20/05/11 11:18:31 WIrEXINv.net
(1)〔訳注〕エジプト神話の冥界の神。
(2)〔訳注〕二世紀の哲学者
人間界において性的関係が演ずる重大な役割は右のすべてに対応するもので、この世界では元来それ
があらゆる行動・営為の見えざる核心をなしており、それにいかようにヴェールをかけようともいたる
ところで顔をのぞかせている。それは戦争の原因であり講和の目的であり、真直さの基礎、諧謔の目標
であり、つきることなき機知の源泉、すべての暗示を解く鍵、あらゆる秘密の合図、あらゆるあいまい
な申し出、あらゆる盗み見の意味でもあり、青年の、ときには老人の日常の工夫努力、遊冶郎の頭にこ
びりついた考え、純潔な男の場合にもその意志に反して絶えず繰りかえされる夢、いつもながら笑い
の種なのだが、これひとえに性的関係の根底に最も奥深い真剣さが宿るゆえである。ところであらゆ
る人間はこの大切な用務がひそかに行なわれ、表向きはできるだけ知れないようになっているというの
はこの世の皮肉であり、お笑い草だ。実際はいついかなるときもこの用務はこの世のほんとうの世襲の主
としてその全能により祖先伝来の玉座に腰をおろす。そして、われわれ人間がこの用務を抑制し監視し、
少なくとも限定し、できることなら隠しとおすかあるいは、それが人生のまったく付随的なついでの用
件として現われるよう自由に支配すべくいろいろと工夫したことがらを、その座から見下ろしつつ軽蔑の
眼差しで嘲笑するわけである。―ところで以上のすべては性欲が生への意志の核心であり、したがっ
ていっさいの意欲の集中発揮であることと一致する。だからこそわたしは本文中で生殖器を意志の焦点
と称したのだ。しかり、人間は性欲の権化だとさえいえる。なぜなら彼の発生、彼の願望中の願望は交
合行為であるし、またこの欲望のみが彼の全現象を恒久化し締めくくるのであるから。なるほど生への
意志はさしあたっては個体保存のための努力として表われる。がしかしそれは種族保存の努力への一段
階にすぎない。