【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ19【友人・知人】at OCCULT
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ19【友人・知人】 - 暇つぶし2ch250:本当にあった怖い名無し
11/12/06 21:57:59.23 twx3eqlS0
なんかねー
ちょっと
どぴゅってでないんだよあんまり
んー
でないんだよねー
んー
あたしの
あん
なんか
あんまり
でないんだよねー
んー
そういうー 
の じゃない、ん のかな
わかんないけどわたしもよく
んん
あんまりでてくれないからさー
んーなんか
こまるよねーでも
あんまりそういうぅ
かんじょうをだしてくれない、のって
ほんとにこまる
んー
ぶんなぐるぞってかんじ

251:本当にあった怖い名無し
11/12/08 19:39:24.42 wrm/xhj00
隣の柿食う客はよく

252:本当にあった怖い名無し
11/12/14 00:36:36.66 AyaPBdS90
(^。^)

253:本当にあった怖い名無し
11/12/14 18:33:23.14 4zidNiIZ0
おk

254:本当にあった怖い名無し
11/12/14 23:02:58.18 M97Ia5xK0
そろそろ未の続きをだな

255:本当にあった怖い名無し
11/12/17 12:36:57.53 rohdtLfcO
>>254
続きは同人でやるっつったろハゲ

256:本当にあった怖い名無し
11/12/17 17:23:46.28 JtnRbKXzO
同人に載せたのはいずれ投下してくれるといっていたのではないかと
「未」は今頃の季節の話だから少しだけ期待してる

257:本当にあった怖い名無し
11/12/17 19:49:47.89 UGOCfPm40
>>255

m9(^Д^)プギャー

258:本当にあった怖い名無し
11/12/17 22:26:56.26 TvJCETIp0
おk

259:本当にあった怖い名無し
11/12/17 22:28:45.07 TvJCETIp0
隣のよく柿食う客は

260:本当にあった怖い名無し
11/12/18 16:10:54.96 y0Girja40
ゾマホンだ

261:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 09:37:33.10 bETU5NQy0
[雨が降る]

1/18
都会から離れた片田舎。
母方の実家のあるこの町(村と言うと、母は不機嫌になる)に、私は祖父の法事ということで久しぶりに帰ってきた。

最寄りの駅で降り、バスに揺られること約20分。
駅の周辺はまだ拓けているけれど、そこから離れていくにつれてお店の数は減り、田畑が広がってくる。
点々と建っている家は、ほとんどが平屋。
正に田園風景。
これを「村」と言わずして―なんて思っているうちに、バスは目的地に着く。

ベンチがポツンと1つ置いてあるだけのバス停。
唯一の乗客であった私を降ろし、ガタゴトと走り去っていくバスを見送ってから、私はあぜ道を歩いていく。

秋の夕暮れ時。
稲刈りの終わった田んぼに、赤とんぼ。
何だかしみじみとしてしまう。

小中学生の頃は夏休みになると毎年遊びに来ていたけれど、その頃と比べてもここは今もまったく変わっていない。


262:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 09:39:03.62 bETU5NQy0
2/18
ちょっと良い気分になって歩いているうちに、「杵島」(きしま)の家に着く。
杵島は母親の旧姓だ。

ガラガラと玄関の引き戸を開けると、中からはワイワイと賑やかな声が聞こえてくる。
足元には、靴がわんさか。
既に親戚一同が集まっているようだ。

私「こんにちはー」

私は奥まで聞こえるように声を張り、挨拶をする。
すると賑やかだった声が少し静まり、「あ、来たんじゃない?」「来た来た」といった声と共に、親戚の叔母さんが私を迎えに出てきてくれる。

叔母「あら~古乃羽ちゃん、よく来たわね~」
私「こんにちは、お久しぶりです」

ペコリと頭を下げて挨拶をする。
叔母「あらあら、いいのよぉ。ほらあがって、こっちこっち」

何がいいのか良く分からないけど、叔母はそう言うと私の手を引くようにして奥のお座敷に連れて行く。

叔母「ほらぁ、古乃羽ちゃん来たわよ~」

声高らかに、私の到着を告げる叔母さん。
いつも元気な人だけど、今日はいつも以上にテンションが高いような…?


263:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 09:41:17.91 bETU5NQy0
3/18
私「あ…こんにちは、ご無沙汰しています…」
お座敷に集まっていた親戚一同の視線を一斉に浴び、少し緊張してしまう。

何でこんなに注目されているかな…

と思いながらも、「先にお線香あげてきます」と言って私は一度その場を失礼し、2階で祖父にお線香をあげてからまた戻ってくる。
すると、待っていましたとばかりに再び視線が私に集まる。

うーん、何だろう?と疑問が浮かぶけど、その理由はすぐに分かった。
親戚一同からの「遠かったでしょう」「久しぶりだねぇ」「大人っぽくなったねぇ」などといった挨拶の中に、こんな質問が紛れていたからだ。

「彼氏さんは一緒じゃないの?」

私「はい…?」

すると、「いやぁ、まだ早いわよぉ」と声が上がり、ちょっとした笑い声が起きる。
そう言ったのは他でもない、私のお母さんだ。
間違いなく、情報を漏らした張本人。
その横には、少し拗ねた感じのお父さんがチビチビとお酒を呑んでいる。

ん、もう―!


264:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 09:43:36.07 bETU5NQy0
4/18
それから約30分間、怒涛の質問攻めにあった私は、「今は2階の部屋で休んでいる」というお婆ちゃんにも挨拶するためにお座敷から逃げ出した。

さっきお線香をあげに来たときもそうだったけれど、2階に上がると下の騒ぎが嘘のように静かで、少し落ち着いた気持ちになる。

何だか懐かしい香りのする、木造の古い家。
2階は部屋数が多く、仏間などもあわせて大小10部屋もある。
これだけ部屋数が多いとお掃除が大変そうだな、なんて、小さい頃は考えもしなかったことを思いながらお婆ちゃんの部屋に行く。

私「お婆ちゃん、起きている…?」
部屋をノックしてから、そっと扉を開けて声を掛ける。
すると、お婆ちゃんはベッド上でニコニコしながら私を迎えてくれた。

祖母「よく来たねぇ、古乃羽。元気にしていたかい?」
私「うん。お婆ちゃんはどう?」
私は部屋に入ると、ベッドのすぐ近くまで行ってそこに置いてあった椅子に座る。

祖母「相変わらず、ずっと良いよ」
私「良かった…」

今年で74になるお婆ちゃん。でも、具合が悪くなったという話は一度も聞いたことが無い。
しっかり食べて、しっかり寝て、ちょっとした畑仕事もして。
お母さんが、「アレは相当長生きするね。お爺ちゃんが寂しがっているかも」なんて、冗談交じりで言っているくらいだ。


265:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 09:45:44.20 bETU5NQy0
5/18
お婆ちゃんの部屋で、私は自分の近況などの話をする。

すると、当然というか…付き合っている人が居る、という話になる。

祖母「そういえば、光恵(私のお母さんの名前)がそんなこと言っていたねぇ」
私「そうなの。あっちこっちで言いふらしているみたい」

まったく、恥ずかしくて仕方が無い。
100歩譲って親戚相手だけなら良いけど、家の外でもそんな事言っていたら…なんて心配になる。

祖母「良い人なのかい?」
私「…うん」
祖母「良かったねぇ…。曾孫の顔が見れそうかねぇ」

曾孫…と聞いて、少し顔が赤くなる。
お婆ちゃんの孫の中では、私が一番年上だ。
まぁ…2人しか居ないのだけど。
もう1人は、先ほどの叔母さんの子供―女の子で、まだ5歳。
だから、曾孫を期待するなら当然私が、ということになる。

私「…うん。楽しみにしていてね」

お婆ちゃんの手を握って、そう答える。
他の人に言われたのなら、何言っているの、まだ学生よ?早いわよ、と答えるところだけど…。


266:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 09:47:59.62 bETU5NQy0
6/18
祖母「古乃羽が好きになった人…どんな人なのかねぇ」
独り言のように呟くお婆ちゃん。

私「…」
質問では無かったのかも知れないけど、私は何となく彼のことを思い浮かべる。

…と。

祖母「古乃羽?」
突然、お婆ちゃんが驚いたような声を出す。

私「ん…なぁに?」
何事かとお婆ちゃんを見ると、お婆ちゃんは目を大きく見開いて、私をジッと見ながらこう言った。

祖母「古乃羽には、出たのだね…」

私「出た、って…何が?」
祖母「…」

私が聞き返すと、お婆ちゃんは視線を落としてため息をつく。

祖母「光恵には出なかったから…」
そう呟くお婆ちゃん。
…何のことだろう?


267:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 09:50:06.28 bETU5NQy0
7/18
祖母「古乃羽…」
私「…なぁに?」

いつになく、緊張した感じで話し掛けてくるお婆ちゃん。

祖母「古乃羽は見えるのだね?」
私「え…」

ドキリとする。
…前にも何回かあったけれど、私は自分の目の事を言われると、いつもドキッとしてしまう。

私「何で…?」
小さい頃から今まで、お婆ちゃんとそんな話をしたことは一度も無かった。

祖母「杵島の女は、昔からそうなのよ」
私「…」
初耳だ。

祖母「光恵みたいに、出ない場合もあるのだけどねぇ」
私「そうなの…」

私のこの目は、血筋だった訳だ。
今まで聞いたことが無かったのは、お母さんがそうではなかったからだろうな。


268:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 09:52:50.36 bETU5NQy0
8/18
私「あ…、じゃあ、お婆ちゃんも見えるの?」

私にそう言ってきたということは…と思って聞くと、お婆ちゃんはコクリと頷く。

祖母「見えても何も良いことは無いし、気味が悪いと思われるだけだから…滅多に人には話さないけどね」

確かに私も、あまり人には話さない。
知っているのは美加達だけだ。

祖母「本当に、ただ見えるだけで、何も出来ないからねぇ…」

―そうなのだ。
除霊でも出来ればまだしも、ただ見えるだけ。
まったく無力で、怖い思いをするだけ。
下手をすると、この前の名刺のように大怪我をすることになる。

祖母「古乃羽も気を付けるようにね。危ない目にあわないように…」

実は既に色々と危ない目にあっているわけだけど、それは黙っておくことにした。
余計な心配を掛けるだけだものね。


269:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 09:55:06.91 bETU5NQy0
9/18
それからしばらくお婆ちゃんと話をした後、私は1階へと降りていく。
すると、丁度降りたところでお母さんがやってくる。

母「あぁ、いたいた。古乃羽、ちょっとお願い」
私「なぁに?」
母「はい、これ」

そう言って、お財布とメモ書きを渡される。
メモには「しょうゆ、お茶」などと書いてある。

母「それじゃ、お願いね」
それだけ言って、戻っていこうとするお母さん。

私「あぁん、ちょっとぉ」
母「なに?」

そんなお母さんを呼び止める。
彼の事を言い触らした件について、一言、言っておかないとな。

母「お買い物はイヤ、なんて言わないでよ?」
私「言わないわよ。それより―」
母「あ、雨月君のこと?いやねぇ、ほら、こうやって外堀から埋めていかないと。そうすればお父さんも分かってくれるわよ」
私「…拗ねていたじゃない」
母「大丈夫よ。いつもあんな感じなんだから」

いつもあんな感じって…それはそれで問題な気がする。


270:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 10:00:50.84 bETU5NQy0
10/18
母「あ、それより明後日ね?」
私「あ…うん。良いよね?」
母「もちろんよ。明日の法事が終わったら夜にはみんな帰るし、正一たちも「久しぶりだなぁ」って喜んでいたわよ」

正一とは杵島家の長男で、お母さんの弟さんだ。
私を出迎えてくれた叔母さんの旦那さんで、2人の間にはさっき言った5歳になる一人娘がいる。
つまり普段この家には、お婆ちゃんもあわせて4人が暮らしていることになる。

母「それじゃあ、そういうことだから。よろしくね」
私「うん。…って、ちょっとぉ」

文句の1つでも言ってやろうと思ったのに、何だか上手くはぐらかされてしまい、お母さんは私を置いてソソクサと去っていった。

私「もう…」

まぁ仕方ないかと諦めて、私は玄関に向かう…と、
今のやりとりが終わるのを待っていたかのように、今度は小さな女の子が絵本を抱えてトコトコとやってきた。


271:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 10:02:33.03 bETU5NQy0
11/18
私「あ、唯ちゃん」

やってきたのは、正一さんの一人娘の唯ちゃんだった。
頭に大きな黄色いリボンを付けており、なんとも可愛らしい。

私「こんにちは、唯ちゃん」
唯「…こんにちは」

私がしゃがみ込んで挨拶をすると、唯ちゃんはモジモジしながら挨拶を返してくれる。

毎年お正月には顔を合わせているけれど、唯ちゃんはかなりの人見知り―これくらいの年の子は、大体そうかな?―で、私の前でもいまだにモジモジすることが多い。

私「おリボン、可愛いねー」
唯「……」

私がリボンを褒めると、唯ちゃんは顔を真っ赤にして、持っていた絵本で顔を隠す。

…可愛いなぁ。
私もその仕草、真似してみようかな…なんて思ってしまう。


272:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 10:04:50.85 bETU5NQy0
12/18
照れている唯ちゃんをニコニコしながら見ていると、唯ちゃんは何も言わずに、絵本をスッと差し出してくる。

私「ん?…読むの?」
唯「…」

コクリとうなずく唯ちゃん。

困ったなぁ…。
絵本を読んであげるのは構わないのだけど―

私「ごめんね。お姉ちゃん、お買い物にいかないといけないの」
唯「……」

えー…という、この世の終わりのように悲しげな表情をする唯ちゃん。

そんな顔をされると、ちょっとタマラナイ。
なかなかコツを掴んでいるじゃない。これも参考にしようかな。

私「じゃあ…、唯ちゃん、お姉ちゃんと一緒にお買い物に行こうか?」
唯「うん!」

代わりにと思い誘ってみると、元気な返事が返ってくる。
良かった良かった。
奥に居る叔母さんに一声掛け、絵本を置いてから、私は唯ちゃんと2人でお買い物に出掛けることにした。


273:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 10:06:32.24 bETU5NQy0
13/18
買い物先は、去年の暮れにできたばかりだというスーパー。
家からあぜ道を通り、林の間の道を抜けた先、歩いて15分程の場所にある。…何気にちょっと遠い。

田園風景の中にある、多少浮いた感じのスーパー。
そろそろ辺りも暗くなり掛けていたので、私たちは着いて直ぐに頼まれた買い物を済まし、来たときと同じように唯ちゃんと手を繋いで家路に。

帰り道の唯ちゃんの手には、スーパーで買って上げた棒付きのキャンディ。
唯ちゃんは「ありがとう」と言ってくれたけれど、何を隠そう、お金の出所は母のお財布だ。

あ。そういえば…?

林の道に差し掛かったところで、私はふと、あることを思い出す。

―杵島の女。

お婆ちゃんは、戦争で兄弟を全て亡くしている。
そのためか、お爺ちゃんをお婿さんとして迎えており…その子供は私の母と正一さんの2人だけ。
そして、私も唯ちゃんも一人っ子。
つまり「杵島の女」と言うと、お婆ちゃんと私の母、それと私と唯ちゃんの4人だけになる。

母には「出なかった」らしいけれど…じゃあ、唯ちゃんには?
と、思ったときだった。

突然、ポツポツと雨が降り出してきた。


274:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 10:08:32.93 bETU5NQy0
14/18
私「あれ…雨?」
不思議に思い、空を見上げる。
少し薄暗くなってきているけど、見事に晴れ渡った空。予報でも、今日は一日晴れだったはずだ。
こういうのって確か…

唯「キツネのよめ入りー」

あれ。先に言われた。

私「そうだね。すごい、唯ちゃん、物知りなのね」
唯「おしえてもらったのー」
私「へぇ…」

そう言いながら、私たちは雨を凌ぐために、道の脇にあった大きな木の下に逃げ込む。
私「ちょっと雨宿りしようね」
唯「うん」

雨が降り出したのが、林の道を歩いているときでよかった。
田んぼの真ん中で降られたら、家まで走って帰っても、きっとビショビショだっただろうな。
雨足は大したことは無いけれど、ちょっと距離があるから。


275:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 10:10:53.67 bETU5NQy0
15/18
私「唯ちゃん、この雨の事、お婆ちゃんに教えて貰ったの?」

雨が止むのを待ちながら、私は何となく聞いてみる。
すると唯ちゃんは、飴を咥えたまま首を横に振る。
どうやら違うようだ。

私「それじゃ、お父さんかお母さん?」

これにも首を振る唯ちゃん。

私「んー…じゃあ、誰かな?」
それなら、きっと私の知らない人なのだろうけど…何となく気になるので聞いてみる。
すると唯ちゃんはスッと手を上げ、道の先を指差す。

え?と思い、私はその先を見る。

一瞬、そこには誰も居なくて…と思ったけど、そこには1人の男の人が歩いてきていた。

私「あ…」

雨の中、傘を差してこちらに歩いてくるその人。
見覚えがある、あの人は―

男の人「やぁ、古乃羽ちゃん。お久しぶり」
私「…明君?」


276:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 10:12:33.12 bETU5NQy0
16/18
物部明(ものべ あきら)。

地元に住んでいる、私より1つ年上の男の子。
杵島の家の近所に住んでいたので、夏休みに帰省した際にはいつも遊んでいた子だ。
今はここからは少し遠い、町の中心から離れた場所に住んでいる。

明「やぁ、びっくりした。唯ちゃんと一緒にいるの、誰かなぁって」
私「私も驚いた…」

傘を閉じ、木の下に入ってくる明君。
そして、唯ちゃんにも挨拶をする。

明「こんにちは、唯ちゃん。今日も可愛いリボンだね」
唯「…うん」

私の時以上に、顔を真っ赤にする唯ちゃん。
…まぁ、男の人に言われる場合とじゃ、少し違うかな?
明君、背が高くて格好良いし。

明「何年ぶりだろう?5年くらい?」
私に向き直り、明君が聞いてくる。

私「4年かな?前に帰ってきたのがそうだから」
明「そうかぁ…」


277:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 10:15:05.10 bETU5NQy0
17/18
明「…あ、そう言えば。聞いたよ古乃羽ちゃん」
フフフと含み笑いをするような感じで、明君が言ってくる。

私「…なぁに?」
その様子で何となく予想がついてしまうけど…

明「今、付き合っている人がいるって?」

うわぁ…やっぱり。
お母さんのバカ…。

私「もう。みんなに聞かれて大変なんだから、ヤメテ」
明「ハハハ…悪い悪い」
私「それより、紗希ちゃんは?元気にしている?」

紗希ちゃん。
昔、こちらで一緒に遊んでいた女の子だ。

明「元気だよ。古乃羽ちゃんが来ているって、伝えておくよ」
私「良かったぁ。私まだこっちに居るから、会いたいなぁ…」
明「あぁ、紗希も会いたがると思うから…訪ねておいでよ」

紗希、と呼び捨てにする明君。
昔から仲が良かったけど、どうやら今も良い関係みたいだ。


278:赤緑 ◆kJAS6iN932
11/12/19 10:18:03.62 bETU5NQy0
18/18
私「―あ、そうだ」
明「ん?」
私「美加のことは覚えている?」
明「美加?…あー、神尾の美加ちゃん?」
私「そうそう」
美加は過去に2、3回ここに来たことがあり、明君達とも会って一緒に遊んだことがある。

私「明後日ね、美加も来るの」
明「へぇ…」

そうなのだ。
明日の法事が終わった後、明後日の朝、美加が遊びに来ることになっている。
何も無いところなのに…と言うと、美加は「それが良いのよ」と言っていた。
自然の中でリフレッシュしたい、ということらしいけど…。

その後も雨が止むまでしばらく明君と話をする。勿論、唯ちゃんも交えて。
人見知りな唯ちゃんだけど、明君とは仲が良いみたいだった。
さすがは地元の人、かな?

やがて雨が上がったところで、私達は明君に別れを告げる。

―その帰り道、私の頭には、1つの疑問が浮かんでいた。

予報にもない突然の雨だったのに、明君はなぜ傘を持っていたのかな、と。




279:本当にあった怖い名無し
11/12/19 10:31:36.65 nhmDPPTx0
また無駄に長い
もっと短くまとめろよ

280:本当にあった怖い名無し
11/12/19 11:26:55.48 38OR141I0
半ば諦めてたから素直に嬉しいw

281:本当にあった怖い名無し
11/12/19 19:32:47.53 bA2ImIg80
駄作シリーズで何でもおk

282:本当にあった怖い名無し
11/12/19 19:33:31.52 bA2ImIg80
おk

283:本当にあった怖い名無し
11/12/19 19:46:46.53 bA2ImIg80
飾らない様に、誤魔化さぬ様に、その目を開いておk、おk

284:本当にあった怖い名無し
11/12/22 12:39:52.52 tmYdRgFl0
まともな作家で一番評価の低い赤緑が残ったのかよ・・・・

285:本当にあった怖い名無し
11/12/24 03:02:23.02 LkTsuXPE0
久々に見たら赤緑来てた!
乙です!

286:本当にあった怖い名無し
11/12/24 12:40:48.59 9e4pKdBzO
なんか空白が続いているけどまたメリ野郎か。

287:ウニ  ◆oJUBn2VTGE
11/12/24 22:43:08.82 CEmZxyJu0
投下しようとしたら、知らない間に忍法帖とかいうシステムが導入されていて驚きました。
この仕様だと、めったに書き込みをしない自分のような人間は長文は書き込めないのですね。
夏の『食べる』は普通に書き込めた気がするんですが。
ピクシブはあくまで2ch投下前の完全版確認用のつもりだったのですが、本格的に2chから撤退しないといけないような感じになってきました。
本当に残念です。

288:ウニ  ◆oJUBn2VTGE
11/12/24 22:46:56.06 CEmZxyJu0
この程度の長さの文でも2回に分けないといけないのか…orz
どなたかにこっちへ代理投下をお願いするか、あるいは少しづつでも自分で忍者?レベルを上げるかするといいのかも知れませんが。
どうすべきか考えてみます。今夜はもう寝ます。

289:本当にあった怖い名無し
11/12/24 23:21:18.41 XlnaFYu90
忍法帳って何のためにあるんだろうな

290:本当にあった怖い名無し
11/12/24 23:52:57.94 EqvaPoaR0
本格的にってことはやっぱり2chと意識的に距離を置く理由があったわけだ
ピクシブ投下するようになってからシリーズ物にウニさん降臨してるぞwwwみたいなプチ祭りも無くなったしな

2chに投下したって見たくもないレス見たりデメリットしかないからね

291:本当にあった怖い名無し
11/12/25 01:30:04.21 qsUPSHq9O
ではなぜ2chから始めた

292:本当にあった怖い名無し
11/12/25 06:02:21.33 Zx0rgfu70
>>291
2ちゃんは当時今よりももっとよかったのだよ。
気軽に書き込めたし、否定意見にもそれなりに筋の通った意見もあったしね。


293:本当にあった怖い名無し
11/12/25 07:24:25.84 X9ZbW/DxO
>>291
昔は信者を集めるのが楽だったから
今ならピクシブとかモバゲーの方が集めやすい

294:本当にあった怖い名無し
11/12/25 07:27:28.17 7JKmSsfmO
でもウニさんは2chでの投下を続けたいと思ってるようだ。いい方法はないのかなあ

295:本当にあった怖い名無し
11/12/25 08:39:28.39 NMeu1tIp0
それはこうよ
ウニ氏が俺に毎日新作を送信する
それを俺が読む
後は俺の胸三寸

てかメルマガ形式にしてみて儲けがあれば
やる気出るとか。
商売何たら~、のウザイの排除できるし
ああそうだ
配信の条件は感想とか

よしメルマガな

296:本当にあった怖い名無し
11/12/25 12:26:57.27 /7YKUYgx0
>>288
ブログを作るのが一番だと思う。

297:本当にあった怖い名無し
11/12/25 12:27:24.06 /7YKUYgx0
忍法チョウのせいで投下がなくなったのか。

298:本当にあった怖い名無し
11/12/25 13:50:50.09 z2FYertf0
赤緑は投下できてるのに

299:本当にあった怖い名無し
11/12/25 16:34:58.10 HGRx+SgL0
赤緑は専用スレ?でコツコツレベル上げたとブログに書いてたな

300:本当にあった怖い名無し
11/12/25 16:50:19.35 8Marj35F0
>>287-288
テンプレにもあるけど、洒落怖まとめ掲示板という選択肢は念頭にはないのでしょうか?
あと、コツコツレベル上げしても突然レベルリセットするから意味ないよ

301:本当にあった怖い名無し
11/12/25 17:06:09.12 AaMp5m+P0
コツコツったって書き込み容量制限はたったのlv=8で全解除だぜ?

302:本当にあった怖い名無し
11/12/25 17:34:44.92 cXOK7Agh0
ウニさん、週1くらいでしかネット繋がないんじゃなかったっけ?
レベル上げるだけでも時間かかるな

303:本当にあった怖い名無し
11/12/25 18:14:11.48 87BCNUyl0
読めればどこでもいいな

304:本当にあった怖い名無し
11/12/25 18:14:49.32 AaMp5m+P0
レベルの上昇より筆が速くて追いつかないってんなら問題も出ると思うがね

305:本当にあった怖い名無し
11/12/25 18:18:18.91 7JKmSsfmO
レベル8ってどれくらい頑張ったらなれるの?

306:本当にあった怖い名無し
11/12/25 18:38:35.67 AaMp5m+P0
ざっくり言えば、一日一回「てst」でもなんでもいいから書き込むのを7日

307:本当にあった怖い名無し
11/12/25 19:21:09.63 Zgb6DX2N0
ウニ氏のやりたいようにやればいい


・・・と、言いたい所だが。



同人だと読む機会減るな~~~~

それと洒落怖まとめ掲示板は絶対NGね
コピペするのにも管理人の許可が必要なんだと

308:本当にあった怖い名無し
11/12/25 20:35:31.99 h9lvYYnq0
じゃあこうしよう。
最初の1週間で超SSを投稿。
(ウニと師匠の小粋な会話的な)
レベルが上がった所で本番。
それにより焦らしに焦らされた俺達は悶絶して昇天。

309:本当にあった怖い名無し
11/12/25 20:38:03.11 h9lvYYnq0
>ウニさん、週1くらいでしかネット繋がないんじゃなかったっけ?

最初の2ヶ月に訂正。


310:本当にあった怖い名無し
11/12/25 21:28:42.88 8Marj35F0
>>307

>それと洒落怖まとめ掲示板は絶対NGね
コピペするのにも管理人の許可が必要なんだと

読めればどこでもいいよ
コピペNG嫌がる人ってまとめサイトなりブログなりの管理人以外いるの?
どこに投下しようか迷ってるのにあなたが兎や角言うのはどうかと思うが

>ウニ氏のやりたいようにやればいい

速攻でそれを否定してどうするw

311:本当にあった怖い名無し
11/12/25 22:58:02.84 8Marj35F0
ついでにまとめ掲示板覗いたら祟られ屋シリーズ来てたw

312:本当にあった怖い名無し
11/12/25 23:20:37.29 FG6gti+g0
おまえら涙拭けよ

313:本当にあった怖い名無し
11/12/25 23:53:13.39 FUSTRdwZ0
>>310
お前はいいんだろう
お前はな

314:本当にあった怖い名無し
11/12/25 23:58:29.99 S8rcevei0
何かくっせえの湧いてんな

315:本当にあった怖い名無し
11/12/26 00:22:25.67 nP18Gx7P0
例のネンチャックも必死に洒落コワまとめサイトに誘導してたなあ

316:本当にあった怖い名無し
11/12/26 08:28:17.65 06ti1vP7O
アフィで儲けたいんだろ

317:本当にあった怖い名無し
11/12/26 10:45:40.37 evuxlD5F0
ボリュームある本格的なものは同人、
補完的なSSはここ

これでどうよ?

同人は宣伝ってか情報だけ貰えりゃ・・・って
根本的な解決にはならんか

318:本当にあった怖い名無し
11/12/26 19:49:10.11 Zho6MBBDO
てst

319:本当にあった怖い名無し
11/12/26 23:04:59.09 Mm0KTe900
洒落怖まとめ薦めたら粘着荒し認定されたでござる
意味ワカンネ

320:本当にあった怖い名無し
11/12/26 23:17:56.99 it/31UNG0
ぶっちゃけあんなのは無視しておkなレベルだし、まとめ→ここでいいんじゃないかな?

321:本当にあった怖い名無し
11/12/27 11:45:57.94 kejfjKf90
で、誰がそんな二度手間をやるんだ
同人やピクシブでやってるならここやまとめに投下する意味なんかないだろ

322:本当にあった怖い名無し
11/12/27 12:12:35.04 PB3wFZgn0
なんで誰もが同人誌を手に入れらると思ってるんだよ


323:本当にあった怖い名無し
11/12/27 13:10:23.79 kejfjKf90
乞食したいだけかよ

324:本当にあった怖い名無し
11/12/27 13:51:46.47 g7CNQyMU0
テキストファイルろだにあげて、「うpしたよ」って書いてもらえば終わりだろうにw

325:本当にあった怖い名無し
11/12/27 13:56:47.76 Z6T4FbWH0
>>324


 SO  ☆  RE  ☆  DA   !!!!!!


コピペは我々住人にMA・KA・SE・RO!!!!

326:本当にあった怖い名無し
11/12/27 14:39:04.50 bKiYwLaiO
本屋に売ってるなら喜んで金出して買うけどよ、同人誌?それどこで売ってんだよ
え?コミケ?行けるかボケ

327:本当にあった怖い名無し
11/12/27 19:05:33.52 6N6wVPLf0
誰も買わなきゃやらなくなるでしょ。
でもおまえさん以外にいくらでも買うやついるから諦めなさい。

328:本当にあった怖い名無し
11/12/27 22:18:00.04 TH3KlKth0
ウニさんは同人即売の魅力に取り付かれてしまったのだ

329:本当にあった怖い名無し
11/12/27 23:01:02.50 PB3wFZgn0
あーウニ信者ってマジでムカツクわー
なんであいつ専用スレで投下しねーのか

330:132
11/12/27 23:02:43.81 WhTuM3+A0
>>329
半年ROMれks

331:本当にあった怖い名無し
11/12/29 09:26:35.04 7PumfVB90
霊感タロットで霊感磨けるかな?

332:本当にあった怖い名無し
11/12/29 12:28:55.72 6mgtl/hM0
うんうん、磨ける磨ける
騙されたと思ってやってみな
ただし、5年10年で結果が出ると思うなよ

333:本当にあった怖い名無し
11/12/29 18:12:11.05 I0/G7uwi0
ウニの商業デビューも時間の問題か…

334:本当にあった怖い名無し
11/12/31 18:54:58.71 zBpUU2kx0
おk

335:本当にあった怖い名無し
12/01/01 14:20:48.14 MxBv7tvd0
あけおめことよろ
今年は投稿者増えますように

336:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 22:15:41.13 93PkLSJW0
師匠から聞いた話だ。


大学一回生の冬。僕は北へ向かう電車に乗っていた。
十二月二十四日。クリスマスイブのことだ。
零細興信所である小川調査事務所に持ち込まれた奇妙な依頼を引き受けるために、バイトの加奈子さんとその助手の僕という、つましい身分の二人で、いつになく遠出をすることになったのだ。
市内から出発するころにはかなり込んでいた車内も、大きな駅を通り過ぎるたびに少しずつ人が減ってきた。
はじめはゴトゴトと揺れる電車の二人掛けの席に並んで腰掛け、荷物をそれぞれ膝に抱えていたのだが、閑散としてきたのを見計らい、僕は空いた向かいの席に移動して荷物を脇に置いた。
僕をこの旅に駆り出した張本人であり、オカルト道の師匠でもある加奈子さんはさっきから一体いくつ目になるのか知れないみかんの皮を真剣な表情で剥いている。
その横では窓のサッシに敷いたティッシュの上に剥かれた皮が小さな山を作っている。
「イブに温泉かぁ」
頬杖をつき、特に感情を込めずに僕がそう呟くと、その師匠はみかんの表面の白い繊維を千切れないように慎重に剥がしながら顔を上げた。
「イブってのは日没から深夜二十四時までのことだ。二十四日の昼間はクリスマスイブじゃない」
「本当ですか」
「百科事典で調べてみるか」
師匠はそう言って笑った。
今日は天気がいい。
それでも山肌や、畑。水路。あぜ道。送電線。そして瓦屋根。流れるように過ぎ去っていく景色には、寒々とした冬の色合いが濃い。
今回の依頼は、以前オカルトじみた事件を解決してもらって以来、師匠のシンパになってしまったという、ある老婦人の口利きで転がり込んできたものだった。
北の町の市街地から離れた温泉旅館で、このところ幽霊の目撃談が相次ぎ、営業に支障がでているというのだ。
そんなものは、仮に本物だとしても、いや、ガセだったとしても、どちらにせよ地元の神社やお寺にお願いして祓ってもらえば済む話だろう。ところがそれが全く効果がないらしいのだ。それも目撃される幽霊というのが問題だった。

337:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 22:19:43.56 93PkLSJW0
「神主?」
「そう。神主の格好してるんだと」
師匠はみかんにこびりついた白い繊維をすべて取り去ってなお、まだ残っていないかと、じろじろと見回しながら答えた。
「小さな温泉街だ。そのあたりにあるのも若宮神社っていう一社だけ。歴史はあるみたいで、先祖代々一族で神主を引き継いできてるんだけど……」
「その神社のご先祖様が化けて出てるんですか。温泉旅館に」
「そこなんだよ。理由がわからないんだ。場所も歩いて四、五十分くらいは離れてるらしいし、どうしてわざわざ旅館の方へ出てくるのか」
「なにか因縁があるんでしょうかね」
「それが旅館の方にも、神社の方にも全然心当たりがないらしい。責任を感じて今の宮司がかなり本格的にお祓いをやったらしいんだけど、効果なし。依然として夜中に旅館の中を狩衣(かりぎぬ)に烏帽子、袴姿の幽霊がさまよってるんだとさ」
神職の服装ってのは主に三種類に分けられる、と言いながら師匠はティッシュの中から手ごろなみかんの皮を摘み出した。
「まず、正装。新嘗祭とかの大祭で着る衣冠(いかん)だな。次に礼装。紀元祭とかの中祭で着る斎服(さいふく)だ。
これも頭は冠。最後に小祭、恒例式とか日ごろのお勤めで着る常装。これが狩衣に烏帽子、袴ってわけ」
師匠が順番に指をさす三つ並べられたみかんの皮をどれほど見つめてもそんな違いを感じ取れない。
「まあ、冠と烏帽子はシルエットでも見た目違うから分かるよ」
ではその日常の格好である常装で化けて出てくるところになにか意味があるのだろうか。
「さあ。一番多い格好だからじゃない」
師匠はすべての繊維を取り去り、すべすべになったみかんを満足そうに眺めながら言った。
「まあ、現地を見てみないことにはな」
そうですね。
窓の外に目をやろうとした瞬間、トンネルに入った。
「そういえば、最長で何日くらい向こうにいるんですか」
自分もそうだが、師匠の荷物もあまり多くない。
「その温泉で年越しを迎える馴染み客が何組かいるらしくてな。遅くとも二十九日までにはなんとかしたいらしい。まあ三日もあればなんとかなるんじゃないか」


338:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 22:25:24.66 93PkLSJW0
二十四、二十五、二十六、と師匠は指を折った。
「三日ですか」
僕としては師匠が出向けば即解決か、解決不能かどちらかのような気がしていた。三日というのは中途半端な感じだ。
「強気に出たいけど、神主の霊が出るってのはただごとじゃない気がする。まあそれも踏まえて三日だ」
師匠がすべすべのみかんをまるごと口に放り込んだ瞬間、トンネルを抜けた。一瞬で、光が電車のなかに満ちる。
「お、着いたぞ。西川町だ」もぐもぐと口を動かしながら師匠が窓に張り付く。
緩い勾配の山が四方を囲んだ、盆地のような地形に出た。川が線路と平行に走っている。
田畑が広がっているその向こうに、かすかに市街地が見える。あまり高いビルの姿はなさそうだ。
「さあ、お化けを見に行こう」
師匠は目を細めて嬉しそうに言った。

           ◆

古びた駅の構内から出ると、申し訳程度の小さなロータリーに一台のバンが止まっていて、そのそばで二十代半ばとおぼしき年恰好の女性が立ったままタバコをふかしていた。
バンの側面には『旅館 とかの』と大きな文字で書いてあった。
「あ、小川調査事務所のヒト?」
女性がこちらに気がついてタバコを地面に落として踏みつけた。チェックのシャツに、ジーンズ、スニーカーという格好。
「私、『とかの』で仲居をしてる井口広子っての。よろしくね。あ、荷物後ろに乗っけるから」
そう言ってバンの後部ドアを開けると、僕と師匠のバッグを荷台にひょいひょいと放り込んだ。
スリムな体型に見えるが、意外に力があるようだ。
「まあ、乗って乗って」
僕らを収納し終わると、すぐにバンは発進した。背後の駅が小さくなっていく。
「バスのルートを教えてもらってましたけど」
師匠がクシャクシャになった紙を手にしながら言った。

339:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 22:29:00.65 93PkLSJW0
「あ、そう? まあ、ちょうど私が暇だったから。それにバスだと一度役場の方へ回るからだいぶ遠回りなのよね」
広子さんはあまり丁寧とは言いがたい口調だったが、どこかしら好感を持てるキャラクターだった。
「ねえ、あんまり詳しく聞いてないんだけど、あなた除霊とかするヒトなの?」
「除霊はできませんよ。ただ……」師匠は無遠慮な問い掛けに苦笑する。「ただ、解決するだけです」
「ふうん」
広子さんはバックミラー越しに後部座席の僕の方を見た。
「そっちのコが、助手ってコ?」
「はあ。どうも」
会釈すると、広子さんは顔を変に中央へ寄せて笑顔を作った。思わずこちらもつられて笑ってしまう。
それからしばらく僕らはバンの座席で揺られ続けた。
師匠は広子さんに土地柄に関する質問をして、そのたびにしきりに頷いている。
「とにかくど田舎よ。ど田舎。あたしもいつか絶対こんなトコ出てってやるんだから。……あ、田中屋だ」
広子さんの視線の先には大型のバンが走っている。その後部には「田中屋」という文字。
「あれは、うちのお隣の旅館の車。お隣っても、うちが一番辺鄙なとこにあるから、だいぶ離れてんだけど。うわー、団体客乗せてんじゃん」
宿泊客用の送迎車らしい。
広子さんは舌打ちをすると、乱暴なハンドルさばきであっと言う間に前を走る田中屋の車を追い抜いた。
「へへーん。うちは小さいけど小回りが身上だから」
 同業者なのに、いや同業者だからか、普段からかなり仲が悪そうだ。本人は口笛など吹いている。
いつの間にかバンは市街地から抜け、周囲に田んぼの広がる川沿いの土手を走っていた。広子さんは窓の外に目をやりながら、「枝川っての。線路沿いの増井川の支流」と言った。
窓から外を見ていると、大きな貯水池のようなものが前方に見えてきた。
「ああ、あれは亀ヶ淵っていう溜め池。昔なんとかって武将が作ったんだって」


340:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 22:32:28.14 93PkLSJW0
平地の中にぽっかりと水面が開けている。かなり大きい。溜め池のそばの道沿いに看板のようなものが立っている。書いてある文字は見えなかった。
それからほどなくして蛇行した川を横切る形で橋を渡り、バンは山の麓の方へ進んでいった。
「着きましたよ。お客サマ」
バンが速度を緩めたのは、山に抱かれるような奥まった場所にひっそりと立つ二階建ての建物の前だった。
『とかの』という、ひらがなで大書された屋号が玄関に大きく飾られている。
大きく開かれた門を抜け、玄関に近づいていくと旅館の半被を着た若者が大きな箒を持って枯葉を掃いていた。
「あら。あのお坊ちゃん、また来てるよ。マメだねえ」
お坊ちゃん? 広子さんの口調には呆れたような、それでいてどこか意味深な響きがあった。彼はこの旅館の従業員ではないのだろうか。
広子さんが玄関に車を横付けすると、若者はこちらに軽く頭を下げてから自動ドアの中へ消えていった。
そして僕らが車を降りて荷物を出そうとしていると、白髪交じりの髪を短く刈り揃えた男性がドアから出てきて「お待ちしておりました。お持ちします」と言った。
やはり旅館の半被を着ている。小太りだが、動きはキビキビしていた。「あ、いや、自分で持ちます」と言いかけた師匠から押し付けがましくなく、自然に荷物を受け取った。
どうやら水周りのトラブルに呼びつけた修理工という感じではなく、それなりに客としての待遇ではあるようだ。
「あ、お父さん。くるま、車庫でいいの?」
広子さんの言葉に男性は頷いてから、ニコリともせずに「こちらへどうぞ」と僕らを自動ドアの方へ先導した。どうやら親子で働いているらしい。広子さんは仲居ということだったが、さしずめ父親は番頭というところか。
車を回す広子さんを尻目に僕らは旅館の中に入っていった。
タイル張りのたたきで靴を脱ぐと、狭いが整然としたロビーが目の前にあった。床には赤い絨毯が敷き詰められている。中は暖房が効いていて、ほっと人心地がつけた。
人形などの民芸品で飾られたフロントの奥から、和服の女性が姿を現した。薄桃色の上品な着物だ。
「ようこそいらっしゃいました」


341:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 22:40:29.86 93PkLSJW0
微笑んだ後で頭を下げる姿は流れるようで、いかにも身についた仕草という感じがした。
四十年配の女将は続けて「依頼をした戸叶(とかの)です」と名乗った。師匠が名刺入れを出したので、僕も慌ててポケットを探る。
興信所の所長は僕らバイトにも名刺を作ってくれていた。ただし、大きな声では言えないのだが、偽名だ。バレやしないかといつも不安になる。
女将も懐から名刺を出してお互いに交換した。
「よろしくお願いします」
特に名刺の名前に疑惑を持った風もなく、女将はにこやかに「まずお部屋へどうぞ」と片手を広げた。
ロビーを回り込むように抜けると、先へ伸びる廊下と階段があり、僕らは二階に案内された。
本来師匠が一人でやってくるはずのところを、急きょ僕も助手としてついていくことになったので、部屋が二人分用意されているのか不安だったが、並びで二つきちんとかまえられていた。
和室の中に通されると、思ったより広く、家族連れなどのグループ客が使う四、五人用の部屋のようだった。こんなことろを一人で使うのは申し訳ない気分になる。
女将は「今日はあと二組お見えになっているだけですから、お二階はすべて空いておりますので」とこちらの考えを見通したようなことを言って、「また後で参ります。遠路お疲れでしょうからまずはおくつろぎください」と去っていった。
僕としては、「申し訳ありません、一部屋しか用意できず」、「いえいえ、一向に構いません。ねえ師匠」、「しょうがないなあ。布団だけは離して敷いてくださいね」という展開を心のどこかでは期待していたので、幾分がっかりしたのだが。
とりあえず荷物を置いて、部屋のテーブルにあった茶菓子を掴むと隣の師匠の部屋へ移動した。同じような造りの和室だ。
隣の部屋では師匠がさっそくお茶をいれていたので、ご相伴に預かることにする。
「思ったよりいいところだな」
師匠の言葉に僕はこれまでに見たこの旅館のパーツ、パーツを思い浮かべ、そして頷いた。
「ただで泊めてもらって、その上、バイト代ももらえるなんて最高じゃないか」
「その分プレッシャーなんですけど」
口にすると、なんだか本当に不安になってきた。

342:本当にあった怖い名無し
12/01/02 22:42:40.86 spc33BJaO
ウニさん、あけおめ!
支援

343:本当にあった怖い名無し
12/01/02 22:43:53.64 n7pJz57p0
忍法帖下でも支援は有効なんかな?

344:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 22:45:20.68 93PkLSJW0
興信所の常として、成功報酬は別として、たとえ依頼内容が達成できなくても最低限の基本料金は払ってもらうのだ。もしこれでなにも成果なく逃げ帰るようなことになったら、と思うと……
「いいじゃないか。お化けを退治したら済むことなんだから」
「そう。それなんですよ。なにか感じますか、この旅館に」
僕はなにも感じない。今のところは、だが。
師匠は「うんにゃあ」と気のないそぶりで首を振ると、茶菓子に手を伸ばした。
「とりあえず、ただの噂とか勘違いの路線で裏づけを取る方向ですか? それともあくまで本物という前提でやっつけに行きますか」
これだけなにも気配を感じないとなると、『見る』のは大変そうだ。
「まあ、大丈夫じゃないか。聞いた話でも、出るのは夜だっていうし。それにカンだけど、今回のはたぶんホンモノだよ」
師匠はあっけらかんとしている。「お茶うめえ」などと言って僕の分の茶菓子にまで手をつけている。
そうこうしているうちに、女将がやってきた。そして依頼のことを口に出そうとしたとき、師匠がそれを制した。
「場所を変えましょう。この部屋では、主客が逆転してしまう」
女将は意外そうな顔をしたが、すぐに微笑んで「では下の応接室で」と言った。
なるほど。僕らは依頼を受けた立場で、女将の方が依頼客だ。それなのに、この客室にいては、職業柄女将は僕らを客として遇してしまうに違いない。それではちぐはぐなやりとりになると師匠は考えたのだ。さすがに慣れている。
階段を降り、僕らはフロントのちょうど裏側にあった応接室に通された。
僕と師匠はソファーに腰かけ、テーブルを挟んで向かいに女将と出迎えてくれた角刈りの男性。
「番頭兼料理長の井口です」
女将の紹介に男性は「井口勘介です」と頭を下げた。「先代からお仕えしております」
愛嬌のある顔ではない。薄くなりかけた頭の下に丸い鬼瓦が鎮座している。どこかムスッとしているようだ。
そしてその、お仕えしている、という時代錯誤な言い回しに、犬のような実直さを垣間見た気がした。
女将の名前は戸叶千代子といって、この温泉地である松ノ木郷で五つあるという温泉旅館の一つである『とかの』の三代目だということだった。


345:本当にあった怖い名無し
12/01/02 22:50:10.72 Q2jiagte0
バイバイさるさんは2011/11/11に廃止されました

346:本当にあった怖い名無し
12/01/02 22:50:24.63 RD1C3tCnO
微妙な出来の推理小説

347:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 22:50:28.87 93PkLSJW0
この松ノ木郷は、温泉地としては歴史が浅く、明治に入ってからボーリングによって湧き出したものなのだそうだ。
その温泉旅館の中でもこの『とかの』は一番新しく、大阪で材木問屋を営んでいた初代の戸叶亀吉氏がこちらへ移り住んできて開いたものだという。
一番の新顔ということに加え、よそ者ということで最初は随分苦労したそうだ。旅館組合でもなにかにつけ、意地悪をされてきたという。
そしてそれは代を重ねた今になっても、日陰の下で続いているという話だった。
「私など、生まれも育ちも松ノ木ですのにね」と女将は寂しそうに呟いた。
そのよそ者に対する意地悪も、番頭の勘介さんという存在のおかげで幾分か和らいでいるそうだ。勘介さんの井口家は、地元の水利組合や消防団などでは中心となってきた家で、いわば松ノ木郷では顔役の一つだ。
その息子が番頭をしているというだけで、古参の旅館への睨みが利いていることになる。
勘介さん自身も持ち前の気性で、旅館組合の寄り合いなどで『とかの』が不利になるような取り決めが持ち出されると、真っ赤になって怒鳴りちらし、反故にしてしまうようなことも多々あった。
勘介さんは若い時分、あまりの不良ぶりで実家から勘当されそうになっていたところを、『とかの』の先代、つまり千代子さんの父親に諭されて、ここで働くようになったのだそうだ。
元々なにか打ち込めることがあると、真面目に取り組む性格だったらしく、とたんに人が変わったように汗水を流すようになり、先代にも大変可愛がられた。
それ以来、『とかの』への忠誠心たるや金鉄のごとし、という具合で、今や娘も仲居として親子二代で働いているのだそうだ。
ただこの情報、後半のほとんどはその娘の広子さんから後に聞き取ったもので、当の勘介さんは師匠と女将が応接室で話している間、ほとんど口を利かずに不機嫌そうな顔をしていた。
「幽霊が出るという噂が立ったのは一年ほど前からです」
とうとう本題か。
僕は緊張して膝の上の拳を硬く握った。
『とかの』の宿泊客から「夜中に幽霊を見た」という苦情が出るようになり、その噂が狭い松ノ木郷、そして松ノ木郷のある西川町に広がるのはあっという間だった。
それも決まって「神主の格好をしていた」というのだ。

348:本当にあった怖い名無し
12/01/02 22:51:13.43 n7pJz57p0
>>345
じゃあ放置するTHX

349:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 22:53:05.96 93PkLSJW0
やがて仲居など従業員からも「見た」という証言が出始めた。このままにはしておけないと、地元の若宮神社に相談して、お祓いにきてもらった。しかし、一向にその出没が収まる気配はない。
隣の地区の寺にも頼んだが、やはりどれだけ念仏を唱えてもらっても効き目は現れない。
それどころか、夜に僧侶に来てもらった時など、しつらえられた護摩壇の上にそれをあざ笑うかのような神主姿の霊が浮遊しているのが見えると言って列席者から悲鳴が上がり、読経が中断される騒ぎにもなった。
もはや手の打ちようがなく、噂を恐れて客足は減る一方。
幸いにして「祟られた」だの「不幸があった」だのという話はなかったため、いっそ開き直って「神主さまの霊が現れる有り難い宿」という触れ込みで営業をするしかないのかと、今では迷っているのだそうだ。
松ノ木では比較的新しいとはいえ三代続いた温泉宿だ。もちろんそんなことは本意ではないだろう。女将は暗い顔をして語り終えた。
師匠はソファーに深く腰掛け、天井を見上げるような格好で思案げな顔をしている。
その様子に、なにか見えるのかと女将も不安そうに天井を見上げる。もちろんそこにはなにもなかった。
それにしても、幽霊が出るという噂は旅館業にはつき物だと思うが、ここまで深刻な話になるというのは余程のことだ。
師匠は前に向き直り、左手の指の背を顎先にあてながら女将に問い掛けた。
「あなたは見ましたか」
「はい」
女将は硬い表情でそれだけを口にした。
「一回ですか」
「いえ、何度か」
「その、神主の霊はなにかを訴えているような感じでしたか」
「さあ…… それは分かりかねます」
「こちらに危害を加えそうな様子ですか」
「そう、おっしゃる方もいらっしゃいます」
「あなたはそう感じなかったと?」
「はい」
師匠はこの場では自分自身のことを詳しく説明していない。ただこうしたことの専門家だということだけが事前に先方に伝わっているはずだった。

350:本当にあった怖い名無し
12/01/02 23:10:42.56 /B/Ws0CJO
ウニあけおめ
今年も楽しみにしてる

351:本当にあった怖い名無し
12/01/02 23:11:09.20 kD/8vDXc0
焦らしやがるぜ

352:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:13:25.59 93PkLSJW0
女将は師匠のことをどう思っているだろう。テレビで見るような霊能者のように、「この霊はこういうことを訴えているのです」などとすぐさま断言し、そのうえ自ら憑依現象など起こしてみせるようなことを期待しているのだろうか。
「神主の服装は、どうです」
「どう、と言いますと?」
「今の若宮神社の宮司のものと同じですか」
「えっ。それは」
女将は驚いた表情を浮かべた。
「同じ、だったかと思いますが」
「自信はないんですね。では、若宮神社の宮司は霊を見ていますか」
「見て、いないようです」
「服のことは宮司から訊かれませんでしたか」
「はい」
師匠は舌打ちをした。
「大事な要素です。いつの時代の霊か、分かるかも知れないのに……。宮司は霊についてなんと言っていますか」
「どうしてこういうことになるのか分からない、と。とても困惑しています。それはこちらもですが……。とにかく、若宮神社にも私どもにも、まったく心当たりがないんです」
「よそ者、という点に関してはどうです。代々の氏子ではないわけでしょう」
「そんな。町の外から移り住んできた家は他にもありますし、私どももこちらに来てからは初代より若宮神社の氏子です。旅館組合からは継子(ままこ)にされても、若宮さまはわけ隔てなく接してくださいましたから、お互いにうらみつらみもございません。
私は当代の宮司の章一さんとは同じ小学校の先輩後輩で、年下の私を良く気にかけてくださいますし、娘の楓は、章一さんの次男の和雄さんと幼馴染でとても仲が良いのですから」
若宮神社の宮司は石坂という名前らしい。
勘介さんがムッスリした顔のまま頷いたところをみると、そのあたりの事情はそのとおりのようだ。
「では、いったい何のために霊はさまよい出てきているのでしょう」
「私どもには分かりかねます」
それはそちらの仕事だ、という表情で女将は師匠の目を見つめ返した。師匠は溜め息をついてその視線を避けると、少し口調を変えて言った。
「写真はどうです」


353:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:15:22.54 93PkLSJW0
「え?」
「写真です。心霊写真。その神主の霊の写真は撮れていませんか」
「写真は…… 聞いたことがございません。写真に撮ったというような話はなかったかと思います」
「そうですか」
師匠は残念そうに自分の額を叩いた。
「いや、しかし、古い霊だと基本的に写真には写らないので、正体を知る上では少しヒントになるかも知れない。わたしの経験上、写真文化の成立前の霊は、心霊写真として撮れないことが多いんです。
写真という、己を写しとりうる機械の存在を知らずに死んだ霊らならば。つまり、江戸時代後期以前の霊ならば……」
はじめてそれらしいことを言った師匠に、女将は困ったような表情を浮かべた。信じて良いものか、迷っているような顔だった。
「まあいいでしょう。あとは、そうですね、この旅館の裏手は山になっていますが、そちらにはもしかしてその若宮神社の分社がありませんか? あるいは昔あったとか」
「いえ、ありません」
即答だった。
「今でも良く気晴らしに登ることがございますが、そういうものはありません。登り口が表から少し回りこんだところにあるんですが、そちらから山に入れます。気になるようでしたら、そちらからどうぞ。
とっても見晴らしが良いところがあるんですよ」
「それはぜひ。では、まず旅館の中を見せてもらいましょうか。恐らくですが、夜までなにも起こらないでしょう。それまで、できるだけ情報収集をしたい」
師匠は立ち上がった。
「運が良ければ今夜中に、相手の正体が分かるでしょう。正体が分かれば対処のしようがあります」
応接室を出るとき、先に立った僕がドアを開けると、すぐ前にいた女性にぶつかりそうになった。
「うわ」という声が出てしまった。相手も驚いたようだったが、ばつの悪そうな顔をして後ろの女将の方を見て首を竦めている。
「楓、なにしてるの」
「あの、いや、ちょっと」
楓というと、さっきの話にも出た女将の娘のはずだ。僕と同い年くらいだろうか。

354:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:19:59.14 93PkLSJW0
髪をポニーテールにして、タートルネックの黒いセーターにデニムのパンツといういでたちからは、活発そうな印象を受ける。
どうやら盗み聞きをしていたらしい。
悩みの種だった幽霊騒動のさなか、解決のために霊能力者が雇われた、となると若い彼女が興味津々となるのも無理はない。
「楓、後でこの方々について裏山をご案内しなさい」
溜め息をつきながらの女将の言葉に、楓のすぐ後ろにいた仲居姿の女性が身を乗り出す。
「あ、私が案内しましょうか」
広子さんだ。いっしょに盗み聞きしていたのか。
「おまえは夕食の仕込みがあるだろうが」
勘介さんがボソリと言って自分の娘の頭を小突いた。結構痛そうだった。

           ◆

それから師匠は小一時間旅館の中を調べて回った。特に幽霊が出たという場所では、いつ、誰が、どんな風に見たのかをこと細かく聞き取った。
僕はそれにくっついて回り、書記係となって聞いた内容をすべて大学ノートにメモしていった。
師匠はその間、聞いた内容に関する評価をほとんど下さなかった。ただ淡々と事実を収集していくだけだ。
それらの目撃談は、旅館中に及んでいた。玄関や、廊下、客室や宴会場、そして中庭や温泉。その節操のなさからは、場所に関する拘りをまったく感じなかった。
ただ、その頻度からはこの『とかの』という温泉旅館そのものに対する異常な執念、あるいは執着のようなものを感じられた。
神主姿の霊は、人に危害を加えようとするようなそぶりこそ見せていないようだが、目撃者は皆、なんらかの怨念じみた恐ろしさを感じて怯えている。
廊下の壁から抜け出るように突然現れたかと思うと、反対の壁の中へ消えて行ったり、夜中に宿泊客がふと目を覚ますと布団の周囲を数人の神主姿の霊がゆっくりと歩いているのが見えたり。現れ方も様々だった。
「数人?」
宿泊客からそんな話を聞かされたという仲居の一人に、もう一度確認する。
「ええ。二、三人か、三、四人か。うろうろ歩いていたそうです」


355:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:21:52.22 93PkLSJW0
「顔は? もしかして全員同じではなかったですか」
訊かれて四十年配の仲居は首を傾げる。
「そんなことはおっしゃってませんでしたね。でも、私も見たことがありますけど、顔はあまりよく見えないんですよ」
顔のあたりは妙にぼやけていて、ただ蒼白い顔をしている、ということだけが分かるのだという。
「ありがとうございます」
師匠はおおよそ必要と思われる情報を集め終わったのか、あるいはこれ以上聞いても有益な情報は得られないと判断したのか、調査を一旦打ち切った。
時計を見ると午後三時を回っていた。
「では裏山に登ってみます」
師匠がそう告げると、女将は娘を呼んだ。
「楓、ご案内しなさい」
「はあい」
セーターの上からジャンパーを羽織った格好で現れた楓は、元気に返事をすると右手を高らかと挙げてみせた。
「あ、では僕も」
その後ろから旅館の半被を脱ぎながら大柄な青年が現れて、はにかみながらそう言った。さっき玄関で枯葉を掃いていた人だ。
この若者が女将の話に出てきた、若宮神社の宮司の次男らしい。
その掃除している姿を、「お坊ちゃん」と呆れたように評した広子さんの態度が気になって、聞き込みの最中にもう一度広子さんを捕まえ、彼が何者か訊ねてみたのだ。
彼は石坂和雄といって、県内の大学の三回生。キャンパスの近くに下宿しているのだが、冬休みになって実家に帰省しているらしい。
そんなたまの里帰りなら、実家で足を伸ばしてゆっくりすればいいのに、と思うが、広子さん曰く、この旅館の一人娘の楓にホの字らしいのだ。
そのために、ヒマだからなにか手伝いますよと言って、足繁く『とかの』に通ってきては掃除に荷物運びにと、汗をかいているらしい。
そして夕方遅くなると、一緒に晩御飯でも食べていきなさいという話になり、いとしの楓ちゃんといられる時間をがっちりキープする、という具合だ。
もっともそれは今に始まったことではなく、狭い田舎のコミュニティの中で昔から幼馴染として仲良くしてきたらしい。


356:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:25:38.44 93PkLSJW0
和雄の父親である現宮司の章一さんは女将の千代子さんと幼馴染であるし、章一さんの奥さんの昌子さんは千代子さんと同じ華道の先生についていた縁で仲が良いらしい。いわば家族ぐるみの付き合いだ。
そして二つ年下の楓が今年の春に高校を卒業し、地元の短大に通い始めてから和雄のアプローチが積極的になってきた。
将を射んと欲すれば、まず馬から射よ。とばかりに旅館に入り込んでテキパキと仕事をしてみせる和雄を、女将は上手く操っているようだ。
女将は十年ほど前に夫と死に別れ、それ以来女手一つで楓さんを育て、親から受け継いだ旅館を切り盛りしてきたのだそうだ。
いずれ楓に婿を取って、跡を継いでもらわないといけない。そこに若宮神社の次男坊であり、幼馴染の和雄といううってつけの人物がいるのだ。これを逃す手はない。
楓自身はまだ短大に入ったばかりで、遊びたいざかり。どうやら和雄のことは憎からず思っているらしいのだが、まだはっきりとは態度で示さず、バイトにサークルにと忙しい日々を送っている。
そんな二人の間を巧妙に取り持って、けっして下手に出ることなく、和雄の方から積極的にこの旅館へ通わせてあれこれ手伝わせているのが、女将の千代子さんというわけだ。
聞くと、和雄は普段の土日にも良く顔を出しているらしい。まめなことだ。
「じゃあ、行ってきます」
楓が玄関先で振り返りながら声を張り上げる。
「和雄さん、お願いね」
「はい」
女将は和雄の方へだけ声をかけた。そして師匠と僕に会釈して旅館の中へ戻って行った。
「こっちでーす」
楓が先導して、敷地の外へ出る。すぐ裏の山なので、旅館の建物を回り込んで行くのかと思っていた。
「この先を回ったとこから入山口があるんですよ」
早足で一人先へ先へ進む楓に苦笑しながら、和雄が説明する。
旅館のそばを流れる川沿いに少し歩くと山側に石段のようなものが見えてきた。「ここから登りまーす」
楓は苔むした石段を二段飛ばしで登っていき、そのたびにポニーテールの先がピョコピョコと揺れた。元気だし、動きが妙に可愛らしい。

357:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:27:51.55 93PkLSJW0
和雄でなくとも、こういう子が幼馴染なら悪い気はしないなあ、などと考えていると後ろの師匠から「早く登れ」と尻を蹴られた。
石段はすぐに途切れ、枯葉で覆われた山道が現れた。標高の低い山だが、道はかなり険しい。寒さに慣れた身体はすぐに熱くなり、息が荒くなった。それでも山歩きは今年、師匠にかなり鍛えられたので、ペースを乱すほどではなかった。
楓と和雄も慣れた足取りで平然と登っていく。
「へえ~。興信所で働いているんですか」
「ああ。その中でもわたしはオバケ専門」
「なんですか、オバケ専門って」
和雄は吹き出しながら師匠と会話を続ける。なんだか如才ないやつだ。体格も良く、少し彫りの深い顔だがなかなかの色男だし、なんと言っても笑顔が爽やかだった。
実に気に食わない。
「僕らも見たんですよ、例の幽霊」
な? と先頭の楓に話を振る。
「うん。見たよ。怖かった」
「どんな風に?」
師匠はこの場にいるのが全員年下のせいか、さっきまでの営業トークから一転してくだけた口調で話しかける。
楓は平日に仲居が一人休んだので、晩の給仕を手伝わされていた時、膳を下げるため廊下を通っていると窓ガラス越しに、やけに白っぽい格好のふわふわした人影が目に入ったのだそうだ。
「出る、って聞いてたけどホントに見たら腰が抜けそうになりますねえ」
人影はすぐに消えてしまったらしい。三ヶ月くらい前のことだった。
「僕の方は風呂場ですよ。二ヶ月くらい前かな。大浴場の外に露天風呂があるんですけど、帰りが遅くなって泊めてもらった時に、お客さんが全員出た後で一人で入ってたんですよね。
そしたら湯気の中からこっちにスーッって水面を歩いてくる人がいるんですよ。やばい、と思って立ち上がって逃げようとしたんですけど、お湯に足を取られて走れなくて、向こうはスーッて近寄ってくるでしょう? 
生きた心地がしなかったですよ。なんとか逃げ切って脱衣所のところまで来て振り返ったらもう見えなくなってましたけど」
あ、露天風呂自体はすごく良いお湯ですから、後でぜひどうぞ。
和雄はさりげなくそう付け加える。

358:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:30:00.47 93PkLSJW0
「あなたはその神主の霊の子孫じゃないの? なんでびびってんの」
「いやあ、それなんですけど、なんかピンと来ないんですよね。ご先祖様がなんで『とかの』を祟らないといけないのか、さっぱり分からないんですよ。なにか言ってくれればいいのに、うらめしいの一言もなしですよ。なんなんでしょう、一体。親父も首を傾げてますよ」
父親の章一さんはかなり責任を感じていて、女将や楓に会うたびに頭を下げているらしい。
御祓いも何度も行なったし、それでどうしても上手くいかなかったので、恥も外聞もなくこうしたことに強いというお寺を自ら探してきたりと、とにかく神主の霊が出なくなるように協力してくれている。今のところその効果は見られないようだが。
次男とはいえ、成人した息子が幼馴染の女の子のところへ入り浸って、その家業の従業員のような真似をしているのを叱りもせずに見逃している、というのも、そうした後ろめたさがあるせいなのかも知れない。
「お父さんが宮司なんだよね」
「ええ。もう先祖代々の」
師匠は若宮神社の宮司、石坂家の家族構成を正確に聞き出した。
父親が宮司の章一、母親が昌子、兄が皇學館の大学院に在籍中の修(おさむ)、そして妹が専門学校生の翠(みどり)。あと父方の祖母がいるそうだが、今は西川町の病院に入院中とのことだった。
この一帯の松ノ木郷も行政単位としては西川町の一部なのだが、このあたりの人は町役場のあるあたりだけを指して西川町と呼んでいるようだ。
「兄貴が大学を卒業したら、戻ってくるんですよ。うちで権禰宜をしながら、西川町の高校で歴史を教えるって言ってます。親戚筋の神社からも、神職の手が足りないって相談されてるんで、ひょっとしたらそっちに行くかも知れませんけど」
どっちにしても、いずれはうちの若宮神社の跡を継ぐんですけどね、兄貴は。
和雄は冗談めかして自分の二の腕を叩いた。「だから、僕なんて肩身が狭いですよ。早いトコ手に職つけないと、いずれ実家から追い出されちゃいますから」
和雄の方は神道系のコースのある大学ではなく、一般大学の法学部に在籍している。
「章一さんの前の宮司はお祖父さん?」
「そうです。もう五年になりますね」
すでに亡くなっているらしい。師匠は、『とかの』に現れる霊がそのお祖父さんである可能性はないかと尋ねた。すると和雄は、それはないですねと即答する。

359:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:32:02.51 93PkLSJW0
「祖父はあの年代の人にしては凄く押し出しの立派な人でしたから」
今の自分よりも背が高かったんですよ、と頭の上に手をやってみせた。
なるほど。そんな大柄な人なら、たとえ顔がぼやけていようが、幽霊になって現れたらそれと分かりそうなものだ。女将や旅館の人々も先代の宮司を良く知っているだろう。
誰もそのことに触れないということは、どうやら和雄の祖父が化けて出ているわけではないようだ。もっと昔のご先祖様ということか。
「最近、神職の服が盗まれたりってことはない?」
師匠の問い掛けに和雄は眉をひそめる。
「誰かが、イタズラでもしてるってことですか」
「まあ、どんなことでも可能性はあるから」
自分自身、幽霊を目撃したという和雄からすると、それが誰かのイタズラだと言われても納得できないだろう。確かにこれまでに聞いた多くの目撃談からしても、すべて人間の仕業というのは無理がある気がする。
「服が盗まれたことなんてありませんよ。もちろん紛失もありません」
和雄がはっきりそう言うと、師匠は「そう」と言ってそれ以上追求しなかった。
「あ、この先から見えますよ」
楓が指さした先には木々の群れがぽっかり抜けたような空間があった。その開けた所まで登りきると、遠くの景色が見渡せた。
「見晴らしがいいなあ」
師匠が手近な切り株に片足をかけた。
眼下には枯れ木で覆われた山の峰が広がっている。それほど高くは登っていないはずだが、角度のせいか、ここからは『とかの』は見えない。その代わり、平野を隔てた遠くの山の中腹になにかの建物が見えた。
「あれが、うちの神社ですよ」
和雄が指をさす。
「こうして見ると、結構近いな」
「でも『とかの』から歩いたら一時間近くかかりますよ」
見下ろす風景の中には畑や田んぼ、そして枯れ木ばかりの林など、寂しい色彩ばかりが広がっている。その間を縫うように、枝川がくねくねと蛇のようにうねりながら伸びていた。
「なにもないところでしょう。だんだん人口も減ってますし。うちの神社のあたりなんて今じゃバス停も遠くになっちゃって、不便でしょうがないですよ。家族全員バイクに乗ってるくらいです」

360:未 本編1 ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:33:43.33 93PkLSJW0
「え~。うちの『とかの』のあたりの方がバス停遠いじゃん。たまにはそのくらい歩きなよ」
そんなことを話しながら、しばらくそこで景色を見ていると、陽が翳ってきて寒さが身体に戻ってきた。風も少し出てきたようだ。
「もう少し先が頂上ですけど」と和雄が尋ねたが、師匠は首を振って「もういいや。戻ろう」と言った。
頂上までの道はここから少し下った後でまた登りになっていたが、そのすべてがすでに見渡せた。女将の言っていたとおり、裏山には神社やそれに関するものは全く見当たらなかった。頂上の反対側の下りも同じようになにもない、と楓と和雄が断言した。
師匠はそれほど残念そうでもなく、また先陣を切って元来た道を下り始めた楓の後ろについて山道を踏みしめていった。
五分ほど歩いただろうか。
右手側に大きくV字形に抉れた谷が広がっている場所に出たのだが、そこで師匠が足を止めた。
谷の方へ身を乗り出して首を伸ばしている。先はかなり急な崖だ。後ろにいた僕は思わず「何をする気ですか」と止めに入りそうになった。
師匠はキョロキョロと周囲に目をやると、手がかりとなる木がまばらに生えた獣道を見つけ、そこから崖の下へ降り始めた。
止める間もなかった。
最初にザザザと山肌を滑るように降りた後、枯れ木にしがみついて勢いを殺し、そこから先は器用に木の枝につかまりながら、あっと言う間に谷の底近くへたどり着いてしまった。
地元民の二人も驚いたようにそれを見つめている。
「なにかあるんですか?」
僕は両手でラッパを作って声を上げる。
師匠は谷の奥でうろうろしながらせわしなく動いている。
「ああ。こいつは地滑りの跡だ」
斜めに生えている潅木を叩きながら返事が返ってきた。その谷は途中から水が湧いていて、さらに下へと流れていっている。
師匠はそのあたりの土を掘ったり木を揺すったりしながらその周囲を探索していたが、やがて山肌から突き出ていた石の前にしゃがんで、堆積した土や苔などを手で払い始めた。
僕たちの眼下でその動きがふいに止まり、またすぐに立ち上がったかと思うと、そばの谷川の淵へ近寄っていった。

361:未 本編1 ラスト  ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:37:32.59 93PkLSJW0
その先はさすがに危険な地形だったので諦めたのか、師匠は猿のように木の枝につかまりながらこちらへ戻り始ってきた。
「悪い。待たせた」
山道へ戻ってくると、ズボンの土ぼこりや枯葉を払いのけながらあっけらかんと言う。
「すごいですねえ。レンジャーみたい」
楓がそう褒めると、和雄は「危ないからもうやめてくださいよ」と心配そうに詰め寄る。
「わかったわかった。もう帰ろう」
と師匠は笑った。そして楓、和雄の後についてふたたび山道を下り始める。
なにか、予感のようなものがして、僕はそのすぐ後ろについた。すると、前を行く二人としばらく談笑しながら歩いていた師匠が、こっそりとした手の動きで合図をしてきた。
顔を近づけた僕の耳元に素早く口を寄せ、「地滑りの跡に埋もれた石の表面に、こんな模様があった」と囁いた。
そして僕の手を握り、手のひらに指でなにか文字のようなものを書いた。
「え?」
と怪訝な顔をした僕に、師匠は「面白くなってきた」ともう一度囁いて、前を行く二人を早足で追いかけていった。
なんだろう。この字は。
僕は手のひらに残る文字の感触をじっと記憶に刻みながら、そして同時に記憶を呼び覚まそうとする。
漢字だ。
雨冠は分かる。その下に、丸…… いや、口がみっつ。横に並んでいる。そしてさらにその下になにか複雑な字が続いている。龍という字だろうか。あるいは能力の能という字か。
いずれにしても、そんな漢字があるのだろうか。物凄く画数が多い。しかし全体のバランスからして、一つの字としか思えない。
なんだ、この文字は。
僕は自分が足を止めていることに気づく。
前を行く師匠の背中に視線を向けたまま、手のひらに刻まれた文字の感触に身震いする。
なんだ、これは。
そんなことを口の中で繰り返しながら僕は冬枯れの山道に立ち尽くし、じわじわと、その文字に沿って自分の血が流れ出て行くような、得体の知れない悪寒に包まれていた。

362:M.C.D.  ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:40:12.97 93PkLSJW0
師匠から聞いた話だ。


大学一回生の夏だった。
午前中の講義が終わり、大学構内の喫茶店の前を通りがかった時、僕のオカルト道の師匠が一人でテーブル席に陣取り、なにやら難しい顔をしているのが目に入った。
「なにを見てるんですか」
近づいて話かけると、手にした紙切れを天井の蛍光灯にかざして見上げるような仕草をする。
「どうしようかと思ってな」
つられて僕も姿勢を低くして下から覗き込むと、どうやらなにかのチケットのようだ。横を向いた髑髏のマークが全面に描かれている。
「M.C.D.……?」
髑髏の中にそんな文字が見えた。
師匠が口を開く。
「『モーター・サイクル・ダイアリーズ』だってよ。アマチュアバンドだよ」
地元バンドのライブチケットか。
師匠がそんなものを持っているのは意外な気がした。
「もらったんだ」
そう言ってチケットをひらひらさせる。「行こうかどうしようか迷っててな」
「知り合いでもいるんですか」
そう訊ねると、「ああ」と言ってチケットを睨んでいる。
そのバンドのメンバーからもらったもののようだった。ライブ自体にはあまり興味がなさそうで、もらった手前、義理で行くべきかどうか迷っている、というところか。
「何系のバンドなんですか」
髑髏の絵でなんとなく想像はついたが、一応訊いてみると「パンク」という答えが返ってきた。
なるほど。
「前に聴きに行った時は、もうなんていうかシッチャカメッチャカになってな。なんていうんだ、あれ。おしくら饅頭みたいな」
モッシュか。
僕もほとんどライブなどには行かないので良く知らないのだが、客がノリノリで暴れまわるようなライブハウスだとそんなことが起こるらしい。

363:M.C.D.  ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:41:13.90 93PkLSJW0
「あれで懲りたんだよな」
かなりハードなバンドのようだ。
チケットを手にとって良く見せてもらったが、ライブは今日の十九時スタートとなっている。もう当日ではないか。
しかしその日時よりも、会場となっているライブハウスの名前を見て、僕はなにか引っかかるものを感じた。行ったことはないのだが、最近その名前をどこかで耳にしたような気がするのだ。
「どうかしたのか」
しばらくチケットとにらめっこをしていると、ようやく思い出した。
「あ、ここ、あれですよ。最近幽霊が出るって噂のライブハウスですよ」
「なに?」
師匠の目が急に輝き始めた。
「研究室の先輩が言ってたんですけど、マジで出るらしいです」
そう言った途端に、師匠がひったくるように僕からチケットを取り返した。
「じゃあ、そう言うことで」
そしてそのまま席を立とうとした。
「ちょっと待ってくださいよ。行くんですか」
「行く」
「聴きに?」
「見に」
やっぱり。
師匠は俄然やる気が出たというように大袈裟に腕を回しながら「ようし。おしくら饅頭用の服に着替えてこないとな」と言った。
ことお化けが絡むと本当にイキイキとしてくるから不思議なものだ。
「僕も一緒に行って良いですか」
「いいけど、チケット一枚しかないよ」
チケットには前売り千二百円、当日千五百円と書いてあった。プロのアーティストのコンサートに比べれば安いものだ。
「自分で出しますから」
「そうか。御主もスキモノよの」

364:M.C.D.  ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:44:07.07 93PkLSJW0
師匠は上機嫌で集合時間を決めて、「遅れんなよ」と言った。


陽が落ち始めた路上で、僕はライブハウスの外観をぼんやりと見ていた。
入り口のあたりには、ライブ情報などのポスター類が所狭しと張り出され、何度も剥がしたような跡がそこかしこに汚らしく残っていて、けっして悪い意味ではなくなかなか雰囲気のある趣だった。
さっきまで路上にたむろしていた大勢の若者たちが、十八時三十分のオープンと同時にその箱の中に次々と吸い込まれて行き、そんなに沢山入れるのかと心配になった。
時計を見ると、あと十分で開演だ。あんなことを言っていた師匠の方が遅刻しているじゃないか。
満員で入れなくなったらどうしてくれるんだろう。
対バンではなく、ワンマンライブだという時点でそこそこ人気のあるバンドなんだろうとは想像できたが、こんなに客がいるとは思わなかった。
結局、師匠がライブハウスの前に姿を現したのは開演五分前になってからだった。何故か手にはわたあめを握っている。
「どこでそんなもの買ったんですか」
「うん」
答えになっていないが、とにかくわたあめを食べ終わり、割り箸を入り口のそばの灰皿兼ゴミ箱に投げ込んで、「じゃあ行くぞ」と言う。
なんてマイペースな人だ。尊敬してしまう。
ドアの中に入ると、なんとも言えない喧騒が耳に飛び込んできた。ああ、ライブハウスだなあ、という至極当たり前の感想が浮かぶ。
師匠が受付でチケットを渡すと、ドリンク代が別に五百円かかると言われ、「込みじゃないのか」とごねたがダメだったようだ。しぶしぶといった様子で五百円玉を出し、ドリンクチケットを受け取った。
僕の方は当日券とドリンク代で合計二千円を支払った。映画を観に行くことを思えばこんなものか、という気もする。
受付のすぐそばで物販をやっており、『M.C.D.』のロゴが入ったTシャツが売られていた。
こういう物販はもっとメジャーなアーティストがライブをする時に売っているものだと思っていた。地元のアマチュアバンドのはずのなのに、自分たちで作ったのだろうか。
「おい、もう始まるぞ」
師匠はさっそくドリンクカウンターで交換したビールを片手に、会場の方へ向かおうとしていた。


365:M.C.D.  ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:46:31.10 93PkLSJW0
しかし会場内はあまり広くなく、客でごった返しており、飲み物を手にした状態であの中へ入って行くのは危険な感じがした。
カウンターの中の人に訊くとライブ終了後でもドリンクは交換できるというので、僕はとりあえず後にして師匠を追った。
ライブハウスなので当然オールスタンディングだったが、前の方は特に人口密集地帯となっており、今からあそこへ潜り込むのは至難の業のようだった。
「前回はかなり前の方に並んでたから、人の波に乗って最前列に行ったんだよ。そのせいでおしくら饅頭に巻き込まれたんだ」
だから今日は後ろの方でいいや。
師匠がそう言った時、会場内の照明が落ちた。と、同時に一斉に大きな歓声が上がった。バンドのメンバーが登場したのだ。
背の高い長髪の男が、歩きながらライトを浴びてにこやかに客席に手を振っている。他のメンバーもその後について袖から現れたが、揃ってフレンドリーさの欠片もない殺伐とした雰囲気をまとっていた。
「あのロンゲがボーカルだ」
いかにもそんな感じだ。なかなか男前なのだが、笑顔の下の切れ長の目はどこか冷たく、すべてを見下しているような、そんな印象を受けた。
ヤバそうなバンドだ。
直感でそう思った。
客層もコアな感じで、ごついピアスをしていたり、髪がツンツン立っていたり、鋲打ちのライダージャケットに下はチェーンをジャラジャラ巻いたパンツといういでたちだったりと、やはりパンクファッションをしている人が多かった。
そんな中にちらほら高校生らしい制服姿が混ざっている。
「どのメンバーが知り合いなんですか」
僕が横に向いて訊ねると、師匠は誰かにぶつかられて服の胸のあたりに撒けてしまったビールを「マジか、くそ」とハンカチで拭いているところだった。
「強姦殺人前科一犯って感じのやつだよ」
俯いて服をこすりながら、前を見もせずにそういう返事が返ってきた。
強姦殺人前科一犯か……
「全員やってそうなんですけど」
ボーカルの他も、みんな危険な香りが漂っていた。


366:M.C.D.  ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:48:14.57 93PkLSJW0
まずギターがスキンヘッドの男で、その深く刻まれた眉間の皺はとても堅気の人には見えなかったし、ベースは顔のほぼ下半分を覆う白いマスクをしている痩せた男。
メイクなのかも知れないが、彼には目の辺りに物凄いくまがあり、病的な感じを受けた。そしてドラムは鋭い目つきをした筋肉質の大男で、何故か最初から上半身裸だった。
首筋に龍のような模様のタトゥーをしている。
その彼らに対して集団ヒステリーのような歓声がひたすらぶつけられている。異様な雰囲気だ。
「かなり久しぶりのライブらしい。このあたりじゃ伝説のパンクバンドらしいぞ」
師匠の耳打ちに返事をしようとするが、あまりの喧騒にかなり顔を近づけないと聞えそうになかった。
「仕事なんかしてなさそうなのに、どうして活動してなかったんですか」
「あのボーカルとベースが交互に警察のご厄介になってたらしい」
警察……
急に身の危険を感じた。この閉鎖空間に満ちる興奮状態に、逆に腹の底が冷えていくような感覚がある。
「ボーカルのロンゲは喧嘩っぱやいヤツらしいから、傷害だったかな。ベースのテロリストみたいなマスク野郎はクスリだ」
今日もキメて来てるんじゃないか? そんな目つきだ。
「あとドラムの放浪癖。この三人のせいで、ほんとにたまにしか活動できてないっぽい」
「ギターの人は?」
「あのハゲは良い人らしいぞ」
このメンバーの中で良い人ポジションということは、その分相当に苦労しているのだろう。そう言われてみると眉間の皺は、ヤクザのような凄みというよりは哀愁を漂わせているような気がしてくる。
メンバーが全員配置につくと、MCなしでさっそく曲に入った。
いきなり目が覚めるような乱れ打ちドラムソロから入り、ボーカルのシャウトと同時にギターが吼えた。
そして割れるような歓声。
歌は英語だ。知らない曲だったので、オリジナルなのかコピーなのかは分からない。観客は前方に殺到し、みんな身を乗り出して、異様な興奮状態だ。ステージとの間の鉄柵から無数の手が空間を掴もうとするかのように伸ばされている。

367:M.C.D.  ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:50:46.43 93PkLSJW0
僕らは人口密度の低い会場の一番後ろの方にいたのに、それでも周囲で飛び跳ねている人たちに何度も足を踏まれた。そのテンションバーストについていけないと、この場から逃げ出したくなってくる。
わけの分からないうちに一曲目が終わり、すぐに二曲目が始まった。
突き刺さるような激しいギターリフにボーカルの扇情的な声が乗っかり、それに反応した人々と、ホール全体がぐわんぐわんとタテに揺れているような錯覚に陥る。
ステージの前はすでにモッシュ状態だ。歓喜の悲鳴なのか、押されて鉄柵に挟まれ痛くて上げている悲鳴なのか分からないが。男も女も両手を振り乱して喚いている。
「え?」
その、押し合い跳び跳ね回っている連中のあいだに、僕はふと違和感のあるものを見た。
顔だ。
顔が見えた。
熱狂の狭間に、張り付いた氷のようなもの。
激しく動いている人々の背中と背中の間に、ほんの一瞬こちらを向いている顔を見たのだ。それは最前列付近にいるのに、ステージに背を向ける格好で顔をこちらに向けていた。蒼白く、そしてとても冷たい目をしているような気がした。
隣の師匠の肘をつつく。
なんだか嫌な感じがした。
「分かってる」
師匠は短くそう言うとビールを飲み干して紙カップを握りつぶした。そして躊躇なく前へ行こうとする。
しかし前方には人の壁が出来ており、そこへ身体をねじ込んでいくのは至難の業だ。僕も後に続いたが、肘打ちの嵐の中でもみくちゃにされ、ちっとも進めない。
割り込みを怒鳴られ、師匠が負けじと怒鳴り返す。
足を何度も踏まれた。爪先が痛い。親指の爪が割れたかも知れない。
瞬間、ぞくりとした。耳になにか違和感のあるものが入ってきた。
歌だ。
二曲目も英語の歌だったが、ボーカルの透き通った声に被るように別の歌が聴こえた。
周囲の観客も曲に合わせて歌っているが、そんな声とは全く違う。ホールのスピーカーを通した声だ。ボーカルの歌と同じ地平の。
何小節か後で、また聴こえた。明らかに今のボーカルとは別の声だ。
それに少し遅れる形で、ざわっという驚きのような衝動が前方から順に流れてくる。
混線?


368:M.C.D.  ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:52:32.68 93PkLSJW0
いや、違う。違うと思う。あまりに鮮明な音だからだ。
ダーク……
ざわめきの中にそんな悲鳴が聞こえる。のけぞって耳を塞いでいる人もいた。
ダーク。
すぐ隣の人が呻いた。
なんだ、いったい。
僕は師匠の方を見た。周囲のタテ乗りが凍りついたように止まり、その人の壁に身体を半分挟まれたまま身動き出来なくなっているようだ。
ステージの方に目をやると、ボーカルがきょとんとした顔をしてマイクを口から離した。その瞬間、ぞわっとするような得体の知れない声がホール中に響いた。
日本語だった。今度は音が割れ、内容はよく聞き取れなかった。
恐慌が。
起ころうとしていた。それだけは分かる。
恐怖に腹の底が冷えた。辺り一面から悲鳴が上がる。わけの分からないままとっさにその場を引こうとする。
同じようになにが起こっているのか分からないらしい女性が、隣の連れらしい男の袖を引いている。その男は両手を突き出して喚いた。
その男や他の周囲の人間の悲鳴を解読すると、その内容はこうだ。
レベルダークのボーカルの声が聴こえる。数ヶ月前に泥酔して自動車を運転し、事故を起こして死んだはずの男の声が……
レベルダークというバンドはこのライブハウスのかつての常連で、M.C.D.とも何度か対バンをしていたらしい。だが、確かにそのボーカルは死に、とっくに解散してしまっていると言うのだ。
いつの間にか曲は止まっている。ステージの上のメンバーたちは戸惑ったように自分たちの周りを見回している。
また聴こえた。
マイクは驚いたボーカルの手から床に落ちている。なのに歌が聴こえる。
悲鳴が連鎖していく。
まずい。
背筋に冷たいものが走る。この状態でパニックになれば無事では済まない。
師匠の服の背中のあたりを掴んで、挟まれた人の壁から引き抜こうとする。早く逃げないと危険だ。焦って指先から布地が抜ける。また掴もうとする。
その時だ。
ドラムセットに座っていた男が急に立ち上がり、ステージから飛び降りた。

369:M.C.D. ラスト  ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:54:48.35 93PkLSJW0
凄い形相で、最前列にいた観客に向かってなにごとか叫ぶ。その剣幕にたじろいでその周辺の人壁が割れた。
ドラムの男は鉄柵を越え、そこへ飛び込んでいった。そして人々の群を掻き分けながら斜めに進み、壁際にたどり着いた。僕から見て、右手前方だ。
その壁際に張り付くように、一人の男性の姿があった。その横顔には見覚えがあった。
二曲目の冒頭、あの違和感を感じた時の顔。一人だけステージではなく客席の方を向いていたあの蒼白い顔だ。
その顔が一瞬、怯えたように歪む。
しかし次の瞬間、その顔があった場所に黒い突風のようなものが叩きつけられた。破壊的な音がして、天井の照明が揺れた。
ドラムの男が殴ったのだ。蒼白い顔を。いや、殴ったのは壁だ。顔は消えている。
消えた?
壁際にいた人間が一人、消えてしまった。
いや、人間ではなかったのか。
立ち尽くす僕の目の前で、人の群が逆流を始めた。われ先にとみんな出口へ向かって逃げて行く。その中でもみくちゃにされながら、僕はなんとかその場に留まろうとする。なにが起こったのか。それが知りたくて。
嵐のような時間が過ぎ、気がつくと僕の目の前には師匠の背中があった。
もう人の壁はない。
師匠はゆっくりと、前方の壁際に進む。
「夏雄」
そう呼びかけながら。
ドラムの男は、自分の右拳を見つめている。拳の先から肘の辺りまで血が滴っている。壁にはその破壊の痕跡として大きな穴が残されている。凄まじい光景だった。
男は拳から目を離し、師匠を見てにやりと笑う。見上げるような長身だ。シャツ一枚身に着けていない上半身には鍛え抜かれた筋肉が張り付いて、蒸気のような汗が立ち上っている。
そいつが師匠にチケットを渡した男だ。
それが分かった。
心臓が冷たく高ぶる。どうしようもなく。
こいつに、勝たなくてはならない。
僕にはそれが分かったのだった。


370:ウニ ◆oJUBn2VTGE
12/01/02 23:56:30.73 93PkLSJW0
日夜、テスト用のスレに「ninja!」と叫び続けてようやく一人前の忍者になれました。
おやすみなさい。

371:本当にあった怖い名無し
12/01/03 00:00:04.40 yi9WGwEg0
おつかれちゃん。
未の続きにも期待。

372:本当にあった怖い名無し
12/01/03 00:01:14.97 vSYXgFDzO
ウニさんありがとう!乙でした!また待ってます

373:本当にあった怖い名無し
12/01/03 00:02:49.64 h7lK/1nd0
うおお大量
とりあえず乙 今から読ませて貰いまっせ

374:本当にあった怖い名無し
12/01/03 00:15:54.57 44H1JoZF0
途中で秋田
おやすみ

375:本当にあった怖い名無し
12/01/03 00:23:02.11 b037L7Ud0
どんどん詰まらなくなる才能に関心します

376:本当にあった怖い名無し
12/01/03 01:36:26.01 hqwdhgBw0
ウニさん、ありがとだってばよぅ!

377:本当にあった怖い名無し
12/01/03 01:51:55.08 HlyNKrGt0
なにこれ…

378:本当にあった怖い名無し
12/01/03 08:14:02.99 hqwdhgBw0
2作品

379:本当にあった怖い名無し
12/01/03 08:36:56.71 Wxy5MwYTO
ちょっと酷い出来だな。大丈夫?

380:本当にあった怖い名無し
12/01/03 09:31:16.52 1/Rrn9X80
ウニさん可愛い

381:本当にあった怖い名無し
12/01/03 10:23:51.13 1b3BhLV60
ウニさん乙。

久しぶりなんで、涙でた。

382:本当にあった怖い名無し
12/01/03 12:57:31.02 hqwdhgBw0
未2がpixivにきているらしい

383:本当にあった怖い名無し
12/01/03 13:02:12.42 44H1JoZF0
儲か儲のふりした本人かしらんけど宣伝乙…

384:本当にあった怖い名無し
12/01/03 16:02:29.84 1/Rrn9X80
何か↑みたいな常に何かと戦ってる奴最近ホント多いよなあ

385:本当にあった怖い名無し
12/01/03 16:13:33.97 b037L7Ud0
何か↑みたいな常に何かと戦ってる奴最近ホント多いよなあ

386:本当にあった怖い名無し
12/01/03 16:27:33.27 XLqfSKsR0
>>370
>日夜、テスト用のスレに「ninja!」と叫び続けてようやく一人前の忍者になれました。
長文投下できてるやんと思ったらそんな苦労が…;;
色々な意味で乙

387:本当にあった怖い名無し
12/01/03 17:11:42.87 phnEAljc0
今年のトップはウニ氏か
乙でした

388:本当にあった怖い名無し
12/01/03 19:35:53.36 0KHeN9n80
なんでいつまでこんなスレに投下してんだよ・・・・
専用スレに移れって何回も言ってんだろ。はっきりいってウニのせいでこのスレ保守するバカが居るんだよな
まとも作品が投下されたのって何ヶ月ぶりなんだよ(赤緑含む)
このスレがたって3ヶ月、まともなのはたった2作品だぞ
とっとと落とせよこんなスレ

389:本当にあった怖い名無し
12/01/03 20:42:53.90 5uGn0nrQ0
むしろ何回も言われてて何で移らないのかを考えたら?

390:本当にあった怖い名無し
12/01/03 20:45:01.45 esqF3AZY0
ウニ乙

>>388
君がこのスレから消える、という選択肢はないのかね?

391:本当にあった怖い名無し
12/01/03 21:39:20.56 b037L7Ud0
>>390
寧ろ君がこのスレから消える、という選択肢はないのかね?

392:本当にあった怖い名無し
12/01/03 22:01:16.33 1/Rrn9X80
頑固なウニさんも可愛いお (^p^)

393:本当にあった怖い名無し
12/01/03 22:27:54.30 FuTrJZI40
>>388は何しに来てるの?
まあどうでもいいやw
ウニさん乙!

394:本当にあった怖い名無し
12/01/04 11:18:08.12 HJqm9vXV0
黒さに驚いた
何事かと思ったらウニだった


395:390
12/01/04 22:33:32.11 WiStwI3v0
>>391
え?なんで?
俺このスレ好きだしそんな選択肢必要ないけど?

396:本当にあった怖い名無し
12/01/05 01:14:16.05 YR2pz71z0
ここに居るのが全員ウニ待ちだと思ってるならちょっと傲慢だな

397:本当にあった怖い名無し
12/01/05 10:59:36.83 MkYM5RJa0
ウニ乙
未もMCDも続きそうでwktk
ってか未が始まってもいなくてフイタw

398:本当にあった怖い名無し
12/01/05 13:47:47.31 gJzC50Kn0
というか、本当にウニだけを待ってるならPixivで見てると思うの

399:本当にあった怖い名無し
12/01/05 19:02:37.00 BKlr+v4C0
俺はシリーズ物を待っている

400:本当にあった怖い名無し
12/01/06 03:15:10.32 26XBx1Xg0
自分もマサさんシリーズを待っている

401:未 本編2 ◆oJUBn2VTGE
12/01/07 22:17:16.64 HrRb/QUY0
『とかの』に帰り着いたとき、腕時計を見ると午後四時半を回っていた。
旅館の玄関から中へ向かって楓が「ただいま」と声を張り上げる。少しして女将がフロントの奥から姿を表した。
「どうでしたか」
「いやあ、期待はずれですね」
師匠は明るくそう言って、山の上からの景色についてしばらく女将と語り合っていた。僕は地滑りの跡で見つけた石についてどうして黙っているのだろうと疑問に思った。
その師匠の横顔がスッとこちらに向き直る。
「おい、次を見に行くぞ」
「え」
まだどこか行くんですか。
師匠は女将にこのあたりの道を尋ねている。
つい、つい、と袖を引かれた。楓が耳元に顔を寄せてくる。
「なに」
「あの人ほんものなの?」
「なにが」
「霊能力者」
まあ確かにここまでは、まったくそれらしい所を見せていない。
「テレビに出てくるのとは違うけど、霊を見ることに関しては凄いよ」
霊感が強いだけの人なら他にもいるだろうが、師匠の本当に凄い所は、その見たこと、体験したことに対する料理の仕方なのだ。
それはある意味、探偵的と言えるかも知れない。つまり興信所の調査員であるこの今のスタイルで正解なのかも知れなかった。
「ふうん。まあいいや。で、付き合ってんの?」
いきなりすぎて吹きそうになった。
「助手だよ」
「それもう聞いた」
「まあいいじゃないか」
ああ。やってしまった。明確に否定しないという、見栄。
軽い罪悪感に襲われていると、二人でひそひそやっているのが気になったのか、和雄が「なになに」と近づいてくる。
「よし、行くぞ」
師匠に服を掴まれる。軽く引きずられながら「どこへ?」と訊くと「この旅館の周辺の調査」

402:未 本編2 ◆oJUBn2VTGE
12/01/07 22:22:21.36 HrRb/QUY0
ようするに散歩ですか。
という軽口が出そうになったが、クライアントの前なのでさすがに自重した。
「また案内したいですけど、ごめんなさい。これから用事があって」
楓が頭を下げる。高校時代の友だちとクリスマスイブパーティをするらしい。
それを聞いて、僕はようやく今日が十二月二十四日であることを思い出した。
思わず和雄の方を盗み見するが、「いいあなあ」などと余裕ぶっている。しかし内心はどうだか分からない。
「じゃあ、僕もそろそろ帰ります」
旅館の外に出ると、和雄もそう言って敷地の隅にとめてあったバイクに跨った。排気音とともに手を振りながら去っていく姿を見送る。
「あ~あ、かわいそうに、あいつ」
人ごとのようにそう言う師匠だったが、十二月二十四日という今日は僕らにも平等に訪れていることを分かっているのだろうか。
「日が暮れる前に行くぞ」
そう言って歩き出した。すでに日の光は西の山の端へ隠れつつあった。
それから小一時間かかって周囲を散策しながら枝川沿いに旅館へ来たときの道を逆に辿っていった。寂しい道で、あまり地元の人ともすれ違わなかった。
やがて道路沿いに背の高い金網で覆われた一帯が見えてくる。来たときに見た貯水池だ。周囲はすでに薄暗く、膨大な水量を蓄えた水面は輝きもせず、死んだようにひっそりとしていた。
金網のそばに看板があった。
『亀ヶ淵(かめがぶち)』という名前のこの貯水池は、応仁の乱の後に戦国武将が各地で覇権を競い始めたころ、この地に侵攻してきた高橋永熾(ながおき)が自身の勢力の新しい拠点として今の西川町一帯を封じた時に作ったものだそうだ。
枝川の水量が安定せず石高が伸びなかったこの地に、持参した地金を惜しげもなく投じて土木工事を行ない、巨大な水瓶を提供したのだ。
師匠はその看板の説明文を読み終えて、ぼそりと言った。
「問題の若宮神社は、この武将が開いたのかも知れないな」
「どうしてですか」

403:未 本編2 ◆oJUBn2VTGE
12/01/07 22:25:22.50 HrRb/QUY0
「若宮って名前のつく神社は、例えば大分の宇佐神宮を本宮とした場合、その御祭神である八幡神こと応神天皇の子、つまり御子神であるところの仁徳天皇を祀った神社のことだ。
あるいは、単に本宮から新たに迎えた御祭神という意味で若宮と呼ぶ場合もある。その場合は八幡神である応神天皇の分霊を祀っている神社ということになる。
いずれにしても、基本的には本宮ありきの神社なわけだ。そして本宮から新たな若宮を勧請してくるのは、国司やその地の豪族などの実力者と相場が決まっている。
戦国時代にあっては、その役割の中心を担ったのが……」
戦国武将というわけか。
高橋永熾が元々の勢力圏で信仰していた神社から、新たな支配地であるここへ、その御子神か分霊を勧請してきたということならば、確かにありそうだ。
「もう少し調べてみたいな」
いずれにしても、その若宮神社に行って宮司と話をしてみる必要があるだろう。時計を見ると、まだ六時だった。さっきその時間を告げる鐘の音が鳴ったばかりだ。訪ねて行けない時間でもない。
その息子である和雄と面識があるので、話も通しやすいだろう。
しかし師匠は少し考えた末、「また、明日にしよう」と言った。
とりあえず、その旅館に出るという霊とやらを見てみるのが先だということか。
「戻って、飯食おうぜ」
踵を返した師匠に、頷いてから後に続いた。
そう。それが気になってしょうがなかったのだ。旅館の夕食ということで、料理を期待しても良いのだろうか。それとも僕らは仕事で来ているのだから、「え? そちらの夕食は用意していませんが」とあっさり言われたらどうしよう。
近くに弁当とかパンを買える店があったかなあ、と思い悩みながら歩いた。
ようやく『とかの』に帰り着くと、玄関のあたりが妙に騒がしかった。見ると二十代半ばくらいの女性が四人、たむろしていた。
ああ、そういえば今日は僕らの他に二組、客がいるって聞いてたな。
「こんばんわ」
師匠は愛想よく挨拶をして旅館の中に入る。
「あ、こんばんわ」
出迎えた番頭の勘介さんに荷物を渡しながら、女性たちもこちらに笑顔を向けた。みんな暖かそうな服装をしている。仲良しOL四人組というところか。

404:未 本編2 ◆oJUBn2VTGE
12/01/07 22:28:24.18 HrRb/QUY0
それもクリスマスイブに温泉旅館に泊まるってことは、恋人のいない仲間同士ということだろう。
玄関を通り抜け、廊下の手前で師匠にそのことを囁くと、おもむろに腕時計を見て、その針を示しながら口を開いた。
「日没の後だから、『クリスマスイブ』の用法としては正しい」
まだこだわっているのか。
「あ、ちょうど良かった」
仲居姿の広子さんが僕らの前に現れて、手招きしながらフロントの奥へ入っていく。
「電話かかってきてるみたい」
事務所の電話をとっていた女将がこちらに気づいて、電話口に軽くお辞儀をしてから師匠とかわる。
受話器から声が漏れている。大きな声だ。
「お食事、お部屋にお持ちしますので、それまでおくつろぎください」と僕に言って、女将は忙しそうに事務所から出て行った。
師匠はうざったそうにあしらうような口調で話し終え、受話器を置いてから溜め息をついた。
「例の婆さん。この宿の馴染み客で、わたしを女将に紹介したひとだよ」
ああ、頼みもしないのに方ぼうへ師匠のことを宣伝しているという人か。
「万事任せておけば大丈夫だから、失礼のないようにしなさい、って女将に釘刺してくれたんだと。……他に余計なこと言ってないだろうな、あのばあさん」
そう言って苦笑する。
「自分も正月泊まりに行くから、幽霊退治よろしくな、ってさ」
それから部屋に戻ろうとすると、師匠が「ついでに電話するところがあるから、先に戻ってろ」と言う。
調査事務所の所長の小川さんに今日のことを報告でもするのだろうかと思い、あてがわれた二階の部屋に一人で戻った。
足を投げ出してテレビをぼんやり見ながら先に汗を流そうかと考えていると、広子さんがやって来て、隣の部屋を指さしながら言う。
「先、ご飯食べたいって言うから、あっちの部屋で、一緒でいい?」
師匠も部屋に戻ったのか。もちろん従うほかはない。
広子さんもその僕らの間の力関係というか、雰囲気を、すでに理解している様子で、一応確認というポーズを取っているだけのようだった。
その後、師匠の部屋にお邪魔し、テーブルに向かい合っていると「失礼します」と女将が広子さんを伴って入ってきた。


405:未 本編2 ◆oJUBn2VTGE
12/01/07 22:32:37.03 HrRb/QUY0
そして目の前に、色鮮やかなお膳が並べられる。
紹介してくれたお婆さんの口添えが効いたのか分からないが、期待以上の食事にありつけた。
山菜の天麩羅など山の物が多かったが、普段美味しいものを食べつけない僕ら貧乏学生にはどれも過ぎた料理ばかりで、二人とも何度もご飯をおかわりして給仕してくれた広子さんを呆れさせた。
師匠は最後に茶碗に残ったご飯にお茶を注ぎ、白菜の漬物を乗せてからかき込んだ。そしてようやく人心地がついた、という表情で箸を置く。
さすがに晩酌はなかった。師匠はそれが少し物足りなそうだった。しかしこれからが仕事の本番なのだ。
そこへ頃合を見計らった女将が部屋に戻って来た。
「いかがでしたか」
そう訊かれて、二人とも素直に料理を褒めた。温泉地としてはあまり有名ではないこの土地で、旅館を三代に渡って続けられているのもこうした付加価値があるからかも知れない。
「少し、いいですか」
師匠は改まった口調で女将に問い掛けた。
「はい」
女将は広子さんにお膳を片付けさせながら、着物の裾を綺麗に整えながらテーブルの脇に正座をした。
そんな風にされるとこちらも落ち着かず、僕は思わず座布団の上に正座で座りなおす。師匠は気にしない様子で、あぐらをかいたまま女将に話しかけた。
「若宮神社は、この先の貯水池を作った高橋永熾が勧請した神社ですか」
「ええ。そう聞いております」
高橋家はその後、息子の代で別の戦国武将に攻め滅ぼされたのだそうだ。それ以来、この地は徳川幕府が開かれるまで、何度も支配する武将が変わっていった。
すらすらと喋る女将からのその言葉の端々から、かなりの教養のほどが窺える。
感心しながら聞いていると、師匠は少し考えるそぶりを見せた後、話題を変えた。
「この裏山ですが、もしかして大規模な土砂崩れが起きたことがあるんじゃないですか」
女将はハッとした表情を見せる。
ついさっき、山から戻って来て「期待はずれでした」なんて言っていたくせに、結局訊くのか。
それにこの部屋で仕事の話をすると主客が逆転してしまう、なんて言っていたのに、もうめんどくさくなったのか。
半ば呆れながら師匠と女将の会話に耳を傾ける。

406:未 本編2 ◆oJUBn2VTGE
12/01/07 22:36:44.05 HrRb/QUY0
「ええ。私が小さいころですから、もう三十年以上前になるでしょうか。このあたりに記録的な大雨が降ったことがございまして……」


降り止まないどころか、ますます勢いを強くする雨に、子どもながらなにか大変なことが起きているということは分かったのだそうだ。
その日、折からの大雨のために『とかの』に客はいなかったのだそうだが、旅館中をみんながバタバタと落ち着かずに動き回り、夕方ごろには父親と、まだ健在だった祖父とが血相を変えて「裏山を見てくる」と雨具を被って出て行った。
近くの他の家からも大人が何人か雨の中に出てきて、山の方へ向かったようだった。
恐る恐る玄関から外を見ていると、滝のように轟々という音を立てて降ってくる雨の中から「川には近づくなよ」という誰かの声が混ざって聞こえた。
しばらくすると、ふいに地響きのような音が雨空に唸りを上げた。それは耳を塞いでも聞こえてきた。恐ろしい音だった。
住み込みの男性従業員が「崩れたんじゃないか」と叫んで、雨の中に飛び出していった。
父と祖父のことが心配で、気がつくと自分も外に出ていた。バケツをひっくり返したような大粒の雨が絶え間なく上空から落ちてくる。その雨の中を合羽も着ずに走った。視界は悪く、片手で額を覆っても目を開けることが困難だった。
山の方から大人たちの大声が聞こえてきた。「崩れた」「危ない」という言葉が聞こえた。
その中に、父と祖父の声もあって、ホッと胸を撫で下ろした。
安心すると、「見つかったら叱られる」ということに気がつき、「早く戻らないと」と引き返そうとした。
その時、ふいに桜の木のことが頭に浮かんだ。枝川の土手にある桜だ。土手の壁面から斜めに生えていて、増水した時には根元が水に浸かるんじゃないかといつも心配していた。
思わず川の方へ足を向けた。
降りしきる雨の中、目を凝らしても桜の木は見えなかった。このあたりのはずなのに。流されてしまったのだろうか。
土手に近づいて川の方へ目をやると、今までに見たこともないような濁流がうねりを伴って川上から川下へと流れていた。
恐ろしくて足が動かなかった。雨音と川の奔流の音で耳が痛い。
全身を鉛のような雨粒に叩かれながら、猛り狂う川の流れから目を離せないでいると、狭い視界の端に、不思議なものが映った。


407:未 本編2 ◆oJUBn2VTGE
12/01/07 22:39:53.29 HrRb/QUY0
物凄い速度で流れていく泥水の中に、真っ黒い動物の身体が見えたのだ。その胴体は途方もなく長く、波打っていて、濁流に乗り目の前を通り過ぎようとしていた。
蛇だ。
それも、胴だけで一抱えもある、とてつもない大蛇。その身体が怒り狂うようにうねりながら大雨と濁流の中を流れて行く。
息を飲んでその行方を見守る。遥か彼方へその姿が消え去ってもしばらくその場を動くことができなかった。
「なにしてる、こんなとこで」
怒鳴り声とともに祖父に手を掴まれた。なかば引き摺られながら『とかの』に向かっている間、「おじいちゃん、蛇が、蛇が」と喚いた。
祖父はギョッとした顔をしたが、「変なことを言うんじゃない」と叱りつけた。
『とかの』に戻ると、祖父がここは危ないので小学校へ避難すると宣言し、全員で雨の中を逃げた。
その間中、自分の頭の中には、のたうつ大蛇が川を流されていく姿が何度も繰り返されていた……


語り終えた女将は、我に返ったように慌てて「おかしなことを申しました。子どものころに見た幻でございます」と付け加えた。
師匠は興味津々という顔で、「その後はどうなりました」と尋ねた。
「ええ。幸い、山が崩れたのは川側の方だけでして、結局旅館の方は大丈夫でした。その後、役場が委託した調査会社の方が調べたところによると、今後また万が一土砂崩れがあっても、やはりこの『とかの』の方へは崩れてこないということでしたので、ご安心ください」
ちゃんと、忘れずにフォローもしている。なかなか抜け目ない人だ。悪い噂などどこから広がるか分からないのだから。
「その、大雨の日の土砂崩れの前にも、やっぱり裏山には神社の跡などはなかったんですね」
「ええ。なかったはずです」
「わかりました。ありがとうございます」
師匠はあっさりとそう言うと、女将の祖父のことや先代である父親のことをあれこれと訊いた。
祖父はもちろんだが、父親も母親ももう亡くなっていた。そして入り婿であった女将の夫、つまり楓の父親も十年ほど前に病気でこの世を去ったのだそうだ。

408:未 本編2 ◆oJUBn2VTGE
12/01/07 22:42:28.81 HrRb/QUY0
師匠はこの戸叶家の事情をおおよそ訊き終えて満足したのか、最後に「では、今夜はわたしと、この助手とで夜中じゅう、交代で番をします」と言った。
他の客が寝静まってから、これまでに神主の霊の目撃が多かった場所を中心に見張るというのだ。
「もしそれまでに出たら、とにかくすぐにわたしに知らせてください」
女将は、「従業員もすべて承知しておりますので、よろしくお願いします」と言って頭を下げた。
お茶をいれなおしてから女将が部屋を出て行った後で、師匠はニヤリと笑って言った。
「こいつは、カナヘビちゃんだぜ」
カナヘビ?
なぜここでカナヘビが出てくるのか。
その意味を訊いても、はぐらかすように「風呂風呂、風呂に入ろう」と手を叩くだけだった。

           ◆

「ねえ、あれ彼氏?」
「違うよ」
「うそぉ」
「まじで」
……
そんな黄色い声が頭の向こうから聞こえて来る。
露天風呂だった。
和雄の言うとおり、広々としていてなかなか良い湯だ。そんな所を一人で占拠するのはなんとも言えない良い気分だった。
岩に頭をもたせ掛けて空を見上げていると、ざぁー、と身体を流す音が遠くから微かに聞こえる。頭の先には竹を組み合わせた壁があり、その向こうには女性用の露天風呂があるはずだった。
湯気が夜空に上っていき、澄んだ空気の果てにある星をゆらゆらと隠していく。
寒空の下、顔は冷たいのに、身体だけは温かい。いつもはシャワーばかりでお湯につかるという習慣がない僕だったが、こういうのもたまには良いものだ。
「ねえ、ほんとに彼氏じゃないの」
「ほんとだよ」


409:未 本編2 ◆oJUBn2VTGE
12/01/07 22:44:48.00 HrRb/QUY0
消極的な見栄を張った僕とは大違いだ。
ズルズルと背中を滑らせ、そのまま頭の先まで湯の中に沈み込んだ。頭の芯まで熱が入り込んでくる。
「彼氏じゃないのに、旅行してんの?」「なんかそっちの方がやらしい感じ」などという声が水を通して聞こえてくる。
師匠はさっそくOL四人組と仲良くなったようだ。師匠は今二十四歳のはずだから、同い年くらいか。
そうだよな。普通なら働いている年齢なのだ。それどころか子どもがいてもおかしくない。
湯の中に沈みながら、一人でそんなことを考えている。
師匠からはあまり、大人の女、という感じを受けない。子どもがそのまま大きくなったようだ。
なんだっけ。生物学上で、こういうのを。ウーパールーパーとかサンショウウオがそうだよな…… 思い出した。ネオテニーだ。幼形成熟、だったっけ。
まあ師匠の場合、あくまでその性格上の話だが。
頭の中でサンショウウオの姿がぐねぐねと変形し、図鑑で見たカナヘビの姿に変わった。
こいつは、カナヘビちゃんだぜ。
湯から顔を出して、師匠の言葉を反芻する。
女将が見たという大蛇はなんだったのだろう。あの枝川にはそういう『主』の言い伝えは特になかったそうだ。では一体?
大雨。土砂崩れ。大蛇。
あの裏山で師匠が見つけた石に刻まれていた不思議な雨冠の漢字となにか関係があるのだろうか。
そしてそれはこの神主の霊が出るという事件と関係があるのだろうか。
真剣に考えを巡らせていると、また女湯の方から嬌声が上がった。
「もうヤったの?」
「やってないよ」
「うそぉ」
「まじで」
動揺した僕は湯の底についていた手を思わず滑らせてしまった。バシャンという音が立つ。
「ねえ、隣で聞いてるんじゃない」竹で編まれた壁の向こうからの声。続いて、キャーキャーという笑い声。
もう出よう。

410:未 本編2 ◆oJUBn2VTGE
12/01/07 22:48:29.33 HrRb/QUY0
僕はいたたまれなくなって露天風呂から上がる。ドアを開けて大浴場の方へ戻ると、頭の禿げた父親と小学生くらいの息子が身体を洗っていた。もう一組の泊り客の家族だ。
「こんばんわ」と挨拶をして脱衣所へ向かった。
出なかったな。
和雄が神主の霊を見た、という露天風呂だったがそれらしい姿も気配も、なにもなかった。
浴衣に着替えから廊下に出て、「湯」と書かれた暖簾の前に置いてあった藤製の長椅子に腰掛けて、なにをするでもなく、ただ湯あたり寸前にまで火照っていた身体を冷ましていた。
しばらくぼうっとしていると、師匠を含めた女性陣がもう一つの「湯」と書かれた赤い暖簾の下からわらわらと出てきた。
「あ、やっぱりいた」
なにがやっぱりなのだ。
OLたちはあっちに卓球台があったから、みんなでやりませんか、と誘ってくる。
あ、いいな。卓球は久しぶりだ。温泉に来るとどうしてこんなに卓球をやりたくなるのだろう。
その騒々しい一角に、タオル類を満載した台車を押している勘介さんが通りがかった。
じっとりと睨むような目つきで僕らのそばを通り過ぎる。
『観光気分か……!』
そう詰られたような気がした。
「ああ。ええと、わたしたちは遠慮しとくよ。な」
師匠に話を振られて「はい」と返事をする。
「じゃあさっきお願いしたとおり、オバケっぽいのを見たら教えてね」
師匠はOLたちに手を振りながら僕を引っ張っていく。
それから僕らはまた旅館中を視察して回った。中庭や裏の駐車場を含めて見て回ったのだが、昼間と同じで特に異変は見当たらなかった。
仕方なく一度師匠の部屋に戻り、なぜか備え付けてあった将棋盤を見つけたので二人でパチリパチリと指しながら、今日あったことを確認する。
「なんなんでしょうねえ、神主の幽霊って」
「さあなあ。見てみないことにはな」
「あの、裏山の石に書かれていたっていう漢字となにか関係があるんですか」
「さあなあ」
師匠は気のないような素振りで情報を秘匿していた。明らかになにか掴んでいるような感じなのだが、いつものようにもったいぶっている。

411:未 本編2 ◆oJUBn2VTGE
12/01/07 22:51:31.04 HrRb/QUY0
「おい、これちょっと待った」
「二回目ですよ」
「いいから」
溜め息をついて、銀が元の位置に戻るのを見逃す。勝負に熱くなってきて前のめりになった師匠は膝を立てて身体を前後に揺すり始める。僕はとうに勝負の見えている将棋よりも、その浴衣の裾が気になって仕方がなかった。
そんなことをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。返事をすると広子さんがお盆にケーキを乗せてやってきた。
「残ったから、あげる」
そして、あたしもう寝るから頑張ってねえ、と言いながら去っていった。
クリスマスケーキが二切れ。師匠は脳天から真っ二つにされたサンタクロースの半分が乗っかっている方を取った。硬そうな砂糖菓子なので、切る過程でかなり胴体が生地にめり込んでいる。
それから師匠が紅茶を淹れて乾杯をした。
メリークリスマス。
今ごろ街を華やかに彩っているであろう、赤と白の二色とは縁遠い、地味な和室の中だったけれど、少しだけ気分が出た。素直に広子さんに感謝する。
ケーキを食べ終わると師匠は言った。
「さきに寝ろ」
朝まで交代で番をするから、と。
時計を見ると夜の九時だった。師匠の案では九時から日付の変わった深夜二時までの五時間が師匠の番。そして二時から朝六時までの四時間が僕の番ということだった。
「僕は別に徹夜でもいいですよ」
そう言ってみたのだが、「一晩で済むとは限らない。いいから先に寝ろ」との仰せ。
「わかりました。でもどうして僕の番が六時までなんです」と訊くと「ここは時の鐘が鳴るって言ってたろ」と返された。
そう言えば、訊き込みをしていた時に女将か誰かがそんなことを言っていた気がする。貯水池を見に行っている時にもその鐘の音が鳴っていた。
今のような時計のなかった時代には、庶民が時刻を知るために時の鐘と呼ばれる仕組みがあった。寺や神社の鐘つき堂などで毎日決まった時間に鐘がつかれるのだ。
明け六つであれば六回、昼九つであれば九回という具合に。それを聴いて、人々は仕事や生活の区切りとしていた。


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