12/07/28 15:02:09.82 0
「なあ、春香……。」
不意に、プロデューサーが口を開いた。
「あの時……ミュージカルの、練習の時……オレに何か言おうとしてたよな……。あれは、何の用だったんだ……?」
この言葉に、ようやく春香は笑った。さびしく、そして悲しげな笑顔だった。
「あはは……。あれは、本当になんでもないんです。もう、済んじゃいましたし」
あの時。あの時は、ただ、さびしかった。みんなの気持ちが、みんなでいることから離れていくのが。
自分だって、何の覚悟もしていなかったわけじゃない。
人気が出て、有名になって、お仕事をいっぱい貰えるようになれば、それだけ忙しくなって、みんなで集まれなくなるのは仕方のないこと。
みんなで一緒に、海に遊びに行ったりクリスマス会を開いたりできることのほうが、本当はおかしなこと。
いつかは、そんな時間にさよならを言わなきゃいけないんだって、思っていた。
でも、その時が来るのが、あまりにも早すぎて。それを受け入れられないわたしって、間違ってるんだろうかって不安になって。
その不安な気持ち、さびしい気持ちを、誰かに分かってもらいたかった。
けれど。
あの事故のあと、みんなでいることから離れてしまったのは、わたしの方。
お仕事もサボって、事務所にも行かなくなって、メールも返さなくなって。今日はプロデューサーさんのことを誰かに話すことも、それどころかみんなとまっすぐ顔をあわせることも出来なかった。
思い出すと嗚咽がこみ上げてきた。こんな顔を、プロデューサーさんには見せられない。
プロデューサーさんは、何も悪くないんだから。私の身勝手に付き合わされてるだけなんだから。
口の中で、舌の端をぎゅっと噛んで、もう一度作り笑いをしてみせた。