12/08/31 22:42:59.52
「それではユーラシア連邦に接触しなければその後はなんとかなると?」
「はい…おそらくとしか言えませんが…私達が所属する大西洋連邦宇宙軍艦隊にデュエイン・ハルバートン提督がおります。
提督にお会いになれば、正規軍への加入も比較的スムーズになるかと思いますが…。」
ラミアスはブライトへ、ハルバートンにまず会ってからという事を強調しなるべく事を丸く収めたい意思が見えていた。
「ブライト大佐、我々が慎重になるのはお許しください。大佐のような左官クラスの方のような転移者は連合軍としても初めてなのです。
今までは左官クラスの転移者などいなかったものですから。」
「…それは初耳だな。」
「先にお話すれば良かったのですが…それに転移者全てに対しては連合軍も丁重に扱うようにされていますから、連合軍内でも転移者といえど大佐に強く出れる人間も限られてくるはずです。」
ムゥがラミアスの慎重な姿勢の理由を話すと、アムロは呟きラミアスはその言葉に対して政治的な理由もある事を明らかにした。
「……ちょっと待ってくれ、ではベアード少尉のようにあちらの世界での階級はそのままにしているのは、連合軍議会との話し合いで決まった事という事か?」
「はい。ムゥ大尉の部隊に編入される前は、連合軍もあちらの世界同様に小隊隊長を任せていました。」
「なるほどな…では権限もある程度は考慮される…という風に考えてもいいと言う事になるのか?」
ブライトが連合議会が定めた規定に穴があると感じ、ラミアスに確認するとブライトの勘はほぼ的中していたと言って良かった。
「ブライト、どうやら転移現象は継続的にしかも不定期に起きているみたいだな。
連合議会も原因が分からない現象に決め事もまだ曖昧と言えるな。状況もその都度違うだろうし、なおさらかもしれない。」
751: ◆wjA9YKZn62
12/08/31 22:45:45.01
アムロの言葉にブライトは頷き、仮に面倒な状況になろうともブライトやメランのような左官クラスの人間が交渉の席につけばどうにかなるかもしれないと考えた。
アムロとブライトの会話を聞いていたラミアスは規定ギリギリのやり方をすれば可能性は広がると考えた。
ラミアスはその場でムゥやナタルにブライト達を正規軍として扱っても良いか確認をした。
「俺は議会の規定云々よりも、劣勢をひっくり返せる方法なら卑怯な手を使わなければ何でもやるべきだと思うぜ?」
「…私も今の話を聞く限りでは、議会の規定の穴を潜り規定に触れなければ問題無いと思います。」
2人の言い回しに個性が滲み出ていたが賛成という流れになった。ブライト達は緊急的に連合軍の一員として改めて迎い入れられた。
「ではキラ君の件についてですが…ブライト大佐、キラ君にお話とは?」
「ああ、それはアムロから話をしてもらいたい。
彼が先にキラ君と話をしたいと言い出したものだからな。」
ラミアスがブライトに話を振ると、ブライトもバトンタッチのような形でアムロへと話が渡る。
752: ◆wjA9YKZn62
12/08/31 22:56:19.28
「キラ君、余計な話を聞かせた上に待たせて悪かったな。」
「…い、いえ。」
アムロはいつものように落ち着いた口調でキラへ話しかける。
「…それで話ってなんですか?」
「今の話を聞いた通り俺たちは地球軍としてザフトと戦う。
君はどうする?」
「えっ…?」
アムロはキラの問いにストレートな質問を返すとキラの表情が固まり、少し俯き加減になる。
「君は先程の戦闘で強引に出撃したみたいだが、何故そうしようと思った?」
「…僕は…本当は戦いたくなんかありません…でも最初の時も…さっきも…友達や住み慣れたヘリオポリスを守りたいと思ったから…。」
アムロがキラへ質問を続けキラからは悲壮感が垣間見えたが確かにその場では決意を持ってガンダムに乗ったという意思が伝わった。
「では今はもう出撃しなくても皆が助かると思っているか?」
アムロはなおも質問を続けると、キラは顔を上げアムロの顔を見て答え出した。
「それは…しょうがないと思って2度目も乗りました…でも、僕は軍人でもなんでもないんですから!」
キラは顔を上げるなり、アムロに対して声を荒げる。
「じゃあ、いずれまた戦闘が始まった時、今度は乗らずにそう言いながら死んでくか?」
キラの言葉に対し、さらに厳しい言葉をキラに向けたのはムゥだった。
「今この艦を守れるのは俺やベアード、それにお前だけなんだ。
転移者のアムロやブライト大佐が協力してくれると言ってもラー・カイラムだって守らなきゃならないし、ましてやベアードだって転移者なんだ。
俺たちが起きた世界の戦いに上手い事言って巻き込んでるだけだ。
俺たちの世界の事はこの世界の人間全員で解決しなくちゃいけないんじゃないか?」
「っ!!」
「君は、出来るだけの力を持っているだろ?なら、出来ることをやれよ。
そう時間はないぞ。悩んでる時間もな。」
ムゥが悩むキラへ決定的な言葉をかける。
アムロやブライトはキラへ言おうとした言葉を代弁したムゥへ立派な軍人だと感心していたのだった。
753: ◆wjA9YKZn62
12/08/31 23:01:18.39
「後はキラ君次第だな。
戦闘が始まるまでしっかり考えればいい。
ラミアス大尉、アムロをここに預ける。キラ君がもし戦おうと決心した時の為に力になってくれる。」
「よろしいのですか?」
「俺がそうしたいんだよ大尉。
昔の俺やある少年に似ているからな…。」
「分かりました。ではベアード少尉をそちらに編入いたしますがよろしいですか?」
「すまないな…我儘ばかりで。」
アムロの強い希望でアムロとνガンダムはアークエンジェルへ配備となり、ベアードとブロッサムはラー・カイラムへ入れ替わる形で配備となった。
「ではブライト大佐。これより大佐は連合軍という立場になりますので指揮権は大佐にお預け致します。それと軍服を用意させます。」
「良いのか?」
「もちろんです。私やバジルール少尉がブライト大佐やメラン少佐達に指示を出すわけにはいきません。」
「私もそれが宜しいかと思います。それに大佐のような歴戦の将について行くのは私としても下士官達にも良い勉強になります。」
こうしてラー・カイラムの面々は緊急処置的に地球連合軍の一員となり、両艦は月へと航行していくのだった。
~ヴェサリウス艦内~
「隊長。熱源反応です!
この方向は…奴等はアルテミスへ向かうつもりです!!」
「慌てるな…それはおそらくフェイクだ。反応が1つしかないだろう?
奴等はすでに合流している筈…必ず月へ向かうだろう。
まずはこのデブリ帯を利用して先回りする。
ガモフには反応のあったポイントからデブリ帯の中で追尾するよう伝えろ。」
アークエンジェルとラー・カイラムは途中でユーラシア連邦の誇る小惑星でできた宇宙要塞アルテミスへ向かうか、月へ向かうか決めかねたが、転移者問題の兼ね合いにより月までギリギリの航行を選択していた。
当初、ヴェサリウスの艦長アデスも連合軍はアルテミスに逃げ込むと踏んだが、クルーゼの判断により月へのルートを選択していた。
「隊長、こちらにはMSはありません。本当に追うのですか?
ムサカもズサを失うのを恐れて撤退しましたし…。」
アデスは現時点の余剰戦力が皆無の為に
クルーゼの追撃を行う作戦に躊躇していた。
754: ◆wjA9YKZn62
12/08/31 23:05:35.41
「あるじゃないか。地球軍から奪ったのが4機も。」
「あれを投入されると?」
クルーゼはヘリオポリスで奪ったMS4機を全て投入するつもりでおり、アデスが聞き返すと冷徹な笑みを浮かべ頷く。
「しかし…。」
「データを取ればもうかまわん、
後はシャアがなんとかするだろうさ…。
遠慮なく使わせてもらう。宙域図を出してくれ。
引き続きガモフにも索敵を怠らぬように打電だ。」
クルーゼはこの気を逃すまいと、執拗にアークエンジェル達を追いかける形となる。
~ムサカ艦内~
「ロック隊長。クルーゼ隊の援護は続けなくて宜しかったのですか?」
「大佐の命令はあくまでもクルーゼ隊長の監視だ。
大佐は何を考えているかは知らんが、我々は大局的に事を進めろと言われている以上は深追いはできまい。
とにかく、本国へ行き大佐へ報告だ。」
「了解しました。」
755: ◆wjA9YKZn62
12/08/31 23:09:37.69
第10話
終わりです。
過疎ってるんで報告などどうかと思いますが…
SS倉庫に今まで投下した話をうpして行きます。
文脈やセリフ、後はマードックの階級が間違っていたので
修正します。
修正版はSSにてって感じです。
756:通常の名無しさんの3倍
12/08/31 23:16:30.81
乙であります
757:通常の名無しさんの3倍
12/09/01 10:52:50.38
投下乙
758: 忍法帖【Lv=17,xxxPT】
12/09/01 17:07:36.50
乙。
少しブライトさん立ち位置を決めるのが急すぎな気もするけど、原作の流れを考慮すると
仕方なし、かな?
事前に転移者がいるってのもあるんだろうけど。
しかし、投下の間隔が短けーな。
面白いからさくさく読んじゃうわ
759:通常の名無しさんの3倍
12/09/01 21:30:29.45
投下乙!
のんべえ氏のようなじっくり読む長編もいいが、こういうさっくり読めるのもいいね。
展開も地味に違うし、続きが気になる。
そして、非常に個人的なコトだが、やっと書き込めるようになったのぜ…。
8月は携帯もPCも規制の煽りを受けて書き込みできず、フラストレーション溜まりっぱなしだった。
760: ◆wjA9YKZn62
12/09/01 22:10:27.53
皆様、コメありがどうござます。
>>758
実はブライトさんは一番好きなキャラでしてwww
ラミアスさんがブライトさんを差し置いて指揮官なんて
まだ早過ぎらぁ!!という感じで無理矢理ねじ込みました。
アムロ主役を忘れずに、ブライトさん、シャアをダサくもカッコ良くも
スポットライトを当てて行きたいと思います。
ブライトさんが主役ののんべえさんの作品が一番好きなんですが
真似みたいな事をしてあの壮大な作品を汚す真似はできないのでwww
761:通常の名無しさんの3倍
12/09/01 23:32:18.65
それにしても投下速度がすごいな
序盤だから書き溜めていたのだろうけど
762: ◆wjA9YKZn62
12/09/02 01:24:26.59
機動戦士ガンダム SEED Angel bell
第11話
~プラント・ザフト軍基地~
「シャア大佐、ライデン少佐をお呼びしました。」
「分かった。通してくれ。」
シャアは広い一室で分厚い報告書に目を通していた。
今やザフト軍の中でもクルーゼに並ぶ地位を獲得していると言われるシャアは、ザフトの名立たる隊長クラスの人間や軍内に限らずプラント評議会内でも、信頼を勝ち得つつあった。
「失礼します。」
「あんな辺境まで駆り出させてすまなかったな少佐。
報告書は一通り目を通した…。
目当てのGは4機のみ奪取か。
私の予想通りの結果になった訳だな。」
「まあ、仕方ないでしょう。
能力任せの未熟な坊や達に任務を任せているんじゃ、全て成功ってのはあり得ませんよ。」
シャアは帰還したライデンが入室し、労うと早速ヘリオポリスでの作戦報告についての話を切り出した。
シャアはGの奪取が4機のみに終わった結果にはさして動じる事もなく淡々としていた。
ライデンも同様にすでに予想し得た結果として受け止めていた。
「しかし、気になるのは君の為にチューンナップしたギラ・ドーガが中破した事と転移者の戦闘介入だな。」
「まあ戦闘介入とは言ってもクルーゼが一方的に……いや、これはまだ良いでしょう。
問題はその転移者ですよ。」
「クルーゼか…グラムからの報告も気になるな。
しかし、君も人が悪い…帰ってきてから転移者の情報を詳しく話すとは聞いたが、気になるな。」
シャアに上げた報告書通りに話は進むが、ラー・カイラムとの戦闘に関してライデンはシャアに直接詳細を伝えるとし、シャア自身はまだアムロが転移して来た事は知らなかった。
「あいつはやはり強かった。
名前だけでしか聞いていなかったから、尚更奴の強さに戦慄しましたよ。」
「ふっ…もったいぶらずに言ったらどうだ?私を相手に遊んでも何も得はなかろう?
一体誰が来たんだ?」
763: ◆wjA9YKZn62
12/09/02 01:25:43.02
ライデンはしみじみとアムロとの戦闘を思い出し、焦らすように話していたが、シャアは小さく笑いながら問いかける。
「…連邦の白い悪魔、アムロ・レイですよ。
あれは大佐が来た時代のアムロ・レイのはず。
俺のギラ・ドーガを見て敵意を露わにしてましたから。」
「!?」
ライデンは腕を組み、にやけた顔でシャアにアムロと接触した事を明かした。
「それは本当か!?」
「本当も何も、俺をあれだけ追い詰める人間はそうはいない。
『赤い彗星』シャア・アズナブル大佐もよくご存知でしょう?」
シャアはその後、ライデンからアムロならずブライトも転移してきた事を聞かされ眉間にシワを寄せ深く考えこんでいた。
「…。(…今の私を見たら貴様達ははさらに怒り、そして失望するだろうな…異世界で広げ過ぎ、放たれた戦火の炎を消せずにいるこの私を…。)」
~アークエンジェル艦内~
「どこに行くのかな、この船。」
「まだザフト、居るのかな?」
アークエンジェルではヘリオポリスで機密事項であったGの戦闘を目撃したカトーゼミの面々、
カズイが不安そうな表情で話していた。
サイも呼応するように艦やザフトの動向が気になっていた。
「この艦と、あのモビルスーツを追ってんだろ?じゃあ、まだ追われてんのかも。」
「えー!じゃあなに?これに乗ってる方が危ないってことじゃないの!やだーちょっと!」
「じゃあ、壊された救命ポッドの方がマシだった?」
サイとカズイの言葉にトールが的確な予想をすると、
救命ポッドを回収した際に乗っていたゼミのフレイ・アルスターが動揺しながら騒ぐ。
ミリアリアはフレイに対し現実を見せるように言葉を返していた。
「そ、そうじゃないけど…。」
「親父達も無事だよな?」
「避難命令、全土に出てたし、大丈夫だよ。」
ゼミの皆もキラと同じで、一末のの不安を抱えながら両親の身を案じていた。
「あ、キラ!?」
「あ…みんな。」
カトーゼミの面々が話をしているとキラが1人で歩いて来た。
それに気付いたサイはキラを呼び止める。
764: ◆wjA9YKZn62
12/09/02 01:29:25.83
「軍の人から聞いたよ!どこいったのかと思ったぜ!?」
「ご、ごめん…心配かけちゃって。」
キラを心配し、周りを囲むように談笑しているとムゥがキラへ声をかける。
「キラ・ヤマト!」
「は、はい。」
「マードック軍曹が、怒ってるぞー。人手が足りないんだ。自分の機体ぐらい自分でちゃんと整備しろとさ。」
キラはムゥの呼び声に振り向き、ムゥはキラにとって以外な事を言い出した。
「僕の機体…?え、ちょっと僕の機体って…」
「今はお前の機体になっちまってるんだ。
OSがお前独自の調整になってるんだ、整備班が手出し出来ないんだとさ。」
キラはムゥへ聞き返したが、ストライクが既にキラにしか動かせないようになっており、整備班から整備はキラにやらせろと声が上がっていた。
「…でも…僕は…」
「まだ決めてなくても整備士の手伝いだと思ってやってくれ。
今は軍に入るとか入らないとか抜きにしてな。」
「…はぁ…。」
キラは半ば強引に説き伏せられる形で格納庫までムゥに引き連れられて行く。
「あの!この船はどこに向かってるんですか?」
「月の本部基地だ。ま、すんなり行けばいいがな。ってとこさ。
無事着くように祈っててくれ。」
サイがその場を離れるムゥに声をかけ質問すると、ムゥは正直に目的地を伝えて一言言い残していった。
「え!?なに?今のどういうこと?あのキラって子、あの…」
サイ 「君の乗った救命ポッド、モビルスーツに運ばれてきたって言ってたろ。
あれを操縦してたの、キラなんだ。」
「えー!あの子…?」
「ああ。」
フレイは先程のムゥやサイ達の会話が気になりサイへ聞くとその答えに驚く。
「でもあの…あの子…なんでモビルスーツなんて…」
「キラはコーディネイターだからねー。」
「「!!」」
「カズイ!!」
765: ◆wjA9YKZn62
12/09/02 01:30:50.63
フレイは驚きながら何故、同じゼミの人間がMSに乗っているのか分からないでいると、カズイはキラがコーディネイターである事をさらりと漏らす。
それを聞いたサイは驚き、フレイはさらに驚いていた。
トールはヘリオポリスでキラが囲まれ、銃を突き付けられた事が頭に残っており軽々しくキラがコーディネイターである事を漏らしたカズイへ大きな声を上げる。
「……キラはコーディネイターだ。でもザフトじゃない。」
「……?」
「…うん、あたし達の仲間。大事な友達よ。」
「…そう…」
サイがコーディネイターを恐れるフレイを安心させるように説明すると、ミリアリアも同じように説明をした。
フレイは安堵と不安、どちらも入り混じるような複雑な気持ちでいた。
~ヴェサリウス艦内~
クルーゼ隊は月に向かうアークエンジェルを追っていた。
クルーゼはヘリオポリスでの戦闘で奪取したイージスに乗り、
強行出撃をしたアスラン・ザラを呼び出し、その心意を問うていた。
「…そうか。戦争とは皮肉なものだ。君の動揺も仕方あるまい。
仲の良い友人だったのだろ?」
「…はい。」
ストライクに乗っているパイロットがキラ・ヤマトである事、
そして彼とは月の幼年学校で共に過ごした友人であった事をアスランはクルーゼへ正直に話した。
「分かった。そういうことなら次の出撃、君は外そう。」
「えっ!」
「そんな相手に銃は向けられまい。私も君にそんなことはさせたくない。」
「いえ!隊長!それは…!」
クルーゼは至って冷静にアスランの話を聞き、
人間であれば当然そう命令するであろう言葉を返すと、アスランは驚く。
「君のかつての友人でも、今敵なら我らは討たねばならん。それは分かってもらえると思うが?」
「…キラは!…あいつは、ナチュラルにいいように使われているんです!
優秀だけど、ボーっとして、お人好しだから、そのことにも気づいてなくて…だから私は、説得したいんです!
あいつだってコーディネイターなんだ!こちらの言うことが分からないはずはありません!」
766: ◆wjA9YKZn62
12/09/02 01:32:11.71
クルーゼの言葉に対し、アスランは自らの希望を胸にクルーゼへキラの説得を懇願する。
「君の気持ちは分かる。だが、聞き入れないときは?」
「!……その時は…私が討ちます…。」
しかし、そのような世迷い言とも取れるアスランへ、
クルーゼは現実に引き戻すかのように問いかけ、アスランはその時は覚悟をする事を誓った。
その言葉を聞いたクルーゼはなんとも言えぬ邪悪な喜びを感じていた。
~ラー・カイラム艦内~
ブリッジ
「ベアード少尉、頑固者のアムロのせいで急な編入ですまない。」
「いえ!!かの一年戦争の英雄であるブライト・ノア大佐とご一緒できる事を喜んでおります!」
ラー・カイラムのブリッジにはアムロと入れ替わるように編入されたジャック・ベアードがブライトへ着任の挨拶をしていた。
「ブライト大佐、そこで私から一つお願いがあるのですが宜しいでしょうか?」
「うん?何だ?」
「…僕をジャックと呼んで貰えますでしょうか?」
ベアードはブライトへ真剣な眼差しで何を言い出すのかと思いきや、いきなり呼び方を頼んできた。
これにはブライトや隣にいたメランは目を丸くし、周りのブリッジクルーのシーサー達はこけ、クスクスと笑っていた。
「オホン!………少尉…、司令官である大佐へそれは馴れ馴れしいぞ?
今は非戦闘中であっても月へ向かう作戦行動中であり、ザフト艦が後を着けて来ている可能性もあるのだ。
緊張感が足りないのではないのか?」
「う…。」
767: ◆wjA9YKZn62
12/09/02 01:33:05.39
メランがベアードへ軽く説教染みた事を言う。
ベアードはそうメランに言われると少し反省しているようだった。
「まあいいじゃないかメラン。
ベアード少尉……いや、ジャック少尉今はラー・カイラムを守れるMSは君だけだ。
それにアークエンジェルを無事に月へ送るのが目的であり、その背後を守るいわば殿だ。
世話になっていたムゥ大尉やラミアス大尉達を安心させられるように応えてみせてやって欲しい。」
「大佐……あ、ありがとうございます!!」
ブライトは妙に真面目だが可愛げのあるベアードにそう言葉をかけると、やれやれと感じながらもこの場を丸く収めた。
~アークエンジェル艦内~
アムロは編入となったアークエンジェル艦内をナタルに案内して貰っていた。
「すまない、バジルール少尉。」
「いえ、下士官を休ませなければいけませんでしたので。」
一通りの案内を終え
アムロの部屋となる扉の前でアムロはナタルへ礼を言う。
ナタルの生真面目な固い性格が滲み出るような返事にもアムロは落ち着いた表情でいた。
「確か君があの時ヘリオポリスでアークエンジェルを動かして戦っていたのだろう?」
「はい。…あの時は判断が散漫でありました。
その結果がヘリオポリスの崩壊を招いてしまった一因でもありました…。」
アムロはヘリオポリスでの戦闘を話し、ナタルは追求されたくない事だったのか少し顔を俯けていた。
768: ◆wjA9YKZn62
12/09/02 01:34:02.11
「いや、確かに冷静にならなければいけなかったかもしれないが
余程の人間じゃない限り、
あんな状況じゃ冷静ではいられなくなるものさ。」
「は、はあ…。」
アムロはそれに気付いたのかすかさずフォローをいれるように語りかけ、ナタルはその言葉をフォローと受け止めていたがあまり効果はなかったようだ。
「君はブライトの今までの話を聞いて驚いただろうが、俺も彼も最初は必死だった。
艦にはアークエンジェルのように避難民を乗せて戦った事もあった、常に冷静でいられる事なんて無かったよ。」
「大尉や大佐が…ですか?」
アムロはナタルをフォローするつもりがいつの間にか、思い出話になっていた。
ナタルもアムロやブライトの過去に少し興味を持ったのか顔を上げて話を聞いていた。
「では、何故大尉は戦おうと思われたのですか?」
「それがキラ君と似たような境遇でね…ヘリオポリスではまだ話していない事も沢山ある。
だがあの時は戦わなければ死んでいた…。」
アムロがナタルの問いに答えると自然とアムロは顔を下に向けていた。
「大尉…もし宜しければ、その一年戦争のお話やここに来るまでのお話をお聞かせ願えないでしょうか?」
「?あぁ、構わないさ。
それじゃあ、立ち話もなんだから、中に入ろう。」
ナタルはアムロが見せた寂しさすら伺わせる表情が妙に気になりアムロの今までの話を聞く事にし、部屋の中へと入っていった。
~プラント~
とある邸宅
「あら…彗星さん。
大変お久しゅうございます。」
「これはラクス嬢。ますます美しくなられましたな。
お父上はどちらに?」
「まあ、お上手ね。
カナーバさんとご一緒ですわ。
ご案内します。」
シャアは仕立ての良いスーツに身を固め、プラント元最高評議会議長であるシーゲル・クライン議員の下を訪れていた。
769: ◆wjA9YKZn62
12/09/02 01:35:11.44
第11話
終わり
戦闘前の会話シーンようやく終わりです。
770: 忍法帖【Lv=18,xxxPT】(0/5:0)
12/09/02 23:25:23.99
:::::::::::.: .:. . ∧_∧ . . . .: :::::::: >「?あぁ、構わないさ。
:::::::: :.: . . /彡ミ゛ヽ;)ヽ、. ::: : :: >それじゃあ、立ち話もなんだから、中に入ろう。」
::::::: :.: . . / :::/:: ヽ、ヽ、i . .:: :.: :::
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ なんてこった。これだけ?これだけなのか・・・
はよ、アムロルームでのナタルとの熱いやり取りを・・・はよ!!
771: ◆wjA9YKZn62
12/09/03 00:57:47.25
>>770
おまんの気持ちはよぉ~分かる!!
じゃが、2人の大~事な時間を邪魔するモンじゃぁねぇぜよ!
そのうち番外編で書きますからw
今は戦闘シーンでいっぱいっぱいですwww
772:通常の名無しさんの3倍
12/09/03 01:33:19.10
夜の戦闘シーンかー
773:通常の名無しさんの3倍
12/09/03 03:25:36.95
ベルトチカかチェーンが居るだろう
774: ◆wjA9YKZn62
12/09/03 05:08:35.34
機動戦士ガンダム SEED Angel bell
第12話・前編
アークエンジェルとラー・カイラムは順調に航行を続けていた。
ヘリオポリスを経ってから8日目に入り、ユーラシア連邦の制宙範囲を避け、ザフト艦に捕捉されぬよう
暗礁空域へ入るなどの遠回りしながらの航行を続け、
月までの距離はようやくあと3日までの距離にまで来ていた。
~アークエンジェル艦内~
「敵影補足、敵影補足、第一戦闘配備、軍籍にあるものは、直ちに全員持ち場に就け!軍籍にあるものは直ちに…」
アークエンジェルのブリッジから追跡をして来ていたヴェサリウスを捕捉し、艦内放送を流れる。
「ママぁ~。」
「大丈夫よ。…」
「戦闘になるのかこの船…?」
「俺達だって乗ってるのに!」
「…キラ…どうするのかな。」
避難民を収容している居住ブロックには避難民の不安の声が入り混じる中に、サイらカトーゼミの生徒達もおり
ミリアリアはキラがどうするのか
心配していた。
「あいつが戦ってくれないと、戦力が少なくて困ったことになるんだろうなぁ。」
「ねぇトール…私たちだけこんなところで、いつもキラに頼って守ってもらって…」
サイとミリアリアはいつの間にかアークエンジェルというより、軍を心配し守ってもらうばかりの状況に歯痒い気持ちを感じていた。
「もし…キラが戦うんだったら…俺たちにも何か出来る事があるんじゃないか…?」
トールは意を決したように全員に問いかけるとサイ、ミリアリア、カズイは力強く頷いた。
~ラー・カイラム艦内~
「艦長、先行するアークエンジェルより通信入りました。」
「分かった。繋げ。」
アークエンジェルの背後を守るように航行するラー・カイラムも熱源を探知し、警戒体制に入っていた。
775: ◆wjA9YKZn62
12/09/03 05:09:27.06
「ブライト大佐。ザフト艦と思われる熱源反応があります。」
「こちらでもキャッチした。
速度から見て間違いないな…。
戦闘は避けたかったが仕方あるまい。」
「はい…。各員には艦内放送にて伝えてあります。
動きがあるまで第2戦闘配備で待機します。」
ブライトは民間人を乗せた状況での戦闘が始まるのを防ぎたかったが、すぐに切り替えラミアスの報告を聞いていた。
「了解した。おそらくザフトは補給をせずにこちらを追って来ているはずだ。
戦力事情は分からんが今までの戦闘である程度は削れているはずだ。」
「はい。どちらにしても警戒を怠らずに迅速に対処します。」
「ああ、こちらは後方の警戒を疎かには出来ないのでな。(後はキラ・ヤマトがどう出るか…か。)」
ブライトは相手の分析を的確に出来ていた。
ラミアスもその言葉に安心しきらずに戦闘に挑むという意気込みが感じられた。
~アークエンジェル艦内~
「!?…アムロさん!!」
「キラ君・ヤマト!」
「こんな所でどうした?」
ナタルはこの数日程、時間が開けばアムロに過去の話を聞く為にアムロの部屋に出入りしていた。
そんなナタルとアムロだが艦内放送を聞き、部屋を出た所でキラに呼び止められる。
776: ◆wjA9YKZn62
12/09/03 05:10:25.32
「……決心がついたか?」
「…はい。」
アムロはキラの表情から何かを読み取ると、キラへ迷い無く聞く。
その問いにキラはアムロへ真っ直ぐ目を見つめ返事をする。
「分かった、では君はもうお客さんじゃない。
守りたい物があるなら何が何でも守り切るんだキラ・ヤマト。」
「は、はい!」
「…。」
アムロの言葉は今までの穏やかなアムロでは無かった。
死と隣り合わせの戦場で1人の戦う男としての顔を見せ、キラの決心を正面から受け止めていた。
ナタルは先程の穏やかな顔とは違うアムロの姿を見て心臓が激しく動く感覚を覚えた。
「キラー!」
「あ!トール、みんな!」
「よう!!キラ。」
「…何?どうしたのその格好?」
その時アムロの後ろからトール達が駆け寄って来た。
トールは威勢良くキラに声をかけるとキラは軍服を来た友人達に問いかける。
「僕達も艦の仕事を手伝おうかと思って。人手不足なんだろ?」
「ブリッジに入るなら軍服着ろってさ。」
「軍服はザフトの方が格好いいよなぁ。階級章もねぇからなんか間抜け。」
サイ達はキラが再び戦うと信じて、自分達も戦おうと決心していた。
トールは他のゼミのメンバーと違い戯けてみせたが
キラはそんな友人達の姿を見て自然と心が通いあっていると感じた。
「生意気言うな!」
「お前にばっか戦わせて、守ってもらってばっかじゃな。」
「こういう状況なんだもの、私たちだって、出来ることをして…」
「おーら行け!ひよっこども!」
そんなトール達に軍服を用意したチャンドラ二世に突っ込まれるが
トールとミリアリアは
キラにだけ大変な思いさせるまいという気持ちを伝えた。
チャンドラは全員を押すとブリッジへ行くよう施した。
「じゃあな、キラ。」
「後でね。」
「あー、お前もまた出撃するんなら、今度はパイロットスーツを着ろよ!」
777: ◆wjA9YKZn62
12/09/03 05:11:24.82
ブリッジに向かいながら手を振り先を行く友人達。
そしてチャンドラもキラがストライクに必ず乗ると信じていたのか一言伝えてブリッジへ向かって行った。
「強い子達だ…。
君が大変な思いをして重荷を背負うなら
自分達も何か出来ないか必死に導き出した答えなんだろう。」
「……はい…アムロさん…、
だから…僕は大切な友達を死なせたくないです。」
「……ではアムロ大尉、キラ・ヤマト、着替えが済み次第カタパルトへお願いします。」
アムロがキラへ再び穏やかな表情を見せると誇らし気にキラは友人達への思いを口にしていた。
ナタルは切り替え、着替えるよう施し、敬礼したのちブリッジへ向かった。
~アークエンジェル・ブリッジ~
「キラ君が?…そう決心がついたみたいね。」
「はい。アムロ大尉の言葉にもしっかりと応えていました。」
ナタルはブリッジへ到着するとラミアスへキラの戦闘参加の意思を伝えていた。
~アークエンジェル・カタパルトデッキ~
「ほぉ~?」
「…?あ。」
「やっとやる気になったってことか?その格好は。」
ムゥはカタパルトデッキにおり、ネティクスの前に立っていた。
ノーマルスーツに着替えてやって来たアムロとキラを見ると、
キラへ話しかける。
「大尉達が言ったんでしょ?
今この船を守れるのは、僕と貴方達だけだって。
好きで戦争したい訳じゃないけど、僕はこの船は守りたい。
みんな乗っているんですから。」
「俺達だってそうさ。
意味もなく戦いたがる奴なんざ、そうは居ない。
戦わなきゃ守れねぇから、戦うんだ。」
778: ◆wjA9YKZn62
12/09/03 05:12:34.64
キラは妙に意地っ張りな事を言うと、
ムゥは否定もせずにキラの考えを尊重するように話をする。
「ムゥ、俺のこのノーマルスーツなんだが…もしや俺に合わせて作ったのか?」
「ははは。
前に着ていたノーマルスーツに似せただけだ。
白ベースに赤いラインがシンプルでイカすだろ?コズミックイラバージョンさ。
そのヘルメットにあるユニコーンのエンブレムはマードックに頼んだんだぜ?やっぱエースパイロットは専用カラーのスーツを着ないとな。」
「……特にこだわりは無いんだけどな。」
アムロに用意されたノーマルスーツはムゥの図らいによりアムロ仕様となっていた。
ムゥのアムロへの一方的なイメージでアレンジされたスーツだった。
ムゥの妙なテンションにアムロは若干呆れているようだ。
「よし!じゃあ、とっておきの作戦を説明するぞ~。」
~ヴェサリウス艦内~
「追跡から5日…ようやく捉えましたね。」
「ああ、頭は抑えた。ここで仕留めるさ。」
「敵艦は足つきが先行、後方にロンド・ベルの艦です。
後方はガモフを当てますか?」
アデスはホッと方を撫で下ろし、クルーゼはこれからまた始まる戦いに心を踊らせていた。
アデスは後方にアークエンジェルの控えるラー・カイラムが気になるようで、挟撃の策を頭に入れていた。
779:通常の名無しさんの3倍
12/09/03 12:04:56.63
支援
780:通常の名無しさんの3倍
12/09/03 23:05:55.29
終わってるのか?
781:通常の名無しさんの3倍
12/09/03 23:38:35.71
それにしてもラーカイラム目立つだろうな
あれって何気に500m級だし
782: ◆wjA9YKZn62
12/09/04 03:05:57.70
みなさんすいません
引っ越しをするんでインターネット回線外したら
本スレ投下出来なくなくなりました( T_T)
明日は休みなんで今はネカフェから投下させて頂きます
783: ◆wjA9YKZn62
12/09/04 03:12:10.79
~アークエンジェル艦内~
「ローラシア級、後方90に接近。」
「とにかく、艦と自分を守ることだけを、考えるんだぞ。」
キラ 「は、はい!大尉もお気を付けて。
(…アスラン…また君も来るのか?…この船を沈めに…)」
バルの報告を聞くと、既にコックピットに乗り込んだムゥはバイザーを下ろしキラへ声をかける。
キラは始めて戦略性のある戦闘であるが故に緊張した面持ちで答えた。
しかし一方でアスランを気にしているようだ。
「フラガ大尉、ネティクス、リニアカタパルトへ!」
「ムウ・ラ・フラガ、出る!戻ってくるまで沈むなよ!ここは頼んだぜアムロ!!」
「ああ!やってみるさ!!」
ナタルのオペレートによりネティクスで発信態勢に入り、
ムゥはペダルを踏み込むと同時に
アークエンジェルやアムロに言葉を残し発進していった。
「ローラシア級、後方50に接近!」
ナタル「よし、続いてアムロ大尉、νガンダム、リニアカタパルトへ!!」
「了解、キラ…浮き足立つなよ?
それを悟られたら付け入る隙を与えてしまう。」
「はい!!」
「アムロ、νガンダム行きまーす!!」
バルは引き続き報告をすると、
発進のタイミングを図っていたナタルから合図を聞くと、アムロは
キラへ声をかけ、発進して行く。
「2分後にメインエンジン始動!ストライク、発進準備!」
「ストライク、発進位置へ!
カタパルト接続。システム、オールグリーン!」
ラミアスはνガンダムの発進を確認し、アークエンジェルのエンジン始動の指示を送り
ストライクの発進を指示した。
トノムラはストライクの発進準備完了をキラへ伝える。
キラ 「(大尉が隠密先行して、前の敵艦を討つ。敵MSは僕とアムロ大尉で迎撃…アムロ大尉がリードしてくれるとはいえ…うまくいくのかな…)」
キラは今作戦の概要を思い出し、イメージしていた。
不安が募る中、その時を迎える。
784: ◆wjA9YKZn62
12/09/04 03:13:22.83
「キラ!」
「!ミリアリア!」
緊張し、固まっていると通信モニターからミリアリアがキラを呼ぶと反応する。
「以後、私がモビルスーツの戦闘管制となります。よろしくね!」
「よろしくお願いします、だよ。」
「はは。」
ミリアリアがCIC担当としてキラへ改めて挨拶しおどける。
そのミリアリアにツッコミを入れる様子をモニターしていたキラは
幾分か緊張がほぐれていた。
「装備はエールストライカーを。アークエンジェルが吹かしたら、あっという間に敵が来るぞ!いいな!」
「…はい!」
キラはナタルの指示を聞き、正面を見据え発進の合図を待つ。
「エンジン始動!同時に特装砲発射!発射射線上にνガンダムに入らぬように伝えて!目標、前方ナスカ級!」
「了解!!ローエングリン!てぇ!」
~ヴェサリウス艦内~
「前方より熱源接近!その後方に大型の熱量感知!戦艦です!」
「回避行動!」
「ふん…こちらに気づいて慌てて撃ってきた…か。」
ザフトオペレーターの報告を聞いたアデスは冷静に回避の指示をすると。
ヴェサリウスはローエングリンの回避に成功した。
クルーゼはこちらの予想通りの展開となっている状況を静観していた。
「先の言葉信じるぞ!アスラン・ザラ。」
「…はい。」
クルーゼはカタパルトにて発進準備を終えていたアスランに声をかけると、アスランは静かに返事をした。
785: ◆wjA9YKZn62
12/09/04 03:17:52.71
~ガモフ艦内~
「熱源感知!大型の敵戦艦と推測!」
「よし、クルーゼ隊長からの指示通りに行くぞ!?バスター、デュエルを発進させよ!」
ガモフ艦長ゼルマンはラー・カイラムをレーダーに捉えると発進指示を送った。
「前方、ナスカ級よりモビルスーツ発進。機影2です!」
「艦長!」
「お願い!」
チャンドラより敵MS発進の報を受けると、ナタルはラミアスに確認をし、ラミアスは頷き合図を渡した。
「キラ・ヤマト!ストライク発進だ!」
「キラ!」
「…了解!…はぁはぁはぁ…」
『今、この艦を守れるのは、俺達とお前だけなんだぜ?』
『お前に守ってもらってばっかじゃな。』
『こういう状況なんだもの、私たちだって…』
キラはストライク発進の指示を受けると、返事をする。
キラの心臓の鼓動は激しくなり自然と息が荒くなる。
ムゥやトール、ミリアリアの言葉を思い出し高鳴る鼓動を抑える。
「キラ・ヤマト!ガンダム!行きます!!」
キラは覚悟を決め、
前を見据えると大きな声がコックピットとブリッジに響き、
一気に加速し発進して行く。
~ラー・カイラム艦内~
「艦長!!どうやらストライクも発進したようです!」
「!?……そうか、ようやく腹を括ったか。」
ウォレスの報告を聞くと、ブライトは落ち着いた表情でキラの事を考えていた。
「後方よりザフト艦!!MS発進、機影は2です!!」
「分かった。ジャックを発進させろ!!」
「「「了解!」」」
786: ◆wjA9YKZn62
12/09/04 03:19:01.93
後方のガモフから敵MS発進を捉えると、すぐにブロッサム発進の指示を送るブライトに全クルーが声を揃えた。
「ここはヘリオポリスじゃない!
思う存分撃つぞ!?」
~アークエンジェル艦内~
「後方のラー・カイラムに接近する熱源2、距離67、MSです!
前方からの接近中のMSは、距離64!!射程圏入りました!」
チャンドラは戦闘宙域に展開するMSとの相対距離をラミアスに報告していた。
「来たわね。」
「対モビルスーツ戦闘用意!
ミサイル発射管13番から24番、
コリントス装填、
リニアカノン、バリアント、両舷起動!
目標データ入力、急げ!」
ラミアスと報告を聞くと、ナタルの攻撃の合図を待ちナタルは迎撃の指示を送る。
「数は前方、後方合わせて4!機種特定…これは…Xナンバー、イージス、ブリッツ、バスター、デュエルです!」
「何ぃ!?」
「え!!」
「!!」
チャンドラのさらなる報告にラミアスとナタルは声を出し驚き、ブリッジクルーも言葉を出せずに驚いていた。
「イージスに続けて奪ったGを全て投入してきたというの…?」
787:通常の名無しさんの3倍
12/09/04 03:19:40.67
テスト
788: ◆wjA9YKZn62
12/09/04 03:30:40.11
「!キラ、前方から2機来ている!!俺が先手を取る、無理をせずに援護をしろ。
アークエンジェルを守る事も忘れるな!?」
「はい!(…守るって言ったって…!)」
アムロはキラよりも若干早く先行し、イージスとブリッツを捕捉する。
キラには無理をさせまいとアムロ自らが遊撃手となり、キラを援護に回らせる。
アークエンジェルを守りながらの戦闘でもあるため、キラは口で簡単に言われるよりも難しいと感じていた。
「キラ!?」
「あのMSは…アスラン!?」
アムロとキラはイージスとブリッツをモニターで目視できる距離まで近づいた時、
キラとアスランは互いの存在に気付く。
「もうアスランとニコルはあっちのMSと接触する!!後れを取るなよ!」
「ふん!あんなやつらに!
獲物の的がデカい戦艦くらい落としてみせるさ!!」
イザークとディアッカはアークエンジェル側のアスラン達に遅れを取るまいと息巻いた。
「敵、MS展開中!」
「迎撃開始!CIC!何をしてるの!」
チャンドラはMSの動きをしっかりと見てブリッジに報告し、
ラミアスは迎撃が遅いCICへ檄を飛ばす。
789: ◆wjA9YKZn62
12/09/04 06:35:52.50
「…!?レーザー照準!いいか!?」
「はい!」
「ミサイル発射管13番から18番、てぇ!
7番から12番スレッジハンマー装填!
19番から24番コリントス、てぇ!」
G4機投入に動揺していたナタルはラミアスの言葉に気付き、攻撃の合図を送り、
アークエンジェルからはミサイルが一気に発射されいよいよ戦闘が始まった。
「ヘリオポリスじゃイージスと相性が悪かったが…
バスターとデュエルならガンダムタイプでも俺にだってやれるさ!!」
ベアードはヘリオポリスでイージスに煮え湯を飲まされたが、
今回はコロニー内ではなく宇宙空間であり、
相性の悪い相手では無いためやる気満々といった表情だった。
ベアードはその言葉と同時にロングレンジビームキャノンをバスターとデュエルに向け3発、4発と発射する。
「っく!?おいおい!アイツ俺のバスターより射程が長いんじゃねえか?」
「ふん!あんな遠くからしか戦えん臆病なガンダムなど!!ミドルレンジならどうだ!?」
「!?イザーク!あんま前に出るなって!」
バスターとデュエルがブロッサムの攻撃を回避するとバスターのパイロット、ディアッカがバスターを上回る射程の攻撃に驚く。
イザークはブロッサムの攻撃に敵意を剥き出しにし、距離を詰めようとペダルを一気に踏み出す。
「狙い通り距離を詰めて来たな。艦首ミサイルの装填、連装メガ粒子砲のエネルギー充填いいか!?」
「いつでも行けます、艦長。」
「よし、艦首ミサイルランチャー1番から6番、連装メガ粒子砲撃てぇぃ!!」
790: ◆wjA9YKZn62
12/09/04 06:38:43.18
ブライトはブロッサムの攻撃により距離を詰めさせ、ラー・カイラムによる波状攻撃を行う。
「な!?」
イザークは押し寄せるミサイルランチャーと連装メガ粒子を前に驚き、機体を止める。
「イザーク!!下がれ!」
ディアッカは連装メガ粒子砲を回避し、デュエルの前に出ると
両肩から6連装ミサイルポッドと
右腕に実装された散弾式徹甲弾のガンランチャーを発射しミサイルランチャーを相殺する。
「へっ、貸し一つだ!出過ぎるなっつったろ!?……おわっ!!」
「ちょろいなっ!まずは1機!」
ラー・カイラムの攻撃を防いだディアッカがイザークへ自信満々に言うと、その隙に死角からベアードのブロッサムがビームサーベルでバスターを狙う。
「調子に乗るなぁ!!」
「…何!?」
バスターを払いのけイザークはデュエルのビームサーベルでブロッサムのサーベルを受け止める。
ベアードは無理をして押し込まず機体を下げ一旦距離を取る。
「貸しなどすぐに返せば帳消しだディアッカ!」
「あっぶねぇ~…くそ。
ナチュラルのくせして冴えてんなこいつら。
やっぱ油断すんなって事かぁ?」
「ヘリオポリスの戦闘記録を見たのかディアッカ。この機体の戦法だろうが。」
距離を取るブロッサムを前にイザークとディアッカは言葉を交わし再び戦闘モードに切り替える。
「惜しかったなぁ…分かってても中々防げるモンじゃないんだけどな。
やっぱコーディネイターの反応は早いな…でもやれる!!」
791: ◆wjA9YKZn62
12/09/04 06:42:19.57
第12話・全編
終わり
現状、スムーズに投下できる環境でないので
この後のお話は避難所に投下させて頂きます。
もし続きをご覧になられる場合はお手数ですがそちらへお願い致しますm(_ _)m
792:通常の名無しさんの3倍
12/09/04 09:31:10.76
もしも、CCAアムロが種・種死の世界にいたら
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)
793: ◆wjA9YKZn62
12/09/04 11:40:15.81
>>792さん
リンク張り忘れてました。
すいません、ありがとうございます。
後編が避難所にありますので御覧になられたい方はそちらへ。
794:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 17:53:36.05
SSの投下ってこっちで良いんでしょか?
いつの間に避難所なんてできたんだろう・・・あっちに投下が良いんでしょうか?(´・ω・`)
795:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 18:30:50.86
規制くらってこっちでは投下できないとかの問題がある時のための避難所だから
特に制約なければこっちで投下した方がいいと思う
796:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 18:37:45.95
おお、ありがとうございます
797: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:44:11.76
で、では投下を・・・少しどきどき(´∀`*)
798: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:47:28.33
「―ッ!? そういう事を言うからぁーッ!」
少女が撃った弾丸が地球連邦の量産型モビルスーツ〝ジェガン〟へと吸い込まれエメラルドグリーンの装甲が風に舞う木の葉のように四散し、やがて崩壊を始めた〝ジェガン〟は太陽の方角へと引き流される。
少女の名は、クェス・パラヤ―地球連邦軍参謀次官の娘、天真爛漫で感受性が強く、我侭な、それでいて、どこにでもいるような少女だった。父と母が不仲で、それを何とかするために、明るく振舞うような幼い日々もあった。
―だが、両親は別れた。
なぜ人はわかりあうことができないのだろう。なぜ人は、理解しあおうとしないのだろう。
全てが嫌だった。
世界も、大人も、人も、何もかもが。
だから逃げ出した。
そしてめぐりあう人々との交流の中、ある存在に興味を持ち始めた。
人の革新―『ニュータイプ』……。
過去の大戦を戦い抜いた伝説の英雄、アムロ・レイ―人々からニュータイプと謳われ、あるいは恐れられてきたエースパイロット。その男のかたわらには女がいた。
その女の中に、もう一つの命を感じたとき、クェスは決して彼女らの間に入ることができない現実を知り、逃げ出した。
でも、あの人は手を差し伸べてくれた。あたしを必要としてくれたんだ。だから、あたしは……。
友達が、私の邪魔をした。あの人のやることを邪魔をしに来た。どうせこいつは幸せな家庭で育って、ぬくぬくと生活してきたんだ。だからこんなに馬鹿で、子供で、馴れ馴れしくて、心の内に土足で踏み込んできて……。
「―あんなこと言うから……」
無性に寒かった。体の震えが止まらない、両の腕でぎゅっと抑え込む、自分でもぞくりとするほどに冷たい躯体、本当に人と同じ血が流れているのかと疑ってしまうほどに。
ああ、でも友達を殺した私は、もう自分が嫌いな大人たち以下になってしまったのだろうか。
どうしてこんなことになってしまったのだろう、あたしはただ人とわかりあえるようになりたかっただけなのに……。
でも、あたしは彼とわかりあおうとしなかった。でも、でも、あたしは、あたしにはやらなければいけないことがあって、それは人とわかりあうために必要なことで、でも、だから、それを邪魔をしたあいつが……。
「あたしが悪いんじゃない……」
―ハサウェイ・ノア。出会ったばかりの少年。それでも、自分と共にいてくれた優しい少年を、あたしは―。
クェスを救うために〝ジェガン〟を駆りやってきた彼の言葉に、〝アルパ・アジール〟のコクピットを覆うサイコフレームが過敏に反応したのか、それとも……。
指先の感覚が、無かった。
球状操縦桿アーム・レイカーは、従来の操縦桿よりも繊細で、小さな動作も拾い機体に反映する。
あたしが、殺ったの……?
それはまるで、自分を檻の中に閉じ込めるかのように巨大で冷たい、クリーム色のマシン。
友達を、あたしが、殺したの……?
幾多の思い出が、割れたガラスのようにクェスの脳裏を散りばめる。最後に笑ったのはいつだったのだろう。ずっと昔、まだ父と母が愛し合っていた頃の幼き日々? そんなに昔?
あたしは、そんなに笑わない人間だったのか? 深い闇へと堕ちていく彼女の心の中で、ああと思い立った。
彼と一緒だったときに、あたしは笑っていたじゃないか。では、彼を撃ったあたしは、本当に……。
「……みんな……嫌いだ……」
うめいた言葉の『みんな』の中に自分自身も含み、彼女の心は冷たく凍てついた漆黒の宇宙《そら》のように凍りつく。
頼れるものなど、何も無かった。
799: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:49:00.30
「―これは!?」
星屑の戦場で、男が少女の心を感知した。
どうやって感知したのか。若き日に得た力か、それともこれもまた、人の意思を集める力を持つサイコ・フレームの成せる業か。
純白のパイロットスーツに身を包んだ男の名は、アムロ・レイ。ぞわりと身を這う怨念のようなものを振り払うようにしてアーム・レイカー握りなおし、フットペダルを踏み込んだ。
「馬鹿なことを!」
サイコ・フレームに包まれたコクピット内のアムロの思念が形となり、〝νガンダム〟が反応する。
少女の意思を目指して、〝νガンダム〟が六枚の片翼を翻し虚空の闇を飛んだ。
その片翼―放熱板とも、見方によればマントとも取れるそれを背負い、〝νガンダム〟が宇宙《そら》にぽつりと浮かぶ巨大な物体を捉えた。
アムロは一瞬、激昂した。
「クェス! 一体何をしたんだ!」
アムロの脳裏には、クェスの笑顔が浮かんでいた。
彼女は優しい子だった。だのに何故……?
その答えを、彼は知っていた。
十三歳の少女の心は、あまりにも未熟だった。
「友達だったんだろう?」
〝アルパ・アジール〟の身体がびくりと震えた。
『友達なんかじゃない!』
通信機など介していない。クェスの心が言葉となって、アムロの心に走る。
「彼の気持ちを思ったことがあるのか!」
クェスに撃たれたハサウェイ・ノア。彼はクェスを愛していたのだろう。
漆黒の宇宙の闇が、一段と濃くなっていく。まるで人を飲み込む怨念のように。
800: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:51:25.03
「あたしの邪魔ばっかりして!」
クェスはもう一度、強く声を上げた。
あたしを導いてくれると思ったのに、憧れていたのに! 今更になって現れて、偉そうに!
『なぜ理解しようとしない……。なぜ素直になれないんだ!』
クェスは思わず奥歯をかみ締めた。
あたしは知ろうとした! 気持ちも伝えようと……したのに……ハサウェイが……!
―あたしはやってしまうつもりなんかなかった!
「あなたに何がわかるって言うの!?」
アムロは何もわかってくれていない。あたしの気持ちも、こんなことになってしまった理由も―。大人はいつもいつも上からものを見て、あたし達の気持ちなんてわかってくれないんだ!
「そんな、いつも偉そうな事ばっかりー!」
激昂したクェスの叫びに呼応するかのように、〝アルパ・アジール〟の口にあたるメガ粒子砲が火を噴いた。その力強い光の濁流が彼女の思念に操られ、〝νガンダム〟に襲い掛かる。
『クェス、よさないか!』
〝νガンダム〟はメガ粒子の濁流を易々とかわし、背中のマントを翻す―否、そのマントは六つに裂け、コの字に折れ曲がり漆黒の闇を舞った。
〝フィン・ファンネル〟―〝νガンダム〟に搭載された、無線誘導型の小型メガ粒子砲。それらが一斉に、彼女に立ち向かったのだ。
クェスはすぐさま反応し、〝アルパ・アジール〟の円状ビット、〝ファンネル〟を射出した。
「落ちろ……落ちろぉー!」
クェスの心からダイレクトにイメージを受信し、〝ファンネル〟が磨ぎ立てのナイフのような鋭さで漆黒の宇宙を舞い、無数のビームが放たれた。
しかし、クェスの〝ファンネル〟から放たれた網の目の様な波状攻撃を、〝νガンダム〟は碌な回避運動も取らず、慣性移動だけでビームの嵐の狭間を漂い回避していく。
そのままの動作で一つ、また一つと、餓えた獣のように飛び交うクェスの分身たちを撃ち落す。
彼女は唇を噛み締めた。こんな戦い方をしてみせるアムロが許せないから。こんなに強いのに、自分を見てくれないことが、助けてくれないことが―。
〝νガンダム〟から放たれた〝フィン・ファンネル〟に攻撃の意思が無いように見えるのも、彼女の心を逆立てる。
やがて、アムロの意識が、〝νガンダム〟のコックピット内に組み込まれたサイコ・フレームを介し〝フィン・ファンネル〟に伝達され、クェスの対応する間も無いほど俊敏な動きで死角から死角へと移動し〝アルパ・アジール〟を包囲した。
―やられてしまう……!
しかし〝アルパ・アジール〟を包囲した〝フィン・ファンネル〟は、彼女の思考とほぼ同時に動きを止めた。
一瞬の後、コの字に曲げられた独特な形の〝ファンネル〟から一斉に淡い色のビーム膜が張られ、〝アルパ・アジール〟を四方から包み込むようにしてピラミッド状のバリアを作り上げる。
―なんだ、これは!?
クェスは正体不明の攻撃から脱出すべく、必死に〝アルパ・アジール〟を動かし檻の中で抵抗をした。ある〝ファンネル〟は、膜に向かってビームを放つ。ある〝ファンネル〟は体当たりを仕掛けるが、膜に弾かれて身動きが取れない。
―そうか、これは……!
アムロの行為は、クェスにとって傲慢なものでしか無い。
―子ども扱いされている!
「こんなの、嫌いだー!」
正面の膜を睨みつけ、クェスは指のメガ粒子砲を放つ。だが、それは光の膜に遮られた粒子の雨は目の前で四散し、激しい光を放ちクェスの網膜を焼いた。衝撃に、少女は悲鳴を上げた。
801: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:53:31.79
「そんな攻撃では!―そんな道具の使い方では、間違って人を殺すのも当たり前だ!」
そう、かつて自分がそうだったように。―あの時、あの瞬間。出会えた少女を殺してしまった時のように……。
「それでは……家族だって殺してしまう!」
『あたしはそんな馬鹿じゃない!』
少女の怒りが、伝わってきた。それは悲しい叫び。
『こんなものぉ!』
クェスの体から力が溢れ、それが〝アルパ・アジール〟を介し、波動となって宇宙を駆ける。その押しつぶされるような圧迫感に、アムロは歯を食いしばった。
「―クッ……何と力のある娘だ!?」
力強くも、若すぎる力。だからこそ、少女は少年の気持ちを受け入れられず―。
そのとき、言葉が走った。
―ああ、クェス。怒るんじゃないよ―
アムロははっと顔をあげ、周囲を見回した。知った人間の波動。心のともし火。
「―ハサウェイ!?」
少年のイメージがアムロの脳裏に飛び込み、それを形作る。少年は、瀕死のように見えた。
「クェス、感じないのか。ハサウェイは死んでいない!」
『ウソばっかりっ!』
クェスから聞こえてくる心は、泣いていた。
ああ、この少女はなんて純真なんだ。
アムロは一度目をつむってから、優しく接するように努めようとした。
僕はもうじき父親になるのだから。なら、それをここでやってみても良い。この戦いの後、ベルトーチカとひと時の幸せが許されるのなら、僕は―。
少しの不安とわずかな気恥ずかしさに火照った顔を冷やすべく、アムロは静かにヘルメットのバイザーを上げた。
「そういうクェスだから、ますます苦しい思いをする……。クェスに助けを求めているのがわからないのか」
802: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:56:01.53
宇宙《そら》を走ったアムロの言葉に、少女は一瞬はっとする。
―ハサウェイが……あたしに助けを求めている?
そう感じた瞬間であった。
―怒っちゃいけないよ、クェス。それじゃあ可愛い顔が台無しだよ
一瞬にして、傷ついたハサウェイのイメージがクェスの脳裏に映し出される。そして少し引いた位置に、傷つき力を失った〝ジェガン〟が、ゆっくりと太陽に流れていくイメージが見えた。
「……ハサウェイ?」
そう言ったクェスの心は、期待と嬉しさと、わずかな不安に満ちたものだった。彼女を諭すように、アムロが続ける。
『そうだ。太陽の方向だ』
……太陽。じっと目を凝らすが、もう一度彼の鼓動を感じることができない……。
―遠い。そう感じた。それでも、クェスはわずかな期待を込め、アムロに尋ねる。
「間に合うかな?」
『〝アルパ・アジール〟のパワーを使えば、助ける事もできる』
憧れの人の優しい声に、クェスの心音はとくんと高鳴った。
〝アルパ・アジール〟―それは自分を包み込む巨大な檻。だがどうだろうか、先ほどまでは戦場の狂気と化していたこのモビルアーマーは、今では頼もしく、あたしの願いを叶えてくれる巨人のように感じることができ、唐突に彼女は理解した。
自分を拒絶した世界が嫌だった、誰からも愛されないのが辛かった。でも、拒絶していたのは、あたし……? あたしが人を愛すれば、あたしの世界は変わるの……? 彼を撃ったマシンで、彼を救う……。
『―あとは、クェスがそれをどう使うかだよ』
クェスは思わず〝νガンダム〟を見た。その姿はまるで、「帰っておいで」と優しく迎える、クェスの最も求めて止まない―父のようであった。
彼女は顔を上げ、太陽を見つめる。わずかな不安は、輝く星空の美しさで消えつつあった。
「待ってて、今行くから!」
〝アルパ・アジール〟を操るクェスの意識が宇宙《そら》を駆けた。その淡い光は素晴らしく美しい。
―どこにいるの、ハサウェイ……!
少女から発せられた光は無数の粒となり、太陽に向かって伸びていく。その向こうで、光るものがある。
「―見つけた!」
クェスはぱっと表情を明るくし、子供のように喜んだ。少女に寄り添うように漂う〝νガンダム〟はどこまでも優しい。
『そうだよクェス。後は君の気持ちを繋げばいいんだ』
いつのまにか、クェスを支配していた激しい感情は消えていた。僅かな気恥ずかしさを隠すように、クェスは言った。
「後ろから撃つなら撃ってもいいよアムロ」
そしてクェスは、〝アルパ・アジール〟の武装を着脱させ、すっと前を見据える。
目の前に広がる宇宙《そら》はどこまでも蒼く、どこまでも優しく、命の光を称えていた。
―ああ、あたしは自由なんだ……。
803: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:57:38.30
敵を撃ち滅ぼすために搭載された様々な武装が、心を縛り付ける装甲が、一斉に分離する。そして〝アルパ・アジール〟は頭部のみを残した姿となった。呪縛から解き放たれた瞬間である。
頭部のみとなったその姿は頼りなさよりも、少女を祝福してくれるかのような優しい力を、強く発しているように見えた。
ロケットブースターを吹かせ、太陽へと向かうクェスの声が、聞こえてきる。
『―信じてみる』
彼女は確かにそう言った。アムロはもう一度深く目を瞑り、息を吐く。
脳裏に浮かぶ散っていった仲間たちの顔。俺はようやく、彼らにほんの少しだけれども、顔向けができるようになれたのかもしれない。
そのままの瞳で、アムロは太陽を見つめた。
既に〝アルパ・アジール〟の姿は見えなくなるほど遠くなっていた。
「ハサウェイ、ちゃんと迎えてやるんだぞ」
この言葉は、もう届いていないだろう。それでも、アムロは言った。
そのままシートに深く座りなおし、宙を仰ぎ見る。
―愛しているという心は……愛しているという心は……。
アムロは……寂しいのだ。
だが、彼は地球を見据えた。
戦いは終わっていない。今を生きる一人の人間として、未来を担う子らを導いてやれる時はここまでのようだ。
過去との決着をつける瞬間が迫っている。
もう〝νガンダム〟は振り向くことなく、地球に迫る巨大な隕石――〝アクシズ〟を目指した。その奥に、深い闇に取り付かれ、やがては闇を生み出す元凶と成り果て、血の様に赤い翼を羽ばたかせる竜のモビルスーツを感じる。
―血塗られた獣の喉が、低く唸った気がした。
804: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 18:58:10.19
PHASE-00 コスモス・カラー
805:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 18:58:55.37
遂にEVOLVE版か!
ということはクェスとハサウェイが種世界に?
806: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:00:10.23
震える冷たい瓦礫の上で、力を失い倒れこむ一機のモビルスーツの姿があった。〝ナイチンゲール〟
―血のような赤色をし、巨大な竜を模した外見のそれは、もはや戦う力など残されていない。完全に沈黙し、動くことはないだろう。
もう〝ナイチンゲール〟は、腹部に搭載された拡散メガ粒子砲で群がる〝ジェガン〟をあっという間に蹴散らして見せたり、
リアアーマーに装備された二本の隠し腕を駆使し、左右のマニュピレーターと合わせ計四本のビームサーベルで同時に攻撃を仕掛けるような戦い方も、二度とすることは無い。
敗者となった竜は、他の骸同様ただの屍でしかない。
そこから少し離れた地点で……。今、まさに地球に落ちようとしている巨大な隕石――〝アクシズ〟を押し戻そうと、必死にバーニアを吹かせているモビルスーツの姿があった。
〝νガンダム〟である。
〝νガンダム〟の右手と〝アクシズ〟に挟まれるような形で岩の中にめり込んだ脱出コクピットから、シャア・アズナブルの叫びが聞こえる。
〈アムロッ! 何をするのだっ!〉
「確信が持てるまでは、なんでもやる! それが、宇宙を汚した我々の仕事だっ!」
地球を背にし、全力でバーニアを吹かせつつアムロは絶叫した。
降下する〝アクシズ〟の斜め前に取り付いた〝νガンダム〟は、オーバーロードの熱で白熱化していた。それは、一匹の蟻が前進する像を押し返す行為に似ている。
アムロ・レイとシャア・アズナブル―〝νガンダム〟と〝ナイチンゲール〟の戦いは、アムロの勝利に終わった。だが―。ネオ・ジオンの作戦である隕石落としは、遂行されようとしていたのだ。〝νガンダム〟から、淡い光が溢れ始める。
突如、〝νガンダム〟を真似て、同じように〝アクシズ〟を押し返すべく三機の〝ジェガン〟がやってきた。
「なんだ!?」
唖然としたアムロは、やがて状況を理解したのか、目を見開いて激昂する。
「止めてくれ! こんなことに付き合う必要は無い!」
〈そうはいきません!〉
アムロの知らない男の声が聞こえた。
〈大尉だけに、いい思いさせられないでしょ!〉
更に、別のパイロットである。
〈…………ッ!〉
歯を食いしばったようなうめき声、更に別の〝ジェガン〟から聞こえてきた。
その間にも、〝アクシズ〟を押すようにしてバーニアを全開にするモビルスーツは、次々に増えていった。
それらは一方方向から接近するのではなかった。地球の反対側からも接近して、〝アクシズ〟に取り付いていった。その数は、数十……。
しかし、〝アクシズ〟はモビルスーツの推力で押し戻されたり、進路を変えるような大きさではない。
「寄るなっ! 寄るんじゃないっ! ここは、ガンダムで面倒見る!」
アムロのコックピットは、すでに真っ赤になっていた。
807: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:02:04.53
〈しかし!〉
〈まだまだ!〉
〝νガンダム〟からは、きらきらと、細かな光の粒がまといつくように発せられていた。
気がつけば、連邦のモビルスーツだけではなく、〝アクシズ〟を地球へ降下させようとしていたはずのネオ・ジオン側の機体―〝ギラ・ドーガ〟さえ、彼らの中に加わっていた。
〈地球が駄目になるかならないかなんだ。やってみる価値はありますぜ!〉
そして、アクシズに取り付いたモビルスーツたちは、オーバーロードで加熱していった。その行き着く果ては自滅しかないのに……。
「しかし、爆装している機体だってある!」
アムロがそう叫んだのが早いか否か、一機の〝ジェガン〟がオーバーロードに耐え切れず、爆散した。
「―駄目だ! 摩擦熱とオーバーロードで、自爆するだけだぞ!」
大気の上層と触れ合う機体は、いっそう震動していた。
一機の〝ギラ・ドーガ〟が力尽き、死んだように〝アクシズ〟の表面から転がり落ちていく。それを、咄嗟に掴んだ〝ジェガン〟が見えた。―最初に駆けつけたうちの一機だ。
アムロの目から涙が溢れてくる。
「もういいんだ! みんな止めろっ!」
彼の悲痛ともいえる叫びに応えるように、〝νガンダム〟と〝ナイチンゲール〟のコックピットの接触部が発光して、その光が拡大していった。
〈もう少しです! そうすりゃ、完全に〝アクシズ〟は……うわっ!〉
最初に威勢よく話しかけてきた〝ジェガン〟も、光となって消えた。アムロは唇を噛み締めながら前を見据える。ふいに、接触回線を通じて、右手に握られたコックピットから嘆くような声が聞こえてきた。
〈―結局、遅かれ早かれこんな悲しみだけが広がって地球を押しつぶすのだ……。ならば人類は自分の手で自分を裁いて、自然に対し地球に対して贖罪しなければならん。アムロ、なんでこれがわからん……!?〉
「離れろっ!―ガンダムの力は……!」
『パパ!』
「―ッ!?」
子供の、声がした。男の子なのか女の子なのかはわからない。だが、不思議とそれがまだ産まれてもいない自分の子供だという確信を持つことができた。〝νガンダム〟の母艦、〝ラー・カイラム〟に残してきたベルトーチカと自分の―。
機体のオーバーロードと白い波と淡く美しい光が、上下左右に取り付くモビルスーツにぶつかると、それらを優しく弾いていった。
それは、オーロラに似た鮮やかなものだった。
〈ガンダムが俺をどけた!?〉
さらに、別のモビルスーツを優しい光が弾いた。
〈ああ……! これじゃ、〝アクシズ〟をっ!〉
〈この蒼い光は……。人の意思を背負っているっ!?〉
弾かれながら必死に手を伸ばす〝ジェガン〟たちから、悲鳴にも似た叫びが聞こえてくる。
808:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 19:03:03.30
ナイチンゲールということは小説版+EVOLVEということかな
809: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:04:02.11
〈そんな……待って下さいアムロ大尉! 自分達も〝アクシズ〟を……!〉
〝アクシズ〟全体を、〝νガンダム〟から発した蒼い輝きが包み込み、周囲のモビルスーツを宇宙へと送り返しはじめた。
そして、その輝きはやがて光の帯となり、伸びて、〝アクシズ〟の光景を移しながら、地球を囲むように流れていった。
〈大尉ーっ! 自分達の命を使ってください! そうすればアクシズはっ!〉
「余分な命はいらないんだ! 俺とシャアだけでっ!」
広がり続ける〝νガンダム〟の波動に、次々とモビルスーツが帰るべき場所へと運ばれていく。
アムロとシャアのコクピットは、もう高熱になっていた。
〝ラー・カイラム〟の戦闘ブリッジでは、クルーは、なす術もなくその輝くアクシズの状況を見守っていた。
突然の援軍、突然発した謎の光に唖然としていたブライトはその光の発端にいるであろう戦友を思い出し、キャプテンシートを勢い良く立ち上がりながら怒鳴った。
「〝ガンダム〟に、アムロに伝えろっ! 離脱しろとっ!」
「無理です! オーバーロード・ウェーブで、無線はブラックアウトしていますっ!」
誰もが、目の前で起こっている事態を把握できていないのだ。モビルスーツが正体不明の光を発っしているなど、どうして知ることができようか? ブライトは友の死を悟り、呆然と立ち尽くした。
「クェス……?」
ハサウェイは、傷ついた体を起こし、隣で呆然と座り込み口元を抑えるクェスを抱き支えた。
彼女は震える声でつぶやいた。
「アムロがいなくなっちゃうよ……。アムロがぁっ」
クェスの言っている意味がわからず、ハサウェイは彼女を優しく抱きしめながら聞いた。
「アムロさんが……?」
「アムロはあたしのお父さんになってくれるかもしれなかったのに……」
泣きじゃくりながら叫ぶクェスの言葉に、ハサウェイは顔をあげた。この子は父親を欲しがっていたのだろうか?
本当は父でなくても良いのだろう。優しい人ならば、頼れる人ならば―自分の安心を与えてくれる人物ならば彼女は誰でも良かったのかもしれない。寂しい子なのだから。
彼は拳を握りしめてから、一度だけ〝アクシズ〟を睨みつけてけ、やがて優しく少女を抱き寄せた。それは、彼自身の新たな決意。
「僕、頑張るからさ……」
泣いたままの表情で、クェスは「え?」と顔をあげる。 彼はクェスをそのまま抱き寄せ、こつんとパイロットスーツのヘルメットを押し付け優しく語りかけた。
「アムロさんに負けないように……頑張るから……。だから―」
地球を包み込むように広がるオーロラをバックにして、少女のか細い腕がハサウェイの背を優しく抱く。
救助はいつ来てくれるのかわからない。それでもハサウェイは、この寒い宇宙《そら》でぽつりと浮かんでいるこの状況を寂しいものだとは思わなかった。
宇宙《そら》には、人の意思が溢れているのだから。
810: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:05:11.89
「アムロは……?」
モビルスーツのコクピット内部で気を失っていたベルトーチカが目覚めると、〝ラー・カイラム〟の船体が目の前にある偶然に、息をついたものの、自分と〝ラー・カイラム〟の間に、おびただしい石が流れているのに怖気づいていた。
しかし、石の流れ向かう、地球の前を流れるものの形が分かった時、絶望した。
アムロは、側にはいないと感知したからだった。
瞬間、彼女の体から蒼いオーロラのような光が溢れ出る。ベルトーチカはそれに気づきもせずに、モニターに映る惨状を見つめていた。そうして、ベルトーチカは、目を見張った。
地球と〝アクシズ〟の間に伸びた蒼い光の帯にそって、〝アクシズ〟の巨大な破片が、ゆったりと滑っていくのを目にしたからだ。
しかも、後方の岩の先端からは―〝νガンダム〟の、アムロのいるところだ―そこから発せられる力強い光が宇宙に舞うように広がっている。
「アムロォ……!」
それとほぼ同時だった。ベルトーチカの手に握られたサイコ・フレームが、目も眩むほどの光を発したのは―。
「……命があるからこそ、光が発する……」
彼女が涙に濡れた顔でつぶやいた。蒼く美しい光の粒が、津波のようになってベルトーチカの握るサイコ・フレームから溢れ、それが〝アクシズ〟に向かって伸びる。
ベルトーチカは、その光のひとつひとつが生命なのではないかと思いついていた。
そして光の中、彼女はお腹の子が、泣いているように感じていた。パパを助けて、と泣き叫んでいる。……それは適わぬことなのだろう。人にそこまでの力は――。
そう思った矢先である。サイコ・フレームが更に震動を強め、モビルスーツの外壁さえもすり抜けるようにして宇宙に飛び出していった。
このような現象がどうやって起こったのかなど、わかるものはいない。
その金属片は、〝アクシズ〟へ繋がれた淡い光のレールを滑るように、引き寄せられていった。
811: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:07:42.06
〝νガンダム〟を中心にした蒼い光に、地球から発した光が、吸い込まれていく。
その数は、知れない。地球の各地から発した光が、線から帯、帯から膜になり、時に低く、時には高く地球を取り巻くようにして、〝νガンダム〟に集中するように見えた。
それは、あたかも〝アクシズ〟の巨大な岩に、行くべき道を示すようであった。
「ああ……な、なんだっ!? 僕は、世界を見ているのか……!?」
コクピットの激震にもまれながら、灼熱のコックピットで、アムロは、ボロボロと涙を流しながら、うめいた。ふと、シャアが低い声を荒げた。
〈―そうか。しかしこの暖かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ! それをわかるんだよアムロ!〉
「わかってるよ! だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろう!?」
アムロは信じているのだ。〝地球連邦〟で改革が起きる事を。そして世界が変わることを―。
しばらくの沈黙ののち、深い息をつくような音がしてからシャアが低い声でうめく。
〈……クェスは、どうした?〉
「帰ってきたさ! 貴様はマシーンのように扱って!」
カッとアムロが激昂した。あのような少女に人殺しをさせることは、アムロの嫌な思い出を―『あの時』の感触を思い出させる。
〈ハッハッハッハッ! そうか、では『あの時』の二の舞にはならなかったというわけだな!? ええッ!?〉
通信越しから嘲るような笑い声が聞こえてきた。
あの時―そう、十四年前……全てが狂いだしたあの瞬間。アムロは言葉につまり、唇を噛み締める。
「だが……! あれは俺にとっても―」
〈ああそうだろうな、お互い様だ! しかし、それでも……私にとっては、あれが全てだったのだ……ッ!〉
シャアの悲痛な叫びに、彼は全身を震わせた。この男は、それほどまでに―ララァ・スンのことを……。アムロの脳裏に、『あの時』のことが鮮明に蘇えってくる……。
心が裂かれるような思いだった。ならば、俺は……。
アムロを襲う後悔に追い討ちをかけるようにシャアが続けた。
〈お前はいつだってそうだ! 全てを知った風な口で語り、常に私の先を行く!〉
「―何を言っている!?」
アムロには、シャアが泣いているように感じられた。
〈―そうか。クェスは私に父親を求めていたのか……! だから私はそれを迷惑に感じて、彼女を戦闘マシーンに仕立てたんだな!―だが、貴様はそれすらもやって見せたっ。聞こえるかアムロ!〉
通信から聞こえてくる言葉の一つ一つが胸に突き刺さる。
〈……私は、お前と互角に戦いたかっただけだ。そのために、サイコ・フレームの技術を提供した……!〉
「貴様が!? 馬鹿にしてっ! そうやって貴様は永遠に他人を見下すことしかしないんだ!」
激震するコクピットの中は、既に真っ赤だった。
812:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 19:10:29.02
なんかEVOLVEでのクェス救済からの展開だと
クェス利用することしか出来なかったシャアが尚更情けなく思えてくるw
813: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:11:11.78
〈ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!〉
通信機越しの悲痛な叫びにアムロは思わず身を引いた。
「お母さん……? ララァが……」
シャアのコックピット内は自分のそれよりも更に辛い状況だろう。だが、彼の怒りに満ちたような叫びが途絶える事は無い。
一瞬、クェスとシャアの心が重なって見えた。母を求めた男と、父を求めた少女と……。
―だとしたら、俺は……。
〈貴様にララァの何がわかる! ララァのことはもう言うな!! 二度と口にするな!! ララァは私のものだ、私だけのものだ……〉
それは、全てを覆い隠し続けた男の、本当の心だったのか。
〈私の母、アストライア・ドア・ダイクンはザビ家に殺された―。古い塔に幽閉され、独り、病を癒すことも許されず……。
復讐する! 私は心に決めた―。戦いの中に在っても、一日として母と母の死のことを私は忘れたことは無い! その私の前に……常に現れるのがお前だった!!
腐った衆愚の塊でしかない連邦の手兵として小賢しくも私に敵対し、せっかく与えられているその『ニュータイプ』としての能力を無思慮に使い私の為すところを妨げ―〉
短い沈黙。人の革新、『ニュータイプ』。人と正しく分かり合うことのできる人類。アムロは、ようやく思い立つことができた。
それは『幻想』だ、と。俺は、この男の心を、まるで理解していなかった。何一つ、何も、自分がしでかしてしまった事の大きさも……。
シャアが搾り出すようにうめく。
〈―あまつさえ……〉
再び短い沈黙の後、男はわずかに涙を孕んだ声色で、消え入るように言った。
〈ララァを私から、奪った〉
あの日、あの時、アムロの駆る〝ガンダム〟から、シャアのモビルスーツ〝ゲルググ〟を守り、ララァが散った。アムロが、殺したのだ。守るべきものもいない、愛する人もいない、そんな力で。
〈私はキャスバル・レム・ダイクンだ! 復讐のために生きてきた男だ! お前なんかとは違うっ! 私の哀しみも恨みも、何も知らないくせに!!!〉
そう、俺は知らない、何も、知らない。無知とは罪だと、誰が言った言葉であったか……。
〈貴様にわかるのか!? 父を殺され……いつか、いつかは会えると信じていた母すらも殺された私の気持ちが! 毎日のように監視者に後をつけられていた私の気持ちが!
やつらからアルテイシアを守らねばならなかった、その為に戦わなければならなかった私の気持ちがわかるのか!〉
今、初めてシャアの本当の心が見えた気がした。
―だが、それはあまりにも遅すぎた。
〈ララァに出会えてから私は変わった! ザビ家への復讐を捨てて、戦いも、憎しみも、何もかも忘れて! 地球のどこかで、二人だけの生活を営もうかと考えたこともあった!〉
言わば、それはシャアのついた最後の嘘であったのかもしれない。だが、それを否定できる要素を、権利を、アムロがどれだけ持ち合わせていただろうか。
アムロの目に、涙が溢れてきた。過去の大戦―〝一年戦争〟時代からの宿敵であるあの男の心を、この直前まで……俺は、知ることができなかった。止めることができなかった……。
そして彼をこうも追い詰めたのは……。
814: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:13:58.55
〈―そのララァを殺したお前に……言えた事か!〉
それが、聞こえてきた最後の言葉だった。
シャアの乗っていたコックピットは炎に包まれ、彼の燃えゆく身体がサイコ・フレームを介してアムロの脳裏にイメージとなってはっきりと浮かび上がる。
「―シャアッ!」
言葉は、返ってこない。
アムロはシートに深く座り込み、もう一度―あの時のように涙をこぼした。
「俺は本当に―本当に取り返しのつかない事をしてしまった……」
溢れ出る涙が彼の頬を伝う。アムロにとっては、偶然めぐりあい、理解し合い、殺してしまった少女。ほんの一瞬の会合。では、シャアにとって、ララァとは……? つい今しがた語られた内容が、アムロが奪った命の重みを告げていた。
ふと、〝νガンダム〟の手元に見える赤いコクピットに―シャアが、つい先ほどまでそこにいたコクピットに、周囲の景色には似つかない、白く美しい白鳥がそっと近づくのを見た。
そのイメージは女性の姿へと変わり、爆炎をあげるコクピットを優しく抱きしめた。
「……ララァ・スン?」
自分が殺した少女が……ララァが、シャアを迎えに来たように思えた。だがアムロにはそれがたまらなく悔しい。
彼は思わず叫んだ。
「待ってくれ! 俺は……。―シャア! 俺たちはまだ何もしちゃいないんだぞ! それを、こんなところで!」
アムロは、かつてシャアと肩を並べて戦ったことがある。アムロはシャアに期待をしていたのだ。
この男ならば、世界を正しく導いてくれるのでは無いか、俗世に支配された連邦という組織を、変えてくれるのではないかと。
だが、人は一人では生きられない。『赤い彗星』と謳われようとも、『ジオンの遺児』であろうとも、ただの人間なのだ。
『ニュータイプ』がただの勘が良い程度の存在でしか無いのと同じように、シャアもまた、ただの人―彼の心の唯一の支えが、ララァであった。
ならば、連邦の変革を、人類の進化を……『可能性』を奪ったのは、自分ではないのか―。
アムロの叫びは、こうなってしまった『運命』への無駄な抵抗であった。
淡い光の中のララァは悲しそうに、それでいて愛おしそうに、光に包まれたシャアのイメージを優しく抱きしめる。
ララァがこちらを見て微笑んだ。彼女は優しい笑みを浮かべたまま、アムロに手を伸ばす。と、その時―
『―〝小石〟……は』
『駄目だよ、パパぁ!』
同時に二つの声が聞こえてきた。低く唸るような、人とは思えない何者かの声と、先ほど聞こえた赤ん坊の声。
モニターの端にちらりと動く影が見えた。
その影は再び起動を始め、今まさに羽ばたかんとする〝ナイチンゲール〟の単眼《モノアイ》が、アムロじっと見つめている。
―俺は……。
そこから先は、言葉にも思考にもならなかった。
ララァが必死に手を伸ばし、何かを叫んでいる。
先ほどいたシャアの魂は見えなかった。
アムロは力の限りを尽くして叫ぼうとする。
ついに、〝νガンダム〟のコックピット内にも炎が走った。それに呼応するかの用に、〝ナイチンゲール〟が力強く羽ばたき、宇宙《そら》を舞う。
815: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:14:41.32
アムロは薄れゆく意識の中、必死に手を差し伸べるララァの姿を捉えながら、彼もまた手を伸ばそうとした。
だが、届かない。
〝νガンダム〟は眩い閃光に包まれ、コクピットも光に包まれる。そしてその光に〝ナイチンゲール〟が〝νガンダム〟の後を追うように、飛び込んだ。
アムロに確認できたのは、そこまでだった。彼は最後の直前に、妻と子に思いを馳せる。
「ベルトーチカ……」
辛うじて最後に最愛の人の名を呼べたことに安堵しつつ、アムロはそのまま死に行くように目をとじた。
もう……〝ナイチンゲール〟のさえずりは、聞こえなかった。
つづく
816:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 19:18:25.33
投下乙です
まだ出だしなのに凄いボリュームだw
というかシャアの本音が悲しいな…
817: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/07 19:18:55.15
>>805
すみません、ハサとかは行かないです><
>>808
ベルチル版や、ハイスト版、イボルブやらその他もろもろの都合の良いとこだけを取りました
>>812
少しシャアが情けなさすぎかな?と悩んでたんですが、ジオリジンでシャアが盛大に泣き言を言ってくれたので別にいいかーとこのまま投下しちゃいました
偏った描写とかがあるとは思いますが・・・ご了承を(´・ω・`)
818:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 20:36:10.70
新作と聞いて!
生い立ちを話すシャアがなんかしっくりw
819:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 22:07:24.59
>>817
乙です
序章なのになんというボリューム
とうとうイボルブ版か、シャアの内心が丁寧に描写されてていいですね
続きを楽しみにしています
820:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 22:42:18.12
投下乙!
またすげえのが来たなぁww
821:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 23:10:15.74
乙です
これはいい
シャアの情けなさが特に良いw
822:通常の名無しさんの3倍
12/09/07 23:38:15.15
オラわくわくしてきたぞ
823:通常の名無しさんの3倍
12/09/08 02:26:24.43
gj!
824: ◆wjA9YKZn62
12/09/08 04:13:57.32
>>817
続きたのしみにしてます!!
825:通常の名無しさんの3倍
12/09/08 05:14:50.07
投下おつん
826:通常の名無しさんの3倍
12/09/08 21:30:16.92
>>817
乙です。
倉庫に登録させていただきましたが、メインタイトルがお決まりでしたら
ご一報くださいまし。
827:sage
12/09/09 00:52:25.81 ttqtRDSt
ちょ、待てぇ!
逆襲のギガンティスまで混じっとるやないか!
CEの木星には羽クジラだけじゃなくて
血まみれの巨人まで眠っとるんか?
828:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 01:06:22.18
>『―〝小石〟……は』
>低く唸るような、人とは思えない何者かの声
これってやっぱりそうなの?
もっとも逆ギガだと、柴田秀勝なのか戸田恵子なのか判断つきかねるのだが。
829:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 07:44:45.05
シャアの内心吐露はオリジンか
830:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 11:21:25.62
青運命とか色々混じってるな
あのサブタイトルだったり赤ん坊の声に反応したり
元凶はやはりジムの神様に宿ってたあの力か
831:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 15:26:26.11
>>813
>〈ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!〉
>通信機越しの悲痛な叫びにアムロは思わず身を引いた。
アムロは思わずドン引きした。に見えたw
832: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:34:43.31
ちょっと話が進まない・・・というか、原作どおりだったりなので、2話まとめて投下しようと思います、すみません
>>826
ありがとうございます、タイトルは小説版一巻から拝借しまして、めぐりあう翼で行こうと思います
833: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:37:14.57
C.E.30年代にピークを迎えた遺伝子改変ブームによって、人類は新たな対立の図式を作り出すこととなった。
受精卵の段階で遺伝子を操作されて生まれた、「コーディネイター」と呼ばれる新たな人類は、旧来の人類「ナチュラル」にとっての脅威となった。
彼らコーディネイターは知力、体力、すべての能力に置いてナチュラルを凌駕し、その数こそ少ないものの、学術、スポーツなど、あらゆる分野のトップを占めるようになる。
やがてその格差が対立を生み、数において不利なコーディネイターは地球各地で迫害を受ける事となった。住み慣れた土地を追われ、彼らが目指した安住の地は、宇宙だった。
のちにコーディネイターたちの本拠地となる〝プラント〟は、C.E.50年代から着工し、エネルギー問題に悩む地球に、豊富な宇宙資源から得られたエネルギーと、無重力を生かした工業生産物を供給する役割を負っていた。
その利益は一部の地球におけるオーナー国が独占し、彼らは〝プラント〟に武器と食糧の生産を禁じる事で、自らの支配を確固たるものとした。
いわれのない支配と搾取。当然コーディネイターたちはそれに反発し、独立と対等貿易を地球に求めた。繰り返し話し合いの場が持たれたが、そのたびに決裂に終わり、両者の緊張は徐々に高まっていく。そして―
C.E.70年代、〝血のバレンタイン〟の悲劇によって、地球、〝プラント〟間の緊張は、一気に本格的武力衝突へと発展した。
誰もが疑わなかった、数で勝る地球軍の勝利。が、当初の予測は大きく裏切られ、戦局は疲弊したまま、既に十一ヶ月が過ぎようとしていた―。
〈―では次に、激戦の伝えられるカオシュン戦線、その後の情報を……〉
キラ・ヤマトは、何時の間にかあらぬ方をさまよっていた視線をコンピュータに戻し、投げやり気味にキーボードを叩いた。
黒い髪、アメジスト色をした目の小柄な少年だ。まだ幼さを残す繊細な顔立ちは、東洋系のようだが、一見して人種を判別できない。
ここは工業カレッジのキャンパスだ。緑したたる中庭、あふれる陽射し、楽しげにたわむれ、行き過ぎていく若者たち―地球のどこでも見られるような、ごくありふれた日常風景。
だが彼らが踏みしめている芝生の下には、厚さ約百メートルに及ぶ合金製のフレームがあり、その外には真空の宇宙が広がっている。
ここは〝ヘリオポリス”、地球の惑星軌道上、L3に位置する宇宙コロニーである。
コンピュータ画面の上方に開いた別窓の中では、アナウンサーが相変わらず深刻そうな顔でしゃべっている。
〈―新たに届いた情報によりますと、ザフト軍は先週末、カオシュン宇宙港の手前六キロの地点まで迫り……〉
きらり、と小さな翼で日光を跳ね返し、キャンパスの上空を一巡りして、トリィが戻ってきた。メタリックグリーンの翼を羽ばたかせてキラのコンピュータにとまる。トリィは小鳥を模した愛玩ロボットだ。キラの大切な、小さな友達。
トリィを見るたびに、キラの脳裏にはこれをくれた親友の面影が浮かぶ。
『―父はたぶん、深刻に考えすぎなんだと思う』
別れの日、少年は十三歳とは思えない大人びた口調で言った。黒い髪、穏やかで物静かな面差し、伏せられた目は印象的な緑だった。
彼とキラは四歳のときから、月面都市〝コペルニクス〟で幼年学校時代をともに過ごした。どんな時も自分を助けてくれる、励ましてくれる兄の様な彼―。二人はいつも一緒だった。
『〝プラント〟と地球で戦争になんてならないよ』
うん……と、キラはうなずいた。
『でも、避難しろと言われたら、行かないわけにもいかないし』
キラはずっと、うつむいていた。
彼らは賢明な子供だった。それでもしょせん子供でしかなく、社会の情勢や親の意向に従うしかない。別れを受け入れる事しかできなかった。
友はうつむいたキラを励ますように言った。
『キラもそのうち〝プラント〟に来るんだろ?』
その言葉にこめられた希望が、少しキラをなぐさめてくれた。やっと目を上げてみると、友は綺麗な緑色の目を細めて笑った。その色が、キラはとても好きだった。
―きっとまた会える。
そう信じて別れてからもう三年―。
834: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:37:52.13
「お、何か新しいニュースか?」
突然、ぬっと肩ごしに覗き込まれて、キラは我に返った。
「トール……」
工業カレッジで同じゼミのトール・ケーニヒだ。隣にはミリアリア・ハウの姿もある。
コンピュータの画面では、ニュースの続きが映し出されていた。立ち上る黒煙と爆音、逃げ惑う人々、ビルの立ち並ぶ町並みは半壊し、どこか近くで戦闘が続いているらしい。
去年、〝プラント〟の擁するザフト軍は、地球への侵攻を開始した。中立国オーブのコロニーであるここ〝ヘリオポリス〟でも、開戦当初はみな、地上で行われている戦況を息をつめて見守っていたものだが、最近はもうそれにもなれてしまった。
〈―こちら、カオシュンから七キロの地点では、依然激しい戦闘の音が……〉
リポーターがうわずった声で報告する。
「うわ、先週でこれじゃ、今頃はもう陥ちゃってんじゃねえの、カオシュン?」
トールがお気楽にコメントする。キラは苦笑し、コンピュータを閉じた。
少々軽率なところがトールの欠点だ。だが開けっぴろげで裏のない彼が、キラは好きだった。いつも朗らかでしっかり者のミリアリアとは、似合いのカップルだ。
「カオシュンなんて結構近いじゃない? 大丈夫かな本土」
ミリアリアは対照的に、不安そうな口調になる
「そーんな。本土が戦場になるなんてこと、まずナイって」
どこまでも楽観的なトールの観測が、かつての親友の口にした言葉に重なる。キラはふいになんとも言えない不安を感じた。
それでも彼らは「戦争」なんて、自分達と関係ないものと思っていた。コンピュータを閉じたら終わってしまう、画面上の単語にすぎないと―このときは、まだ思っていた。
835: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:38:24.69
PHASE-01 偽りの平和
836: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:39:35.16
何も無い漆黒の宇宙―そこに、太陽光を受けてきらりと輝く金属片が漂っていた。慣性で促されるようにゆっくりと回転し、やがて、こつり、と白いパイロットスーツ着た男のヘルメットに当たる。
男はややあってからびくっと身を震わし、肺に残された息をカハと吐ききった。
しばらくそのまま呆然と宙を見つめていたが、やがて導かれるように手元までやってきた金属片を手に取り、うめいた。
「―俺は……」
彼ははっと目を見開き、声をあげた。
「―ララァ……。シャア!」
名を呼び、周囲を見回した。だが、その宙域にいるのは彼だけだ。
「どうやって……」
男はひどく混乱していた。いったい彼に何があったのだろうか?
「……クッ。〝ガンダム〟は、地球は……」
何も無い闇の空間で、じたばたともがくように彼は言った。だが、それに答えるものは誰もいない。
戦闘の光は無い。限りなく無に近い空間。だが男は、それでもと足掻き続ける。太陽の光も、星の煌きも、まだ見えているのだから。
しばらく虚空を彷徨っていた彼は、目の中に見慣れたもの見つけ、眉をしかめた。
「コロニーがある……?」
右手に持たれた金属片を見て、彼は目を細めたが、頭を振ってから前を見据える。そして目線の先にある、特徴的な形をしたコロニーへ向かって備え付けのスラスターを吹かせた。
〝ヘリオポリス〟は旧来の円筒型コロニーだ。全長三十二キロメートル、直径三キロメートルにおよぶ巨大な円筒を、太陽光線を集める三枚のミラーが細長い花びらのように取り囲んでいる。
この巨大な円筒を回転させ、遠心力によってコロニーの内壁に重力を作り出しているのである
〝ヘリオポリス〟を特徴付けているのは、付属している資源採掘用の小惑星だろう。遠くからこのコロニーに近づいてくると、まるで宇宙空間を漂う巨大な岩塊から、ぬっと生え出したもののように見える。
アスラン・ザラはゆっくりとコロニーに近づいていた。周囲には彼と同じく機密服を身に着けた人影が数十人おり、一人、また一人とコロニー内部へと続く排気口に取り付く。
アスランも岩塊に身を寄せ、ちらとリストウォッチに目をやった。自分の呼吸音がやけに耳につく。
時計が予定時刻を示すと、排気口の監視装置が切れた。それを確認したとたん、彼らは無駄の無い動きで順番にそこへ滑り込んでいった。予定通り、誰にも感知される事無くコロニー内部に潜入し、彼らは整然と四方へ散る。
命令や質問はいっさい発されず、訪れたことのない場所を進む戸惑いもまったく見せない。彼らは完全に統制の取れた動きで、工場区の主要な場所を選び、黒い小さなボックスをセットしていった。
セットしたとたん、ボックスにはカウンタ表示が灯る。
その数字は、爆発までの残り時間を示していた。
837: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:40:24.52
「いかがなさいましたか、隊長?」
隊長と呼ばれた男は、風変わりな銀色のマスクで顔の上半分を覆っていた。波打つ金髪、すらりと引き締まった体つき、マスクで隠れていない顔の部分は整い、かなりの美丈夫ではと思わせる。
彼こそがラウ・ル・クルーゼ、敵にも味方にも、有能さと容赦ない戦いぶりで知られる、この部隊の長である。彼はかたわらにの男の質問に、眉間を指で押さえながら答えた。
「いや……なに、少し頭痛がしただけさ」
ここは〝ヘリオポリス〟からほど近い宙域である。小惑星の影に、二隻の戦艦が待機していた。ザフトのナスカ級戦艦〝ヴェサリウス〟とローレシア級戦艦〝ガモフ〟だ。
「君こそ、難しい顔をしているぞ、アデス」
アデスは〝ヴェサリウス〟を任される艦長だった。がっしりした体型で、四角くいかつい顔立ちの彼は、そのまま自分の懸念を口にした。
「―評議会からの返答を待ってからでも、遅くはなかったのでは……隊長」
アデスの問いかけに「遅いな」と彼は帰した。
「私の勘がそう告げている。ここで見過ごさば、その代価、いずれ我らの命で支払わねばならなくなるぞ」
ラウは手にしていた写真を、ピンと指先で弾いてよこした。不鮮明な画像だが、そこには巨大な人型にも見える装甲の一部が写っていた。
「―地球軍の新型兵器、あそこから運び出される前に、奪取する」
838: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:42:22.83
「だからぁ、そういうんじゃないんだってばーっ」
華やいだ嬌声が上がる。大学のレンタルエレカポートで騒いでいる少女たちの達の中に、フレイ・アルスターの姿を見つけ、キラの鼓動は一瞬高まった。
長く艶やかな髪は燃えるような赤、肌はミルクのようになめらかで、今はかすかに上気している。高貴さを感じさせる整った顔立ちと、しなやかな立ち居振る舞いが、大輪の薔薇のような華やかさを感じさせた。
たくさんの少女の中にいても、ぱっと人目を引く存在だ。彼女の姿を見ると、いつもキラの心臓は勝手に暴れだす。ろくに口なんて聞けもしないのに。
「あ、ミリアリア! ねえっ、あんたなら知ってるんじゃない?」
フレイを囲んでいた女の子達もこちらに気づいて話しかけてくる。その後で顔を赤くし、「もうっやめてってばぁ!」とフレイが叫んだ。だが友人たちは取り合わない。
「この子ね、サイ・アーガイルから手紙もらったの! なのに『なんでもない』って話してくれないんだよーっ」
「ええ~っ!?」
伝染したみたいに、ミリアリアもすっとんきょうな声を上げた。
彼女らが更にフレイを問い詰めようとしていた時、キラの背後から落ち着いた声がかかった。
「―乗らないのなら、先によろしい?」
サングラスをかけた女性と、その売り祖に二人の男性が立っていた。声をかけたのは先頭の女性だ。いずれもまだ若く、二十代前半から半ばというところだろう。
だが学生には見えなかった。発された言葉は丁寧だったが、彼女の口調や声には妙な威圧感がらり、若い女性らしい柔らかさを拒絶したような、硬く鋭い雰囲気を漂わせていた。
「あ、すいません。 どうぞ」
トールが頭を下げ、みな気まずい思いで先を譲ると、彼らはきびきびした動作でエレカに乗り込み、走り去った。ばつの悪い雰囲気を振り払うように、「もう知らない! 行くわよ」とフレイが叫び、次のエレカを捕まえる。
連れの少女達は口々に「待ってよぉ」などと言いながら騒がしく後に続いた。
ポートが静かになると、突然トールが、ばん、とキラの肩を叩いた。
「なーんか以外だよなあ、あのサイが。けど、強敵出現、だぞ、キラ!」
「は? な、なに……」
とまどうキラに、ミリアリアも「頑張ってね」と笑いかけ、トールに続いてエレカに乗り込んだ。
「ま、待ってよ。ぼくは別に……」
一人しどもどするキラだった。
839: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:44:42.44
「―地球連邦軍のアムロ・レイ大尉だ。戦闘で機体を失ってしまった、すまないがそちらに誘導してもらいたい」
コロニーの港にまでやってきてから、動揺を察しされないように平坦な口調を意識してアムロは言った。
コロニーで嫌われ者である『ロンド・ベル』の名を出さなかったにしろ、 ネオ・ジオンの捜査のためほぼ全てのコロニーに立ち寄った経験のあるアムロだが、このコロニーの記憶はどこにもない。妙な胸騒ぎがする。
〈―ハッ! 地球連合のアムロ・レイ大尉ですね? 了解しました〉
返事はすぐにあり、アムロは少しばかり安心して息をついた。とりあえずとはいえ、ようやく一息つくことができそうだ、激戦続きで疲労もたまっている。
それに、〝ラー・カイラム〟に連絡を取り、あの後どうなったのかを知らなくてはならない。
やがて外に出てきた若い男に誘導され、〝ヘリオポリス〟という名のコロニーに入る事ができた。その動きは、平時の管理職そのものであり、若いという理由だけでは片付けきれないものがあった。
だがネオ・ジオンの工作員には見えないし、そもそも男の顔は碌に戦争を経験していない容貌を醸し出している。
ならば、ここは中立のコロニーかと思い立つのがアムロであるし、アムロ・レイという名を出せば宇宙移民者の大半からは嫌な顔をされるのも事実であるから、そうでないこの若い男は本物かと感じ取ることができた。
それゆえに、アムロはより緊張を崩さずに声をかける。
「状況はどうなっている。戦闘は?」
自分の置かれた状況は理解しがたいものである。
「この近辺での戦闘は確認されていません、随分と流されたようですね」
アムロの質問に、男は慣れない手つきで書類を書きながら言った。彼が続ける。
「―ご無事で何よりです。すぐに〝アークエンジェル〟に連絡します」
「ン、すまないが……。僕は地球の状況を聞いたつもりだが」
機嫌よく答えた警備の男に、アムロは少しばかり眉を顰めた。男は慌てて敬礼をし、申し訳無さそうに頭を下げた。
「あ、ハッ! 申し訳ありません、大尉!―えー、現在地球は、〝ザフト〟のモビルスーツで……、あっ、カオシュンが落ちたと……」
どぎまぎと言う様子を見て、アムロは内心動揺していた。自分は長い事地球連邦にいたという自負はあるし、それなりの知識も得ている。だが、〝ザフト〟などという組織など知らないし、一度だって耳にしたこともない。
それに……先ほどから自分の第六感が告げているのだ。何かが違う、と。
アムロはなるべく平静を装って彼に問いかけた。
840: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:45:47.16
「―そうか、カオシュンまで落ちたか……。〝ザフト〟―彼らにも参ったものだが……。そういえば、どういう意味の名前だったかな、勉強はしているのだろう?」
あえて少し意地悪で愛想の良い男を演じ、聞いてみた。
「ハッ! 〝ザフト〟とは、自由条約黄道同盟の事で、コーディネイターを主国民とするプラント連合が―」
違う。彼の言っている意味がなどではない。もっと根本的な何か……。『存在』そのものが―。
「良くやれているようだ。ありがとう」
なるべく優しい口調でそういったが、アムロは心の中で自問自答を繰り返していた。
〝パラレル・ワールド〟という話は良く耳にするし、おとぎ話でも使われる話だ。どっかの木星帰りの小説家の書いた話では、海と陸の狭間に別の世界がある、なんてのもあった。しかし―。
そんなことが現実に起こりうる話なのか? 俺はあの光で、『どこ』まで流されたんだ……?
「―どうかなさいましたか?」
「ン? いや……」
訝しげな表情の若い男に、自分の考えが表情に出ていたことを悔んだ。一瞬アムロは頭の中で言い訳を探したが、それはすぐに思い当たった。
「ここに来る途中、このコロニーの排気口の辺りに数名の人影が見えた。そちらの補修作業か何かだと認識しているが?」
男は「……人影ですか?」と首をかしげた。
「ひょっとして〝ザフト〟だったり、ね」
新米の若い男は、そういうことか、と表情を変え「至急、調査の者を回します!」と言ってから、扉を開け、大慌てで出て行った。
アムロはIDカードを要求されなかった彼の不手際に感謝しつつ、誰もいないのを確認してから扉を開け、歩き出した。
ここがどこかなどまったくわからない。だが、まずは状況を知ることが先決と考えた彼は、誰にも会わないことを願いながら、情報を端末から得る事のできるルームを探すことにした。
841: ◆ygwcelWgUJa8
12/09/09 17:47:13.48
「大尉ーっ」
トレーラーから胴間声で呼びかけられ、マリュー・ラミアスは振り返った。メカニックマンのコジロー・マードック軍曹が無精髭だらけの顔を窓から突き出し、怒鳴った。
「んじゃあ、俺たちゃ先に艦に行ってますんでー!」
「お願いね!」
周囲が騒がしいので、自然とマリューも怒鳴り声になる。
ここは私企業〝モルゲンレーテ〟の地上部分に当たる。
周囲は作業をする男達の活気あるやりとりで賑わい、雑然としていた。その中で、男達と同じ作業服姿ながらも、肩までの栗色の髪を振って指示を出すマリューの姿は自然と際立つ。
彼女もまた地球連合軍に籍を置く身だ。二十六歳にして階級は大尉、ここにいる中では最上官であるものの、なかなかの美人であるからこんな声もかかる。
「大尉、コレがすべて終わったら一杯お付き合い願えませんかね? 〝ヘリオポリス〟最後の夜にでも」
「上官侮辱罪で最後の夜を営倉で過ごしたい?」
若い下士官にマリューがそう切り返すと、横にいたハマナ曹長が豪快に笑った。
「ばぁか、おまえがこのねえちゃんを口説こうなんざ、十年早い」
みな、計画の終了を目前に控え、陽気になっているのだ。
長かった―と、マリューの胸にも感慨が溢れる。極秘裏に〝G〟計画が動き始めて数ヶ月、彼女はその初期から携わり、こうして〝ヘリオポリス〟につめて、すべての過程を見守ってきた。
〝モルゲンレーテ〟で新造艦〝アークエンジェル〟とともに開発、製造された、地球連合の新型秘密兵器は〝G〟と呼ばれ、これからの戦局を占ううえで銃よな価値を持つものであった。
その〝G〟が完成し、搬出も目の前という段階までこぎつけたのだ。これからこの新型兵器は微調整を終え、マリューが副長を務めることとなる〝アークエンジェル〟に移送されて、ひそかに〝ヘリオポリス〟を出港する運びとなっていた。
これでやっと肩の荷が下ろせる、と、マリューは思った。〝G〟は希望なのだ。地球連合が勝ち残るために残された、唯一の―。
その時、敵襲を告げるアラームが格納庫内に鳴り響いた。
842:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 17:50:10.84
てす
843:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 17:57:49.40
ハァそれからどした!
\ |同|/ ___
/ヽ>▽<ヽ /:《 :\
〔ヨ| ´∀`|〕 (=○===)
( づ◎と) (づ◎と )
と_)_)┳━┳ (_(_丿
844:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 18:01:14.85
携帯から書き込んでいます、連投規制に…
すみません、途中からですが避難所にすみません
845:通常の名無しさんの3倍
12/09/09 18:03:03.43
__∠ロ_
| ,--,. |
| 匚___|| wktk
|_⊃ ─ |⊃
∪ ̄ ̄J
846:避難所より転載
12/09/09 18:05:25.95
「接近中のザフト艦に通告する! 貴艦の行動派わが国との条約に大きく違反するものである。ただちに停船されたし!」
通告も無く近づいてきたザフトの戦艦二隻を細くした、〝ヘリオポリス〟の管制区にアラートが鳴り響いた。中立の立場を取るこのコロニーでは、戦艦の入港を認めていない
だが、〝ヴェサリウス〟、〝ガモフ〟とも、停船勧告に応える様子はなかった。全通信がノイズにまぎれていく。管制官の一人が叫んだ。
「強力な電波干渉! ザフト艦から発進されています!」
とたん、管制室に冷たい空気が流れる。その意味するところは一つだった。
「―これは、明らかに戦闘行為です!」
ちょうどそのとき、港には一隻の貨物船が入港していた。その船の艦橋でも、緊迫したやりとりが飛び交っていた。
「敵は!?」
「情報にあったとおり、二隻だ。ナスカ級ならびにローラシア級。電波干渉直前にモビルスーツの発進を確認した」
「ひよっこどもは?」
「もう〝モルゲンレーテ〟に着いてるころだろうが……ザフトの歩兵部隊に進入されたと情報が入っている」
「おいおいマジかよ。―ルークとゲイルは〝メビウス〟にて待機! まだ出すなよ!」
船内インターフォンに向けて指示したのは、二十代後半のすらりとした金髪の男だった。端整ともいえる顔立ちだが、緊迫したこの状況でもどこか飄々とした雰囲気を漂わせ、口元は不敵そうに曲げられている。
指示を終えると彼は、すぐ自分も格納庫へ向かった。そこには貨物船には不似合いなモビルアーマー―宇宙戦闘機が並んでいる。
一般船籍に偽装しているが、この船のクルーは全員軍人であった。
黒いパイロットスーツに身を包んだ男は、ムウ・ラ・フラガ大尉。『エンデュミオンの鷹』との異名をとる、地球連合軍のエースパイロットだ。彼らの任務は、数人のパイロット候補生をこのコロニーに送り届けることだった。
まもなく港口からザフトのモビルスーツ、〝ジン〟が突入した。圧倒的物量を誇る地球連合軍のモビルアーマーを圧倒し、戦局を現在の形に持ち込んだのは、人型のボディを持つこの機動兵器の力が大きい。
甲冑を着けた武者のようにずんぐりしたグレイのボディを持ち、インディアンの羽飾りを思わせる頭部の鶏冠と、背中に負った翼のような推進装置が特徴的である。
これらの兵器はみな、〝バッテリー〟を動力源としている。従来の兵器に用いられていた核分裂エンジンは、ザフトが開発したニュートロン・ジャマーによって無効化されてしまった。
このニュートロン・ジャマーは核分裂そのものの動きを阻害するため、かつての最終兵器であった核ミサイル等はこれで完全に封じ込められ、結果、戦局はこれらの機動兵器によって左右されることになる。
〝ジン〟の突入を認めたムウは、艦長に通信した。
「船を出してください! 港を制圧される。こちらも出る!」
847:避難所より転載
12/09/09 18:05:58.02
「―クルーゼ隊長の言ったとおりだな」
冷静な口調で言ったのは、イザーク・ジュールだった。バイザーごしにもわかる、冷たく整った顔立ち、まっすぐに切りそろえられたプラチナブロンドがさらにその印象を強めるが、今はヘルメットに隠されている。
パイロットとして一流ではあるが、怜悧な外見にそぐわずやや癇症の面をたまに見せる。アスランは少々この同僚を敬遠していた。ことあるごとにアスランをライバル視して、つっかかってくるようなところがあるからだ。
「つつけば慌てて巣穴から出てくる―って?」
ディアッカ・エルスマンがくすくす笑った。金髪に浅黒い肌、陽気そうな外見だが、じつはけっこうの皮肉屋だ。
彼らも、その後に控えていたアスランも、いずれもザフト軍のエースであることを示す、赤いパイロットスーツを着用していた。パイロットたちを守るように、それぞれのチーム構成員が周囲を取り巻く。
ザフト艦進侵攻の報せが届いたのだろう。にわかにあわただしくなった〝モルゲンレーテ〟工場付近の様子を、〝ヘリオポリス〟内部に侵入していたアスランたちはスコープで見つめていた。
作業服身に着けた栗色の髪の女性が、視界に入る。彼女が中心となって指示を出しているようだ。背後に開かれたシャッターから、巨大なコンテナを積載したトレーラーが出てくる。
「……あれだな」
「やっぱり間抜けなもんだ。ナチュラルなんて」
イザークが冷たく言い放つと、発信機のボタンを押した。
アスランは隣にうずくまっているニコル・アマルフィが、緊張しきった顔をしているのに気づき、軽くその腕を叩いた。ニコルは彼を見やり、ややこわばった笑みを浮かべる。
淡い色の巻き毛と大きな目をし、色白で少女めいた顔立ちの彼は、アスランより一つ年少の十五歳だ。
ナチュラルの世界ではまだほんの子供とされる年齢だが、体力、知力ともに基本レベルの高いコーディネイターとしては、この年で成人と見なされる。
背後にいたもう一人の友人が、からかうようにニコルの背中をこづいた。
「どうした、ニコル。ママのおっぱいでも恋しくなったか?」
にっと人懐っこい笑みを口元に浮かべたラスティ・マッケンジーが、そのまま小さく震えているニコルの肩に手を回す。
彼の性格を現すかのように明るい橙色の髪は大雑把に切りそろえられているのだが、今は赤いヘルメットに隠されて確認できない。
パイロットの中でも一番陽気でお調子者のところがある彼の明るさは、時にライバルとしてぎくしゃくしがちな仲間達の空気を緩和してくれる。
「ち、違いますよ!」
慌てて反論するニコルに、ラスティは白い歯を見せて笑いかけた。
「そいつあ良かった。―っと、時間だ」
848:避難所より転載
12/09/09 18:06:45.41
カウントがゼロになった。工場区のあちこちで爆発が起こる。爆風に飛ばされる人々、誘爆を引き起こし、炎上する施設、鉱山内部の岩盤が崩れ、瓦礫が降り注ぐ。
だが、その情景にイザークがつぶやいた。
「報告と違う……?」
それはアスランも感じたことだ。セットした爆弾の個数、位置などは全て彼らの頭にしっかりと入っているが、それよりも明らかに被害が少なく、ナチュラルの兵士が乗る戦車隊の行動も素早い。
彼のつぶやきとほぼ同時に、港を突破したモビルスーツが〝モルゲンレーテ〟を攻撃しはじめた。建物の外壁がライフルの弾でえぐられ、被弾した車両が爆発し、爆風が搬送作業中の人員を襲う。
それでも戦車隊はよく応戦し、モビルスーツをなんとか近づかせないでいる。
「まさか……作戦がばれていたとでもいうのでしょうか」
緊張に恐怖の色を混ぜながらニコルがつぶやいた。
「へえ。ナチュラルにもできるヤツがいるってことなのかねえ?」
ディアッカが心にも無さそうに言った。イザークが怯えるニコルを詰まらなそうににらみ付けたが、彼が何かを言うよりも早くラスティが口を開いた。
「―しっかしまあ、ほんとに良かったのかねえ。中立国のコロニーに何かに手を出してさあ」
からかうような声に、イザークは視線をラスティに移す。すぐ隣では、ディアッカがやる気の無さそうに首を曲げ伸ばししている。イザークは、一度歯を食いしばってから、彼を軽く睨みつけた。
「じゃあ中立国がこっそり地球軍の兵器作ってるのは良いのかよ?」
言われたラスティは、眉を上げて軽く笑ってみせた。
「あっはは。そりゃやっぱ―だめっしょ」
あくまでも余裕の態度……というよりもふざけた態度を崩さずに言うラスティの隣で、アスランの表情が曇った。ニコルが不安げに声をかける。
「急がなければミゲルたちが……」
「わかってる。オッケー。行こうぜ。―〝ザフトのために〟ってね」
そうだ、ここでこうしていては何も始まらないのだ。アスランたちは決意を固め、一斉に行動を開始した。