12/08/24 20:10:08.21 0
金持ちゆえに受けた精密検査で、『妊娠する能力がない』と医者に宣告された、伊織。
はじめは「そう…」と意外に落ち着いていたように見えたが、
それはあまりのショックの大きさに、取り乱すまいと心に鍵をかけたただけであった。
数日後。天蓋つきベッドに横になり、ふと気がゆるんだ瞬間、全てを実感する。
愛しく思う人と、子をもうけ、幸せな家庭を築く……
……そんな少女なら誰でも見る夢が、叶わないのだ。
家族の温かみにあふれた高槻家を思い出す。“いくらお金をつんでも手に入らないモノ。”
広い寝室、ぬいぐるみをギュっと抱きしめ。いおりんは泣きじゃくっていた。
……思えばあれから、肉親の態度は目に見えて冷ややかになった。
兄たちはイケメンで有能で女をとっかえひっかえできるというのに、伊織ときたら。
一族の繁栄に人並みに貢献することすらできやしない、役立たず。ワガママ。デコ。
ぬいぐるみ離れできない精神年齢4歳児。
自暴自棄になるいおりん。
「アンタ私のプロデューサーでしょ! スーパーアイドル伊織ちゃんが、女の子として
機能ができそこないなんて知られたらスキャンダルよ! 私が『ちゃんと子供つくれる』
って、あんたが証明なさいよ!」
つきつけられた冷酷な現実を否定するため、否、逃避するため、ついにプロデューサーとセックス。
暖かみを求めて。あんな診断は嘘だ、絶対子供をつくってやるんだという執念を込めて。
いつでも、どこでも中だしエッチ解禁である。車の中で。楽屋で。障害者用トイレで。事務所で。
始めはPと結ばれたことだけで心が満ちる伊織だが、
毎週、毎日妊娠検査薬を試してもちっとも陽性にならない。
「ちゃんと精子全部私に出してる? オナニーなんてしてたら許さないんだから。
検査薬が悪いのかしら……あんた、もしかして種無しなんじゃない?」
Pを無理矢理勃たせるため、テコキをしながら伊織が目をほそめる。
そんな爛れた生活は、やがて当然のなりゆきとしてマスコミにばれ、伊織はアイドル引退に追い込まれる。
輝かしい未来どころか、現在のアイドルとしての自分も失った伊織。
なんとかPは水瀬家に食い下がって、伊織の婚約者の地位は手にいれたが。
二人の愛の結晶は、永遠に授かることはないのだ。
親に与えられた広い屋敷、お金と自由。自分を理解してくれる王子様。
でも、決して羽ばたけなかった。
親のコネで芸能事務所に入れてもらって、最高のプロデューサーがついたのに、
歌番組では80位程度をうろちょろするばかり。
「やよいと比べて、惨めすぎるじゃない。あの子は親がなにもしてくれなくたって、
私と同じプロデューサーで、トップアイドルになったのに」
悲しみと絶望で ますますおかしくなってしまういおりん。
――数ヶ月後、トップアイドル・高槻やよいが突如失踪する。
そう。いおりんは結局、やよいを監禁して、ハラを借りてPとの子をもうけることにしたのであった。