20/02/13 02:23:00 D2nv7NNt.net
「もうたくさんだ、アリョーシャ。たくさんだよ、倅」やがて彼はしんみりした声で口
をきった。
「お前一体どうしたのだ? 嘆くどころか、かえって悦ぶべき時ではないか。
それともお前は、今日があのお方にとって最も偉大な日だということを知らないのか?
あの方が今、この瞬間どこにいらっしゃるか、そのことを考えてみただけでたくさ
んではないか!」
アリョーシャは子供のように泣きはらした顔から手をのけて、主教の方をちらと振
り返って見たが、すぐにまた一言も口をきかないで向きを変えると、そのまま両手に
顔を埋めてしまった。
「いや、あるいはその方がよいかもしれぬ。」とパイーシイ神父は物案じ顔に言っ
た。「あるいは泣いた方がよいかもしれぬて、キリストさまがその涙をお前に送って
下さったのだろう。」
『お前の悲痛な涙はただ魂の休息に過ぎないのだ。やがてお前の可憐な心の浮き立つ
よすがとなるだろう。』彼はここを離れて、途々やさしい心持ちでアリョーシャのこと
を思い続けながら、心の中でこう付けたした。もっとも、彼は急ぎ足でここを立ち
去った。この青年の様子を見続けていたら、自分まで一緒に泣き出しそうに感じられ
たからである。
信者不信者の別なく、一同を動顛させたのである。不信者は跳び上がって悦んだ。信者
の方はどうかというに、彼らの中にも不信者以上に欣喜雀躍したものがあった。なぜな
らば、故長老が自分の教訓の中で説いた通り、『人は正しき者の堕落と汚辱を悦ぶ』か
らである。