11/07/22 21:45:02.09 YPfFv0+/
「味が判らない・・・」
大好きなくらかどを食してもなお、私の舌微は反応をみせない。
・・・数日前、私は熱中症に付随する脳内出血の毒牙に冒された。
幸い、病気の発見の早さのおかげで、私の一命は免れたのだが。
しかし、その病は、私に大いなる後遺症を残していったのだ。
「味覚障害」
そう、脳内出血の後遺症は、私のおよそ味覚と呼べる全てを、奪っていったのだ。
くらかどの妙味さえも、その対象から逃れることはできなかったのだ。
くらかど中盛りを湛えた丼を前に、私は苦悶の表情を浮かべる。
くらかどに心血を注いだ。人生を以て添い遂げる覚悟だってやぶさかでは無かった。
「―なぜ私が・・・」
止めどなく涙が溢れ、丼の中のスープへと注がれる。
「青いな」
傲岸かつ不遜、いつだって不機嫌そうな店長が、見かねたように私へと言葉を投げる。
「くらかどは、舌だけで、語れない」
そう言うと、店長は私の丼へと、育み玉子をそっと添えた。
中央で分断されたそれからは黄金の真が滾滾と溢れ出す。
視覚に飛び込む、あまりにも鮮やかなくらかどのラーメン。
それは刹那にも、私の光彩を焼き切るほどの後光を発し始めたのだ。
さながら、ザイオンの涅槃。
嗚呼、私は、なんて狭い世界で生きていたのだろう。
行こうよ！
くらかどへ