12/02/27 00:00:00.18 tuhz+Ba60
「プリマヴェーラ」とは、元々は夜の女たちの共同体の名前だったの。
一番大きな店の名前が「クラブ・プリマヴェーラ」だったからってわけ。
あの時代、日本人で一番羽振りがいいのは夜の女だったわ。
戦地帰りの男たちにとって、さぞや妬ましい存在だったでしょうね。
そこで女たちはみんなでカネを集めて、駐留軍の将校に鼻薬をかがせたり、
用心棒を雇ったりしたわけ。
そう。つまりは夜の女たちの組合ってところね。
23番市は東京都の最東端に位置する特別行政市の一つ。管轄は米軍。
当時の東京では、米中がともにあらゆることを競い合ってた。
当時はどちらの管轄の治安がより良いかなんてことを競い合ってたらしいわ。
あなたたちの習った教科書には、とても治安が良かったと書いてあるんでしょう?
とんでもない。米軍も中国軍も、互いの威信をかけてインチキを塗り重ねていただけよ。
少なくとも23番市では、米国人が危害を被らない限り警察は動いてくれなかった。
日本人が何を訴えても門前払い。だから事件件数にカウントされないというわけ。
雇用者のほとんどは米国人か中国人。
英語も中国語も話せない日本人たちの多くは就労することも出来なかった。
そして戦地からは続々と男たちが復員してきては、変わり果てた故国に絶望する。
そんな男たちがならず者に落ちぶれるのに、大して時間なんか掛からない。
その上、米軍は生活再建費と称して小銭と食事をバラまいていたから、やがて彼らは
完全に就労意欲をなくし、日々を飲んだくれて過ごすようになった……。
どれほど、羽振りのいい夜の女たちが妬まれたか、想像できるでしょう。
酷い時代よねぇ。でも、それが私たちの青春の時代だったのよ。
皆、どいつもこいつもタフにたくましく生きていたわ。
何もかもが最悪だったけれど。
時代のたくましさだけは、今よりずっと輝いていた気がする。
では、始めましょうか……。
本当の、一番初めのマダムローズの物語を……。