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10 :吾輩は名無しである:2012/08/15(水) 21:20:13.81
ほんとうの文学は、人間というものがいかにおそろしい宿命に満ちたものであるかを、何ら
歯に衣着せずにズバズバと見せてくれる。しかしそれを遊園地のお化け屋敷の見せもののように、
人をおどろかすおそろしいトリックで教えるのではなしに、世にも美しい文章や、心をとろかすような
魅惑に満ちた描写を通して、この人生には何もなく人間性の底には救いがたい悪がひそんで
いることを教えてくれるのである。そして文学はよいものであればあるほど人間は救われない
ということを丹念にしつこく教えてくれるのである。そして、もしその中に人生の目標を求めようとすれば、
もう一つ先には宗教があるに違いないのに、その宗教の領域まで橋渡しをしてくれないで、一番
おそろしい崖っぷちへ連れていってくれて、そこで置きざりにしてくれるのが「よい文学」である。
三島由紀夫「若きサムラヒのための精神講話」より