もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら57at SHAR
もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら57 - 暇つぶし2ch800: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:51:25.03


 「あたしの邪魔ばっかりして!」

 クェスはもう一度、強く声を上げた。
 あたしを導いてくれると思ったのに、憧れていたのに! 今更になって現れて、偉そうに!

 『なぜ理解しようとしない……。なぜ素直になれないんだ!』

 クェスは思わず奥歯をかみ締めた。
 あたしは知ろうとした! 気持ちも伝えようと……したのに……ハサウェイが……!
 ―あたしはやってしまうつもりなんかなかった!

 「あなたに何がわかるって言うの!?」

 アムロは何もわかってくれていない。あたしの気持ちも、こんなことになってしまった理由も―。大人はいつもいつも上からものを見て、あたし達の気持ちなんてわかってくれないんだ!

 「そんな、いつも偉そうな事ばっかりー!」

 激昂したクェスの叫びに呼応するかのように、〝アルパ・アジール〟の口にあたるメガ粒子砲が火を噴いた。その力強い光の濁流が彼女の思念に操られ、〝νガンダム〟に襲い掛かる。

 『クェス、よさないか!』

 〝νガンダム〟はメガ粒子の濁流を易々とかわし、背中のマントを翻す―否、そのマントは六つに裂け、コの字に折れ曲がり漆黒の闇を舞った。
 〝フィン・ファンネル〟―〝νガンダム〟に搭載された、無線誘導型の小型メガ粒子砲。それらが一斉に、彼女に立ち向かったのだ。
 クェスはすぐさま反応し、〝アルパ・アジール〟の円状ビット、〝ファンネル〟を射出した。

 「落ちろ……落ちろぉー!」

 クェスの心からダイレクトにイメージを受信し、〝ファンネル〟が磨ぎ立てのナイフのような鋭さで漆黒の宇宙を舞い、無数のビームが放たれた。
 しかし、クェスの〝ファンネル〟から放たれた網の目の様な波状攻撃を、〝νガンダム〟は碌な回避運動も取らず、慣性移動だけでビームの嵐の狭間を漂い回避していく。
そのままの動作で一つ、また一つと、餓えた獣のように飛び交うクェスの分身たちを撃ち落す。
 彼女は唇を噛み締めた。こんな戦い方をしてみせるアムロが許せないから。こんなに強いのに、自分を見てくれないことが、助けてくれないことが―。
〝νガンダム〟から放たれた〝フィン・ファンネル〟に攻撃の意思が無いように見えるのも、彼女の心を逆立てる。
 やがて、アムロの意識が、〝νガンダム〟のコックピット内に組み込まれたサイコ・フレームを介し〝フィン・ファンネル〟に伝達され、クェスの対応する間も無いほど俊敏な動きで死角から死角へと移動し〝アルパ・アジール〟を包囲した。
 ―やられてしまう……!
 しかし〝アルパ・アジール〟を包囲した〝フィン・ファンネル〟は、彼女の思考とほぼ同時に動きを止めた。
一瞬の後、コの字に曲げられた独特な形の〝ファンネル〟から一斉に淡い色のビーム膜が張られ、〝アルパ・アジール〟を四方から包み込むようにしてピラミッド状のバリアを作り上げる。
 ―なんだ、これは!?
 クェスは正体不明の攻撃から脱出すべく、必死に〝アルパ・アジール〟を動かし檻の中で抵抗をした。ある〝ファンネル〟は、膜に向かってビームを放つ。ある〝ファンネル〟は体当たりを仕掛けるが、膜に弾かれて身動きが取れない。
 ―そうか、これは……!
 アムロの行為は、クェスにとって傲慢なものでしか無い。
 ―子ども扱いされている!

 「こんなの、嫌いだー!」

 正面の膜を睨みつけ、クェスは指のメガ粒子砲を放つ。だが、それは光の膜に遮られた粒子の雨は目の前で四散し、激しい光を放ちクェスの網膜を焼いた。衝撃に、少女は悲鳴を上げた。


801: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:53:31.79


 「そんな攻撃では!―そんな道具の使い方では、間違って人を殺すのも当たり前だ!」

 そう、かつて自分がそうだったように。―あの時、あの瞬間。出会えた少女を殺してしまった時のように……。

 「それでは……家族だって殺してしまう!」
 『あたしはそんな馬鹿じゃない!』

 少女の怒りが、伝わってきた。それは悲しい叫び。

 『こんなものぉ!』

 クェスの体から力が溢れ、それが〝アルパ・アジール〟を介し、波動となって宇宙を駆ける。その押しつぶされるような圧迫感に、アムロは歯を食いしばった。

 「―クッ……何と力のある娘だ!?」

 力強くも、若すぎる力。だからこそ、少女は少年の気持ちを受け入れられず―。
 そのとき、言葉が走った。
 ―ああ、クェス。怒るんじゃないよ―
 アムロははっと顔をあげ、周囲を見回した。知った人間の波動。心のともし火。

 「―ハサウェイ!?」

 少年のイメージがアムロの脳裏に飛び込み、それを形作る。少年は、瀕死のように見えた。

 「クェス、感じないのか。ハサウェイは死んでいない!」
 『ウソばっかりっ!』

 クェスから聞こえてくる心は、泣いていた。
 ああ、この少女はなんて純真なんだ。
 アムロは一度目をつむってから、優しく接するように努めようとした。
 僕はもうじき父親になるのだから。なら、それをここでやってみても良い。この戦いの後、ベルトーチカとひと時の幸せが許されるのなら、僕は―。
 少しの不安とわずかな気恥ずかしさに火照った顔を冷やすべく、アムロは静かにヘルメットのバイザーを上げた。

 「そういうクェスだから、ますます苦しい思いをする……。クェスに助けを求めているのがわからないのか」


802: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:56:01.53
 宇宙《そら》を走ったアムロの言葉に、少女は一瞬はっとする。
 ―ハサウェイが……あたしに助けを求めている?
 そう感じた瞬間であった。
 ―怒っちゃいけないよ、クェス。それじゃあ可愛い顔が台無しだよ
 一瞬にして、傷ついたハサウェイのイメージがクェスの脳裏に映し出される。そして少し引いた位置に、傷つき力を失った〝ジェガン〟が、ゆっくりと太陽に流れていくイメージが見えた。

 「……ハサウェイ?」

 そう言ったクェスの心は、期待と嬉しさと、わずかな不安に満ちたものだった。彼女を諭すように、アムロが続ける。
 『そうだ。太陽の方向だ』
 ……太陽。じっと目を凝らすが、もう一度彼の鼓動を感じることができない……。
 ―遠い。そう感じた。それでも、クェスはわずかな期待を込め、アムロに尋ねる。

 「間に合うかな?」
 『〝アルパ・アジール〟のパワーを使えば、助ける事もできる』

 憧れの人の優しい声に、クェスの心音はとくんと高鳴った。
 〝アルパ・アジール〟―それは自分を包み込む巨大な檻。だがどうだろうか、先ほどまでは戦場の狂気と化していたこのモビルアーマーは、今では頼もしく、あたしの願いを叶えてくれる巨人のように感じることができ、唐突に彼女は理解した。
自分を拒絶した世界が嫌だった、誰からも愛されないのが辛かった。でも、拒絶していたのは、あたし……? あたしが人を愛すれば、あたしの世界は変わるの……? 彼を撃ったマシンで、彼を救う……。

 『―あとは、クェスがそれをどう使うかだよ』

 クェスは思わず〝νガンダム〟を見た。その姿はまるで、「帰っておいで」と優しく迎える、クェスの最も求めて止まない―父のようであった。
 彼女は顔を上げ、太陽を見つめる。わずかな不安は、輝く星空の美しさで消えつつあった。

 「待ってて、今行くから!」

 〝アルパ・アジール〟を操るクェスの意識が宇宙《そら》を駆けた。その淡い光は素晴らしく美しい。
 ―どこにいるの、ハサウェイ……!
 少女から発せられた光は無数の粒となり、太陽に向かって伸びていく。その向こうで、光るものがある。

 「―見つけた!」

 クェスはぱっと表情を明るくし、子供のように喜んだ。少女に寄り添うように漂う〝νガンダム〟はどこまでも優しい。

 『そうだよクェス。後は君の気持ちを繋げばいいんだ』

 いつのまにか、クェスを支配していた激しい感情は消えていた。僅かな気恥ずかしさを隠すように、クェスは言った。

 「後ろから撃つなら撃ってもいいよアムロ」

 そしてクェスは、〝アルパ・アジール〟の武装を着脱させ、すっと前を見据える。
 目の前に広がる宇宙《そら》はどこまでも蒼く、どこまでも優しく、命の光を称えていた。
 ―ああ、あたしは自由なんだ……。


803: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:57:38.30


 敵を撃ち滅ぼすために搭載された様々な武装が、心を縛り付ける装甲が、一斉に分離する。そして〝アルパ・アジール〟は頭部のみを残した姿となった。呪縛から解き放たれた瞬間である。
頭部のみとなったその姿は頼りなさよりも、少女を祝福してくれるかのような優しい力を、強く発しているように見えた。
 ロケットブースターを吹かせ、太陽へと向かうクェスの声が、聞こえてきる。
 『―信じてみる』
 彼女は確かにそう言った。アムロはもう一度深く目を瞑り、息を吐く。
 脳裏に浮かぶ散っていった仲間たちの顔。俺はようやく、彼らにほんの少しだけれども、顔向けができるようになれたのかもしれない。
 そのままの瞳で、アムロは太陽を見つめた。
 既に〝アルパ・アジール〟の姿は見えなくなるほど遠くなっていた。

 「ハサウェイ、ちゃんと迎えてやるんだぞ」

 この言葉は、もう届いていないだろう。それでも、アムロは言った。
 そのままシートに深く座りなおし、宙を仰ぎ見る。
 ―愛しているという心は……愛しているという心は……。
 アムロは……寂しいのだ。
 だが、彼は地球を見据えた。
 戦いは終わっていない。今を生きる一人の人間として、未来を担う子らを導いてやれる時はここまでのようだ。
 過去との決着をつける瞬間が迫っている。
 もう〝νガンダム〟は振り向くことなく、地球に迫る巨大な隕石――〝アクシズ〟を目指した。その奥に、深い闇に取り付かれ、やがては闇を生み出す元凶と成り果て、血の様に赤い翼を羽ばたかせる竜のモビルスーツを感じる。
 ―血塗られた獣の喉が、低く唸った気がした。


804: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:58:10.19


PHASE-00 コスモス・カラー






805:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 18:58:55.37
遂にEVOLVE版か!
ということはクェスとハサウェイが種世界に?

806: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:00:10.23
 震える冷たい瓦礫の上で、力を失い倒れこむ一機のモビルスーツの姿があった。〝ナイチンゲール〟
―血のような赤色をし、巨大な竜を模した外見のそれは、もはや戦う力など残されていない。完全に沈黙し、動くことはないだろう。
もう〝ナイチンゲール〟は、腹部に搭載された拡散メガ粒子砲で群がる〝ジェガン〟をあっという間に蹴散らして見せたり、
リアアーマーに装備された二本の隠し腕を駆使し、左右のマニュピレーターと合わせ計四本のビームサーベルで同時に攻撃を仕掛けるような戦い方も、二度とすることは無い。
敗者となった竜は、他の骸同様ただの屍でしかない。
 そこから少し離れた地点で……。今、まさに地球に落ちようとしている巨大な隕石――〝アクシズ〟を押し戻そうと、必死にバーニアを吹かせているモビルスーツの姿があった。
〝νガンダム〟である。
 〝νガンダム〟の右手と〝アクシズ〟に挟まれるような形で岩の中にめり込んだ脱出コクピットから、シャア・アズナブルの叫びが聞こえる。

 〈アムロッ! 何をするのだっ!〉
 「確信が持てるまでは、なんでもやる! それが、宇宙を汚した我々の仕事だっ!」

 地球を背にし、全力でバーニアを吹かせつつアムロは絶叫した。
 降下する〝アクシズ〟の斜め前に取り付いた〝νガンダム〟は、オーバーロードの熱で白熱化していた。それは、一匹の蟻が前進する像を押し返す行為に似ている。
 アムロ・レイとシャア・アズナブル―〝νガンダム〟と〝ナイチンゲール〟の戦いは、アムロの勝利に終わった。だが―。ネオ・ジオンの作戦である隕石落としは、遂行されようとしていたのだ。〝νガンダム〟から、淡い光が溢れ始める。
 突如、〝νガンダム〟を真似て、同じように〝アクシズ〟を押し返すべく三機の〝ジェガン〟がやってきた。

 「なんだ!?」

  唖然としたアムロは、やがて状況を理解したのか、目を見開いて激昂する。

 「止めてくれ! こんなことに付き合う必要は無い!」
 〈そうはいきません!〉

 アムロの知らない男の声が聞こえた。

 〈大尉だけに、いい思いさせられないでしょ!〉

 更に、別のパイロットである。

 〈…………ッ!〉

 歯を食いしばったようなうめき声、更に別の〝ジェガン〟から聞こえてきた。
 その間にも、〝アクシズ〟を押すようにしてバーニアを全開にするモビルスーツは、次々に増えていった。
 それらは一方方向から接近するのではなかった。地球の反対側からも接近して、〝アクシズ〟に取り付いていった。その数は、数十……。
 しかし、〝アクシズ〟はモビルスーツの推力で押し戻されたり、進路を変えるような大きさではない。

 「寄るなっ! 寄るんじゃないっ! ここは、ガンダムで面倒見る!」

 アムロのコックピットは、すでに真っ赤になっていた。


807: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:02:04.53
 〈しかし!〉
 〈まだまだ!〉

 〝νガンダム〟からは、きらきらと、細かな光の粒がまといつくように発せられていた。
 気がつけば、連邦のモビルスーツだけではなく、〝アクシズ〟を地球へ降下させようとしていたはずのネオ・ジオン側の機体―〝ギラ・ドーガ〟さえ、彼らの中に加わっていた。

 〈地球が駄目になるかならないかなんだ。やってみる価値はありますぜ!〉

 そして、アクシズに取り付いたモビルスーツたちは、オーバーロードで加熱していった。その行き着く果ては自滅しかないのに……。

 「しかし、爆装している機体だってある!」

 アムロがそう叫んだのが早いか否か、一機の〝ジェガン〟がオーバーロードに耐え切れず、爆散した。

 「―駄目だ! 摩擦熱とオーバーロードで、自爆するだけだぞ!」

 大気の上層と触れ合う機体は、いっそう震動していた。
 一機の〝ギラ・ドーガ〟が力尽き、死んだように〝アクシズ〟の表面から転がり落ちていく。それを、咄嗟に掴んだ〝ジェガン〟が見えた。―最初に駆けつけたうちの一機だ。
 アムロの目から涙が溢れてくる。

 「もういいんだ! みんな止めろっ!」

 彼の悲痛ともいえる叫びに応えるように、〝νガンダム〟と〝ナイチンゲール〟のコックピットの接触部が発光して、その光が拡大していった。

 〈もう少しです! そうすりゃ、完全に〝アクシズ〟は……うわっ!〉

 最初に威勢よく話しかけてきた〝ジェガン〟も、光となって消えた。アムロは唇を噛み締めながら前を見据える。ふいに、接触回線を通じて、右手に握られたコックピットから嘆くような声が聞こえてきた。

 〈―結局、遅かれ早かれこんな悲しみだけが広がって地球を押しつぶすのだ……。ならば人類は自分の手で自分を裁いて、自然に対し地球に対して贖罪しなければならん。アムロ、なんでこれがわからん……!?〉
 「離れろっ!―ガンダムの力は……!」
 『パパ!』
 「―ッ!?」

 子供の、声がした。男の子なのか女の子なのかはわからない。だが、不思議とそれがまだ産まれてもいない自分の子供だという確信を持つことができた。〝νガンダム〟の母艦、〝ラー・カイラム〟に残してきたベルトーチカと自分の―。
 機体のオーバーロードと白い波と淡く美しい光が、上下左右に取り付くモビルスーツにぶつかると、それらを優しく弾いていった。
 それは、オーロラに似た鮮やかなものだった。

 〈ガンダムが俺をどけた!?〉

 さらに、別のモビルスーツを優しい光が弾いた。

 〈ああ……! これじゃ、〝アクシズ〟をっ!〉
 〈この蒼い光は……。人の意思を背負っているっ!?〉

 弾かれながら必死に手を伸ばす〝ジェガン〟たちから、悲鳴にも似た叫びが聞こえてくる。



808:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 19:03:03.30
ナイチンゲールということは小説版+EVOLVEということかな

809: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:04:02.11
 〈そんな……待って下さいアムロ大尉! 自分達も〝アクシズ〟を……!〉

 〝アクシズ〟全体を、〝νガンダム〟から発した蒼い輝きが包み込み、周囲のモビルスーツを宇宙へと送り返しはじめた。
 そして、その輝きはやがて光の帯となり、伸びて、〝アクシズ〟の光景を移しながら、地球を囲むように流れていった。

 〈大尉ーっ! 自分達の命を使ってください! そうすればアクシズはっ!〉
 「余分な命はいらないんだ! 俺とシャアだけでっ!」

 広がり続ける〝νガンダム〟の波動に、次々とモビルスーツが帰るべき場所へと運ばれていく。
 アムロとシャアのコクピットは、もう高熱になっていた。


 〝ラー・カイラム〟の戦闘ブリッジでは、クルーは、なす術もなくその輝くアクシズの状況を見守っていた。
 突然の援軍、突然発した謎の光に唖然としていたブライトはその光の発端にいるであろう戦友を思い出し、キャプテンシートを勢い良く立ち上がりながら怒鳴った。

 「〝ガンダム〟に、アムロに伝えろっ! 離脱しろとっ!」
 「無理です! オーバーロード・ウェーブで、無線はブラックアウトしていますっ!」

 誰もが、目の前で起こっている事態を把握できていないのだ。モビルスーツが正体不明の光を発っしているなど、どうして知ることができようか? ブライトは友の死を悟り、呆然と立ち尽くした。



 「クェス……?」

 ハサウェイは、傷ついた体を起こし、隣で呆然と座り込み口元を抑えるクェスを抱き支えた。
 彼女は震える声でつぶやいた。

 「アムロがいなくなっちゃうよ……。アムロがぁっ」

 クェスの言っている意味がわからず、ハサウェイは彼女を優しく抱きしめながら聞いた。

 「アムロさんが……?」
 「アムロはあたしのお父さんになってくれるかもしれなかったのに……」

 泣きじゃくりながら叫ぶクェスの言葉に、ハサウェイは顔をあげた。この子は父親を欲しがっていたのだろうか?
 本当は父でなくても良いのだろう。優しい人ならば、頼れる人ならば―自分の安心を与えてくれる人物ならば彼女は誰でも良かったのかもしれない。寂しい子なのだから。
 彼は拳を握りしめてから、一度だけ〝アクシズ〟を睨みつけてけ、やがて優しく少女を抱き寄せた。それは、彼自身の新たな決意。

 「僕、頑張るからさ……」

 泣いたままの表情で、クェスは「え?」と顔をあげる。 彼はクェスをそのまま抱き寄せ、こつんとパイロットスーツのヘルメットを押し付け優しく語りかけた。

 「アムロさんに負けないように……頑張るから……。だから―」

 地球を包み込むように広がるオーロラをバックにして、少女のか細い腕がハサウェイの背を優しく抱く。
 救助はいつ来てくれるのかわからない。それでもハサウェイは、この寒い宇宙《そら》でぽつりと浮かんでいるこの状況を寂しいものだとは思わなかった。
 宇宙《そら》には、人の意思が溢れているのだから。


810: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:05:11.89


 「アムロは……?」

 モビルスーツのコクピット内部で気を失っていたベルトーチカが目覚めると、〝ラー・カイラム〟の船体が目の前にある偶然に、息をついたものの、自分と〝ラー・カイラム〟の間に、おびただしい石が流れているのに怖気づいていた。
 しかし、石の流れ向かう、地球の前を流れるものの形が分かった時、絶望した。
 アムロは、側にはいないと感知したからだった。
 瞬間、彼女の体から蒼いオーロラのような光が溢れ出る。ベルトーチカはそれに気づきもせずに、モニターに映る惨状を見つめていた。そうして、ベルトーチカは、目を見張った。
地球と〝アクシズ〟の間に伸びた蒼い光の帯にそって、〝アクシズ〟の巨大な破片が、ゆったりと滑っていくのを目にしたからだ。
 しかも、後方の岩の先端からは―〝νガンダム〟の、アムロのいるところだ―そこから発せられる力強い光が宇宙に舞うように広がっている。

 「アムロォ……!」

 それとほぼ同時だった。ベルトーチカの手に握られたサイコ・フレームが、目も眩むほどの光を発したのは―。

 「……命があるからこそ、光が発する……」

 彼女が涙に濡れた顔でつぶやいた。蒼く美しい光の粒が、津波のようになってベルトーチカの握るサイコ・フレームから溢れ、それが〝アクシズ〟に向かって伸びる。
ベルトーチカは、その光のひとつひとつが生命なのではないかと思いついていた。
 そして光の中、彼女はお腹の子が、泣いているように感じていた。パパを助けて、と泣き叫んでいる。……それは適わぬことなのだろう。人にそこまでの力は――。
そう思った矢先である。サイコ・フレームが更に震動を強め、モビルスーツの外壁さえもすり抜けるようにして宇宙に飛び出していった。
 このような現象がどうやって起こったのかなど、わかるものはいない。
 その金属片は、〝アクシズ〟へ繋がれた淡い光のレールを滑るように、引き寄せられていった。



811: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:07:42.06


 〝νガンダム〟を中心にした蒼い光に、地球から発した光が、吸い込まれていく。
 その数は、知れない。地球の各地から発した光が、線から帯、帯から膜になり、時に低く、時には高く地球を取り巻くようにして、〝νガンダム〟に集中するように見えた。
 それは、あたかも〝アクシズ〟の巨大な岩に、行くべき道を示すようであった。

 「ああ……な、なんだっ!? 僕は、世界を見ているのか……!?」

 コクピットの激震にもまれながら、灼熱のコックピットで、アムロは、ボロボロと涙を流しながら、うめいた。ふと、シャアが低い声を荒げた。

 〈―そうか。しかしこの暖かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ! それをわかるんだよアムロ!〉
 「わかってるよ! だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろう!?」

 アムロは信じているのだ。〝地球連邦〟で改革が起きる事を。そして世界が変わることを―。
 しばらくの沈黙ののち、深い息をつくような音がしてからシャアが低い声でうめく。

 〈……クェスは、どうした?〉
 「帰ってきたさ! 貴様はマシーンのように扱って!」

 カッとアムロが激昂した。あのような少女に人殺しをさせることは、アムロの嫌な思い出を―『あの時』の感触を思い出させる。

 〈ハッハッハッハッ! そうか、では『あの時』の二の舞にはならなかったというわけだな!? ええッ!?〉

 通信越しから嘲るような笑い声が聞こえてきた。
 あの時―そう、十四年前……全てが狂いだしたあの瞬間。アムロは言葉につまり、唇を噛み締める。 

 「だが……! あれは俺にとっても―」
 〈ああそうだろうな、お互い様だ! しかし、それでも……私にとっては、あれが全てだったのだ……ッ!〉

 シャアの悲痛な叫びに、彼は全身を震わせた。この男は、それほどまでに―ララァ・スンのことを……。アムロの脳裏に、『あの時』のことが鮮明に蘇えってくる……。
 心が裂かれるような思いだった。ならば、俺は……。
 アムロを襲う後悔に追い討ちをかけるようにシャアが続けた。

 〈お前はいつだってそうだ! 全てを知った風な口で語り、常に私の先を行く!〉
 「―何を言っている!?」

 アムロには、シャアが泣いているように感じられた。

 〈―そうか。クェスは私に父親を求めていたのか……! だから私はそれを迷惑に感じて、彼女を戦闘マシーンに仕立てたんだな!―だが、貴様はそれすらもやって見せたっ。聞こえるかアムロ!〉

 通信から聞こえてくる言葉の一つ一つが胸に突き刺さる。

 〈……私は、お前と互角に戦いたかっただけだ。そのために、サイコ・フレームの技術を提供した……!〉
 「貴様が!? 馬鹿にしてっ! そうやって貴様は永遠に他人を見下すことしかしないんだ!」

 激震するコクピットの中は、既に真っ赤だった。


812:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 19:10:29.02
なんかEVOLVEでのクェス救済からの展開だと
クェス利用することしか出来なかったシャアが尚更情けなく思えてくるw

813: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:11:11.78
 〈ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!〉

 通信機越しの悲痛な叫びにアムロは思わず身を引いた。

 「お母さん……? ララァが……」

 シャアのコックピット内は自分のそれよりも更に辛い状況だろう。だが、彼の怒りに満ちたような叫びが途絶える事は無い。
 一瞬、クェスとシャアの心が重なって見えた。母を求めた男と、父を求めた少女と……。
 ―だとしたら、俺は……。

 〈貴様にララァの何がわかる! ララァのことはもう言うな!! 二度と口にするな!! ララァは私のものだ、私だけのものだ……〉

 それは、全てを覆い隠し続けた男の、本当の心だったのか。

 〈私の母、アストライア・ドア・ダイクンはザビ家に殺された―。古い塔に幽閉され、独り、病を癒すことも許されず……。
復讐する! 私は心に決めた―。戦いの中に在っても、一日として母と母の死のことを私は忘れたことは無い! その私の前に……常に現れるのがお前だった!!
腐った衆愚の塊でしかない連邦の手兵として小賢しくも私に敵対し、せっかく与えられているその『ニュータイプ』としての能力を無思慮に使い私の為すところを妨げ―〉

 短い沈黙。人の革新、『ニュータイプ』。人と正しく分かり合うことのできる人類。アムロは、ようやく思い立つことができた。
それは『幻想』だ、と。俺は、この男の心を、まるで理解していなかった。何一つ、何も、自分がしでかしてしまった事の大きさも……。
 シャアが搾り出すようにうめく。

 〈―あまつさえ……〉

 再び短い沈黙の後、男はわずかに涙を孕んだ声色で、消え入るように言った。

 〈ララァを私から、奪った〉

 あの日、あの時、アムロの駆る〝ガンダム〟から、シャアのモビルスーツ〝ゲルググ〟を守り、ララァが散った。アムロが、殺したのだ。守るべきものもいない、愛する人もいない、そんな力で。

 〈私はキャスバル・レム・ダイクンだ! 復讐のために生きてきた男だ! お前なんかとは違うっ! 私の哀しみも恨みも、何も知らないくせに!!!〉

 そう、俺は知らない、何も、知らない。無知とは罪だと、誰が言った言葉であったか……。

 〈貴様にわかるのか!? 父を殺され……いつか、いつかは会えると信じていた母すらも殺された私の気持ちが! 毎日のように監視者に後をつけられていた私の気持ちが!
やつらからアルテイシアを守らねばならなかった、その為に戦わなければならなかった私の気持ちがわかるのか!〉

 今、初めてシャアの本当の心が見えた気がした。
 ―だが、それはあまりにも遅すぎた。

 〈ララァに出会えてから私は変わった! ザビ家への復讐を捨てて、戦いも、憎しみも、何もかも忘れて! 地球のどこかで、二人だけの生活を営もうかと考えたこともあった!〉

 言わば、それはシャアのついた最後の嘘であったのかもしれない。だが、それを否定できる要素を、権利を、アムロがどれだけ持ち合わせていただろうか。
アムロの目に、涙が溢れてきた。過去の大戦―〝一年戦争〟時代からの宿敵であるあの男の心を、この直前まで……俺は、知ることができなかった。止めることができなかった……。
そして彼をこうも追い詰めたのは……。


814: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:13:58.55

 〈―そのララァを殺したお前に……言えた事か!〉

 それが、聞こえてきた最後の言葉だった。
 シャアの乗っていたコックピットは炎に包まれ、彼の燃えゆく身体がサイコ・フレームを介してアムロの脳裏にイメージとなってはっきりと浮かび上がる。

 「―シャアッ!」

 言葉は、返ってこない。
 アムロはシートに深く座り込み、もう一度―あの時のように涙をこぼした。

 「俺は本当に―本当に取り返しのつかない事をしてしまった……」

 溢れ出る涙が彼の頬を伝う。アムロにとっては、偶然めぐりあい、理解し合い、殺してしまった少女。ほんの一瞬の会合。では、シャアにとって、ララァとは……? つい今しがた語られた内容が、アムロが奪った命の重みを告げていた。
 ふと、〝νガンダム〟の手元に見える赤いコクピットに―シャアが、つい先ほどまでそこにいたコクピットに、周囲の景色には似つかない、白く美しい白鳥がそっと近づくのを見た。
 そのイメージは女性の姿へと変わり、爆炎をあげるコクピットを優しく抱きしめた。

 「……ララァ・スン?」

 自分が殺した少女が……ララァが、シャアを迎えに来たように思えた。だがアムロにはそれがたまらなく悔しい。
 彼は思わず叫んだ。

 「待ってくれ! 俺は……。―シャア! 俺たちはまだ何もしちゃいないんだぞ! それを、こんなところで!」

 アムロは、かつてシャアと肩を並べて戦ったことがある。アムロはシャアに期待をしていたのだ。
この男ならば、世界を正しく導いてくれるのでは無いか、俗世に支配された連邦という組織を、変えてくれるのではないかと。
だが、人は一人では生きられない。『赤い彗星』と謳われようとも、『ジオンの遺児』であろうとも、ただの人間なのだ。
『ニュータイプ』がただの勘が良い程度の存在でしか無いのと同じように、シャアもまた、ただの人―彼の心の唯一の支えが、ララァであった。
ならば、連邦の変革を、人類の進化を……『可能性』を奪ったのは、自分ではないのか―。
 アムロの叫びは、こうなってしまった『運命』への無駄な抵抗であった。
 淡い光の中のララァは悲しそうに、それでいて愛おしそうに、光に包まれたシャアのイメージを優しく抱きしめる。
 ララァがこちらを見て微笑んだ。彼女は優しい笑みを浮かべたまま、アムロに手を伸ばす。と、その時―

 『―〝小石〟……は』
 『駄目だよ、パパぁ!』

 同時に二つの声が聞こえてきた。低く唸るような、人とは思えない何者かの声と、先ほど聞こえた赤ん坊の声。
 モニターの端にちらりと動く影が見えた。
 その影は再び起動を始め、今まさに羽ばたかんとする〝ナイチンゲール〟の単眼《モノアイ》が、アムロじっと見つめている。
 ―俺は……。
 そこから先は、言葉にも思考にもならなかった。
 ララァが必死に手を伸ばし、何かを叫んでいる。
 先ほどいたシャアの魂は見えなかった。
 アムロは力の限りを尽くして叫ぼうとする。
 ついに、〝νガンダム〟のコックピット内にも炎が走った。それに呼応するかの用に、〝ナイチンゲール〟が力強く羽ばたき、宇宙《そら》を舞う。


815: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:14:41.32
 アムロは薄れゆく意識の中、必死に手を差し伸べるララァの姿を捉えながら、彼もまた手を伸ばそうとした。
 だが、届かない。
 〝νガンダム〟は眩い閃光に包まれ、コクピットも光に包まれる。そしてその光に〝ナイチンゲール〟が〝νガンダム〟の後を追うように、飛び込んだ。
 アムロに確認できたのは、そこまでだった。彼は最後の直前に、妻と子に思いを馳せる。

 「ベルトーチカ……」

 辛うじて最後に最愛の人の名を呼べたことに安堵しつつ、アムロはそのまま死に行くように目をとじた。

 もう……〝ナイチンゲール〟のさえずりは、聞こえなかった。


つづく


816:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 19:18:25.33
投下乙です

まだ出だしなのに凄いボリュームだw
というかシャアの本音が悲しいな…

817: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:18:55.15
>>805
すみません、ハサとかは行かないです><

>>808
ベルチル版や、ハイスト版、イボルブやらその他もろもろの都合の良いとこだけを取りました

>>812
少しシャアが情けなさすぎかな?と悩んでたんですが、ジオリジンでシャアが盛大に泣き言を言ってくれたので別にいいかーとこのまま投下しちゃいました


偏った描写とかがあるとは思いますが・・・ご了承を(´・ω・`)

818:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 20:36:10.70
新作と聞いて!
生い立ちを話すシャアがなんかしっくりw

819:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 22:07:24.59
>>817
乙です
序章なのになんというボリューム
とうとうイボルブ版か、シャアの内心が丁寧に描写されてていいですね
続きを楽しみにしています

820:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 22:42:18.12
投下乙!
またすげえのが来たなぁww

821:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 23:10:15.74
乙です
これはいい
シャアの情けなさが特に良いw

822:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 23:38:15.15
オラわくわくしてきたぞ

823:通常の名無しさんの3倍
12/09/08 02:26:24.43
gj!

824: ◆wjA9YKZn62
12/09/08 04:13:57.32
>>817

続きたのしみにしてます!!

825:通常の名無しさんの3倍
12/09/08 05:14:50.07
投下おつん

826:通常の名無しさんの3倍
12/09/08 21:30:16.92
>>817
乙です。
倉庫に登録させていただきましたが、メインタイトルがお決まりでしたら
ご一報くださいまし。

827:sage
12/09/09 00:52:25.81 ttqtRDSt
ちょ、待てぇ!
逆襲のギガンティスまで混じっとるやないか!
CEの木星には羽クジラだけじゃなくて
血まみれの巨人まで眠っとるんか?

828:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 01:06:22.18
>『―〝小石〟……は』
>低く唸るような、人とは思えない何者かの声

これってやっぱりそうなの?
もっとも逆ギガだと、柴田秀勝なのか戸田恵子なのか判断つきかねるのだが。

829:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 07:44:45.05
シャアの内心吐露はオリジンか

830:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 11:21:25.62
青運命とか色々混じってるな
あのサブタイトルだったり赤ん坊の声に反応したり
元凶はやはりジムの神様に宿ってたあの力か

831:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 15:26:26.11
>>813
>〈ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!〉
>通信機越しの悲痛な叫びにアムロは思わず身を引いた。

アムロは思わずドン引きした。に見えたw

832: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:34:43.31
ちょっと話が進まない・・・というか、原作どおりだったりなので、2話まとめて投下しようと思います、すみません

>>826
ありがとうございます、タイトルは小説版一巻から拝借しまして、めぐりあう翼で行こうと思います

833: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:37:14.57
 C.E.30年代にピークを迎えた遺伝子改変ブームによって、人類は新たな対立の図式を作り出すこととなった。
 受精卵の段階で遺伝子を操作されて生まれた、「コーディネイター」と呼ばれる新たな人類は、旧来の人類「ナチュラル」にとっての脅威となった。
彼らコーディネイターは知力、体力、すべての能力に置いてナチュラルを凌駕し、その数こそ少ないものの、学術、スポーツなど、あらゆる分野のトップを占めるようになる。
やがてその格差が対立を生み、数において不利なコーディネイターは地球各地で迫害を受ける事となった。住み慣れた土地を追われ、彼らが目指した安住の地は、宇宙だった。
 のちにコーディネイターたちの本拠地となる〝プラント〟は、C.E.50年代から着工し、エネルギー問題に悩む地球に、豊富な宇宙資源から得られたエネルギーと、無重力を生かした工業生産物を供給する役割を負っていた。
その利益は一部の地球におけるオーナー国が独占し、彼らは〝プラント〟に武器と食糧の生産を禁じる事で、自らの支配を確固たるものとした。
 いわれのない支配と搾取。当然コーディネイターたちはそれに反発し、独立と対等貿易を地球に求めた。繰り返し話し合いの場が持たれたが、そのたびに決裂に終わり、両者の緊張は徐々に高まっていく。そして―
 C.E.70年代、〝血のバレンタイン〟の悲劇によって、地球、〝プラント〟間の緊張は、一気に本格的武力衝突へと発展した。
 誰もが疑わなかった、数で勝る地球軍の勝利。が、当初の予測は大きく裏切られ、戦局は疲弊したまま、既に十一ヶ月が過ぎようとしていた―。


 〈―では次に、激戦の伝えられるカオシュン戦線、その後の情報を……〉

 キラ・ヤマトは、何時の間にかあらぬ方をさまよっていた視線をコンピュータに戻し、投げやり気味にキーボードを叩いた。
黒い髪、アメジスト色をした目の小柄な少年だ。まだ幼さを残す繊細な顔立ちは、東洋系のようだが、一見して人種を判別できない。
 ここは工業カレッジのキャンパスだ。緑したたる中庭、あふれる陽射し、楽しげにたわむれ、行き過ぎていく若者たち―地球のどこでも見られるような、ごくありふれた日常風景。
 だが彼らが踏みしめている芝生の下には、厚さ約百メートルに及ぶ合金製のフレームがあり、その外には真空の宇宙が広がっている。
 ここは〝ヘリオポリス”、地球の惑星軌道上、L3に位置する宇宙コロニーである。
 コンピュータ画面の上方に開いた別窓の中では、アナウンサーが相変わらず深刻そうな顔でしゃべっている。

 〈―新たに届いた情報によりますと、ザフト軍は先週末、カオシュン宇宙港の手前六キロの地点まで迫り……〉

 きらり、と小さな翼で日光を跳ね返し、キャンパスの上空を一巡りして、トリィが戻ってきた。メタリックグリーンの翼を羽ばたかせてキラのコンピュータにとまる。トリィは小鳥を模した愛玩ロボットだ。キラの大切な、小さな友達。
 トリィを見るたびに、キラの脳裏にはこれをくれた親友の面影が浮かぶ。

 『―父はたぶん、深刻に考えすぎなんだと思う』

 別れの日、少年は十三歳とは思えない大人びた口調で言った。黒い髪、穏やかで物静かな面差し、伏せられた目は印象的な緑だった。
 彼とキラは四歳のときから、月面都市〝コペルニクス〟で幼年学校時代をともに過ごした。どんな時も自分を助けてくれる、励ましてくれる兄の様な彼―。二人はいつも一緒だった。

 『〝プラント〟と地球で戦争になんてならないよ』

 うん……と、キラはうなずいた。

 『でも、避難しろと言われたら、行かないわけにもいかないし』

 キラはずっと、うつむいていた。
 彼らは賢明な子供だった。それでもしょせん子供でしかなく、社会の情勢や親の意向に従うしかない。別れを受け入れる事しかできなかった。
 友はうつむいたキラを励ますように言った。

 『キラもそのうち〝プラント〟に来るんだろ?』

 その言葉にこめられた希望が、少しキラをなぐさめてくれた。やっと目を上げてみると、友は綺麗な緑色の目を細めて笑った。その色が、キラはとても好きだった。
 ―きっとまた会える。
 そう信じて別れてからもう三年―。




834: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:37:52.13
 「お、何か新しいニュースか?」

 突然、ぬっと肩ごしに覗き込まれて、キラは我に返った。

 「トール……」

 工業カレッジで同じゼミのトール・ケーニヒだ。隣にはミリアリア・ハウの姿もある。
 コンピュータの画面では、ニュースの続きが映し出されていた。立ち上る黒煙と爆音、逃げ惑う人々、ビルの立ち並ぶ町並みは半壊し、どこか近くで戦闘が続いているらしい。
 去年、〝プラント〟の擁するザフト軍は、地球への侵攻を開始した。中立国オーブのコロニーであるここ〝ヘリオポリス〟でも、開戦当初はみな、地上で行われている戦況を息をつめて見守っていたものだが、最近はもうそれにもなれてしまった。

 〈―こちら、カオシュンから七キロの地点では、依然激しい戦闘の音が……〉

 リポーターがうわずった声で報告する。

 「うわ、先週でこれじゃ、今頃はもう陥ちゃってんじゃねえの、カオシュン?」

 トールがお気楽にコメントする。キラは苦笑し、コンピュータを閉じた。
 少々軽率なところがトールの欠点だ。だが開けっぴろげで裏のない彼が、キラは好きだった。いつも朗らかでしっかり者のミリアリアとは、似合いのカップルだ。

 「カオシュンなんて結構近いじゃない? 大丈夫かな本土」

 ミリアリアは対照的に、不安そうな口調になる

 「そーんな。本土が戦場になるなんてこと、まずナイって」

 どこまでも楽観的なトールの観測が、かつての親友の口にした言葉に重なる。キラはふいになんとも言えない不安を感じた。
 それでも彼らは「戦争」なんて、自分達と関係ないものと思っていた。コンピュータを閉じたら終わってしまう、画面上の単語にすぎないと―このときは、まだ思っていた。

835: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:38:24.69


PHASE-01 偽りの平和




836: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:39:35.16
 何も無い漆黒の宇宙―そこに、太陽光を受けてきらりと輝く金属片が漂っていた。慣性で促されるようにゆっくりと回転し、やがて、こつり、と白いパイロットスーツ着た男のヘルメットに当たる。
 男はややあってからびくっと身を震わし、肺に残された息をカハと吐ききった。
しばらくそのまま呆然と宙を見つめていたが、やがて導かれるように手元までやってきた金属片を手に取り、うめいた。

 「―俺は……」

 彼ははっと目を見開き、声をあげた。

 「―ララァ……。シャア!」

 名を呼び、周囲を見回した。だが、その宙域にいるのは彼だけだ。

 「どうやって……」

 男はひどく混乱していた。いったい彼に何があったのだろうか?

 「……クッ。〝ガンダム〟は、地球は……」

 何も無い闇の空間で、じたばたともがくように彼は言った。だが、それに答えるものは誰もいない。
 戦闘の光は無い。限りなく無に近い空間。だが男は、それでもと足掻き続ける。太陽の光も、星の煌きも、まだ見えているのだから。
 しばらく虚空を彷徨っていた彼は、目の中に見慣れたもの見つけ、眉をしかめた。

 「コロニーがある……?」

 右手に持たれた金属片を見て、彼は目を細めたが、頭を振ってから前を見据える。そして目線の先にある、特徴的な形をしたコロニーへ向かって備え付けのスラスターを吹かせた。


 〝ヘリオポリス〟は旧来の円筒型コロニーだ。全長三十二キロメートル、直径三キロメートルにおよぶ巨大な円筒を、太陽光線を集める三枚のミラーが細長い花びらのように取り囲んでいる。
この巨大な円筒を回転させ、遠心力によってコロニーの内壁に重力を作り出しているのである
 〝ヘリオポリス〟を特徴付けているのは、付属している資源採掘用の小惑星だろう。遠くからこのコロニーに近づいてくると、まるで宇宙空間を漂う巨大な岩塊から、ぬっと生え出したもののように見える。
 アスラン・ザラはゆっくりとコロニーに近づいていた。周囲には彼と同じく機密服を身に着けた人影が数十人おり、一人、また一人とコロニー内部へと続く排気口に取り付く。
アスランも岩塊に身を寄せ、ちらとリストウォッチに目をやった。自分の呼吸音がやけに耳につく。
 時計が予定時刻を示すと、排気口の監視装置が切れた。それを確認したとたん、彼らは無駄の無い動きで順番にそこへ滑り込んでいった。予定通り、誰にも感知される事無くコロニー内部に潜入し、彼らは整然と四方へ散る。
命令や質問はいっさい発されず、訪れたことのない場所を進む戸惑いもまったく見せない。彼らは完全に統制の取れた動きで、工場区の主要な場所を選び、黒い小さなボックスをセットしていった。
 セットしたとたん、ボックスにはカウンタ表示が灯る。
 その数字は、爆発までの残り時間を示していた。


837: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:40:24.52
 「いかがなさいましたか、隊長?」

 隊長と呼ばれた男は、風変わりな銀色のマスクで顔の上半分を覆っていた。波打つ金髪、すらりと引き締まった体つき、マスクで隠れていない顔の部分は整い、かなりの美丈夫ではと思わせる。
彼こそがラウ・ル・クルーゼ、敵にも味方にも、有能さと容赦ない戦いぶりで知られる、この部隊の長である。彼はかたわらにの男の質問に、眉間を指で押さえながら答えた。

 「いや……なに、少し頭痛がしただけさ」

 ここは〝ヘリオポリス〟からほど近い宙域である。小惑星の影に、二隻の戦艦が待機していた。ザフトのナスカ級戦艦〝ヴェサリウス〟とローレシア級戦艦〝ガモフ〟だ。

 「君こそ、難しい顔をしているぞ、アデス」

  アデスは〝ヴェサリウス〟を任される艦長だった。がっしりした体型で、四角くいかつい顔立ちの彼は、そのまま自分の懸念を口にした。

 「―評議会からの返答を待ってからでも、遅くはなかったのでは……隊長」

 アデスの問いかけに「遅いな」と彼は帰した。

 「私の勘がそう告げている。ここで見過ごさば、その代価、いずれ我らの命で支払わねばならなくなるぞ」

 ラウは手にしていた写真を、ピンと指先で弾いてよこした。不鮮明な画像だが、そこには巨大な人型にも見える装甲の一部が写っていた。

 「―地球軍の新型兵器、あそこから運び出される前に、奪取する」


838: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:42:22.83


 「だからぁ、そういうんじゃないんだってばーっ」

 華やいだ嬌声が上がる。大学のレンタルエレカポートで騒いでいる少女たちの達の中に、フレイ・アルスターの姿を見つけ、キラの鼓動は一瞬高まった。
 長く艶やかな髪は燃えるような赤、肌はミルクのようになめらかで、今はかすかに上気している。高貴さを感じさせる整った顔立ちと、しなやかな立ち居振る舞いが、大輪の薔薇のような華やかさを感じさせた。
たくさんの少女の中にいても、ぱっと人目を引く存在だ。彼女の姿を見ると、いつもキラの心臓は勝手に暴れだす。ろくに口なんて聞けもしないのに。

 「あ、ミリアリア! ねえっ、あんたなら知ってるんじゃない?」

 フレイを囲んでいた女の子達もこちらに気づいて話しかけてくる。その後で顔を赤くし、「もうっやめてってばぁ!」とフレイが叫んだ。だが友人たちは取り合わない。

 「この子ね、サイ・アーガイルから手紙もらったの! なのに『なんでもない』って話してくれないんだよーっ」
 「ええ~っ!?」

 伝染したみたいに、ミリアリアもすっとんきょうな声を上げた。
 彼女らが更にフレイを問い詰めようとしていた時、キラの背後から落ち着いた声がかかった。

 「―乗らないのなら、先によろしい?」

 サングラスをかけた女性と、その売り祖に二人の男性が立っていた。声をかけたのは先頭の女性だ。いずれもまだ若く、二十代前半から半ばというところだろう。
だが学生には見えなかった。発された言葉は丁寧だったが、彼女の口調や声には妙な威圧感がらり、若い女性らしい柔らかさを拒絶したような、硬く鋭い雰囲気を漂わせていた。

 「あ、すいません。 どうぞ」

 トールが頭を下げ、みな気まずい思いで先を譲ると、彼らはきびきびした動作でエレカに乗り込み、走り去った。ばつの悪い雰囲気を振り払うように、「もう知らない! 行くわよ」とフレイが叫び、次のエレカを捕まえる。
連れの少女達は口々に「待ってよぉ」などと言いながら騒がしく後に続いた。
 ポートが静かになると、突然トールが、ばん、とキラの肩を叩いた。

 「なーんか以外だよなあ、あのサイが。けど、強敵出現、だぞ、キラ!」
 「は? な、なに……」

 とまどうキラに、ミリアリアも「頑張ってね」と笑いかけ、トールに続いてエレカに乗り込んだ。

 「ま、待ってよ。ぼくは別に……」

 一人しどもどするキラだった。


839: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:44:42.44


 「―地球連邦軍のアムロ・レイ大尉だ。戦闘で機体を失ってしまった、すまないがそちらに誘導してもらいたい」

 コロニーの港にまでやってきてから、動揺を察しされないように平坦な口調を意識してアムロは言った。
コロニーで嫌われ者である『ロンド・ベル』の名を出さなかったにしろ、 ネオ・ジオンの捜査のためほぼ全てのコロニーに立ち寄った経験のあるアムロだが、このコロニーの記憶はどこにもない。妙な胸騒ぎがする。

 〈―ハッ! 地球連合のアムロ・レイ大尉ですね? 了解しました〉

 返事はすぐにあり、アムロは少しばかり安心して息をついた。とりあえずとはいえ、ようやく一息つくことができそうだ、激戦続きで疲労もたまっている。
それに、〝ラー・カイラム〟に連絡を取り、あの後どうなったのかを知らなくてはならない。
 やがて外に出てきた若い男に誘導され、〝ヘリオポリス〟という名のコロニーに入る事ができた。その動きは、平時の管理職そのものであり、若いという理由だけでは片付けきれないものがあった。
だがネオ・ジオンの工作員には見えないし、そもそも男の顔は碌に戦争を経験していない容貌を醸し出している。
ならば、ここは中立のコロニーかと思い立つのがアムロであるし、アムロ・レイという名を出せば宇宙移民者の大半からは嫌な顔をされるのも事実であるから、そうでないこの若い男は本物かと感じ取ることができた。
それゆえに、アムロはより緊張を崩さずに声をかける。

 「状況はどうなっている。戦闘は?」

自分の置かれた状況は理解しがたいものである。

 「この近辺での戦闘は確認されていません、随分と流されたようですね」

 アムロの質問に、男は慣れない手つきで書類を書きながら言った。彼が続ける。

 「―ご無事で何よりです。すぐに〝アークエンジェル〟に連絡します」
 「ン、すまないが……。僕は地球の状況を聞いたつもりだが」

 機嫌よく答えた警備の男に、アムロは少しばかり眉を顰めた。男は慌てて敬礼をし、申し訳無さそうに頭を下げた。

 「あ、ハッ! 申し訳ありません、大尉!―えー、現在地球は、〝ザフト〟のモビルスーツで……、あっ、カオシュンが落ちたと……」

 どぎまぎと言う様子を見て、アムロは内心動揺していた。自分は長い事地球連邦にいたという自負はあるし、それなりの知識も得ている。だが、〝ザフト〟などという組織など知らないし、一度だって耳にしたこともない。
 それに……先ほどから自分の第六感が告げているのだ。何かが違う、と。
 アムロはなるべく平静を装って彼に問いかけた。



840: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:45:47.16

 「―そうか、カオシュンまで落ちたか……。〝ザフト〟―彼らにも参ったものだが……。そういえば、どういう意味の名前だったかな、勉強はしているのだろう?」

 あえて少し意地悪で愛想の良い男を演じ、聞いてみた。

 「ハッ! 〝ザフト〟とは、自由条約黄道同盟の事で、コーディネイターを主国民とするプラント連合が―」

 違う。彼の言っている意味がなどではない。もっと根本的な何か……。『存在』そのものが―。

 「良くやれているようだ。ありがとう」

 なるべく優しい口調でそういったが、アムロは心の中で自問自答を繰り返していた。
〝パラレル・ワールド〟という話は良く耳にするし、おとぎ話でも使われる話だ。どっかの木星帰りの小説家の書いた話では、海と陸の狭間に別の世界がある、なんてのもあった。しかし―。
そんなことが現実に起こりうる話なのか? 俺はあの光で、『どこ』まで流されたんだ……?

 「―どうかなさいましたか?」
 「ン? いや……」

 訝しげな表情の若い男に、自分の考えが表情に出ていたことを悔んだ。一瞬アムロは頭の中で言い訳を探したが、それはすぐに思い当たった。

 「ここに来る途中、このコロニーの排気口の辺りに数名の人影が見えた。そちらの補修作業か何かだと認識しているが?」

 男は「……人影ですか?」と首をかしげた。

 「ひょっとして〝ザフト〟だったり、ね」

 新米の若い男は、そういうことか、と表情を変え「至急、調査の者を回します!」と言ってから、扉を開け、大慌てで出て行った。
 アムロはIDカードを要求されなかった彼の不手際に感謝しつつ、誰もいないのを確認してから扉を開け、歩き出した。
 ここがどこかなどまったくわからない。だが、まずは状況を知ることが先決と考えた彼は、誰にも会わないことを願いながら、情報を端末から得る事のできるルームを探すことにした。




841: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:47:13.48
 「大尉ーっ」

 トレーラーから胴間声で呼びかけられ、マリュー・ラミアスは振り返った。メカニックマンのコジロー・マードック軍曹が無精髭だらけの顔を窓から突き出し、怒鳴った。

 「んじゃあ、俺たちゃ先に艦に行ってますんでー!」
 「お願いね!」

 周囲が騒がしいので、自然とマリューも怒鳴り声になる。
 ここは私企業〝モルゲンレーテ〟の地上部分に当たる。
周囲は作業をする男達の活気あるやりとりで賑わい、雑然としていた。その中で、男達と同じ作業服姿ながらも、肩までの栗色の髪を振って指示を出すマリューの姿は自然と際立つ。
彼女もまた地球連合軍に籍を置く身だ。二十六歳にして階級は大尉、ここにいる中では最上官であるものの、なかなかの美人であるからこんな声もかかる。

 「大尉、コレがすべて終わったら一杯お付き合い願えませんかね? 〝ヘリオポリス〟最後の夜にでも」
 「上官侮辱罪で最後の夜を営倉で過ごしたい?」

 若い下士官にマリューがそう切り返すと、横にいたハマナ曹長が豪快に笑った。

 「ばぁか、おまえがこのねえちゃんを口説こうなんざ、十年早い」

 みな、計画の終了を目前に控え、陽気になっているのだ。
長かった―と、マリューの胸にも感慨が溢れる。極秘裏に〝G〟計画が動き始めて数ヶ月、彼女はその初期から携わり、こうして〝ヘリオポリス〟につめて、すべての過程を見守ってきた。
 〝モルゲンレーテ〟で新造艦〝アークエンジェル〟とともに開発、製造された、地球連合の新型秘密兵器は〝G〟と呼ばれ、これからの戦局を占ううえで銃よな価値を持つものであった。
その〝G〟が完成し、搬出も目の前という段階までこぎつけたのだ。これからこの新型兵器は微調整を終え、マリューが副長を務めることとなる〝アークエンジェル〟に移送されて、ひそかに〝ヘリオポリス〟を出港する運びとなっていた。
 これでやっと肩の荷が下ろせる、と、マリューは思った。〝G〟は希望なのだ。地球連合が勝ち残るために残された、唯一の―。
 その時、敵襲を告げるアラームが格納庫内に鳴り響いた。




842:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 17:50:10.84
てす

843:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 17:57:49.40
         ハァそれからどした!

     \ |同|/       ___
     /ヽ>▽<ヽ      /:《 :\
    〔ヨ| ´∀`|〕     (=○===)
     ( づ◎と)     (づ◎と )
     と_)_)┳━┳ (_(_丿

844:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 18:01:14.85
携帯から書き込んでいます、連投規制に…
すみません、途中からですが避難所にすみません

845:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 18:03:03.43
 __∠ロ_
 |   ,--,. |
 | 匚___||   wktk
 |_⊃ ─  |⊃
  ∪ ̄ ̄J

846:避難所より転載
12/09/09 18:05:25.95


 「接近中のザフト艦に通告する! 貴艦の行動派わが国との条約に大きく違反するものである。ただちに停船されたし!」

 通告も無く近づいてきたザフトの戦艦二隻を細くした、〝ヘリオポリス〟の管制区にアラートが鳴り響いた。中立の立場を取るこのコロニーでは、戦艦の入港を認めていない
だが、〝ヴェサリウス〟、〝ガモフ〟とも、停船勧告に応える様子はなかった。全通信がノイズにまぎれていく。管制官の一人が叫んだ。

 「強力な電波干渉! ザフト艦から発進されています!」

 とたん、管制室に冷たい空気が流れる。その意味するところは一つだった。

 「―これは、明らかに戦闘行為です!」

 ちょうどそのとき、港には一隻の貨物船が入港していた。その船の艦橋でも、緊迫したやりとりが飛び交っていた。

 「敵は!?」
 「情報にあったとおり、二隻だ。ナスカ級ならびにローラシア級。電波干渉直前にモビルスーツの発進を確認した」
 「ひよっこどもは?」
 「もう〝モルゲンレーテ〟に着いてるころだろうが……ザフトの歩兵部隊に進入されたと情報が入っている」
 「おいおいマジかよ。―ルークとゲイルは〝メビウス〟にて待機! まだ出すなよ!」

 船内インターフォンに向けて指示したのは、二十代後半のすらりとした金髪の男だった。端整ともいえる顔立ちだが、緊迫したこの状況でもどこか飄々とした雰囲気を漂わせ、口元は不敵そうに曲げられている。
指示を終えると彼は、すぐ自分も格納庫へ向かった。そこには貨物船には不似合いなモビルアーマー―宇宙戦闘機が並んでいる。
 一般船籍に偽装しているが、この船のクルーは全員軍人であった。
黒いパイロットスーツに身を包んだ男は、ムウ・ラ・フラガ大尉。『エンデュミオンの鷹』との異名をとる、地球連合軍のエースパイロットだ。彼らの任務は、数人のパイロット候補生をこのコロニーに送り届けることだった。
 まもなく港口からザフトのモビルスーツ、〝ジン〟が突入した。圧倒的物量を誇る地球連合軍のモビルアーマーを圧倒し、戦局を現在の形に持ち込んだのは、人型のボディを持つこの機動兵器の力が大きい。
甲冑を着けた武者のようにずんぐりしたグレイのボディを持ち、インディアンの羽飾りを思わせる頭部の鶏冠と、背中に負った翼のような推進装置が特徴的である。
 これらの兵器はみな、〝バッテリー〟を動力源としている。従来の兵器に用いられていた核分裂エンジンは、ザフトが開発したニュートロン・ジャマーによって無効化されてしまった。
このニュートロン・ジャマーは核分裂そのものの動きを阻害するため、かつての最終兵器であった核ミサイル等はこれで完全に封じ込められ、結果、戦局はこれらの機動兵器によって左右されることになる。
 〝ジン〟の突入を認めたムウは、艦長に通信した。

 「船を出してください! 港を制圧される。こちらも出る!」

847:避難所より転載
12/09/09 18:05:58.02

 「―クルーゼ隊長の言ったとおりだな」

 冷静な口調で言ったのは、イザーク・ジュールだった。バイザーごしにもわかる、冷たく整った顔立ち、まっすぐに切りそろえられたプラチナブロンドがさらにその印象を強めるが、今はヘルメットに隠されている。
パイロットとして一流ではあるが、怜悧な外見にそぐわずやや癇症の面をたまに見せる。アスランは少々この同僚を敬遠していた。ことあるごとにアスランをライバル視して、つっかかってくるようなところがあるからだ。

 「つつけば慌てて巣穴から出てくる―って?」

 ディアッカ・エルスマンがくすくす笑った。金髪に浅黒い肌、陽気そうな外見だが、じつはけっこうの皮肉屋だ。
 彼らも、その後に控えていたアスランも、いずれもザフト軍のエースであることを示す、赤いパイロットスーツを着用していた。パイロットたちを守るように、それぞれのチーム構成員が周囲を取り巻く。
 ザフト艦進侵攻の報せが届いたのだろう。にわかにあわただしくなった〝モルゲンレーテ〟工場付近の様子を、〝ヘリオポリス〟内部に侵入していたアスランたちはスコープで見つめていた。
作業服身に着けた栗色の髪の女性が、視界に入る。彼女が中心となって指示を出しているようだ。背後に開かれたシャッターから、巨大なコンテナを積載したトレーラーが出てくる。

 「……あれだな」
 「やっぱり間抜けなもんだ。ナチュラルなんて」

 イザークが冷たく言い放つと、発信機のボタンを押した。

 アスランは隣にうずくまっているニコル・アマルフィが、緊張しきった顔をしているのに気づき、軽くその腕を叩いた。ニコルは彼を見やり、ややこわばった笑みを浮かべる。
淡い色の巻き毛と大きな目をし、色白で少女めいた顔立ちの彼は、アスランより一つ年少の十五歳だ。
ナチュラルの世界ではまだほんの子供とされる年齢だが、体力、知力ともに基本レベルの高いコーディネイターとしては、この年で成人と見なされる。
背後にいたもう一人の友人が、からかうようにニコルの背中をこづいた。

 「どうした、ニコル。ママのおっぱいでも恋しくなったか?」

 にっと人懐っこい笑みを口元に浮かべたラスティ・マッケンジーが、そのまま小さく震えているニコルの肩に手を回す。
彼の性格を現すかのように明るい橙色の髪は大雑把に切りそろえられているのだが、今は赤いヘルメットに隠されて確認できない。
パイロットの中でも一番陽気でお調子者のところがある彼の明るさは、時にライバルとしてぎくしゃくしがちな仲間達の空気を緩和してくれる。

 「ち、違いますよ!」

 慌てて反論するニコルに、ラスティは白い歯を見せて笑いかけた。

 「そいつあ良かった。―っと、時間だ」

848:避難所より転載
12/09/09 18:06:45.41
 カウントがゼロになった。工場区のあちこちで爆発が起こる。爆風に飛ばされる人々、誘爆を引き起こし、炎上する施設、鉱山内部の岩盤が崩れ、瓦礫が降り注ぐ。
 だが、その情景にイザークがつぶやいた。

「報告と違う……?」

 それはアスランも感じたことだ。セットした爆弾の個数、位置などは全て彼らの頭にしっかりと入っているが、それよりも明らかに被害が少なく、ナチュラルの兵士が乗る戦車隊の行動も素早い。
 彼のつぶやきとほぼ同時に、港を突破したモビルスーツが〝モルゲンレーテ〟を攻撃しはじめた。建物の外壁がライフルの弾でえぐられ、被弾した車両が爆発し、爆風が搬送作業中の人員を襲う。
それでも戦車隊はよく応戦し、モビルスーツをなんとか近づかせないでいる。

 「まさか……作戦がばれていたとでもいうのでしょうか」

 緊張に恐怖の色を混ぜながらニコルがつぶやいた。

 「へえ。ナチュラルにもできるヤツがいるってことなのかねえ?」

 ディアッカが心にも無さそうに言った。イザークが怯えるニコルを詰まらなそうににらみ付けたが、彼が何かを言うよりも早くラスティが口を開いた。

 「―しっかしまあ、ほんとに良かったのかねえ。中立国のコロニーに何かに手を出してさあ」

 からかうような声に、イザークは視線をラスティに移す。すぐ隣では、ディアッカがやる気の無さそうに首を曲げ伸ばししている。イザークは、一度歯を食いしばってから、彼を軽く睨みつけた。

 「じゃあ中立国がこっそり地球軍の兵器作ってるのは良いのかよ?」

 言われたラスティは、眉を上げて軽く笑ってみせた。

 「あっはは。そりゃやっぱ―だめっしょ」

 あくまでも余裕の態度……というよりもふざけた態度を崩さずに言うラスティの隣で、アスランの表情が曇った。ニコルが不安げに声をかける。

 「急がなければミゲルたちが……」
 「わかってる。オッケー。行こうぜ。―〝ザフトのために〟ってね」

 そうだ、ここでこうしていては何も始まらないのだ。アスランたちは決意を固め、一斉に行動を開始した。

849:避難所より転載
12/09/09 18:07:51.99


 キラたちのエレカは〝モルゲンレーテ〟の社屋に入って止まった。彼らの指導教官であるカトウ教授のラボがそこにあるのだ。

 「あ、キラ。やっと来たか」

 彼らが部屋に入っていくと、同じゼミ仲間のサイ・アーガイルが顔を上げた。色つきの眼鏡をかけ、派手なジャケットを着ているが、風貌は理知的で穏やかだ。
キラたちより一歳年上の彼は、やはり彼らの中でもっとも常識的で思慮深く、自然とまとめ役になることが多い。
 部屋にはサイと、やはり同じゼミのカズイ・バスカーク、そして今一人、キラの知らない人物が壁際に身を寄せるようにして座っていた。帽子を目深にかぶり、顔は良く見えないが、キラたちと同年輩か、少し下の少年に見えた。

 「……誰?」

 トールがカズイに小声で尋ねる。

 「ああ、教授のお客。ここで待ってろって言われたんだと」

 キラは少し奇異の念を抱いた。教授の『お客』というには、ずいぶんと幼い。帽子からはみ出した髪は硬質な金色で、ちらりと見えた顔は小さく丸く、手足もほっそりと華奢だ。
こんな少年が、サイバネティック工学の第一人者であるカトウ教授に何のようなのだろう?

 「これ預かってる。追加とかって。渡せばわかるってさ」

 サイが一枚のメディアを取り出し、キラに差し出した。

 「うえ~? まだ前のだって終わってないのに~」

 キラは情けない声を上げた。この前から、カトウ教授の研究に付随するプログラムの解析を頼まれているのだ。いくらキラの情報処理が速いからといって、一学生にすぎない彼をお手軽にこき使ってくれるものだ。
そこらへんの無頓着さが教授のおいいところではあるが……と、思いつつ、うんざりした顔で追加分を受け取る。そんなキラに、トールが後からタックルして首を締め上げた。

 「そんなことより、手紙のことを聞けーっ!」
 「手紙?」

 きょとんとするサイの顔を見て、キラはあせってトールの口をふさぐ。

 「な、なんでもない!」

 たしかにフレイ・アルスターは可愛いし、トールにそう言ったこともある。でも、告白とかつきあうとか、そういう勇気は出せずにいた。友達のサイが、もし彼女とそういう関係になるなら、キラの片思いなんてできれば報せずにすませたい。
 なのにそこにカズイまで加わって、「なに、トール? おれにだけ。おれにだけ」と、トールにせがむ。
 ふとキラは視線を感じ、そちらに目をやった。壁際に座っていた『お客』が、じゃれあっている彼らを睨むように見ている。ほとんど金色に近い褐色の、驚くほど鋭い目だった。
顔立ちはどちらかというと繊細で整っているのに、その目だけが野の獣を思わせる猛々しさを宿している。キラと視線が合うと、少年はふっと視線をそらした。その顔に焦りの色が浮かぶのを、キラは心を奪われたように見つめた。
 そのとき突然、轟音と凄まじい揺れが彼らを襲った。

850:避難所より転載
12/09/09 18:10:26.98
 「―なに?」
 「隕石か?」

 少年たちは慌てて部屋を出て、エレベータを目指した。その間にも足をすくうような震動が襲ってくる。エレベータは電圧が不安定で動かず、一同は非常階段へと走った。
ちょうど駆け上がってきた職員にサイが、「どうしたんです?」とたずねる。職員は叫んだ。

 「ザフトに攻撃されてる! コロニー内にモビルスーツが入ってきてるんだよ!」
 「ええっ!?」

 みな、一瞬立ちすくむ。事態がよくつかめないまま、彼らは職人に促されて後に続いた。その時、キラの横にいた少年が、ぱっと身をひるがえした。あの金色の目をした少年だ。

 「―きみ!」

 逆方向へ駆けて行く彼のあとを、キラは思わず追いかけた。

 「キラ!」

 背中にかかるトールの声に、「すぐ行く!」と答え、キラは走った。
 教授の客という少年は、工場区の方へ向かっていた。キラが追いついてその腕をとらえたとき、背後のどこかで爆発が起こり、爆風が帽子を吹き飛ばした。
あらわになった顔と、掴んだ腕の頼りない感触、とっさに身をすくめたその仕草―。

 「お……おんな……の子?」

 キラがぽかんとつぶやくと、相手は例の鋭い目で彼を睨んだ。

 「……なんだと思ってたんだ、今まで」

 一瞬気まずい雰囲気が漂ったが、続けざまに起こった爆発がそれを吹き飛ばす。少女はキラの手を振りほどいた。

 「なんでついてくる!? おまえは行け!」
 「行け……ったってどこへ? もう戻れないよ」

 さっきの爆発で、来た道は無残に崩れ落ちている。キラはしばし考え、いきなり少女の手を取って走り出した。

 「こっち!」
 「なっ……離せ! バカ!」
 「ば……」

 さすがにむっとして、キラは相手の顔を見た。だが少女の目にうっすら涙がにじんでいるのに気づき、ぎょっとする。彼女はつぶやいた。

 「わたしには、確かめなければならない事が……!」
 「確かめる?」

851:避難所より転載
12/09/09 18:10:59.20

 キラは不審に思って問い返す。

 「もう遅いのか……!? こんなことになってはと思って、ここへ来たのに……!」
 「きみ……?」

 まるでこうなることを予測していたかのような彼女の言葉に、キラは立ち止まる。だが、また建物の中で起こった爆発の音に我に返り、再び彼女の手を引いた。

 「とにかく! 避難が先だよ! 工場区に入れば、まだ退避シェルターがある!」

852:避難所より転載
12/09/09 18:12:19.23
 アムロは、たまたま道中で会うことができたジャンク屋の青年にパイロットスーツ―無論素性を知られる可能性のあるものを全て回収した後―を売り渡す事で、ようやくそれなりの資金を手にすることができた。
 ここまで来ると、自分のおかれた状況を冷静に分析することができた。紙幣も『自分のいた世界(もしくは星か、時代か)』とは違うEarth Dollar(アード)と呼ばれるものだ。
ジャンク屋の青年は、アムロの持つ金属片に大きな興味を示したが、さすがにそれを売るわけにはいかなかったので、「妻の形見なんだ」と理由をつけた。
半分は本当なのだが、それを聞いて素直に身を引いたところを見ると悪い人間では無かったらしい。
 下着で出歩くつもりは無かったので簡単なシャツとズボンを彼らから買い、その姿でデパートに行く事ができた。
 手に入れた資金で水色のポロシャツと黄土色のジーンズを買い、ついでに今日の新聞も購入した。流石に洒落たサングラスなどを買う気にはなれなかったが、とりあえずは周囲から浮いた様子は見えないだろう。
 路地を少し歩いたところで、デパートの入り口付近にいた三人組の少女達とぶつかってしまったことを思い出し、その中でも一際目立っていた赤い髪の少女の顔を思い出した。

 「少し、クェスに似ていたかな……?」

 軽く息をつくように言ってみても、誰も反応する人がいないのが少し寂しかった。
 ふいに頭を上から押さえられるような音に、アムロは頭上を振り仰いだ。
 ―何だ……?
 それと同時だった、空からモビルスーツが降ってきたのは。

 「―モ、モビルスーツだっ!」
 「逃げてっ!道路の方だ!」

 叫びながら、人々の群れが、大通りに向かって津波のような移動をはじめ、街は一気にパニックへと陥った。車は人の波にもまれ、動く事もできずに往生ている。
 ようやくあって、敵襲を告げる警報が辺りに鳴り響く。
 素人か、と思う間も無く一機の知らないモビルスーツが慌しく周囲を取り巻くビルに砲撃を仕掛けた。
 重突撃銃から放たれた弾丸が綺麗に整列するビルの並木を薙ぎ払い、軽量コンクリートが砂塵の中に舞い上がって、鋼の巨人が隠れた。逃げ惑う何人かが、崩れ去ったビルの下敷きになり、人の波はいっそう激しくなる。

 「モビルスーツが、街の中にまで入ってきているのか……!?」

 苦々しい思いでアムロがつぶやいた。結局、どこに行っても自分は『戦争』から逃れられないのか。
 と、敵の前進を阻むかのように、戦車隊が回り込んできた。〝リニアガン・タンク〟―地球連合の保持する、主力戦車である。空でばらばらと風きり音を立てているのは、武装ヘリコプターだ。
 悲鳴と怒号、泣き声を立てながら、人々は、蜘蛛の子を散らすように、我先に路地へ逃げ込んでいく。時を置かず、〝リニアガン・タンク〟の一斉射撃がモビルスーツに向かって放たれた。だが、一つ目の巨人はひらりとそれを回避し、武装ヘリコプターを素手で払いのける。
 戦車隊が慌てて行く手を遮ろうとするが、まるで赤子同然である。
 人ごみに紛れながら逃げることしかできないアムロは、握り締めた拳に苦渋を浮かべさせているだけであったが、ふと、少女の呻くような声が聞こえ、視線を向けた。
 人ごみから少し離れた瓦礫の山に目をやると、先ほどデパートでぶつかった少女たちの中でも一際目立っていた赤毛の少女が、スカートの裾を瓦礫に挟まれ動けないでいた。

 「―誰か……、誰か助けて、ねえ! みんなと逸れちゃって……誰かぁ! ねえったらぁっ!」

 瓦礫からもくもくと立ち上る煙に巻かれながら、苦しそうに少女は叫んだ。自慢だったであろう赤い髪も、今では土と誇りに塗れてみる影も無い。だが泣きじゃくりながら助けを求める少女の存在に気づく事ができる者は誰もいなかった。
 アムロは弾かれるように少女に駆け寄り、声をかける。

 「君、大丈夫かい?」

 赤髪の少女は、アムロのどこか状況慣れした態度に安心したのか、ぱあっと表情に安堵の色を浮かべた。

 「あなた、さっきの……。あの、足が……」

 スカートの裾を瓦礫に挟まれ、すぐ側に投げ出された足を見やる。どうやら挫いてしまっただけのようだった。アムロはそれを見て、内心呆れたが、平和な街でこんなことが起こればこれが普通なのだ。彼女を安心させるようなるべく優しい声色言うように努め、言った。

853:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 18:14:17.38
コロニー内部でヘリは不味い……地表から離れれば無重力、の筈 支援

854:避難所より転載
12/09/09 18:15:34.80

 「―ン、わかっている」

 挟まれたスカートの裾を破り、そのままの勢いで少女をおぶさりアムロは走り出した。
 しばらくしたところで市民を誘導していた兵士が嬉しそうに声を上げた。

 「これは―大尉どの!」

 先ほどの新米兵士だ。彼は連合の兵士だという事は既に知っている。しかし、とアムロは思った。ここは中立のコロニーだと、先ほどの情報で知ることができた。だというのに、何故連合の兵士が?
 アムロは疑問の表情を出さないように、彼に呼びかけた。
 「君も無事だったようだね。―どこへ行けば、良いかな?」
 「工場区へ行って、〝アークエンジェル〟へ同乗してください!―ああ、それと……この子もお願いします」

 若い新米兵士が足元にいた幼い子供にしゃがみこみ、笑みをこぼした。
 「エルちゃん。もう大丈夫だからね」
 「うん、ありがとうお兄ちゃん」

 エルと呼ばれた少女は、周囲に飛び交う怒号に怯えながらも、それでも彼にお礼を言ってからペコリと頭を下げた。
 「わかった」と言ってアムロは幼い少女を連れ、工場区へ向かって走り出す。
 しかしアムロは言われた場所へ行くつもりは無かった。今の自分の置かれている状況からして、軍に関わるつもりは無いし、恐らく―〝ザフト〟の狙いは、その〝アークエンジェル〟というものに関係しているはずだ。
 その時、耳をつんざく爆発音と共に激しい振動が襲い、アムロは体制を崩しかけた。音や一瞬の閃光からして、距離は決して遠くは無い。
注意深く振り返ると、さきほどアムロ達のいた場所―新米兵士が市民を誘導していた場所―が焦土と化し、無残にも押しつぶされた戦車隊の残骸が惨たらしく飛び散っている。
 やがてそこに被弾したモビルスーツが墜落し、避難民のど真ん中で誘爆をしはじめた。それはこの世の地獄とも思える光景であった。
 背中の少女が一瞬震え、小さな悲鳴を漏らした。
 「……さっきの人は……?」
 アムロは声を落としてそっとつぶやいた。
 「……ここも危険だ」
 もう一度、背中の少女の体がびくっと震えた。手を繋いだ先にいるエルは、呆然と立ち上る火を見つめている。
 アムロは優しい声色を意識して言った。
 「僕たちはシェルターまで走ろう。立てるかい?」
 背中の少女は小さく「……はい」と言って、背中から降りた。彼女の埃を被った赤く長い髪が少し揺れる。少女が恐る恐る挫いた足で地面の感触を確かめているのを横目で見ながら、アムロは涙を堪えているエルを抱き上げた。
 ふと、あの男が言っていた言葉が脳裏に過ぎった。
 「―遅かれ早かれ、か……」
 「おじちゃん?」
 エルが不思議そうに首をかしげた。アムロは「……いや」と首を振って答える。
 そんなはずは無い。人は……。
 三人は燃える街から逃げるようにして、シェルターを目指して走りだした。

855:避難所より転載
12/09/09 18:16:08.35


 キラと例の少女は通路をたどって走り、やがて開けた場所へ出た。格納庫のようながらんとした空間に突き出た、キャットウォークの上だった。
キラはシェルターの方へ歩き出そうとして、銃声にはっと首をすくめた。階下では銃撃戦の真っ最中だ。外からは何かが爆発するも聞こえる。だが目に入ったものに、キラは思わず足を止めてしまった。

 「―これ……って……」

 異教の神を模したような巨大な人型が、床に横たわっていた。それは、キラの視線を受けて、今にも動き出しそうに見えた。
 鋼の色をした装甲、四本の角を生やしたかのような頭部、すらりとしたボディ―明らかにザフトの〝ジン〟とは違う形状の―。

 「地球連合軍の新型機動兵器……やはり……」

 キラの隣で少女が、がくりと膝をついた。キャットウォークの手すりを両手でかたく握りしめ、うめくように叫ぶ。

 「―お父さまの……うらぎりものッ……!」

 彼女の声は天井にはね返り、思ったより大きく響いた。きら、と光るものがこちらへ向けられるのを見て取って、キラは少女を手すりから引き離し、後へ飛びのいた。銃声が響き、間一髪のところで、銃弾が手すりをかすめて飛ぶ。
 キラは少女を抱えるようにして走り、退避シェルターの入り口へたどりついた。インターフォンを押すと、スピーカーから応答の声がした。

 〈―まだ誰かいるのか?〉

 キラはほっとして答えた。

 「はい! ぼくと友達もお願いします。開けてください!」
 〈二人!?〉
 「はい」

 スピーカーからの応答に、一瞬間があいた。

 〈……ここはもう一杯だ。左ブロックに37シェルターがあるが、そこまでは行けんか?〉

 キラは振り返り、左ブロックを見た。そこまでは、銃撃戦の真っ只中を横断していく事になる。一人ならなんとかなるかもしれない。だが、この女の子を連れては―。
 キラはインターフォンに向かって叫んだ。

 「なら、一人だけでも! お願いします、女の子なんです!」

 キラの声の幼さと、『女の子』の一言が効いたのだろう。しばしの沈黙ののち、スピーカーから返答があった。

 〈わかった―すまん!〉

 ロックを示すランプが赤から青へ変わり、扉が開いた。中はシューターになっている。キラはそこへ少女の体を押し込んだ。
 それまで虚脱したように黙りこくっていた彼女は、このときになってやっと事態に気づいた。

 「なに……おまえは……?」
 「いいから! ぼくはあっちのシェルターへ行く。大丈夫だから! 早く!」

 キラは無理やりシューターの扉を閉めた。ガラスを通して少女の口が「待て!」と動くのが見えたが、すぐ下層のシェルターへと運び去られた。
 ランプが元通り赤になるのを確認して、キラは走り出した。

856:転載者
12/09/09 18:31:50.12
あかーんわしもさるった(´・ω・`)
誰か代わりに……

857:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 19:11:48.49
 「―ハマナ、ブライアン、早く! X一○五、三○三を起動させるんだ!」

 女の声が格納庫内に響いた。キラは思わずキャットウォークの下に目をやり、例のモビルスーツの影に身を隠しながらライフルを撃つ、作業服姿の女性に気づく。
 キラははっとした。 一人のザフト兵が、軍人らしいさっきの女性を、背後から狙っている。思わず「うしろ!」と叫んでいた。
 彼女は声に反応して振り返り、敵兵を撃ち殺した。そして、その上にいたキラに目をとめる。

 「―子供……!?」

 女性が目を見開くのが見えた。彼女は撃ってきたザフト兵に撃ち返すと、キラに向かって怒鳴った。

 「来い!」
 「左ブロックのシェルターへ行きます! おかまいなく!」

 キラが大声で言うと、彼女はライフルを撃ちながら叫び返した。

 「あそこはもう、ドアしかない!」

 その言葉にキラは足を止めた。彼の決断は早かった。ためらいもなくキャットウォークから身を躍らせた彼の姿に、女性兵士は目をみはった。落差は五、六メートルあるだろう。もの柔らかな外見にそぐわぬ敏捷さで、キラは猫のようにモビルスーツの上に着地した。
 驚きに一瞬動きを止めた女性の背後で、モビルスーツを守って戦っていた男が一人のザフト兵に向け、ライフルで応射する。

 「ラスティ!」

 赤いパイロットスーツのザフト兵が叫び、仲間の援護に入った。

 「い、今のはやばかった……」
 「―ラスティ援護!」

 そのザフト兵が叫ぶと、彼の仲間が銃を撃った。

 「あうっ……!」
 銃弾が女性士官の肩に命中し、血が飛び散る。止めを刺すべく迫るザフト兵の銃が流れ弾に貫かれ、わずかに苛立ちを孕んだ様子でナイフを抜き放って彼女に迫る。キラは思わず駆け寄った。そのとき―

 「―キラ?」

 声を上げたのは誰あろう、ナイフを構えたザフト兵だった。キラは驚いてその顔を見る。
 炎の照り映えるバイザー越しに、その顔ははっきり見えた。
 ―きっとまた、会える……。

 「…………アスラン?」

 キラの口からその名が、意識しないうちに零れ落ちる。その声に、相手の体が一瞬震えるのが感じ取れた。
 意思の強そうな緑の瞳が、キラの姿を映して見開かれていた。
 その目の色が、キラはとても好きだった。物静かそうな顔立ちは成長とともに鋭さを増し、落ち着きと聡明さを漂わせるものと変わっている。だが三年の月日も、親友の面影を消し去ることはできなかった。
 思っても見なかった形での再会に、二人は言葉も無く立ちつくす。

858:避難所より転載
12/09/09 19:13:08.84
 ―その隙をついて、女性兵士が負傷した肩をかばいつつ、銃を構えた。間一髪のところで、それに気づいたアスランは飛びのく。
銃声が響き、さっきまで彼のいた空間を弾が薙いだ。
驚いて振り返るキラは女に体当たりされ、彼女もろともモビルスーツのコクピットへ転がり込む。

 「シートの後に!」

 女は指示し、モビルスーツのシステム立ち上げにかかった。

 「私にだって……動かすくらい……」

 計器類に光が入り、ブゥン……という駆動音が徐々に高まる。モニターが明るくなり、外の風景を映し出した。
横のモニターの中を一瞬、二つの赤いパイロットスーツがよぎり、もう一体のモビルスーツのコックピットに滑り込んだのが見えた。
 ―アスラン……アスランがザフト兵……?
 そんな馬鹿な。やさしいアスランは戦争なんて大嫌いだった。あれが彼であるはずが……。
次々と起こるできごとについていけず、呆然としていたキラの目に、モニターが浮かび上がった文字列が飛び込んでくる。
 ―General
    Unilateral
    Neuro‐Link
    Dispersive
    Autonomic
    Maneuver
 とっさにキラの目は、赤く輝く頭文字を拾い上げていた。

 「ガ……ン・ダ・ム……?」

 命を吹き込まれたかのように、モビルスーツの両目に光が灯り、ぴくりとその指が動く。
 歩行を覚えたての幼児のようにどこかぎこちない動作で、それでもモビルスーツは爆炎の中、立ち上がる。
炎が鋼色の装甲に照り映え、聳え立つその威容を朱く照らし出した。


つづく

859:避難所より転載
12/09/09 19:14:39.06
 〝ヘリオポリス〟の周辺宙域でも、戦闘は継続していた。
 ムウ・ラ・フラガは彼専用のモビルアーマー〝メビウス・ゼロ〟を駆り、一機の〝ジン〟と対峙していた。
流線型の赤い機体を取り囲むように付属していた〝ガンバレル〟が、パッと展開し、独自の動きで目標を掃射する。
 この〝ガンバレル〟を使いこなせるのは、地球連合軍広しといえど、数えるほどしかいない。
死角、あるいは複数への攻撃をも可能とするこの武装を自在に操ることによって、彼は月面エンデュミオンクレーターにおける
グリィマルディ戦線で、〝ジン〟五機撃墜という戦果を挙げ、『鷹』の異名を得たのである。
ジン〟と対比したノーマルタイプ〝メビウス〟の戦力が五分の一
―つまり〝ジン〟一機が〝メビウス〟五機分の働きをする―
とされる現状で、この戦果は群を抜いたものである。
 〝ゼロ〟の横で僚機が被弾し、吸い込まれるようにコロニーの鉱山部へと激突した。
広がる爆炎の中に感じた戦友の存在に一瞬眉をしかめつつ、ムウはトリガーを絞る。
すれ違いざまの一射が〝ジン〟の肩に命中し、ムウはすばやく離脱した。反転したところで、港から飛び出してきた機影をモニターに捉える。

「―あれは!?」

 見た事の無い形状のモビルスーツが、三機、ザフトのローラシア級に向かっている。
地球連合軍の虎の子の新型モビルスーツ〝G〟―Xナンバーだ。
極秘で開発していたはずなのに、こうもあっさり奪われるとは、ザフトに情報が漏れていたとしか考えられない。ムウは歯噛みした

860:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 19:15:04.07

こちらに転載してくださった方がいたようで、ありがとうございました。

あっちは48行制限なくてひゃっほーとか思ってましたが、ご迷惑をかけてしまったみたいですみません。

ほぼSEED1話2話となんら変わりなく進みましたので、アムロがアークエンジェルに乗るとこまで一気に進めました



>>853

原作にあったような・・・と思ってアニメ1,2話と小説ちょろっと見直しましたが、ヘリなんていなかったですねすみません



まだ、原作と少し違う程度の変化しかありませんが、だんだんと大きく変わっていく予定です(´・ω・`)


PCのほうがなんか書き込めなくなっちゃったので携帯から失礼しました

861:避難所より転載
12/09/09 19:15:10.80


PHASE-02 崩壊の大地

862:避難所より転載
12/09/09 19:18:02.94
 「オロール機被弾! 緊急帰投!」

 〝ヴェサリウス〟艦橋では、ラウ・ル・クルーゼが通信の内容に眉を上げた。

 「オロールが被弾だと? こんな戦闘で?」

 艦長のアデスが意外そうに声を上げる。ザフトにおけるパイロットの基本レベルは高い。
 そしてこの隊に配備されたのは、精鋭中の精鋭であるエースパイロットばかりだ。中立コロニーごときの軍備に遅れを取るはずがない。
 だが、宙を見るように目をさまよわせていたラウは、ふっと笑った。

 「どうやら、いささかうるさいハエが一匹、飛んでいるようだぞ……」
 「は?」

 意味がわからず聞き返すアデスに、ラウはなめらかな動作で立ち上がり、告げた。

 「私も出る」


 シャフトの中で、ナタル・バジルールは意識を取り戻した。
 ザフト艦進行の報せののち、慌ててやってきた兵士が、爆弾がどうとか、避難をと言い出したことまでは覚えている。
 直後、爆発が起こり、爆風によってどこかへ叩きつけられ、意識を失ったのだ。
 あたりには薄く煙が立ちこめ、爆発で吹っ飛ばされた破片や、血まみれの死体が浮かんでいる。
 あまりの惨状に、ナタルも普段の冷静さを取り戻すには時間がかかった。
 やっと呆然自失の状態から脱すると、彼女は壁を蹴って司令ブースへ向かった。

 「艦は……〝アークエンジェル〟は……!?」

 ドックに面した司令ブースへ飛び込み、彼女はぞっと身をすくませた。
 そこは爆発によって完全に破壊されていた。前面のガラスは粉々に割れ、わずかに残った非常灯が動くもののない室内を照らしている。
 幸いなことに、ドックの方は無事のようで、積み込まれる予定だった物資やモビルアーマーは無傷のまま残り、
係留されていた〝アークエンジェル〟は悠然と佇んでいる。
 ナタルは室内に目を戻した。散らばる瓦礫の合間に、兵士や士官の制服が見える。
 その中に艦長の死体を見つけ、彼女は膝の力が抜けるのを感じた。

863:避難所より転載
12/09/09 19:18:34.77

 「バジルール少尉!?」

 ふいに背後から声が上がり、ナタルははっと振り向いた。ノイマン曹長が、通路からブースを覗き込んでいた。

 「……無事だったのは爆発のとき、艦にいたほんの数名だけです」

 ノイマンが先に立って歩きながら、状況を報告する。
 出港の時を静かに待ち続ける〝アークエンジェル〟のハッチから、彼らは艦に乗り込んだ。
 一室に集まっていた生存者が、ナタルの姿を見てぱっと顔を明るくした。直前で避難してきたのか、調理服姿のコックまでいるようだ。
 これだけか―と、ナタルの気分は重くなる。士官は少尉である彼女しか残っていないようだ。
 ともあれ彼らは艦橋を目指した。艦橋へ入ると、ナタルはパイロットシートの前に並んだスイッチを次々とオンにした。
 ひとつひとつ光が入り、起動し始めるコンソールやスクリーンを確認し、彼女はふっと息をつく。

 「艦長が戦死されたというのに、〝アークエンジェル〟は呑気なものだ」
 「港口側の隔壁周辺には瓦礫が密集しています。
 ですが、幸い搬入予定の物資は殆どが無事のようですから、なんとかなると言っているのでしょうか?」
 「誰がだ?」
 「〝アークエンジェル〟がです」

 ノイマンの言葉に苦笑をしながら、ナタルは次に通信回線を開いた。
 通信機からは耳を劈くようなノイズが入る。まだ電波妨害が続いているのだ。彼女はふっと考え込む。
 〝アークエンジェル〟が標的ならば、まだ目的は達成されていないはずだ。しかし、最初の爆発以来、攻撃は止まっている。
 それなのに電波妨害が続いている、ということは―。

 「……こちらは陽動? ザフトの狙いは〝モルゲンレーテ〟ということか!?」

 自らたどり着いた結論に、ナタルは愕然とした。

864:避難所より転載
12/09/09 19:19:22.38


 〈―〝ヘリオポリス〟全土にレベル8の避難命令が発令されました。住民はすみやかに、最寄の退避シェルターに……〉

 政府広報のアナウンスが、炎が上がる街に響き渡っている。
 アスランたちは奪取したモビルスーツに乗り込み、爆発する〝モルゲンレーテ〟をあとにした。
 そのあとを追うように、奪い損ねた最後の一機が飛び出してくる。
 ―キラ・ヤマト……。
 別れの日に見た幼馴染の、今にも泣き出しそうな顔がアスランの脳裏をよぎる。
 いや―彼は首を振り、しいてその可能性を頭から振り払おうとした―彼じゃない。キラは月にいるはずだ。
 こんなところで……よりによって、地球連合軍の新型兵器などにかかわっているはずがない。
 残されたパーツや製造工場を破壊していた〝ジン〟から、通信が入った。

 〈よくやった、アスラン!〉

 モニターに映ったのはミゲル・アイマンだ。アスランは悔しそうに応答した。

 「むこうの機体には地球軍の士官が乗っている!」
 〈なに!? ラスティは?〉
 「どうもすいませんね」

 悪びれた様子無くシートの後からラスティがひょいっと顔を出した。
 モニターの中で、ミゲルが呆れたようにため息をついた。

 〈―ったく、驚かせんな。あの機体は俺が捕獲する、お前らは先に離脱しろ!〉

865:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 19:20:05.52
危うくダブって転載するとこだった。支援。

866:避難所より転載
12/09/09 19:21:06.60


 着地したとたん、機体が大きく傾き、キラは倒れないようにシートの背にしがみついた。キラは倒れないようにシートの背にしがみついた。
 あの女性は怪我をおして、懸命にあちこちのレバーやスロットルを調整している。それでもモビルスーツの動きはかなりぎこちない。
 モニターには外部カメラを通した映像が刻々と映し出されている。キラはそれを見て唖然とした。
 通いなれた道筋、日常の風景が、見るも無惨に破壊されていた。
 街路には瓦礫が散らばり、消火システムが追いつかないのか、あちことから黒煙が上がっている。
 遠くに見える商業区からは、真っ赤な炎も上がっている。画面の隅に動く人影を見て、キラはさらにぎょっとして、身を乗り出した。

 「サイ!? トール!……ミリアリア……!」

 瓦礫の間を縫うように走っていたのは、ゼミの仲間達だ。彼らも退避シェルターを見つけられなかったのか。
 そのとき、〝ジン〟がマシンガンを発砲し、放たれた七六ミリ弾が足元にクレーターを穿つ。
 やっとバランスを保っていた機体が、再び大きく揺らいだ。

 「うわっ!」

 勢い余って、キラはシートに座った女の胸に頭から突っ込んでしまった。

 「下がってなさい! 死にたいのっ!?」
 「す、すみませんっ」

 キラは慌てて身を起こす。そのとたん、サーベルを振りかぶってモニター一杯に迫る〝ジン〟の姿が目に入り、思わず悲鳴を上げる。
 女も声を上げながら、とっさにコンソールのボタンを押し込んだ。
 サーベルが頭上に振り下ろされようという時、鋼の色だった装甲が瞬くように色づいた。
 ―やられる!
 息をのんだキラの目の前で、〝ジン〟の動きが止まった。
 衝撃とともに、彼らのモビルスーツは白い両腕で〝ジン〟のサーベルを受け止めていた。

 「なに……!?」

 事態のわからないキラに、女性士官は吐き捨てるように言った。

 「〝ジン〟のサーベルなど、この〝ストライク〟には通用しない!」
 「―〝ストライク〟……?」

 彼女がさっき操作したのは、フェイズシフト・システムのスイッチだった。
 フェイズシフト―位相転移システムは、以前から理論的には開発されていた。
 だが、兵器にそれを応用したのは、このXナンバーが初めてだ。
 一定の電流を流すと位相転移が起こり、装甲が硬質化して、ミサイルなどの実体弾をはじめ、あらゆる物理的攻撃を無効化する強度を持つようになる。
 今、〝ストライク〟の装甲は、本来のメタリックグレイから、胸部と腹部が鮮やかな青と赤、四肢は輝くような白に変化していた。
 〝ジン〟の背後に立つ奪取された機体が、やはりフェイズシフト・システムをオンにしたのだろう。
 暗い鋼の色を脱ぎ捨てるように、鮮やかな赤に色を変え、飛び立った。
 再び〝ジン〟が迫る。女がトリガーボタンを押した。
 〝ストライク〟の頭部にマウントされたバルカンが、七五ミリ弾をばら撒いたが、まるきり当たらない。このときキラは気づいた。

867:避難所より転載
12/09/09 19:21:54.49
 ―この機体……もしかして!?
 一撃をくらって〝ストライク〟はよろめき、背後の建物にめり込むようにして泊まる。
 〝ジン〟は続けざまに、コックピットめがけてサーベルを振り下ろしてきた。
 操縦者が息をのみ、その一撃を避けようと、懸命にペダルとレバーを操る。
 そのとき、キラはモニターの中に見た。
 瓦礫に隠れるようにしていたトールたちの姿を。モビルスーツの巨大な足がぎくしゃくと動き、彼らの方に向かう。
 ミリアリアが悲鳴を上げ、トールはその肩を抱えて走ろうとし―。
 キラは飛びつくように計器を操作し、女の手を押しのける。そして、目の前に迫ってくるサーベルを睨みつけ、レバーを引いた。
 くっと身を沈めた機体が〝ジン〟のサーベルを掻い潜り、そのまま体当たりする。
 〝ジン〟の巨体が吹っ飛ぶのを、地上でトールたちが目を丸くして見ている。
 それをモニターの隅で確認し、キラはほっと息をつくと、唖然としている女性兵士を振り返った。

 「まだ人がいるんです! こんなものに乗ってるんなら、なんとかしてくださいよ!」
 「―君!」

 女が咎めるように叫んだ。だがキラは目もやらず、計器をチェックしていく。

 「……無茶苦茶だ! こんなお粗末なOSでこれだけの機体、動かそうなんて!」
 「ま、まだすべて終わってないのよ! しかたないでしょう!」
 「―どいてください!」

 倒れた〝ジン〟が立ち上がり、再び向かってくるのを見つめながら、キラが叫んだ。

 「はやく!」

868:避難所より転載
12/09/09 19:23:43.53
 その声に思わず女は腰を浮かし、そこへキラが割り込むように座った。
 シートの横からプログラム入力用キーボードを引き出すや、凄まじい勢いで叩き始める。
 プログラム画面を睨みつつ、目の隅では正面の〝ジン〟をとらえ、
 同時に到達予想時間と処理作業に要するプロセスを頭の中で秤にかけている。

 「―キャリブレーション取りつつゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定……
 ちっ! なら擬似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結……」

 ぶつぶつつぶやき、間に舌打ちや悪態ををさし挟みつつ、キラは猛然とモビルスーツのOSを書き換えていく。
 その間にも〝ジン〟のサーベルが迫る。キラはぱっと顔をあげ、片手でトリガーとレバーを操作した。
 バルカンが発射され、今度は掠める。そして押しのけるように〝ジン〟の腕を跳ね返した。
 その間にもその指は、常人にはありえない速さと正確さでキーを叩いていく。

 「―ニューラルリンゲージ・ネットワーク再構築―メタ運動野パラメータ更新、フィードフォワード制御再起動、
 伝達関数―コリオリ偏差修正―運動ルーチン接続、システム、オンライン、ブートストラップ起動……!」

  再びマシンガンを構えようとする〝ジン〟の動きを見て、キラはペダルを踏み込んだ。
 それは即座に反応し、〝ストライク〟は高くジャンプする。さっきまでの稚拙な動きが嘘のようだ。
〝ジン〟が警戒したそぶりを見せながら、後を追って飛んだ。キラは人や施設の少なそうな鉱山部を目指しながら、スペックを呼び出す

 「ほかに武器……あとは〝アーマーシュナイダー〟……?」

 モニターに機体図が表示され、頭部バルカンのほかに、腰部に収納されたアサルトナイフが点滅する。キラは舌打ちした。

 「―これだけか!?」

 ボタンを押すと、機体の両腰から巨大なナイフが射出される。
 それをつかみ、二本のサーベルを両手に構えながら追いすがってくる〝ジン〟に向かって飛び掛った

 「こんなところで……」

 左腕に持ったサーベルの太刀筋を掻い潜り、〝ストライク〟は〝ジン〟のふところに飛び込んだ。

 「やめろおぉぉっ!」

 キラの操る機体のスピードと運動性に、避ける間もなく、〝アーマーシュナイダー〟の切っ先が〝ジン〟に突き立てられる。
 すんでのところで、〝ジン〟は右腕のサーベルで、〝アーマーシュナイダー〟を切り払おうとする。
 だが、〝ストライク〟のパワーを抑えきることができずに、思いっきり吹き飛ばされてしまった。
〝ジン〟はそのままの勢いで身を翻し、逃げるようにその場を後にした。
 シートの後で一部始終を見ていた女性兵士は、唖然としてモニターを見つめ、次にキラを見た。
 その目には驚愕と、なにかに気づいたらしい畏敬の念がこめられていた。

869:転載者
12/09/09 19:28:13.11
うオオオオオオオん
またしてもさるった

>>865
旦那ァ、出番ですぜ

870:865
12/09/09 19:57:16.77
>>869さん 了解しました。転載開始します。

871:転載代行
12/09/09 19:58:32.95

 〈ミゲル・アイマンよりエマージェンシー! 機体の捕獲に失敗したようです!〉

 コックピットに入った通信に、ラウ・ル・クルーゼは流石に眉をひそめたようだが、仮面に阻まれて実際の表情はわからない。抵抗らしい抵抗を予測していなかっただけに、オロールの被弾に続き、この報せに誰もが以外の念を禁じえない。
あのミゲルが失敗したという事は、奪りそこねた機体がそれほどの能力を示したという事だ。
 すでに彼専用のモビルスーツ〝シグー〟に乗り込んでいたラウは、艦橋のアデスに指示を出した。

 「私が出たら、モビルスーツをいったん呼び戻し、D装備をさせろ」
 〈D装備……ですか?〉

 それは、要塞攻略戦用の最重装備だ。モニターの中でぎょっとするアデスに笑いかけたあと、ラウは愛機を発進させた。
 〝シグー〟は〝ジン〟の次世代機として開発されたモビルスーツである。〝ジン〟のそれと比べシェイプアップされたパールグレイのボディ、さらにスラスターが追加され、推進力の面も強化されている。
 〝ヘリオポリス〟へ帰投しかけていた〝ゼロ〟が、なにかためらったかのように回頭した。それを見て、〝シグー〟のコックピットの中で、ラウがひとりごちた。

 「私がおまえを感じるように、おまえも私を感じるのか……? 不幸な宿縁だな、ムウ・ラ・フラガ……」

 その口調は滴るような憎悪と、そしてなぜか奇妙な愉悦に満ちていた。
 ラウのモビルスーツが、ムウのモビルアーマーに迫る。
 〝シグー〟の接近をいち早く感知したらしいムウは、ライフルの狙撃を際どいところでかわし、すれ違って背後を取った。赤い〝メビウス〟のガンバレルが展開し、四方からラウ機を狙う。だがその一射も、ラウはあっさりかわした。

 「―おまえはいつでも邪魔だ、ムウ・ラ・フラガ! もっとも、おまえにも私がご同様かな!?」


872:転載代行
12/09/09 19:59:57.35

 「きさま……ラウ・ル・クルーゼ!」

 〝ゼロ〟のコックピットでムウが毒づいた。彼も相手が誰であるか、不思議と感じ取っていた。これまで戦場で何度も命のやりとりをしてきた宿敵だ。
その名と戦いぶりはとうに認知していたが、それ以上に五感より深いところで感じる何かがある。背筋を冷たい刃で撫で上げられたような、不快を伴う戦慄。
 二機はひとしきり抗戦する。だが、撃ってくる―と見せかけて、突然ラウの〝シグー〟が転針した。

 「〝ヘリオポリス〟の中に……!」

 〝ヘリオポリス〟港口に飛び込んだラウ機を、ムウも追う。
 ラウはあっという間に港を抜け、コロニーの背骨ともいえるセンターシャフトへと向かう。無重力のシャフト内で、工場の施設を遮蔽物に使い、〝シグー〟は追いすがる〝ゼロ〟にライフルを向ける。一気に反転して攻撃を仕掛けてくるラウを、かろうじてかわす。
 ふいに、〝シグー〟のライフルがシャフトの内壁に向けられた。ムウははっとする。
 ―まずい!
 吹っ飛ばされたシャフトの穴から、ラウはするりとコロニー内部へ侵入した。

 「この野郎……!」

 ムウは後を追うように、その穴をくぐった。コロニー内部の風景が、ジオラマのように目の前に広がる。燃える街並み―そこから少し離れた区域で、彼は地表に立つ白いモビルスーツに気づいた。

 「最後の一機か!?」

 ラウもその機体に気づいたようだ。〝シグー〟はまっすぐに最後のXナンバーへ向かい、ムウは必死にそれを阻もうとする。

 「やらせん……!」

 二機は空中をもつれ合うように飛び交い、互いに応射する。〝シグー〟の放った銃弾が、〝ゼロ〟の機体を貫いた。

 「くっ……!」

 被弾した〝ゼロ〟は煙の尾を引いて脱落し、ラウの転針を阻む事ができない。〝シグー〟が降下する先には、無防備になって立ち尽くすXナンバーの姿があった。


873:転載代行
12/09/09 20:01:40.46
「そんな! 艦を発進させるなど……この人員では無理です!」

 ノイマンは抗議した。だがナタルは起動作業の手も止めず、彼を叱責する。

 「そんなことを言ってる間に、やるにはどうしたらいいかを考えろ! 〝モルゲンレーテ〟はまだ戦闘中かもしれんのだぞ! それをこのままここにこもって見過ごせとでも言うのか!?」

 トノムラ伍長が、数名の人員を連れて戻ってきた。

 「ご命令どおり、動ける者はすべてつれてまいりました!」
 「シートにつけ! コンピュータの指示通りにやれば良い!」

 命じるナタルを、ノイマンはなんとか思いとどまらせようとする。

 「外にはまだザフト艦がいます! 戦闘などできませんよ!」
 「物資の搬入は済んだのだろう! 艦起動と同時に特装砲発射準備―できるな、ノイマン曹長!」

 睨み付けられて、ノイマンもついに腹をくくった。パイロットシートに飛び込むように座り、コンソールに向かった。

 「発進シークエンススタート! 非常事態のためプロセスC30からL21までを省略! 主動力オンライン!」

 自分は艦長席に座ったナタルが、きびきびと指示を出す。

 「出力上昇異常なし! 定格まで四五○秒!」
 「長すぎる! 〝ヘリオポリス〟とコンジットの状況は?」

 突然ふられたトノムラがうわずった声で「い、生きてます!」と答える。

 「そこからもパワーをもらえ! コンジット、オンライン! パワーをアキュムレーターに接続……」

 着々と発進シークエンスが進められていく。

 「主動力、コンタクト。エンジン異常なし、〝アークエンジェル〟全システム、オンライン……発進準備完了!」

 ノイマンが不安を押し隠して叫ぶと、ナタルの声が響いた。

 「気密隔壁閉鎖! 総員、衝撃に備えよ……! 特装砲発射と同時に最大戦速! 〝アークエンジェル〟、発進!」


874:転載代行
12/09/09 20:02:20.44


 「メーリさんの羊 メーメー羊」

 とある暗い退避シェルターの中で―

 アムロは子供の歌を聞いていた。傍らにはその母親が愛おしそうに少女をなでる。

 「―本当にありがとうございました。この娘とはぐれてしまって……」

 その言葉は、シェルターに入ってから何度も聞いている言葉だった。アムロは短く「いえ」と返し苦笑する。
 幼い少女、エルの可愛らしい歌声に、他の避難民達も笑みをこぼして聞き入っている。アムロは、隣でうずくまるように膝を抱えているもう一人の少女に声をかけた。

 「君もどうだい? こういうときは何かをしていたほうが気も紛れる」

 彼女の震える肩に優しく手を置いた。だが彼女は顔をうつむけたままだ。

 「ここは中立のコロニーなのに……なんで―」

 そう言ってから、彼女ははっと頭を上げてアムロを見やる。

 「あなた、さっき大尉って呼ばれてた―なんで中立のコロニーに軍人がいるのよ!?」

 畏敬の者を見るような目で、彼女が叫んだ。その声は狭いシェルター内に響き、避難民達が一斉にこちらに目をやる。
 アムロは内心の動揺を見せないように、逃げる間考えていた言い訳を述べた。

 「僕は退役軍人でね。もと大尉ってだけさ。彼とはその頃に知り合ったんだ」

 彼―先ほどの、新米の若い連合兵。爆発に巻き込まれ死んだ彼を理由にしたことを内心詫びつつも、アムロは続けた。

 「だから、彼らが何故このコロニーにいたのかは僕にはわからないんだ」

 声を落とし、申し訳無さそうに言うことを心がけた。それが上手くいったのか、赤毛の少女は罰が悪そうにたずねた。


875:転載代行
12/09/09 20:03:03.28
 「えと、じゃあ……あなたはどうして〝ヘリオポリス〟に?」

 それは良い質問だと思い、アムロは軽い笑顔を取り繕った。

 「君たちと同じ理由さ。この国は良いところだし、戦争も好きではない。だから〝ヘリオポリス〟を選んだんだ」

 素敵な嘘をつけたことに、アムロはほっと胸を撫で下ろした。
 自分達と同じ理由で―その言葉は、そこにいた避難民達にも安心を与えるものだった。頼るものがいないこの状況で、元軍人という肩書きは、頼もしいものに見えたのだろう。ふと、一人の老夫婦が声をかけてきた。

 「このままどうなるのでしょうか? 〝ヘリオポリス〟が破壊されたりしたら……」

 焦燥した様子で言う老人に、アムロは優しい口調で言った。

 「それは大丈夫でしょう。シェルターにはオートで脱出する機能がついていますから、万が一コロニーが破損しても、自動でそこから離れる事ができます―大丈夫、僕たちは助かります」

 あえて自信に満ちたように言ってやると、老人は安心してほっと胸を撫で下ろし、、一礼してから元いた場所へと戻っていく。それを見送るアムロの背に、唐突に声がかかった。

 「あの、わたしフレイです。フレイ・アルスター。―さっきは変な事いってすいませんでした……」

 上目遣いで言う少女の頬が、少し赤く染まっている気がした。
 アムロが何かを言う前に、どさっと膝の上に小さな少女が覆いかぶさって、言った。

 「エルだよ! おじちゃん、助けてくれてありがとう!」

 明るい笑みを顔一面に浮かべて言うエルの笑顔は眩しかった。傍らで母親も優しい笑みをこぼしている。

 「アムロ・レイだ。短い間かもしれないが、よろしく」

 彼は、エルの頭を優しく撫でながら言った。


876:転載代行
12/09/09 20:04:11.43


 爆発音とともに、大地が揺れた。〝ジン〟を撃退して、ほっと一息ついたキラだったが、その音に頭上を振り仰いだ。
 新たなモビルスーツがシャフトを破壊し、舞い降りてくる。〝ジン〟よりすっきりした形の白っぽいボディ、背中の翼の形も違う。そのあとに地球連合軍のモビルアーマーが続いた。

 「戻って……!」

 シートの後で、傷ついた肩を押さえた女性兵士が叫んだ。

 「〝モルゲンレーテ〟へ戻って! 武装がなくては〝シグー〟相手は無理! それに、今の戦闘でかなりの電力を消費したはずよ。バッテリーを換装しなければ! 電力の供給が止まればフェイズシフト装甲も無効になってしまう!」

 彼女の言葉にかぶせて、機体が衝撃を襲った。

 「うわああっ!」

 ライフルが連射され、かわしそこねた数発が直撃した。〝ストライク〟はバランスを崩して倒れ、その衝撃で傷を負っていた女性兵士が失神する。

 「くっ……!」

 キラは懸命に機体を操作し、なんとか立ち上がらせた。だがその頭上に〝シグー〟が迫っている。
 そのとき―。
 凄まじい轟音とともに、鉱山の岩盤が崩れ落ちた。もうもうと立ち込める土煙をかきわけるように現れたのは、白く輝く巨大な戦艦だった。
 キラは呆然とモニターを見つめる。

 「戦艦……コロニーの中に……!?」


877:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 20:07:41.32
支援

878:転載代行
12/09/09 20:08:04.88

 自分達の暮らす街並みの上に、全長三百メートルはあろうこあという戦艦が浮かんでいた。その規模と、これまで見た事の無い外観に、キラはしばし目を奪われる。
 戦艦はザフトのモビルスーツに気づいたらしい。艦尾から数発のミサイルが発射され、〝シグー〟を襲った。〝シグー〟は追尾してくるミサイルを撃ち落し、コロニーを支えるシャフトの後に回りこんで逃げる。
その動きに対応できずに、ミサイルはシャフトに次々とあたり、爆発が起こった。地表がギシギシと嫌な音を立てて揺れる。

 「ちょっ……冗談じゃないよ!」

 キラは怒りにかられた。〝シグー〟が戦艦の攻撃を回避しているすきに、〝モルゲンレーテ〟へ向かい、運び出される寸前で止められたトレーラーを見つける。

 「武器―これか!?」

 たずねようとしたが、女性兵士はコックピットの床に崩れ折れたまま、ぴくりとも動かない。
 この人の手当ても、早くしてあげないと……。キラはぎゅっと唇を噛み、モニター上に呼び出した情報をもとに、〝ランチャーストライカー〟のパワーパックを取り出した。
長大な砲身とバルカンがセットになったパックを、〝ストライク〟の背中に負うようにアジャストする。
左肩後方にセットされた長い砲身は三二○ミリ超高インパルス砲〝アグニ〟、右肩上には一二○ミリ対艦バルカン砲と三五○ミリガンランチャーの二種がマウントされる。

 〝シグー〟がこちらを見つけた。キラは手探りするように照準スコープを引き出し、のぞいた。 向かってくる〝シグー〟の機影をとらえ、ロックオンの表示が出る。
 キラはトリガーを引いた。
 〝ストライク〟が腰だめに構えた〝アグニ〟から、凄まじいまでのエネルギーが放たれた。
一瞬視界が真っ白におおわれる。察知した〝シグー〟はあわててかわしたが、太い光条はその左腕をもぎ取り、威力を削がれることがなく、そのまま真っ直ぐコロニー内壁の対面へ向かった。

 「―あああっ!?」

 コロニーの地表が白熱し、外殻ごと外へ向かってまくれ上がる。ビームの消えたあとには、ぽっかりと巨大な穴が空いていた。
 キラは自分のしてしまったことに青ざめ、シートの上で凍り付いていた。

 「こ……こんな……」

 一体のモビルスーツに、これほどまでの火力をもたせるなんて……。
 手にした武器のあまりの威力に戦意を失ったキラは、敵が損傷した機体を転針させ、できたばかりの穴からコロニーの外へ逃れていくのを見送るばかりだった。

*長すぎる行があると言うので部分的に改行を加えました。


879:転載代行
12/09/09 20:09:46.58


 アスラン・ザラは奪取した機体ですでに〝ヘリオポリス〟から脱出し〝ヴェサリウス〟に向かう途中だった。
 ―キラ……。
 先ほど爆炎の照り返しの中で見た顔が、目の前にちらつく。大きく目を見開き、その口は確かに「アスラン?」と動いたように見えた。 
 まさか、こんなところでかつての親友と再会するなんて。
 ……あいつがあんなところにいるはずが……。
 否定しつつ、心の奥底では確信していた。自分がキラ・ヤマトを見間違えるなどありえない。

 「どうした、アスラン?」

 アスランははっと我に返って声のするほうを振り向いた。シートの後からラスティが身を乗り出して首をかしげている。アスランは自分の失態をのろいながら、慌てて口を開いた。

 「いや、なんでも……」

 ―その時、コロニーの隔壁内から一条の光が漏れ、一瞬のちに大きく弾けた。

 「!」

 空気が吸い出され、含まれていた水蒸気が一瞬にして凍り、白い雲のようにたなびく。気流に巻き込まれた流出物が、太陽光を受けてちらちらと光った。
 そこを突破してきたモビルスーツの姿があった。隊長機だ。通信がこちらにも漏れ聞こえる。

 〈……被弾した。帰投する!〉

 アスランは思わず声を上げた。

 「クルーゼ隊長が被弾?」

 ―いったいあそこで、なにが起こっている?

 「俺らが取り損ねた最後の一機ってことか。こりゃあ帰ったら大目玉かもなあ……」

 一人で勝手に頷いているラスティを尻目に、アスランは納得した。確かに、隊長被弾したとなると、その原因は残りの一機以外にはないだろう。
 だが、自分の任務は奪取したこの機体を、無事に〝ヴェサリウス〟へ持ち帰る事だ。アスランはためらった。その脳裏に幼い頃のままの、キラ・ヤマトの面影が浮かぶ。
 答えの出せないでいるアスランに、呆れたような声がかかった。

 「あそこに戻る。―とか言うのは無しだぜ?」

 アスランは眉を顰めて悩んだが、やがてため息をついてから顔を上げる。

 「ああ。そうだな、ラスティ」

 アスランの言葉に安心したのか、彼は肩の力を思い切り抜いた。

 「ったくさあ。俺は失敗、その所為で隊長も被弾、戻っても出迎えてくれるのがあのいかつい艦長だと思うと……」

 屈託の無い笑みでひょうひょうと言う彼に、アスランはやれやれと首を振って、機体のバーニアを吹かせた。
 そうだ。まずは帰ろう。仲間たちのいる場所へ―。


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