11/01/28 00:06:25 v5qIeKhf
[1990年のある日]
1990年のある日
夏の補習の途中だったが
僕らはテレビを眺めていた
先生の机のちょうど上あたり
各教室に1台づつ設置されたそれが稼働しているのを見るのは
ほとんど初めてだったように思う
外ではセミが切れ目なく鳴いていて
僕らはTシャツの首元をダルダルさせたり
カラフルな下じきをペラポラいわせながら
ぼんやりテレビを見上げていた
白いミサイルがシュン、シュン、シュン、
ちゃちなトラックから飛んでいく
シュン。シュン。シュン。 ぽつぽつと。
シュン。シュン。シュン。 あっけなく。
つまんないな、
と思って横を見ると
フリーザさん似の本橋くんがもわわ、とあくびをしているところだった
ミサイル花火ならもっともり上がるのに
なんだか地味で、ヒョウシぬけ。
これなら日曜洋画劇場の方が
ずっと凶暴で、ドキドキとする
本橋くんの向こうには
うっとおしいほど明るい夏の窓
時折きら、きら、と反射している白い点は
たぶん人工衛星だ
遠いなあ、中東は。
組んだ手を机の前に伸ばしながら、僕は大きく息をついた
あのちょっと大きな座薬みたいなのがバクダンだなんてウソみたい
シュン、シュン、シュン、シュン、飛んでった先で
何かこわれたり
誰か死んだりするんだろうけど。
テレビの中は遠すぎて
僕はちっとも悲しくならない
セミはそれぞれ勝手に鳴いてる
しばらくしたら次は国語で
それが終わればやっと帰り
朝のスイカはまだあるだろうか
夕飯は、なんだったっけ