12/05/24 23:43:36.78
ニュースです。今日午後三時ごろ、東京都松島市にある公園で男性の遺体が発見されました。
死亡が確認されたのは埼玉県に住む無職の堀一之さん、四十歳。堀さんは一週間ほど前、家族に出かけてく
ると言って外出してから行方が分からなくなっており、警察に捜索願が出されていました。現在、警察では堀
さんは何者かに殺害されたとみて、捜査をしております。
次のニュースです―。
探偵という仕事は忙しい仕事である。朝になったら飯を食わずにターゲットの尾行。昼になったら迷い猫の
捜索。夜になったら報告書の作成。これで月給いくらになると思う? 十八万だぜ、しかも残業代はまったく
と言ってほど出ねぇ。
「あーあ」
谷岡次郎こと俺はふかぁくため息をついた。生活費を切り詰めて貯金は五十万。世の中が不景気だなんだと
言っているが俺もそれを痛感せざる得ない。自分の身なりをつい見てしまう。ヨレヨレのコート。ワイシャツ
も皺だらけ。ズボンだってここ数日は洗ってない。正直言って所長に文句を言いたいがこのご時世、上司に逆
らって生きていくなんて無謀に等しい。何より俺はもう三十に近い二十九歳だ。再就職を探そうにも雇ってく
れるところは無きに等しい。かと言ってこのまま探偵業も辛い。
「どうすっかなぁ」
もう昼ごろだ。その証拠に街には背広を着たサラリーマンやOLがまるで黒い川のように歩いている。かく
いう俺もその一人なのだが一般的な人間とは違って、どうも小汚さを感じる。まあ、実際汚いからな。
とにかくメシにしよう。
そんな考えでポケットの中に手を入れ、茶色のサイフを取り出す。中には五百円玉が一枚。残りは十円玉と
一円玉のみ。これではせいぜい二百六十円の牛丼並しか食べられない、せめて二百円にならねぇかなぁ。二百
円なら今日と明日の昼飯が浮くんだが……。
「うお!?」
「あっ、すみません!」
考え事をしながら歩いていたのがいけなかったのか、突然後ろから誰かに突き飛ばされた。その拍子に俺の
かけなしの五百円玉が高い金属音をさせて勢い良く路上に転がっていく。
「ああ! しまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は五百円玉を追いかけた。高校を卒業して早十年、久しぶりの全力疾走。だが、五百円は勢いは止まらず
どんどん俺から離れていく。
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