ニコニコMUGEN男女カプ萌えスレ 9at SIBERIA
ニコニコMUGEN男女カプ萌えスレ 9 - 暇つぶし2ch239:大剣タッグ6月ネタ
12/06/26 20:45:22.79 発信元:111.169.214.38

「お、幽霊メイドやん。こんなトコで何してん?」
「幽霊じゃありません! って、キャサリンさんこそ、どうしてここに?」
「なんでて今大会中でチーム組んどるからここに泊まってんねん。
 誰かに会いに来たん?」
「えっと……その、ソルさんに用事が……」
「そうなん? 今日はなんも用無い言うてたけど」
「ど、どうして知ってるんですか?」
「そらチーム組んどるのその兄さんやもん。
 もう1人、トニーのおっちゃんと3人で赤い科学者やでー」
「そう、なんですか……」
 キャサリンがソルと同じチームだと知り、先程までとは違う靄のように正体の掴めない感情が湧き上がる。
 それを悟られまいとフィオナは俯いた。
 その反応にキャサリンはピンと来て含み笑いを堪える。
「兄さんなら居るはずやからはよ入り」
「はぇ? あの、ちょっと」
「ええから ええから」
「押さなくていいですって~」
 強引に施設内に押し込まれると広いロビーには待機中や休憩中らしい選手が数人居た。
 この時間だと早い大会は既に始まっており、その観戦などをする者も会場に行っているのだろう。
「ほら、あそこおったで」
 キャサリンがテーブルでトニー=スタークとチェスを指しているソルを示した。
 声に気付いたのかソルが盤面から顔を上げて、少し不思議そうな表情をした。
 事前に連絡することなくフィオナが尋ねてきた事が無かったからだろう。
「しっかりしいや。兄さんに会いに来たんやろ。深呼吸してみ」
 肩を叩かれ固まっていたフィオナが我に返る。
 言われた通り1つ大きく息を吸ってテーブルへ向かった。
「おっ、おはようございますっ!」


240:大剣タッグ6月ネタ
12/06/26 20:46:44.93 発信元:111.169.214.38

「あ、ああ……。どうしたんだ、急に」
「あの、あのですねっ。い、一緒、に、食事に行きませんかっ!
 深い意味はないんですけどっ、チケット貰ったのでっ、
 つ、都合がよければ……で、良いんですけどっ!」
「……なんだか知らんが、ちょっとそこの椅子に座れ」
「あっ、はい、失礼しますっ」
 ソルは緊張で台詞が上擦るフィオナを座らせると水を出してやる。
 今更ながらに喉の渇きを憶え、勧められた冷やを一息で飲み干した。
「ふー……。ありがとうございました」
「落ち着いたか? それで、何かあったのか?」
「え? いえ、特に何もありませんけど……。
 ソルさんにはお世話になっているので、お食事でもどうかなって……」
「こんな可愛らしいお嬢さんとデートの約束があったなら
 引き留めたりしなかったのに。人が悪いな」
「そうだな。暇だからって勝負吹っかけて来て負けたりしなかっただろうな」
「負けてないぞ、ここからの逆転劇を演出するためにだな……」
「あ、お邪魔でしたか……?」
「いやいや、良いんだ。どうせ今日ウチのチームはオフだからね。
 心おきなく行くと良い、引き分けにしておく」
「この盤面でそういう台詞の出るのも逆に凄いな」
 そそくさとチェス盤を片付けるトニーを横目にソルは思案するように頬を掻いた。
 正直に言えば、出かけるのは面倒だ。
 癖の強い連中が揃っているMUGEN界では頻繁にトラブルに遭遇する。
 ソル自身は戦闘狂という訳でもなく、あの男の手がかりを求めてこの界に渡ってきただけで、
厄介事には極力関わりたくない。
 ついでに言えばソルはGEAR細胞から直接エネルギーを得ているので、食べ物を食べる必要もなかった。


241:大剣タッグ6月ネタ
12/06/26 20:47:46.75 発信元:111.169.214.38

 食べられなくも無いが、それよりも先に面倒という感情が立つ。
 甘味だけは好んで食べるが、それも高級なスウィーツと言った類よりも手軽なジャンクフードの方が好ましい。
 どうしたものかと考えていると、返事を待つフィオナの、妙に緊張した表情が気に掛かった。
 もしかするとアンジェリア姉妹に出来ない相談事でもあるのかもしれない。
 世話になったとフィオナは言うが、大会では助けられることも多い。
 何よりソルは、望まずして人外になったという生い立ちを持つ少女を無下に出来るほど冷たくはなかった。
 溜息をひとつ吐いて席を立つ。
「不味かったら帰るからな」
「えっ、それじゃあ……」
「暇だったのは本当だからな。んで、場所は何処だ?」
「あ、えーとですね……」
「そこなら、あっちの通りだ。何でそっちに行こうと……」
 並んで出て行く2人を見送ったトニーとキャシーは顔を見合わせてニンマリと笑った。
「賭けるか?」
「ええよ。くっつく方に賭けるわ。あんだけ好き好きオーラ出てるもん」
「いやー、あの反応は子供としか思ってないぞ。言われても断ると見たね」
「ウチが勝ったらおっちゃんが解析してたスパイダーウェブのデータ貰おうかな」
「高機動体戦用にか? ならこっちはエーテル炭素鋼のサンプルを頂こう」
「性質上、おっちゃんに扱いきれんと思うけどなー。
 ま、あの兄さんがどんな顔して帰ってくるのか楽しみや」
「だな」


 チケットに記載されていた場所には街の中心部から離れた古風な屋敷が建っていた。
 建物は赤煉瓦を多用した英国風のゴシック建築だったが、庭園はフランス風の
幾何学的な均衡が取れた広い庭園を有していた。

242:大剣タッグ6月ネタ
12/06/26 20:51:36.68 発信元:111.169.214.38

 そして季節はバラの盛りでもある。
 高低差をつけて剪定された物、あるいはアーチ状に作られた物、テーブルの上に
アレンジメントされた物。
 彩りも形も様々な種類のバラが咲いていた。
 だが、今日に限って言えばバラよりも大きな華が咲き乱れていた。
 この屋敷は結婚式の披露宴会場としても使われている。
 今日はそのPRイベントである、ウェディングドレスの試着会が行われていた。
 マーメイドのような細身のドレスから、たっぷりパニエを着込む古風なラインのドレス、
珍しい所で白無垢等々を着た女性達が楽しげに談笑している。
 色は白がやはり多いが、淡い緑や落ち着いたピンクも見かけた。
 ヘアメイクまではしていないようだが、それでも軽く結い上げ大きいコサージュやティアラを
挿すとボリュームが出る。
 これが2、3人程度ならともかく、軽く見積もって20人以上ともなれば壮観を通り越し圧迫感
すら感じた。
 ちらほら見知った顔が居るのを考えると、今日が大会の調整日なのは人数が集まらないからではないかとすら思えてくる。
 会場の隅で、ぐったりとしながらソルはそう邪推した。

 殆どは女性同士で来ているようだが、パートナーに連れられてソルと同じように疲労困憊な男性も見られる。
 ごく少数だがこの光景にも圧倒されることなく感想を述べている者も居た。
 フィオナはイベントの事を知らず、ただのビュッフェだと思っていたようだが、ドレスのカタログを見せられると
目を輝かせて案内について行ってしまった。
 何故フィオナのような子供サイズのドレスがあるのかというと、このMUGEN界には見た目と実年齢が
釣り合っていない人物が多いからだった。
 見回してみても人間と人外の比率はほぼ同じだが、端から見る分にはあのドレスの方が良いだとか
似合わない恥ずかしいだとか、髪型はどうだこうだといった、至って和気藹々とした雰囲気だ。

 ソルは聞き覚えのある少年の、助けを求める声から意識を反らしながら確保したサンドイッチを口にする。
 イチゴの酸味と、刻んだチョコレートを混ぜ込み固めに泡立てられた生クリームは思いの外相性が良かった。
 イベントが無ければもう少し余裕を持って味わえただろう。

243:大剣タッグ6月ネタ
12/06/26 20:54:28.03 発信元:111.169.214.38
 隅のテーブルでその疲れた様子のソルに小柄な花嫁がおずおずと近付いていった。
「そ、ソルさん……あの……どうですか……」
 フィオナは顔を真っ赤にして普段着ているメイド服よりも裾の長い純白のドレスに、
白とピンクのバラをあしらったカチューシャを付けていた。
「……花嫁のベールを持って歩く子供みたいだな」
「うっ……た、確かに、ちょっと自分でも思いましたけど……」
 正直な感想にフィオナはガックリと項垂れ肩を落とした。
 下を向いて「似合わないとは思いましたけどそんなにハッキリ言わなくても……」等と呟く。
「別に今、似合う必要はねぇだろ。人間に戻って10年後にでも心配しろ」
 フィオナの髪を、いつもの調子だと髪が乱れる為、軽く撫でてやる。
 10年後の自分など想像も出来ないが、それでも大人になればという想いが口からこぼれ落ちた。
「……10年経ったら、来てくれますか?」
 ソルの顔を見ながらではとても言えない台詞に、今更ながら鼓動が逸る。
「憶えてたらな」
 まさか自分と一緒に、という意味だとは思わず、式に出て欲しいと思ったソルは軽くそう返した。
 だがフィオナは反射的に顔を上げ喜びに表情を輝かせた。
「憶えてますっ、絶対、憶えてますから!」
「あ、ああ……?」
 ソルはフィオナの反応に腑に落ちない物を感じたものの、心底嬉しそうな様子に
まぁ良いかとサンドイッチを平らげた。


 この2人がお互いの勘違いに気付くのは暫く後の事。


================================================================

以上となります。
長々とお目汚し失礼しました。

244:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/06/27 23:05:15.73 発信元:206.223.150.45
>>235-243
ホいつの間に力作がw GJです!
はよ素直になれや旦那、な?



あとこの手の話題にトニー社長が介入するとロクな事にならないと思うn(空爆

245:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/06/28 01:03:48.83 発信元:123.218.60.197
>>235-243
投下激しく乙。さあはやくお互いの勘違いに気付いた後の話を書くのd(ry
ソルにとってフィオナが保護対象から恋人へとランクアップするのはいつになるのか…

それはそうと聞き覚えのある少年の声ってまさかブr

246:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/06/28 21:19:44.59 発信元:182.168.138.246
カイ・キャップ・きら様にすると途端に共通点が無くなる不思議

247:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/06/29 20:30:40.66 発信元:111.86.142.203
>>246
男二人はまだ解る(敬礼交わす系の特殊イントロが欲しいw)んだが、やはりきら様が浮いてるなー

パートナー連中を見ると更にバラバラなのがまた笑うw
さーたん・戒厳・ドゥーム閣下って何の集まりなんだか

248:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/06/30 13:58:42.15 発信元:122.16.254.76
後にも先にもWBCって銘打たれたのってパワメジャだけか?

249:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/06/30 13:59:17.45 発信元:122.16.254.76
すんません誤爆です

250:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/01 02:41:14.17 発信元:202.229.176.170
ヒャッハー大剣だぁ!GJ!!

今書いてみてる文があるんだけど、
萌えスレエロパロスレ問わず、キャラクターの生活感が出過ぎてる文章っておkなんだろうか…
かなりのキャラ崩壊かも知れなくて不安

251:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/01 05:19:38.72 発信元:206.223.150.45
日常ほのぼのとか大歓迎ですわ
急かさないからゆっくりネタ練ってね!!!



さーて七月、そろそろ永夜の竹林から七夕用の竹が届く時期かね
ああ局長、古代植物生やさないで下さいね。あとそこの宇宙大群獣マザー、草体は捨ててこい

252:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/06 19:55:16.60 発信元:220.156.252.92
生活感丸出し文はあっち方向になったのでこっちには違うやつを投下ー
よければお付き合い下さい。5レスくらい?

※大炎上(もう飽きたなんて言わないで) ※日常的ほのぼの

253:うたかた1/5
12/07/06 19:56:45.14 発信元:220.156.252.92
長雨の合間の晴れた空。風は無い。それでも雲の流れは止まらない。
ゼロになる事のないそれにはそれなりの生活を送る者達にとって一種の威圧感がある。

それは子供には関係の無い事だった。
長靴を履けば心が躍る。傘の透けたビニール越しのぼやけた景色も胸を擽る。
泥だらけに汚した服も親に預ければきれいになるし、裸でリビングに駆け込めば夕餉の匂いが漂う。
今にも降り出しそうな曇天の下、止んだ晴れたと外へ駆け出す。

そんな元気いっぱいの子供に巻き込まれたのか、少女は雨がやんで間もなく、空の下に居た。
総当たり形式の格闘大会が終わった後の事だ。
タッグを組むことの多い軋間紅摩と今回もやはり背中を預け合い、結果、準優勝を果たしてみせた。
闘う人々は凛々しく強く逞しく、観戦者の中に紛れ込んだ子供達の憧れの的だ。
(それだけオープンな大会だったという事でもある)

アネル=ロランジュは屋内会場での大会終了後、自分についたファンの子供達に連れ出されて今に至るのだった。
子供というものの事ははよく分からない。
自身が番人を務めていた研究所を抜け出し生活が安定するまで、接する機会の無かった生き物だ。
よく分からないこの生き物達はしかしよく笑いよく泣きよく怒り、見ていて飽きる事が無い。
友人との楽しみ方も様々で、表面に出してはいないが、興味が尽きない。
子供達を見守るように佇む彼女の顔には微笑が浮かんでいた。

「アネルねーちゃんこれやろー!」
「アネル、やってー!」

普段は壇上で舞うのを見るばかりの闘者に子供達は無邪気に呼びかける。
何をやれと言うのかと彼らを見下ろせば、その手に小さな筒を握って差し出して来ている。
もう一人の女の子の手には長細く小さな笛のような形のもの。
よく分からないまま二つとも受け取る。
蛍光色のプラスチックの筒の中を覗き込むと、中には何か液体が入っていた。
容器の中ほどまで溜まっていてかすかに泡立ったそれは透明。

254:うたかた2/5
12/07/06 19:59:13.62 発信元:220.156.252.92
「……これは?」
「えっ?」
「知らないのー?」
これはこうやるんだよ、と。
手渡したそれをまた受け取った女の子が、筒の中に笛の先端をそっと突っ込んだ。
引き抜いて、息を深く吸って口を付けて、息を吹きつける。
ぷくぷく出て来た真ん丸い透明の虹色の球。シャボン玉。
ふわふわ飛んで、ぱちんと消えるまあるいそれらをアネルは凝視した。
「やってみる」
「うん!」
至極真剣な表情で女の子に告げて、筒と笛を受け取る。
黄緑色の筒の中、シャボン液に細管をそうっと差し込んだ。
ほんの少し浮かせて液だれを落ち着かせてから引き抜いたそれを、
深く吸い込んだ息で頬をいっぱいにしてから口に付けた。
ふううう。

力加減が悪かったのか。シャボン玉の数は幼女が吹き出したときよりも少ない。

ならばもう少し弱い息でとまた同じようにシャボン液を細管の先に浸からせ、息を吸い、吹く。
ふう。ふう。ふう。

「わー!」
「しゃーぼんだーまーとーんーだー!」

今度は、うまくいったようだった。
断続的にいくつもいくつも吹き出てきてはふわふわ浮かぶシャボン玉に子供ははしゃぐ。
手の届く内にぱちんと割って、手の届かないそれに飛び跳ねて腕を伸ばして振り切って。

凪いだ風に吹かれることも無くぷかぷか漂うシャボン玉。まあるい虹色。

255:うたかた3/5
12/07/06 20:00:56.06 発信元:220.156.252.92
「なんだ、それは」

何を考えるでも無く、彼らが喜ぶので、それの生成を続けていたら、背後からかかった声。
振り返ると、相棒の軋間紅摩が立っていた。
ここまで至近距離に近づかれるまで気付かなかったのは、闘いを終えて気が抜けているせいだろうか。
それとも、シャボン玉を作る事が、シャボン玉と戯れる子供達を見ている事が、楽しいからだろうか。

「シャボンダマだそうだ」
「……泡だな、そう言われてみれば」

一個一個が独立したそれらの球形は一見、
石鹸や洗剤を使って何かを洗ったりしたときに出る無数・極小のものとは全く違うものに見えた。
沢蟹が噴き出すぶくぶくの泡とも違う。
流れ落ちる滝の麓から跳ね上がる水飛沫とも違う。
「あっ!軋MAXだー!」
「軋間もシャボン玉割るー?」
「……俺はいい」
「ええ~~?」
「やればいいのにー。シャボン玉全部掴んでみせてよー、ドガーンって」
無限界の子供であるからか。
睨んでいるわけでもないのに鬼のような鋭い目つきの筋骨隆々とした男に、
彼らは何恐れる事無く駆け寄り、声を上げる。
ふう。ふう。ふう。

「しゃーぼんだーま、とーんーだ!やーねーまーで、とーんーだ!」
「やーねーまーでーとーんでー!」
「こーわーれーてーきーえーたー!」

正に泡沫。
アネルが次々作るシャボン玉は、幼児達のわらべ歌の通りに、ぱちん、ぱちん、と割れては消える。

256:うたかた4/5
12/07/06 20:02:42.92 発信元:220.156.252.92
紅摩にもアネルにも、シャボン玉で遊んだ記憶など、微塵も無い。
紅摩は近親交配に因り流れる色濃い鬼の血による性質を恐れられ、
ヒトの子供と遊ぶことも大人と遊ぶこともなかった。
アネルは秘密組織・ネスツの研究所で生産されたクローン人間であり改造人間だ。
児戯や遊戯とは無縁に等しい半生である。

それでも、わらべ歌がある程度には子供の遊びとして
古くから定着しているものなのだろう、と双方判断する。
ふう。ふう。ふう。

ふわふわ、ふわふわ、浮かび上がっては消えて行くシャボン玉。
微かな気流に乗ったのか、薄い紫色を孕んだ雲へ向かって飛び上がるそれを紅摩は見上げる。
広い空に掻き消えて行くようにシャボン玉はぱちんと割れる。

それを、どうしてだろうか。命のようだな、と、そう思えば。
紅摩のごつごつとした手の平が、アネルの頭の上に乗る。

「……?どうした?」

楽しいのかどうかも分からないが、無表情のまま、機械のようにシャボン玉を作り続ける少女が振り返る。
多分、楽しいのだろう。僅かに緩んだその頬に触れる。

鬼に近い人である紅摩も一つの命。
複製された特殊な人間であるアネルも一つの命。
元来魔や天に属する者達とは違う。
大地と海に比べれば、ヒトの命などこれらのまあるい泡のようなものだ。
生まれては消える。また生まれては、また消える。
違うのは、生まれたそれらが連なり合って、新たな命を生み出す所だろう。

257:うたかた5/5
12/07/06 20:04:42.31 発信元:220.156.252.92
「なんでもない」
「そうか」

紅摩がそう答えれば、アネルは何ら疑問を抱くことなく素直にその言葉を受け入れて、
彼の手の平に温かみに甘んじる。

この時間もまた泡沫。
虹色の夢のような時間。
無限に繰り返されることなどなく、いずれは消えゆく温かい時間。

それはそれでいい。
この世の何もかも、何もかもは、大概が限り有るものだ。
いずれは壊れ、いずれ死ぬ。
この刹那を、一つの泡なりに飛び上がって行けるのであれば、それでいい。

「あー!!MAXがアネルねーちゃんとイチャついてるー!!」
「言ーってやろー言ってやろー!しゃーめーいまーるにー言ってやろー!!」
「おい」
「まだ取材やってるかな?」
「やってるやってる!さっきあそこで飛んでたもん!」
「いこいこ!ネタのリークだ!きっと何かもらえるよ!」
「おいっ!」

冗談ではない。あの清く正しいと自称する敏腕記者に追い回されるのはごめんだ。
相棒との関係についてあれこれ根掘り葉掘り問い質されるのはもっとごめんだ。

些細な触れ合いをこれはと見留て指差し謡う子供達。
そうはさせるかと、にこにこ笑い騒ぎ立てながら会場方面へ駆け出した彼らを追う。
一歩を強く踏み出した紅摩の周りに、アネルが作ったシャボン玉が、浮かんでは消えていった。

258:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/06 21:38:36.18 発信元:111.86.147.110
書く速度早すぎるw
これだけ早いのにこんなに甘い物書けるとは凄いですGJ
大炎上最高

259:聖女と魔王の七夕
12/07/09 17:32:31.21 発信元:114.179.95.220
ちょいと連投します
はぁと&クロちゃんの七夕SS……遅刻じゃないやい、雨天順延だい!w

==================================

七夕祭りの夜。満天の星空の下、黒い人影が笹を見上げていた。
商店街の照明も決して暗くはなく、男の全身を充分に照らしてはいるのだが、なにぶんその体表が上から下まで真っ黒なのだから、『黒い』としか言いようがない。

「おお、ブラックハートではないか。一人とは珍しいな」
「……貴様は俺を日頃どんな目で見ているんだ、ミケランジェロ」

体も黒けりゃ名も黒いその男、地獄の皇子ブラックハートが憮然と振り向いた先には、これまた高位魔族のミケランジェロ(ただ今猫形態)が、契約者の頼子に抱えられていた。
自分と同じ『聖女と契約した悪魔』であるミケランジェロ(以下ミケ)に対し、ブラックハートはあまり良い印象を抱いていない。
本来の姿も満足に保てず、契約者に半ば餌付けされている癖して、自分には先輩風を吹かせて人界の常識―主に美味いドーナツ屋の情報など―を得意気に語ってくるのだから。せめて自腹で食え。
それだけならまだいい。このヒモ猫は自分に……もとい『自分達』に対して、何か間違った認識を抱いている節がある。そこが問題だ。

「実際珍しいであろう、何せ最近の貴様ときたら……」
「―愛しのマイマスター様といつも一緒…っひゃあ!?」

夜空に紫電が走って、消える。
頭上から会話に割り込んできた―割り込もうとして危うく対空ダークサンダーで撃墜されかけた―のは人魔ハーフのリリカだ。
空中で強引に回避運動を取り、そのまま親友の隣に着地する。流石は空中戦に定評のあるアルカナ勢である。対空見てから空4D余裕でした。

「り、リリカ……大丈夫?」
「へーきへーき。……コラァ皇子ー! 殺す気かー!」
「自殺願望がある様子だったので手伝ってやったまでの事だ、不満なら一人で首でも吊れ」
「吊るかアホーっ!!」

260:聖女と魔王の七夕
12/07/09 17:34:15.95 発信元:114.179.95.220
腕を組み、平然とのたまう様はまごうことなきヴィラン。
……口が悪くなるのも当然と言えよう、何せ彼女こそブラックハートにとって目下最大級の頭痛の種なのだから。
前述の通りリリカは悪魔の父と人間の母の間に産まれた混血児である。この時点で既に頭が痛いのに、ミケ同様の『勘違い』を抱えて隠そうともしないからタチが悪い。
魔王の逆恨みが込められた暴言で、両者の間に一触即発の空気が満ちる。いつラウンドコールが聞こえてきてもおかしくない。

「えぇと……そ、そう言えば、愛乃さんは?」
「……俺が見た時は、まだ願いを決めかねている様子だった」

恐る恐る割って入った頼子に、律儀に答えるブラックハート。同時に商店街の入口―そこで記入用の短冊が配布されている―の方角に視線を向ける。
珍しく真剣な表情で短冊と睨み合う、己の契約者の姿を思い出しながら。

―愛を謳う稀代の聖女。愛があれば何でも出来ると信じて疑わず、事実いかなる困難も障害も殴り飛ばす、強き意志と行動力を持つ者。
―正邪善悪を問わず、あらゆる者と―それこそ、自分のような悪魔とさえ―心通わせる、ある意味異常なまでの寛容さを持つ者。

「……随分悩んでいたが、よほど大それた願いを書くつもりだろう。奴ほど欲深い人間も、そうは居るまい」
「ふーん……」

魔王のどこかズレた友人評に、臨戦態勢を解いたリリカが相槌を打つ。

「それはそうと、アンタは何書いたの?」
「まさか、『世界征服』とか『打倒ゴーストライダー』とか……」
「さては『フレンチクルーラー食い放題』だな?」
「貴様と一緒にするなこの暴食駄猫が。そもそも、こんな馬鹿げた催しなどまともに付き合うものか」

261:聖女と魔王の七夕
12/07/09 17:36:20.11 発信元:114.179.95.220
心底どうでも良さげな口調の魔王。だが、次第に語気に冷たい物が混ざる。

「復讐の精霊も、ヒーロー共も、我が父も、全て俺の力で叩き潰す。星に願いなど、捧げる必要は無い」
「「「…………」」」

しばしの沈黙。通りを行き交う人々の声だけが、やけに遠く感じられる。

「だが、万に一つもあの星々が『願いを叶える力』とやらを持つのならば。そんな大それた存在ならば。
 せめて愚痴の一つも聞いてみせろ、と思ったまでだ」
「……へ? ぐ、愚痴?」

平熱に戻った口調―世間一般と比べればまだ低いが―に混ざった妙な単語。思わず頼子が復唱すると、

「ああ。馬鹿げた催しに相応しい、実に馬鹿げた愚痴だ。読んでみるか?」

ブラックハートは先程まで見上げていた笹に手を伸ばし、そこに結ばれていた一枚の短冊を外した。
三人が覗き込んだ、濃紺の短冊。そこには―

【契約者が俺の事をふざけた仇名で呼ぶ。何とかしろ】

「「「………………」」」

今日一番の沈黙が場を支配した。もはや周囲の音も耳に入らない。

「……うわぁ……」まずリリカが辛うじて口を開き、
「……まぁ何だ、強く生きろ……」続いてミケが慰め、
「……綺麗な、字、だね……」頼子は話を逸らそうと試みた。

262:聖女と魔王の七夕
12/07/09 17:37:27.78 発信元:114.179.95.220
……と言うか、それは下克上より困難な事なのだろうか。なんかもうMARVEL社涙目である。

「もっとも、今更怒りも湧かんがな。どうにもならない事ならば、いっそ諦め―」

そんな微妙極まる空気などいざ知らず、クロち…もといブラックハートが自嘲気味に呟いたその時。

「ぉーーー待ーーーたーーーせーーー!!!」ドゴォ!!!
「もっぶぉおおおおおおおおおッッ!!?」

彼方からカッ飛んできた『何か』が魔王の巨体に直撃。そのまま歩道を10メートルほど転がり、電柱に激突する寸前でようやく停止した。
まさかの超展開に三人が唖然とするなか、土埃越しに見覚えのあるアホ毛が揺れる。

「遅くなっちゃってゴメンねクロちゃん、さっきようやく書けたから急いで飛んできたよ!」
「そうか、それは、良かっ、たな……グッ……契約者よ、怪我は、無いか?」
「うん、大丈夫だよ! だってクロちゃんが受け止めてくれたから!」

辛うじて搾り出したブラックハートの問いかけに、彼に飛び付いてきた―彼を超速のスピアータックルで押し倒した―『何か』こと彼の契約者、愛乃はぁとは笑顔で答えた。
自己申告の通り、魔王の両腕に抱えられたその身には擦り傷一つ付いてはいない。

「……お前が望むなら、いくらでも受け止めてやろう、我が契約者よ。
 だが次からは側面ではなく正面から来い。速度も出しすぎだぞ、よく事故を起こさなかったものだ」
「うー……ゴメンなさい」
「パルティニアス、貴様もだ。こんな事で『力』を貸し与えるな」

交通指導に続いて、ブラックハートははぁとの背後に向けて呼びかけた。
彼女の守護聖霊にして、すっごい聖霊力全開タックルの推力源でもある、愛のアルカナ・パルティニアスに向けて。

263:聖女と魔王の七夕
12/07/09 17:39:00.87 発信元:114.179.95.220
「前々から言おうと思っていたが、貴様は―」
「あの~、皇子サマ~?」

スーパー説教タイム略してSSTが始まろうとしたその時、リリカが声をかけてきた。
それも何故かニヤけ顔で。なんだその顔は気持ち悪い。

「俺はパルティニアスに話がある、用なら後にしろ」
「うん、それは結構なんだけど~。アタシらもハートと話したいんだよね~。
 でもさぁ、そのハートはアンタが後生大事に抱きしめちゃってる訳じゃん? いつまでそうしてるのかな~、って」
「……何!?」「ふぇ?」

言われて、顔を見合わせるブラックハートとはぁと……近い。めっちゃ近い。
当然である。二人は先程と同じ姿勢―飛び込んできた彼女を抱き止めている―のままなのだから。
……こうして見ると、思ったより小柄に感じられる。戦闘の最前線で並み居る闘士達と殴り合っているとはとても思えないほど華奢で……ってそうではない!!

「うおおっ!?」「わわわっ!?」

慌てた様子でブラックハートが腕を解くと、これまた慌ててはぁとが飛び退く。

「ク、クロちゃんゴメン! えーと、重くなかった? 腕とか痺れたりしてない?」
「い、いや、俺の心配は無用だ! むしろ軽すぎ……違う!! お、お前こそ、何だ……その、もう立っても平気なんだな!?」
「あー、もしかしてアタシ、余計な事しちゃいました?」

揃ってテンパる二人―理由や度合いは両者で大違いなのだが―に、リリカがわざとらしく声をかける。顔はニヤけ顔のままだ。
もはや魔王の視界になど入っていないが、周りを行き交う人々の何割かもニヤニヤしながらこちらを眺めている。中には口から黒砂糖ぶちまけて死にかけてる者までいる。パルパルしてるのも数人混ざってるって? 気にするな!
……もしもこの場に冴姫が居たら、間違いなく殺生沙汰になっていただろう。幸いにも彼女とその親友は、祭りの警備を担当する『知り合いの騎士達』に同行しているようだが。ダレカSSニシテモイイノヨ(チラッ

264:聖女と魔王の七夕
12/07/09 17:41:10.60 発信元:114.179.95.220
「全くだ、大変な事をしでかしたなリリカよ。よりにもよって七夕の夜に、せっかく出会えた二人を引き剥がすなど無粋千万。なぁ頼子?」
「え、えぇ!? ……そうだ愛乃さん! さっき『ようやく書けた』って……短冊の事だよね!?」

やはりわざとらしく煽るミケにネタを振られた頼子が、辛うじて魔送球を流した。こちらに矛先が向いては堪らない。
実際のところ彼女も、二人の関係が自分とミケのそれとは―少なくとも悪魔側から人間側への『感情』は―違う事には感づいている。事実、自分の親友もそうした『感情』の上に産まれているのだから。
ただ、それは決して口に出さない。ブラックハートとミケは気の短さもまるで違う。命は投げ捨てる物ではない(断言)。

「あ、そうそう。ありがとよりぷー、危なく忘れるところだったよ」
「いや、今日ソレ忘れてどーすんの。んで肝心の中身はどーなのよ、力作書けた?」
「何しろ相方を一人で待たせる程の願いだ、どれ我輩にも見せてみろ」
「貴様等……まったく調子の良い連中め」

こちらを煽りまくっていた二人が態度(と標的)を一変させるのを見て、ブラックハートは内心溜息をつく。戯言を許す気はないが、それよりもはぁとの『願い』に対する興味が上回った。一体何を書いた?
はぁとがポケットから取り出した短冊を、魔王以外の三人が覗き込んで―その表情が固まった。

「……えーと、愛乃さん……? お願いはこれでいい、の?」
「うん! これしかないかなー、って」
「「……」」

横目でブラックハートを見ながら、何故か気まずそうに訊ねる頼子。リリカは肩を震わせ、ミケもうずくまり震えている。
……お前らのリアクションはおかしい、何が書いてあったのだ? 何やらとてつもなく悪い予感がするが、構わず魔王は己の契約者に歩み寄る。

265:聖女と魔王の七夕
12/07/09 17:42:46.10 発信元:114.179.95.220
「……契約者よ、俺にも見せろ」
「はい、どうぞ♪」

彼女の手から桜色の短冊を受け取り、ざっと目を通―

【クロちゃんが私の事を、名前で呼んでくれますように。愛乃はぁと】

―魔王の思考が完全に止まった。

「―んなっ、な……おま……ぐ、ぬ―」

もはや言語の形すら失った呻き声しか出てこない。何だこれは? 名前で呼べ? 俺が? 己の契約者の事を? 名前でだと?
棒立ちのまま大混乱に陥るブラックハート。その光景に耐えられず、ついに二人が爆発した。

「……プッ、アハハハハハハハハッ! まさかのっ、まさかの名前呼びフラ……アッハハハハ、お腹、よじれ―!」
「カハハハハハ!! 全く、貴様等は、どこまでも……カハハハハhゲホッ! ゴフッ―!!」

震えるほど笑いを噛み殺していたが、流石に限界を越えてしまった。リリカは腹を抱えて爆笑し、ミケに至ってはむせて転げ回っている。
いまいち状況を飲み込めないはぁとが、とても笑う気になどなれない頼子に小声で問う。

「……ねーよりぷー、二人ともどうしちゃったの?」
「えぇと……これを読めば解る……んじゃないかなぁ……」

消え入りそうな語尾の代わりに頼子が差し出したのは、濃紺色の短冊―ブラックハートの『愚痴』が書かれた短冊だ。ちなみに書いた本人は未だ脳内神キャラ大会状態にある。\リカイデキナイー/
迷わずそれに目を通すはぁと。しばし黙って熟読していたが、唐突に声を上げた。

「私とおんなじお願いだね!」
「……って何ぃ!?」

まさかの爆弾発言に、ブラックハートの意識は現実に引き戻された。どうしてそうなる!?

266:聖女と魔王の七夕
12/07/09 17:44:06.39 発信元:114.179.95.220
「だって、私はクロちゃんに名前で呼ばれたいし、クロちゃんも私に名前で呼んで欲しいんでしょ? おんなじだよ!」
「いや待て落ち着け契約者よ! 俺のはただの愚痴だ、お前の癖が今更直るなどと思っている訳では……!
 そもそも本当にそんな願いでいいのか!? 他に何かあるだろう、『世の中を愛で一杯にしたい』だの『皆と仲良くなりたい』だの、こう……いかにもお前らしい願いが!」
「それは自分の力で叶えてみせるよ! ぜ~ったい!!」

ある意味予想通りな台詞と共にサムズアップを決めるはぁと。某青空のライダーやケンジィも顔負けである。
一方の魔王は完全に頭を抱えている。こう返されては何も言えない。もう言えば言うほどドツボに嵌る。
―まさにその時。腹筋破壊地獄から復帰したリリカが、恐るべき案を挙げた。

「そうだ! この際だからさ、お互い『せーの!』で名前呼び合えばいいじゃん!」
「そいつは名案だ! 何を恥じるブラックハート、ほれさっさと言ってしまえ」
「要は慣れだと思うな、こういうのは。私だって呼び捨てにされてるもん」
「貴様等、何をたわけた事を……っ!!」

事ここに及んで、ついに頼子もブレーキ役を投げ捨てた。

「それ、言ーえ♪ 言ーえ♪」「男を見せんかー!」「二人とも頑張って~」

口々に囃し立てる三人。
それだけではない、いつの間にか集まっていたギャラリーも野次やら口笛やらを飛ばしてくる。魔王完全孤立である。

「どいつもこいつも……ふざけるな! おい契約者よ、お前も黙ってないでこいつ等を……」
「ふー、なんだか緊張してきたぁ……ドキドキするよ……」
「既に準備万端か!」

思わず天を仰ぐ。先程同様、満天の星空が自分達を見下ろしている。見えてはいけない死の兆したる星も、今なら見えるような気がした。
こうなればヤケだ。たかだか名前を呼んでやるだけだ。大して難しい事でもない。
……最悪、この場の全員の口を封じてしまう手もある。騒ぎを起こせば制裁を受ける可能性もあるが……知ったことか!
ブラックハートは意を決して―後半のはしてはいけない決意だが―己の契約者と向き合う。

267:聖女と魔王の七夕
12/07/09 17:46:16.27 発信元:114.179.95.220
「…………」

自分をまっすぐ見上げる、その眼差し。いかなる魔眼・邪眼の類を以ってしても、これほど自分を脅やかす事は出来まい。
―これも、命令のようなものだ。従ってやらねば、な―

そして両者は、全く同時に口を開き―


『喧嘩だーーーっ!!』『なんかあっちで大勢喧嘩してるぞ!!』『誰か警備担当に連絡しろー!!』


―突如巻き起こった喧騒にかき消された。
騒ぎに近づこうとする者と騒ぎから逃れようとする者とで、商店街の一角はごった返す。当然、直前までのムードなど台無しである。

「……だぁーっ! どこのどいつよ! この日に! こんな時に! 喧嘩なんか起こす奴はー!!」

怒声を張り上げたのはリリカだ。喧嘩が起きているであろう方角を睨みつけ―その時、聞き覚えのある音が、決して聞きたくなかった音が、耳に飛び込んできた。
バイクのエンジン音……それと、馬の嘶きが。

『煉獄と伊達軍の抗争だーーっ!!』『またアイツ等か!!』『警察、いや連邦軍呼んで来ーい!!』

「「「…………」」」

リリカと頼子は―ミケは杖に姿を変えている―怒気を噴き出しながらその方角へと歩き出す。

「あんのパーティー狂め、よりにもよって……っ!」
「いくら男の意地って言っても、これは酷過ぎるよ……」
「空気の読めぬ悪餓鬼共めが……夜空の果てまで吹き飛ばしてくれるわ!!」

268:聖女と魔王の七夕
12/07/09 17:47:44.26 発信元:114.179.95.220
二人の体が僅かに宙に浮く。その傍らに顕現したのは、それぞれの契約聖霊。風のアルカナ・テンペスタスと、魔のアルカナ・ディウー・モール。

「マサムネの……アホーーーっ!!」
「煉クンの……バカーーーっ!!」

聖霊力全開、二人の聖女(+杖一本)が空を翔ける。……七夕の夜に巡り合う、二組のカップルの間に果たして何が起こるか。少なくとも極一般的なロマンスとは言い難いだろう。ダレカSSニ(ry
……そして、この場に残されたカップルがもう一組。

「……行っちゃった、ね」
「騒ぐだけ騒いでこれか……まるで台風だな」
「私達も行った方が良いかな?」
「あの二人が向かえば、両陣の頭は戦意を失おう。残りの有象無象など騎士連中にでも任せておけば良い。
 契約者よ、お前も覚えておけ。バイクなんぞ乗り回してる連中にロクな奴はおらん」

心配そうな様子のはぁとに答えつつ、どさくさ紛れに宿敵のイメージダウンを企てるブラックハート。
もっとも、今回ばかりはその『ロクでもない連中』のおかげで、先程の公開羞恥プレイを聞かれずに済んだ訳だが―

「ねぇ、クロちゃん」
「何だ」
「やっぱり言いにくいな、『ブラックハート』って。なんだか長いし」

―間近にいた当人同士にはしっかり聞こえていたのだ。
久し振りに―出会った最初期以来か?―彼女から本来の名前で呼ばれはしたが……実際のところ、それで何が変わったとも思えない。どうも仇名呼びに慣れてしまったようで、むしろ軽い違和感さえ受けた。
自分と彼女との距離が、開いてしまったかのような、嫌な感覚を。

「……そんなに難しいなら、無理に本名で呼ばなくても構わん。お前の好きに呼べば良い」
「ゴメンねクロちゃん。お願い、叶えてあげられなくて……」

269:SS投稿者@携帯
12/07/09 18:08:05.96 発信元:206.223.150.45

※連投規制です ちょっと待って下さいorz※


270:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/09 18:35:02.22 発信元:202.229.178.133
がんばらはるなあw 連投規制って毎時0分リセットじゃなかったっけ。シベリアよく知らないけど

271:聖女と魔王の七夕
12/07/09 18:41:28.56 発信元:1.33.211.244

失望されたとでも思ったのか、彼女の表情が沈む。
……そんな顔を、俺に見せるな……

「……今日は謝ってばかりだな、はぁと。お前らしくもない」
「うん……って、えっ? 今……」

思わず顔を上げるはぁと。先程まで沈んでいた表情が、今度は驚きに変わっている。
ブラックハートに名前を呼ばれた、驚きに。

「何だその顔は、願いを聞いてやったのに不満なのか? 散々考えて決めた願いだろう」
「だって、私はクロちゃんのお願いを……」
「あれは『ただの愚痴』だと言ったぞ。お前の『七夕の願い事』と違ってな。
 お前が俺をどう呼ぼうが、今日一日、俺はお前を名前で呼ぶ。いいな、はぁと」
「…………クロちゃーーーん!!」

感極まったはぁとが、本日二発目のスピアーを敢行した。前回より勢いは無いが、何ぶん至近距離である。バランスを崩した魔王の巨体が尻餅をつく。

「お、おいはぁと! 誰が突っ込んで来いと言った!」
「ありがとクロちゃん! これでもっと、もーっと仲良しになれるね!」
「今日だけだと言ったのが聞こえないのかお前は……とりあえず離れろ、人が見ている!」

272:聖女と魔王の七夕
12/07/09 18:42:39.90 発信元:1.33.211.244
―それから。家に戻ったブラックハートは文字通り『今日一日』ギリギリいっぱいまで、はぁとの名を呼ばされ続ける羽目になった。
それだけではない。翌日のデイリー・ビューグル誌の一面を、とんでもない記事が飾っていた。

【魔王ブラックハート、ついに契約者に手を出した!?】【魔族達による地上侵攻の前触れか!?】

先日の祭りの写真―自分がはぁとに抱きつかれている―がデカデカと載ったそれを引っ掴み、ブラックハートは単身ビューグル社のビルに乗り込……もうとして。
同じく記事について問い合わせに来たのだろう、冴姫や舞織、ペトラらとハチ合わせてしまったのだ。
……その後の惨状については、敢えてこの場では触れないでおく。

結論―愚痴はチラシの裏にでも書いておきましょう。

273:聖女と魔王の七夕
12/07/09 18:45:11.48 発信元:1.33.211.244
セルフツッコミなど

Q.なんかクロちゃん残念&テンション高すぎない?
A.仕様です。天真爛漫少女に振り回されるツンデレ人外っていいよね

Q.クロちゃんってバイク嫌いなの?
A.バイク乗り炎使い鎖使い骸骨みーんな嫌い。お前は子供かw
 思い起こせばタッグ初出のアメコミ大規模トナメでも魔眼チームに負けたような

Q.アルカナ勢って空飛べるの?
A.原作でも最終ステージが高所だし、やろうと思えばいけるんでない?

Q.頼子はもっと弱気のような
A.族のヘッドと付き合ってれば度胸もつくかと。恋をすると女の子は強くなる(キリッ

Q.なんでラストにデイリー・ビューグル?
A.当初は安定の文々。だったけど書いてる途中でアメイジングスパイダーマンを観たので
 クロちゃんのパパはピーターにひどいことしたよね

Q.メイン二人はお互いをどう思ってるの?
A.はぁと→すっごいすっごい仲良し。たぶん 冴姫≧クロちゃん>舞織、その他 くらい
 ブラハ→無自覚ベタ惚れ。でも他人に茶化されるのは大嫌い。

Q.まさか二人って一緒に住んでるの?
A.いつでも呼び出せる類の契約なんでしょう。まぁミケも頼子ん家に住んでますし


魔界組の立ち位置を考えてたらえれぇ長くなっちったよ……次はクラリスでも出そうかなw

では、ド長文失礼しました

274:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/10 00:29:15.25 発信元:210.153.84.47
グッ………ジョブだ…!
眼福眼福。笑った和んだ、乙です!
ツンデレ人外マジかわいい

275:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/12 12:17:06.58 発信元:220.156.248.68
>>259
ごちそうさまでございました!

真昼間、時間が取れたから我慢出来ずに投下ー
10レスにおさまってるといいな。良ければお付き合い下さい。七夕?知らぬ存ぜぬ

※大炎上(もう…喰ったか?ハラァ…いっぱいか?)
※某タッグ大会初回開催寸前を想定 ※京子が出ますが口調・性格掴めてません誰かオシエテクレー

276:黒鬼と銀奴1/10
12/07/12 12:19:26.33 発信元:220.156.248.68
街と街の間に山がある。
山の間に里があり、里の間に林があり、林の間に森がある。
この山奥の深い森には、黒い鬼が住んでいた。
鬼とはいえども角の一本も生えちゃあいないし牙も無い。
一見は黒髪に焼けた肌色を持つ筋骨隆々とした青年だ。
人里に害を及ぼす事も無いこの物静かな鬼は、時折里に下りては酒を求めたりしていた。

黒鬼――軋間紅摩は気まぐれに、里に無い酒を飲みたくなった。
白い外套を羽織る。森を出て、林を抜け、里を過ぎ、山を下り、街に出た。
街には山ほど高くはないがのっぽの箱がごまんと立ち並ぶ。
その箱の内に外に人もごまんと暮らしている。

人里のただ中を歩いても、彼を鬼だ鬼だと囃し立てる者はいない。
山里においては彼を恐れつつ鬼と称する者達が居る。
彼はそれを知っていたが、気に留める事は無かった。

さて、その山里では自分の手仕事の品と酒とを物々交換していたが、この街ではそうもいかない。
金が要るのだ。普段金の要らない生活を送っている男は無一文。
住処に事情により得た金はあるが、それを持参はしなかった。

金銭を得るあてがある。
尊い労働に従事してもいいだろうが、そうではない。
この世界各地では連日と言っていい程の頻度で格闘大会が開かれているのが常だ。
闘いを生業とし、その賞金を糧に生きる者も少なくない。
大会に出場し、賞金を得る。それが彼の“あて”だった。

277:黒鬼と銀奴2/10
12/07/12 12:23:26.93 発信元:220.156.248.68
紅摩は普段物静かなその性質の割に喧嘩好きだが、武人ではない。
手慰みとして武術の真似事をしているのみだ。
それでも、鬼と人との混血の中でも鬼の血が色濃い彼にしか扱えない独自の戦闘術は身に付けており、
此度と同様の目的で街に下り大会に参加し、賞金を得た事はある。
武闘の饗宴。彼にとっては一つの娯楽でもある。これに参加しない手はない。

大会会場として使用される事の多い大型の民営ドームは山側にあった。
ドーム外周部掲示板に張り付けられた多種多様な開催大会のポスターやその概要のプリント。
過去に終了した大会結果などの記事。最も近日中に開催されるものを目で探す。
すぐに見つけ出したそれは明日に開催されるものだった。
しかしでかでかと書かれた見出しにもある通り、出場者の最低条件として“男女二人組のタッグである事”が挙げられている。
女。黒髪・長髪の厄介な女に、ある姉妹の顔くらいしか浮かばない。
生憎これには出られそうにないと、紅摩が他のポスターに目線を遣ったとき。
「そこの男」
鈴を鳴らしたような高い、凛とした声。周囲に紅摩以外の人間の気配は無い。
ならば自分の事かとそちらへ顔を向けると、結い上げた白銀の髪に白い肌、濃い緑の眼を持つ、
女とも少女とも言える者が立っていた。
どうでもいい事だが、二の腕も生足も露出した格好はやや目のやり場に困る。
「……小娘。俺に何か用か」
「うむ。そこにある、男女タッグの大会のポスターを見ていただろう」
少女の言葉は外見の可憐さに反して端的だ。纏っている雰囲気には合っているように思えた。
「そうだが、それが?」
「参加するのか?」
「生憎、片棒を担げる女性(にょしょう)が知人に居らんのでな。しようにも出来ん」
「それなら、私と組め」
「何?」
聞き返すまでもなかったが、簡易かつ単刀直入なその発言は少々意外だった。
少女は色濃いのに澄んだその眼を背ける事なく頷く。
「私にもタッグを組む男の相方が居ない。ひとり同士だ」
「確かに話は早いが」

278:黒鬼と銀奴3/10
12/07/12 12:28:06.41 発信元:220.156.248.68
「なんだ」
「小娘。俺は貴様の手並みを知らん。その細腕で何が出来る」
後半は侮辱とも取れる紅摩の言葉だったが、少女の素直さはそれを純粋に受け入れた。
成る程、と頷く。少女の腕はしなやかな筋肉に包まれているが、確かに細い。
自分の前腕を少し持ち上げて眺めていたが、視線を目の前の男に戻す。鋭い眼光と真ん丸い瞳とがかち合う。
「それなら、身を以てやってみるのが一番いい」
何でも無い事のようにさらりと言ってのける少女に紅摩の眉間の皺が寄る。
「ほう。喧嘩を売るか」
力量の知れぬ、名も知らぬ少女との試合。経験の無い事だ。興味はあった。
如何様に闘うか。どれほど闘えるか。楽しませてくれるのか。
「近くの公園に丁度いい広場がある。やるのならそこへ行こう」
「……手馴らしにやってみるのもいいか」
「よし」
そうと決まれば話は早い。こっちだ、と促しながら少女は踵を返し、男の先を歩き始めた。

夕方に近い、重さを増した空。芝生。広々とした大型公園。色鮮やかな遊具も数多い。それらに用は無い。
子供が遊ぶ場所とはわざわざ金網を設けて隔離された広場。周囲を囲むフェンスと金網。
分厚いコンクリート製の簡素極まりないフェンスの所々は焼け焦げていたりひび割れていたりする。
自然のものではない風に飛ばされたであろう土。いくつも残る踏み込みの痕跡。

成る程、ここは闘う人間の寄る辺の一つであるらしい。二人の先客が居たが、彼らはここでの用を終え、立ち去る所であるようだった。
「よう。今からか?」
先導する少女が広場に立ち入って来たのを見て、二人の内の一人である
黒髪に白いバンダナを巻いた浅黒い肌の青年が二人に声をかけた。
眼球の白いはずの部分が充血以前の問題として赤く、瞳は黒。
人の形を取った妖の類に見えない事も無いが、白い歯を見せて笑いかけてくる口調は気さくそのものだった。
「あれっ、見ない顔が二つも。この街には?大会に出場しに来たの?……あっ、私は京子!よろしく」
青年と同じ様に白いバンダナを頭に巻いた女――京子も尻馬に乗ってきた。
「俺はKUSANAGIだ。お前らは?」
並ぶと二卵性の兄妹のような二人だ。

279:黒鬼と銀奴4/10
12/07/12 12:30:04.33 発信元:220.156.248.68
お前らと言うことは自分も勘定に入っているらしい。
銀髪の少女の後ろで瞠目していた紅摩が目蓋を開く。
名乗られて名乗り返さぬ理由も特に無い。
「軋間紅摩だ」
少女はどうしてか、少し戸惑っているように、黙っていた。
しかし背後の男が名乗ったのを見て、
「……私、は……アネル=ロランジュだ」
そう、ややぎこちない口調で自己紹介をした。
それを受けた京子はにこっと笑って、
「よろしく、アネル!私が予想するに、ん~……明日からあるタッグ大会に参加するの?」
「多分、そうなる」
「多分だぁ?」
「……これから、決める所なんだ。この男が、私の手並みを知らないからと」
「へえ」
KUSANAGIと名乗った男が黙ったままの紅摩にじろりと目を向ける。
少女――アネルも礼儀を知らないような言葉遣いだが、この男の場合はそれ以上に口が汚いように感じられた。
「ああ、アンタ、見た事あるぜ。こう、相手の首根っこ掴んで燃やして投げてたろ」
「そうだな」
肯んじた。紅摩にも何度かの大会出場経験はある。ギャラリーも大勢だ。
その中にこの青年も居たのだろう。
『こう』と伸ばした腕の先で空を掴む手指の動きは、紅摩の仕草を真似ていた。

280:黒鬼と銀奴5/10
12/07/12 12:32:06.49 発信元:220.156.248.68
「燃やす?」
青年の言葉の一端を拾い上げた少女が聞いたが、KUSANAGIは答えずひらひらと手を振って、
「そいつはこれから分かるだろーよ。まっ、参加するにせよ、しないにせよ、がんばんな」
「あっ、待って待ってっ!アネル、紅摩、またどこかでねっ」
巾着式のスポーツバッグを引っ提げ男はアネルと紅摩の前から立ち去る。
それを京子が追って行って、壁に囲われた広場には二人だけになった。
去る二人の後ろ姿を最後まで見送る事は無く、少女が口火を切る。
「では、やるか」
「ふむ」
躊躇などない。弱ければ適度な所まで叩きのめすのみ。
拮抗出来れば面白いが、灼熱の力を行使するつもりは今の所無い。

広場の真ん中辺りまで二人は歩く。十数歩の間合いを取り、向かい合った。
紅摩は羽織っていた白いコートを投げ捨てる。

「来い」

武術家ではない彼には構えらしき構えが無い。
空手家や柔道家、拳法家のように腰を低くしたり拳を顎に添えたりする事無く、仁王立ちする。
言うなれば、この様にただあるがままに相手に向かい合っているのが彼の構えだ。

アネルはそれに茶々を入れる事も無く彼を見据えた。
上衣に手を掛けたかと思いきや次の瞬間には
彼女の服装が先程とは全く異なったものに変わっている。
真っ黒いハイネックのノースリーブにたっぷりとして肌離れの良さそうなフレアパンツ(と言っていいのかどうか)。
拳法家のような出で立ちで、腰を低く落とし、片腕をこちらへ伸ばすように構えた。
結い上げていた髪が下りている。銀糸が夕方の風にさらさら流れる。林がさざめく。

281:黒鬼と銀奴6/10
12/07/12 12:33:51.18 発信元:220.156.248.68
「いくぞ」
静かで涼やかな宣言から一拍。
緑の眼がこちらを見据えたまま拳を握り向かってくる。
速い。そう来ると読んでいたわけでもないが、突風のようなその拳を真正面からがっしり掴む。
存外重い衝撃を腕一本で殺す。
「ちっ!」
鳩尾に拳を叩き込もうとするが女はその一撃をかわし、片手を絡め取られて尚踏み込む。
男の懐に入り込み体躯に肘を突き当て、顎目掛けて拳を打ち込む。
下顎への一撃をまともに食らい天を仰ぐ紅摩から一旦逃れようと
アネルは掴まれたままの右腕を引くが、びくともしない。ダメージが無い筈は無かった。
アネルはしかし戸惑いの色など見せない。
男の武骨な手がぐんと伸びて来る。

首目掛けて円をなぞる動きで向かって来たそれを左腕で防ぐ。
左腕が取られる。
(まずいっ…――!)
視界がぐわんっと動く。
「くっ!」
ざざ、と地面を滑る。アネルの擦れた靴底から乾いた土煙が上がった。
少女を低く横方向へ投げ飛ばした男は仁王立ちのまま煙の向こうに佇んでいる。
アネルの鮮やかなそれとは違う、暗い色の隻眼。
「それで終わりではあるまい」
「はあっ!」
答えず、応えとして、また向かって行く。
低い姿勢を崩さず踏み込む。男の足元へ飛ぶ、地面すれすれの蹴り。
男の立ち位置は変わらない。

返事のように容赦なく頭目掛けて降りてきた足を両腕で防いで、体重移動。
背中側に回り込み、掌底を打ち込む。先程のように手応え自体はある。
衝撃に仰け反った紅摩だったが、振り返り見る眼光には少しの揺らぎも見当たらない。

282:黒鬼と銀奴7/10
12/07/12 12:35:10.91 発信元:220.156.248.68
ざっ、とこちらへ向き直り様、回し蹴りを放つ。アネルは遅いそれを難なく避ける。
半歩動いた先にまた閃くような速さで腕が伸びて来る。
「そう何度も!」
伸びて来た腕をするりと受け流しつつ再び潜り込んだ懐。
硬い筋肉に覆われた腹に胸に一撃ずつ見舞い、頬を殴りつける。
豪の腕を除き、紅摩の動きはアネルに比べ全体的に遅い。
防御が間に合わず喰らった拳の重さ。
小娘と見くびっていたようだと悟る。

吹き飛びもせず、頬に拳を叩き込まれたままぐぐぐと顔を元に戻して来る紅摩。
アネルはそれに驚く事も無く身を引いた。構え直す。
真ん丸い瞳が、一挙一動見逃すまいと、真っ直ぐにこちらを見つめている。

「なかなかやるな」
「理解したか」
「応。だが、まだ全力ではあるまい」
アネル=ロランジュは否定しない。
事実、彼女は力の全てを解放していない。
「それは、お前だって同じだろう」
その言葉通り、軋間紅摩もまた、余力を残してある。
軋間一族に受け継がれて来た、自身を文字通り“燃やす”力、炎獄の灼熱。
やろうと思えば頭蓋握り潰す事など容易い、圧壊の腕。
それら全てを振るって勝負に望んではいなかった。
この細身の少女がそれらを受け切れるかどうかを心配したからだったが、杞憂だったらしい。
「一つ聞くが。お前、本当に人間か?」
「……そうだと思いたいな」
出会したときから感じていた事だが、少女は、どこか市井の人間らしからぬ空気を纏っているように見えるのだ。

283:黒鬼と銀奴8/10
12/07/12 12:37:10.47 発信元:220.156.248.68
それはその並外れた容貌故かとも考えたが、どうもそうではないらしい。
「多少、弄くられている。親の顔……いや。親が居るのかも、分からない」
「随分と複雑な事情を抱えているようだな」
「お前こそ、私と似たようなものではないのか」
「そうだな。俺は、鬼だ。正しくは、鬼にならずに済んでいるだけの人間だが」
「オニ……?」
「それについては後で話してやろう」
構えたまま首を傾げたアネルに向き直る。
遠慮は要らないのだ。
この喧嘩を買って正解だった。

紅摩の身体中が歓喜している。これほど楽しいのは久方振りだった。
血液が熱くなる。掌に、腕に、つま先に、膝に、熱が籠もる。
ごきごきと鈍い音を響かせながら握った拳の隙間から熱気がこぼれてしまいそうだ。
「うむ。ケリをつけてから、だな」
対して少女は構えを解く。
祈るように願うように両拳を突き合わせ、瞠目した。
大気がざわめく。木々が鳴いた。
火花だろうか。瞬く間に、熱い光が紅摩を突き抜けていった。
開眼した少女を、太陽光のような金の輝きが取り巻く。

人間のどこをどう弄くったらこうなるのかなど紅摩には全く想像もつかない。ただ、綺麗だな、と感じた。
孔雀石のようなのに透き通った、しっかりと意志を持っている瞳は、こちらを見据え続けている。

「折角の喧嘩に折角の相手だ。残念の無いよう、手を尽くして――闘(や)るか!」
「望む所だ!」

ぎゅ、と大地を踏みしめて。
異なる熱を纏った男女は、合図も無いのに同時に相手に向かって地を蹴り、跳んだ。

284:黒鬼と銀奴9/10
12/07/12 12:38:43.36 発信元:220.156.248.68
夕日も地平に隠れ切り、夜の帳が下りた広場。
本当に手を尽くし全力でぶつかり合った二人が、地面に横になっていた。
さながら青春漫画の如しである。
明るい月が東の空からのぼり、地上を淡くも明るい光で照らしている。
今夜は奇しくも満月だ。酒が欲しくなるがまだ金が無い。
自動販売機のコーラ一本購う金すら持っていない。

「この世の全ては有為転変。次に勝つのが俺かどうかは分からん」
「……慰めているつもりか、それは」
「分からん。分からんが……そうだな。多分、そうだ」

互いに内なる火焔を出し合っての全力勝負を制したのは、軋間紅摩だった。
手数足数で拮抗してきた少女の身体を何度掴み何度地面に叩き付けたかも分からない。
少女は何度も立ち上がってきた。
緑の眼光の強さを弱める事など一度たりともなかった。

何度となく倒し倒され立ち上がっている内に、
まだ何もしていないのにぱたりと仰向けに倒れてしまったのが、彼女の方だったのだ。
勝者となった紅摩も満身創痍だ。
彼女が天を仰いで倒れたのを見て、やれやれ、と自身にも倒れる事を許したのだった。
柔らかくもなんともない土は堅く冷たく痛いぐらいだったが、火照った身体には丁度良い。

「オニというのは何なんだ」
「日本の伝説上の化け物だ。人型で、頭に角を生やしている。
 人を食ったりさらったり、害を及ぼす事もあるが、神にも近いとされる。酒と宴会が好きだというのが通説だ」
「お前は、その鬼なのか」

角などないように見えるが、と、アネルの顔がこちらを向いてくる。
土煙と焦げ臭さにまみれた銀髪だが相変わらぬ美しさだ。

285:黒鬼と銀奴10/10
12/07/12 13:01:32.07 発信元:220.156.248.68
「厳密には鬼ではない。鬼と人との混血、その末裔だ」
「人を食うのか?」
「食うか!……俺が好きなのは酒だ」
「酒は、飲んだことがない」
「勿体無いな。今度飲ませてやろうか」
「うん」

この美麗(それこそ酒の肴になり得るほどの麗しさである)
とも言うべき少女は尋常でない強さを持っていたが、
こうして話してみると、じきに成熟しようというその外見や言葉遣いにそぐわない
幼さと素直さを持ち合わせているのがよく分かった。
大抵の場合発する言葉は至極ストレートで、飾り気が無い。
疑問点はすかさず問いかけてくる。こちらの言葉を疑ったりする事が無い。

「私は、さっきも言ったが、改造を受けた人間だ。クローンでもある」
「“くろおん”?」
「“コピー”。“複製”だ。だからきっと、親など居ない。居るのはオリジナルと、似たような仲間だ」
「そう、か」
「こんなに自分の事を話したのは、仲間以外では、お前がはじめてだ」

少女は、妙に清々しい顔をして満月を見上げる。気持ちの良い、白い気質。裏表など多分無いのだろう。

286:黒鬼と銀奴11/10←
12/07/12 13:13:00.99 発信元:220.156.248.68
「さて。俺は勿論、お前にも飲ませてやるには、大会で一つでも多く勝ち進まねばならんな」
「じゃあ、組んでくれるのか?」
「願ったりかなったりというやつだ。組んでくれれば寧ろ俺が助かる」
「よし、なら、組もう」
アネルがちょっと嬉しそうに頬を緩める。
雪のように白い肌に、ほんのり紅色が差していた。
参加受付は当日朝までやっていた筈だった。
明日(既に今日かも知れないが)の朝一番に会場に向かえばそれでいい。

「お前の事は、何と呼べばいい?」
「うん?」

――そういえば。二人は互いに対しては、きちんと名乗ってはいないのだった。
今更なその事実が可笑しかった。声を上げて笑う男に、少女は横たわったまま首を傾げる。
「軋間、紅摩だ。何とでも呼べばいい」
「それなら、紅摩と」
「俺は、お前を何と呼ぼうか」
「私の名前は、アネル=ロランジュだ」
「では、アネルだな――アネル」
「なんだ、紅摩」
「少し、眠るか」
「うん……」
少し、喋り疲れた。こんな風に誰かと会話した事など、今まであっただろうか。

群青の空、満ちた月光、煌めく星空の下。
男女は疲弊した身体を硬い地面に預けたまま、目蓋を閉じる。
誰に教えられたわけでもないのに、疲れたからと横になり、自然に目蓋を閉じる。

二人のヒトの子。鬼と人の混血児と複製・改造された人間。
そんな二人が自身らの共通した力を取り上げられ、“大炎上”という徒名の二人組として世に現れるまで、後、数時間。

287:黒鬼と銀奴12/10←
12/07/12 13:16:33.29 発信元:220.156.248.68
さて。
ひとりの相棒を得た黒鬼は、しかし、街に長くは留まらなかった。
数日経たない内にまた山をのぼり、里を抜け、林に入り、黒鬼の棲む森へと帰って行った。
酒を求めて街へ下りたはずなのに、その大きな手にはなあんにも持っちゃあいないみたいだった。
それなのに上機嫌で畦道獣道を歩いて行く黒鬼に、みんながきょとんとしてしまった。

それからまた数日経たない内に、街から山へ、山から里へやって来た者が居た。
見目麗しいその娘。櫛を通す髪は銀。肌は白雪。
瞳は深い深い湖のように透き通った色をしていた。

娘は見とれてしまっていた里の住人にこう聞いた。
「黒髪・隻眼の男を知らないか?」
里人は大層驚いた。
夜闇の鴉みたいに黒い髪に潰れた片目。
それは黒鬼の事としか思えなかった。

「お嬢さん、黒鬼に何か用かね」
「黒鬼?……そうか」
娘は妙に得心がいった様子で頷いた。

里人は黒鬼の棲む森を教えなかった。
美しいその娘が鬼に騙くらかされているに違いないと。

段々の田んぼやら畑やらの真ん中で困ってしまった娘を見兼ねた童が、
大人が止めるのも構わず駆け寄り聞いた。

「おねえさん、黒い鬼いさんに何か御用?」
「うむ。棲んでいる森に来いと言うから会いに来たのに、詳しく道を聞いていなかったものだから、道が分からないんだ」

288:黒鬼と銀奴13/10←
12/07/12 13:17:56.04 発信元:220.156.248.68
「おねえさんは、鬼いさんの仲間なの?」
「そうだな。相棒と言うのかな」
「そんなら、あっちの道を真っ直ぐ行けば、段々深い森に入って行けるから。
 黒鬼が決まって通る道があるのさ。迷ったって平気さ。鬼いさんが見付けてくれて、村まで連れて行ってくれるもの」
「そうなのか」
「ああ。あの黒い鬼いさん、背格好はおっかないけど、優しいよ」
「うん」
娘は、童に教えられた通りに道を真っ直ぐ歩いていって、林の中に消えてしまった。
戦々恐々としていた里人達だったが、
けろりとした顔で戻って来た娘に仰天して、大勢で囲んで口々に問い掛けた。
「鬼は居たかね?」
「うむ」
「どこにも怪我は無いかね?」
「無い」
「鬼に何もされなかったかね?」
「ああ。二日酔いだと言うから、お使いに走らされたんだ。良かったら何か、二日酔いに効くものをくれないか」
娘はさらりと、こんな風に答えた。
黒鬼が二日酔いだなんて!!
里人達はますますびっくり仰天、ひっくり返って驚いた。

娘は村人どもに譲られた肝(かん)に効くという薬草などを
両手に山盛り抱えて、また森へ入り、そしてまた戻って来た。
ありがとう、と村人や童達にお礼を言って、里から出て行った。
それから、その美しい娘が里にやって来る事が、段々と珍しい事ではなくなっていった。
鬼の相棒を名乗る娘をはじめはみんな気味悪がったが、
竹を割ったような性格をした娘に、みんなが心を開いていった。

――酒好きの黒鬼の元へ足繁く通う銀髪緑眼の見目美しいその娘を、
里の者達はいつしか、“銀奴(ぎんやっこ)”と呼ぶようになったとか。
おわり

289:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/12 13:23:13.26 発信元:220.156.248.68
投下完了ー バイさるひっかかった上に10レスでおさまらなかった…
改行制限、文字数規制、侮り難し

290:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/12 21:46:55.01 発信元:60.239.18.181
>>275
乙ですー 昔話みたいなほのぼの空気がたまらねえ
お前ら現代の鬼と超科学の申し子だろうにw

291:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/12 21:54:35.92 発信元:206.223.150.45
>>275-289
ヒャッハー大炎上の人だぁーっ! 馴れ初め話乙です

ノリノリで書いてて字数膨らむのも愛だから仕方ないね

292:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/12 23:39:15.90 発信元:111.86.147.108
なんともほのぼのとした大炎上だ
GJです

293:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/23 19:12:15.30 発信元:206.223.150.45
保守~

今書いてるブツがまぁた長ったらしくなりそうだが、やっぱロダ使うべきですかねぇ

294:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/07/23 23:28:33.87 発信元:111.86.147.111
自分のやりやすい方で良いと思う
何レスも使うとサルになるかもしれんがロダなら1レスですむ

295:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/08 23:30:59.20 発信元:210.153.84.34
ああ…大炎上以外のが書けた…!
5レスくらいいきます

※現代の忍者 ※ちょろっと甘味処六文銭 ほのぼのー?
※口調や設定に捏造が見られます ※師範は出ないよ! ※ロリコンちゃうわ!(説得力/zero)

296:あまみどころ1/5
12/08/08 23:32:44.90 発信元:210.153.84.34
あやかし・犬若丸一族縁の甘味処、稲穂庵。
みつまめ、あんみつ、しるこにぜんざい。
串団子、饅頭、練り切りに焼き菓子。
品書きに並ぶのは正に“かんみどころ”の名に相応しい品揃えだ。

それに加わる季節の菓子。
青い空、入道雲、鮮やかな色彩の花々。
噎せ返るような草木の香り、土の臭い、しょわしょわしょわしょわ、蝉の声。
夏、真っ盛り。

「んんん~っ、冷や冷やっとして、美味でござります~!」
元気よく上がる感激の声。
夏季限定メニューが並んだラミネート済みの品書きから少女が選んだのは、宇治金時のかき氷。
いわゆる氷あずきの抹茶シロップがけだ。
対して、少女の右隣、同じ床几に座した男の手にあるのは椀。
傍らに抹茶餡が乗った串団子。
色合い的に夏らしいと言えば夏らしい。

日射しを避ける傘は差されているがそれでも暑い。
見た目には涼やかだが冷たくはなさそうなそれら。
現代の忍者・小犬丸このはは度々左手側で折り目正しく姿勢良く正座して抹茶を啜る男に声を掛ける。
「影二殿は本当にそれだけでよいのでござりますか?」
「何度も言うが、我はこれでよい」
何度目の問答だろうか。
冷菓を楽しもうと誘ったのになあ、このはは少し残念がる。
この炎天下だ。
照りつける太陽だとか、上がってくる地熱だとかの中で食べるかき氷の美味しさと心地良さを共感したいと彼女は望む。
が、同じく現代の忍者である男・如月影二は要らぬと言う。
『忍者に好き嫌いなどない』と豪語しつつも実は甘いものが嫌いな彼にしてみれば、
こうして甘味処に付き合っている事自体が大変珍事なのであるが、頻繁に付き合ってもらっているこのははそうとは知らない。

297:あまみどころ2/5
12/08/08 23:37:03.46 発信元:210.153.84.33
感極まった声まで上げるこのはに比べ淡々と茶を啜り団子を口に運ぶ。
その佇まいは彼女から見れば大層オトナでカッコイイが、寂しいのもまた事実。
粗く砕けた氷の美味な事。
曇り一つない銀色の匙に乗る小豆と抹茶色の氷。
(斯様に美味な物でありますれば、影二殿にも是非とも味わって頂きたいのでござりまするが……)
小豆さえ無ければそう甘過ぎるわけでもないのだから、甘いものが好みではないらしい彼の口にも合うのではないだろうか。
犬耳の少女は眉間にしわを寄せてニンニンむむむ、と唸ったり、口にしたかき氷に表情を緩ませたりとなかなか忙しい。
「!」
何を思ったのか、ぴょこんと跳ねる耳に、伸びる背筋。
自分の取り分をすっかり平らげ口布を上げ腰掛け直し、日除けの影の下に居て尚日射しが眩しいのかどうか、瞠目している影二に、彼女が行動を起こした。
「影二殿、影二殿!」
男は呼び声に応え目を開き、少女を見る。
このはは赤い江戸切子の器に半分程残った氷あずきを匙にたっぷりと掬い、右手側に、すい、と差し出す。
そして一言こう呼ばわった。
「あーん、でござりまする!」
――暫時、沈黙の時が流れた。冷たい視線の一瞥の後、溜め息。
「……何を突拍子の無い事をやっている、阿呆」
「わふっ!?」
ガァン、と金盥がこのはの脳天目掛けて落ちてきたビジョンは恐らく気のせいである。
これならば、とわくわくきらきらした眼をしていたこのはの表情が曇る。
「ひ、一口くらい食して頂きたいと存じますれば」
「要らぬ。おぬしが好んで頼んだものだ、平らげればよいではないか」
「ですがですが、焼け焦げ兼ねないこの炎天の下にて味わうかき氷の甘露は、是非にも味わっていただきたく」
「要らぬと言った」
“もふもふ”にせよ何につけ与えられる側に回る事の多い彼女だ。
こうして分け与える側の上手い言い回しなど知らない。
そも、普段女の園に居るので通常運転となってしまっている『あーん』を退けられるなどとは露ほども思っていなかったのだ。

298:あまみどころ3/5
12/08/08 23:40:32.90 発信元:210.153.84.34
そうこうしている内に匙の上の氷は昼日中の気温にじわりじわりと溶かされていく。
頑なな態度で突っぱね続ける影二の目の端がその様子を捉えた。
説得に必死になってそれを失念したこのはの腕が揺れ、匙の中身が零れ落ちそうになる。
「……!」

さて、忍というものは、現代においても食物を粗末にすべからずという精神が骨身に染み着いている。
それもあってこのはが好きな甘味はこのはが食べるべきと影二は口を酸っぱくして諭していたのだが。

ぱくん。
覆面をずるりと剥き、それ以上少女の右腕が動かぬよう掴み取り、一直線に顔を寄せ、一口。

「……」
「……」
再び二人の間に流れる沈黙の時。

わなわなと震え始めた影二の所業を指差し叫ぶ男が一人。
「破廉恥ッ!!」
お分かり頂けただろうか。
戦国武将らしからぬうぶさが既に特徴の一つとして成り立ってしまっている青年、真田幸村。

少女が差し出していた匙を口にした。
それだけならば幸村も何も言うまい。
騒ぎ立てるに至ったその光景。
切磋に目測を誤ったのであろうか。
紫な忍者男の口蓋は、犬耳のくのいちの指先まで食んでしまっているのであった。

赤面してがちがちに硬直してしまっていたこのはがハッと我に帰りぶんぶん頭を振る。合わせて犬耳も揺れる。
「さっ、真田殿!これは違いまする!決してそのような、仰られるような、淫らな行為では!」
「みどぅわばっ!?」
木々の緑に映える鮮血。

299:あまみどころ4/5
12/08/08 23:43:30.95 発信元:210.153.84.33
勢い良く鼻血を噴出して天を仰ぎ倒れた幸村へ駆け寄る稲穂庵ウエイトレス・犬若あかね。
「幸村君、ゆーきーむーらーくーんっ、おーい!
 ……あっちゃあ。いつもよりひどい。昨日うなぎ食べ過ぎちゃったせいかな?」
返事一つせず卒倒したままの幸村にあかねは苦笑い。
「ごめんねこのはちゃん、お邪魔しちゃって」
「い、いえいえいえいえっ!邪魔などとっ」
「如月さんもごめんなさい。
 でも、TPOは弁えた方がカッコいいと私思うな」
「――……不可抗力だっ!!」
自身の行いにショックを受けてか固まったままだった影二が、ようやくこのはの手と匙から口を離し抗議する。
「いいのいいの照れなくて!心配する必要無かったわね、うん」
何やら勝手に納得して鼻歌など唄いつつ去るあかね。
自爆した幸村は犬若なずなの霊獣である真っ白い大きな犬“はやた”が口に咥えて引き摺っていく。
良すぎる天気の割に多い来客らは依然どよめいていた。

影二は握り拳を震えさせ、
「あの女狐……否、雌犬か。
 何を自己完結していたのかは知らぬが念を入れて口止めせねばなら」
「影二殿」
今にも店目掛けて飛び出していきそうな男の忍装束を摘んでちょいちょいと。
何かと振り向けば、少女はあどけなさをたっぷりと残した容(かんばせ)を、つるつるとした林檎飴のように赤らめて、
「お……美味しゅうござりましたか?」
――……などと、聞いてきた。

300:あまみどころ5/5
12/08/08 23:45:58.54 発信元:210.153.84.34
「――……」
中途半端に剥いたままだった口布をぐいっと下にずらし、彼はため息を吐く。

「……匙を寄越せ」
「へっ?」
「味なぞ碌に分からなんだわ。
 按配を見てやるから、それを寄越さぬか!」

半ばやけくそで叫ぶように影二は言う。
このはは一瞬きょとんとしてしまったが、そんな影二の態度に何だか可笑しくなった。
くすくす笑って、

「はい。
 どうぞお召し上がり下さりませ、影二殿」

と。
垂れていた尻尾をくるりと巻いて。
にっこりと、穏やかに、それはそれは嬉しそうに笑んで。
また、抹茶色のかき氷を乗せた匙を差し出した。

『匙を寄越せと言ったのだ!!』
という忍の者らしからぬ怒声が、程なくして真っ青な高い空に響き渡った。

301:295
12/08/08 23:49:03.54 発信元:210.153.84.33
投下完了ー
改めてスレ見てみたら連投でしたね、ごめんなさい(´・ω・`)

現代の忍者は俺の御庭番

302:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/09 03:05:23.49 発信元:111.86.147.109
これまた甘い物をありがとうGJ

303:sage
12/08/10 20:30:11.54 発信元:58.92.192.136
今日はハートの日、ということで3レスほど失礼します。

グリューヴァシー・リビングとジルチェ、「原初の水と不良」タッグ。

あまりハート関係ないかもしれません。

304:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/10 20:31:43.95 発信元:58.92.192.136
深い森の中、静かに湧き出る清水の傍らで一人座り込む女。
女の足元は水溜り、それは少女が人間ではないことを表していた。
それの正体は原初の水、「グリューヴァシー・リビング」、人の穢れそのもの。

そんな彼女…今は便宜的にそう呼ぼう。彼女の元に一つの影が現れる。
彼女は振り向き、露骨に顔を歪める。

「よう、来たよ。」
「ケッ、誰かと思えばお前か。つまんねーから帰れ。」

現れたのは一人の少年。名をジルチェ。

「いいじゃんいいじゃん。俺退屈してるんだよね。遊んでくんない?」
「ふざけんなナマモノ。死ねよ。」
「残念だけど俺はボクらだから殺すことはできないから。ざ~んね~んで~した。」
「じゃあ全員叩き潰せばいいんだろ?」

305:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/10 20:32:23.62 発信元:58.92.192.136
ジルチェ、彼もまた人ならざる存在である。
彼の正体は「無数の命を喰らい生きる生物の一部」。
故に彼を殺したところで彼らを殺すことは不可能である。
そして、生物を忌み嫌う原初の水にとっては、もっとも相性の悪い相手ともいえる。
まあ、彼「ジルチェ」の性格によるところが大きいのもまた事実だが。

「グリちゃんごときにできるの?マジで?」
「殺す・・・!」

彼女の手から蟲が飛び出し一直線にジルチェの元へ。
ジルチェはにやりと笑い自らの体の中から、臓器を取り出した。「心臓」を。
四散した蟲はその心臓を粘土を切るがごとくあっさりと切り刻む。

「ギャア!見て見て心臓潰れちゃったよ。いやあ死んじゃったな。」
「いいかげんにしろよ。」
「でもさ、グリちゃんって心臓も無いんだろ?ドクドクって動くものが無くて生きてる気はするモンなの?」

つまらなさそうな顔で心臓の破片をぐちゃぐちゃと砕くジルチェに対しいつもより冷ややかな声で彼女は答える。

「お前な・・・。」
「あれ?地雷踏んだ?」


306:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/10 20:34:45.79 発信元:58.92.192.136
彼女は堰を切った水のように言葉を並べ立てる。それは生半可に感情を持ったがゆえの怒りなのだろうか。
それは彼女にも分からない。少なくとも平生の彼女がとる仕草からは離れたものだった。

「心臓?そんなもん存在する必要ねーよ!一滴の水に過ぎないこの体にドクドク動くもん?笑わせんなナマモノ!」

怒られたと思ったのか少しふてくされながらジルチェは返す。

「・・・別にいいじゃん。俺はグリちゃんが水だろうが人間だろうが動物だろうが別にどーでもいいし。それにグリちゃん美人じゃん。」
「・・・おだてたつもりか。」

呆れたように頭を振り、いつもの雰囲気に戻った彼女に、ジルチェは楽しそうに答える。

「いや?そもそもグリちゃんおだてとか通用しないし?怒ったグリちゃんの攻撃避けんのはいい退屈しのぎになるし。」
「退屈しのぎ?・・・覚悟しやがれナマモノォ!」
「どんな攻撃来ても俺には余裕だから?え、ちょ、ちょっと待て!ナメクジは反則だろ!」

その後、巨大ナメクジを前に平身低頭して謝るジルチェの姿があったことは言うまでもない。

307:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/10 20:36:25.37 発信元:58.92.192.136
乱文失礼しました。そして名前間違えた。


308:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/12 05:13:49.31 発信元:202.229.176.176
乙です!グロいのに甘…い…?w

309:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/12 12:06:54.82 発信元:111.86.147.114
いろんな意味でネチョネチョしてそうだw

310:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/13 23:36:47.80 発信元:219.23.202.152
盆なのでちょっとしたSSを
URLリンク(www1.axfc.net)
パスはmugenです


311:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/13 23:54:02.56 発信元:202.229.176.154
>>310
ごっこw
賑やかで読んでて面白かったです。GJ!

312:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/14 03:45:42.20 発信元:111.86.147.101
シリアスかと思いきやwww
GJです

313:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/14 15:51:56.62 発信元:123.218.60.159
リーゼとデュオロンのSSを投稿します
ちょっと長いかも・・・

314:似た者同士 1/9
12/08/14 15:52:32.28 発信元:123.218.60.159
夜中の公園、そこには三人の人影がいた。
二人の銀髪の少女と長い三つ編みを垂らした中華風の男――
銀髪の少女のうち、幼い方が口を開く。
「こんどはいつ会えるの・・・えーっと、ゼニア・ヴァロフ」
その口調はどこかよそよそしかった。
「そうだな、次はロシアの辺境にまで赴かなくてはならないから・・・かなり時間がかかる。まあ、暇が出来たら手紙くらいは寄越す」
ゼニアと呼ばれた女性はその能面のような顔の口元を若干緩ませた。
「だから、そう残念な顔をするな。リーゼロッテ」
「うん・・・分かった」
その姉妹の微笑ましい光景をもう一人の人影がベンチから眺めていた。
名前をデュオロンと言った。
彼は隣にはぷよぷよと音を立てて「闇のアルカナ」ギーァがいた。
「まさかこんな大会で出くわすとは彼女らも思って無かっただろう。大体、我々がこんな馬鹿げた催しに出る事など有り得ないのだからな」
そう言うデュオロンの手には大金の入ったバッグが握られていた。
暗殺者である彼らは忍ばなければならない、しかしその彼らがその掟を犯してまでタッグ大会というものに出る理由は、賞金稼ぎのためだった。


315:似た者同士 1/9
12/08/14 15:53:48.30 発信元:123.218.60.159
いくら、法外な報酬をもらえる稼業と言っても限界がある。浮き沈みが激しく、依頼が全く来ない時期も存在し、資金が底を尽く事さえある。
そんな時仕方なく出るのがこの街で催されているという男女が組んで戦うという大会だ。
そこで、自分は彼女―リーゼロッテ・アッヒェンバッハと出会った。
自分と彼女の幻影および人形を使った暗殺術を応用した戦術で強豪を倒し、賞金を得ている。
今日はその過程で苦難の末に記憶を取り戻させたという姉に会う事が出来たという訳である。
デュオロンは口にする。
「今の彼女は幸せそのものじゃないか。何が『闇に彷徨う緋目の人形遣い』という通称が泣いているぞ」
横目でデュオロンがギーァを眺める。
「お前はリーゼロッテの闇を糧に生きる聖霊だったよな?なあ、幸せな彼女のどこに闇があるというのだ?もしかして、お前の趣味なのではないか」
皮肉を込めるデュオロンだったが、ギーァは大きく首・・・という体全体を振るった。それは否定を現すしぐさに見えた。<br>
「何?彼女の闇は消えていないだと?」
一応意思疎通は出来るようであり、デュオロンはギーァの主張を聞く事にした。<br>
「その証拠が彼女のよそよそしさといまだに姉をフルネームで呼んでいる事・・・」<br>
ギーァの主張をデュオロンが次々と代弁していった。


316:似た者同士 3/9
12/08/14 15:54:44.69 発信元:123.218.60.159
「そして何より、二人が離れ離れな事。あの者達が平和に屋根の下で暮らすまで彼女の闇は消える事は無いだと・・・ふふ、面白い事を言ってくれるな、聖霊よ」
デュオロンは大いに笑って見せた。
「一つ屋根の下の幸せだと?そんなもの、暗殺者である我々には一生縁が無いものであろう。おそらく、傭兵だというゼニア・ヴァロフにもな・・・」
一人と一匹が会話をしているうちに、姉妹は別れの挨拶に移っていた。
「じゃあ、またね、おね・・・いやゼニア・ヴァロフ」
「ああ、元気でやれよ。リーゼロッテ」
握手をし合い、二人は別れた。
「待たせたわね、デュオロン。さっ、行きましょう」
「ああ・・・いつまでも見送らなくていいのか?」
一応最低限の気を利かせたデュオロンであったが・・・<br>
「いい、名残惜しくなっちゃうから」
きっぱりと断られてしまった。


317:似た者同士 4/9
12/08/14 15:55:48.11 発信元:123.218.60.159
ホテルに帰って、リーゼロッテは椅子に腰掛け本を読み、デュオロンは紅茶を淹れていた。
別にルームサービスでもいいのではないかと思うが、何故かリーゼロッテはデュオロンの紅茶を気に入ったようだ。
もともと飛賊に居た時もウーロン茶を煎じていたのでお茶の極意は分かっていたが、まさか毎回淹れる事になるとは思わず、苦笑してしまった。
「まったく、私とした事が、何をしているのやら・・・」
そう呟くのも無理はない、自分の目的はこんな大会に出る事でも、ましてや10歳児に紅茶を注ぐ事でも無い。自分の父親を探す事である。
実は大会に参加するのもその情報集めや、あわよくば参加していないかという思いがあるからだ。しかし結果はいつも空振り。
今回こそは情報くらい集まるだろうと期待していたのだが・・・さすがにここまで空振りを食らうと精神的に来るものがある。
――などという事を考えていたせいか、いつもより濃い目の紅茶が出来あがってしまった。ちなみにリーゼロッテはまだお子様なためか薄目が好みだ。
もちろんそれを飲んだリーゼロッテは顔を歪ませた。
「濃い・・・」
そう一言だけ、文句を言った。
毎度の事だがこの暗殺少女は苦手である。手が掛からないのは幸いだが、その感情が読めない。何気ない言葉で怒らせ、緋目を食らってしまうなど日常茶飯事だった。
「デュオロン、あなたさ」
しかし、きょうは勝手が違い、彼女の方から言葉が返ってきた。


318:似た者同士 5/9
12/08/14 15:56:37.24 発信元:123.218.60.159
「焦ってるでしょ?」
「・・・・・・」
図星であった。その鋭い洞察力にデュオロンは顔に汗をにじませるという暗殺者にあるまじき行為を取った。
「あなたの事情なんか知らないし干渉もしようと思わない、でも私には分かるよ。あなたは今焦ってるってね。だって一時の私にそっくりだもの」
「何?」
それは意外な言葉であった。
「もしかして、探し人でもいるの?」
そこまで話されて、デュオロンは観念したように彼女の口を塞ぎ、大きなため息をついた。後ろでギーァが笑ったような顔をしてそうだった敢えて無視した。
「正解だ。さすが暗殺者、その勘と洞察力には完敗だ」
「それはお互い様よ。あなたの淹れてくれた紅茶の味が違って無ければ、私も気付かなかったわ」
それで気付かれるとは何とも情けないというか、呆気ないというか・・・デュオロンは笑うしかなかった。<br>
「ああ、そうだよ。俺は父親を探している。今まで何度も大会内を聞きこんだんだがまるで収穫が無い。さすがに精神的に参っている」
「同じだね。本当に同じ」
「何だと」
ここで初めてリーゼロッテが笑ったような気がした。
「私も、ゼニア・ヴァロフ――いや、お姉ちゃんを探すのに躍起になってた時期があるの。それこそ、今のあなた以上にね」
初めて彼女の口からお姉ちゃんという言葉が聞け、デュオロンだけでなく、ギーァでさえも飛び上がって驚いた。


319:似た者同士 6/9
12/08/14 15:57:19.45 発信元:123.218.60.159
「今考えれば信じられない話よ。私が大好きな人のメールを後回しにして、仕事の依頼を忘れるなんて暴挙をやっちゃったのよ?」<br>
それは確かにそうだ。暗殺者で無くとも、仕事をする人間にとっては最低の行為である事は明確であった。
「彼女を目の前にして、暗殺稼業に入って初めて怒ったり泣いたり、最後には笑ったり・・・本当に私が私じゃないみたいだったわ」
懐かしむような目でリーゼロッテは語り、文句を付けた紅茶に再び口を付けた。
「あの時もし私も紅茶を淹れられたら、こんな代物になっていたでしょうね」
つまりそれは・・・デュオロンはある事を確信した。
「要するに私達は似た者同士って事なのよ」
そう締めくくって、リーゼロッテが紅茶を飲み干し、ゼニアがお土産に持ってきたしっとりしたクッキーを摘み、口に放り込んだ。<br>
「・・・・・・」<br>
「・・・・・・」<br>
しばしの沈黙が流れる。デュオロンにとっては何とも居心地の悪い雰囲気であった。<br>
「ぷ・・・うふふっ」<br>
その沈黙を破ったのはリーゼロッテの笑いだった。明らかな笑い、微笑みとか苦笑とかそういうレベルではなく、爆笑に近いものだった。
その見た事も無いような彼女の姿にデュオロンは立ち尽くした。


320:似た者同士 7/9
12/08/14 15:58:24.74 発信元:123.218.60.159
「あー、おかしい。こんなに笑ったのは愛乃はぁとに“からおけ”に連れて行ってもらって以来だよ。本当に笑える」
「何が笑えるのだ、こっちは真剣なんだぞ」
あまりにも笑いが続くので、さすがにデュオロンも腹が立ってきたようだ。
リーゼロッテは痛くなったお腹を押さえながら、続ける。
「だってそうでしょ?暗殺者ってだけでなく、誰かを探してるっていう事も、さらにあなたは現在進行形だけどそれに焦ってたって所まで一緒なんて、偶然にしちゃ出来すぎてて・・・もう、ぷっふふふ」
笑いの衝動がぶり返したのか、また、リーゼロッテは笑って見せた。
一方のデュオロンは呆れたように苦笑していた。
「言われてみればそうだな。もしかすると、前世は生き別れの兄妹だったのかもしれんぞ。まっ、こんな事を言ったらゼニア・ヴァロフに睨まれそうだがな」
「まぁね、ああ見えて、お姉ちゃんは私の事かなり想ってくれてるから。もちろん、私の方も・・・だから会える機会が増えるまでこのお姉ちゃんで我慢するんだ・・・」
リーゼロッテの手の中には人形かつもう一人の姉、「エルフリーデ」があった。
「リーゼは、良イ子ダネェ。お姉チャン、嬉シイヨ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
その様子を見て、デュオロンは思う。
突然飛賊を壊滅させ、姿を消した「裏切り者」、自分はそれと対峙した時冷静に対処できるのか、もしかしたら彼女のように激昂したり、泣き喚いたりするかもしれない。


321:似た者同士 8/9
12/08/14 15:59:07.97 発信元:123.218.60.159
しかし、それでも自分は探す義務がある。
何故なら、ゼニア・ヴァロフが彼女の姉なのと同じく、どんな卑劣な輩でも自分のかけがえなの無い父親なのだから。
「デュオロン、紅茶おかわり頼める?」
滅多に頼まないおかわりにデュオロンは悪戯な笑みを浮かべる。
「おや、どういう風の吹きまわしかな?何かいい事でもあったのかな」
「う・・・うるさい。とにかく淹れなさい」
そっぽを向くリーゼロッテだったが、その頬がかすかに赤らんでいるのをデュオロンは見逃さなかった。そして、それを見て笑いながら、わざとらしくため息をついた。
「はいはい、分かりましたよ。わがままな暗殺お嬢様」
デュオロンの言葉を無視してリーゼロッテは思う。
そして、デュオロンも皮肉を言いながらも考える。

自分と似た者と出会えて、本当に良かった――と


322:似た者同士 9/9
12/08/14 16:02:10.33 発信元:123.218.60.159
後書き的なもの

恋愛関係というよりは仕事人仲間ってイメージですね
ちなみにリーゼの本命はここでも相変わらずはぁとです(笑)
お付き合いありがとうございました

323:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/14 16:48:38.82 発信元:202.229.176.174
本命が別にあるせいかどうか、なんとなく大人っぽい雰囲気…ごちでした
ギーァと会話するデュオロン想像したらなんかシュールw

324:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/16 13:05:15.38 発信元:206.223.150.45
乙ー 劇団四人もいいけど二人でも美味しいよね


しかしアルカナ認識できる相方だとネタ出し楽しくなるなw
主人の色恋を全力で(時に脱線気味に)後押ししてくる聖霊どもと、それが視えてしまう男達とかww

325:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/17 21:33:20.54 発信元:111.86.142.207
>>313-322乙! この二人に対するアッシュやシェンのリアクションも気になるww


アルカナと会話かー
・ブラックハート…まぁ可能だろう
・カイ…法力あるからいける筈。ソルも同様だが、オレイカルコスとはウマ合わない気がするw
・ブリジット…厳しいかも。でもロジャーには見えてそう
・正宗…原作で信長や光秀と戦ってるし、霊体の認識までは出来るか。幸村も同様
・トキ…無理っぽい?
・影二…この中じゃオカルトから一番縁遠いよ!
・ジャギ様…原作準拠ならアウト、石油カナならセーフ
・承太郎…ジョセフの霊と会話してたし、大丈夫そう
・Drドゥーム…一応可能か。でなけりゃ発明で何とかしそう
・ネロ…いけるっしょ。でもゴットフリートはトゥエルブみたくデジタル的な話し方してそうw

326:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/18 10:46:03.70 発信元:111.86.142.203
> アルカナと会話
何処ぞの炎の聖霊は某疾風の人狼がアルカナ化した姿、というネタを見たのはアンサイクロペディアだったか。

327:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/18 17:16:46.12 発信元:60.35.126.71
いきなり話の腰折れるけど自分KOFラスボスと東方の男女タッグ大好きだから少しまとめてみたんだが・・

ルガール+八雲紫=「ボーダー運送」
クリザリッド+紅美鈴=「中間中国」
無界さん+天子ちゃん=「石使い」
禍忌+パチュリー=「紫もやし」

って感じで、ラスボスの残りのメンツがゲーニッツ、オロチ、イグニスなんだけど

オロチには元々嫁っぽいのいるしイグニスには一応ニトロワのイグニスとの「二人はイグニス」で自分は満足できるからこの二人はこれでいいんだけど

ゲーニッツが問題なんだよなー 「神のご加護」が個人的にイマイチパッとしなかったのもあるけど
東方で風つながりの射命丸と早苗にも今はそれぞれいい相方いるし・・・

もう逆転の発想でΩゲーニッツ+天魔様=「おい、風使えよ」的な狂った男女タッグが見たい今日この頃

だらだらと長文失礼しました    え?誰か忘れてるって?そんな事h(んんんんんんんんんんんんんんんんん

328:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/18 17:45:31.85 発信元:60.35.126.71
連レス失礼

ゲーニッツはヨハンとの絡みによく注目されやすいけど趣味がロッククライミング
だからそれを生かした東方の妖怪の山勢との絡みはもっとあっていいと思うんだ。


329:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/18 17:56:51.12 発信元:59.128.163.178
神のご加護好きな俺涙目。

330:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/18 18:46:07.96 発信元:60.35.126.71
いやスマン やっぱ好きな人沢山いるよね 神のご加護 話に出しもしなかった牧シスターに免じて許してくr(コレガシンバツデス!!

331:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/18 19:17:47.16 発信元:111.86.147.100
サイキ「……」

332:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/18 21:30:43.27 発信元:60.35.126.71
サイキMUGEN入りしてるの!?石使いでサイキタコ殴り動画はよ

333:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/18 22:24:06.15 発信元:206.223.150.45
某File-Xでマガキさんら数名に精神的ボッコにされてたなw
もう筋肉モリモリマッチョマンのHEN★TAIになるしかないのかww

334:327
12/08/18 23:32:33.25 発信元:60.35.126.71
少し色んなMUGEN動画適当に飛び回ってたんだが「狂キャラ72人でバトロワ」っていう男女タッグとは
ほど遠いような動画の敗者復活戦にてΩゲニと天魔様が対戦しているのを確認出来てびびったw

ちょーテキトーな思いつきがいざ同じ戦場に立つとそれなりに絵になってて少々驚いたんだが・・
そこまではよかったんだけど・・この状態のこの二人組ませたら世紀末ってレベルじゃないねw
「元々のランク」が違うせいで某ダブルドラゴンファイヤーがかわいく見えるから困る。
    ↑ここ重要

でもそれこそ逆転の発想でこれくらいのランクでの男女タッグ大会が見たいと思ってしまう俺は間違いなく病気

335:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/19 01:43:54.45 発信元:210.153.87.162
そこで魔改造(またはご乱心)夫婦の出番ですよ
っつーかあんな変態が目立ちまくってて当の偽ゼロはどんな心境なんだろww

336:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/19 08:03:29.08 発信元:60.35.126.71
ってよく見たらこの大会ボーダー運送コンビいるじゃないですかーやだー
よく見たら音量注意らしき二人もいるね  そして金色に光るジョンスと魔理沙のような何か
共通点だけで無理やり組ませるならマグニと姫様で「ニートのような何か」コンビが作れるな

・・・なんか少し頑張れば元々のランクだけなら作れそうと思えるから困る  
みんなほぼ原形とどめてないけどな!!



337:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/19 12:01:35.16 発信元:60.35.126.71
もしΩゲーニッツと天魔様が本当にタッグを組んで大会に出た時の
二人についての紹介と試合終了後のやりとりを少し妄想してみた  喋っている奴等は各自脳内で想像してくれ

「そして対するタッグはΩゲーニッツと天魔様です!」「この状態での男女タッグは初参加の二人だな」
「ゲーニッツといえば・・・吹き荒ぶ「風」だな」「そして天魔様は確か・・あの射命丸文さんの上司的な方でしたっけ?」
「いやいや天魔様は全ての天狗の頂点であり、妖怪の山に住む天狗達や河童など山の妖怪たちの長としても有名な方だ」
「吹き荒ぶ風と天狗達の長のタッグ・・・」「F5竜巻動画ですねわかります」
試合開始・・・
             K.O
                      試合終了・・・
「おい、風使えよ!」「吹き荒ぶ風とは一体・・うごご」「あれ?ガンブレード?葉団扇は・・?」

Ωゲニ&天魔様「いやこの状態の私たちもう風使うキャラじゃないんで・・・」

こんな感じかね?
・・・しかし自分に文才スキルが無い事が改めてわかった

338:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/19 13:24:34.01 発信元:202.229.176.54
言いたかないが、そろそろ半年ROMったほうがいいんじゃないかな。
少なくともsageぐらいしてくれ

339:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/20 13:58:30.46 発信元:206.223.150.45
大昔このスレでオロチ一族は皆ペドなんじゃねえかと呟いた事があるが
(神オロチ×イグのん、ゲニ×ヴァニラさん、社×羽入)
ただ今某大会で社と組んでるオヤシロリカなら辛うじてセーフではなかろうか

340:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/22 11:14:43.91 発信元:124.146.174.230
見張りコンビが気になる今日この頃です

341:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/22 11:55:17.16 発信元:61.208.178.195
ラドンと射命丸ってMUGENじゃまだタッグ組んでないんだっけ

342:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/22 18:26:32.53 発信元:111.99.45.34
ゲニはクラリスとか社はスーラとかのグラマラス女性とのカップリングもあるでよ

343:sage
12/08/22 20:56:19.97 発信元:210.153.87.162
オロチ一族の最近のタッグ事情
社・・・あばよ!と地球破壊する暴力クローン
シェルミー・・・地獄門に落ちて色んなものを置き忘れてきてm9(^Д^)する殺人狂
クリス・・・覚醒してしまった(する危険性がある)魔界の血を引いた女

オロチ「もうやだこの一族」

ゲニ「いや、ロリコンのあなたに一番言われたくないですよ」
クラリス「あらあらまあまあ、魔族と組んだ酔狂な神父さんはどこの誰でしょうねえ?」

344:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/22 22:49:49.55 発信元:111.86.142.202
そんな中でちちしりふともも三拍子揃った相方持ちのザキさんマジパネェっす!
性格はアレだが

345:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/26 04:30:51.43 発信元:114.148.203.225
ゲニ×クラリスの牧師シスターコンビは微笑ましかったw
んで妄想ネタを一つ

・『取材』

日曜礼拝の来てくれた子供達に手作りのアンパンを配る、近所でも評判な仲良し牧師とシスター。
じつは牧師はガイアを汚す愚かな人類が嫌いで嫌いでしかたない『オロチ八傑集』で、
笑顔がかわいいシスターさんは魔界の住人で『人化の罪を負いし魔界公女』だったのです。
さて今日はそんな二人の下に天狗マスコミが取材に来ました。

「ど~も!清く正しい射命丸です。早速ですがゲーニッツさん、人類抹殺諦めてくれましたか?」
「ふふふ、さてどうでしょうか?」
「そうですか。オロチ復活すごいですね」
「それほどでもありません」
「やはり諦めてくれませんでしたー!人類滅んだら幻想郷の妖怪とか神の存在意義やばいんでやめてください!」

そんな二人(妖怪と人間)のやりとりを頭に汗マークをだしたように、困ったように眺めるクラリーチェ。

「あらあらだめですよ、レオ。そんなことしたらエルザが哀しむじゃありませんか」
「ふむ、愚かな人間は嫌いですが『魔族』と『妖怪』は好きなので抑えるしかありませんか……残念です」
「ほ、ほんと、頼みますよ、クラリーチェ・ディ・ランツァさん。ゲーニッツさん貴方と出会ってなかったら平気で行動起こしてましたら」
「うふふ。まかせてください」

互いに微笑みあう、ほんわかとしたクラリスとゲーニッツのツーショットを撮影しながら文の取材は続いた。
休日の過ごし方はゲーニッツの風に、伸ばした悪魔翼で受けながら浮かぶのがクラリスの趣味とのこと。
クラリスへ社会常識を教えながら、環境汚染をする愚かな人間ブラックリストを作成するのがゲーニッツの日課で、
それを破るのがクラリスの日課とのことだった。


346:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/26 10:38:03.69 発信元:210.153.84.135
>>345
ゲニは物騒だけど和んだ
GJ!

347:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/26 21:21:19.03 発信元:206.223.150.45
だから何でアルカナ勢はおっかねぇ奴やら物騒な奴やらと組みたがるんだww
乙ですー

348:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/27 11:54:47.93 発信元:111.86.147.114
ゲーニッツをレオパルドのほうで呼ぶとは、クラリスさん凄いです

349:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/08/30 19:22:55.91 発信元:206.223.150.45
支部の某絵を見て「ガチ敵対関係から始まるCPもアリだな(迫真)」と思えるこの頃

350:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/09/05 19:26:27.24 発信元:111.86.142.205
とりあえず読書の秋という事で各カプに本贈っておきますね


つ ゼク●ィ

351:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/09/06 01:33:19.33 発信元:101.1.116.160
>>350
好きな男女タッグのハッピーウェディングが全力で脳裏を駆け巡った!
ゼ●シィはいいものだ…

352:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/09/06 19:41:03.50 発信元:124.99.239.188
読書で思い出した

読書が趣味のゲニ子はこれっていう相方が少ないのは気のせいかな?
系列が多すぎて組ませる側も困ってるのかな?(ちなみに私はシュリセル派)

353:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/09/11 08:33:25.18 発信元:206.223.150.45
やっぱMUGEN世界のゼク●ィだと異種族婚特集とかやってんのかねww

354:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/09/11 21:25:59.64 発信元:122.19.146.252
ゲニ子はストーリー動画でのカップルが多い印象だわ。

355:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/09/11 22:57:43.78 発信元:111.86.142.201
MUGENゼク●ィ10月号「異種族婚特集」
・カレは狼!ライカンスロープとの愛と結婚
・愛されメタルボディメンテナンス!
・私達が角隠しを被る、本当の理由
・子供はできる?できない?愛と遺伝子のMUGENの可能性

356:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/09/12 20:17:52.97 発信元:111.86.142.202
>>355
一番目と四番目から明らかに月の策士臭がしたが気のせい ダツ タヨ ウダ

そうか…今年は人狼イヤーだったな…

357:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/09/15 19:54:41.39 発信元:206.223.150.45
つまりMUGENゼ●シィはカップリング支援団体が発行していたと言うのかw


E琳「という訳で今月は獣人、特に人狼特集で行くわね」
Lーゼ「解った。その代わり来月号は魔族特集にして」
Gース「そろそろ歳の差婚特集を組みたいのだが」
Aギラス「春先にやったばっかじゃねえか! 怪獣特集…だと怪しまれるから竜特集マダー?」

358:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/09/24 02:18:47.65 発信元:124.146.174.39
そろそろ月見かな。
月関連キャラはセンチメンタルになったりすんのかね

359:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/09/24 14:02:33.03 発信元:122.26.10.178
>月見
アカ白でネタ『月見ダンゴ』

命蓮寺の台所で聖白蓮が今夜のお月見への下準備をしている。
手馴れた手つきで米粉に水を入れてこね、手のひらで転がして丸く整える。
白蓮の心中が現れているせいか、どこか可愛らしい感じがするお団子だ。

白蓮「ふふ、これぐらいあれば『みんなの分』は充分ね」

やさしく微笑む白蓮。
割烹着を着て、長く美しい髪をきれいに結った頭に三角巾を被った白蓮はどこかお母さんという感じだ。

星「聖~~。アカツキさん用のダンゴ粉持ってきたよ~~」
響子「持ってきたよ~~♪」
ナズ「これこれ、響子よ家内で反響させない」
水蜜「……重かった……沈むかとおもった」
一輪「ガロンさんやブロントさんにクリザリッドさん、とにかく大勢の殿方が途中から手伝ってくれてほんと助かりました……」
小傘「あとでお礼しないと(驚かし的な意味で)」

買出し部隊が補給物資を『満載』して戻ってきた。

白蓮「ありがとう、みんな。休憩したら『アカツキさんの分』を造りはじめましょうか」
妖怪ズ「「「お~!」」」

夕方
ぬえ「なんだ~~~!?この正体不明な量のダンゴはぁ!?」



360:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/10/04 17:14:54.06 発信元:111.86.142.204
>>358
月関連…永夜抄・∀ガンダム・セラムン勢辺りか

そもそも月の中身がフューリーの方舟だったりする可能性もだな(ry

361:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/10/09 13:09:54.59 発信元:122.26.10.178
優曇華「うわっ、寒い!昨日まで夏みたいに暑かったのに!」
ガロン「だから天気の変わりに気をつけとけと言ったろう」
優曇華「ううっ……ガロンちょっと私を包んでよ」
ガロン「(俺はガウンか?)はいはい」

362:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/10/09 22:56:49.49 発信元:111.86.143.195
>>352
ゲニ子はエロ方面に旦那というかご主人様が多いから……という状態はおいといて、
個人的にはKOF96以降、京をゲーニッツの仇として追ってる内に何か芽生えるけど既に恋人がいる為に悶々としたりして何だかんだで腐れ縁のライバル関係に落ち着き、全部把握してる庵に鼻で笑われ、その後新しい彼女になる所まで妄想してる。

363:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/10/14 01:27:39.12 発信元:221.185.220.145
>>362
妄想長い

364:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/10/15 13:55:05.09 発信元:124.146.174.65
むしろこのくらいの妄想力はないとダメだろう、このスレ的には
というかそこまで妄想できるなら形にしろって話か?

365:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/10/15 22:26:00.61 発信元:206.223.150.45
そうは言うがな大佐
ネタが浮かんでいざメモ帳に向き合うと今度は文才の無さが立ちはだかるのは稀によくある事

執筆中の月見SS、今月中には投下してぇなぁー…

366:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/10/18 22:06:11.31 発信元:124.146.174.196
小ネタ投下します
多分4レス以内。

※大炎上 ※ひたすらほのぼの ※キャラクターの設定や口調の捏造あり

367:侘びしげな夕暮れどきに1/4
12/10/18 22:09:13.47 発信元:124.146.174.196
河原や野道で揺れるすすき。
稲穂の黄金、赤とんぼ。
色濃く香る金木犀。
視覚に嗅覚に訴えかけてくる季節感。

日に日に彩られていく景色は、少女にとってどれも新鮮だ。
何ということのない路傍の花に気を取られるようになったのはつい最近のこと。
共に過ごす事が多くなった人物から受けた強い影響。
彼がはっきりと口に出した事など一度も無いが、彼は多分、この国の自然を好いている。
鬼の徒名に相応しく厳しい瞳が、花鳥風月に向けられているときは、明らかに優しく穏やかになるのだ。
男が稀に浮かべる表情を、少女はいつしか好きになっていた。
それだから彼女は声を掛けないままでいた。
ゆったりとした空気を纏う彼の横顔を盗み見るに留める。

幾数も飛び交う数え切れない数の赤とんぼ。
名も知らぬ野花に野草がぼうぼうの河原。
男が視界の焦点を一体どこに合わせているのかは分からない。
少女は少女で、紫に染まりゆく鱗雲だとか、白い花に戯れる一対の蝶々だとか、
向こう岸に生えた木になった橙色の木の実など、好きな方向にゆるゆると視線を動かしていた。

そうしていたら聞こえてきた声。
大勢のものだ。
少女が、何だろうかと声がする方へ顔を向けると、何やらやたらと大きなものを担いだ大勢の男達の姿が橋の上にあった。
少女の隣で景色を眺めていた男もそれに視線を投げたので、
「紅摩、あれは?」
と聞いてみる。
紅摩は声を上げ太鼓か何かを打ち鳴らしながら進む男達に目を向けたまま、
「秋の祭りだろう。俺も詳しくは知らん」
「まつり……」
「この時期は五穀豊穣を祝っての“祭”が日本全国で行われるという話だ」

368:侘びしげな夕暮れどきに2/4
12/10/18 22:12:04.71 発信元:124.146.174.195
単語を反復する少女に男が補足する。
一般人とはかけ離れた育ち方をした紅摩は勿論、クローン人間としてこの世に生を受けたアネルには一切縁の無かったものだ。
対岸からかけられた橋を渡り、それは徐々にこちらへ近付いてくる。
豪華絢爛。
まず目に入るのは金糸で紡がれた一対の竜頭であろうか。
男達が担ぐ、円く削られた四本の一本木。
太鼓の音はするが、太鼓はどこにも見当たらない。

二人はそれの担ぎ手や乗り手に、知っている顔を幾つか見つけた。
皆一様に同色の半被を羽織って、足袋を履いている。
「担がれているのに乗っているあれは前田慶次ではないか?」
「その様だな。隣に居るのは……高原日勝、だったか?」
男達が担ぐそれを何と呼ぶのか、紅摩の知識には無かった。
神輿という言葉が念頭に来はしたが、それとは似て異なるものに思える。
やがて橋を渡り終えたそれの上から、紫色の半被を羽織った傾き者・前田慶次が、紅摩とアネル目掛けて
「やあ、大炎上のお二人さん!」
と大声で呼ばわった。
その場に止まることなく進む巨大なそれをしげしげ眺める少女に気付いてか、格闘家・高原日勝が
「こいつは“太鼓台”ってーんだ。今年の御神輿だぜ!」
とわざわざ教えてくれた。
「これも神輿なのか」
「厳密に言うと違うかな。でもまあ、気にしない気にしない!」
「これを担ぎ上げる“かき比べ”ってのをやって来た帰りなんだ。
 “太鼓祭り”……去年の喧嘩神輿に比べたら平和なもんだったぞ」
「それは、そうだろうな」
喧嘩神輿という呼び方の時点でバイオレンス度があまりにも高い。
紅摩は去年催されたそれも今年のそれも見てはいないが、去年の祭りの惨状が容易に想像できたため、同意を示した。

369:侘びしげな夕暮れどきに3/4
12/10/18 22:14:06.43 発信元:124.146.174.196
「去年の最後は結局、御神輿関係なしの乱闘になったっけなぁ」
日勝が担ぎ手の歩みによる振動に揺られながらしみじみと語る。
次こそは俺が最強だとか燃える彼に、ストリートファイト目当てなら余所でやんなよ、と慶次が無駄と知りつつ突っ込んだ。
毎年祭りの内容が違ったりするのはMUGEN界ならではだ。
自身が生まれ育った世界の祭りをやろうと、皆が挙って提案するのだ。
いつからか、代わる代わる異なる趣向の祭をやる事になっていった。
どれも神を奉り豊穣を祝うものである事に変わりは無く、祭り好きな連中が大騒ぎできる一大イベントである事には変わりなかった。
そうした事情も、アネルは知らない。

話を続けるには距離が遠くなる。
「よぉ、軋間も担いでみねぇか?」
簡単な別れの挨拶が飛んできたが、後方に位置する担ぎ手からまた、知っている声がかかった。
KUSANAGIだ。
捻り鉢巻に紫色の半被が異様に似合っていた。
「……やめておこう」

太鼓台と呼ばれる豪奢で煌びやかなそれが、太鼓の音をドォン、ドォンと響かせながら、遠ざかっていく。
車道を堂々と練り歩く姿に、アネルはひとり納得した。
ああ、それで最近交通規制についての立て看板が妙に目に着いたのかと。
「いいのか?紅摩」
何がだ、と聞くまでもない。
KUSANAGIの誘いに対し、彼が少しだが迷っていたのが、彼女には分かっていた。
馬鹿騒ぎやお祭り騒ぎが好きなタイプなわけでもなく老練とした紅摩だが、何に対しても興味が無いというわけではない。
滅多に無い機会に幾らか意欲は湧いた筈なのだが、彼は頷かなかった。
「俺は、あれを酒の肴にする方が性に合っている」
アネルによる問い直しに紅摩は口角を緩めながら答えた。
見て楽しむだけの方がいい。
参加する柄ではないと、そういう事だ。

370:侘びしげな夕暮れどきに4/4
12/10/18 22:16:38.35 発信元:124.146.174.196
「そうか」
アネルは、ふうん、と短く返して、紅摩から視線を外した。
遠ざかる太鼓台をただなんとなしに眺める。
無理強いするような必要など無い。
紅摩がそれでいいと言うのなら、それでいいのだ。
祭りの点景を酒の肴にという言い回しは如何にも彼らしかった。

日に日に増す肌寒さ。
赤紫の空色の下、昼日中に比べ、気温は大分下がっている。
剥き出しの白い肩を男の武骨な掌が覆う。
存外に冷え切っていたその両肩にかけられる白いコート。
残った温もりが心地良い。
少女はそれの持ち主である男を見上げた。
「ありがとう」
「構わん。……もう、秋だ。明日からは何か引っ掛けてから出た方が良さそうだな」
「うむ」
素直に頷くアネルの手をそっと握った。
彼女はちょっときょとんとしてそれを見下ろす。
手をつなぐ事は、無いでも無いが、少しばかり珍しい。
握り返される手。
「じきに日が落ちる」
「そうだな。行こう」
「ああ」
互いにしか分からない程度に微笑み合う。
まるまると肥った秋刀魚と茄子やら何やら。
今晩食べるおかずの食材を買い求めに、二人はまた並んで歩き出した。
風はそんなに無いのに、雲の流れは不思議と速い。


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch