きな試合。甲子園かな。
光が割れたガラスみたいになって、君をふくめた全部にふりそそいでる。僕は勇一くんって彼の顔は知らないけれど、応援する君は目に浮かぶ」
……多分、アンジュちゃんのことをソウダンするならこの時だったんだ。
だって、摩周さんはとてもフシギなことを、フツウに話していたから。
でも、あたしは、未来のあたしのスガタがキレイとか、勇一くんをヒッシにオウエンしているとか、ドキドキするくらいショウゲキで。
けっきょくそのままかえってきてしまった。
かえりのバスには、ジュクかえりの子たちものっていて、あたしをちらちらと見てきた。
たぶん、あたしが、野球、コウシエン、野球とうわごとのようにつぶやいていたからだと思う。
950:この名無しがすごい!
20/12/05 07:09:10.53 I74CK/7Y.net
次の日、あたしは勇一くんに野球をすすめた。
勇一くんは、バレーボールって言われるかと思ってたけど、サンキュっ!!! ってわらってくれた。
それから、本の読みすぎでカサカサした指がのびてきて、あたしのかみの毛をくしゃくしゃにした。
勇一くんと、ちゃんと話せたのは、その日がサイゴだった。
バレンタインデーに、あたしは(アンジュちゃんに後押しもされて)チョコレートを用意して待っていたけれど、勇一くんは図書室には来なかった。
もう、勇一くんは読書マスターを目指す人ではなくなっていた。
「まあ。人生は長いわ。あなたは、わたしとちがって、生きているから」
アンジュちゃんが、ちょっとばつがわるそうに肩をすくめて、それからあくびをした。
そのあくびはあたしにもうつって、なぜか涙が目のはしからにじんだ。
……春休みの前。
あたしは転校することになった。
カンキョウを変えるべきだと、パパとママは長い話し合いのすえに、そうケツロンを出した。
家族はいっしょに住む。
パパは土日にかえってくるパパじゃなくなる。
ママはコテンをひらくペースを落とす。
そして、あたしはちょっとモンダイをかかえて通学ができなくなった子たちのための、特別な学校に行く。
このことを、パパとママから話された時、あたしはさけんだ。わめいた。
ひざがぐにゃっと曲がって、尻もちをついた。
そのままあおむけに転がって、泣きながらさけんだ。
自分で自分じゃないような声が出て、そのあとはおぼえていない。
気がついたら、ベッドでねていた。天井が病院だった。
シーツから薬のにおいがした。
おじいさん先生がお母さんと話していた。
でも、あたしは眠くて、眠すぎて2人がどんな会話をしているのか、分からなかった。
もしかして、アンジュちゃんが眠い時も、こんなかんじなのかな。
……みたいなことを、落ちたまぶたで閉じられた世界の中、思った。
951:この名無しがすごい!
20/12/05 07:11:16.01 I74CK/7Y.net
何日か入院してから、あたしは退院した。
おじいさん先生は、いつもどおりにすごさせてあげてください、とお母さんにおねがいしてくれた。
だからあたしは自由にすごすことができて、アンジュちゃんにもちゃんとお別れのことばを言えた。
「ゆっくり眠れるわ」
「え?」
どういう意味から分からないあたし。
そんなあたしを、ケイベツの目でさしてくるアンジュちゃん。
「意味が分からないみたいね。教えてあげる。あたしは死者なの。のっと スピリ、 そお にーじゅ すりーぷ。死者は沈黙し、眠るもの」
「ぜんぜん意味が分からない」
自分の声がふるえているのが分かる。
そんなあたしに、アンジュちゃんはヒョウジョウを変えない。でも、茶色のかみの毛のはしが、ちょっとだけ赤く、きらめく。
「すい星、毎晩出てるでしょ」
「うん」
「あなたは、暗いこの図書室で、わたしが夜空を見上げている、と思っているでしょう」
「うん」
「のー」
アンジュちゃんは小さく首を横にふった。
「ちがうの?」
「ちがうわ。あたしは、死んでから、ずっと暗い場所にいるの。眠くなるほど色というものがなくて、黒と白しかない。黒に白がリンカクを与える。
そんな ものとぅーん な世界。色を変えるのは2つの時しかない。
1つは、すい星を見ている時。青い尾の光が、わたしも照らしてくれる気がする。もう1つは、あなたがあたしをおこす時。この部屋にひしめく墓石の列は、本棚に変わる。
あらゆる本の表紙には、シキサイが与えられる。静かな空間が、妙に生き生きとして、わたしは自分がまるで生き返ったように思う。
ちがうのにね。死者は死者に過ぎない。あなたがいなくなったら、わたしは死者として眠るだけ。それは正常なことなの。せいせいするわ」
アンジュちゃんは……まったくせいせいとしているようには見えなかった。
白くてきれいなほおが、涙でぬれすぎていた。
952:この名無しがすごい!
20/12/05 07:12:58.54 I74CK/7Y.net
あたしは言葉につまった。
「でも、あたしは……」
「わたしが死者として完全に眠ることを、心苦しく思うなら、約束して」
「約束?」
「そう。ぷろみす みー。あぼいどぅ べあ まん。クマオトコには、近づかないで」
※※※※※※※
転校を次の週にひかえた木曜日。
あたしは色々なことを後悔しながら、摩周さんの本屋さんに行った。
勇一くんにあげる野球の本を買うためだ。
絵じゃなくて文字の多いものを、あたしはえらび、レジの摩周さんに出した。
会計をすませて、実は今日がさいごなんです、とコクハクをする時になって、あたしはむねがぐっとつまった。時計の音がとてもゆっくりとなって……。
世界が止まって、これが走馬灯かな? ってくらい、色々なものが一気に押しよせてきて。
あたしは、えらんではいけないことばかりを、えらんでしまったのかもしれない。
親切な人のことばは、正しいとはかぎらない。
ソウダンする人をまちがえたケッカ、一番大切な友だちを……。
摩周さんの声でわれにかえり、それから、自分にツゴウのよい、もしもをソウゾウして、苦しくなって、泣いてしまって、入り口にかけ出す。
店から走り出て、ショウテンガイをかける。
摩周さんの声がする。何かがポケットから落ちた気がする。
あたしは止まらず、走り続ける。
ふり出した細かい雨に打たれながら、バステイにトウチャク。
ちょうど来たバスにのり込んで、運よくすわることができた。
こんな、むだな運だけよいのは、どうなんだろう。
と、思いながら、マドの外をながめる。もう、見ないケシキ。細かな雨に白くかすれたショウテンガイ。
アンジュちゃんは、このマチを見たことはない、と言っていた。
あの子の世界では、マチはとてもすたれていて、あたしたちのマチとガッペイずみで。
そもそもアンジュちゃんの図書室だって、あの子の世界では、ハイキョで。
クマがつれ込んだタテモノはハイコウになった学校で。
つまり、ぜんぜんちがう。あたしの知っている世界と、あの子の世界は、つながらない。
だから、あの子の真実は、あたしにはでたらめで、そんなでたらめに、あたしはふり回されてしまったのだろうか。
953:この名無しがすごい!
20/12/05 07:14:26.92 I74CK/7Y.net
……ちがう、と思う。たぶん、いやぜったい、どこかでつながっている。
そのつながりが、今のあたしには分からない。それだけのことだと思いながら、手が、その日着ていたパーカーのポケットをさぐる。メモを見たい、と思ったから。
でも、なかった。ショウテンガイで落とした何かは、メモチョウだと分かって、あたしは変な声をあげてしまった。
バス中のシセンをあびながら、もどろうかとも思った。
けど……。もう、雨でダメになっているかもしれない。
マドの外の雨は、強くなって、マチはますますかすれている。
あたしはうつむく。目の前がにじんで、なみだがあふれてくるのが、分かる。
次の日。図書室に行くと、アンジュちゃんはいなかった。
あの子がいつもつっぷして眠っていたカウンターは、ただの木の板以上でも以下でもなく。
図書室は本当にただの図書室にもどっていた。
あたしはその日の仕事をこなして、タントウの先生にアイサツをしてから、図書室を出た。
それから、げた箱の場所におりて、だれもいないのをカクニン。
勇一くんの箱に、野球の本を入れて……。
ぜんぜんドキドキしない、というよりも、しずかに悲しいだけの自分にびっくりしながら、下校した。
954:この名無しがすごい!
20/12/05 07:16:22.02 I74CK/7Y.net
※※※※※※※
10年がたった。あたしは22歳になった。
この10年は色んなことを必死になっているうちに、過ぎてしまった。
例えるならば、突風。予感めいたものが、震動のように地面を伝って、覚悟をすると、一気に吹き寄せる。
姿勢ぐらいは保とうと必死になっているうちに、全ては過ぎ去る。
特殊学級での日々しかり。高校に進む代わりに受けた大検に落ちた後のリベンジ合格しかり。
高校3年生になった勇一君をスポーツ新聞で確認した時の高揚しかり。
メガホン片手に甲子園に駆けつけて、全力の応援のすえ、逆転負けしたエースピッチャーの勇一君を外で待っていた時に……。
バスにのり込む彼に抱きついて泣く女子生徒を、困ったように見おろして、衆目の中でそっと抱きしめる勇一君。
彼の周りで、囃すようにあがる歓声に耳と心を痛めた時しかり。
全部があっという間だった。あたしは大検には受かったけれど、頭は特別良くも悪くもないままだった。
それでも何とか英語の教育に一定の評価がある短大に進学。留年もせずに就職。
東京の中堅の会社に潜り込んだ。扱うのは輸入雑貨。ワイン。そして……アメリカのデザイナーズブランド。
あたしはちゃんと覚えている。アンジュちゃんのお母さんが、デザイナーをしていたことを。
まあ、就職してしているのはデータの入力とか帳票の整理だし。
ブランドの輸入事業セクションなんか、花形も花形で、なみいる大卒の戦士たちを押しのける技量などないのは、百も承知の上で……。
アンジュちゃんのお母さんと、話す機会をたんたんと狙いながら、あたしは毎日コピーを取ったり電話の取次ぎをしたりしている。
955:この名無しがすごい!
20/12/05 07:19:16.64 I74CK/7Y.net
ちなみに、合コンとかには出ない。この10年間、ずっと続けてきた習慣、もとい、必殺の一撃に磨きをかける必要があるからだ。
そう。あたしは会社から真っすぐ帰宅する。
そして、押し入れの奥から、釘バット君3号(1号と2号は折れてしまったのでこれは3代目)を取り出し、丁寧に布に包む。
愛する自転車であるチャリオット君3号にまたがり、神社に向かう。それから、境内で上段にかまえ、おもむろに素振りを開始。
あたしは無心で振ろうとする。でも無理。10年前に落としたメモ。あの内容が頭の中で、ぐるぐる回る。
携帯ではインターネットができるようになった。メールだって普通にやり取りする世の中だ。ダイエーホークスはソフトバンクになった。
何より……。アンジュちゃんの図書室があった学校は、廃校になった。あたしの家があった町は、市町村合併で、もう名前が違う。
全部、あの子の言った通りになっている。小学生の頃のあたしがいた過去は、アンジュちゃんの生きている現在につながっているのだ。このつながりを……。
素振りに腕が悲鳴をあげて、あたしは釘バット君3号を境内の土にぶらりとおろす。そのまま空を見上げる。黒い葉が作る模様の向こうに、夜空がある。
輝くのは、青い尾のすい星。名前はマックノート彗星。アンジュちゃんが、みっくのーとぅと言っていた、あれだ。
でも、彗星だけではない。あの子が話してくれた言葉。ネイティブの英語を、今のあたしはちゃんと理解できる。
『しゅどぅんすぴあう』は『Should'nt speak out』。声をあげるべきではない、だし。他にも色々分かる。
そして、全部はアンジュちゃんの予言通りに進行している。だから、あたしは1つ、確信していることがある。
頭上の彗星が、日中に見える日が来る。その日は正月が明けて少したった日であるはずだ。
956:この名無しがすごい!
20/12/05 07:20:44.85 I74CK/7Y.net
本当は今、この瞬間に、あたしはアンジュちゃんが住んでいる町に向かって出発したい。新幹線に乗れば結構すぐにつく。そしてあの子を探せる。
でもダメだ。バタフライ効果が起きる可能性がある。あたしが何かをすると、アンジュちゃんの予言していた未来から、世界がずれる可能性がある。
そして、その世界でも、アンジュちゃんが無事という保証はない。だから、あたしはぎりぎりまで待つ。
正月休みに帰省もせず、休日出勤の電話番を一手に引き受けて、しかも一切使わずにためた有給は……このためにある!!!!!
そう意気込み、かなり大きく勇んで、あたしは上司の机に有給届けを叩きつけた。
本当はすだれ頭にぴしゃりと叩きつけてやりたかった。
合コンでないの? 彼氏いないんでしょ?
などとちくちくセクハラしてくる上司に、これからいたいけな少女をあたしは救いに行くんです!!!
とどや顔を決めたかった。
が、あたしは少女を救う英雄(予定)だが、社会人である。アンジュちゃんを救った後も、人生は続いていく。
それにこの会社のボーナスは意外に割りが良いので退社する気にはなれない。
何よりも、だ。この会社で出世をするという大志を抱いて実現すれば、アンジュちゃんのお母さんにもあえるかもしれない。
母と娘をとりもつ。それがあたしというガールのアンビシャス(大志)なのである。
……と、長年の積もりに積もった色々のせいでハイテンションになったあたしは。
正月の帰省ラッシュが終わって、ちょっとだけ物悲しい新幹線のグリーン席で幕の内弁当をかき込みながら、すっ飛んでいく景色に闘志を燃やした。
2席分のチケットを購入したために空となった隣には、バイオリンの大型ケース。
もちろん中身はバイオリンではない。釘バット君3号である。
あたしは、クマの怪物の肩にこれを叩きつけ、降参させて、アンジュちゃんを救うのだ。
957:この名無しがすごい!
20/12/05 07:22:42.34 I74CK/7Y.net
と、意気込んだあたしは、馬鹿だった。いや、馬鹿というよりもうぬぼれていた。
しかも、そのうぬぼれは、あの子を救わないといけない、その瞬間まで続いていた。
レミングスは。はるかな昔、崖に飛び込んだネズミたちは、空も駈けれるし、そのまま水平線を目指せると、思っていたのかもしれない。
それは、落下の瞬間まで。
アンジュちゃんの予言を信じて、昼にあらわれる彗星を待ち続けること2日目。彗星は、本当に上空に現れた。
「今日だ……!!!!」
実家の2階のベランダから、その白い軌跡を見上げて、硬く両手の拳を握った。
教師としての定年退職を10年後に控えつつ、コーチ業も成人病の関係で引退した父。
そして視力が衰えて切り絵から遠のいて専業主婦として静かにくらしている母。
この2人に迷惑をかけるわけにはいかないので、あたしはレンタカーを借りた。
だてに仮免許を10回落ちたわけではない。安全運転はおりがみ付きだ。
あたしは、ものすごく慎重に、例の母校に到着した。
2時間かかった。陽は沈んでいない。
あたしはトランクルームから取り出した釘バット君3号の素振りをしながら、武者震いと共に尿意を覚えて、木陰で用も足したりした。
そうしながら、落陽の時を待った。
そして……。
全部はアンジュちゃんが話した通りに進んだ。
男は少女を図書室があった部屋まで肩にかついていったし、あたしもちゃんと一部始終を確認した。
その子を離しなさい!!!!
と叫ぼうとする前に、おまわりさんにだって連絡した。
興奮というか恐怖でろれつがあんまり回らなかったけれど、ちゃんと住所は伝えた。
多分、男が少女を誘拐したとか、そんな要旨だって伝わったはずだ。多分。
でも……。
決めの台詞を、物陰から飛び出て男の後ろに回って叫ぼう!!!
……として、できなかった。
膝が震えた。震えは背を伝わって、横隔膜とか気道を締め上げて、あたしの喉をつまらせた。
958:この名無しがすごい!
20/12/05 07:25:02.67 I74CK/7Y.net
なんで? ありえない。どうして?
こんなに決意してきたのに、なんで今、あたしは、怖い、の?
男は、クマの怪物はあたしに気が付かない。怪物の肩の上で、少女のマフラーの赤とか髪の栗色とかダッフルコートの裾の白が揺れる。
そうして揺れたまま、男と共に、図書室の闇に吸い込まれる。
銀杏の実みたいな、腐敗した臭いだけが、薄闇を伝って、あたしの鼻にのぼってくる。あたしは動けない。
怖い。
あたしを我に返したのは、悲鳴だった。それはアンジュちゃんの。
何をしているんだ。あたしは。救うんじゃないのか。英雄になるとか、大志とか、どうでもいい。救うんだ。
アンジュちゃんを……!!!!
奥歯を噛む。足は走り出している。図書室の闇に飛び込む。
「その子をはなしなさい!!!!!」
あたしは叫んだ。釘バット君3号だってちゃんと振りかぶった。
でも、そこまでだった。丸い肩ごしに振り返った男が、その瞳があたしを射抜いた。
視線は虚無。アンジュちゃんが言っていたことは本当だった。
ガラスの砕けた窓から吹き込む風が、薄めきれない、臭気。でも、それは生ぬるい。ぬるいというよりも、優しい。
この男の瞳に比べれば、だけど。
瞳は虚無。視線の先の相手に、つまりこの場合はあたしに、あたしの命に一切の価値を認めない。
そんな目。人間は人間を必要とする。
船が難破したら、波間で人は助けの手を求める。手は、人間の手だ。人は人を求める。命に価値を認める。でも、この男は違う。
誰の命も、ゴミ以下に思っている。
あたしの膝は震えた。意志よりも、膝がもたなかった。もし、待ち時間に用を足していなかったら、あたしはこの時に失禁しかけていたと思う。
そして、釘バット君3号を後ろからつかまれた時、確実に完全に失禁していたはず。
959:この名無しがすごい!
20/12/05 07:27:45.18 I74CK/7Y.net
「駄目ですよ。Jeune femme(お嬢さん)」
鼻にかかった落ち着いた声が、後ろからした。
Jeune femmeはフランス語。短大の語学の第2言語で、あたしはとったんだっけ。いや、でもそうじゃなくて。
しっちゃかめっちゃかな混乱の中で……。
「はっはっはああああああ!!!!!!!!」
あたしからもぎ取った釘バット君3号を片手に、図書室だった廃墟を跳躍する黒い影。はためくマントがコウモリみたいな形に広がる。
コックさんみたいなシルクハットが微妙にださい。タキシードは何のコスプレだろうか。
……いや、一周まわってカッコいいのか。
あたしは分からない。とんでも動転していて、頭が退化しまくってる。
そんなあたしの前で、シルクハットのコウモリマントさんは、釘バット君3号を横になぎはらう。
棚があらかた撤去された図書室の闇は、切り裂かれる。クマ男の巨体は斜めにぐらつく。肩に釘バット君3号の釘がめり込んでいる。
「ああ……っ!?」
低い、うなるような声と共に、アンジュちゃんをはなす男。
のっそりと立ち上がる。いや、立ち上がるとかじゃない。そびえて、見下ろす。
お寺に眠っていたちょっと大き目なご本尊様が微笑みを消して、憎悪を邪悪を胸に拳を握りのそりとそびえたら、こんな感じになる。
あたしは死んだと思う。殺される、とも思う。
鼻を腐臭がつきあげる。それは未来を裏付けるみたいに。
でも……。カルヴァンアンドクラインかな。上司がしつこいくらいにつけているから、覚えたこの香りが、鼻をくすぐった。
同時に響くのは、シルクハットさんの笑い声。手にはクマ男の肩から引き抜いた、バット。
「はっはっはあああああ!!!!!! 君は見た通りの動きをするんだな。間抜けな立ち上がり方!!!! そして」
シルクハットが宙を吹き飛ぶ。クマ男が裏拳を放った。
ごうっ
と空気が割れるような錯覚。でも、そんなことはない。
シルクハットさんの頭は吹き飛んでない。代わりにあらわになったのは、つむじが薄く悲しくなった後頭部。
あたしは、すだれ頭じゃないことに安心した。当たり前だけど、この人は上司ではない。というよりも、テンションが全然違うけれど、この人は……。
960:この名無しがすごい!
20/12/05 07:31:27.16 I74CK/7Y.net
「放つ無駄に鋭い裏拳!!!! しかし私は避ける!!!! 何故なら何度もあらかじめ見ているからな!!!!!!」
ちょっとだけ下にしゃがんだ姿勢から、コウモリマントの男性は、ぴょんぴょんと跳躍をはじめる。
アニメの小鹿っぽい飛び方。
「さあおいでごく潰し君。自宅警備歴25年の若造らしく。私に挑むがいい……!!!!!!」
釘バット君3号を肩にかついで半身を切り、もう片方の手で招くように挑発するコウモリマントさん。
ううん。もう、声でバレバレだ。摩周さんだ。
まさかこんな所に摩周さんが来るなんて。どうして? 分からない。でも、摩周さんがはねている理由は、分かる。
距離を取らせているんだ。クマ男と、アンジュちゃんを離そうとしている。そう。この場合一番駄目なのは、アンジュちゃんが人質に取られること。
だから、あたしは膝に無理やりかつを入れて、図書室の闇を走る。そうして少女の小さな体にたどり着く。
「はっはっはあああ!!!!!!!!! 当たらんよ!!!!!! そしてどうということもない!!!!!! 愛を知らない者の拳など、ただの暴力!!!!!!」
あたしの後ろで声が響く。クマ男の咆哮も。あたしはアンジュちゃんを、床についた両膝の上に抱きかかえる。
ぐったりとしているけれど、息はしてくれている。
「わはははは!!!!! 実は私も愛を知らない!!!!! だが未来は見てきた!!!!!! 君の裏拳は右から来る!!!! 私はそれを左に受け流す!!!!!」
ガタンとかゴトンとかゴボンとかぐしゃあとか、変な音が響きまくる。
でもあたしはアンジュちゃんを守るように抱えるのに必死で、振り返ることなんか、できない。
「拳を潰したな!!!! 愚かだな自宅警備員!!!!! 君は幼く罪のない玩具を1つ潰した!!!! 潰したのは1つにしておくべきだった!!!!!
慎ましく口を閉じ生を悔いて生きれば、私と死闘を演じることもなかった!!!!! 痛いだろう? 拳は!!!!
しかし君に潰されたおさなごの方がもっと痛い!!!!! 怖い!!!!! 苦しい!!!!! 助けて!!!!! 泣いた!!!! 叫んだ!!!!!
だが自宅警備員の邪悪なすねかじりには分かるまい!!!! そして……」
摩周さんの声は闇に響き続ける。
声というよりも、ヒステリックな笑い。それは悲鳴に近く、あたしはこの声を叫んでいるのが、本当に摩周さんなのか分からなくなる。
だって、10年前の摩周さんは、もっと落ち着いていて、素敵なお兄さんだった。
「すねはかじるのではなく、砕くもの!!!!!」
961:この名無しがすごい!
20/12/05 07:32:50.09 I74CK/7Y.net
狂気の掛け声。大きな何かが砕ける音。それから……。
「ふっ。ふふふ。痛いだろう? それが痛みだ。もう君は歩けない。だから私はJeune femme(お嬢さん)のバットは使わない。これはゴルフ・クラブではないからね。
そして私が履いているのは安全靴だ。だから、もう分かるだろう? 私の前には君が転がっている。拳は砕け、すねも粉砕骨折。ああ。無常だね。物事は」
声が優しくなった。カルヴァンアンドクラインの香水が強くなった。しくしくとした、怒られた子どもみたいな泣き声が、闇を濡らす。
この幼い、稚児めいた泣き声をもらすのは……クマ男だ。つまり、怪物は降参したのだ。
そして、諭すような優しい声は、記憶の中の摩周さんのそれそのもの……だと、あたしが思った時。
声は響いた。響いたというよりも、闇を切り裂いた。
「だから君に捧げる!!!! ツバサ君の恩師が放った名言を!!!! 頭蓋骨は友達っ!!!!!!!!!!!!!!!!」
え? とあたしが肩越しに振り向いたのと、声に比べて控えめな鈍い音が響いたのは、ほとんど同時だった。
……摩周さんの安全靴が、クマ男の頭部にめり込んでいた。酸っぱいものがせり上げて、あたしは自分の肩に胃液を吐いた。
962:この名無しがすごい!
20/12/05 07:37:55.54 I74CK/7Y.net
※※※※※※
病室の窓からは、冬枯れた並木道が見える。
窓ガラスには、あたしが映っている。ずいぶんと間の抜けた顔だ。
同じガラスに映るアンジュちゃんの、眠れるお姫様具合とは、ずいぶんな違いである。
「娘が貴女に助けられました。この感謝はあらわしつくすことができません」
と、あたしに言って、病院の先生に呼ばれて席を外したアンジュちゃんのお母さんも、やっぱりあたしとはえらい違いだ。
自在につかいこなす日本語は流暢過ぎて、むしろ違和感を覚えてしまった。
多分、元旦那さんから、ちゃんと正確な発音を習ったんだろう。これが予想外なこと。
アンジュちゃんを美しく成長されて、パリッとしたスーパーキャリアウーマンにしたらこんな感じだろうな、という想像にどんぴしゃりな外見。これが予想内だったこと。
予定通りだったのは、あたしが、アンジュちゃんのお母さんがくれようとした小切手(額は書かれていなかった。映画でしか見た事ない。凄い)を謝絶したこと。
色んな物欲がビールの泡みたいに、一瞬で心に浮き立ったが、どうにかあたしはこらえることができた。
代わりに、ちゃんとお願いする。もし、アンジュちゃんが目覚めてくれたら、一緒に暮らしてあげてくださいと。
そのお願いをきいて、アンジュちゃんのお母さんの目の縁が赤くなった。唐突に図書室の少女を思い出す。やっぱり親子だな、と思う。
アンジュちゃんのお母さんは、はい、と日本語で約束してくれた。
良かった。聞くところによると、彗星が昼間に見えた日、アンジュちゃんの祖父母は2人して脳の病気で倒れてしまったそうだ。
そのどさくさに付け込んだのが、あの男だった。思い返すだけでも、記憶はあの、安全靴がめり込んだ頭部につながってしまう。
つまり、吐きそうになる。
あたしはそんな嘔吐感をこらえて、アンジュちゃんのお母さんに集中。ちょっと申し訳なさそうな声を作って、ついでにわが社にもごひいきを、お願いします、とお願いした。
アンジュちゃんのお母さんは笑ってくれた。善処します、と正確な発音で答えてくれた。
そうして、こう付け加えてもくれた。
「でも、貴女が首になったら、容赦はしませんけどね。しかるべき圧力は、すでにかけてありますが」
にっこりと笑う、彼女の笑顔が怖い。
963:この名無しがすごい!
20/12/05 07:39:56.81 I74CK/7Y.net
……と、思うのも失礼なのかもしれない。
有給を取得して帰省した間に、殺人事件に巻き込まれて、状況的に容疑者の1人となったあたしが、会社から解雇されないように働きかけてくれたのは……。
まぎれもない、この人だからだ。
そう。あたしは容疑者の1人となってしまった。
あの夜、警察が到着するまでの間に、摩周さんは現場から立ち去っていた。持ち去ったのは釘バット君3号。
本当はクマ男の死体も抱えて去るつもりだったらしい。実際、頑張って腕と首に手を回して、地引網の漁をするみたいに、引っ張ろうともしていた。
けど……。
「ぐわふっ!!!! ……うっ……ふっ」
摩周さんは、ちょっと気持ち悪い声をあげて、あたしの目の前でのけぞり、後ろ手で、腰をおさえた。
つまりはぎっくり腰。
「あの……大丈夫、です、か?」
「うっふ。さすがにこれは見えなかった。ふっふ。未来視の精度が落ちるのは問題ですねえ。しかしJeune femme(お嬢さん)が気になさることではありませんよ」
「摩周さんですよね。メモ帳、見てくれたんですか。だから、ここが分かったんですか? 信じてくれたんですか?」
摩周さんは、あたしの言葉に、コウモリマントも含めて、石化したみたいになった。
「そんなわけはないでしょう。Jeune femme(お嬢さん)。彼は善良な書店経営者ですよ。神田の本屋はそれなりに繁盛している。
私はただのヒーロー。そう、言うなれば……」
石化したままそこまで言ってから、いきなり摩周さんは、がばりとあたしに向き直った。
羽根を広げたコウモリが逆さまになったみたいなマスクが、目を覆っていた。そのマスクの奥の目が、子どもみたいに笑う。
「ノーネームヒーロー!!!!! 私に名などない!!!!! しかし摩周氏から伝言は預かっている!!!!! 聴きたいかな?」
「はい。聴かせてください」
あたしは摩周さん、もとい、ノーネームヒーローさんに即答した。
「本屋の繁盛は貴女との出会いのおかげです。だから、少女を救いたければ……おっと。時間が来たようだ」
ノーネームヒーローさんが窓の外を見た。暗い空を赤が照らし始めている。響くのはサイレン。パトカーだ。
「救いたければ、何ですか?」
「貴女が昔のままの貴女かどうかは、ヒーローの目の精度から判別できる。もし、昔の貴女でない場合は、これをお返しします、だそうです」
ノーネームヒーローさんは、タキシードの胸元から、小さなメモ帳を取り出した。ずいぶんとよれよれ。雨に濡れた跡だろう。
つまり、これは10年前のあの木曜日に、あたしが落としたメモ帳なのだ。
これを受け取った時。ノーネームヒーローさんはまた笑って、腰をさすりながら立ち上がった。
それから、釘バット君3号を肩に担いだまま、割れた窓ガラスの向こうに、ひらりと跳躍。
うっふうう、というちょっと気持ちの悪い声と共に、窓の向こうの赤い闇に消えてしまった。
かっこをつけて飛んだはいいけど、ぎっくり腰が痛んだんだろうな。と、思いながら、膝の上のアンジュちゃんのためにできることを探していた時。
パトカーが到着。警察が踏み込んできた。
あたしは重要参考人として、連行されることとなった。
964:この名無しがすごい!
20/12/05 07:42:11.98 I74CK/7Y.net
で、色々あって、釈放されるまでの間。あたしは考え続けた。
摩周さん。ノーネームヒーローさんの、未来視という言葉。彼を駆り立てた狂気。書店の繁盛は貴女のおかげです、という伝言。
そして、昔のあたし。
全部は断片だけど、無理矢理つなげていけば、ひどくいびつでも、それは1つの事実を浮き彫りにする。
クマ男と戦っていたノーネームヒーローさんは、何度も[視た]と言っていた。未来視。未来を見る。
摩周さんは神田で本屋さんを経営している。経営者に必要なのは、ビジョン。先見の明。
これが、単純な才覚の比喩じゃなくて、本当に未来を視ることだったら。そして、それを現実にしたのが、昔のあたしのせいだったら。
多分、全部のつじつまが合う。
お父さんをバレーボールのコーチとして有名にしたのは。
お母さんに切り絵の個展を開かせたのは。
クラスの子たちが異常な高得点を、テストで取り続けたのは。
勇一君がたくさんの本を読めるようになって、甲子園にも出場したのは。
おじいさん先生のキーボード入力が、いきなり速くなったのは。
全部、あたしのせいだ。
何よりも……。
あたしだけが、アンジュちゃんを見ていた。
でもこれはちょっとニュアンスに誤りがあるかもしれない。
つまり、アンジュちゃんが[見せる力]をあたしが引き出していた。
見せる、または存在を示す力。
アンジュちゃんは、あたしがいる時だけ、世界がはっきりする、と言ってくれていた。
つまり、あの子はあたしがいることで、存在ができていたのだろう。
そして、あたしは結局転校した。大人に助けを求めて結局全てが駄目になって、だからこそ自分が英雄になりたいと思った。
望んだのは、誰かの何かを開花させることではなく。
あたしが、あたし自身が強くなる、力。でも、実際はクマ男の瞳に意思を砕かれるくらい、貧弱な力しか、得ることはできず……。
アンジュちゃんは意識不明の重体で。
……。
「あ」
と、あたしは馬鹿みたいな顔をした。
警察から釈放された日のことだった。
取り調べを担当した刑事さんに、腰を屈めて礼をした瞬間、それは閃いた。
965:この名無しがすごい!
20/12/05 07:43:51.26 I74CK/7Y.net
現在と過去は一方通行的にリンクしている。でも、アンジュちゃんは……。
そう。あの子は。摩周さん、ノーネームヒーローさんが未来を視ることができるように。
昔のあたしが、関わる人全員の才能を開花させたように。
あの子は、魂は時間を逆行できるんじゃないか。
アンジュちゃんは、クマ男を思い出す前、彼女自身のことを、スピリと自称していたけれど、それは本当の意味で正確だったんじゃないか。
つまり、あの子は幽霊なんかじゃなかった。現在に体を残したまま、魂だけで10年前の過去に飛んだ。
そうして、あたしに出会った。
肉体の無い魂は、結局消えてしまうのかもしれない。実際、あの子は転校の前に消えてしまった。
でも、本当にそうなのだろうか。魂が時間を飛び越える。行くことができるなら、もどってくることもできるはず。
そう。誰かが呼びかける、声とか手とかじゃなくて、もっと深いところで働きかけることができる、誰かが呼びかける。
そして、それができるのは、あたししかいない。
……と、ほとんど希望的観測で、あたしはアンジュちゃんの病院に向かった。たよりにしたのは、警察の取り調べ期間中に受け取った感謝の手紙。
送り主はアンジュちゃんのお母さんだった。ぜひ、娘に会いに来てください。眠ったままですが、この子は貴女にとても感謝していると思います。
とのメッセージと、病院の住所が整った美しい筆記体でしたためられていた。
で、あたしは今、アンジュちゃんの病室にいる。お母さんは先生に呼ばれて、席を外している。
966:この名無しがすごい!
20/12/05 07:45:50.91 I74CK/7Y.net
まず窓の外を見る。ノーネームヒーローさんがいないかどうか。実はこっそりこちらを覗いているんじゃないか。あ、未来視の人だから、遠くからでも視れるのか。
何回も視たと言っていたから、もしかしたら今のあたしだって見えていたのか。
色んな悲劇をたくさん視てしまって、あんな風に狂った感じの叫び声をあげるヒーローになってしまったのか。
なんか、すごい責任を感じてしまう。申し訳ない。でも、あたしの力が彼を狂わせなかったら……。
あたしもアンジュちゃんも死んでいた。
だから、とりあえず、窓に向かって口角を上げてみる。こめるのは感謝と謝罪。それから、雨に傷んだメモ帳を取り出して、昔のあたしを思い出す。
アンジュちゃんはあたしの横のベッドで眠っている。可愛らしい鼻につながれたチューブその他が痛々しい。
はやく取ってあげたい。でも、まずこの子に起きてもらわないといけない。
あたしは小さく息を吸い込む。病院の薬品臭。何故か思い出すのはカルヴァンアンドクラインの香水。柑橘系。
ノーネームヒーローさんのこと。彗星が太陽の横に現れた日のこと。英雄になりたい、ではなく、ただアンジュちゃんを想っていた、あの夜の瞬間。
多分、あの時、あたしは昔に戻った。あの夜のあたしが、この子の能力を発現させたのだ。
967:この名無しがすごい!
20/12/05 07:47:03.11 I74CK/7Y.net
だから……。あたしは、あの夜の自分と、そして10年前の自分を重ねる。
もう、言葉は決まっている。昔のあたしが何回も、この子にかけてきた言葉だ。
「アンジュちゃん、おきて」
あたしは変化を祈って、アンジュちゃんをじっと見る。
少女の白い頬に、薔薇の色がさす。
そして……。
病室の入り口で、アンジュちゃんのお母さんが叫ぶ。
あたしは一度アンジュちゃんから彼女に目をあげて、微笑み、視線を少女に戻す。
何と言おうか。そう言えば、起こすことに夢中で、その後のことを準備していなかった。
やっぱり、おはよう、がこの場合良いのだろうか。
あたしは幸福に考えあぐねる。
968:この名無しがすごい!
20/12/05 07:49:45.73 I74CK/7Y.net
以上が社長のお話、ノーネームヒーローとなります。
まあ、ご都合主義ですが、とにかくとんでもなく書きにくかったです。
でも後半、主人公の成人後はすらすらと楽しくかけました。
ではでは。良い週末を。
969:この名無しがすごい!
20/12/05 08:13:00.41 2CrwozsV.net
長すぎて誰も読まねーよ
970:この名無しがすごい!
20/12/05 08:42:40.81 jMS+8kh2.net
3レスと30レス間違えちゃったか
971:ぷぅぎゃああああああ
20/12/05 09:20:58.24 I+vZmIbH.net
急な用事で出掛けることになった!
なるほど、三レスを三十レスと間違え、
そんなことがあるのか! 帰ってから読むとしよう!(`・ω・´)ノシ
972:シャム猫
20/12/05 10:27:51.45 sL+UKZAc.net
また、頭のおかしいガイジくんがルール無視のゴミのような長文の連投でスレを荒らしているのか、やれやれであるな
973:シャム猫
20/12/05 10:30:07.23 sL+UKZAc.net
こんなパッと見でも読む気すらも起きないゴミ作文しか書けないのに、私のまともな作品に対してあーだこーだと言っているのがなんとも滑稽過ぎて、クソワロタであるな
974:この名無しがすごい!
20/12/05 11:14:10.39 Ye5SqHRY.net
>>973
おまえのクソレスよりましだな、ゴキブリ
975:この名無しがすごい!
20/12/05 12:16:51.56 I74CK/7Y.net
まあ俺も書いててゲロむずで吐きそうになったて
こんなに時間がかかったから、
作者ですらゲロ滝状態なんだからスレの諸氏が
サウスパーク状態になっても
何ら不思議ではない。
書き慣れない物を書くのって本当に死ぬ。全然報われない。
あ、でも死にそうになるものに挑戦したいと思ってできたからまあ良いのか。
まあそんな感じやね。
976:この名無しがすごい!
20/12/05 12:22:12.74 +IuC8vXZ.net
>>975
そこまで言われると、むしろ普段はどんなの書いてるのかの方に興味が湧いてくる。
977:シャム猫
20/12/05 12:39:17.26 sL+UKZAc.net
>>974
いやいや、こんなゴミを大量に連投していたらスクロールが大変でみんなの迷惑になるだけなので、全然ダメなゴキブリ以下であろう
978:この名無しがすごい!
20/12/05 12:40:59.72 I74CK/7Y.net
>>976普段は普段で、泥をすする人が目だけで前を睨むみたいな
文章作ってる。でもここの諸氏にとっては豚の糞以下だし俺も異論はないよ。
979:シャム猫
20/12/05 12:41:19.71 sL+UKZAc.net
しかも、スレに直接貼り付けてしまったので、もうすでに5ちゃんに著作権が移っているので、作者を名乗ることも出来ないであるしな
やはり、ただのガイジのやることであったか
980:この名無しがすごい!
20/12/05 12:46:32.93 I74CK/7Y.net
>>977
あ。そういえば、今は書かないだけだが
っていう言葉は中々良かった。感情が滲む言葉ってのは良いね。
俺が聴きたい言葉はそれだったんだと満足。あとはもう、
君がどこで何をどう言おうが俺はどうでも良いよ。読むこともないだろうし。
981:シャム猫
20/12/05 12:49:11.71 sL+UKZAc.net
また、アホの子がガイジの思考で何か喋っているのか、やれやれであるな
いつもかも書いている作家などは、プロでもなかなか居ないのだが
982:シャム猫
20/12/05 12:52:56.55 sL+UKZAc.net
例えば、鳥山明がアラレちゃんやドラゴンボール以外にほぼ書いてないのと同じことであろう
そういうのは、べつに書かなくてもいいし、特に書く気も無いので書かない。ということであろう
いつもいつも書かないとダメとか思うのは、むしろ何かに取り憑かれたようなガイジか、ただのビンボー作家なだけであろう
983:シャム猫
20/12/05 12:54:51.65 sL+UKZAc.net
それに、まともな作家は、ゴミを量産するくらいなら書かないほうがマシということをわかっているので、君らのようなゴミ作文などはイチイチやらないのであろう
書くなら、ちゃんとしたまともな作品に仕上げるのであろう
984:この名無しがすごい!
20/12/05 12:55:05.10 I74CK/7Y.net
>>981
2015年? から2020年の瀬まで続く今って言葉が含むものに満ちてて
本当に良い言語センスだと思う。永遠の今って中々詩的で素敵だから。
ホルマリン漬けの内臓みたいで。
985:シャム猫
20/12/05 12:57:29.14 sL+UKZAc.net
ドヘタクソでおかしなゴミ作文を必死で書いて、それを5ちゃんに貼り付けて著作権を放棄して、それで何かを成し遂げたつもりで何かを喋っているのがまさにガイジ過ぎてクソワロタなわけだが
一体何がしたいのであろうか?
986:シャム猫
20/12/05 13:00:04.23 sL+UKZAc.net
ドヘタクソのガイジくんは何年経ってもまともな作品の1つも残せないわけなので、哀れなものであるな
987:シャム猫
20/12/05 13:00:58.42 sL+UKZAc.net
そんなんで物書きを気取っているのも滑稽過ぎてクソワロタなわけだが
物書きなら、とりあえずはまともな作品の1つぐらいは完成させるべきであろう
988:この名無しがすごい!
20/12/05 13:02:44.01 I74CK/7Y.net
>>985
ワイさんが楽しみにしてるって言ってくれたから吐血して頑張っただけだよ。
シャム猫。君の「今」も極上だね。俺は分かる。本当にうらやましいよ。
でも嫉妬はできない。泥すすって吐血して生ゴミ作ってる方が楽しいから。
989:美世だが
20/12/05 16:12:20.52 kHy8CdS4.net
お弁当
秋だというのに暖かい日が続いている。マイは庭で劉さんとランチをしていたらしいが、今日は休日で俺もいる。どうせなら公園でランチをしようということになった。
というわけで先ほどから鼻歌まじりにマイが弁当を詰めている。すると台所から突然ダミ声が聞こえて来た。
「ぐわははははは、お前もウサギちゃんにしてやろうか、お前はタコさんだぁ」
可愛い弁当ができそうだ。
ミャンマー
マイと2人でテレビを見ていると、丁度、ある技術で世界有数の企業の特集をやっていた。俺の友達もそこで働いていて、マイも知っている。それでマイが俺に話を振ってきた。
「そういえばさ、田之上さん最近どうしてるの? 元気?」
「ああ、あいつな、去年移動になってミャンマーに行った」
「うそ、そこあたしの友達も行ってる」
「そうなのか、何やってんだ?」
「工場に行ってるよ」
「工場長か何かか」
「んーん、ラインで部品作ってるんだって」
ん? 途上国に行ってわざわざ工員やるなんてあまり聞かないな。
「何作ってんだ?」
「えとね、耕運機とか田植え機とかね、あと部門は違うけど重機とかボートも作ってるんだって」
うん、それはヤン○ーだな。
でも面白いから黙っておこう。
僕の名前はミャンボー
僕の名前はマーボー
2人あわせてミャンマーだー
きーみと僕とでミャンマーだー
軍事政権から民主政権まで動かす力だミャンマー連邦ー
「ヒロ君ヒロ君!」
俺ははっと目を醒ました。
「うなされてたよ!」
あれから俺は悪夢に悩まされていた。スーチー氏やティンチョー氏が踊りながら謎の歌をうたう夢だ。
俺はがばっと起き上がってマイの肩を掴んだ。
「よく聞いてくれマイ、ミャンマーは本当はヤン○ーなんだ、ミャンマーじゃないんだ!」
「ヒロ君落ち着いて!」
990:美世だが
20/12/05 16:14:24.57 kHy8CdS4.net
お蔵入りシリーズ解放
991:猫
20/12/05 17:00:17.85 Wn4TB6tF.net
>>988
15くらいから急に重く深くなってきた。
読む価値は充分に有り、と見ている。
個人的に好きなんだよね、こーゆーの。
あ、美世のは先読んだ。マイが相変わらずかわいいし、ヒロはツッコミが男前だな。
992:猫
20/12/05 17:03:29.08 Wn4TB6tF.net
>>989
>「ぐわははははは、お前もウサギちゃんにしてやろうか、お前はタコさんだぁ」
「ぐわははははは、お前をウサギちゃんにしてやろうか、お前はタコさんだぁ」
の方が美しいと思う。
993:この名無しがすごい!
20/12/05 17:41:54.26 D4sVDi7V.net
>>992
いやそれは「も」じゃないとダメなんだよ
デーモン閣下的に
994:この名無しがすごい!
20/12/05 17:49:34.97 I74CK/7Y.net
>>991ありがとう。軽く浅い話で重い色々の伏線を巡らすってのをやりたくて
かなり苦しんだから、それは最大のほめ言葉です。
気に入ってもらえて一安心。
995:ぷぅぎゃああああああ
20/12/05 18:22:19.30 I+vZmIbH.net
只今、帰宅!
精米をしなければ!
メールを送らないと!
締め切りが短くなった!
諸々があるので、全ての投稿作品は明朝に回す!
スレッドの終わりが近い! URLで作品を纏めてコピペして貰いたいのだが!
とにかく急がないと!(`・ω・´)ノシ 美世君の掌編くらいだと問題はないのだが!
996:シャム猫
20/12/05 18:26:28.26 /wxfpptj.net
>>988
では、君のことは生ゴミ量産ガイジくんと呼ぶか
997:シャム猫
20/12/05 18:31:30.69 /wxfpptj.net
生ゴミ量産ガイジくんが、また自分でシコシココピペするのではないのか
998:シャム猫
20/12/05 18:31:57.21 /wxfpptj.net
さて、極上のステーキセットにするか
999:シャム猫
20/12/05 19:08:20.18 /wxfpptj.net
今頃生ゴミ量産ガイジくんは、えーまた貼り直しなの?マジかーとかって発狂しているのではないのか
1000:シャム猫
20/12/05 19:10:41.72 /wxfpptj.net
しかしながら、もうすでに著作権が5ちゃんに移っているので、勝手に貼り直したら無断転載になるであろう
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