12/05/02 02:10:56.27 qYnmNolG0
>>488-489
「みんな、お疲れさま」
「お疲れさま」 生活担当の内田駿(うっちー)と丸山陽菜(まる)が、熱いお絞りを7人に配る。
「かぁぁーーーっ 生き返るぜーーーっ」 鈴木が顔を拭く。
「鈴木の “ とっつぁん ” ! 惚れちゃうかも~」 内田が茶化し、皆に爆笑が巻き起こる。
それを田中が一人だけバスから降りず醒めた目で見つめており、西原に視線を移すと彼女が頷き返す。
「凄いね~あんたら男らしくて恰好良いよッ やっぱり男は頼もしくないとね! 美咲も大樹に惚れ直しただろー?」
6人をもてはやしていた西原が、いきなり中村に会話を振る。
「え!? え!?」 どう返していいか分からず、自分の恋心を悟られた恥ずかしさに赤面している中村に、
「付き合っちゃいなよ!」 西原グループの山本凜(渾名:リンダ)が煽る。
「あ~ん! いいなー! あたしも男らしい彼氏ほしいーーー! 屁タレ要らねぇ~!」
西原グループの川向笛羅(読み:カワムキ・テキーラ、渾名:ムッキー)も同調する。
「はぃはーぃ。 ノンアルコール・ビールで祝杯ですよ~」 原と内田と丸山が使い捨てコップを配り、飲み物を注ぐ。
バスには容量31リットルのボトルクーラーが装備されており、専用の小型エンジンによる独立した電力で冷やす。
この発電用エンジンが実装されているので、走行用の大型エンジンを停止させたままでも給湯や洗濯などに不自由しない。
「でわぁ、我らが勇士7人、全員の帰還を祝してぇ~ 乾杯ーーー!」
「かんぱーーーぃ!」
「おつかれーーー!」 バーベキューの大盤振る舞いに、場は更に賑わった。
「ひゃっほーーーぃ!」
557: ◆JwKmRx0RHU
12/05/02 02:14:20.28 qYnmNolG0
>>556
バスの中に原、堺、工藤、佐藤、高橋、毛利、中村が集い、救助要請について話し合っている。
「そうか、握力が・・・」
「ええ。 120発ほどで握りが利かなくなりました」 工藤は堺に報告しながら自分の左手を見つめる。
「俺たちゃ、命からがら逃げ出して来たんだ。 あんなリスクもう二度と負いたくねぇ」
「本当に、お疲れさまです。 貴方たちの頑張りで、小さな病院では手に入らない器具も多く入手できたそうよ」
「もし相手が嘘をついていて、それで犠牲者が出たら後悔してもし切れないよ」 中村が佐藤の袖肘を掴みながら言う。
「話してみて、そう感じましたか?」 工藤が原に確認する。
「こればかりは、確かめる以外に判断のしようがないわ・・・」
「最初は調達だと返事して、その後に言ってることを変え来たんだけど、それは何か事情あってのことかも」 と高橋。
「別館は地下じゃないから、さっきほどの危険はないだろうけど・・・」
「工藤君は行っちゃ駄目ッ 充分に回復してるか分からないんだから」 毛利が強く念を押す。
「僕が行くから問題ないだろ」 離れて聞いていた田中が座席から割り込む。
堺を除く全員が一瞬、黙り込み、その理解不能な空気に堺はけげんそうに見渡す。
「そもそも弾薬が足りるのか」 佐藤は田中の割り込みには触れなかった。
「持ち出した量の倍ある」 堺が即答する。
「(1度の強硬調達で3分の1も消費したのか・・・。 救助で更に3分の1を失えば、今後に支障が)」 工藤は眉をしかめる。
558: ◆JwKmRx0RHU
12/05/02 02:15:45.95 qYnmNolG0
>>557
「これは既に決めたことだが、俺は救出する」 堺は柔らかい物腰で口にしているが、その固い意志は瞳からも感じ取れた。
「(そういえば、この人の家族はどうなったんだろう。 やはりゾンビ災害で既に死んでしまったのだろうか)」
珍しく、佐藤が堺に食って掛からない。 普段なら、弾薬は全員の持ち物だから勝手には使わせないとでも言い出すところだ。
「キミのような筋肉頭でも、この救出の意味するところぐらいは分かってるようだね」 田中が嘲る。
踵を返す佐藤を中村が制止した。
「実は、私も彼女たちを救出しようと考えてました。 もちろん堺さんにも何も相談はしてません」 原が打ち明ける。
「原さん・・・」
「原さんも堺さんも抜けるの?」 毛利の表情が曇る。
「その必要はない。 俺の他に2名の攻撃担当。 1名の救出担当。 計3名の追加で実行可能だよ」 と再び田中。
「3名か・・・」
「但し、成功の暁には、僕に仮眠室を寝床として使わせることが条件。 それと救出作戦の指揮は僕が取る」
「手前ぇ・・・ 図に乗んなよ!!!」 佐藤が堪え切れずブチ切れた。
田中はナイフを抜いて通路に出る。
「どうした?来いよ。 死にたいんだろ?」 田中の握る両手のナイフが妖しく光を放つ。
URLリンク(megalodon.jp)
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堺は田中の握りに息を呑んだ。
559: ◆JwKmRx0RHU
12/05/02 02:16:57.43 qYnmNolG0
>>558
右構え後ろ左手のアンカー付きサバイバルナイフは、小指側および相手側に刃が来るリバース・グリップ(逆手持ち)。
ナイフの持ち方は大別すると、順手持ちで親指がナイフの峰(背部)や鍔(ハンドガード)を支えるセイバー・グリップ、
同じくいずれも刃が下を向く順手持ちで、親指を握りに用いるハンマー・グリップ、そしてリバースの3通り。
リバース・グリップではリーチが劣り、前に突く攻撃ができなくなるのでデメリットが大きいように感じられるが、実は違う。
3通りの持ち方で、最もパワーを得られるのがリバースであり、殺し合いに限った格闘では最も重要な要素の1つとなる。
ブッシュナイフや刀など、重量と加速でパワーを得られる長い刃物と違い、短い刃物では込められるパワーの大きさが、
そのまま相手へのダメージに転換される。 また、リーチが短いので接近戦になだれ込む展開なので、
ボクシングのジャブを指し合ったり、フェンシングのように牽制し合う展開も長続きしない。
リバースでは、自分側に向いている峰(刃の背部)を相手の腕や首に引っ掛け、相手の動きをコントロールする技法がある。
つまり、短い刃物ほどリバース・グリップのメリットが増すのだ。
田中は前となる右手に、ナックル型ガード付きナイフをハンマー・グリップで中段に構えている。
右手は拳と刺突を主体とした攻撃に使うのだろう。
構えから、相手の出方は予想できる。
“ (闘技の)空手に構えなし ” とは、これを戒めた口伝であるとした説が存在するほどだ。
また、剣術の柳生新陰流の奥義には「型」が無いが、これは相手の動きに応じて変幻自在に対するからであり、
構えるタイプの剣術に対するアンチテーゼとしての極致であると言われている。
田中の実力が如何ほどかは分からないが、独学で身に着けたのであれば、戦力として期待してよいと堺は考えた。
560: ◆JwKmRx0RHU
12/05/02 02:17:31.38 qYnmNolG0
>>559
「いいだろう。 成功したら今後は俺が使っていた仮眠室を君に譲ろう。 佐藤君もここは引いてくれないか」
「佐藤くん。 キミの得意な “ 喧嘩の時間 ” ならとっくに終わってる。 殺し合いなら僕が勝つ。 キミは弱味を抱えただろ」
獲物でも見るような冷たい視線を中村に移し、背筋が凍る思いで中村は佐藤の背に隠れた。
「さっき高橋くんが言ってたけど、不完全な生物兵器の可能性。 その制御法をと考える大人が居ても、何ら不自然じゃない」
言い残して席に着く。