20/10/04 12:52:28.60 o8+IQXZM.net
「ルーグ、教えてほしい。大儀式もなしに、どうやって第五位階の<完全回復リ・ティルト>を行使しているの?」
「そう、ですね……。俺の場合は、頭の中にある魔法術式をしっかりと構築して、そこに魔力を通して発動している……はず」
あまり自信はないけれど、多分この説明であっていると思う。
「それは……現実的な方法じゃない。<完全回復リ・ティルト>の術式はとても複雑。そもそも大儀式の魔力支援を受けなければ、第五位階の魔法を成立させるほどの莫大な魔力を用意できない」
「そうですか? あの魔法はそんなに複雑じゃありませんし、そこまでたくさんの魔力も必要ないと思うんですけれど……」
今日既にレオ兄さん・ルゥ・ノエルさんの三人に対し、<完全回復リ・ティルト>を使っているけれど……。
俺の魔力は、ほとんどまったくと言っていいほど減っていない。
「……もしかしたら……」
ノエルさんは何かを閃ひらめいたのか、羽ペンと羊皮紙ようひしを取り出した。
「ルーグ、あなたの・・・・<完全回復リ・ティルト>の魔法術式をここに書いてほしい」
「は、はぁ……わかりました」
俺は羽ペンをさらさらっと動かし、『四行・二十八節』で構成された<完全回復リ・ティルト>の魔法術式を書き起こす。
「こんな感じです。そこまで複雑じゃないでしょう?」
「こ、これは……っ」
ノエルさんは羊皮紙を握り締めながら、小刻みに震え出した。
「こ……この魔法記号は、何故第四節に置いているの!?」
「えっと……それは第二十一節との整合性を取るためですね」
「なる、ほど……! それじゃ次の質問、どうしてここに融合魔法の基礎理論が組み込まれているの?」
「魔力の循環効率を上げて、最適化を図るためですね。ちなみに……第十五節を経由しているのは、第二十節と相克そうこくを起こさないようにするためです」
「す、凄い……っ。まさかあの基礎理論に、こんな応用方法があったなんて……完全に盲点もうてんだった……ッ」
その後も俺は、ノエルさんの質問に対して、可能な限りわかりやすく答えていった。
しばらくして―彼女は小さく息を吐き出す。
「……ルーグは天才」
「そんな大袈裟おおげさな……」
「全然大袈裟なんかじゃない。あなたは間違いなく、『世界一の大賢者』。これが動かぬ証拠」
彼女はそう言って、羊皮紙の記された術式を指さした。
「この術式は既存の<完全回復リ・ティルト>を極限まで改良した『黄金式』。ここで活用されている魔法構造は、他の多くの回復魔法にも応用可能。ルーグが何気なく記した魔法術式は、それが記録されたこの羊皮紙は、数億ゴルドを超える価値がある」
「す、数億ゴルド!?」
それだけのお金があれば、孫の世代まで遊んで暮らせるだろう。
まさか俺がさらさらと書いたその紙に、そこまでの価値が生まれるなんて……正直、まったくピンと来ない。
「でも、<完全回復リ・ティルト>が難しい魔法であることに依然いぜん変わりはない。あなたの術式はとてつもなく完成されているけれど、これを行使するには『恐ろしく高度な魔法技能』が必要。今の私では―神殿の・・・最高位である・・・・・・賢者程度・・・・の・力量・・では、ルーグの真似はできない……」
恐ろしく高度な魔法技能……。
少なくとも、俺は持ってないな。
「でも、ありがとう。あなたのおかげで、回復魔法の歴史はとても大きな一歩を踏み出せた」
「それはよかったです」
回復魔法の発展は、とても喜ばしいことだ。
みんながもっと簡単にこの魔法を使えれば、怪我や病気で悲しむ人がぐぐっと少なくなる。