10/11/17 00:32:55
電子の出し入れで硬さが劇的に変わる分子バネを開発-たった1つの電子放出で分子全体の動きやすさが450倍も変化-
◇ポイント◇
ベンゼン環を48個も結合、分子バネ「オルトフェニレン」を世界で初めて合成
キラル対称性の破れを伴う結晶化で、右巻きまたは左巻きらせんだけのバネが得られる
理化学研究所は、電子1つを出し入れすることで硬さが大きく変化する分子バネの開発に成功しました。
バネ状の構造をした分子は、自然界のあらゆる所に存在してさまざまな機能を発現しています。
これらの分子バネは、エレクトロニクスや分子機械への応用の可能性を秘めており、自然界からの探索やそれを模倣した分子の開発が活発に行われています。
特に、金属イオンの添加や光の照射といった外部刺激に応答してその性質が変化する分子バネは応用性が高く、大変注目されています。
これまでの理論によると、電子が高密度に含まれた分子バネは、電子を出し入れすることによってその振る舞いが変化するのではないかと予想されていましたが、
電子を多量に含む分子バネは合成することが困難で、実験的には証明されていませんでした。
研究グループは、48個ものベンゼン環を隣の炭素の位置で結合させた分子バネ「オルトフェニレン」の合成に世界で初めて成功しました。
オルトフェニレンは、コンパクトに折り畳まってベンゼン環3つを一巻きとした強固なバネ状構造を取りますが、
その性質を調べたところ、意外にも溶液中では活発に動いており、らせんの巻く方向が反転を繰り返していることが分かりました。
また、オルトフェニレンの末端にニトロ基を導入した誘導体を結晶化※1したところ、偶然にも「キラル対称性の破れ※2」と呼ばれる非常に珍しい現象が起き、
右巻きあるいは左巻きのらせんでできたバネのどちらか一方だけを優先して含む結晶が得られることを見いだしました。
さらに、この結晶を溶液にすると、どちらか一方のらせんだけを含む状態から、右巻きと左巻きがそれぞれ同じ量含まれる状態に変化していくことを、
円偏光二色性分光法※3を使って観察しました。
これにより、通常では難しい、らせんの反転がどのような頻度で起こっているかという「分子の動きやすさ」の評価を、実験的に示すことに成功しました。
さらに、このオルトフェニレンから電子を1つ取り去ると、バネの硬さが劇的に増し、らせんの反転速度が約450倍も遅くなることを突き止めました。
「硬さの変化」という今まで実現できなかった応答を示す分子バネの開発は、応答性分子の分野に新たなデザインコンセプトをもたらすものといえます。
本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature Chemistry』オンライン版(11月14日付け:日本時間11月15日)に掲載されます。
< 補足説明 >
※1 結晶化 化学における精製手段の1つ。固体の化合物に溶媒を加えて加熱することで溶液とし、それを放冷すると純度の高い結晶が析出する。
※2 キラル対称性の破れ 右手と左手や、右巻きのらせんと左巻きのらせんは、互いに同じ形状をしていても、そのまま重ね合わせることはできない。
しかし、鏡に映すことで初めて重ね合わせることができるようになる。このような性質を持つ分子は「キラルである」と呼ばれる。
右巻きのらせんと左巻きのらせんは、物理的・化学的性質が同一であるため、互いを分離するのは難しい。
分子バネの結晶化においても、右巻きと左巻きの分子の結晶化のしやすさに差はなく、通常は同量が析出する。
しかし、キラル対称性の破れが伴うと、どちら向きのバネが析出するかはその都度異なるが、どちらか一方のみを含む結晶が得られる。
※3 円偏光二色性分光法 右円偏光と左円偏光のどちらを吸収しやすいかを測定する手法。
右巻きのバネと左巻きのバネのようなキラルな分子は、円偏光のどちらか一方を選択的に吸収する。円偏光二色性は、Circular Dichroismの頭文字からCDと略される。
ソース
URLリンク(www.riken.go.jp)
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