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■不法占拠スラム■ - 暇つぶし2ch164:名無しさん@お腹いっぱい。
10/09/29 23:54:47 INyqKw4lO
本田靖春 「虫眼鏡でのぞいた大東京」 より抜粋


  江戸川区北小岩四丁目先無番地。といったのではだれも見当がつかない。
京成電鉄江戸川鉄橋下の河川敷。二十六年五月に数人が住みついて、いち
ばん住人の多い四十五年四月には三百四十八人がいた。
  いまでは百軒のバラックに二百六、七十人ばかり。ひしめき合った家と家の
あいだに、段ボール、古新聞、金属などが、山と積まれている。
  この集落では、東京の人びとがとっくに捨て去った生活を、目のあたりに見る
ことができる。手押しのポンプ式井戸、木のタライ。でも、だれ一人、ここへきて
タイムトンネルをのぞこうとするものはない。彼らの半数以上は、戦前、朝鮮半
島から連れてこられた。
  ここにはノラを含めて百匹からの犬がいる。それをむりに追い出せないのは、
ひとしい運命をその上に彼らがみているからかも知れない。
  住民は区側に住民税の支払いを〝要求〟して、まだ果たせないでいる。電気
も欲しいし、ガスも欲しい―。
  住民の一人が、工事現場用のディゼル式発電機を持っている。出力三十キロ
ワット。全戸の電灯は賄えるが、過熱で長くはもたない。配電は午後六時から
十一時。それでも東電の電気代の三倍につく。
  移転の話は何度も出たが、折り合いがつかない。廃品回収業には仕切場や
車の置場が必要で、都営住宅というわけにもいかないのである。
  やがて台風の季節。例年、集落は水浸しになる。河川敷を不法占拠している
スラムは、東京でここだけになった。
                                (『文藝春秋』 73年11月号)


           『本田靖春 「戦後」を追い続けたジャーナリスト』 河出書房新社
                   (KAWADE夢ムック 文藝別冊) P.174-175 に収録


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