12/02/02 23:24:00.02 2q8EmHlXO
呉キリカと名乗った少女の勢いに根負けした杏子は彼女と連れ立ってショッピングモールへ訪れていた
杏子が前を歩きながらクレープを貪りそのあとをお菓子の山を抱えたキリカが付いていく
「恩人への礼が、そんなお菓子で本当に良かったのかい?」
「私に一番必要なのは喰いモンだからな、気にすんなって」
「でもそれじゃぁ私の愛がお菓子の山と等価みたいじゃないか、せめてもう少し何か……」
キリカの話は最早半分も杏子の耳に入っていなかった
―――魔女の気配……に混ざっているがなんだこの気配は?
奇妙な気配を感じ辺りを見回すと……人混みの中に青い髪の少女を見つける
「さやか!?」
「え?ちょっと待ってくれよ恩人」
考えるよりも、キリカが制止するより早く駆け出していた
384:灰被りの人魚姫 ~同じモノ 3/10
12/02/02 23:26:01.63 2q8EmHlXO
結局杏子は青髪の少女に追い付けなかった
人混みに分断される形で見失ってしまったのだ
仕方なく、何の気無しに人混みに眼をやり
そして漸く気がつく、この人混みは奇妙だ
皆一様に虚ろな眼で天井を仰ぎ見ており首筋には灰色をした虫食い林檎の刻印が張り付いている
直前に感じた気配から察するにコレは『口付け』
「おーい恩人待ってくれよ、そっちには……」
キリカの声が杏子の思考を中断させる
――……不味い!
そう思ったときには既に『気配』は動き出していた
虚ろな眼をした人々の足元に灰色のシミが滲み出るとそのまま長大な『幼虫』となって彼等を次々と飲み込んで行く
そして人々がいなくなりそれと同じだけの虫達が出揃うと一斉に一ヶ所に、偶々近くに居たキリカを巻き込んで集結し巨大な林檎を形作っていた
385:灰被りの人魚姫 ~同じモノ 4/10
12/02/02 23:27:52.00 2q8EmHlXO
やがて林檎に歯形が幾重にも刻み込まれ、飛び散る鮮血の果汁と灰色の喰滓が
一般の人間には決して読み解けない文字で魔女の名を示す
『wormy princess von Apfel』
しかし杏子にそんなものを気にするような余裕はない、早々にキリカを助け出さないと彼女も歯形に巻き込まれて絶命してしまうだろうから
しかし魔女も又彼女の事情など気にするわけがない、変身を終えた杏子が槍を構えるが早いか否かの間に
歯形によって林檎から髑髏へとその造形を変じさせた魔女が突進してくる
386:灰被りの人魚姫 ~同じモノ 5/10
12/02/02 23:29:31.10 2q8EmHlXO
魔女の突進は杏子が思っていたよりもゆっくりしていた
簡単に避けられると思い脚に力を込めるがその動きも遅い
おかしい、妙なスイッチが入ったように何もかもが遅く、体がその遅さに巻き込まれて行く感覚
耳もおかしい、音声は間延びしているのにそれがどんな音かはきちんと認識できている
なんとか構え直した槍で魔女の突進を受け止めると漸く速度が帰ってくる
…ズレだ、感覚と実際の肉体とにズレがある
魂と体を分離した弊害かそれとも全く別の何かか
兎に角この一戦においてこの『ズレがある』と言う事実は何より致命的なものに感じられた
387:灰被りの人魚姫 ~同じモノ 6/10
12/02/02 23:31:09.70 2q8EmHlXO
『全くとんでもない"間女"だよね、私が恩人に礼をする邪魔をした挙げ句にその恩人に襲い掛かる始末だもの、コレってつまりさぁ』
「キリカ!?」
唐突に魔女の中からキリカの声が響き出す
『キミは死にたいって解釈でいいのかな?』
林檎の魔女に何条もの切り傷が内側から走る
灰色の骸骨の後頭部を切り裂き飛び出したキリカは眼帯に燕尾服の黒い魔法少女姿
その手にした鉤爪で魔女を滅多斬りにすると杏子の隣に着地する
「やあ恩人、苦戦しているようだね何事か有ったのかい?」
388:灰被りの人魚姫 ~同じモノ 7/10
12/02/02 23:32:30.33 2q8EmHlXO
「おまえ、その格好……」
「ああ恩人と同じく魔法少女さ」
同じ魔法少女であってもその辿ってきた経歴で持ちうる情報は大きく変わってくる
もしかしたら彼女ならばこの感覚のズレについて知っているかもしれない
そう思い至った杏子がキリカに問いただすと予想のしない返答が帰ってきた
「ん?あぁそれはあれだよ、恩人が新しい身体に慣れてないんだ、きっと」
389:灰被りの人魚姫 ~同じモノ 8/10
12/02/02 23:34:00.22 2q8EmHlXO
新しい身体、キリカは確かにそう言った
結局、むしろ余計に訳がわからない
「新しい身体?何言ってんだあんた」
「そうか、確かに言葉じゃ実感がわかないよね」
そう言ってキリカは魔女に向き直る
その貌には蝙蝠を模した灰色の紋様
「自己紹介のやり直しだ
私は呉キリカ君と同じ魔法少女で」
その姿が瞬間歪む
歪みの中に彼女の姿は溶けて消え、代わりに帽子を被った灰色の銃士が歪みの在った場所に佇む
銃士は口を開く少女の声で
「君と同じオルフェノクさ
さあ恩人、愛の礼だキミにオルフェノクの戦い方を教えてあげよう」