11/03/30 18:50:11.00
「桜井誠の前身」であるTが通っていた高校からさほど遠くない場所に、かつての実家があった。近所で聞き込みを続けても、
旧友たちの口から漏れた人物像以上の話は出てこない。唯一、T家とわずかに交流を持っていたという主婦だけが、Tの記憶を
無理やりに搾り出してくれた。
「お母さんとの間では、いろいろと問題があったみたい。衝突して彼が家を飛び出したこともあったわね。高校卒業後は進学する
こともなく、地元でアルバイトしていたと思いますよ。その後、彼だけ東京へ移りましたが、警備員をやっていると聞いたことがあります」
実家は、すでに人手に渡っていた。この土地に係累は残っていない。Tに父親はなく、地元でスナックを経営していた母親は
10年ほど前に亡くなっていた。Tが東京に出てからしばらくは彼の弟夫婦が住んでいたというが、現在は県内の別の場所へ転居
している。
実家のある地域は、九州でも有数の在日韓国・朝鮮人集住地区に隣接していた。地元の人によると、この近くには1950年代
まで「朝鮮部落」と呼ばれるバラック小屋の並ぶ一帯があったという。その後、公営住宅の建設によって街路は整備され「混住化」も
進んだが、現在でも在日の人々が多く住む場所として知られている。九州にただひとつの朝鮮学校も至近距離だ。
「朝鮮人を叩き出せ!」「ゴキブリ!」と鬼のような形相で叫ぶ「桜井誠」を“つくり上げた”のも、あるいはこうした環境と無関係では
ないだろう。
「あの子、どうして、こんな風になっちゃったんやろねえ」
北九州市内の寂れた飲み屋街。10人も入れば満席となるような小さなスナックで、この店のママはグラス片手に深いため息を
漏らした。
ママは独立する前、Tの母親が経営する店で働いていた。Tに関する証言を求めて走り回るなか、最後にたどり着いたのがこの女性
だった。彼女には私が知っている限りのTの姿を話した。
「朝鮮人と戦って、世の中の何が変わるっちゅうのかねえ。おかしな子やなあ」
カウンターで頬杖をつきながら、ママは何度も「おかしいねえ」と呟いた。
彼女によると、Tの母親は「家族思いで働き者の女性」だったという。
「商売上手だったわ。お店には筋の良いお客さんがいっぱいついていた。あの人、日舞もできるし、ゴルフも上手やったし。大昔、
結婚してたけど、いろいろあって別れて、それ以来、女手一つで2人の子どもを育てたんだからねえ。立派なもんよ」
10年ほど前に店の中で突然倒れ、運び込まれた病院で亡くなった。
「過労だったのかもしれませんね。手抜きしないで働く人やったから」
その母親が亡くなる直前まで頭を悩ませていたのが、他ならぬTのことだったという。
「よく嘆いていたんですよ。ウチの子、だんだんと別れた夫に似てきたって。何があったのか知らないけれど、しょっちゅう衝突していた
みたい。何度も家出するものだから、そのたびに探しにいくのが大変だって話していたわね」
何の特徴も掴むことのできないTの人物評にあって、どこに行っても一度は耳にするのが、この「家出話」である。
Tは、どこに行きたかったのか。何から逃れようとしたのか。何を目指していたのか。
ソース(G2、ジャーナリスト・安田浩一氏)
URLリンク(g2.kodansha.co.jp)
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