12/04/05 22:37:57.20
ここで私は毎日様々な人を見る。電車を待つ疲れた顔のサラリーマンや、ゴテゴテと装飾されたケータイをいじる若い女。
キヨスクに来る客も売れる物も色々だ。溢れかえる人の中で顔を覚えてしまうのはやはり、毎日来て同じようなものを買っていく客だった。
朝のラッシュが緩和したころにやってきてスポーツ新聞を買う背の低い中年男性、帰りの電車の中で食べるお菓子を買っていく髪の長い女子高生。
向こうは私の顔など覚えていないかもしれないが、私はいつもの時間に彼らが来ないと少し心配してしまったりする。
その常連客の中に、最近一人の男性が加わった。すらりと背が高く、いつもスーツ姿で、端正な顔立ちをしている。
彼は毎週月曜日の朝、カウンターに笑顔で「お願いします」と言って『少年ジャンプ』という漫画雑誌を置く。
少年誌を買っていく大人というのは別に珍しくもないが、彼ほどわくわくしている様子が見て取れる人は珍しい。
まるで一週間のうちで最大の楽しみであると言わんばかりだ。私はそんな彼をとても可愛く思い、いつしか
月曜日の朝は私にとっても楽しみな時間となった。
しかしある日のこと、私は普段は「ありがとうございます」と返すだけなのだが、ぽうっと彼を見ていて思わず
「いつもありがとうございます」と言ってしまった。彼はキヨスクの店員に顔を覚えられていたことに驚いたのか、
少し目を大きく開き、その後照れ笑いをしながらつり銭を受け取ると、そそくさと電車に乗り込んでいった。
余計なことを言ってしまった、何も気にしてなければいいなという私の希望をよそに、彼は次の週から来なくなった。
私はとても後悔した。迂闊にも口をついて出てしまった「いつも」という言葉は「いい大人がいつもこんなものを」という
皮肉に取れないこともない。少なくとも、彼がその言葉を快く思わなかったことは確かだ。私の馬鹿。
彼が現れなくなった日常は、前よりもずいぶんつまらないものに思えた。
「大谷、お前最近ジャンプ読んでないよな」
「ああ、買うの、やめたんだ」
「なんでよ?」
「ハンターハンターがまた長期休載になったから」