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二十三歳の母親が幼児二人を餓死させた大阪市の事件は、地域からの孤立や母子家庭での子育ての困難を
抱えながら、どこにも助けを求められなかった現実を浮き彫りにした。同様に育児に行き詰まり、虐待する恐怖を抱える
人たちは、この母親の背後に多くいる。だが、そんな母親たちのSOSは、なかなか社会に届かない。
「ほんまに育てられないと思ったら、殺さないで私の家の前に捨ててほしい」
八月、神戸市の主婦(48)はインターネットの会員制サイトSNS内の日記に「赤ちゃんポスト」をつくった。子育てに
行き詰まった母親の悩みを聴き、必要な行政機関につなげることが狙いだ。
「殺してしまいたい。どこの施設も受け入れてくれない」と悩む障害児の母親(28)や、「子どもの面倒をみるのが嫌に
なった」と打ち明ける離婚経験のある母親(32)など二十代を中心に相談が殺到した。アクセス数は九月末で十一万件超。
なかには「乳児が保護されたケースもあった」とこの主婦は言う。
「個人で動くべきではない」との批判もあった。しかし主婦は「携帯電話で人とつながる若い世代は、携帯が“家族”。
孤独な母親が行ける所は、警察や児童相談所ではない」とネットでSOSを受け続ける。
関西在住の女性(27)は長男(8つ)に暴力を繰り返していた。だが、長男の寝顔を見ると自責の念に駆られた。
「このままじゃいけない。分かっているけど、どうもできひん…」。この主婦に相談を寄せた。
女性は風俗店で働きながら、長男と長女(2つ)を育てる。長男への虐待は小学校入学を機に始まった。「同じクラスの
親たちは、ちゃんとした家庭の奥さん。住む世界が違う」と引け目を感じ、付き合いがストレスになった。いらだちの矛先は
長男に向かった。
十八歳で結婚、翌年長男を産んだ。しかし数年後に離婚。その後、別の男性との間に長女をもうけた。国民健康保険
(国保)は保険料が払えず無保険状態だった。
六年前、国保に入ろうと今住む自治体窓口に出向いた。音信が途絶えて知り得ない親のことなど「尋問されるように」
聞かれた。
一方、必要な保育園入園や生活保護制度、子育て相談窓口などの説明はなかった。知識のない女性から聞くことも
できなかった。「困ったことを解決してくれない」。行政への不信感が募った。
「出生届を出していない。保育園に預けたまま消える。そんなお母さん、いっぱい見てきた。『普通の暮らし』じゃない
私たちには、公的支援は敷居が高い」と語る。
◇
東京都内に住む介護福祉士の女性(32)は、長男(8つ)が二歳のころ離婚した。育児に疲れ、長男に対し何度も
包丁を突きつけ、食事を与えず外に放り出す日が続いた。
長男が五歳のころ体調を崩し、看病疲れから自身もうつに。長男の入院費用に資金の貸し付けを地元自治体に
申請したが、担当職員は「通常は消費者金融で借りるんだけど」と迷惑顔で言った。
幸い勤務先の同僚が支えてくれた。「助けがなければ、地獄に落ちていた」
厚生労働省が七月に発表した「子ども虐待による死亡事例等の検証結果」報告では、養育者の心理的問題として
約四割が「育児不安」「養育能力の低さ」を挙げた。過半数が行政機関と接点がないか、あっても支援の必要なしと
考えていた。
児童相談所(児相)の勤務経験がある日本社会事業大専門職大学院の宮島清准教授(子ども家庭福祉)は
「同報告では死亡事例でも児相が把握できず関与できなかった事例が約九割あった。背後にいる虐待“予備軍”は
数知れない」と語る。
行政も深刻な虐待に至る前に問題を抱える家庭のSOSを把握、「虐待予防」の取り組みを始めている。
ソース(中日新聞) URLリンク(www.chunichi.co.jp)