20/11/29 11:07:46.94 i80pzJI4.net
「ねえあれ食べようよ」
散々遊んだ後、窓際のベンチに外向きに座って休んでいた俺達だったが、蜂須賀が窓の外を指差した。
V型になっているエントランス横の室内から、対面の壁際にある屋台が見える。
数人の人が並ぶ屋台の中には巨大な茶色の柱が立っていて、なにやらエスニカンな主人がニコニコしながら
軽快な動きでナイフを振り回しているように見える。
「何あれ」
「ケバブだよ、知らないの?」
「っあー、なんかテレビで見た事あるような、いいよ、奢ったげる」
「マジで?やった!」
「ハイ、ポテェイトチーズパック、ビッグママ、オマッタシマシタ センロクヒャク」
たかっ、俺は少し怯んだがそこはポーカーフェイスで蜂須賀に商品を受け取ってもらい、支払いを済ませた。
そして駐車場と建物の間にある公園スペースまで歩いていき、ベンチに座った。幸せそうにケバブを頬張る彼女を見て俺は満足していた。今日もミッション成功だ、後は帰るだけ。
満腹になった後、自動販売機で買ったフルーツジュースを飲みながらだらしなくベンチの上で尻をずらして足を投げ出しさてそろそろ帰るか等とぼーっと考えていた時だった。俺の足の上に他人の足が乗った。
「いてててて!」
「おっとすまん」
顔を上げると、汚い金髪をした田舎特有のヤンキーが、ニヤニヤしながらこちらを見下ろしていた。
「あんまりおめーの足がなげーもんでよ」
俺はじろりと金髪を睨んだ。すると横からもう数人ぞろぞろと同じようなのが歩いてきた。
明らかに通りすがりという雰囲気ではなく、俺達をロックオンしている。なんだ?かつ上げか? ならば素直に財布を差し出そうじゃないか、なんならサービスでジャンピングスクワット3回もつけよう。
「これはこれは、須藤の女じゃねーか」
俺は口から心臓が飛び出した。まずい、非常にまずい、いやまて冷静に可能性を考えるんだ、彼女の事を知っているという事は須藤の友達という可能性も。
しかし友人でも知り合いでもなく彼女の事を知っているというなら事態は深刻だ、試してみるか。
「関係ないだろう」
男は肩を揺らしながら「くっくっく」と笑ったが、急にギラリと眼光を鋭くすると言った。
「関係ねえわけねぇだろ、あいつには散々煮え湯飲まされてんだ」
凶と出た!きっとどこかで蜂須賀を見かけてついてきたんだ。俺は少し慎重になった。
「あの、どなたか教えていただけますか」
「俺は名乗るほどのもんでもねーけどよ、こちらは城産の三島さんだ」
男が指差した集団の中央にいる体格のいい温厚そうな男が目をギラリと光らせた。
やばい、よりによって敵対している本城産業高校のナンバー2だ。
いや、城産のナンバー1は既に退学になっていて、少年刑務所にいるのでこいつが事実上のナンバー1か
そもそも本城産業高校との抗争はこの複合施設が出来て間もなく勃発した。
わが院間第一高校とは割と近くに位置していたが、両校の間には便利な交通の手段も少なく目だった施設も無いためそれほど接触の機会もなかった。
それが新しくできたこの上州イーオンで両校の接触する機会が増え摩擦が起こり、小競り合いが激化した果てに起こった抗争だった。
俺は背中側で蜂須賀の手を握って立たせると、振り返って肩を押した。
「ちょっとあそこから中入ってて」
俺は店内にも通じているATMの通用門を指差した。
「でも」
「言う事を聞け!」
声を荒げた俺に蜂須賀は一瞬ビクっとすると、不安そうな顔で振り返り振り返り入り口に向かって去って行った。
くそ、俺の失態だ、制服で来たのも目立ってしまった要因だった。
「あの、なんか用すか」
「お前さぁ、須藤の女のなんなの?ひょっとして浮気相手?」
「違います、彼女とは単なる友達です」
「っへぇ~」
金髪の男が顔を近づけてじろじろと見てきた。
「今日、彼女と一緒に居る事は須藤くんも知ってます」
何か集団が顔を見合わせてアイコンタクトを取っている。
誰かがボソリと言った。
「火種に丁度いいんじゃね」
俺は額や背中から急に冷汗がぷつぷつと吹いてきた。火種って何の事だ、ひょっとして俺は蜂須賀を危険に晒しただけでなく、とんでもない事をやらかしてしまったのか。
「てめ嘘ついてんじゃねーぞ、ホントに浮気してねーのか?すげー仲良さそうだったじゃんよぉ」
やっぱり店内のどこかで見られてた。
「してません、今ここで須藤くんに電話してもいいです」
また集団がキョロキョロと周りの人間とアイコンタクトを取った。