16/04/19 19:05:37.08 .net
(つづく)
小説の主人公である二郎は帝大の若き法学生で、伯爵夫人は彼の家に縁戚でもないのに、なぜだか
同居している謎の中年女性としてまずは表れるわけだね。小説の時代は日本が支那大陸でのいつ終わるとも
つかぬ泥沼の戦争をつづけていて、対米開戦にいたる直前の話であるね。伯爵夫人は伯爵夫人とは
よばれるが、その素性はあやしげで、正銘の貴族的存在として描かれるのは、主人公である二郎のほうな
わけだね。主人公が属する貴族階級のあいだでの戦争のとらえかたについてひとしきり議論がなされ
二人の男が話題にのぼる。
>伸顕さんとこの孫息子―何とかという仏蘭西(ふらんす)の詩人の『ドガに就いて』という
>本を翻訳したばかりの小生意気な男だ―
これは吉田健一のことであるね。ヴァレリイの「ドガに就いて」を吉田健一が翻訳したのは
1940年であるから、作品中の時代とはちょうど符号してるね。
(つづき)