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学芸ノート クニマスの標本が語ること(抜粋)
(前略)
今年の夏、仙北市立田沢湖郷土資料館と当館所蔵のクニマスの液浸標本が、動物と
して初めて国の登録記念物に指定されました。世界で唯一田沢湖にだけ棲んでいたと
いう希少性と、人間が絶滅させたという歴史認識を後世まで語り伝えていこうというのが、
その主な登録理由です。
クニマスはサケ科の魚で、十和田湖で養殖されているヒメマスと非常に近い仲間です。
多くのサケ科の魚がそうであるように、ヒメマスも海に降りて大きくなり、ベニザケになると
いう降海型を持ちます。しかし、クニマスは田沢湖だけに棲み、降海はしなかった魚です。
生態的に異なるだけでなく、ヒメマスとは幽門垂の数やその他いくつかの形態の違いなどで、
分類上ヒメマスの亜種という位置づけがなされています。
このクニマスの体色は記録によると「色は暗い青で、銀色ではなくほとんど黒い」
「体色一様に黒くて腹部銀色を呈せず」など、ほぼ全身が黒色であるということになって
います。しかし、他のサケ科魚類のほとんどは、産卵期に婚姻色を呈する時期を除けば、
すべて腹面は銀白色系の色です。クニマスが全身黒色である必要はどこにあるのでしょうか。
謎に迫るために、生態について記録をひも解いてみましょう。
クニマスは田沢湖という栄養分の少ない湖で、ミジンコなどを主に摂っていたため釣りの
対象とはならず、その漁はもっぱらさし網で行われていました。さし網は春・夏は水深150m
前後、秋・冬は260m前後に入れられていました(産卵の盛期と思われる2月には水深20m
付近にも網を入れたようです)。透明度の高い田沢湖でも100mを超える水深では、差し込む
光の量はかなり少なかったはずです。日本一の水深を持つ田沢湖に特化したクニマスは、
深海魚ならぬ深湖のような体色になったのかもしれません。
(以下は必ずしも黒くないのもいたのではないかと論じられていますが省略)
(生物部門 船木信一)
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※PDFは1ページだけですが、「秋田県立博物館ニュース」147号(2008年10月)より。