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Y子の思い出2
「引っ越すの?」と聞くと、しばらく考えて「うん」と消え去りそうな声で頷いてから
「これ、私だと思って大事にしてね」と花の形をした香りのいい消しゴムをくれた。
そして翌月、彼女は学校に来なくなった。
その日、運動会の模擬練習で器械体操をやっていた時に運動靴のヒモがぷっつりと切れた。
次の日も次の日もY子は学校に来なかった。
僕は彼女の家に行ってみることにした。
彼女の家は鍵がかかっていて誰もいない様子。「ごめんください」と何度も何度もしつこく覗いている僕に、
隣近所のおばさんが「そこはもう今は誰も住んでないよ」と話しかけてきた。
やっぱりもう引っ越してしまったのかなと思う僕に、おばさんが言うには
三人家族で、夏休み中に事故にあって両親ともにY子も亡くなったのだそうだ・・・
そんなはずはない!?気が動転して僕は何が何だか分からなくなった。
彼女が学校へ来なくなって運動靴のヒモがぷっつりと切れたあの日がちょうど事故から49日だったのである。
でも僕の手には、Y子に貰ったあの消しゴムがちゃんとある。
あのときY子は「ありがとう」と、さびしそうに僕に言った。
大人になった今も、引き出しにしまい込んだ、あの消しゴムを取り出して、
もう薄くなりかけている香を嗅ぐたびに彼女のことを思い出している。