12/05/24 18:25:36.89
中学三年の春。僕は童貞を卒業した事にした。嘘だった。
だが嘘が上手かった。クラスメイトは信じ込み、僕は一目置かれた。
オタク予備軍だった僕は、いつの間にか一つ上の階層である「やんちゃ軍団」に所属していた。
「やんちゃ軍団」はクラスの男子の中心メンバーで、制服を微妙に着崩して粋がってなどいるが、いわゆる不良ではない。
そこそこの学力レベルで、優良高校への進学も諦めていないという胸糞悪い連中だ。
僕はうんざりしていた。彼らに、そして自分に。
学校帰り、僕らはいつものように煙草片手に駅前のゲーセンに繰り出した。
「うわっちっ 山ちゃん灰飛んだ」
後ろからそう叫ぶ前原も煙草を片手にフラフラ運転だ。やんちゃと言っても所詮中学生、自転車である。
五、六人の中学生、小道を塞いで意気揚々と蛇行運転。庭木の手入れをしていたおばさんが、しかめ面で見送ってゆく。
ゲーセンに到着すると店の前の歩道にガチャガチャと自転車を停める。やんちゃ軍団としてはここで「通行の邪魔かな」などと配慮してはいけない。
「ほらそこ自転車、店に寄せて」
すぐに自転車整理のおじさんに注意された。
それはそれでいいのだ。僕らは歯向かったりせずに、最低限の労力でほんの少し自転車を店に寄せた形をとった。通行者にとっては邪魔具合に差が無い。
予想通り、自転車整理のおじさんはそれでもう、文句は無いというように立ち去って行った。
やんちゃ軍団は大人からの注意に面と向かって歯向かったりはしない。だからといって、注意されるような行動をもともと控えるように学んでいったりもしない。
そういう微妙な美学を持っているのだ。
ゲーセンから出てきたら、きっと自転車はちゃんと並べられているだろう。自転車整理のおじさんによって。
僕は内心ため息をつきながら、芳香剤と電子音の中に呑まれていった。