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第2局の当日夜の電話取材で、永瀬はまず将棋の内容について語った。それから今シリーズの2局を総括し、「結果と内容がものすごく悪い」と自分を斬った。とはいえ、まだ勝負は終わっていない。第3局は9月30日に京都で行われる。肝心なのはこれから永瀬がどうするかだ。しばらく黙った後、永瀬は堰を切ったように話し始めた。
「私には人間らしいところと、そうでないところの両方があります。若手の頃はひたすら将棋だけに没頭していたので人間らしさとは無縁でした。というか、それしかできなかったんです。ただその後、頭がよくなったことで能力が全体的に上がり、自分が抱いている感情を言語化できるようになりました。人間らしさを獲得したと言えるのかもしれません」
少し補足が必要だろう。
10月3日に発売される専門誌『将棋世界』11月号で、私は永瀬から指名を受けてインタビューを担当した。「私の戦い方」というコーナーで、上位棋士が自身の将棋観を明らかにする趣旨だ。1万1000字にもわたるロングインタビューで詳細はそちらをご覧いただきたいのだが、そこで永瀬は「自分はASD(自閉スペクトラム症)です」と明かしている。だが棋士としてキャリアを重ねていくうちに自分をコントロールできるようになり、日常生活に支障をきたしかねない性質が徐々に緩和されていったのだという。
「私は人間らしさと、そうでないところの両方のいいとこどりをしようと思っていました。それが藤井さんに勝つ方法なのかな、と。でもそれでは結果が出なかった。2連敗してそのことがよくわかりました」
永瀬はタイトル戦でも長らくスーツを着用していた。前期から王座戦五番勝負の対局規定に記されたので和服を纏うようになったが、以前は「はだけるのが気になってしまうんですけど、それも自分の性質なんですよね」と語っていた。
この和服について突然、永瀬が話を始めたのである。
「今日、対局中に悲しくなったことがあるんです」
「時間がたつとどうしても和服が着崩れするんですけど、ここをこうすれば絶対に脱げることはない、と和服の構造がわかるようになったんです。でも私はそれを残念だなと思ったんですよ」
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