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6月5日(土)朝日新聞東京版朝刊読書面・書評
『理不尽ゲーム』 サーシャ・フェリペンコ〈著〉 奈倉有里訳 集英社
評・金原ひとみ(小説家) 諦念と冷笑の肌寒さ 日本でも
主人公の少年、十六歳のツィスクは、フェスの最中大雨により地下通路に殺到した
人々が将棋倒しになった事故で昏睡状態となる。医師から回復はありえないと
宣言されるのだが、眠り続けた彼は十年後、唐突に目を覚ます。ツィスクは少しずつ
回復していくが、独裁国家ベラルーシの現状は解せないことばかりだ。しかし、
「どうして?」と言えば高校時代の親友にさえ「その言葉、忘れたほうがいいぜ」と
言われる。
ジャーナリストの不審死に象徴される、反体制派の末路を知る国民は身動きが取れず、
ツィスクもまた無力感の中で「なにも考えずに誰の邪魔もしないようにしているうち
だけ生きていられるのだ」と考える。
若者の間では、「理不尽ゲーム」が流行っている。理不尽な小噺を一人ずつ披露して
いくというゲームで、ルールは「事実」だけを話すこと。理不尽が横行する世界で、
理不尽を笑うことだけが、彼らが真っ当な精神を保つ手段なのだ。
(続く)