06/10/06 22:14:05 TKSdliEL
長い間、ヨーロッパの音楽の中心は声楽でした。世俗音楽において楽器は
伴奏として早くから使われてはいましたが、歌うのや、踊るのは貴族や民衆
であっても、伴奏は楽士によって奏されることが多く、自らの楽しみのために
演奏をするアマチュア器楽奏者はあまりいませんでした。が、ルネッサンスの
人文主義者たちが神を恐れずに自分の感覚を信じたとき、「器楽=人間を
堕落させるもの」という伝統的なイメージは影を潜め、15世紀の終わり頃から
急激にアマチュア器楽奏者の数が増え始めます。人文主義者たちが自らの
手本としたプラトン、アリストテレスなどのギリシャの哲学者たちが、「器楽は
情操教育に欠かせない」として器楽を擁護していたことも器楽が人文主義者
に受け入れられた一因に違いありません。 賤しい職業音楽家の楽器は、高貴
な人たちにふさわしいように、そして演奏がより簡単になるように改良が加えら
れていき、ヴィオラ・ダ・ガンバやチェンバロ、リュートなどのアマチュア楽器が
誕生します。それに対して管楽器全般(トランペット、サクバット=トロンボーン、
コルネット=木管の多孔トランペット、ショーム=オーボエ)やフィードル=ヴァイ
オリンなどはプロフェッショナル音楽家のための楽器であり、プロがアマチュア
のための楽器を演奏することはあっても、アマチュア貴族がプロ楽器を演奏す
ることはありませんでした。16世紀中頃には楽器の一つでも演奏できることが
教養ある宮廷人としての条件の一つとなります。それとともに、楽器を巧みに
演奏することのできる楽士は貴族の教師として、また立派な教養人の一人と
して宮廷社会の中で確固たる地位を築きはじめます。