12/01/04 22:35:39.42 VQmEnz1H
『アズリアル As-Real』
カチ、カチ、カチ、カチ―……。
真夜中にも関わらず真昼間のように明るい部屋の中、乾いた連続音が耳朶を打つ。
時間感覚などとっくに失せていた。
ともすれば途切れそうになる意識を繋ぎ止めることだけに、全神経を注ぎ込む。
歯を喰いしばり、血走った眼を見開いて、間断なく押し寄せる睡魔を八つ裂きにして棄て、
八つ裂きにして棄て、八つ裂きにして棄て、棄て、棄て、棄て、棄て棄て棄て棄て棄て棄て。
その繰り返し。永遠にも似た一刹那。今、眠るわけにはいかなかった。絶対に。
ひとたび眠りに堕ちればその瞬間、俺は、今度こそ『奴ら』に■い■されるだろう。
わかっている。そんなことは、嫌というほどわかり切っているのに……。畜生。
俺ハまだ■わレたく、ナイ、ノニ―……。
夜の帳が降りた街に、ひき蛙を握り潰したような、醜い断末魔が響く。
続いてべちゃり、と何かがアスファルトにブチ撒けられる音。
自分のすぐ隣で上がったそれらの音に鼓膜が震え、臓腑が攣えた。
首を向ければ、右半身をごっそり喰われた女子高生の亡骸がバランスを崩し、
傾いていくところだった。見開かれたその隻眼と、俺の視線が絡み合う。
瞬間、俺を満たしたのは、鉄臭い鮮血の臭いではなく、生臭い臓物の臭いでもなく、絶望の臭い。
死骸の目から伝染したような、仄暗くて、ゾッとするほど冷たい『死』の臭いだった。
「ヒッ―」
俺が悲鳴を上げるより早く、甲高い獣の咆哮が轟き、足元の地面が抉り取られる。
三本の、鋭利で巨大な爪痕だけを残して。
《姿の視えない怪物(バンダースナッチ)》。夢を見る度襲い来る、執拗な悪夢。
数センチの差で奴の爪から逃れた俺の背後で、吐き気を催す咀嚼音がする。
どうやら奴は俺をあきらめ、食事に専念することにしたらしい。
ホッと胸を撫で下ろした俺の意識が急速にぼやけ、遠ざかっていく……。
眼を開く。眠っていたのだ、と思った瞬間、汗が湯水のように噴き出した。
点けっぱなしのテレビから洩れる雑音が、俺の心を蝕んでいく。
なぜならば。俺が視ているあの夢は――
『今朝未明、××市に住む女子高生×××さんが布団の中で遺体となって発見されました。
尚、遺体はまるで噛み千切られたかのように、右半身がごっそり失われており……』
――現実を、喰らう。
眠るたびに襲い来る怪物。夢の世界で喰らわれていく人たち。
決して終わらぬ殺戮ショウの狭間で、俺は怪物を狩る《カノジョ》と出遭った。
「この悪夢から逃れる術? 簡単よ。
奴らを殺し続けて生き残るか……奴らに喰われて、死ねばいい」
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