12/05/09 13:59:10.25
「そんな事、認められるわけないじゃない!!」
響子ちゃんが思いきり座卓を叩くと、載せられていた湯呑からお茶が零れそうになった。向かいに座る女性が中指でメガネの位置を直し、キリッとした視線を響子ちゃんに送る。
「だから、あなたはダメなのよ。何にも解っちゃいないわ」
「私が何を解っていないって言うのよ!?」
冷静な彼女の言葉に、響子ちゃんが再び声を荒げた。メガネの女性はフンッと鼻を鳴らし、受けて立つような視線を響子さんに向ける。
酷く険悪な空気に居たたまれなくなって、私は首を竦めて、小さく息を吐いた。それから、コッソリと室内を見回す。
ワンルームの狭い部屋だ。壁際に大きな本棚が設置されていて、そこに大量の漫画が詰め込まれている。無理やり押し込んだようなそれらの本の表紙には、銀色やオレンジの髪の毛をした男の子たちが描かれていた。
漫画にはそれほど詳しくないのだけれど、どうにもジャンルが一般的なものではない気がする。
「……」
何がしか圧倒されるものがあり、ゴクリと唾を飲みこむ。床に落ちている一冊の本に視線を向け、私は顔を真っ赤にして、慌てて目を逸らした。その本の表紙には―男の子と男の子が、何やら、その、いかがわしい事をしている姿が描かれていたのだ。
私は読んだことがないのだけれど、確か少年雑誌の人気漫画に出てくるキャラクターたちだった。色んな媒体で目にするので、そのキャラクターと漫画の名前だけは知っている。
「優斗が栄治となんてありえない!!」
響子ちゃんが髪を振り乱すようにして叫んだ。
「ありえないなんて言う方がありえないわ。優斗みたいなタイプはね、栄治みたいに引っ張っていくキャラが良いに決まってるじゃない」
「栄治なんてガサツなだけ!」
座卓を間に挟み、響子ちゃんとメガネの女性が睨みあっている。
彼女たちの中央、そこに一枚の紙が置かれていて、それが二人の争いの原因であるようだった。チラッと紙に視線を落とすと、間に×を挟んで男の子のキャラらしき名前がいくつか書かれている。
何を言い争っているのか。私には漠然としか判らなかったけれど、部屋の空気はとことん重くて息苦しかった。二人を順番に見やり、内心で嘆息する。