12/04/01 19:21:54.08
発車間際、俺は美桜(みお)の手を振りほどき、列車から降りた。
「え? ちょっと、どこ行くのよ!」
目を丸くした美桜が慌てて叫ぶ。
「ごめん……やっぱり、無理だよ」俺は唇を噛み締めた。「こんなの、俺には無理
だ」
「なに言ってるの今更……約束したじゃない。ほら、早く乗ってよ」
「ごめん」俺は頭を下げる。「一緒には行けないよ」
「意気地なし! あなたはいつだってそう。いつも最後の最後で逃げる。卑怯よ……」
……乗ってはならない、この列車に乗っては、ならない。俺の本能が叫ぶ。耳鳴りが
する。回避しなければならないのだ。近い未来に起こるであろう出来事が、俺には分か
っている……。
騒ぎを聞きつけたのか、係員が近づいて来る。
「乗らないんですか?」
「ええ……ごめんなさい」
「それでも男なの!?」美桜が蔑んだ目で俺を見る。「嘘つき。絶対に一緒だって約束
したのに……私たちがどうなってもいいのね?」
「……ごめん」俺は美桜から目を逸らし、列車から二歩、三歩後ずさった。
ピィーっと笛の音が響き渡る。「出発ー!」係員が告げる。
列車が動き出す。美桜を見送るのが忍びない。俺は目を閉じた。ガタン、ガタン……
列車がレールの上を滑ってゆく。ガタン、ガタン……速度を増す……音が遠ざかって
ゆく……そして。
ガタン、ゴゴオオッ!
この世のものとも思えない轟音。
きゃあぁぁー!!
断末魔の叫び。
こうなることが分かっていたとはいえ、動悸が激しくなり、息が苦しい。そう、俺に
は分かっていたのだ……。
小野急ハイランド名物『暴走機関車! トーマツ君』。東洋一凶悪という噂の
ジェットコースターに乗ったら、涙と鼻水と涎で顔面ぐちゃぐちゃ腰砕けのヘロヘロ
になって、場合によってはおしっこジャーなんて事態にもなりかねないことを……。