11/09/04 23:24:43.25
ある朝、郊外の一角、暑さに耐えかねた男はむくりと起き出した。
時計はすでに午後3時を指し、消し忘れたテレビからは相変わらず不景気なニュースが流れる。
顔を洗うでもなく、飯を食うでもなく、男はおもむろにPCの電源を入れた。
ここ数ヶ月、彼のお気に入りの掲示板のスレッドがあった。
ある有名企業の社員が起こしたとされる民事事件を扱ったスレッドである。
日々様々な話題に事欠かないこの国に於いて、この些細なスキャンダルは既に忘れ去られようとしていた。
それでも屈折した男の鬱憤をぶつけるには格好の場所であり、
批判を書き続けることは、まるで自分が高みに登ったような気分にもなれ、男にとって唯一安心出来る場でもあった。
誤報であったという決定的な写真が貼られたあの日からスレッドはほとんど機能していない。
場末の駅前の死んでしまった商店街のようにそこに人は居なかった。
ある男はトラブルに巻き込まれ様々なものを失ったが、誤報が訂正されたようにやがて社会の誤解も解けるのだろう。
またある男は他人のせいにする行為を悔い改め、また夜の街に帰っていくのだろう。
別の男はいつか真実を追求出来る日がくるだろう。あの青年も夢を叶えることが出来るのだろう。
残った男はまるで誰かと戦っているかのような表情で書き込み続けた後、最後にこう記した。
「捏造工作は諦めたのか?」
事件は終わり誰もかもこの事件を忘れ、更に数ヶ月が過ぎた。
そして誰もいなくなった。